説明

皮膚化粧料用香料組成物

【課題】香料保持体の利用によらず、香料組成物単体でありながら、短時間で急激に香りを変化させ、2種類以上の快適な香調を感じさせることができる香料組成物の提供。
【解決手段】成分Aを5質量%以上含有し、かつ成分Bを含有する皮膚化粧料用香料組成物。
成分A:エチルブチレート、ヘキシルアセテート、アミルアセテート等から選ばれる1種以上
成分B:(b-1)及び(b-2)から選ばれる1種以上
(b-1):メチルジヒドロジャスモネート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、2-メチル-3-(4-tert-ブチルフェニル)-プロパナール等から選ばれる1種以上
(b-2):ヨノン、メチルヨノン、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-2,3,8,8-テトラメチル-2-アセトナフトン等から選ばれる1種以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香りの変化する香料組成物及び当該香料組成物を含有する皮膚化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に製品用の調合香料は、経時で香りが穏やかに変化することが知られている。これまでの調合香料は、なるべく香りの調子が最初から最後まで変化しない、又は単一の香りが持続するような構成が検討されてきた。
【0003】
一方、香りを意図的に変化させる技術としては、2種のマイクロカプセルを使用し、これらに揮発性の異なる香料成分を含有させるか、マイクロカプセルの壁厚を変えることで香りの揮散を制御する方法(特許文献1)、異なる芳香成分を含有する芳香成分含有層を2層以上積層する方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特表2003-500426号公報
【特許文献2】特開2008-56613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1又は2に記載の技術はいずれも、香料保持体(マイクロカプセル又は芳香成分含有層)を利用することによって香りを変化させるものであり、香料組成物単体で、香りの変化を実現させるものではない。従って本発明は、香料保持体の利用によらず、香料組成物単体でありながら、短時間で急激に香りを変化させ、2種類以上の快適な香調を感じさせることができる香料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の2群の香料を組み合わせることにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0007】
本発明は、成分Aを5質量%以上含有し、かつ成分Bを含有する皮膚化粧料用香料組成物を提供するものである。
【0008】
成分A:エチルブチレート、ヘキシルアセテート、アミルアセテート、イソアミルアセテート、エチルアセトアセテート、シス-3-ヘキセノール及びシス-3-ヘキセニルアセテートから選ばれる1種以上
【0009】
成分B:(b-1)及び(b-2)から選ばれる1種以上
(b-1):メチルジヒドロジャスモネート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、2-メチル-3-(4-tert-ブチルフェニル)-プロパナール(Givaudan社製品名、リリアール)、4-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド(IFF社製品名、リラール)、フェニルエチルアルコール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)-テトラヒドロ-2H-4-ピラノール(Givaudan社製品名、フロローザ)、フェニルヘキサノール及びシス-3-ヘキセニルサリシレートから選ばれる1種以上
【0010】
(b-2):ヨノン、メチルヨノン、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-2,3,8,8-テトラメチル-2-アセトナフトン(IFF社製品名、イソイースパー)、1-(2-tert-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール(花王社製品名、アンバーコア)、エトキシメチルシクロドデシルエーテル(花王社製品名、ボアザンブレンフォルテ)、アセチルセドレン、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール(花王社製品名、サンダルマイソールコア)、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール(IFF社製品名、バクダノール)、1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-4,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-シクロペンタ-γ-2-ベンゾピラン(IFF社製品名、ガラクソライド)、4(5)-シクロペンタデセノライド、シクロペンタデカノリド(Firmenich社製品名、ハバノライド)、エチレンブラシレート、3-メチル-4(5)-シクロペンタデセン-1-オン(Firmenich社製品名、ムセノン)及び8-シクロヘキサデセン-1-オン(Symrise社製品名、グロバノン)から選ばれる1種以上
【0011】
更に本発明は、上記の香料組成物を含有する皮膚化粧料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の香料組成物は、短時間でキレよく香りを変化させ、かつその変化前後で、それぞれ異なった快適感をヒトに与えることができる。従って、皮膚化粧料組成物、特にマッサージを必要とするスキンケア製品用の香りにおいて好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔成分A〕
成分Aは、蒸気圧(20℃)が50パスカル以上の香料素材であり、フレッシュなグリーン又はフルーティ感を有し、最初に「さわやかな気持ち」になる印象を与え、その後、1分以内に速やかに消失するものである。
【0014】
本発明の香料組成物中の成分Aの含有量は、5質量%以上であることを要するが、10〜40質量%、特に20〜30質量%が好ましい。
【0015】
〔成分B〕
成分Bは、蒸気圧(20℃)が8パスカル未満の香料素材であり、初期における成分Aの香りを阻害することなく、成分A消失後に香りを感じることができ、「穏やかな気持ち」になる印象を与えるものである。成分Bの香料化合物の香りは、成分Aの香料化合物の香りに対し、特に対比感(コントラスト)が強いものであり、成分A消失後すぐに、その香りを認知できるものである。
【0016】
成分Bのうち、成分(b-1)は、落ちついたフローラル感を有する香料化合物であり、成分(b-2)は、温かみのあるウッディ又はムスク感を有する香料化合物である。成分(b-1)と成分(b-2)は併用することができ、その組み合わせにより、成分Aの香りが消失した後、より複雑な香りに変化させることができる。
【0017】
本発明の香料組成物中の成分Bの含有量は、5〜60質量%、特に10〜50質量%が好ましい。
【0018】
本発明の香料組成物中の成分Aと成分Bの質量比A:Bは、1:0.2〜1:6、特に1:0.5〜1:3であることが、香りをキレ良く変化させ、変化前後での香りのコントラストを高める観点より好ましい。
【0019】
〔成分C〕
本発明の香料組成物には、更に、甘さのあるアンバー、バルサミック感を与える成分Cとして、デカハイドロ-3a,5,5,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン(花王社製品名、アンブロキサン)、クマリン、ヘリオトロピン、バニリン及びエチルバニリンから選ばれる1種以上を含有させることが好ましい。成分Cは、蒸気圧(20℃)が2パスカル未満の香料素材であり、成分Bと共働し、成分Aからの香り変化のコントラストをより高める働きをするものである。
【0020】
本発明の香料組成物中の成分Cの含有量は、0.02〜3質量%、特に0.05〜2質量%が好ましい。
【0021】
本発明の香料組成物中の成分A、成分B及び成分Cの合計含有量は、30質量%以上、特に40質量%以上が好ましい。
【0022】
〔その他の香料成分〕
本発明の香料組成物には、更にその他の香料素材として、イソブチルアセテート、α-ピネン、ゲラニオール、シトロネロール、アンブレットライド、3-メチル-5-(2,2,3-トリメチルー3-シクロペンテンー1-イル)-4-ペンテンー2-オール(Givaudan社製品名、エバノール)、シンナミックアルコール等を含有することができる。
【0023】
〔含有量を抑制すべき香料成分:成分D〕
本発明の香料組成物においては、成分Dとして、以下に示す成分(d-1)及び成分(d-2)の香料素材を含有してもよいが、その含有量は一定量以下に抑えることが好ましい。
【0024】
(d-1):蒸気圧(20℃)が8パスカル以上50パスカル未満の香料化合物
本発明の香料組成物は、キレよく、よりはっきりと香りの変化を起こさせるために、上記成分(d-1)の合計を、12質量%以下、特に6質量%以下に抑えることが好ましい。成分(d-1)としては、リナリルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、アリルアミルグリコーレート、イソボルニルアセテート等が挙げられ、特に含有量を抑えることが好ましい素材としては、リナリルアセテート、ベンジルアセテート等が挙げられる。
【0025】
(d-2):リナロール、ノニルアセテート及びp-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート(略名p-t-BCHA)
上記化合物は、蒸気圧(20℃)が8パスカル以上50パスカル未満の成分ではないが、官能的な香りの特性の点から、本発明の香料組成物中の含有量を、10質量%以下、特に5質量%以下に抑えることが好ましい。
【0026】
〔溶剤〕
本発明の香料組成物には、溶剤を含有させることもでき、溶剤としては、例えば、ジプロピレングリコール、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、エチルジグリコールなどが挙げられる。
【0027】
〔皮膚化粧料〕
本発明の香料組成物は、皮膚化粧料用の香りとして好適に使用することができる。特に、塗付による摩擦を伴う製品、例えばスキンクリーム、マッサージクリーム、マッサージゲル、クレンジングクリーム、クレンジングゲルなどの香りとして好適であり、これらの製品に適用した場合、塗擦時の香りの変化が楽しめる製品とすることができる。
【0028】
皮膚化粧料組成物中の本発明の香料組成物の含有量は、0.001〜1.0質量%、特に0.01〜0.4質量%が好ましい。
【0029】
本発明の皮膚化粧料組成物には、本発明の香料組成物のほか、通常皮膚化粧料に配合される成分を目的に応じて含有させることができる。このような成分としては、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤;シリコーン油、炭化水素、高級アルコール、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、動植物油脂、コレステロール脂肪酸エステル、エーテル類等の油剤;エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール;その他、水、薬効剤、保湿成分、抗炎症剤、殺菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、有機及び無機粉体、色素、エキス類等が挙げられる。
【0030】
本発明の皮膚化粧料組成物は、ゲル状又はクリーム状であるのが好ましく、例えばスキンクリーム、マッサージクリーム、マッサージゲル、クレンジングクリーム、クレンジングゲル等の形態であるのが好ましい。
【実施例】
【0031】
試験例1
表1に示すマッサージクリーム生地に、表2に示す香料を単体で賦香し、その香りの変化を評価した。
【0032】
(評価法)
マッサージクリームの配合処方(表1)に各香料成分を単体で賦香した。
賦香したマッサージクリームを手の甲に塗布し、3分間マッサージしながら、1分間ごとの香りの強度を、下記の基準に従い、0から5の6段階で評価した。1分間の間に香りの強度が変化した場合は、その間で最も高い強度に基づき評価した。
評価は2名の専門パネラーにより行い、2名の協議による結果を表2に示した。なお、評点2と評点3の中間的な場合を「2.5」、評点3と評点4の中間的な場合を「3.5」とした。
【0033】
(評価基準)
5:非常に強く匂う
4:強く匂う
3:はっきり匂う
2:弱く匂う
1:僅かに匂う
0:匂わない
【0034】
成分Aとして相応しい素材は、マッサージ後速やかに消失することが望ましいので、0〜1分−1〜2分−2〜3分の評点が、5−0−0のものである。成分Bとして相応しい素材は、0〜1分の評点が3以下でかつ1〜2分の評点が3以上のものである。成分Cとして相応しい素材は、0〜1分の評点が3以下でかつ2〜3分の評点が3以上のものである。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
実施例1〜10及び比較例1
表3に示す香料組成物を調製し、下記の方法により、その香りの変化を評価した。
【0038】
(評価法)
マッサージクリームの配合処方(表1)に、各実施例又は比較例の香料組成物を賦香(賦香率0.2質量%)した。
賦香したマッサージクリームを手の甲に塗布した後、3分間マッサージしながら、香りの変化の度合いについて、下記の基準に従い3段階で評価した。
評価は4名の専門パネラーにより行い、表3にそれぞれの評価と共に4名の平均値を示した。
【0039】
(評価基準)
3:評価の途中で香りの変化をはっきりと感じた
2:評価の途中で香りの変化をやや感じた
1:評価の途中で香りの変化を感じなかった
【0040】
【表3】

【0041】
試験例2 マッサージクリーム賦香品での快適感の変化
実施例9及び比較例1の香料組成物について、下記の方法により、その香りによる快適感の変化を評価した。
【0042】
(評価法)
マッサージクリームの配合処方(表1)に、実施例9又は比較例1の香料組成物を賦香(賦香率0.2質量%)した。
賦香したマッサージクリーム4gを小カップの内側に薄く均一に塗り伸ばし30秒後に、専門パネラーにその匂いを提示し、その時点での快適感(爽やかな気持ち、穏やかな気持ち)について、表4に示すフリースケールを用いて評価を行った。評価は、フリースケール中に斜め線で示したように、鉛筆で印をつけてもらうことで行った。
【0043】
【表4】

【0044】
次に、上記のマッサージクリームを塗り伸ばした部分を小カップ内で3分間擦り続けた後、その匂いを専門パネラーに提示し、同様の回答をしてもらった。この評価を実施例9及び比較例1のマッサージクリームについて同様に行った。
評価は、実施例9は11名、比較例1は7名の専門パネラーにより行い、フリースケール右端からの距離を測定した数字を表5に示した。
その結果、実施例9は比較例1と比べて、測定の初期から終期にかけて「爽やかな気持ち」の快適感がより下がり、「穏やかな気持ち」の快適感はより上がっていることが測定された。
【0045】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分Aを5質量%以上含有し、かつ成分Bを含有する皮膚化粧料用香料組成物。
成分A:エチルブチレート、ヘキシルアセテート、アミルアセテート、イソアミルアセテート、エチルアセトアセテート、シス-3-ヘキセノール及びシス-3-ヘキセニルアセテートから選ばれる1種以上
成分B:(b-1)及び(b-2)から選ばれる1種以上
(b-1):メチルジヒドロジャスモネート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、2-メチル-3-(4-tert-ブチルフェニル)-プロパナール、4-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド、フェニルエチルアルコール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)-テトラヒドロ-2H-4-ピラノール、フェニルヘキサノール及びシス-3-ヘキセニルサリシレートから選ばれる1種以上
(b-2):ヨノン、メチルヨノン、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-2,3,8,8-テトラメチル-2-アセトナフトン、1-(2-tert-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、エトキシメチルシクロドデシルエーテル、アセチルセドレン、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-4,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-シクロペンタ-γ-2-ベンゾピラン、4(5)-シクロペンタデセノライド、シクロペンタデカノリド、エチレンブラシレート、3-メチル-4(5)-シクロペンタデセン-1-オン及び8-シクロヘキサデセン-1-オンから選ばれる1種以上
【請求項2】
成分Aと成分Bの質量比が、A:B=1:0.2〜1:6である請求項1記載の皮膚化粧料用香料組成物。
【請求項3】
成分Bとして(b-1)及び(b-2)の双方を含有する請求項1又は2記載の皮膚化粧料用香料組成物。
【請求項4】
更に成分Cとして、デカハイドロ-3a,5,5,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン、クマリン、ヘリオトロピン、バニリン及びエチルバニリンから選ばれる1種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚化粧料用香料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の香料組成物を含有する皮膚化粧料組成物。

【公開番号】特開2010−13424(P2010−13424A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177171(P2008−177171)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】