説明

直接RF変調送信器、直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法

【課題】SAWフィルタを設けずとも、放射レベルが規定を満たす直接RF変調送信器を提供する。
【解決手段】Iデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号と、差動ローカル信号と、を入力し、Iデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号によって差動ローカル信号を変調して出力するデジタル/RF変換器105、106と、デジタル/RF変換器105、106においてIデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号のデータレートを決定するサンプリングクロック信号fsを生成するPLL回路102と、PLL回路102によって生成されるサンプリングクロック信号fsの周波数を、目的とする送信キャリアの周波数に対応して決定するサンプリングクロック周波数設定回路101と、によって直接RF変調送信器を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接RF変調送信器、直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、複数の無線通信規格や複数の周波数のバンドに対応することができる携帯型の通信端末装置(以下、本明細書では携帯端末と記す)がある。複数の規格に対応することをマルチモード対応といい、複数の周波数のバンドに対応することをマルチバンド対応という。
このようなマルチモードマルチバンド対応端末の送信に係る構成として、デジタルベースバンド信号をアナログ信号に変換(デジタル/アナログ変換)する際に、同時にRF送信キャリア周波数への周波数変換も行い、デジタル信号から直接RF周波数に変調する送信器が近年知られている。このような送信器は、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された送信器では、広く知られた電流制御型デジタル/アナログ変換回路におけるトランジスタの縦積み回路の一部に、ギルバートセルミキサに類似した構成のRF周波数変換回路を組み込んでいる。このような構成によれば、デジタル/アナログ変換器とRF周波数変換器、あるいはRF変調器を独立した回路とし、デジタル/アナログ変換とRF周波数変換とを複合化して同時に行うことができる。
【0004】
特許文献1に記載された送信器は、デジタル/RF変換器(Digital to RF converter)、直接RF変換器(Direct RF converter)、あるいは、それらによって構成される直接RF変調送信器(Direct RF Modulation Transmitter)等と呼ばれることがある。このような構成を送信器に用いると、従来型の分離動作する送信器において必要とされる、デジタル/アナログ変換器とRF周波数変換器との間のアナログベースバンドフィルタ回路を省略できる等の利点がある。
【0005】
図3は、上記した直接RF変調送信器の構成を例示した図である。図3に示した直接RF変調送信器は、2つのデジタル/RF変換器(図中にDRCと記す)1、2、2分周器3、整合回路4、パワーアンプ(図中にPAと記す)5、送受信切り換え器(図中にDuplexerと記す)6とから構成される。
2分周器3には、周波数掛算用のRF信号(以下、送信ローカルRF信号と記す)Loin+、送信ローカルRF信号Loin+の位相が反転された送信ローカルRF信号Loin−が外部から供給されている。2分周器3は、送信ローカルRF信号Loin+、Loin−を入力し、90度位相の異なる二対の差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−、TxLoQ+、TxLoQ−を生成し、デジタル/RF変換器1、2に各々出力する。
【0006】
図3に示した例では、2分周器3によって0度と90度との差動ローカル信号を生成するため、送信ローカルRF信号Loin+、Loin−の周波数は目的とする送信キャリア波の周波数の2倍になる。差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−、TxLoQ+、TxLoQ−の周波数は送信キャリア波の周波数となる。差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−と、TxLoQ+、TxLoQ−との間には、90度の位相差がある。
【0007】
デジタル/RF変換器1、2には、いわゆるIQ直交変調器と同じ形式の位相関係で差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−と、TxLoQ+、TxLoQ−が供給される。このことにより、直接RF変調送信器が構成される。すなわち、デジタル/RF変換器1には、I(In-Phase:同相)デジタルベースバンド信号(図中にIBBDATAと記す)が入力される。また、デジタル/RF変換器2には、Q(Quadrature:直交)デジタルベースバンド信号(図中にQBBDATAと記す)が入力される。
【0008】
また、デジタル/RF変換器1、2には、サンプリングクロック信号(図中にCLKBBと記す)が入力される。デジタル/RF変換器1、2は、いずれもデジタル/アナログ変換機能とベースバンド信号をRF信号に周波数変換する周波数掛算機能とを統合した機能を有する信号変換回路である。このような機能により、デジタル/RF変換器1は、サンプリングクロック信号、Iデジタルベースバンド信号、差動ローカル信号から出力差動信号を出力する。また、デジタル/RF変換器2は、サンプリングクロック信号、Qデジタルベースバンド信号、差動ローカル信号から出力差動信号を出力する。デジタル/RF変換器1、2から出力された出力差動信号は、加算され、その後、整合回路4を通して送信キャリア波をデジタルベースバンド信号で変調した信号(以下、送信キャリア波変調信号と記す)として出力される。
【0009】
整合回路4は、送信キャリア波の周波数を中心周波数とするバンドパス型のゲイン特性を有する回路であり、容量素子やインダクタ素子等の受動素子で構成されている。なお、図3に示した直接RF変調送信器では、デジタル/RF変換器1、2が電流を出力することを想定していて、デジタル/RF変換器1が出力した出力差動信号と、デジタル/RF変換器2が出力した出力差動信号との加算は、信号経路を直接結合することによって実現される。
【0010】
図4は、上記した特許文献1に記載されているデジタル/RF変換器1、2の構成を示した回路図である。デジタル/RF変換器1、2は、同じ構成を有している。このため、図4中にはデジタル/RF変換器1、2の構成にあたる部分を単に「DRC」と示す。また、図4の説明においても、デジタル/RF変換器1、2を区別せず、単に「デジタル/RF変換器」と記す。
【0011】
デジタル/RF変換器は、LSB(Least Significant Bit)側の信号を処理するブロックと、MSB(Most Significant Bit)側の信号を処理するブロックと、を備えている。LSB側のブロックは、ユニットセルがバイナリで重み付けされた電流源200、201、…20kと、ギルバートセル型に配置されたローカル信号用スイッチ220、221、…21kと、データ信号用スイッチ240、241、…24kとで構成されている。
【0012】
また、MSB(Most Significant Bit)側のブロックは、同じ値に重み付けされた電流源210と、ギルバートセル型に配置されたローカル信号用スイッチ230とデータ信号用スイッチ250とが必要なビット分並列に接続された構成を有している。このような構成により、特許文献1に記載された直接RF変調送信器では、デジタル/アナログ変換と周波数掛算とを同時に行うことができる。なお、図4に示した例では、デジタル/RF変換器の外部に設けられた外部負荷によって全セルの電流出力が電圧変換されることとなっている。
【0013】
図5は、デジタル/RF変換器、あるいは直接RF変換器と呼ばれる回路の一般的な動作を説明するための図である。このような回路には、RF信号、デジタルベースバンド信号が入力される。入力されたRF信号は、デジタルベースバンド信号によって変調されて出力される。変調された信号は、デジタルベースバンド信号が切り替わるタイミングで送信キャリア波の位相を反転した信号となる。
【0014】
ここで、直接RF変調送信器から出力される出力信号のノイズについて説明する。
直接RF変調送信器において、出力信号の送信キャリア波近傍のノイズフロアを決定する主要要因は、内部素子から発生する熱雑音やフリッカ雑音と、デジタル/アナログ変換過程で発生する量子化雑音である。デジタル/アナログ変換と周波数掛算を別個の回路ブロックで行う送信器では、デジタル/アナログ変換器の直後にアナログフィルタを設置することが可能である。このため、周波数変換後の信号に量子化ノイズはほとんど含まれない。
【0015】
ところが、図4に示した従来のデジタル/RF変換器は、前記したように、デジタル/アナログ変換機能と周波数掛算機能とを統合した機能を有している。このため、デジタル/アナログ変換で生じた量子化雑音が、そのまま送信キャリア波近傍の雑音として出力される。このような従来のデジタル/RF変換器では、デジタル/アナログ変換における量子化雑音の発生を低く抑えることが必要である。
【0016】
通常のデジタル/アナログ変換器がフルスケールの信号(希望波信号)を出力したとき、デジタル/アナログ変換で発生する量子化雑音量は、以下の式(1)によって表される。式(1)で示される量子化雑音量は、希望波信号のレベルを基準としたときのノイズ量であり、Bはビット数、fsはサンプリングクロック周波数を示している。
【0017】
【数1】

【0018】
図4に示したデジタル/RF変換器がフルスケールの希望波信号を出力したときの量子化雑音量は、式(2)によって表される。式(2)で示した量子化雑音量は、図4に示したデジタル/RF変換器によってデジタル/アナログ変換された信号が周波数掛算され、高周波に周波数変換された場合の量子化雑音量である。
【0019】
【数2】

【0020】
上記した式(1)、式(2)により、デジタル/アナログ変換器、あるいはデジタル/RF変換器のノイズを低減するためには、式(1)、(2)中のビット数Bの増加、もしくはサンプリングクロック周波数fsの増加が必要であることが分かる。CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)回路において、低い量子化雑音の実現を考えた場合、サンプリングクロック周波数を実現可能な最大周波数とし、ノイズの低減に不足する分はビット数の増加で補うことが必要になる。
【0021】
図6は、図3に示した直接RF変調送信器に入力される、Iデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号、サンプリングクロック信号を生成する回路を示した図である。図6に示した回路は、サンプリングクロック信号を生成するPLL(Phase-Locked-Loop)回路92、入力されたデジタルデータのレートfs/n0をデジタル/RF変換器のサンプリングクロック信号の周波数fsに変換するデジタルフィルタ(図中にDFILと記す)90、デジタルフィルタ91、PLL回路92にて生成されるサンプリングクロック信号の周波数を設定するサンプリング周波数設定回路93を備えている。サンプリングクロック信号の周波数は基本的に固定されていて、サンプリング周波数設定回路93は、PLL回路92を、周波数が一定のサンプリングクロック信号を生成するように設定する。デジタルフィルタ90、91は、同様の構成を有している。
【0022】
上記の構成において、デジタル/RF変換器に入力される信号のデータレートとサンプリングクロック信号の周波数fsは等しくなる。また、周波数変換レートn0は自然数である。また、マルチモードマルチバンド携帯端末において、n0は、通信規格ごとに固定の値として設定されることが多く、送信キャリア波の周波数に応じてn0を変更しないのが一般的である。また、n0の最小値は、所望の量子化ノイズフロアとデジタル/RF変換器のビット数との関係で決定される。
【0023】
次に、直接RF変調送信器から出力される信号に含まれる、折り返し雑音について説明する。前記した量子化ノイズ、内部素子から発生する熱雑音やフリッカ雑音は広帯域に一様に分布するノイズである。これに対し、折り返し雑音は特定の周波数にのみ現れるノイズであり、局所的にノイズフロアを上昇させるものである。
直接RF変調送信器をIQ直交変調器の構成とした場合、折り返し雑音は、以下の式(3)で表される周波数と、式(4)で表される周波数とによって表される。式(3)、(4)において、iは折り返しの次数であり、fLOは送信キャリア波の周波数、fdataは入力ベースバンド信号の周波数である。ここで、I側のDFIL90とQ側のDFIL91は同一の構成を有するものとする。
【0024】
【数3】

【0025】
【数4】

【0026】
式(3)によって表される周波数に発生する折り返し雑音の振幅は、式(3)中に示した次数iと、図3に示した整合回路4のゲイン特性とによって決定する。絶対周波数fに出現した折り返し雑音の振幅は、式(5)によって表される。なお、式(5)で示した折り返し雑音は、希望波の振幅を基準として表されている。
【0027】
【数5】

【0028】
式(5)中のfは絶対周波数を表している。絶対周波数fを含む関数X(f)は、図3に示した整合回路4とパワーアンプ5及び送受信切り換え器6のゲイン特性を現す。関数X(f)は、整合回路4の入力から、パワーアンプ5を経由し、送受信切り換え器6の出力までのトータルのゲイン特性であって、このゲイン特性は、希望波出力を0dBとしたとき、絶対周波数fにおける振幅成分の抑圧量(希望波周波数からの)を示している。
【0029】
式(4)に示した周波数に発生する折り返し雑音の振幅は、式(5)によって表される。
無線規格では、他の通信周波数帯を使う通信への障害を防ぐため、周波数帯毎に異なる放射ノイズのレベルが規定されている。このため、直接RF変調送信器では、折り返し雑音の振幅を、放射ノイズが規定されたレベルを満たす範囲内にする必要がある。
【0030】
式(5)によれば、折り返し雑音の振幅は次数iが小さいほど大きく、i=1で最大となる。折り返し雑音を小さくするためにはサンプリングクロック周波数fsを大きくするか、もしくは入力ベースバンド信号の周波数fdataを小さくする必要があることが分かる。周波数fdataは無線通信規格によって定義される、ベースバンド信号の信号帯域幅f0により決定され、最大でfdata=f0/2の周波数となる。一方、サンプリングクロック周波数fsは、直接RF変調送信器を半導体集積回路で作った場合、半導体プロセスにより制限される。広帯域なベースバンド信号の信号帯域幅をもつ通信規格においては、1次の折り返し雑音が最も厳しい要求を満たすことはほとんど不可能である。
【0031】
以上の点により、従来技術の回路においては、LSIの出力とパワーアンプの間にSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタなどの帯域制限フィルタが必要となることが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】Patent Application Publication US 2005/0111573 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
電子回路には、部品点数を削減することが要求されている。この要求に応えるためには、直接RF変調送信器においてLSI出力とパワーアンプ間のSAWフィルタを設けないことが望ましい。しかしながら、SAWフィルタを設けないと、広帯域なベースバンド信号の信号帯域幅をもつ通信規格においては、放射レベルが規定を満たす直接RF変調送信器を構成することができないことが課題となっていた。
【0034】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、SAWフィルタを設けずとも、放射レベルが規定を満たす直接RF変調送信器、直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
以上の目的を達成するため、本発明の直接RF変調送信器は、デジタルベースバンド入力信号(例えば図1に示したIデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号)と、RF信号(例えば図1に示した差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−、TxLoQ+、TxLoQ−)と、を入力し、前記デジタルベースバンド入力信号によって前記RF信号を変調して出力する直接RF変調変換部(例えば図1に示したデジタル/RF変換器105、106)と、前記直接RF変調変換部において前記デジタルベースバンド入力信号のデータレートを決定するサンプリングクロック信号を生成する信号生成回路(例えば図1に示したPLL回路102)と、前記信号生成回路によって生成される前記サンプリングクロック信号の周波数を、前記RF信号の周波数に対応して決定するサンプリングクロック周波数決定回路(例えば図1に示したサンプリングクロック周波数設定回路101)と、を含むことを特徴とする。
【0036】
また、本発明の直接RF変調送信器は、上記した発明において、前記サンプリングクロック周波数決定回路が、前記デジタルベースバンド入力信号が前記RF信号の周波数に対応して選択されるように、直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数を、変調された前記RF信号において折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅に基づいて決定することが望ましい。
【0037】
また、本発明の直接RF変調送信器は、上記した発明において、前記直接RF変換部が、第1直接RF変換部(例えば図1に示したデジタル/RF変換器105)と、第2直接RF変換部(例えば図1に示したデジタル/RF変換器106)と、を含み、前記第1直接RF変換部の出力と、前記第2直接RF変換部の出力とを加算する加算部(例えば図1に示した結合部p1、p2)と、をさらに含み、前記第1直接RF変換部は、同相デジタルベースバンド入力信号(例えば図1に示したIデジタルベースバンド信号)及び第1RF信号(例えば図1に示した差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−)を入力し、前記同相デジタルベースバンド入力信号によって前記第1RF信号を変調して第1出力信号として出力し、前記第2直接RF変換部は、直交デジタルベースバンド入力信号(例えば図1に示したQデジタルベースバンド信号)及び前記第1RF信号と位相が90度相違する第2RF信号(例えば図1に示した差動ローカル信号TxLoQ+、TxLoQ−)を入力し、前記直交デジタルベースバンド入力信号によって前記第2RF信号を変調して第2出力信号として出力し、前記加算部は、前記第1直接RF変換器から出力される前記第1出力信号と、前記第2直接RF変換器から出力される前記第2出力信号と、を加算して出力することが望ましい。
【0038】
本発明の直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法は、上記した直接RF変調送信器において実行される直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法であって、変調された前記RF信号において折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅を算出するステップ(例えば図2に示したステップS204)と、算出された前記折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅を、予め設定されている条件と比較するステップ(例えば図2に示したステップS205)と、算出された前記折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅が前記予め設定されている条件を満たす場合、前記折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅の算出に使用されたサンプリングクロック信号の周波数を、前記信号生成回路が生成するサンプリングクロック信号の周波数に決定するステップ(ステップS205:Yes)と、を含むことを特徴とする。
【0039】
また、本発明の直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法は、上記した発明において、前記変調された前記RF信号において折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅を算出するステップは、前記サンプリングクロックの周波数を、前記直接RF変調送信器から出力される送信キャリア波の周波数の設定値毎に算出することが望ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、サンプリングクロック信号の周波数fsを、設定される送信キャリア波の周波数毎に、折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅が規格を満たすように適切に設定することができる。このため、アナログ/デジタル変換で発生する折り返し信号起因の折り返し雑音の周波数を制御することで、要求される送信器からの放射される信号が、放射レベル規定を満たす直接RF変調送信器、直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の直接RF変調送信器を説明するための図である。
【図2】図1に示したサンプリングクロック周波数設定回路において実行されるサンプリングクロック信号の周波数を設定する方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】従来の直接RF変調送信器の構成を例示した図である。
【図4】従来のデジタル/RF変換器の構成を示した回路図である。
【図5】デジタル/RF変換器、あるいは直接RF変換器の一般的な動作を説明するための図である。
【図6】従来のIデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号、サンプリングクロック信号を生成する回路を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の直接RF変調送信器、この直接RF変調送信器において実行されるサンプリングクロック信号の周波数(以下、サンプリングクロック周波数と記す)の設定方法の一実施形態について説明する。
(直接RF変調送信器)
図1は、本実施形態の直接RF変調送信器を説明するための図である。本実施形態の直接RF変調送信器は、Iデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号、サンプリングクロック信号を生成する回路111と、Iデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号、サンプリングクロック信号に基づいて送信キャリア波変調信号を生成する回路112とに分けられる。なお、回路112は、図3に示した直接RF変調送信器と同様の構成を有している。
【0043】
回路111は、DRC105、106におけるIデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号のデータレート(以下、単にレートと記す)を決定するサンプリングクロック信号を生成するPLL(Phase-Locked-Loop)回路102と、Iデジタルベースバンド信号を入力し、入力されたIデジタルベースバンド信号(IBBDATA0)のレートfs/n0を変換してIデジタルベースバンド信号(IBBDATA)を生成するDFIL(デジタルフィルタ)103と、Qデジタルベースバンド信号を入力し、入力されたQデジタルベースバンド信号(QBBDATA0)のレートfs/n0を変換してQデジタルベースバンド信号(QBBDATA)を生成するDFIL104と、を含んでいる。
【0044】
DFIL103、104は、同様の構成を有している。DFIL103は、Iデジタルベースバンド信号の周波数をサンプリングクロック信号の周波数に変換する。DFIL104は、Qデジタルベースバンド信号の周波数をサンプリングクロック信号の周波数に変換する。
さらに、回路111は、PLL回路102が生成するサンプリングクロック信号の周波数を設定するサンプリングクロック周波数設定回路101を備えている。サンプリングクロック周波数設定回路101については、後に詳述するものとする。
【0045】
回路112は、Iデジタルベースバンド信号と、サンプリングクロック信号とを入力して信号変換するデジタル/RF変換器(Digital to RF Converter:図中にDRCと記す)105と、Qデジタルベースバンド信号と、サンプリングクロック信号とを入力して信号変換するデジタル/RF変換器106と、を備えている。デジタル/RF変換器105、106は、同様の構成を有している。
【0046】
さらに、回路112は、デジタル/RF変換器105、106に差動ローカル信号を出力する2分周器107、デジタル/RF変換器105、106から出力された後に加算された信号を濾波する整合回路108、整合回路108から出力された信号を増幅するパワーアンプ(図中にPAと記す)109と、直接RF変調送信器の送受信を切り替える送受信切り換え器110と、を備えている。2分周器107には、周波数掛算用の送信ローカルRF信号Loin+、送信ローカルRF信号Loin+の位相が反転された(位相差が180度)送信ローカルRF信号Loin−が外部から供給されている。2分周器107は、送信ローカルRF信号Loin+、Loin−から90度位相の異なる二対の差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−と、TxLoQ+、TxLoQ−とを生成し、デジタル/RF変換器105、106に出力する。差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−、TxLoQ+、TxLoQ−は、RF信号である。
【0047】
2分周器107によって0度と90度との差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−、TxLoQ+、TxLoQ−を生成するためには、送信ローカルRF信号Loin+、Loin−の周波数を、目的とする送信キャリア波の周波数の2倍とする。差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−、TxLoQ+、TxLoQ−の周波数は、送信キャリア波の周波数と等しくなる。差動ローカル信号TxLoI+、TxLoQ+との間には、90度の位相差がある。また、差動ローカル信号TxLoI−、TxLoQ−の間には、90度の位相差がある。差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−の間には180度の位相差があり、差動ローカル信号TxLoQ+、TxLoQ−の間には180度の位相差がある。
【0048】
差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−は、デジタル/RF変換器105に出力され、TxLoQ+、TxLoQ−は、デジタル/RF変換器106に出力される。差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−と、TxLoQ+、TxLoQ−の位相関係は、いわゆるIQ直交変調器と同じ形式の位相関係である。
デジタル/RF変換器105は、差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−によってIデジタルベースバンド信号をアナログ信号に変換するとともに、RF信号に周波数変換する。このような処理により、RF信号である差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−はIデジタルベースバンド信号によって変調され、差動ローカル信号TxLoI+、TxLoI−にはIデジタルベースバンド信号のデータが付加される。デジタル/RF変換器106は、差動ローカル信号TxLoQ+、TxLoQ−によってQデジタルベースバンド信号をアナログ信号に変換するとともに、RF信号に周波数変換する。このような処理により、RF信号である差動ローカル信号TxLoQ+、TxLoQ−はQデジタルベースバンド信号によって変調され、差動ローカル信号TxLoQ+、TxLoQ−にはQデジタルベースバンド信号のデータが付加される。
【0049】
このようなデジタル/RF変換器105、106は、デジタル/アナログ変換機能とベースバンド信号をRF信号に周波数変換する周波数掛算機能とを統合した機能を有する信号変換回路であると言える。そして、このことにより、図1に示した構成は、直接RF変調送信器として機能する。
デジタル/RF変換器105、106から出力された出力差動信号は、加算される。本実施形態の直接RF変調送信器では、デジタル/RF変換器105、106が電流を出力することを想定している。デジタル/RF変換器105が出力した出力差動信号と、デジタル/RF変換器106が出力した出力差動信号との加算は、出力差動信号の信号経路を直接結合することによって実現される。したがって、本実施形態では、結合部p1、p2が出力差動信号の加算部となる。
【0050】
整合回路108は、容量素子やインダクタ素子等の受動素子で構成されている。前後に配置されたデジタル/RF変調器105、106、パワーアンプ106とのインピーダンス整合のための回路であり、送信キャリア波の周波数を中心周波数とするバンドパス型のゲイン特性を有している。加算後の信号は、整合回路108によって濾波され、パワーアンプ109によって増幅される。そして、送受信切り換え器110の切り替えにより、送信キャリア波変調信号として出力される。
【0051】
上記の構成において、デジタル/RF変換器105、106に入力されるIデジタルベースバンド信号及びQデジタルベースバンド信号のデータレートと、サンプリングクロック信号の周波数fsは等しくなる。また、Iデジタルベースバンド信号及びQデジタルベースバンド信号の周波数変換レートn0は自然数である。
また、マルチモードマルチバンド携帯端末において、n0は、通信規格ごとに固定の値として設定されることが多い。このため、送信キャリア波の周波数に応じてn0を変更しないのが一般的である。また、n0の最小値は、所望の量子化ノイズフロアとデジタル/RF変換器105、106のビット数との関係で決定される。
【0052】
(サンプリングクロック周波数設定方法)
図2は、サンプリングクロック周波数設定回路101において実行されるサンプリングクロック周波数設定方法を説明するためのフローチャートである。図2に示したフローチャートでは、図1に示した整合回路108でのゲイン特性、パワーアンプ109でのゲイン特性、送受信切り換え器110でのゲイン特性は、全周波数帯で既知であるとする。
【0053】
サンプリングクロック周波数設定回路101は、Iデジタルベースバンド信号、Qデジタルベースバンド信号が、目的とする送信キャリア波の周波数に対応して選択されるように、サンプリングクロック信号の周波数を、送信キャリア波変調信号において折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅に基づいて決定する。このため、本実施形態では、先ず、サンプリングクロック周波数fs0、送信キャリア波の周波数flo、入力ベースバンド信号の周波数fdataを設定する(ステップS201)。サンプリングクロック周波数fs0は、サンプリングクロック周波数fsの初期値であって、以降、初期サンプリングクロック周波数とも記す。前記したように、f0は、ベースバンド信号の信号帯域幅であり、信号レートとも呼ばれる。信号帯域幅f0は、通信規格で定められている。本実施形態では、直接RF変調送信器から出力された信号を受信する受信機においてのデータ復調を考慮し、fs0を、f0を自然数n倍したものとする。また、nの最小値は、所望の量子化ノイズに依存し、図2中にn_minとして示す。
周波数fLOは、目的とする送信キャリア波の周波数に等しい。fdataは、通信規格(例えばWCDMA)により決定される。
【0054】
次に、サンプリングクロック周波数設定回路101は、前記した式(3)、式(4)から折り返し雑音の発生する周波数を計算し、式(5)から折り返し雑音の振幅を計算する(ステップS204)。この計算にあたっては、予め保存されているゲイン情報(関数X(f)によって表される)が使用される(ステップS202)。そして、サンプリングクロック周波数設定回路101は、計算された折り返し雑音の周波数及びその振幅が通信規格にて周波数帯毎に規定された放射レベル規定の値を満たしているかどうか判定する(ステップS205)。
【0055】
ステップS205において、計算された折り返し雑音の周波数及びその振幅が通信規格を満たしていれば、fs=f0×n_minが最終的なサンプリングクロック周波数となる(ステップS205:Yes)。一方、放射レベル規格を満たせなかった場合(ステップS205:No)、新たなサンプリングクロック周波数fs=f0×(n(=n+1))を設定する。そして、再び前記した式(3)から式(5)を用いて折り返し雑音が発生する周波数及びその振幅を計算する(ステップS203)。このように、本実施形態は、折り返し雑音の周波数及び振幅が通信規格を満たすまでサンプリングクロック周波数を繰返し計算し、折り返し雑音の周波数及び振幅が通信規格を満たす最小のサンプリングクロック周波数(以下、最適なサンプリングクロック周波数と記す)を設定する。
【0056】
ここで最適なサンプリングクロック周波数fsが設定されると、デジタル/RF変換器105、106の前段に各々接続されるDFIL103、104で実行されるサンプルレート変換の比nが決定する。
また、式(3)、(4)中に示した次数iは、送信キャリアの周波数fLOとサンプリングクロック周波数fsの関係と、通信規格で放射レベル規定が存在する周波数範囲と、によって決定される。例えば、サンプリングクロック周波数fs=500MHz、送信キャリアの周波数fLO=2000MHzのとき、iを20次まで考慮とすると、周波数範囲としてDC〜8GHzまで考慮したことになる。したがって、i=1〜20の全ての場合について、サンプリングクロック周波数fsが変更される度に、式(3)、式(4)から折り返し雑音の発生する周波数を計算し、式(5)から各周波数における折り返し雑音の振幅を計算する。
【0057】
なお、以上説明した実施形態において、サンプリングクロック周波数の探索をn=n_minから行うのは、DFIL103、104のサンプリングクロック周波数fsが高速であるほど、DFIL103、104で消費される電力が大きくなるため、サンプリングクロック周波数fsは小さい方が望ましいためである。
本実施形態は、図2のフローチャートで示したサンプリングクロック周波数設定方法を、通信規格で定められた全ての送信キャリア波の周波数fLOの設定値に対して行うことで、周波数fLO毎に、発生する折り返し雑音が放射レベル規定を満たす、適正かつ固有のサンプリングクロック周波数fsが選択できる。そのためLSI出力とパワーアンプ間のSAWフィルタが不要になる。
【0058】
また、本実施形態のサンプリングクロック周波数設定方法は、送信キャリア波が設定される毎に直接RF変調送信器においてサンプリングクロック周波数を算出するようにしてもよい。また、通信規格で定められた全ての送信キャリア波について最適なサンプリングクロック周波数を予め算出しておき、算出されたサンプリングクロック周波数をサンプリングクロック周波数設定回路101に保存しておくようにしてもよい。そして、送信キャリア波が設定されたとき、サンプリングクロック周波数設定回路101が送信キャリア波に対応するサンプリングクロック周波数を読み出して、PLL102に出力するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、直接RF変調送信器全般に適用することができ、特に部品点数を削減することが要求される直接RF変調送信器に好適である。
【符号の説明】
【0060】
101 サンプリングクロック周波数設定回路
102 PLL回路
103、104 DFIL
105、106 デジタル/RF変換器
107 2分周器
108 整合回路
109 パワーアンプ
111、112 回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルベースバンド入力信号と、RF信号と、を入力し、前記デジタルベースバンド入力信号によって前記RF信号を変調して出力する直接RF変調変換部と、
前記直接RF変調変換部において前記デジタルベースバンド入力信号のデータレートを決定するサンプリングクロック信号を生成する信号生成回路と、
前記信号生成回路によって生成される前記サンプリングクロック信号の周波数を、前記RF信号の周波数に対応して決定するサンプリングクロック周波数決定回路と、
を含むことを特徴とする直接RF変調送信器。
【請求項2】
前記サンプリングクロック周波数決定回路は、
前記デジタルベースバンド入力信号が前記RF信号の周波数に対応して選択されるように、前記サンプリングクロック周波数を、変調された前記RF信号において折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅に基づいて決定することを特徴とする直接RF変調送信器。
【請求項3】
前記直接RF変換部が、第1直接RF変換部と、第2直接RF変換部と、を含み、
前記第1直接RF変換部の出力と、前記第2直接RF変換部の出力とを加算する加算部と、をさらに含み、
前記第1直接RF変換部は、同相デジタルベースバンド入力信号及び第1RF信号を入力し、前記同相デジタルベースバンド入力信号によって前記第1RF信号を変調して第1出力信号として出力し、
前記第2直接RF変換部は、直交デジタルベースバンド入力信号及び前記第1RF信号と位相が90度相違する第2RF信号を入力し、前記直交デジタルベースバンド入力信号によって前記第2RF信号を変調して第2出力信号として出力し、
前記加算部は、前記第1直接RF変換器から出力される前記第1出力信号と、前記第2直接RF変換器から出力される前記第2出力信号と、を加算して出力することを特徴とする請求項1または2に記載の直接RF変調送信器。
【請求項4】
前記請求項1から3のいずれか1つに記載の直接RF変調送信器において実行される直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法であって、
変調された前記RF信号において折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅を算出するステップと、
算出された前記折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅を、予め設定されている条件と比較するステップと、
算出された前記折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅が前記予め設定されている条件を満たす場合、前記折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅の算出に使用されたサンプリングクロック信号の周波数を、前記信号生成回路が生成するサンプリングクロック信号の周波数に決定するステップと、
を含むことを特徴とする直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法。
【請求項5】
前記変調された前記RF信号において折り返し雑音が発生する周波数及び折り返し雑音の振幅を算出するステップは、前記サンプリングクロックの周波数を、前記直接RF変調送信器から出力される送信キャリア波の周波数の設定値毎に算出することを特徴とする請求項4に記載の直接RF変調送信器のサンプリングクロック周波数設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−38461(P2013−38461A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170347(P2011−170347)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】