説明

盛土の補強構造

【課題】二重の地中鋼製壁体で盛土を補強する構造において、土砂の流出を抑制しつつ、二重の鋼矢板壁の間を常時排水可能とすることができる盛土の補強構造を提供する。
【解決手段】連続する盛土1の略天端1cの範囲内に盛土の連続方向に沿って少なくとも二列に地中鋼製壁体2,3が設けられている。地中鋼製壁体2,3が、鋼矢板4を連結して構成されている。一方の前記地中鋼製壁体3には、二列の地中鋼製壁体2,3で用いられる鋼矢板4に連結されて地中鋼製壁体3の一部を構成するとともに鋼矢板4より短い短尺鋼矢板8が含まれている。短尺鋼矢板8は例えば10m〜20m程度に一つ配置される。短尺鋼矢板8の下端の高さ位置が盛土1の下端の高さ位置もしくはその近傍となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川等の堤防、道路・鉄道盛土等の河川、道路、鉄道等に沿って長く延在する盛土の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では大地震が頻繁に発生し、さらに、近い将来幾つかの大地震の到来が予測されており、河川堤防などの盛土構造物では、地震により基礎地盤が液状化することによる堤体の亀裂や沈下などの被害が懸念される。
【0003】
盛土構造物の地震対策としては、盛土法尻(法面下端部)を地盤改良や鋼矢板で締切る補強工法が適用されることが多いが、想定外の集中豪雨などで急激に水位が上昇することによる浸透破壊や、越水による破堤を防止する目的で、堤体内に鋼矢板を設置し複合構造とする研究が行われている
【0004】
このような工法として、堤体(盛土)内の左右の法肩部(法面上端部)に、それぞれ、堤体の連続方向に沿って鋼矢板を打設することにより、二重の鋼矢板壁を設置し、左右の鋼矢板壁の頭部をタイロッドで結合するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この工法によれば、地震時に堤体の沈下を抑制し、さらに、遮水性に優れる鋼矢板が堤体高さを確保することにより、高水時の浸透破壊と越水による破堤を防止でき、盛土構造物の補強として効果的な工法である。
【0005】
このような盛土、河川側の水は、二重の鋼矢板壁の下端を廻り込むように堤内側へ浸透するが、雨水など二重の鋼矢板壁内に流入する水は排水されず貯留することが懸念される。そこで、二重の鋼矢板壁の少なくとも片方の鋼矢板に透水性を持たせることで、二重の鋼矢板壁内の水を常時排水することを可能とする堤防の補強構造が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−13451号公報
【特許文献2】特開2010−24745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献2では、鋼矢板壁に透水性を持たせる構造として以下のような様々な提案がなされている。例えば、鋼矢板壁に透水性を持たせる構成として、孔の開いた透水性鋼矢板を用いる例が示されている。また、鋼矢板壁の上部だけ継手の無い鋼矢板を用いて鋼矢板壁を設けることで、鋼矢板壁上部では、鋼矢板同士の連結部に間隙ができ、この間隙により鋼矢板壁に透水性を持たせる例が示されている。また、鋼矢板の全長に渡って継手の無い構造とし、鋼矢板どうしの接合部では、鋼矢板どうしが略接触した状態であるが、止水性が確保できない構造とし、鋼矢板壁全体としては透水性を有する構造となる例が示されている。
【0008】
また、二重の鋼矢板壁のうちの一方の鋼矢板壁において、鋼矢板どうしを連結せずに、互いに間隔をあけて配置し、各鋼矢板を他方の鋼矢板壁に水平な連結部材で連結することにより、高い透水性を有する構造とする例が示されている。また、同様に二重の鋼矢板壁のうちの一方の鋼矢板壁において、鋼矢板どうしを連結せずに、互いに間隔をあけて配置し、各鋼矢板を、堤防の長さ方向に沿って水平に配置されたH形鋼で固定することにより、高い透水性を有する構造となる例が示されている。
【0009】
ここで、透水性鋼矢板は、鋼矢板に穴あけ加工を施すことにより、コストが高くなる。
また、鋼矢板の上部側に堤防の長さ方向に沿った間隙を有する構造では、地震時および越水時に間隙から盛土内の土砂が流出する虞がある。
また、隣り合う鋼矢板が連結されていない状態や、隣り合う鋼矢板の上部が連結されていない状態では、連結した場合に比較して地震時の抵抗力の低下を招いてしまう。
【0010】
本発明は、二重の鋼矢板壁等の地中鋼製壁体で盛土を補強する構造において、土砂の流出を抑制しつつ、二重の鋼矢板壁の間を常時排水可能とすることができる盛土の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の盛土の補強構造は、連続する盛土の略天端の範囲内に盛土の連続方向に沿って二列に地中鋼製壁体が設けられ、前記地中鋼製壁体は鋼矢板もしくは鋼管矢板である矢板を連結して構成され、少なくとも一列の前記地中鋼製壁体において、当該地中鋼製壁体を構成する前記矢板の一部として、他の矢板より短い矢板(以下、この矢板を「短尺矢板」とも称する。)が含まれていることを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の発明においては、たとえば、支持地盤まで根入れされる長い矢板(鋼矢板および鋼管矢板)からなる鋼(管)矢板壁(地中鋼製壁体)において、壁体を構成する矢板の一部が短尺矢板であることにより、短尺矢板の左右に配置される通常の矢板の間に間隙ができることになり、この部分で透水性を確保し、二列の地中鋼製壁体の間の地盤の排水性を確保することができる。
【0013】
この場合に、矢板と短尺矢板の頭部(上端部)が略同じ位置となるので、地中鋼製壁体の下部に間隙ができることになり、盛土部分で地中鋼製壁体に間隙がある場合のような土砂の流出は起こり難い。特に越水による影響を受け難い。したがって、土砂の流出を防止しつつ二列の地中鋼製壁体間の排水性を確保することができる。また、短尺矢板を含む全ての矢板が連結されており、短尺矢板が一部に用いられていても、地震や洪水等に対する耐力を保持することができる。
【0014】
請求項2に記載の盛土の補強構造は、請求項1に記載の発明において、前記盛土は河川等の堤防となるものであって、河川等から遠い側の地中鋼製壁体を構成する矢板の一部として他の矢板より短い矢板が含まれていることを特徴とする

ここで、河川等の堤防とは、河川の堤防はもちろん、貯水池、湖沼、海岸等の堤防も含むものとする。
【0015】
請求項2の発明においては、河川等の堤防において、二列の地中鋼製壁体間の排水を河川等と反対側に向けて行うことができる。なお、あわせて、河川に近い側も短尺矢板を適用した地中鋼製壁体としてもよいが、河川等からの入水があるため,河川等から遠い側よりも排水効果が小さく、また短尺矢板を多く使うと河川等の入水に対する地中鋼製壁体としての遮水効果が薄れる。そのため、河川等に近い側の地中鋼製壁体には、短尺矢板を用いなくてもよい。
【0016】
請求項3に記載の盛土の補強構造は、請求項1または2に記載の発明において、前記他の矢板より短い矢板の下端の高さ位置が盛土の下端の高さ位置もしくはその近傍となっていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明においては、短尺矢板の下端位置が盛土の下端の高さ位置もしくはその近傍となっているので、盛土部分の2列の地中鋼製壁体の間に溜まる水を円滑に排水することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、地中鋼製壁体を構成する通常の長さの矢板に混ぜて短尺矢板が用いられるので、短尺矢板を挟むように配置される矢板どうしの間で、かつ、短尺矢板の下側に間隙ができ、この間隙を用いて二列の地中鋼製壁体の間に溜まる水を排水することができる。また、鋼矢板壁の下部側に間隙ができることから、盛土の高さ位置に広い上下範囲で間隙が形成される場合よりも、地震時や洪水時に盛土の土砂の流出を抑制できる。以上のことから盛土の土砂の流出を抑制しつつ、二列の地中鋼製壁体の間の排水を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る盛土の補強構造を示す概略断面図である。
【図2】前記盛土の補強構造に用いられる透水性を有する地中鋼製壁体を示す概略図である。
【図3】(a)は前記盛土の補強構造の概略断面図であり、(b)は前記地中鋼製壁体の概略図である。
【図4】(a)は前記盛土の補強構造の変形例の概略断面図であり、(b)は前記地中鋼製壁体の変形例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1から図3に示すように、この実施形態の盛土の補強構造は、例えば、河川の堤防、道路・鉄道盛土等の盛土を補強するためのものであるが、河川の堤防を例に取って説明する。河川の堤防としての盛土1の左右には法面1aが形成されている。また、盛土1の図中盛土1の左側が河川7となる。
この盛土1の補強構造においては、盛土1の略天端1cの範囲内に鋼矢板4(鋼管矢板を含む)を連結した鋼矢板壁からなる地中鋼製壁体2、3が設置されている。なお、略天端1cの範囲内には、天端1cより少し外側となる法面1aの上端部である法肩1b部分も含まれる。
【0021】
地中鋼製壁体2、3を構成する鋼矢板4は盛土1と、その直下の基礎地盤5を貫通し、支持地盤に根入れされる深さを持ち、盛土1の連続方向(長さ方向)に沿って連続的に設置されている。地中鋼製壁体2、3の頭部(上端部)は、盛土1の天端1cの高さ付近となる高さに位置している。この盛土1の補強構造においては、盛土1中に、二列に設けられた地中鋼製壁体2,3で締め切られた地盤からなる構造骨格部6が形成されている。
また、二列の地中鋼製壁体2,3の上端部間には、タイロッド9等の連結部材が架け渡されて、その両端部がそれぞれ地中鋼製壁体2,3に固定されている。また、タイロッド9は、盛土1の長さ方向に間隔をあけて複数配置されている。なお、連結部材を設けない構成としてもよい。
【0022】
この盛土の補強構造において、二列の地中鋼製壁体2、3の間に雨水等の水が溜まるのを防止するために、二列の地中鋼製壁体2、3のうちの河川7から遠い側(堤防の内側)の一方の地中鋼製壁体3を透水性を有するものとしている。
また、一方の地中鋼製壁体3には、上述の支持地盤まで根入れされる長さの鋼矢板4に加えて盛土1の高さ(下端(地表面)から天端まで)とほぼ同じ長さの短い鋼矢板として短尺鋼矢板8が用いられている。
【0023】
短尺鋼矢板8を含む地中鋼製壁体3は、各短尺鋼矢板8が間隔をあけて配置され、これら短尺鋼矢板8どうしの間に複数本の鋼矢板4が配置されている。すなわち、鋼矢板4からなる鋼矢板壁において、例えば、10m〜20mおきに鋼矢板4に代えて短尺鋼矢板8が配置されている。また、鋼矢板4は、短尺鋼矢板8を含めてそれぞれ一列に継手で連結されて鋼矢板壁としての地中鋼製壁体3を構成するものであり、この地中鋼製壁体3において、短尺鋼矢板8は左右の鋼矢板4に連結されている。
【0024】
なお、短尺鋼矢板8の配置間隔が狭くなると、例えば、10m程度より狭いと、地中鋼製壁体3の地震時の抵抗力の低下を招く虞がある。すなわち、地中鋼製壁体3に含まれる短尺鋼矢板8の個数が多くなると、地震等による外力に対する抵抗力が減少する虞がある。また、短尺鋼矢板8の間隔が広くなると、例えば、20m程度より広いと、広い範囲の水の排水による流れが短尺鋼矢板8の部分に集中することになり、盛土1の浸透破壊が生じる懸念がある。
但し、鋼矢板4の剛性や鋼矢板4および短尺鋼矢板8の根入れ長さや基礎地盤および支持地盤の状況によっても、適切な短尺鋼矢板8の間隔が変化する可能性があり、必ずしも10mから20mが適切な間隔とはいえず、それより短い範囲や長い範囲が適切な間隔となる可能性がある。
【0025】
この実施形態においては、盛土1の下側の盛土1を支持している基礎地盤5の透水性が盛土1の透水性よりかなり悪い状況を想定したもので、短尺鋼矢板8の下端の高さ位置が盛土1の下端の高さ位置hより少し高く設定されている。
短尺鋼矢板8の下端が、基礎地盤5より高く、必要な透水性を見込める盛土1の下端より少し上に配置されているので、図3(a)に示すように短尺鋼矢板8の下端より下で、基礎地盤5より上の盛土1下端部からの排水が可能となる。
【0026】
図1の矢印に示すように、この排水の流れと同様に地震時や洪水時に盛土1の土砂の一部が短尺鋼矢板8の下端から流出することが懸念されるが、盛土1の高さの多くの部分を含むように地中鋼製壁体に間隙がある場合に比較して、流出する土砂の量を少ないものとすることができる。また、この場合に短尺鋼矢板8の配置間隔を広くすることで、流出する土砂量の低減を図ることができる。
ここで、基礎地盤5の透水性が盛土の透水性に比べてそれほど悪くない状況、すなわち、基礎地盤5の透水性が比較的高く、盛土1側に染み込んだ水を基礎地盤5を通じて排水可能ならば、図4(a)、(b)に示すように、短尺鋼矢板8の下端の高さ位置を盛土1の下端より低い位置に配置することが好ましい。
【0027】
この場合に、基礎地盤5にある程度の透水性が見込めることから、短尺鋼矢板8により形成される間隙の上端の高さ位置が盛土1の下端部より低くても、二列の地中鋼製壁体2,3の間に溜まる雨水を排水可能となるとともに、盛土1部分の土砂の流出を確実に防止することが可能となる。
以上のように短尺鋼矢板8の下端位置は、基礎地盤5の透水性に基づいて決めることが好ましく、基礎地盤5の透水性が盛土1よりかなり低い場合には、短尺鋼矢板8の下端の高さ位置を盛土1の下端(基礎地盤5の上面)より少し高く設定し、基礎地盤5の透水性が盛土1の透水性に対してそれほど悪くない場合に、盛土1の下端より低く設定する。
これにより、地震時や洪水時の盛土1の土砂の流出量のさらなる低減を図ることができる。
【0028】
以上のような盛土の補強構造においては、地中鋼製壁体3に排水のための間隙を形成するものとしても、盛土1の土砂の流出を抑制することができるので、盛土1の土砂の流出を抑制しつつ二列の地中鋼製壁体3内の排水性を高めることができる。
また、通常の鋼矢板4に加えて短尺鋼矢板8が用いられることになるが、基本的に長さの違い以外は、鋼矢板4と短尺鋼矢板8は同じ鋼矢板であり、短尺鋼矢板8を製造するのに、鋼矢板4より製造コストが高くなることはない。したがって、透水孔を有する透水性鋼矢板を用いる場合よりもコストの低減を図ることができる。
【0029】
また、通常の鋼矢板壁に対して、この実施形態の鋼矢板壁は、鋼矢板4の一部を短尺鋼矢板8に代えた構成であり、短尺鋼矢板8を使用する数だけ、鋼矢板4の重量から短尺鋼矢板8の重量を差し引いた鋼材の重量が減少することになる。これにより鋼材費や施工費のコストダウンを図ることができる。
【0030】
また、地中鋼製壁体2に用いられる鋼矢板4および短尺鋼矢板8は、U形鋼矢板、ハット形鋼矢板、鋼管矢板、Z形鋼矢板等を用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 盛土
1c 天端
2 地中鋼製壁体
3 地中鋼製壁体
4 鋼矢板(矢板)
8 短尺鋼矢板(他の矢板より短い矢板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する盛土の略天端の範囲内に盛土の連続方向に沿って二列に地中鋼製壁体が設けられ、
前記地中鋼製壁体は鋼矢板もしくは鋼管矢板である矢板を連結して構成され、
少なくとも一列の前記地中鋼製壁体において、当該地中鋼製壁体を構成する前記矢板の一部として、他の矢板より短い矢板が含まれていることを特徴とする盛土の補強構造。
【請求項2】
前記盛土は河川等の堤防となるものであって、
河川等から遠い側の前記地中鋼製壁体を構成する前記矢板の一部として他の矢板より短い矢板が含まれていることを特徴とする請求項1の盛土の補強構造。
【請求項3】
前記他の矢板より短い矢板の下端の高さ位置が盛土の下端の高さ位置もしくはその近傍となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の盛土の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214252(P2011−214252A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81341(P2010−81341)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】