説明

皮膜形成方法

【課題】基体との密着性、皮膜の異層間の密着性に優れた特性を有する硬質被覆層を得るための皮膜形成方法と、この皮膜形成方法により被覆した被覆部材を提供する。
【解決手段】複数の蒸発源に複数の陰極物質を装着し、該蒸発源の前面に遮蔽板を設け、減圧容器内でプラズマを発生させて基体の表面に陰極物質材料の皮膜を形成する物理蒸着装置を用いて、少なくとも該基体表面にボンバードメント処理を行うボンバードメント工程と、皮膜を形成する被覆工程とから構成され、該ボンバードメント工程は該遮蔽板により該蒸発源の放電による放出物質を該基体から遮蔽した状態で、少なくとも非金属イオンによる該基体のボンバードメント処理を行うことにより、前記基体及び前記減圧容器内に残存する不純物成分を前記放出物質とともに前記遮蔽板に吸着するようにしたことを特徴とする皮膜形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性の要求される部材表面に皮膜を形成する密着強度に優れた皮膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク放電型イオンプレーティング法を用いて皮膜を被覆することについては、皮膜の密着性を高めることを目的とする技術が特許文献1、2に開示されている。
特許文献1は、金属のイオン化効率が高いアーク放電型イオンプレーティング法を用いて硬質皮膜を形成する際の前処理として、母材上の硬化層表面に金属イオンによるボンバードメント処理を施し、その後硬質皮膜を形成することによって、硬質皮膜の密着性を高める技術を示している。このボンバードメント処理によって、母材金属成分と炭素及び/又は窒素とからなる化合物、例えばε相を除去することと、更に、ボンバードメント処理により、高い運動エネルギーを持った金属イオンが被処理物に衝突することにより金属イオンが被処理物内部に打ち込まれ、後工程のイオンプレーティングにより形成される硬質皮膜とのアンカー効果により、密着性を高めている。
【0003】
特許文献2には、アーク放電式蒸着源を有する装置について、該蒸着源の陰極前面が遮蔽される機構を有する装置構成が開示されている。同一真空容器内にアーク放電式蒸着源と、スパッタリング用電極の陰極部とを併せ持ち、これらを連続的に用いた被覆について記載され、蒸着源の陰極前面が遮蔽される機構を有することにより、皮膜が高い密着性を有することを可能にしている。しかしこの効果は、蒸着源表面の汚染を回避することにより達成されると記載されているに過ぎない。しかも、被覆動作時には遮蔽されていない蒸着源のみが稼動し、遮蔽されている蒸着源は未稼動状態であり、同時稼動の記載は無い。
【0004】
特許文献3には、同一真空装置内に電気アーク放電手段と磁場併用式陰極微粒化手段とを併せもつ装置を使用し、両手段を同時に用いて被覆する技術が開示されている。しかし、特許文献3は多元化合物を得るための技術を開示するに過ぎず、遮蔽板の構成や、皮膜の密着性改善に関する技術は何ら開示されていない。金属イオンによる基体のボンバードメント処理は密着性に優れるものの同時に金属粒子が基体表面に付着してしまい、面粗度を劣化させ、膜強度を低下させてしまう等の課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−2937号公報
【特許文献2】特開2002−371351号公報
【特許文献3】特開昭64−83656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、基体との密着性、皮膜の異層間の密着性に優れた特性を有する硬質被覆層を得るための皮膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の皮膜形成方法は、複数の蒸発源に陰極物質を装着し、該蒸発源の前面に遮蔽板を設け、減圧容器内でプラズマを発生させて基体の表面に陰極物質材料の皮膜を形成する物理蒸着装置を用いて、少なくとも該基体表面にボンバードメント処理を行うボンバードメント工程と、皮膜を形成する被覆工程とから構成され、
該ボンバードメント工程は、該蒸発源の放電による放出物質を該遮蔽板により該基体から遮蔽した状態として、少なくとも非金属イオンによる該基体のボンバードメント処理を行うことにより、該基体及び前記減圧容器内に残存する不純物成分を前記陰極物質の前方で前記放出物質とともに吸着するようにしたことを特徴とする。
【0008】
本発明の皮膜形成方法において、該被覆工程では、該蒸発源の放電による放出物質を該遮蔽板により該基体から遮蔽した状態として、該蒸発源とは別の蒸発源により該基体表面に皮膜の形成を行うことが望ましい。
【0009】
また、本発明の皮膜形成方法において、該被覆工程では、該遮蔽板を閉じた状態にして該蒸発源の放電による放出物質を基体から遮蔽した状態を維持する第1の工程と、該第1の工程が終了した後に該遮蔽板を開いた状態として、皮膜の形成を行う第2の工程とからなることが望ましい。
また、本発明の構成を採用することによって、基体との密着性及び耐摩耗特性に優れた特性を有する耐摩耗層を得るための皮膜形成方法を提供することができる。
【0010】
本発明に係る蒸発源は、アーク放電式蒸発源、スパッタリング方式蒸発源又はイオン化蒸発源の何れかであることが望ましい。この理由は、これらの蒸発源による被覆が最も耐摩耗皮膜が高密度であり、耐摩耗性に優れるからである。図1、図3及び図5に示すように、本発明に係る遮蔽板22は、開閉動作をするための遮蔽板駆動部21を備え、該被覆工程では該遮蔽板22を開いた状態とすることによって該蒸発源と、該別の蒸発源とにより基体7表面に耐摩耗皮膜の形成を行うことが望ましい。この理由は、該遮蔽板22により遮蔽されたアーク放電式蒸発源12及び/又はスパッタリング方式蒸発源24が、耐摩耗皮膜の形成にも使用可能となり、減圧容器内に設置する蒸発源を有効活用できるからである。
【0011】
ボンバードメント工程の非金属イオンを形成するためのガスは、アルゴンを含有し、該ガスは水素及び/又は窒素を50体積%未満含有することが望ましい。Arを用いることにより、基体のボンバードメント工程でも皮膜形成においても使用することができる。また、基体のボンバードメント工程において、Arに加えて水素を添加することにより、基体のArイオンボンバードの効率を向上させることができる。これは、還元作用を高めることができ、基体表面におけるマイクロアーキングを抑制する効果に加えて、基体表面もしくは耐摩耗皮膜内に混入する酸素を防止する効果を高めるためである。窒素に関しては、被覆工程直前に導入することにより、窒素のイオン化率を高め窒化物形成促進に有効である。
【0012】
上記被覆工程は、第1の工程と、第2の工程とからなることが望ましい。この理由は、該第1の工程を一定時間継続することにより、皮膜形成を行う前に陰極物質表面から放出物質を放出させることができる。即ち、陰極物質表面に付着した不純物成分が耐摩耗皮膜内に混入することを防止できる。更に加えて、陰極物質表面におけるアーク放電及び/又はスパッタリング放電が安定した後に皮膜形成を行った方が、平滑性に優れ、高純度で緻密な耐摩耗皮膜が得られるからである。陰極物質は、少なくともTi又はCrを含有することが望ましい。Ti又はCrを含有した陰極物質を用いた場合、最も密着強度に優れ、皮膜硬度改善に効果的であるからである。Ti又はCrを含有した陰極物質を用いた場合、不純物元素を最も効果的に吸着することができることに加えて、減圧容器内に導入するガスのイオン化促進に有効である。
【0013】
減圧容器内にアーク放電式蒸発源及び/又は該スパッタリング方式蒸発源が複数設置され、蒸発源による耐摩耗皮膜の形成が遮蔽板の開閉動作の制御によって交互又は同時に行われることが更に望ましい。これらの皮膜形成方法により、特性の異なる耐摩耗皮膜を積層することや、耐摩耗皮膜内に異種元素を混入させる際の異層間の皮膜密度改善並びに密着強度改善にも効果的であり、より望ましい皮膜形成方法である。
【0014】
基体に印加するバイアス電圧がパルスバイアス電圧であることが望ましい。この理由は、基体表面のマイクロアーキングを抑制する効果に加え、減圧容器内に導入するガス成分のイオン化率を高め、より高密度で耐摩耗性に優れた皮膜が得られ易いことによる。
【0015】
本発明の皮膜形成方法により被覆した被覆部材は、基体密着強度並びに耐摩耗性に優れ望ましい。特に切削工具、金型等に被覆する場合、その効果が顕著に確認されている。また比較的基体から不純物ガスが発生しやすい再研磨工具等の一度加工に使用した工具の場合も改善効果が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の皮膜形成方法を用いることで、基体と皮膜との密着性、皮膜の異層間の密着性を著しく改善することが可能となり、耐剥離性が格段に優れる。更に、平滑性とを向上させ、大幅に耐摩耗性を改善することが可能である。これらの改善により優れた被覆部材を得ることができ、特に耐摩耗性の要求される工具等は、工具寿命を向上させることが可能となり、生産性向上並びにコスト低減に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】製法1に用いた装置の正面図を示す。
【図2】図1の上面図を示す。
【図3】製法2に用いた装置の正面図を示す。
【図4】図3の上面図を示す。
【図5】製法3に用いた装置の正面図を示す。
【図6】図5の上面図を示す。
【図7】製法1のボンバードメント処理を示す。
【図8】製法1の被覆工程を示す。
【図9】製法3の被覆工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
耐摩耗皮膜の密着強度を阻害している理由としてまず第1に、皮膜形成工程における基体のArボンバードメント工程において、基体又は減圧容器内から発生する酸素等の不純物成分の影響が考えられる。酸素が発生し、Arイオンにより活性化された基体表面では、Arによる基体のボンバードメントによる清浄化と同時に基体表面の酸化等による複数の反応が生じ、基体と耐摩耗皮膜界面において異相を形成すると、マイクロアーキングを誘発する。そして、ひずみとして耐摩耗皮膜と基体界面に存在し、密着強度を著しく低下させる原因となる。第2に、皮膜形成工程における基体のArボンバードメント工程では、Arをイオン化するイオン化源がフィラメント電極等の放電のみでは、Arのイオン化が十分ではなくボンバードメント効率が十分に得られていない為と考えられる。そこで本発明は、皮膜形成工程における基体のArボンバードメント工程において、Arイオンによる基体のスパッタリング現象よりもエネルギーが大きいアーク放電及び/又はスパッタリング放電を同時に減圧容器内で発生させることにより、基体や減圧容器内に残存する酸素やその他の不純物成分をアーク放電及び/又はスパッタリング放電による陰極物質の前方で、放出物質とともに吸着する作用を有し、基体への進入を防止することとした。吸着した放出物質は、遮蔽板等に付着し、基体への進入を防止できる。これらにより、被覆部材の耐摩耗皮膜と基体との密着強度を著しく改善できるのである。
また、上記の効果は皮膜形成工程における被覆工程においても同様な効果が得られる。被覆工程においては、基体及び基体を固定するための冶具、陰極物質等からも絶えず不純物成分が蒸発しており、これらの不純物成分を吸着することにより、より高密度で硬度の高い皮膜が得られる。
【0019】
図1に示す装置は、遮蔽板22により遮蔽されたアーク放電式蒸発源12が1基、皮膜形成に用いる別のアーク放電式蒸発源27が1基設置されている。本発明に係る遮蔽板22は放出物質が基体7に到達するのを妨げて、その遮蔽効果を十分に発揮するために、陰極物質10を完全に覆うための適切な大きさと、遮蔽板22と陰極物質10との適切な間隔を設定する必要がある。また、遮蔽板駆動部21により開閉する遮蔽板22の動作形態は、観音開きによる可動式形態、或いは上下、左右にスライドする形態や、回転中心を遮蔽板22の外側に有する回転移動形態などから選択することができる。遮蔽板22の材質は、長時間の高温暴露による耐熱変形を考慮し、熱伝導性に優れる材質を選択し、厚みも肉厚であることが好ましい。信頼性を確保することが可能であれば、遮蔽板22に強制冷却機構を備えることもできる。図示していないが、排気口16の先には排気設備を装備し、減圧容器5を真空状態に維持する。被覆される基体7を保持するために、保持具6、8を設けている。保持具6、8は駆動部1によって、回転軸37を中心に1〜10回転/分で回転する。このとき保持具6、8は、シール機能及び減圧容器5から絶縁機能を有する軸受け部4によって支持されている。保持具6、8と基体7は、バイアス電源3によってバイアス電圧が印加される。図示していないが、減圧容器5内に設置された加熱装置により、基体7は加熱される。減圧容器5内へは、ガス導入口2からAr、H、O、N、CH、C等が必要に応じて導入される。フィラメント型の電極19は、減圧容器5内に導入したガス例えばArのイオン化の為に設置されている。
【0020】
アーク放電式蒸発源12、27はアーク放電用電源11により電流を供給し、アーク点火機構15により陰極物質10、17を蒸発、イオン化させる。アーク放電式蒸発源12、27は、シール機能及び電気絶縁機能を有する絶縁物13によって、減圧容器5と絶縁状態を保ち、固定されている。アーク点火機構15は保持具14により減圧容器5に固定されている。アーク放電式蒸発源12のアーク放電により陰極物質10を放出させる。この時、陰極物質10を基体7から遮蔽する機能を有する遮蔽板22は、シール機能を有する軸受け部20により保持されている。遮蔽板22は遮蔽板駆動部21と連結され、開閉することが可能である。アーク放電式蒸発源12を皮膜形成に用いる場合は、遮蔽板駆動部21により遮蔽板22を開け、皮膜形成に用いることもできる。
【0021】
図3、図4に示す装置は、遮蔽板22により遮蔽されたアーク放電式蒸発源12が1基、皮膜形成に用いる別のスパッタリング方式蒸発源24が1基設置された装置を示す。スパッタリング方式蒸発源24は、スパッタリング用放電電源25により電流を供給し、陰極物質26をスパッタリング放電によりイオン化させる。スパッタリング方式蒸発源24は、シール機能及び電気絶縁機能を有する絶縁物13によって、減圧容器5と絶縁されている。
【0022】
図5、図6に示す装置は、遮蔽板22により遮蔽されたアーク放電式蒸発源12が1基、皮膜形成用にイオン化蒸発源38が1基設置された装置を示す。イオン化蒸発源38は、シール機能及び電気絶縁機能を有する絶縁物13によって、減圧容器5と絶縁されている。
【0023】
図1、図2に示す装置を用いた皮膜形成方法は、少なくとも基体7の表面を、例えばArなどの非金属イオンによりボンバードメント処理を行うボンバードメント工程と、イオンプレーティング法により耐摩耗皮膜を形成する被覆工程より構成される。ボンバードメント工程は、アーク放電式蒸発源12の前面に配置した遮蔽板22により、アーク放電式蒸発源12から放電により放出される放出物質10を基体7から遮蔽した状態でアーク放電を行いながら、同時に少なくとも非金属イオンによる基体7のボンバードメント処理を行う。次に被覆工程は、アーク放電式蒸発源12とは別のアーク放電式蒸発源27により基体7の表面に耐摩耗皮膜の形成を行う皮膜形成方法である。
【0024】
図7には、後述する製法1に係るボンバードメント工程を示す。図7では基体7のイオンボンバードメントを実施している状態を示す。この時、アーク放電式蒸発源12の前に設置した遮蔽板22は、陰極物質10の放出物質30を基体7から遮蔽している。この状態では、基体7に印加したバイアス電圧により、非金属イオン例えばArイオンによる基体7のボンバードメント処理を行っている。それと同時に、放出物質30は減圧容器5内の不純物の吸着とArのイオン化を行っている。図8は、次の被覆工程に入った状態を示す。アーク放電式蒸発源12の放電、電極19への電力供給を止め、皮膜形成用に設置されたアーク放電式蒸発源27に設置された陰極物質17のアーク放電を開始する。この時、減圧容器5内に導入される反応ガスと放出物質31とが結合し、基体7の表面に耐摩耗皮膜を形成するという皮膜形成方法である。
【0025】
図3、図4に示す装置を用いた皮膜形成方法は、装置構成が、アーク放電式蒸発源27の代わりにスパッタリング方式蒸発源24を装備している点以外は後述する製法1と同様である。皮膜形成方法は、少なくとも基体7の表面を例えばArなどの非金属イオンによるボンバードメント処理を行うボンバードメント工程と、イオンプレーティング法により耐摩耗皮膜を形成する被覆工程より構成される。被覆工程において、アーク放電式蒸発源12の前面に配置した遮蔽板22により、アーク放電式蒸発源12から放出される放出物質を基体7から遮蔽した状態でアーク放電を行いながら、同時にアーク放電式蒸発源12とは別の蒸発源であるスパッタリング方式蒸発源24により基体7の表面に耐摩耗皮膜の形成を行うことを特徴とする皮膜形成方法である。
【0026】
図9は、基体7に皮膜形成を実施している状態を示す。この時、アーク放電式蒸発源12の前に設置した遮蔽板22は、陰極物質10の放出物質30を基体7から遮蔽している。この状態ではアーク放電式蒸発源12の放電を継続し、皮膜形成用に設置された別の蒸発源であるスパッタリング方式蒸発源24に設置された陰極物質26のスパッタ放電も開始する。従って、アーク放電式蒸発源12とスパッタリング方式蒸発源24とが同時に放電した状態となる。この時、減圧容器5内に導入される反応ガスと放出物質33とが結合し、基体7表面に放出物質33を主成分とした耐摩耗皮膜を形成するという皮膜形成方法である。
【0027】
本発明における遮蔽板22は、アーク放電式蒸発源及び/又はスパッタリング方式蒸発源から放出される放出物質を基体から遮蔽する機構と、遮蔽する機構を解除する駆動部を備える。従って、遮蔽板22により遮蔽されたアーク放電式蒸発源及び/又はスパッタリング方式蒸発源は、耐摩耗皮膜の形成にも使用可能である。アーク放電式蒸発源及び/又はスパッタリング方式蒸発源の前面に配置した遮蔽板22により、各蒸発源から放出される放出物質を基体から遮蔽した状態で、アーク放電及び/又はスパッタリングによる放電を一定時間継続した後、遮蔽板による遮蔽機構を解除し、各蒸発源による耐摩耗皮膜の形成を行うことも可能であり、膜形成方法として好ましい形態である。
【0028】
減圧容器内にアーク放電式蒸発源及び/又はスパッタリング方式蒸発源が複数設置され、各蒸発源による耐摩耗皮膜の形成が交互又は同時に行われることは、膜形成方法として好ましい形態である。第1段階は、ボンバードメント工程における稼動中のアーク放電式蒸発源12から放出物質30が放出されている。放出物質30は遮蔽板22により基体7から遮蔽された状態にある。次に第2段階は、減圧容器5内に皮膜形成のための反応ガスを導入し、アーク放電式蒸発源27にも電流が供給され、陰極物質31の放出が開始している状態を示す。この時、放出物質31は遮蔽板22により基体7から遮蔽された状態にある。第3段階は、アーク放電式蒸発源12の放出物質30を遮蔽していた遮蔽板22の遮蔽機構を解除した状態を示す。放出物質30と導入ガスにより耐摩耗皮膜の形成を行っている。第4段階は、アーク放電式蒸発源12、27の両遮蔽板22の遮蔽機構を解除した状態を示す。放出物質30、放出物質31と反応ガスとにより、混合皮膜を形成している状態を示す。第5段階は、アーク放電式蒸発源12の前面を遮蔽し、放出物質30が基体7から遮蔽した状態を示す。一方、アーク放電式蒸発源27の遮蔽板は開放され、耐摩耗皮膜の形成が行われている状態を示す。
上記の様に、放出物質を基体から遮蔽することにより、皮膜形成前のボンバードメント工程のイオン化促進並びに密着性向上の効果に加えて、耐摩耗皮膜の積層化にも有効に活用することができる。特に積層膜を形成する場合、蒸発源の放電を中止させることなく、遮蔽板により皮膜形成を中断させることも可能である。アーク点火機構を頻繁に動作させる必要もなく、絶縁性の高い皮膜に対しても有効である。また積層膜の層間の密着性並びにナノオーダーの積層膜の成膜制御も比較的容易に行うことができ、優れた耐摩耗性を示す被覆部材を比較的容易に得ることができる。
【0029】
従来のアーク放電式蒸発源による被覆においては、アーク点火機構が作用した直後に急激に陰極物質の温度が上昇するため、特性の異なる皮膜やマクロパーティクルの発生する確率が高く、密着性を低下させていた。この点に関しても、本発明の手段を用いることで、陰極物質のアークスポットが比較的安定した後に皮膜形成が行えるため、耐摩耗皮膜の表面平滑性、密着性能向上にも極めて有効である。
【0030】
本発明は、切削工具、金型、耐摩耗部品等の被覆部材を形成する皮膜形成方法として用いた場合に最適である。以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、適宜変更を行うことは本技術範囲に含まれるものである。また、実施方法は下記実施例に特に限定されるものではない。その組合せによっても密着性、耐摩耗性に優れた耐摩耗皮膜を得ることができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
本発明の皮膜形成方法、使用した各陰極物質、被覆方法の詳細、被覆した超硬ドリルの切削性能について述べる。図1及び図2に示した構成の装置を用いて、保持具8の一部に、脱脂洗浄した超硬合金製の外径8mm、2枚刃ドリルの基体7を配置した。保持具6、8は3回転/分で回転する。基体7は、保持具6、8の回転機構に加え、図中には示していないが、保持具8に付属し、保持具8より半径の小さい別の自転式保持具に固定されている。減圧容器5内を5×10−2Paまで排気した後、排気を継続しながら、基体7の近傍に配置した熱電対が520度になるまで、ヒーターで加熱を行った。ガス導入口2からArを導入し、圧力が0.6Paの雰囲気で、バイアス電圧を印加した。DCバイアスの設定には、基体7にバイアス電源3から−300Vの電圧を印加した。また、パルスバイアスの設定には、パルスバイアス印加用電源を別に用意し、負に印加したバイアス電圧を300V、正に印加したバイアス電圧を40Vとし、その周期を20kHzとして、負に印加したバイアス電圧の幅を80%、正に印加したバイアス電圧の幅を20%に設定した。減圧容器5から絶縁された電極19に電流を供給して放電を励起し、Arをイオン化した。同時に図1のアーク放電式蒸発源12のアーク放電を開始して、Arイオンによる基体7のボンバードメント処理を20分間行った。この時、遮蔽板22は閉じた状態にあって、放出物質を基体7から遮蔽している。次に、Arの供給を止め、Arによるボンバードメント工程を終了した。ガス導入口2からNを導入し、圧力を3Pa、バイアス電圧を−50Vに設定した。その後、アーク放電式蒸発源12の放電を停止し、別の蒸発源であるアーク放電式蒸発源27の放電を開始し、基体7に陰極物質17と導入ガス成分であるNより、アークイオンプレーティング法による窒化物皮膜を3μm被覆した。上記の実施例1の皮膜形成方法を製法1とする。ここで使用した各陰極物質、被覆条件を表1に示した。
【0032】
【表1】






















【0033】
(実施例2)
図3及び図4に示した構成の装置を用いて、予め皮膜組成が(Al55Ti45)Nの窒化物皮膜を3μm被覆し、脱脂洗浄した超硬合金製の外径8mm2枚刃ドリルを保持具8の一部に配置した。ドリルの保持具8への固定は、実施例1に準ずる。減圧容器5内を5×10−2Paまで排気した後、排気を継続しながら、基体7の近傍に配置した熱電対が520度になるまで、ヒーターで加熱を行った。ガス導入口2からArを導入し、圧力が0.6Paの雰囲気で、バイアス電圧を印加した。バイアス電圧の印加方法は、実施例1に準ずる。減圧容器5から絶縁された電極19に電流を供給して放電を励起し、Arをイオン化した。同時に図3のアーク放電式蒸発源12のアーク放電を開始して、Arイオンによる基体7のボンバードメント処理を20分間行った。この時、遮蔽板22は閉じた状態にあって、放出物質を基体7から遮蔽している。次に、Arの供給を止め、Arによるボンバードメント工程を終了した。減圧容器5にガス導入口2からArを導入し、減圧容器5内の圧力を0.3Pa、バイアス電圧を−100Vに設定した。その後、別の蒸発源であるスパッタリング方式蒸発源24の放電を開始し、基体7に陰極物質26より、スパッタリング法による耐摩耗皮膜を1μm被覆した。この時、陰極物質26による皮膜形成終了まで、陰極物質10は基体7から遮蔽された状態とした。上記の実施例2の皮膜形成方法を製法2とする。ここで使用した各陰極物質、被覆条件を表1に示した。
【0034】
(実施例3)
減圧容器内にアーク放電式蒸発源及び/又はスパッタリング方式蒸発源が複数設置された装置を用いて、保持具8の一部に、脱脂洗浄した超硬合金製の外径8mm、2枚刃ドリルの基体7を配置した。ドリルの保持具8への固定は、実施例1に準ずる。減圧容器5内を5×10−2Paまで排気した後、排気を継続しながら、基体7の近傍に配置した熱電対が520度になるまで、ヒーターで加熱を行った。減圧容器5にガス導入口2からArを導入し、圧力が0.6Paの雰囲気で、バイアス電圧を印加した。バイアス電圧の印加方法は、実施例1に準ずる。減圧容器5から絶縁された電極19に電流を供給して放電を励起し、Arをイオン化した。同時に、アーク放電式蒸発源12のアーク放電を開始し、Arイオンによる基体7のボンバードメント処理を20分間行った。この時、遮蔽板22は閉じた状態にあって、放出物質30を基体から遮蔽している。次に、Arの供給を止め、Arによるボンバードメント工程を終了した。減圧容器5にガス導入口2からNガスを導入し、減圧容器5内の圧力を3Pa、バイアス電圧を−50Vに設定した。次に、別の蒸発源であるアーク放電式蒸発源27の放電を開始した。放出物質30並びに放出物質31は遮蔽板22により夫々基体7から遮蔽された状態にある。この状態を2分間継続した。次に、一方の遮蔽版22を開いて放出物質30と導入されたNとの反応により窒化物を基体7に被覆した。この時放出物質31は遮蔽板22により基体7から遮蔽された状態にある。次に、両方の遮蔽版22を開いて放出物質30と放出物質31の両放出物質による窒化物皮膜の形成を行った。次に、一方の遮蔽版22を閉じて放出物質30を遮蔽板22により基体7から遮蔽し、放出物質31による窒化物の皮膜形成を行った。これらの一連の動作は必要に応じて、繰り返し行った。また、アーク放電式蒸発源を複数台設けた場合も本発明に含まれる。本発明例を表1中に記載した。これらアーク放電式蒸発源は何れも前面に可動式の遮蔽板22を設けており、アーク放電式蒸発源12、27と同様な動作で稼動させた。また、スパッタリング方式蒸発源と組合せた場合も本発明に含まれることから、本発明例として表1中に記載した。スパッタリング方式蒸発源との組合せの場合はArとNの混合ガスを用いた。上記の実施例3の皮膜形成方法を製法3とする。ここで使用した各陰極物質、被覆条件を表1に示した。
【0035】
(比較例13)
図1及び図2に示した構成の装置を用いて、保持具8の一部に、脱脂洗浄した超硬合金製の外径8mm、2枚刃ドリルの基体7を配置した。保持具6、8は3回転/分で回転する。ドリルの保持具8への固定は、実施例1に準ずる。減圧容器5内を5×10−2Paまで排気した後、排気を継続しながら、基体7の近傍に配置した熱電対が520度になるまで、ヒーターで加熱を行った。減圧容器5にガス導入口2からArを導入し、圧力0.6Paの雰囲気で、基体7にバイアス電源3から−300Vのバイアス電圧を印加した。減圧容器5から絶縁された電極19に電流を供給して放電を励起し、Arをイオン化した。Arイオンによる基体7のボンバードメント処理を20分間行った。この時、アーク放電式蒸発源12に電流の供給を行わず、遮蔽板22は閉じた状態にあり、陰極物質10の表面の汚染を防止した。Arによるボンバードメント工程終了後、Arの供給を止め、ガス導入口2からNを導入して、圧力を3Pa、バイアス電圧を−50Vに設定した。次に、遮蔽板22を開き、陰極物質10の放電を開始し、基体7に陰極物質10と導入ガス成分であるNより、アークイオンプレーティング法による窒化物皮膜を3μm被覆し、比較例13による皮膜形成を行った。上記の比較例13の皮膜形成方法を製法4とする。ここで使用した各陰極物質、被覆条件を表1に示した。
【0036】
(比較例14、15)
装置は、スパッタ放電式蒸発源24の前面に汚染防止を目的とした遮蔽板22、軸受け部20及び駆動部21が装備されている。この装置を用いて、予め皮膜組成が(Al55Ti45)Nの窒化物皮膜を3μm被覆し、脱脂洗浄した超硬合金製の外径8mm2枚刃ドリルを保持具8の一部に配置した。ドリルの保持具8への固定は、実施例1に準ずる。減圧容器5内を5×10−2Paまで排気した後、排気を継続しながら、基体7の近傍に配置した熱電対が520度になるまで、ヒーターで加熱を行った。ガス導入口2からArを導入し、圧力が0.6Paの雰囲気で、基体7にバイアス電源3から−300Vのバイアス電圧を印加した。減圧容器5から絶縁された電極19に電流を供給して放電を励起し、Arをイオン化した。Arイオンによる基体7のボンバードメント処理を20分間行った。この時、遮蔽板22は閉じた状態である。Arによるイオンボンバードメント工程終了後、圧力を0.3Pa、バイアス電圧を−100Vに設定した。次に、別の蒸発源であるスパッタリング方式蒸発源24の放電を開始し、遮蔽板22を開いて基体7に陰極物質26より、スパッタリング法による耐摩耗皮膜を1μm被覆し、比較例14、15による皮膜形成を行った。上記の比較例14、15の皮膜形成方法を製法5とする。ここで使用した各陰極物質、被覆条件を表1に示した。
【0037】
(従来例16)
図1及び図2に示した構成の装置を設定変更することにより、遮蔽板22、軸受け部20及び駆動部21が存在しない従来のアーク放電式イオンプレーティング装置と同等の構成とした装置を用いて皮膜成形を行った。この従来構成の装置を用いてアーク放電式蒸発源12により陰極物質10をアーク放電により放出させた。保持具8の一部に、脱脂洗浄した超硬合金製の外径8mm、2枚刃ドリルの基体7を配置した。ドリルの保持具8への固定は、実施例1に準ずる。減圧容器5内を5×10−2Paまで排気した後、排気を継続しながら、基体7の近傍に配置した熱電対が520度になるまで、ヒーターで加熱を行った。ガス導入口2からArを導入し、圧力が0.6Paの雰囲気で、基体7にバイアス電源3から−300Vのバイアス電圧を印加した。減圧容器5から絶縁された電極19に電流を供給して放電を励起し、Arをイオン化した。Arイオンによる基体7のボンバードメント処理を20分間行った。Arによるボンバードメント工程終了後、Arの供給を止め、ガス導入口2からNを導入して、圧力を3Pa、バイアス電圧を−50Vに設定した。次に、陰極物質10の放電を開始し、基体7に陰極物質10と導入ガス成分であるNより、アークイオンプレーティング法による窒化物皮膜を3μm被覆し、従来例16による皮膜形成を行った。上記の従来例16の皮膜形成方法を製法6とする。ここで使用した各陰極物質、被覆条件を表1に示した。
【0038】
上記の各皮膜形成法によって得られた2枚刃の超硬合金製被覆ドリルを用い切削試験を行った。評価はドリルの切刃コーナー部の摩耗幅が0.25mmに達した時点の穴加工数、又は切屑が分断されずに排出された時点の穴加工数、又はドリルが折れた時点の穴加工数、又は切削動力が急上昇し、穴加工ができなくなった時点の穴加工数を測定することにより評価した。その結果を表1に併記する。
【0039】
切削諸元を次に示す。
(切削条件1)
工具 :2枚刃ドリル、外径8mm
被覆基体 :超硬合金製
切削方法 :止まり穴加工
被削材 :S50C、HRC30
穴深さ :20mm
切削速度 :120m/min
送り :0.1mm/rev
切削油 :なし、乾式エアーブロー
(切削条件2)
工具 :2枚刃ドリル、外径8mm
被覆基体 :超硬合金製
切削方法 :止まり穴加工
被削材 :AC2A
穴深さ :24mm
切削速度 :150m/min
送り :0.2mm/rev
切削油 :なし、乾式エアーブロー
【0040】
表1に示す本発明例1から12は、比較例13から15、従来例16と比較して飛躍的に穴加工数が多く耐摩耗性に優れていることが明らかである。比較例13、従来例16と比べ穴加工数が多く、耐摩耗性に優れている。比較例13は、コーナー部に微小な皮膜剥離を伴う摩耗進行であったのに対し、本発明例となる試料番号1は、皮膜剥離が全く認められず、密着性に優れ、本来の耐摩耗性が得られた。このことは、被覆装置内の陰極物質表面の汚染物による影響を遮蔽板による対策だけでは回避できず、皮膜の密着性の大幅な改善には至らないことを示している。本発明例の結果よりボンバードメント工程は、遮蔽板により蒸発源の放電による放出物質を基体から遮蔽した状態で、少なくとも非金属イオンによる基体のボンバードメント処理を行い、次に皮膜形成をすることが重要であることを示している。
【0041】
本発明例2、3は、製法1により被覆した窒化物の場合を示すが、アーク放電式蒸発源の陰極物質10が本発明例1のTiとは異なり、Crの場合である。陰極物質10はTi又はCrを含有した陰極物質が好ましい。これはTi又はCrが酸素及び/又はその他の不純物元素を吸着する効果が高く、皮膜と基体との界面の不純物濃度が低下することと、導入ガスのイオン化促進効果を高めるためである。
【0042】
本発明例4は、製法1により被覆した窒化物の場合を示す。Arボンバードメント処理の際、パルスバイアス電圧でボンバードメントを実施した場合を示すが、DCバイアス電圧よりもパルスバイアス電圧が好ましいことを示す。パルスバイアス電圧とすることにより、マイクロアーキング現象が抑制され、基体表面の歪が減少して、密着強度が向上したことによる。
【0043】
本発明例5は、製法1により被覆した窒化物の場合を示し、ボンバードメント処理における導入ガス成分が、Arのみとは異なる場合を示す。Arに加えて、H又はNを混合させた方が、添加量によっては優れた耐摩耗性を示した。Arに加えて水素を添加することにより、基体のArイオンボンバードの効率を向上させることができた。これは、還元作用を高めることができ、基体表面におけるマイクロアーキングを抑制する効果に加えて、基体表面もしくは耐摩耗皮膜内に混入する酸素を防止する効果を高めるためである。更に窒素に関しては、窒素のイオン化率を高め窒化物形成促進に有効であった。
【0044】
本発明例6、7は、製法2により被覆した場合を示す。製法2は皮膜形成時に、皮膜形成に関与しない蒸発源の放電も継続し、且つ陰極物質を遮蔽した状態にして皮膜形成を行うものである。比較例14、15と比較すると、皮膜が緻密化して皮膜硬度が向上した。これは耐摩耗性に優れることを示す。製法1との組合せにおいても、更に耐摩耗性に優れることも確認された。
【0045】
本発明例8から12は、製法3により製法1及び製法2の複合化を検討した多層皮膜における場合を示す。特に耐摩耗性に優れた結果となった。特にマイクロオーダー、ナノオーダーの積層においても、皮膜界面の密着強度が向上し、極めて耐摩耗に優れる結果となった。
【符号の説明】
【0046】
1:駆動部
2:ガス導入口
3:バイアス電源
4:軸受け部
5:減圧容器
6:下部保持具
7:基体
8:上部保持具
9:回転方向
10:陰極物質
11:アーク放電用電源
12:アーク放電式蒸発源
13:アーク放電式蒸発源固定用絶縁物
14:アーク点火機構軸受け部
15:アーク点火機構
16:排気口
17:陰極物質
18:電極固定用絶縁物
19:電極
20:遮蔽板軸受け部
21:遮蔽板駆動部
22:遮蔽板
24:スパッタリング方式蒸発源
25:スパッタリング放電用電源
26:陰極物質
27:別のアーク放電式蒸発源
30:陰極物質10の放出物質
31:陰極物質17の放出物質
33:陰極物質26の放出物質
37:基体7の回転軸
38:イオン化蒸発源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蒸発源に陰極物質を装着し、該蒸発源の前面に遮蔽板を設け、減圧容器内でプラズマを発生させて基体の表面に陰極物質材料の皮膜を形成するようにした装置を用いて、少なくとも該基体表面にボンバードメント処理を行うボンバードメント工程と、皮膜を形成する被覆工程とから構成され、
該ボンバードメント工程は、該蒸発源の放電による放出物質を放出させながら、該放出された放出物質を該遮蔽板により該基体から遮蔽した状態として、少なくとも非金属イオンによる該基体のボンバードメント処理を行うことにより、前記基体及び前記減圧容器内に残存する不純物成分を前記陰極物質の前方で前記放出物質とともに吸着するようにしたことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の皮膜形成方法において、該被覆工程では、該蒸発源の放電による放出物質を該遮蔽板により該基体から遮蔽した状態として、該蒸発源とは別の蒸発源により該基体表面に皮膜の形成を行うことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の皮膜形成方法において、該被覆工程では、該遮蔽板を閉じた状態にして該蒸発源の放電による放出物質を基体から遮蔽した状態を維持する第1の工程と、次に該遮蔽板を開いた状態として皮膜の形成を行う第2の工程とからなることを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の皮膜形成方法において、該遮蔽板は開閉動作をするための遮蔽板駆動部を備え、該被覆工程では該遮蔽板を開いた状態とし、該蒸発源と、該別の蒸発源とにより基体表面に耐摩耗皮膜の形成を行うことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の皮膜形成方法において、複数の蒸発源の遮蔽板開閉動作によって被覆が交互又は同時に行われることを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の皮膜形成方法において、基体に印加するバイアス電圧がパルスバイアス電圧であることを特徴とする皮膜形成方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−159498(P2010−159498A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78066(P2010−78066)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【分割の表示】特願2004−185747(P2004−185747)の分割
【原出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】