説明

皮膚常在菌正常化剤、皮膚常在菌正常化方法及びそれを用いる皮膚外用剤又は化粧料、並びにそれらの製造方法

【課題】皮膚常在菌の中でも増殖したアクネ菌にだけ効果的に作用し、好気性菌には作用しない、皮膚常在菌のバランスを健常な状態にする、すなわち皮膚常在菌を正常化する皮膚常在菌正常化剤を開発し提供すること。
【解決手段】オウレン抽出物を有効成分とする皮膚常在菌正常化剤として、さらにこれを含有する皮膚外用剤又は化粧料とすることで、皮膚常在菌の正常化をはかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オウレン抽出物を有効成分とする皮膚常在菌正常化剤及び、皮膚常在菌正常化方法に関し、さらには皮膚常在菌正常化剤を含有する皮膚外用剤又は化粧料および該皮膚外用剤又は化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト健常皮膚表面には皮膚常在菌と称される微生物による集合体の皮膚常在菌叢が形成されている。個人差、部位差、季節変動などがあるが、皮膚常在菌叢には嫌気性最優勢菌として アクネ菌(Propionibacterium acnes: P. acnes)が、好気性菌として、スタフィロコッカス・アウレス(Staphylococcus
aureus : St. aureus)やスタフィロコッカス・エピデルミティス(Staphylococcus epidermidis: St.
epidermidis )が皮膚常在菌として生息している。皮膚常在菌叢は他の病原微生物からの生体防御と疾患発現(内因感染)の2つの矛盾した役割を果たしていることが報告されている(非特許文献1〜5)。生体防御としては外部からの病原菌の進入を防ぐバリアー機能があげられる。しかし、外傷、病気等による全身状態の不良、精神的ストレス、寒冷、乾燥、不適切な洗浄等によって皮膚常在菌叢のバランスが崩れると、St.
aureus 、P. acnesなどの皮膚常在菌が過剰増殖し、様々な皮膚症状が誘発され、疾患発現が起こる。
【0003】
アクネは毛包脂線系の慢性炎症性疾患であり、その病態は多因子性であるが、アクネの病巣から検出される菌の大半はP. acnesであることが知られている。そのため、因子の一つとして、アクネ菌の増悪により発症する事が知られている(非特許文献6)。このため、従来では、アクネ予防、治療のために抗菌剤、殺菌剤を配合した皮膚外用剤又は化粧料を用いることが一般的であった。
【0004】
従来、このアクネ菌の増殖を抑制する方法として、イブプロフェンピコノール、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、トリクロカルバン、ピオニン等の殺菌剤を消毒薬として患部に塗布することが行われてきた。また、近年では植物エキス等についても検討がなされており、ジャケツイバラ属植物抽出エキスを配合したニキビ予防化粧料(特許文献1)、乳清、オオバク抽出物を含有したニキビ治療剤(特許文献2)、Propionibacterium属から抽出された蛋白質を含有した抗ニキビ組成物(特許文献3)、プロアントシアニジンを配合した皮膚外用剤(特許文献4)、シス−6−ヘキサデセン酸及びイソプロピルメチルフェノールを含有する抗アクネ菌組成物(特許文献5)、ヒソップ抽出物を含有するニキビ改善剤(特許文献6)等が開示されている。
一方、オウレンは、キンポウゲ科多年生草本植物であって、その根、茎を薬材として使用するが、昔から漢方で使用してきた材料であって、皮膚及び粘膜に対する刺激のない安全な植物である。オウレンは、ベルベリン、コプチシン、オーレニン、パルマチン、コルンバミンなどのアルカロイドを含有する外に、オーバクノン、オーバクラクトンを含有する。中国では昔から火傷治療、化膿性感染の治療、感染性皮膚炎治療、蓄膿症治療、口蓋面炎症治療、多形滲出性紅斑の治療、胃腸薬、止瀉整腸薬の原料として使用されてきたものである。
【0005】
【非特許文献1】ノーブル(Noble WC)、J Med Microbiol,17(1984)1−12頁
【非特許文献2】ノーブル(Noble WC)、Microbiology of human skin、Lloyd Luke、London(1981)168−175頁
【非特許文献3】朝田康夫、臨床細菌学(講義編)、講談社(1977)71−84頁
【非特許文献4】木村雅行ら、日皮会誌、96(2)(1986)103−107頁
【非特許文献5】福林智子、FRAGRANCE JOURNAL、(2003年3月)23−28頁
【非特許文献6】日本香粧品科学会誌 2003.Vol.27,No.1
【特許文献1】特開平6−172152号公報
【特許文献2】特開2001−97842号公報
【特許文献3】特開2002−316943号公報
【特許文献4】特開2004−115466号公報
【特許文献5】特開2004−189656号公報
【特許文献6】特開2004−262862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献に開示された乳清、オオバク抽出物等の抗アクネ菌組成物は、いずれもin vitroレベルでの研究結果であり、in vivoレベルとしての実際の肌上での使用においてはアクネ菌の制菌効果が優位でないものあった。またイブプロフェンピコノール、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、トリクロカルバン、ピオニン等の殺菌剤を用いた場合では、皮膚常在菌であるアクネ菌だけではなく、有用な好気性菌をも制菌しており、皮膚常在菌のバランスが健常状態におけるバランスと大きく異なり、肌のバリアー機能が低下することから、肌あれ等の問題を起こすことがあった。
【0007】
そのため、皮膚常在菌の中でも増殖したアクネ菌にだけ効果的に作用し、好気性菌には作用しない、皮膚常在菌のバランスを健常な状態にする、すなわち皮膚常在菌を正常化する技術開発が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、オウレン抽出物が、アクネ菌のみに対して優れた選択的抗菌作用を有し、オウレン抽出物を添加した皮膚外用剤又は化粧料は皮膚常在菌の正常化に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)オウレン抽出物を有効成分とする皮膚常在菌正常化剤や、(2)皮膚常在菌の正常化がアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴とする前記(1)記載の皮膚常在菌正常化剤や、(3)アクネ菌がP.
acnesであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の皮膚常在菌正常化剤や、(4)好気性菌がSt. aureus又はSt. epidermidisであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の皮膚常在菌正常化剤に関する。
【0010】
また本発明は、(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の皮膚常在菌正常化剤を含有することを特徴とする皮膚外用剤又は化粧料に関する。
【0011】
さらに本発明は、(1)オウレン抽出物により、皮膚におけるアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴とする皮膚常在菌正常化方法や、(2)アクネ菌がP. acnesであることを特徴とする前記(1)記載の皮膚常在菌正常化方法や(3)好気性菌がSt. aureus又はSt.
epidermidisであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の皮膚常在菌正常化方法や(4)オウレン抽出物を用いることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の皮膚常在菌正常化方法に関する。
【0012】
また本発明は、(1)オウレン抽出物を有効成分とし、皮膚外用剤又は化粧料に添加することを特徴とする皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法や(2)皮膚常在菌の正常化がアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴とする前記(1)記載の皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法や、(3)アクネ菌がP. acnesであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法や(4)好気性菌がSt.
aureus又はSt. epidermidisであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法や、(5)オウレン抽出物を用いることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の皮膚常在菌の正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アクネ菌(P.acnes)のみに対して優れた抗菌作用を有し、皮膚常在菌のバランスを健常な状態、すなわち、皮膚常在菌を正常化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を説明する。
本発明の抽出物に供されるオウレンは根茎から得られるものが好ましいが、オウレン植物体全体又は根以外の任意の部分、例えば、葉、根茎、茎、根皮等を用いてもよい。
【0015】
本発明におけるオウレン抽出物は、上記したオウレンを溶媒抽出することで得られるものである。抽出に用いる溶媒としては、公知のものを用いればよく、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプレングリコール、へキシレングリコール、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、アセトン等の有機溶媒を用いることができ、水、エタノールが好ましい。これらの抽出溶媒から、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0016】
本発明で用いるオウレン抽出物の製造方法としては、従来公知の方法を使用することができ、例えば、オウレン又はオウレンの乾燥物を水又は熱水抽出、あるいは有機溶媒で抽出し、濾過する方法等があげられる。抽出の条件としては、一般的に植物抽出に用いられるものであれば特に限定されない。さらに、抽出、濾過の後、必要に応じて該エキスを濃縮してもよい。濃縮の方法としては、エバポレーター等の常法を用いることができる。
【0017】
本発明におけるオウレン抽出物は、上記溶媒により抽出することで得られるが、オウレンの乾燥物としては皮膚外用剤又は化粧料中において0.001〜10質量%(以下、「質量%」は単に「%」と略す)含有することが好ましく、より好ましくは、0.01〜5%含有することが好ましい。この範囲で用いることで、本発明の皮膚常在菌正常化剤として機能させることが可能となる。
【0018】
この様にして得られた抽出物は、本発明の皮膚外用剤又は化粧料としてそのまま用いることもできるし、また、本発明の効果を失わない範囲内で脱臭、脱色等の精製操作を加えることもできる。さらに、本発明の抗菌剤は、上記の抽出物から抽出溶媒を蒸発、乾固させて粉末状で用いることもでき、又は水、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等の溶媒に再溶解して用いることもできる。また、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。
【0019】
本発明における皮膚常在菌とは、ヒト健常皮膚上に生育している細菌を意味しており、これらの皮膚常在菌の異常な増殖や減少は皮膚に対して様々な影響を及ぼす。また正常化とは、ニキビ病原菌のアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を抑制しないことにより、皮膚常在菌叢のバランスを正常化して皮膚表面の状態の改善を図ることである。皮膚常在菌正常化剤とはアクネ菌の増殖を選択的に抑制し、好気性菌の増殖を抑制しないことにより、皮膚常在菌叢のバランスを正常化して皮膚表面の状態の改善を量ることができる有効成分を含む皮膚外用剤又は化粧料という意味において用いられるものである。ここでアクネ菌とは、ヒト毛包管内で生育する嫌気性菌であり、学術名はPropionibacterium acnesであり、アクネ患者皮疹部から分離培養を行った場合の主要検出菌である。皮膚上から検出される嫌気性菌は他にPropionibacterium
granulosum,等があげられるが、特にP. acnesがアクネ発症の主要因子であり、本発明において特に効果的である。また好気性菌とは、ヒト皮膚上に生息する菌であり、表皮ブドウ球菌Staphylococcus
epidermidis、黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusやグラム陽性桿菌Corynebacterium spp等が上げられるが、ヒト毛包周辺部から検出される主要菌はSt.
aureus又はSt. epidermidisであることから、本発明において、St. aureus又はSt. epidermidisに対して有効である。
【0020】
本発明の皮膚常在菌正常化剤は、オウレン抽出物を有効成分としてなることを特徴とし、これを含有することにより、嫌気性菌としてのアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴としている。このようにアクネ菌にのみ作用することを特徴としており、従来より用いられたイブプロフェンピコオール等の殺菌剤とは異なり、他の皮膚常在菌への影響が少ないことから有用である。
【0021】
本発明においては皮膚常在菌正常化剤としては、オウレン抽出物を含有することを特徴としている。すなわち、公知の抗アクネ成分等を使用する必要がなく、またオウレン抽出物を用いることで皮膚常在菌の正常化を可能とするものである。
【0022】
本発明の皮膚常在菌正常化方法とは、オウレン抽出物により、皮膚におけるアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴とするものである。すなわちヒト健常皮膚上に生育している細菌である皮膚常在菌の異常な増殖や減少は皮膚に対して様々な影響を及ぼす。そのため、アクネ菌の増殖を選択的に抑制し、好気性菌の増殖を抑制しない皮膚常在菌正常化剤を用いることにより、皮膚上において、ニキビ病原菌のアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を抑制しないことにより、皮膚常在菌叢のバランスを正常化して皮膚表面の状態の改善を行う方法である。
【0023】
さらに本発明は、皮膚常在菌の正常化用皮膚外用剤又は化粧料の製造方法にも特徴がある。これはアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を抑制しないことを特徴とする前記オウレン抽出物を有効成分とし、皮膚外用剤又は化粧料に含有させることにより皮膚常在菌の正常化用皮膚外用剤又は化粧料の製造方法を得ることができるものである。オウレン抽出物をそのまま本発明の皮膚外用剤又は化粧料とすることも可能であり、また皮膚外用剤又は化粧料の製造工程中にオウレン抽出物を配合することも可能である。
【0024】
上記した本発明にはその効果を妨げない程度に、その剤型や用途に応じて以下のような任意成分を含有することもできる。すなわち、界面活性剤、オウレン抽出物以外に配合される水、エタノール、多価アルコール等の水性成分、高級アルコール、液状油、シリコーン油、ワセリン等のロウ、油脂等の油性成分、粉体類、増粘剤、顔料、染料、香料、抗菌防黴剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、pH調整剤等を配合することができる。
【0025】
本発明の皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤の用途としては、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤等法等が挙げられる。
【0026】
本発明の皮膚常在菌正常化用の化粧料の用途としては、化粧水、乳液、クリーム、アイクリーム、美容液、マッサージ料、パック料、ハンドクリーム、ボディクリーム、日焼け止め化粧料等のスキンケア化粧料や、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、化粧用下地化粧料、白粉、コンシーラー、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料を例示することができる。
【0027】
また、上記皮膚外用剤や化粧料が、乳化組成物の場合、O/W型、W/O型や、O/W/O型、W/O/W型等の多層型のいずれにおいても可能である。また、これらの剤型を製造する際に使用することができる構成成分の種類やその配合量は、慣用手段に従って、当業者が適宜定めうる範囲で調整することができる。なお、これらの種類や配合量は以下に示す実施例に限定されるものではなく、目的の剤型を製造しうることが知られている任意の成分およびその任意の配合割合を用いることができる。
【0028】
上記のように本発明の皮膚常在菌正常化剤は、皮膚外用剤又は化粧料として好適に用いられ、本発明品は皮膚常在菌を正常化できるので広く使用ができる。手や指で使用する方法があるが、その他の使用方法として、例えば不織布等に含浸させて使用する方法等拭き取り式のシート状洗顔料、シート状クレンジング料、シート状濡れナプキンや点鼻剤や点耳剤にも利用が可能である。
【実施例1】
【0029】
以下に本発明をさらに具体的にするために、実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。まず、試料としての各種植物抽出液と、供試菌並びに菌の培養方法について説明する。
【0030】
1.植物抽出物
表1に示す植物抽出物を用いた。以下製造例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。
(注1)

オウレン抽出物
(製造方法)オウレン抽出物は、オウレン又はその他同属植物10gに、90vol%含水エチルアルコール100mLを加え、室温にて7〜10日間抽出を行った後、濾過して得た。この時、オウレン抽出物の乾燥固形分は0.5%であった。
(注2)
イラクサ抽出物
(製造方法)イラクサ抽出物は、イラクサの葉10gに、50vol%1,3−ブチレングリコール50mLを加え、室温にて7〜10日間抽出を行った後、濾過して得た。この時、イラクサ抽出物の乾燥固形分は1.2%であった。
(注3)
ワレモコウ抽出物
(製造方法)ワレモコウ抽出物は、ワレモコウの根及び根茎10gに、50vol%1,3−ブチレングリコール200mLを加え、室温にて7〜10日間抽出を行った後、濾過して得た。この時、ワレモコウ抽出物の乾燥固形分は0.8%であった。
(注4)
アロエ葉抽出物
(製造方法)アロエ抽出物は、アロエの葉から得られた液汁よりアロインを除去して得られた粉末を0.6Vol%になるよう精製水に溶解して室温にて7〜10日間静置した後、濾過して得た。この時、アロエ抽出物の乾燥固形分は0.6%であった。
(注5)
ドクダミ抽出物
(製造方法)ドクダミ抽出物は、ドクダミの開花期の地上部10gに、50vol%1,3−ブチレングリコール100mLを加え、室温にて7日間抽出を行った後、濾過して得た。この時、ドクダミ抽出物の乾燥固形分は0.8%であった。
(注6)
チャ葉抽出物
(製造方法)チャ葉抽出物は、チャノキの葉を水蒸気で蒸し、もみ、乾燥し、細切りにしたもの10gに、50vol%含水エチルアルコール100mLを加え、浸漬し、冷凍処理させ、不溶物を取り除き、60%1,3−ブチレングリコールを加え、濾過して得た。この時、チャ葉抽出物の乾燥固形分は1.79%であった。
(注7)
ノイバラ果実抽出物
(製造方法)ノイバラ果実抽出物は、ノイバラの果実10gに、50vol%含水エチルアルコール50mLを加え、5時間の還流抽出を2回行った後、減圧乾燥し、50%の含水エチルアルコールを加え、室温にて7〜10日間抽出を行った後、濾過して得た。この時、ノイバラ果実抽出物の乾燥固形分は8.5%であった。
(注8)
マグワ根皮抽出物
(製造方法)マグワ根皮抽出物は、マグワの根皮10gに、90vol%含水エチルアルコール50mLを加え、加温抽出した後、減圧乾燥を行い、50%含水エチルアルコールを加え、室温にて7〜10日間抽出を行った後、濾過して得た。この時、マグワ根皮抽出物の乾燥固形分は1.4%であった。
(注9)
ヨーロッパシラカバ種皮抽出物
(製造方法)ヨーロッパシラカバ抽出物は、ヨーロッパシラカバ樹皮10gに、50vol%1,3−ブチレングリコール50mLを加え、加温抽出した後、ろ液を室温にて7〜10日間静置、ろ過して得た。この時、ヨーロッパシラカバ抽出物の乾燥固形分は0.8%であった。
(注10)
オノニス抽出物
(製造方法)オノニス抽出物は、オノニスの根10gに、50vol%1,3−ブチレングリコール50mLを加え、加温抽出した後、ろ液を室温にて7〜10日間静置、ろ過して得た。この時、オノニス抽出物の乾燥固形分は1.0%であった。
(注11)
ブッチャーブルーム根抽出物
(製造方法)ブッチャーブルーム抽出物は、ナギイカダ(ブッチャーブルーム)の根茎10gに、70vol%含水エチルアルコール100mLを加え、加温抽出した後、減圧乾燥を行い、50%含水エチルアルコールを加え、室温にて7〜10日間抽出を行った後、濾過して得た。この時、ブッチャーブルーム抽出物の乾燥固形分は0.8%であった。
(注12)
コーヒー種子抽出物
(製造方法)コーヒー種子抽出物は、アラビカコーヒーノキ又はその他同属植物10gに、エチルアルコール100mLを加え抽出、ろ過、減圧乾燥をしてコーヒーエキス10gを得る。コーヒーエキスを30%1,3−ブチレングリコールに溶解して得た。この時、コーヒー種子抽出物の乾燥固形分は1.96%であった。
【0031】
2.供試菌
アクネ菌(嫌気性菌);プロピオニバクテリウム・アクネス ATCC 6919 (Propionibacterium acnes ATCC 6919)
好気性菌;スタフィロコッカス・アレウス IFO 13276(Staphylococcus aureus IFO 13276)、スタフィロコッカス・エピデルミディス JCM
2414T(Staphylococcus epidermidis JCM 2414T)
【0032】
3.菌の培養方法
〔アクネ菌の培養方法〕
予め滅菌生理食塩液に約10cfu/mlになるようにアクネ菌を分散させた溶液を調製し、この液をGAM寒天培地の表面に0.05mlを一様に接種し自然乾燥させる。滅菌した直径8mmの円形ろ紙にオウレン抽出物やその他の植物抽出物等の候補物質の10Vol%水溶液を0.0.5ml含浸させて、菌を接種したGAM寒天培地の上に置き、嫌気性容器に入れて、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学株式会社)をいれて、蓋をして、37℃で一週間培養した。
〔好気性菌の培養方法〕
予め滅菌生理食塩液に約10cfu/mlになるように好気性菌であるSt. aureusとSt. epidermidisを分散させた溶液を調製し、この液をSCD寒天培地の表面に0.05mlを一様に接種し自然乾燥させる。滅菌した直径8mmの円形ろ紙にオウレン抽出物やその他の植物抽出物等の候補物質の10Vol%水溶液を0.05ml含浸させて、菌を接種したSCD寒天培地の上に置き、32.5℃で一週間培養した。
【0033】
続いて、阻止円法による各種植物抽出物の菌増殖抑制効果について行った試験方法及び菌増殖抑制効果の評価方法について説明する。
【0034】
4.試験方法
各種植物抽出物を含浸させた直径8mmの円型ろ紙を、菌を接種した培地に置き恒温滅菌環境にて一週間培養した。
【0035】
5.増殖抑制効果の評価方法
〔アクネ菌増殖抑制効果の評価方法〕
上記アクネ菌を37℃で一週間培養後、各種植物抽出物を含浸させた円形ろ紙の周囲に発生した、菌未生育帯(発育抑制帯、透明ゾーン)の大きさを測定することで、各候補物質の菌に対する増殖抑制効果を評価した。評価基準は以下の通りである。
[増殖抑制効果の評価基準]
△:生育抑制ゾーン8mm以下
○:生育抑制ゾーン8mmより大きく15mm以下
◎:生育抑制ゾーン15mmより大きい
〔好気性菌増殖抑制効果の評価方法〕
上記好気性菌を32.5℃で一週間培養後、各種植物抽出物を含浸させた円形ろ紙の周囲に発生した、菌未生育帯(発育抑制帯、透明ゾーン)の大きさを測定することで、各候補物質の菌に対する増殖抑制効果を評価した。
評価基準は以下の通りである。
評価基準は以下の通りである。
[増殖抑制効果の評価基準]
◎:生育抑制ゾーン8mm以下
○:生育抑制ゾーン8mmより大きく15mm以下
△:生育抑制ゾーン15mmより大きい
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果より、オウレン抽出物がアクネ菌に対しては優れた制菌効果を示し、いずれの好気性菌に対しては制菌効果が低い結果を示し、これにより皮膚常在菌の正常化効果に優れるものであることがわかった。一方、オウレン抽出物以外の植物抽出物では、いずれもアクネ菌に対して、優れた制菌効果がないものであった。
【実施例2】
【0038】
実施例2の化粧水は、ヒト皮膚から菌を採取し、皮膚常在菌正常化効果の評価を行った実験方法及び結果として皮膚外用剤又は化粧料の例として用いた例である。表2に示す処方及び下記製法にて調製した。
【0039】
(注13)
パセリ抽出物
(製造方法)パセリ抽出物は、オランダセリ(パセリ)の葉10gに、1,3−ブチレングリコール120gを加え、室温で10日間、撹拌しながら抽出、ろ過をしてパセリエキス10gを得る。パセリエキスを30%1,3−ブチレングリコールに溶解して得た。この時、パセリ抽出物の乾燥固形分は0.5%であった。
【0040】
(製法)
A:成分(3)〜成分(5)を混合する。
B:成分(1)、成分(2)、成分(6)〜成分(13)を混合する。
C:BにAを混合し、化粧水を得た。
【0041】
〔皮膚常在菌の集菌方法〕
洗顔2時間後の被験者に被験者各候補物質を含有した化粧水と含有していない化粧水を、顔面上2cm四方あたり1ml塗布してもらい、塗布直後、塗布1時間後に試験塗布部位中1cm四方を滅菌綿棒で1分間擦り、皮膚常在菌を採取し0.065Mリン酸バッファー10gに取り、5分間ボルテックスし、集菌した。
【0042】
ヒト皮膚上の菌の培養方法
〔アクネ菌の培養方法〕
上記方法で得られた懸濁液を0.065Mリン酸バッファーで適宜希釈した。滅菌後50℃迄冷却したGAM寒天培地に希釈液を分株し、よく混ぜ、静置してアガー培地を固化させた。その後、嫌気性容器に入れて、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学株式会社)をいれて、蓋をして、37℃で一週間培養した。
〔好気性菌の培養方法〕
上記方法で得られた懸濁液を0.065Mリン酸バッファーで適宜希釈した。滅菌後、冷却し固化させたSCD寒天培地に上記方法で作成した皮膚上の菌の希釈液を分株し、乾燥させた後、32.5℃で一週間培養した。
【0043】
〔菌増殖抑制の評価方法〕
各種培地上に現れたコロニー数をカウントし、各候補物質におけるアクネ菌又は好気性菌の変化を以下の計算式より算出し、以下の評価基準にて評価した。
変化量=A/B
A:候補物質を含有した化粧水を塗布した部位から採取したアクネ菌又は好気性菌
B:候補物質を含まない化粧水を塗布した部位から採取したアクネ菌又は好気性菌
【0044】
〔増殖抑制効果の評価基準〕
++:0.01未満の変化量
+ :0.01以上1未満の変化量
− :1以上の変化量
〔皮膚常在菌正常化判断基準〕
○:アクネ菌抑制効果が++でかつ、好気性菌抑制効果が−のもの
×:アクネ菌抑制効果が−又は++のもの
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果から、本発明品1又は2のいずれもオウレン抽出物が皮膚常在菌正常化剤として優位な効果を示すことがわかった。一方で、オウレン抽出物の変わりにパセリ抽出物を含む比較品1、比較品2は、一次スクリーニングにより、選択的抗菌効果があると示唆された、パセリ葉抽出物は、実際の皮膚上では、アクネ菌に対しての効果が観察されなかった。植物抽出物を含有しない比較品3はいずれもアクネ菌の抑制効果には優れず、好気性菌に対しても、抗菌効果がないことがわかった。また比較品3にエタノールを含有した比較品4では、アクネ菌の抗菌効果が低く、好気性菌の抗菌効果が非常に高い結果となった。さらにイブプロフェンピコノールを含有した比較品5においてもアクネ菌に対する抗菌効果は低く、好気性菌に対する抗菌効果が観察された。
以上の結果から、オウレン抽出物は皮膚上においても、好気性菌の生育に影響を与えることなく、アクネ菌にのみ強い抗菌効果を発揮することを導き出したと言える。本発明の効果により肌のバリアー機能の低下がおこりにくく、肌あれの抑制効果としても期待できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オウレン抽出物を有効成分とする皮膚常在菌正常化剤。
【請求項2】
皮膚常在菌の正常化がアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴とする請求項1記載の皮膚常在菌正常化剤。
【請求項3】
アクネ菌がP.
acnesであることを特徴とする請求項1又は2記載の皮膚常在菌正常化剤。
【請求項4】
好気性菌がSt.
aureus又はSt. epidermidisであることを特徴とする請求項1〜3の何れか記載の皮膚常在菌正常化剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかの項記載の皮膚常在菌正常化剤を含有することを特徴とする皮膚外用剤又は化粧料。
【請求項6】
オウレン抽出物により、皮膚におけるアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴とする皮膚常在菌正常化方法。
【請求項7】
アクネ菌がP.
acnesであることを特徴とする請求項6記載の皮膚常在菌正常化方法。
【請求項8】
好気性菌がSt.
aureus又はSt. epidermidisであることを特徴とする請求項6又は7記載の皮膚常在菌正常化方法。
【請求項9】
オウレン抽出物を用いることを特徴とする請求項6〜8の何れかの項記載の皮膚常在菌正常化方法。
【請求項10】
オウレン抽出物を有効成分とし、皮膚外用剤又は化粧料に添加することを特徴とする皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法。
【請求項11】
皮膚常在菌の正常化がアクネ菌の増殖を抑制し、好気性菌の増殖を維持することを特徴とする請求項10記載の皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法。
【請求項12】
アクネ菌がP.
acnesであることを特徴とする請求項10又は11記載の皮膚常在菌の正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法。
【請求項13】
好気性菌がSt.
aureus又はSt. epidermidisであることを特徴とする請求項10〜12の何れかの項記載の皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法。
【請求項14】
オウレン抽出物を用いることを特徴とする請求項10〜13の何れかの項記載の皮膚常在菌正常化用の皮膚外用剤又は化粧料の製造方法。

【公開番号】特開2010−202604(P2010−202604A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51391(P2009−51391)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】