説明

目標識別装置

【課題】多偏波観測により信号の次元を稼ぐことで目標識別性能の向上を図ることができる目標識別装置を得る。
【解決手段】複数の偏波チャネルで送受信を行い、多偏波レーダ画像を生成する多偏波レーダ画像取得手段1と、多偏波レーダ画像の各画素について全電力を算出して全電力画像を出力する全電力算出手段2と、全電力画像に対して閾値処理を適用して処理対象領域を抽出する第一閾値手段3と、抽出された領域に含まれる画素に対して近傍の領域から共分散行列の推定値を算出する共分散行列推定手段4と、共分散行列の固有値分解を行い、ポラリメトリックエントロピーとαパラメータを算出するエントロピー・αパラメータ算出手段5と、ポラリメトリックエントロピーとαパラメータ及び算出された全電力の値に対して識別判定を行う第二閾値手段6とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小目標の検出・識別を行う多偏波レーダを用いた目標識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多偏波レーダを用いた目標の識別方法に関しては、例えば非特許文献1に記載のようなものがある。この技術では、航空機や衛星に搭載した多偏波(ポラリメトリック)合成開口レーダによって観測された地表面の多偏波合成開口レーダ画像を用いて、土地被覆の分類を実施する技術について開示されている。特に、偏波特性のランダム性を示す指標であるエントロピーや、各画素の主たる偏波特性の指標であるαパラメータを用いた土地被覆分類方式に関する技術が開示されている。
【0003】
【非特許文献1】Koji KIMURA, Yoshio YAMAGUCHI, Hiroyoshi YAMADA, "Unsupervised Land Cover Classification Using H/α/TP Space Applied to POLSAR Image Analysis,"IEICE TRANSACTIONS on Communications, Vol. E87-B, No.6, pp. 1639-1647
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ミリ波レーダなどのアクティブセンサを用いて遠方の小目標物を識別する場合、送信帯域の制限や送受信アンテナのサイズの制限などにより、識別するために十分な分解能を得ることは困難である。
【0005】
この発明は上述した点に鑑みてなされたもので、多偏波観測により信号の次元を稼ぐことにより目標識別性能の向上を図ることができる目標識別装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る目標識別装置は、複数の偏波チャネルで送受信を行い、多偏波レーダ画像を生成する多偏波レーダ画像取得手段と、前記多偏波レーダ画像取得手段で得られる多偏波レーダ画像の各画素について全電力を算出して全電力画像を出力する全電力算出手段と、前記全電力算出手段により得られた全電力画像に対して閾値処理を適用して処理対象領域を抽出する第一閾値手段と、前記第一閾値手段により抽出された領域に含まれる画素に対して近傍の領域から共分散行列の推定値を算出する共分散行列推定手段と、前記共分散行列推定手段により算出された共分散行列の固有値分解を行い、ポラリメトリックエントロピーとαパラメータを算出するエントロピー・αパラメータ算出手段と、前記エントロピー・αパラメータ算出手段により算出されたポラリメトリックエントロピーとαパラメータ及び前記全電力算出手段により算出された全電力の値に対して識別判定を行う第二閾値手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、多偏波観測により信号の次元を稼ぐことで、目標識別性能の向上を図ることができ、特に銃器などの危険物に対し特徴的な偏波特性を利用して検出・識別性能の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による目標識別装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す目標識別装置は、複数の偏波チャネルで送受信を行い、多偏波レーダ画像を生成する多偏波レーダ画像取得手段1と、多偏波レーダ画像取得手段1で得られる多偏波レーダ画像の各画素について全電力を算出して全電力画像を出力する全電力算出手段2と、全電力算出手段2により得られた全電力画像に対して閾値処理を適用して処理対象領域を抽出する第一閾値手段3と、第一閾値手段3により抽出された領域に含まれる画素に対して近傍の領域から共分散行列の推定値を算出する共分散行列推定手段4と、共分散行列推定手段4により算出された共分散行列の固有値分解を行い、ポラリメトリックエントロピーとαパラメータを算出するエントロピー・αパラメータ算出手段5と、エントロピー・αパラメータ算出手段5により算出されたポラリメトリックエントロピーとαパラメータ及び全電力算出手段2により算出された全電力の値に対して識別判定を行う第二閾値手段6と、予め多偏波レーダ画像データを格納してなる多偏波レーダ画像データベース8と、多偏波レーダ画像データベース8に蓄えられているデータを用いて第二閾値手段6に与える閾値を設定する閾値設定手段7と、第二閾値手段6において識別された結果を表示する表示手段9とを備えている。
【0009】
図2は、図1に示す多偏波レーダ画像取得手段1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、多偏波レーダ画像取得手段1は、パルス信号を生成する送信機(送信手段)101と、送受切換器102と、偏波切換器103と、送信機101からのパルス信号を送受切換器102及び偏波切換器103を介して入力し空間に放射すると共に観測対象によって散乱された散乱波を受信する第1偏波送受信アンテナ104及び第2偏波送受信アンテナ105と、第1偏波送受信アンテナ104及び第2偏波送受信アンテナ105が受信した散乱波の受信信号を偏波切換器103及び送受切換器2を介して受信する受信機(受信手段)106と、受信機106で受信処理された受信信号を一時保存する受信偏波信号記憶部107と、受信偏波信号記憶部107に記憶された受信信号に基づいて合成開口の処理などにより高分解能のレーダ画像を再生する多偏波レーダ画像再生手段108とを有する。
【0010】
以下、図1及び図2、図2に示す多偏波レーダ画像取得手段1の動作を説明する図3を用いて本実施の形態1による目標識別装置の動作を説明する。
【0011】
まず、図2を用いて、多偏波レーダ画像取得手段1の動作について説明する。送信機101で生成されたパルス信号は、送受切換器102を介して偏波切換器103に送られる。偏波切換器103は、第1偏波送受信アンテナ104を駆動することにより、そのパルス信号を第1偏波送受信アンテナ104から空間に放射させる。空間に放射されたパルス信号は観測対象によって散乱される。偏波切換器103は、第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105の双方を駆動し、観測対象によって散乱された散乱波を各アンテナでそれぞれ受信する。
【0012】
ここで、第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105の偏波特性は互いに直交する関係を有する。なお、第1偏波送受信アンテナ104および第2偏波送受信アンテナ105における偏波特性が直交する組み合わせとして、例えば、垂直偏波と水平偏波の組み合わせや、右旋円偏波と左旋円偏波の組み合わせなどが考えられる。
【0013】
観測対象からの散乱波の各受信信号のそれぞれは、送受切換器2を介して受信機106に送られる。受信機106において、第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105が受信した散乱波の受信信号のそれぞれに対して、位相検波処理とA/D変換処理を実施し、それぞれの受信信号の振幅と位相を示すデジタル受信信号を出力する。受信機106から出力された受信信号は、受信偏波信号記憶部107に送られ、一時保存される。
【0014】
次いで、送信機101で再び生成したパルス信号を、送受切換器102を介して偏波切換器103に送り、今度はこれを第2偏波送受信アンテナ105から観測対象に照射する。観測対象によって散乱された散乱波を第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105において受信し、散乱波の受信信号に対して、受信機106で同様の処理を繰り返すことにより、受信信号を得る。この受信信号も受信偏波信号記憶部107に送られ、一時保存される。
【0015】
なお、ここで、第1偏波チャネルの受信信号は、第1偏波送受信アンテナ104で送信して第1偏波送受信アンテナ104で受信した信号とし、第2偏波チャネルの受信信号は、第1偏波送受信アンテナ104で送信して第2偏波送受信アンテナ105で受信した信号として定義する。また、第3偏波チャネルの受信信号は、第2偏波送受信アンテナ105で送信して第2偏波送受信アンテナ105で受信した信号とし、第4偏波チャネルの受信信号は、第2偏波送受信アンテナ105で送信して第1偏波送受信アンテナ104で受信した信号として定義する。
【0016】
図3は、第1偏波送受信アンテナ104と第2偏波送受信アンテナ105の各時刻の動作モードについて示している。図中のインターバルは、4つの偏波チャネルにおける受信信号の一組を得るのに要する処理のひとまとめである。インターバルの時間をT[秒]とする。レーダ装置が、送受信アンテナの位置が等しいモノスタティック構成の場合に、第2偏波チャネルと第4偏波チャネルの信号が等しいことは、文献“Radar polarimetry for geoscience applications”(Ulaby他著、 Artech House Inc., 1990)などに示されており、周知である。そこで、以下の説明においては、偏波チャネル4の信号は用いず、偏波チャネル1〜3の受信信号のみを用いる。なお、偏波チャネルの数が3つ以外の場合についての拡張は容易である。以上のように取得された偏波チャネル3チャネルの受信信号は受信偏波信号記憶部107に一時保存される。
【0017】
インターバル1、インターバル2の観測を複数回反復して受信偏波信号記憶部107にデータを蓄積した後、多偏波レーダ画像再生手段108は、合成開口の処理などにより高分解能のレーダ画像を再生する。合成開口の処理は、例えば、大内和夫著「リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎」などに記載されており、公知である。また、アレイアンテナなどの使用により、十分に高い角度分解能を得られる場合は合成開口処理を実施せずに、ビームをスキャンすることによって実開口画像を得ることも可能であり、あるいは、対象が移動しているような場合は、逆合成レーダの処理によって画像を再生することも可能である。多偏波レーダ画像再生手段108は、上記のいずれの処理を実施しても良いが、結果としてレンジ方向およびアジマス方向に分解能の高い画像を出力するものとする。
【0018】
ここで、多偏波レーダ画像の各画素の信号は、第1偏波チャネル、第2偏波チャネル、第3偏波チャネルの信号から構成される。そこで、画素番号(m,n)の信号を次式で表す。(m=1,2,・・・,M,n=1,2,・・・,N;MとNはそれぞれレンジ方向及びアジマス方向の画素数)
【0019】
【数1】

【0020】
ここで、Spは第p偏波チャネルの信号を表す複素数である。このように、各画素の信号は3次元の複素ベクトル量で表現される。この複素ベクトルは、各画素における散乱の偏波特性を表現しており、その向きが偏波特性、その長さが散乱強度を表す量である。
【0021】
多偏波レーダ画像取得手段1によって取得された多偏波レーダ画像は、次に全電力算出手段2に送られる。全電力算出手段2においては、各画素について、次式で定義される全電力P(m,n)を算出する。
【0022】
【数2】

【0023】
上式に示すとおり、全電力は散乱ベクトルの長さの二乗で定義される値であり、散乱強度を表す指標として利用される値である。ここで得られたP(m,n)は画素毎に全電力の値を持つ全電力画像である。
【0024】
全電力算出手段2において算出された全電力画像P(m,n)は、次に第一閾値手段3に送られる。第一閾値手段3においては、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理などによって、画像全体に検出処理を適用し、小目標を含む背景領域を抽出する。この処理の意義を説明するため、具体的な例として、本実施の形態1による目標識別装置を遠方の不審者が銃器を所持するか否かを判定するために応用する場合を考える。
【0025】
この場合、まずは、多偏波レーダ画像取得手段1によって取得された多偏波レーダ画像の中で、不審者を含む領域を特定する必要がある。ミリ波帯の場合、人間からの反射も比較的大きいため、上記のCFAR処理のような処理により、人間の存在する領域を検出することが可能である。後段の処理は、ここで検出された領域に対して適用するものであり、ここでの検出の閾値は比較的低めに設定して、誤警報の発生を認めるものとする。
【0026】
第一閾値手段3の検出結果は、次に共分散行列推定手段4に送られる。共分散行列推定手段4は、各画素(m,n)において、次式によって共分散行列C(m,n)を推定する
【0027】
【数3】

ここで、R、Rは画素(m,n)の近傍領域を表しており、例えば、(m,n)を含む3画素×3画素の領域などを意味する。領域の大きさは任意である。また、上付きのHは行列の共役転置を表す。
【0028】
共分散行列推定手段4において算出された共分散行列C(m,n)の値は、次にエントロピー・αパラメータ算出手段5に送られる。ポラリメトリックエントロピーHは、偏波特性のランダム性を測る指標として使われる値であり、例えば、文献 S. Cloude, et al., “A Review of Target Decomposition Theorems in Radar Polarimetry,” IEEE Trans. Geosci. Remote Sensing, vol.34、 no.2, pp.498-518, Mar. 1996に記載されており、公知である。ポラリメトリックエントロピーHは次式によって定義される。
【0029】
【数4】

ここで、λ(m,n)≧λ(m,n)≧λ(m,n)は共分散行列C(m,n)の固有値である。ポラリメトリックエントロピーHは、λ(m,n)=λ(m,n)=λ(m,n)の場合に最大値1、λ(m,n)≠0、λ(m,n)=λ(m,n)=0の場合に最小値0をとる。H(m,n)の値が大きい場合には、近傍領域R、R内に様々な散乱機構がランダムに存在する状態であり、H(m,n)の値が小さいほど近傍領域内が単一の散乱機構に支配されているとみなすことが出来る。
【0030】
αパラメータは、同じ近傍領域内の「平均的な」偏波特性を測るための指標であり、次式で示され、例えば、文献 S.Cloude, et al., “A Review of Target Decomposition Theorems in Radar Polarimetry,” IEEE Trans. Geosci. Remote Sensing, vol.34, no.2, pp.498-518, Mar. 1996に記載されており、公知である。
【0031】
【数5】

【0032】
ここで、eは奇数回反射の偏波特性であり、αは、固有ベクトルuで表される偏波特性が奇数回反射の偏波特性とどの程度異なっているかを、ベクトルuとベクトルeのなす角の大きさで測る指標である。αパラメータは、固有ベクトルそれぞれの方向の出現確率Pで重み付けして平均を取ることによって、近傍領域内の「平均的な」偏波特性が、奇数回反射の偏波特性とどの程度異なっているかを測る指標となっている。なお、例えば、第1偏波チャネルが水平偏波送信水平偏波受信、第2偏波チャネルが水平偏波送信垂直偏波受信、第3偏波チャネルが垂直偏波送信垂直偏波受信である場合、奇数回反射の偏波特性を表すベクトルeは次式で表される。
【0033】
【数6】

【0034】
エントロピー・αパラメータ算出手段5は、式(4)および式(5)にしたがって、ポラリメトリックエントロピーHおよびαパラメータを算出する。
【0035】
エントロピー・αパラメータ算出手段5によって算出されたポラリメトリックエントロピーHおよびαパラメータの値は、第二閾値手段6に送られる、第二閾値手段6は、次式の不等号を満たす画素を検出することにより、銃器などの目標を含む画素とそれ以外とを識別する。第二閾値手段6における判定の基準としては、銃器などの目標の信号の特徴としては、金属部分が多いために散乱強度が比較的強いことと、形状が比較的複雑なため、偏波特性が比較的ランダムな傾向を示すこと、また多重反射が生じやすいことなどを利用する。
【0036】
【数7】

ここで、a,b,c,d,eは事前の情報に基づいて決定される定数であり、検出の対象及び想定される背景の信号の性質によって異なる。事前の情報は、事前の実験や計算機シミュレーションによって得られるものであり、予め多偏波レーダ画像データベース8に蓄えられているものとする。閾値設定手段7において、多偏波レーダ画像データベース8のデータを用いて、a,b,c,d,eの定数を決定する。最後に、第二閾値手段6において識別された結果は、表示手段9に送られ、表示される。
【0037】
ここで、式(7)および(8)に示された検出の基準は、図4に示す実験結果を元に導出されたものである。この実験では、人体を模擬したマネキンにライフル銃のモデルを持たせたものの多偏波ミリ波レーダ画像を取得し、得られたデータを解析している。
【0038】
図4において、15はライフル銃モデルを持ったマネキンの多偏波レーダ画像の例であり、16はマネキン信号のポラリメトリックエントロピーとαパラメータの2次元ヒストグラム、17はマネキン信号およびライフルモデルのポラリメトリックエントロピーとαパラメータの2次元ヒストグラム、18はマネキン信号とライフルの信号の識別結果を示す。
【0039】
マネキン信号のポラリメトリックエントロピーとαパラメータの2次元ヒストグラム16から分かるように、マネキンの信号については、全電力Pが大きいほどエントロピーHが低い傾向があることが確認された。マネキンの体は、基本的に滑らかな形状をしているため、マネキンの体の中で反射強度が強いのは、レーダのLOS(Line Of Sight)に正対している部分である。したがって、マネキンの信号において、全電力Pが大きい画素においては、一つの散乱機構(この場合は一回反射)が支配的になるため、エントロピーHが低くなる。
【0040】
これに対して、マネキン信号およびライフルモデルのポラリメトリックエントロピーとαパラメータの2次元ヒストグラム17から分かるように、銃器は複雑な形状の構造が多く、反射強度の強い画素周辺に異なる散乱機構が混在する場合が多い。したがって、銃器の場合は、全電力Pが大きい画素においても、エントロピーHが高くなることがある。式(7)の閾値は上記の観察に基づいて設定したものである。なお、16および17の中で、左上から右下にのびる直線は、式(7)において、a=−20、b=66と設定した閾値である。
【0041】
また、H≧0.6を満たす画素の全電力Pとαパラメータの2次元ヒストグラムを観察すると、マネキンの信号においては、エントロピーが高めの画素における全電力Pが比較的低いのみならず、αパラメータが45deg付近に偏っていることが分かった。これに対して、ライフルの信号においては、エントロピーが高めであっても、全電力Pが比較的高めであり、また、αパラメータが低めの値を取ることもある。銃器が複雑な形状を反映してエントロピーHの値が大きめになる画素において、3回反射以上の奇数回散乱が多く含まれるような場合は、αパラメータが低めの値となることが考えられる。この観察に基づく判定の基準は、式(8)で表現される。
【0042】
上記のとおり、式(7)、式(8)で示した検出の基準は、実験結果から演繹的に導かれたものであるが、その物理的意味をある程度定性的に理解することが可能であり、ある一定の普遍性が認められる。なお、実験の結果によると式(7)による識別が支配的であるため、式(7)のみを用いて識別を実施しても良い。マネキン信号とライフルの信号の識別結果18は、式(7)、式(8)の判定基準による識別結果を示す。
【0043】
上述したように、本実施の形態1においては、多偏波レーダ画像を用いて全電力により対象領域を抽出した後に、ポラリメトリックエントロピーとαパラメータの情報を利用して画素を識別するように構成したので、散乱強度のみでは判定できない信号の相違を判定して目標を識別できる効果を奏する。
【0044】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2による目標識別装置の構成を示すブロック図である。図5に示す実施の形態2に係る構成において、図1に示す実施の形態1の構成と同一部分は同一符号を付してその説明は省略する。新たな符号として、10は、多偏波レーダ画像取得手段1と全電力算出手段2との間に設けられて、多偏波レーダ画像取得手段1で得られる多偏波レーダ画像に対して、超解像処理を適用してレンジ方向およびアジマス方向の分解能を向上する処理を実施し、超解像処理結果を全電力算出手段2に出力する多偏波2次元超解像手段である。全電力算出手段2は、多偏波2次元超解像手段10で得られる多偏波レーダ画像の各画素について全電力を算出して出力する。
【0045】
多偏波2次元超解像手段10は、多偏波レーダ画像取得手段1で得られた多偏波レーダ画像に対して、多偏波2次元超解像処理を適用することによって、レンジ方向およびアジマス方向の分解能を向上する。多偏波2次元超解像処理の方法は、例えば、特開2005−338004号公報に開示されており、公知である。
【0046】
本実施の形態2においては、実施の形態1における領域抽出および識別処理の前に、多偏波2次元超解像手段10による多偏波2次元超解像処理を実施するので、多偏波レーダ画像取得手段1で得られた多偏波レーダ画像の分解能が比較的低い場合でも、目標を識別できる効果を奏する。
【0047】
実施の形態3.
図6は、この発明の実施の形態3による目標識別装置の構成を示すブロック図である。図6に示す実施の形態3に係る構成において、図1に示す実施の形態1の構成と同一部分は同一符号を付してその説明は省略する。新たな符号として、11は、多偏波レーダ画像取得手段1の代わりに設けられたもので、複数回繰り返される複数回観測または異なる複数の位置からの観測に基づいて複数の多偏波レーダ画像を生成する複数多偏波レーダ画像取得手段であり、12は、複数多偏波レーダ画像取得手段11によって生成された複数の多偏波レーダ画像の位置合わせを行うレジストレーション手段である。また、13は、全電力算出手段2の代わりに設けられたもので、レジストレーション手段12により位置合わせされた複数の多偏波レーダ画像の平均全電力を算出する複数画像全電力算出手段である。さらに、14は、共分散行列推定手段4の代わりに設けられたもので、複数の多偏波レーダ画像の平均共分散行列を算出する複数画像共分散行列推定手段である。
【0048】
複数多偏波レーダ画像取得手段11は、一つのレーダ装置で複数回観測を実施、あるいは複数のレーダ装置で異なる位置から観測を実施することによって、複数の多偏波レーダ画像を取得する。複数多偏波レーダ画像取得手段11によって取得された複数の多偏波レーダ画像は、レジストレーション手段12に送られる。レジストレーション手段12では、複数の多偏波レーダ画像の位置あわせを行う。ここでは、複数の多偏波レーダ画像は、平行移動、回転移動程度で概ね位置あわせが出来ることを想定している。例えば、複数回観測を実施する場合の観測時間が長い場合や、複数のレーダ装置の設置位置が大きく異なる場合、得られる複数の多偏波レーダ画像は互いに大きく異なるため、簡単なレジストレーション処理は出来ない。したがって、観測時間やレーダの設置位置にはある一定の制限が設けられているものとする。
【0049】
レジストレーション手段12によって互いに位置あわせがなされた複数の多偏波レーダ画像は、複数画像全電力算出手段13に送られる。複数画像全電力算出手段13においては、次式によって、複数画像平均全電力P(m,n)を算出する。
【0050】
【数8】

【0051】
ここで、qは複数の多偏波レーダ画像の番号を示すインデックスであり、Qは用いた多偏波レーダ画像の枚数である。R、Rは画素(m,n)の近傍領域を表しており、例えば、(m,n)を含む3画素×3画素の領域などを意味する。ここで、領域の大きさは任意である。実施の形態1による目標識別装置における全電力算出手段2とは異なり、近傍領域の平均値を算出する構成とすることにより、レジストレーションずれの影響を低減している。
【0052】
複数画像共分散行列推定手段14は、平均共分散行列を次式によって算出する。
【0053】
【数9】

【0054】
ここで、qは複数の多偏波レーダ画像の番号を示すインデックスであり、Qは用いた多偏波レーダ画像の枚数である。R、Rは画素(m,n)の近傍領域を表しており、例えば、(m,n)を含む3画素×3画素の領域などを意味する。複数画像全電力算出手段13と同様に、Q枚の複数画像の平均を算出する。
【0055】
本実施の形態3においては、複数の多偏波レーダ画像を用いて領域の抽出と識別処理を実施するので、実施の形態1よる目標識別装置に比べて、目標識別の精度を向上する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の実施の形態1による目標識別装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す多偏波レーダ画像取得手段1の構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す多偏波レーダ画像取得手段1の動作を説明する図である。
【図4】人体を模擬したマネキンにライフル銃のモデルを持たせたものの多偏波ミリ波レーダ画像を取得し、得られたデータを解析した実験結果を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2による目標識別装置の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3による目標識別装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0057】
1 多偏波レーダ画像取得手段、2 全電力算出手段、3 第一閾値手段、4 共分散行列推定手段、5 エントロピー・αパラメータ算出手段、6 第二閾値手段、7 閾値設定手段、8 多偏波レーダ画像データベース、9 表示手段、10 多偏波2次元超解像手段、11 複数多偏波レーダ画像取得手段、12 レジストレーション手段、13 複数画像全電力算出手段、14 複数画像共分散行列推定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の偏波チャネルで送受信を行い、多偏波レーダ画像を生成する多偏波レーダ画像取得手段と、
前記多偏波レーダ画像取得手段で得られる多偏波レーダ画像の各画素について全電力を算出して全電力画像を出力する全電力算出手段と、
前記全電力算出手段により得られた全電力画像に対して閾値処理を適用して処理対象領域を抽出する第一閾値手段と、
前記第一閾値手段により抽出された領域に含まれる画素に対して近傍の領域から共分散行列の推定値を算出する共分散行列推定手段と、
前記共分散行列推定手段により算出された共分散行列の固有値分解を行い、ポラリメトリックエントロピーとαパラメータを算出するエントロピー・αパラメータ算出手段と、
前記エントロピー・αパラメータ算出手段により算出されたポラリメトリックエントロピーとαパラメータ及び前記全電力算出手段により算出された全電力の値に対して識別判定を行う第二閾値手段と
を備えた目標識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の目標識別装置において、
前記第二閾値手段は、判定の基準として、全電力PとポラリメトリックエントロピーHとαパラメータが
【数1】

(a,b,c,d,eは事前の情報に基づいて決定される定数)
の関係を満たす画素を検出することで識別する
ことを特徴とする目標識別装置。
【請求項3】
請求項1に記載の目標識別装置において、
前記多偏波レーダ画像取得手段と前記全電力算出手段との間に、前記多偏波レーダ画像取得手段で得られる多偏波レーダ画像に対して、超解像処理を適用してレンジ方向およびアジマス方向の分解能を向上する処理を実施し、超解像処理結果を前記全電力算出手段に出力する多偏波2次元超解像手段をさらに備え、
前記全電力算出手段は、前記多偏波2次元超解像手段で得られる多偏波レーダ画像の各画素について全電力を算出して出力する
ことを特徴とする目標識別装置。
【請求項4】
請求項1に記載の目標識別装置において、
前記多偏波レーダ画像取得手段は、複数回繰り返される複数回観測または異なる複数の位置からの観測に基づいて複数の多偏波レーダ画像を生成する複数多偏波レーダ画像取得手段でなり、
前記複数多偏波レーダ画像取得手段によって生成された複数の多偏波レーダ画像の位置合わせを行うレジストレーション手段をさらに備え、
前記全電力算出手段は、前記レジストレーション手段により位置合わせされた複数の多偏波レーダ画像の平均全電力を算出する複数画像全電力算出手段でなり、
前記共分散行列推定手段は、複数の多偏波レーダ画像の平均共分散行列を算出する複数画像共分散行列推定手段でなる
ことを特徴とする目標識別装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−210332(P2009−210332A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52194(P2008−52194)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】