説明

皮革材料の製造方法およびその皮革材料

【課題】動物由来の原皮から簡単にフォギングの抑制ができる皮革材料の製造方法およびその皮革材料を提供する。
【解決手段】揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物に、動物由来の原皮になめし加工が施された革を、曝露する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、革から発生する揮発物による自動車等のウインドウガラスの曇り(フォギング)の発生に対して抑制効果を奏する、動物由来の原皮を用いた皮革材料の製造方法およびその皮革材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高級志向の高まりにより、自動車のシートやインストルメントパネルなどの内装品の表皮材として、動物由来の原皮から製造された革材が使用されてきている。
【0003】
自動車においては、炎天下にさらされるなどして、車内温度が通常の居住空間に比べて極めて高くなることがある。このような高温高湿下では、前記革材に含まれるなめし剤や加脂剤等の酸化・分解・蒸発により、揮発物が発生する。この揮発物又は揮発物の反応物はガラス表面で冷却されて凝縮しウインドウガラスに付着し、ウインドウガラスの室内面が曇ってしまう、フォギングという現象の原因となる。
【0004】
このため、例えば、下記特許文献1には、フォギングの防止方法として、原皮に合成タンニンによるなめし処理を行い、塗装後に色差ΔEが0.5以下となるように加熱処理された皮革材料が記載されている。また、合成皮革も含めたフォギングの防止方法としては、揮発物発生の抑制のために、特許文献2や3のように、染料や加脂剤組成を変更する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−070487号公報
【特許文献2】特開2007−262627号公報
【特許文献3】特表2005−502458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3の方法は、フォギングの抑制に寄与するが、特定の製造工程における処理によるフォギングの抑制のため、汎用的に使用できる方法ではなかった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、製造工程を特定することなく、最終製品皮革であっても、簡単にフォギングの抑制が可能な皮革材料の製造方法およびその皮革材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、皮革に含まれる酸性物質を中和・安定化させることで、フォギングの抑制を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、第1に本発明は皮革材料の製造方法の発明であり、揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物に、動物由来の原皮になめし加工が施された革を、曝露することを特徴とする皮革材料の製造方法である。前記揮発物の曝露は、70℃〜90℃の温度下で揮発性アミンを揮発させることにより揮発物を発生させ、動物由来の原皮になめし加工が施された革に、該揮発物が0.139〜13.9mMol/m接触させるようにすると、革独自の風合いを守ることができるので、より好ましい。揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物に、前記革を曝露するタイミングは、なめし加工が施された後の革であればいつでもよいが、なめし剤、加脂剤、染料によるフォギングへの影響を考えると、再なめし・染色・加脂が施された後の革であることが好ましく、酸化防止剤など他の薬剤によるフォギングへの影響を考えると、仕上げ加工が施された後の革であることがより好ましい。
【0010】
第2に本発明は皮革材料の発明であり、上記皮革材料の製造方法により製造されることを特徴とする皮革材料である。この皮革材料は、自動車内装材に使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮革材料の製造方法によれば、フォギング特性に優れた皮革材料を製造することができる。また、本発明の皮革材料によれば、革から発生する揮発物によるフォギングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の皮革材料の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】フォギング特性を評価する時に用いた実験装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。図1には従来の皮革材料の製造方法の代表的な一例を示す。製造する皮革材料によって、工程順の入れ替わりや、工程の省略、工程の追加が行われることもあるが、一般的な革材は以下のように、図1A〜Mの工程で製造される。A.皮水洗い・水付け工程では、原皮の塩分や汚れを水で洗い流し、それと同時に皮に十分な水分を戻す。次にB.石灰漬け工程では、石灰乳に皮を漬けることで、毛・脂肪を分解し皮を膨らませる。C.フレッシング・トリミング工程では、皮の内面および表面についた余分な脂肪や不要物を除去し、縁周りを成形する。D.脱灰・酵解工程では、なめし処理工程をスムーズに行うために、皮から石灰を抜き、中和し銀面を平滑にする。E.なめし工程では、タンニンなめし剤やクロムなめし剤等で処理し、皮に可塑性や耐久性を付与することにより、皮が革になる。F.水絞り工程では、革に含まれたなめし剤を洗浄した後に、余分な水分を除去し、革を伸ばす。G.シェービング工程では、用途に応じて革を削って、最終的な厚みにする。H.再なめし・染色・加脂工程では、なめし剤、柔軟剤、染色剤、加脂剤等を処理し、革の柔らかさの調整、用途に応じたなめし具合に調整し、目的の色に染色する。I.セッター工程では、皮を伸ばすと同時に余分な水分を除去する。J.味取り・乾燥工程では、革を伸ばした状態で余分な水分を乾燥させるとともに、乾燥状態にある革に少量の水を塗布することにより味付けを行う。K.バイブレーション工程では、足先・縁周り等の硬さをとり、革に柔軟性を与える。L.塗装工程では、下塗り、トップコートを行い、外観の色とつやの強調、耐久性を向上させる。M.アイロン・仕上げ工程では、ポリシング、自動スプレー等で最終的な仕上げが行われ、最終製品革が製造される。色々な模様をつける型押しも行われ、光沢感を出すためにアイロンを使用する場合もある。
【0014】
本発明の皮革材料の製造方法は、揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物に、前記工程Eより後のどこかの工程間の革を曝露する工程を有する。
【0015】
使用される動物由来の原皮は牛、豚、馬、鹿、羊など、如何なる動物のものでもよい。また、原皮に工程Eのなめしが行われれば、図1に記載の工程は省略しても他の工程が加えられてもよい。皮が革となる工程Eの後であれば、揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物に、革を曝露するタイミングはいつでも良いが、なめし剤、加脂剤、染料などによるフォギングへの影響から、工程Hの後であることが好ましく、例えば、工程Hと工程Iの間、工程IとJの間、工程JとKの間で行われる。また、他の酸化防止剤などの薬剤によるフォギングへの影響から、揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物には、全ての工程が終わった工程Mの後の最終製品革を曝露することがより好ましい。
【0016】
使用される揮発性アミンは、従来知られている揮発性アミンであれば固体のものでも液体のものでもよく、トリエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ビス2ジメチルアミノエチルエーテル、ベンジルジメチルアミン、テトラメチルブタンジアミン、2−メチル−トリエチレンジアミン、ジブチルチンアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマレエート、ジブチルチンジ−2−エチル−ヘキソエート、ジラウリルチンジアセテート、ジオクチルチンジアセテートなど、如何なるものでもよい。それぞれの揮発性アミンは、そのまま使用しても、水溶液にして使用してもよい。揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物に革を曝露する方法は、対象とする革に該揮発物が均一に処理されるようにできれば如何なる方法でもよく、揮発性アミン又は揮発性アミン水溶液を静置した恒温機内に革を曝露する方法などが挙げられる。その際の温度や揮発性アミンの量は特に限定されないが、フォギング特性に優れていて、かつ革独自の風合いを守るためには、70〜90℃の温度下で揮発性アミンの揮発物を発生させ、革に該揮発物が0.139〜13.9mMol/m接触させることが好ましい。なお、革に接触した揮発性アミンの接触濃度は、該温度下に設置した揮発性アミンの減少量全てが揮発物となって革に接触したものとして計算される。
【0017】
本発明の皮革材料は上記した皮革材料の製造方法により製造される。この皮革材料は、自動車の内装材に使用することができる。例えば、インストルメントパネル、シート、ドアトリム、ハンドルカバーなどに利用される。また、本発明の皮革材料は、自動車の内装材だけでなく、靴やバッグにも使用することができる。フォギングの原因となる革から発生する揮発物は、革から発生する臭いの原因にもなっているため、本製造方法で製造された革製品は、臭いの低減も可能であると考えられる。
【実施例】
【0018】
[実施例1]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)を70℃にした恒温機内(DX302 ヤマト科学(株)製)に静置し、トリアチレンジアミン揮発物を発生させ、100cm×100cmの最終製品革であるセミアニリン革に、トリエチレンジアミンの揮発物が0.139mMol/m接触するように1時間曝露させた。
曝露後のテストピースのフォギング性を以下の通り評価した。図2のように、直径80mm、高さ40mmに切り出したシート用ウレタンパッド1の上に直径80mmに切り出したテストピースの革2を設置し、円柱状のガラス容器3の中に入れ、ガラス容器3の上面に測定用ガラス4(100mm×100mm×3mm)を置き、ガラス容器3内を密閉させる。この状態で、SAE J 1756規定のガラス霞み促進試験装置(Haake社製)5を用いて、80℃で72時間保持させる。保持後の測定用ガラスの霞度を光沢度測定装置(DRLANGE社製)で測定する。
また、曝露後のテストピースは、触感による官能評価により、風合いの評価も行った。曝露前同等レベルの触感を有する革の状態を○、曝露前に比べて触感が劣る革の状態を×と判断した。
【0019】
[実施例2]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)の接触濃度を1.39mMol/mとなるようにした以外は実施例1と同様にして評価した。
【0020】
[実施例3]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)の接触濃度を13.9mMol/mとなるようにした以外は実施例1と同様にして評価した。
【0021】
[実施例4]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)の接触濃度を1.39mMol/mとし、恒温機の設定温度を80℃とした以外は実施例1と同様にして評価した。
【0022】
[実施例5]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)の接触濃度を1.39mMol/mとなるようにし、恒温機の設定温度を90℃とした以外は実施例1と同様にして評価した。
【0023】
[実施例6]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)の接触濃度を1.39mMol/mとなるようにし、恒温機の設定温度を100℃とした以外は実施例1と同様にして評価した。
【0024】
[実施例7]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)の接触濃度を0.0139mMol/mとなるようにした以外は実施例1と同様にして評価した。
【0025】
[実施例8]
トリエチレンジアミン(東京化成工業(株)製)の接触濃度を139mMol/mとなるようにした以外は実施例1と同様にして評価した。
【0026】
[比較例1]
トリエチレンジアミンの揮発物に曝露することも、恒温機内で加熱する処理も行わずに、実施例1と同様の評価を行った。
【0027】
実施例1〜8、比較例1の結果を表1に示す。


【表1】

【0028】
表1より、トリエチレンジアミンの揮発物に革を曝露することにより、フォギング特性に優れた皮革材料を製造することができることが分かる。また、フォギング特性に優れると同時に、革独自の風合いを両立できる皮革材料を製造するためには、揮発物の曝露が、70〜90℃の温度下で揮発性アミンを揮発させることにより揮発物を発生させ、動物由来の原皮になめし加工が施された革に、該揮発物が0.139〜13.9mMol/m接触させることにより行われることが好ましいことが分かる。

【符号の説明】
【0029】
1…ウレタンパッド 2…テストピースの革 3…ガラス容器 4…測定用ガラス 5…ガラス霞み促進試験装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性アミンを揮発させることにより得られた揮発物に、動物由来の原皮になめし加工が施された革を、曝露することを特徴とする皮革材料の製造方法。
【請求項2】
前記揮発物の曝露が、70〜90℃の温度下で揮発性アミンを揮発させることにより、揮発物を発生させ、動物由来の原皮になめし加工が施された革に、該揮発物が0.139〜13.9mMol/m接触させることを特徴とする請求項1記載の皮革材料の製造方法。
【請求項3】
動物由来の原皮になめし加工が施された後に、さらに再なめし加工・染色・加脂が施されている革を曝露することを特徴とする請求項1又は2記載の皮革材料の製造方法。
【請求項4】
動物由来の原皮になめし加工が施された後に、さらに再なめし加工・染色が施され、仕上げ加工が施された革を曝露することを特徴とする請求項1又は2記載の皮革材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法により製造された皮革材料。
【請求項6】
請求項5記載の皮革材料を用いた自動車内装材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213955(P2011−213955A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85502(P2010−85502)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】