説明

皮膚機能改善剤

【課題】体内から皮膚機能を高めて、肌荒れや皮膚疾患の改善と予防を行うことができ、副作用を持たない皮膚機能改善剤及び皮膚機能改善食品の提供。
【解決手段】マイタケの子実体又は子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物、又は該キノコ水抽出物を、α−アミラーゼ処理したあとにアルコールを加えて沈殿分離した成分から蛋白質を除くことで得られる、水溶性β−グルカンを主成分とする皮膚機能改善剤及びこれを添加した皮膚機能改善食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイタケを原料とする皮膚血流量を改善し、且つ皮膚バリヤー機能を再生する経口投与用の皮膚機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肌荒れや皮膚疾患等の症状の改善には、スクワラン、セラミド等の皮脂成分や、ビタミンA油、ホホバ油、ハトムギ油等の油脂類を用いた保湿成分、整肌成分を有するクリーム、軟膏、ローション等の外用剤を使用し、炎症等の病的症状の改善には、坑炎症剤やステロイド剤等が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、皮脂成分や油脂類からなる外用剤は、皮膚の再生能力等の皮膚機能自体を改善するものではなく、根本的な解決策にはなり得なかった。
【0004】
また、現代社会における原因不明の皮膚炎症疾患やアトピー性皮膚炎患者の増加は、社会的ストレスの影響であるとする説もある。しかし、現在用いられている皮膚外用剤は、現代人に多いとされるストレスによる肌荒れや皮膚疾患には、一時的に不調を抑制しても根元のストレスを改善しない限り、あまり効果を発揮しないという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、上述の従来技術の問題を鑑み、体内から皮膚機能を高めて、ストレスによる皮膚の不調を含め、肌荒れや皮膚疾患等の症状の改善と予防を行うことができ、副作用を持たず、日常の食生活において無理なく摂取することができる皮膚機能改善剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、マイタケの子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物から得られた水溶性β−グルカンを主成分とする経口投与用皮膚血流量改善剤にある。
【0007】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記水溶性β−グルカンは、前記子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物を、α−アミラーゼ処理したあとにアルコールを加えて沈殿分離した成分から蛋白質を除くことで得られたものであることにある。
【0008】
請求項3に記載の発明の特徴は、マイタケの子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物から得られた水溶性β−グルカンを主成分とする経口投与用皮膚バリヤー機能再生剤にある。
【0009】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項3の構成に加え、前記水溶性β−グルカンは、前記子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物を、α−アミラーゼ処理したあとにアルコールを加えて沈殿分離した成分から蛋白質を除くことで得られたものであることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明品に係る皮膚機能改善剤は、皮膚バリアー機能、表皮血流量を改善することが確認されている。
【0011】
本発明に係る皮膚機能改善剤は、表皮血流量を改善することによって、細胞に十分に栄養が補給され、老化の一因とされる抹消血液循環の悪化によって老廃物の排出が滞るのを防止するので、老化防止効果を有する。
【0012】
また、この皮膚機能改善剤は、表皮血流量を改善することによって表皮の新陳代謝を高めることができ、新陳代謝の不順によって発生する、しみ、そばかす等を抑制することができ、美白効果も期待できる。
【0013】
更に、この皮膚機能改善剤は、表皮の潤い、きめの細かさ、皮膚の血色を改善し、血行促進することができ、高い美容効果も発揮する。
【0014】
また、この皮膚機能改善剤は、炎症、肌荒れ等の皮膚の不調で生じる皮膚バリアー機能の回復を増進し、肌からの水分散逸量の低下、刺激物質の進入抑制機能低下、角質細胞層やコラーゲン構造の乱れ等の皮膚機能低下の改善を促進することにより、各種アレルギーによる炎症、光線や温熱による炎症、褥瘡(床擦れ)等の物理的原因による炎症、その他の様々な皮膚の炎症の改善が期待できるとともに、ストレスによるアトピー性皮膚炎、その他の皮膚のストレス障害全般についても改善効果が得られ、肌荒れに対しても改善効果を有し、特に根源にあるストレスを除去しなければ治り難いといわれる生活環境のストレスによって生じる肌荒れの悪化についても十分効果を発揮する。
【0015】
また、本発明に係る皮膚機能改善剤は、古来より食品としての安全性が知られている食用キノコであるマイタケが原料であり、副作用の心配もなく、日常的に摂取することができ、肌が弱く、化粧品の添加物などで肌トラブルを起こしてしまうような人でも、安全に摂取でき、皮膚機能を改善することができるものであるとともに、外用で用いる化粧品のように、肌に外から潤いや皮膚バリアー機能を付加するわけではなく、体内から皮膚機能を根本的に高めるため、様々な皮膚トラブルに効果を発揮する。
【0016】
また、マイタケの水溶性β−グルカンを主成分とする本発明に係る皮膚機能改善剤は、味と香りをほとんど変えることがなく、茶、紅茶、コーヒー等に砂糖やクリームを入れる感覚で入れることができ、手軽に摂取することができる。
【0017】
また、飴、ドロップのようなものに加工すれば、時間がなくても、歩きながらでも摂取することができる食品となり、その他、様々な料理の形態をとることができ摂取方法の応用範囲が非常に広い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る皮膚機能改善剤について説明する。
製造例
原料キノコは、マイタケ(Grifola frondosa)を用い、それを生のまま、或いは乾燥粉末にして使用する。
【0019】
尚、乾燥粉末の乾燥は、凍結乾燥、天日乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥のいずれかの方法により行う。
【0020】
まず、この原料キノコに、乾燥粉末1重量に対して10〜20倍重量、生のものに対して1〜2倍重量の水(蒸留水、精製水、イオン交換水、水道水又は天然水)を加え活性成分を抽出する。
【0021】
このとき、加熱して熱水抽出とすることにより、抽出効率が向上し、抽出時間を短縮することができる。尚、加熱還流下での抽出時間は20〜60分が好ましい。
【0022】
そして、残渣を濾過により除き、その抽出液を凍結乾燥させて粉末化し、キノコ水抽出物を生成する。
【0023】
また、前記抽出液にα−アミラーゼ(Termamyl 120L:Novo Nordisk)を加えて液中のデンプンが十分に分解されるまでにインキュベートした後、エタノールをエタノール濃度50%になるまで徐々に加え、室温又は冷所において30分〜10時間静置することにより抽出液内に沈殿物が生じ、この沈殿物を濾過又は遠心分離によって上清と分離し、必要に応じて50%以上のエタノールで洗浄する。
【0024】
更に沈殿物からSevag法により蛋白質を取り除くことで、水溶性β−グルカン(キノコ由来の水溶性β−グルカン)を主成分とするキノコ抽出物を得ることができる。
【0025】
除蛋白質の方法はSeavg法以外に、硫酸アンモニウムによる沈殿法等、他の一般的な除蛋白法でも行うことができる。
【0026】
そして、このキノコ水抽出物又はキノコ由来の水溶性β−グルカンに賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、乳化剤、安定化剤、着色剤、香料等を1又は複数加えて、通常の方法によって、飲料、茶剤、カプセル剤、錠剤などの様々な形態のキノコ水抽出物又はキノコ由来の水溶性β−グルカンを主成分とする皮膚機能改善剤とすることができる。
【0027】
また、上記キノコ水抽出物又はキノコ由来の水溶性β−グルカンをそのまま、或いは粉末化しただけの皮膚機能改善剤であってもよく、例えば、家庭で炊飯やお茶に簡単に加えられるように、キノコ水抽出物又はキノコ由来の水溶性β−グルカンを粉末化した皮膚機能改善剤を小パックに詰めておいてもよい。
【0028】
また、このキノコ水抽出物又はキノコ由来の水溶性β−グルカンを様々な加工食品に添加することによって、皮膚機能改善効果を有するとすることができる。
【0029】
特に、キノコ由来の水溶性β−グルカンは、ほぼ無味無臭の固体であり、水に易溶であることから食品の味を変えることがなく手軽に添加することができる。
【0030】
このキノコ水抽出物及びキノコ由来の水溶性β−グルカンは、例えば、パン類、ドーナツ、ケーキ、饅頭、ビスケット、クッキー、キャンディー、キャラメル、ガム、あられ、煎餅、ポテトやコーンパウダーを原料とするスナック菓子、ジュース、清涼飲料、ジャム、ゼリー、寒天、ヨーグルト、醤油、ソース、ケチャップ、豆腐、野菜や果実のピューレ、パスタ、うどん、そば、ラーメン等の麺類、スープ、味噌汁、カレー、シチュー、ふりかけ、レトルトパウチ食品全般等の加工食品に容易に添加することができる。
【0031】
尚、1日の摂取量の目安は、キノコ由来の水溶性β−グルカンで3g、キノコ水抽出物粉末で20g以上摂ることが望ましい。
【0032】
試験例1
皮膚表層が比較的人間に近いとされるヘアレスマウス(雌、6週齢)を被検体とし、該被検体に人の社会的精神ストレスに近いとされる過密環境負荷によりストレスを与え、本発明に係る皮膚機能改善剤を投与した場合とそうでない場合とについて比較する。
〔試験方法〕
1ケージ(26.5cm×15.5cm×12.5cm)に5匹の被検体を入れ、6週間飼育して馴化させた後、以下のように普通飼育群、対象群、各キノコ摂取群に分け、各試験群について比較する。
【0033】
試験群
普通飼育群 :普通飼育、普通飼料摂取
対象群 :過密環境飼育、普通飼料摂取
キノコ摂取群:過密環境飼育、キノコ又はキノコ水抽出物混合飼料
普通飼育群は、1ゲージに5匹の被検体を入れて飼育し(普通飼育)、普通飼料を摂取させる。
【0034】
対象群は、1ケージを4等分に区切ったうちの1区画に5匹の被検体を入れ、被検体にストレスを与えながら普通飼料を摂取させて7日間過密環境飼育を行う。
【0035】
各キノコ摂取群には、対象群と同様に、1ケージを4等分に区切った1区画に5匹の被検体を入れ、被検体にストレスを与え、皮膚機能改善剤をキノコ乾燥粉末重量に換算して飼料全重量の5%になるように粉末飼料に混合し、被検体に自由摂取させながら、7日間過密環境飼育を行った。尚、皮膚機能改善剤は、生のエリンギ、マイタケ、ブナシメジ、白色ブナシメジにそれぞれ1.5倍重量の水を加えて加熱沸騰させ、30分間抽出を行った後、残渣を濾過により除き、その抽出液を凍結乾燥させて生成したキノコ水抽出物粉末である。
【0036】
皮膚機能の評価は、表皮血流量、皮膚バリアー機能再生率を指標とする。
【0037】
表皮血流量は、キノコ投与開始後7日目にレーザードップラー計(PIM2;Lisca)を用いて動物背後の血流量を測定する。
【0038】
皮膚バリアー機能再生率は、キノコ投与開始後7日目に被検体の背部の一部にテープストリッピング(皮膚にテープを貼り、剥がす行為)を繰り返し行うことにより炎症を惹起させ、その部位の経表皮水分蒸散量(TEWL)をその後4日間連続で水分蒸散量測定装置(Tewameter;Courage+Khazaka)を用いて測定し、その値より求める。
【0039】
尚、表皮血流量と経表皮水分蒸散量(TEWL)は、化粧品、皮膚外用医薬品の効果性研究に有効な指標とされているものである。表皮血流量は、上昇することにより皮膚の新陳代謝の活性化が期待できる他、皮膚の血色や血行促進作用などの美容効果にも関係する。TEWLは、炎症などにより表皮のバリアー機能が破壊されると上昇し、これが回復すると低下するものである。
【0040】
今回は炎症惹起直後の状態(TEWLは普段より高い状態)を皮膚バリアー機能再生率0%とし、炎症惹起前の通常の値に戻った状態を皮膚バリアー機能再生率100%として計算した。
【0041】
〔試験結果〕
表皮血流量についての結果を表1及び図1に示し、皮膚バリアー機能再生率に関する結果を表2及び図2に示す。尚、皮膚バリアー機能再生率については、炎症惹起後3日目を比較した。


(a)普通飼育に比べ、(b)対象群(過密飼育)では表皮血流量、皮膚バリアー機能再生率ともに低下しているのに対し、(c)〜(f)各キノコ摂取群では(b)対象群(過密飼育)に比べ、表皮血流量及び皮膚バリアー機能再生率ともに高い数値を示し、これらの皮膚機能の低下を改善することが確認でき、特に(c)エリンギ、(d)マイタケ、(f)白色ブナシメジの表皮血流量については何れも(a)普通飼育を上回っている。
【0042】
試験例2
上述の試験例1で行った評価試験で用いたものと同じマイタケのキノコ水抽出物100ml当たり、α−アミラーゼを0.1ml加え、沸騰浴中で30分反応させた後、エタノールを最終濃度が50%になるように徐々に加え、室温で2時間静置し、生じた沈殿を遠心分離によって上澄と分離し、この沈殿物からSevag法により蛋白質を除き、水溶性β―グルカンを主成分とするキノコ抽出物を得た。これを上述の試験例1のキノコ水抽出物に代えて被検体(マウス)に与えるようにして同様の皮膚機能改善試験を行った。
【0043】
この結果、水溶性β−グルカンにキノコ水抽出物と同様な皮膚機能改善作用があることを確認することができた。
【0044】
試験例3
〔試験方法〕
20代の男女6人の被験者に、皮膚機能改善剤を、スープ1杯(約150ml)につき1g溶かして、朝、夜2回、実験開始日の夜から実験最終日の朝まで7日間飲み続けてもらい、表皮血流量の変化を調査した。
【0045】
尚、使用した皮膚機能改善剤には、生のマイタケに1.5倍重量の水を加えて加熱沸騰させ、30分間抽出を行った後、残渣を濾過により除いた抽出液にエタノールを最終濃度が50%になるように徐々に加え、室温で2時間静置した後、遠心分離によって沈殿物と上清とに分画したキノコ抽出物を使用する。
【0046】
表皮血流量の測定は、実験開始日と実験最終日の午前10時に、前腕内側の中心部2cm四方の表皮血流量をレーザードップラー計(PIM2:Lisca)を用いて測定した。
〔試験結果〕
結果を表3及び図3に示す。

被験者6人のうち4人に表皮血流量の増加が見られ、全体の平均値も増加傾向が見られ、人においても皮膚機能改善効果が確認できる。
【0047】
また、試験に用いられた飲料は、特に皮膚機能改善剤を溶解させる前の風味を損なわず、違和感や、抵抗を感じることなく飲むことができた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】マウスによる皮膚機能改善剤の改善効果比較試験において各試験群の表皮血流量を比較した結果を示すグラフである。
【図2】同上の各試験群の皮膚バリアー機能再生率比較した結果を示すグラフである。
【図3】人による皮膚機能改善剤の改善効果確認試験における各被験者の表皮血流量の状態を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイタケの子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物から得られた水溶性β−グルカンを主成分とする経口投与用皮膚血流量改善剤。
【請求項2】
前記水溶性β−グルカンは、前記子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物を、α−アミラーゼ処理したあとにアルコールを加えて沈殿分離した成分から蛋白質を除くことで得られたものである請求項1に記載の経口投与用皮膚血流量改善剤。
【請求項3】
マイタケの子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物から得られた水溶性β−グルカンを主成分とする経口投与用皮膚バリヤー機能再生剤。
【請求項4】
前記水溶性β−グルカンは、前記子実体及び/又は該子実体の乾燥粉末より抽出したキノコ水抽出物を、α−アミラーゼ処理したあとにアルコールを加えて沈殿分離した成分から蛋白質を除くことで得られたものである請求項3に記載の経口投与用皮膚バリヤー機能再生剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−297314(P2008−297314A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193418(P2008−193418)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【分割の表示】特願2004−90824(P2004−90824)の分割
【原出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(390034142)ホクト株式会社 (14)
【出願人】(594163109)
【Fターム(参考)】