説明

相互侵入高分子網目構造体の製造方法および研磨パッド

【課題】高耐熱性を有する相互侵入網目高分子構造体およびその製造方法および構造体からなる研磨パッドを提供する。
【解決手段】(1)エチレン性不飽和化合物A、ラジカル重合開始剤A、連鎖移動剤Aからなるラジカル重合性組成物Aに高分子成形体を浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Aを含浸させた高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Aを重合させる工程、エチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体をさらにエチレン性不飽和化合物B、ラジカル重合開始剤B、連鎖移動剤Bからなるラジカル重合性組成物Bに浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Bを含浸させたエチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Bを重合させる工程、をこの順に含むことを特徴とする相互侵入高分子網目構造体の製造方法および相互侵入高分子網目構造体を含む研磨パッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互侵入高分子網目構造体の製造方法に関する。また、本発明は、研磨パッドに関する。特に、シリコンなどの半導体基板上に形成された層間絶縁膜や配線形成用金属膜を研磨、平坦化する、および光学部材の研磨に使用する、研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンとビニル化合物から重合される重合体からなる研磨パッドが特許文献1に開示されている。また、重合用モノマーを含む溶液に高分子成形体を浸漬した後、モノマーの重合反応を起こさせる工程を含む研磨パッドの製造方法が特許文献2に開示されている。
【0003】
しかしながら、これらの研磨パッドでは、銅などの金属薄膜を研磨して微細な配線を形成する、配線−絶縁体の平坦化工程において、金属配線の中央部が縁部よりも厚さが薄くなる、いわゆる「ディッシング」が顕著に生じる。ディッシングが大きいほど、配線の断面積がより小さくなるため、金属配線の電気抵抗が増加して好ましくない。また、より上層の配線形成時に研磨残りが発生する原因となるため好ましくない。
【0004】
このディッシングは、研磨パッドのたわみによって生じると考えられているが、銅などの金属を研磨する際、研磨パッドの表面温度は約70℃にまで達する為、高温時でも剛性が変化しないことが必要である。
【0005】
また、特許文献3にプロピレン系重合体にビニルモノマーを含浸させた後、異なるビニルモノマーと開始剤を含浸し、重合させるグラフト重合体含有樹脂組成物の製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第00/12262号パンフレット
【特許文献2】特開2000−218551号公報
【特許文献3】特開平5−295047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性に優れた相互侵入網目構造体の製造方法を提供することにある。また、温度による物性変化が生じにくいため、研磨レートの変動が小さく、しかも配線に生じるディッシングが低減され、パッド寿命が延長された研磨パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、耐熱性を向上させる方法として、分子間相互作用を増大させることに着目した。そこで、高分子成形体へのラジカル重合性組成物の含浸・重合を2段階にすることによって、高分子成形体内部に均一にラジカル重合性組成物が浸入でき、高分子成形体とラジカル重合性組成物から重合された重合体が相互作用する領域、すなわち有効表面積が増大し、分子間相互作用が増大するのではないかと考えた。
【0009】
ここで、前出の特許文献3にある、プロピレン系重合体にビニルモノマーを含浸させた後、異なるビニルモノマーと開始剤を含浸し、重合させるグラフト重合体含有樹脂組成物の製法は、初めのモノマーが含浸した後、重合させずに異なるモノマー及び重合開始剤を含浸させており、本発明とはその思想を異にするものである。
【0010】
そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、特開2006−233198号公報に開示されている研磨パッド作製方法において、高耐熱性を有する研磨パッドを作製するため、エチレン性不飽和化合物A、ラジカル重合開始剤A、連鎖移動剤Aからなるラジカル重合性組成物Aに高分子成形体を浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物を含浸させた高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Aを重合させる工程、エチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体をさらにエチレン性不飽和化合物B、ラジカル重合開始剤B、連鎖移動剤Bからなるラジカル重合性組成物Bに浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物を含浸させたエチレン性不飽和化合物Bが重合した高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物を重合させる工程、をこの順に含むことによって製造される相互侵入高分子網目構造体から研磨パッドを作製することで本発明の目的が達せられることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
【0012】
(1)エチレン性不飽和化合物A、ラジカル重合開始剤A、連鎖移動剤Aからなるラジカル重合性組成物Aに高分子成形体を浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Aを含浸させた高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Aを重合させる工程、エチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体をさらにエチレン性不飽和化合物B、ラジカル重合開始剤B、連鎖移動剤Bからなるラジカル重合性組成物Bに浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Bを含浸させたエチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Bを重合させる工程、をこの順に含むことを特徴とする相互侵入高分子網目構造体の製造方法。
【0013】
(2)エチレン性不飽和化合物Aの重量をa、エチレン性不飽和化合物Bの重量をbとして、その重量割合(a/(a+b))が15/100〜35/100あるいは65/100〜85/100である(1)に記載の相互侵入高分子網目構造体の製造方法。
【0014】
(3)エチレン性不飽和化合物Bがスチレンモノマーであり、エチレン性不飽和化合物Aがスチレンモノマー以外のモノマーである(1)に記載の相互侵入高分子網目構造体の製造方法。
【0015】
(4)(1)に記載の相互侵入高分子網目構造体の製造方法によって製造された相互侵入高分子網目構造体を含む研磨パッド。
【0016】
(5)高分子成形体がポリウレタンを含む(4)に記載の研磨パッド。
【0017】
(6)高分子成形体の重量と含浸されたエチレン性不飽和化合物Aおよびエチレン性不飽和化合物Bから重合された重合体の総重量との重量比が100/5〜100/300である(4)または(5)に記載の研磨パッド。
【0018】
(7)半導体基板の研磨および/または光学部材の研磨に使用される(4)〜(6)のいずれかに記載の研磨パッド。
【発明の効果】
【0019】
高耐熱性を有する相互侵入高分子網目構造体が得られる。また、温度による物性変化が生じにくいため、研磨レートの変動が小さく、しかも配線に生じるディッシングが低減され、パッド寿命が延長された研磨パッドを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、相互侵入高分子網目構造体とは、高分子混合系において、相互に化学結合することなく独立な異種の高分子網目が互いに侵入しあった高分子を言う。具体的には、複数の種類の高分子が数nm〜数百nmで分散した構造を形成する。分散の程度は、5nm〜300nmが好ましく、5nm〜100nmが特に好ましい。また、異種高分子が互いに連続層となる構造が架橋点形成により安定化された構造であってもよい。
【0021】
相互侵入高分子網目構造体は、ラジカル重合性組成物に高分子成形体を浸漬させ、ラジカル重合性組成物中のエチレン性不飽和化合物を重合させる製造方法から、相互侵入高分子網目構造を形成することができる。そして、本発明の研磨パッドは相互侵入高分子網目構造体からなる。
【0022】
本発明において、エチレン性不飽和化合物A、ラジカル重合開始剤A、連鎖移動剤Aからなるラジカル重合性組成物Aに高分子成形体を浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物を含浸させた高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Aを重合させる工程、エチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体をさらにエチレン性不飽和化合物B、ラジカル重合開始剤B、連鎖移動剤Bからなるラジカル重合性組成物Bに浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物を含浸させたエチレン性不飽和化合物Bが重合した高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物を重合させる工程、をこの順に含むことによって製造される相互侵入高分子網目構造体が高耐熱性を有する理由は、必ずしも明確ではないが、高分子成形体へのラジカル重合性組成物の含浸・重合を2段階以上にすることによって、高分子成形体内部に均一にラジカル重合性組成物が浸入でき、高分子成形体とラジカル重合性組成物から重合された重合体が相互作用する領域、すなわち有効表面積が増大することによって耐熱性が向上したと推測される。
【0023】
その結果、この相互侵入網目高分子構造体を用いた研磨パッドは研磨時にパッドが温度上昇しても、その物性の変化が小さい。特に、剛性の低下が生じにくいため、研磨レートが高く、かつ研磨レートの変動が小さく、しかも配線に生じるディッシングが低減され、パッド寿命が長くなると推察される。
【0024】
本発明におけるエチレン性不飽和化合物とは、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物をいう。具体的にはメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、メチル(α−エチル)アクリレート、エチル(α−エチル)アクリレート、プロピル(α−エチル)アクリレート、ブチル(α−エチル)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、アクリロニトリル、アクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート等が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、メチル(α−エチル)アクリレート、エチル(α−エチル)アクリレート、プロピル(α−エチル)アクリレート、ブチル(α−エチル)アクリレートが高分子成形体への含浸、重合が容易な点で好ましい。
【0026】
また、エチレン性不飽和化合物Aおよびエチレン性不飽和化合物Bは同一化合物であってもよいし、異なる化合物であってもよい。さらに、エチレン性不飽和化合物Aおよびエチレン性不飽和化合物Bは異なるエチレン性不飽和化合物を含んでもよい。すなわちエチレン性不飽和化合物Aにエチレン性不飽和化合物Bが含まれていたり、エチレン性不飽和化合物Bにエチレン性不飽和化合物Aが含まれていたりしてもよい。また、高分子成形体へのラジカル重合性組成物の含浸・重合は2段階に限らず、さらに多段にしてもよい。
【0027】
本発明におけるラジカル重合開始剤とは、加熱、光照射、放射線照射などにより分解してラジカルを生成する化合物をいう。このようなラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物や過酸化物などを挙げることができる。具体的には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系重合開始剤、クメンヒドロパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシビバレートt−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−s−ブチルパーオキシジカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、などの過酸化物系重合開始剤を挙げることができる。ラジカル重合開始剤の添加量は、前記水素結合性化合物も含んだエチレン性不飽和化合物に対して0.01〜5重量%が好ましく、0.05〜5重量%がさらに好ましい。また、ラジカル重合開始剤Aおよびラジカル重合開始剤Bは同一化合物であってもよいし、異なる化合物であってもよい。
【0028】
本発明のラジカル重合性組成物は、上記エチレン性不飽和化合物、上記ラジカル重合開始剤、上記連鎖移動剤からなる組成物を言う。ラジカル重合禁止剤、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤をラジカル重合性組成物中に添加しても良い。これら化合物の添加量は、エチレン性不飽和化合物に対して合計で3重量%を越えない範囲で使用することが好ましい。
【0029】
ラジカル重合性組成物は、有機溶媒を実質的に含まない組成物であることが有機溶媒の除去工程が不要になるという経済上の観点から好ましい。
【0030】
本発明の有機溶媒とは、エチレン性不飽和化合物の重合時に実質的に反応しない化合物であって、常温において液体の有機化合物をいう。具体的には、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール等を挙げることができる。有機溶媒を実質的に含有しない、とは、エチレン性不飽和化合物に対して有機溶媒が1重量%未満であることをいう。四塩化炭素、トルエン、エチルベンゼン、などは通常有機溶媒として知られているが、ラジカル重合過程において成長ラジカルが水素や塩素を引き抜いて安定な高分子となり、新たに生成したラジカルがエチレン性不飽和化合物に付加して重合が進行する、という連鎖移動剤としての効果が知られているため、これら化合物はここでいうエチレン性不飽和化合物と実質的に反応しない有機溶媒にはあたらない。
【0031】
ラジカル重合性組成物に添加できる、常温で固体のラジカル重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、トパノールA、カテコール、t−ブチルカテコール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジン、ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニエル−p−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミンなどを挙げることができる。これらの化合物から選択された1種あるいは2種以上の化合物を使用することができる。ラジカル重合禁止剤は、ラジカル重合性組成物に添加して使用しても良い。また、高分子成形体製造時に予め添加しておいてもよい。さらに、ラジカル重合性組成物および高分子成形体の両方に含有させても良い。ラジカル重合性組成物および高分子成形体の両方にラジカル重合禁止剤を使用する場合、ラジカル重合禁止剤の種類は同一の化合物であっても、異なっても良い。加えて、重合禁止効果を高める目的で、酸素ガスまたは酸素含有ガス共存下に含浸および/または重合を行うことが好ましい。
【0032】
酸素ガスあるいは酸素含有ガス共存下において含浸および/または重合を行うことが好ましいラジカル重合禁止剤として、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、トパノールA、カテコール、t−ブチルカテコール、p−フェニレンジアミンなどを挙げることができる。上記酸素含有ガスとしては、空気、酸素、酸素を不活性ガスで希釈したガスが用いられ、不活性ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられる。希釈した場合の酸素濃度には特に限定はないが、好ましくは1体積%以上である。使用する酸素含有ガスとしては、乾燥空気、乾燥空気を窒素で希釈したガスが安価で好ましい。
【0033】
ラジカル重合性組成物に添加できる、連鎖移動剤とは、成長ラジカルと反応してポリマー鎖長の増加を止め、再開始能のある低分子ラジカルを生成する化合物を言う。
【0034】
連鎖移動剤としては、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、sec−ドデシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタンなどのアルキル基または置換基アルキル基を有する第1級、第2級または第3級メルカプタン、フェニルメルカプタン、チオクレゾール、4−t−ブチル−o−チオクレゾールなどの芳香族メルカプタン、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、チオグリコール酸エチルなどのチオグリコール酸エステル、エチレンチオグリコールなどの炭素数3〜18のメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、四塩化炭素、トルエン、エチルベンゼン、トリエチルアミン、等を挙げる事ができる。これらは、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。このうち、t−ブチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタンやα−メチルスチレンダイマーを用いることが好ましい。また、連鎖移動剤Aおよび連鎖移動剤Bは同一化合物であってもよいし、異なる化合物であってもよい。
【0035】
連鎖移動剤の使用量は、エチレン性不飽和化合物に対して0.01〜5重量%が好ましく0.05〜3重量%がさらに好ましい。使用量が0.01重量%以下であると連鎖移動剤としての効果が十分ではない。また、5重量%以上であると高分子鎖の分子量が短くなりすぎ、機械的特性が劣る。
【0036】
本発明の高分子成形体とは、常温において固体の高分子物質をいう。成形体は、中実であってもよいし、中空であっても発泡体であってもよい。その特性については、特に限定されるものではないが、ラジカル重合性組成物に浸漬することにより、該組成物を成形体に取り込み、含浸できることが必要である。したがって、ラジカル重合性組成物と親和性のある材質からなり、またラジカル重合性組成物を取り込み、高分子成形体自体が膨潤できる程度の柔軟性を有することが必要である。
【0037】
高分子成形体としては、柔軟でラジカル重合性組成物により膨潤可能な化学構造としてポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリテトラメチレングリコール鎖、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)鎖などを含有する高分子成形体が好ましい。具体的には、ポリエステルやポリウレタンを挙げることができる。ラジカル重合性組成物の密度や含浸量にもよるが、含浸後の高分子成形体の体積は、元の体積の約1.03〜5倍程度に膨潤し、多くは1.03〜3倍程度に膨潤する。
【0038】
高分子成形体の形態としては、平均気泡径10〜200μmの独立気泡を有する発泡体であることが好ましく、20〜150μmの独立気泡を有する発泡体であることがより好ましく、30〜120μmの独立気泡を有する発泡体であることが特に好ましい。平均気泡径は、研磨パッドの表面やスライス面を倍率200倍で走査型電子顕微鏡(SEM)像とし、その平均気泡径を画像処理して得ることができる。
【0039】
また、高分子成形体の見かけ密度としては、0.1〜1.2g/cm3であることが好ましく、0.5〜1.0g/cm3がさらに好ましい。見かけ密度は日本工業規格(JIS)K 7112記載の方法により測定することができる。さらに、高分子成形体に取り込まれたラジカル重合性組成物は、高分子成形体中の気泡には入り込まず、高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物が重合した後も高分子成形体の気泡はそのまま気泡として残存していることが好ましい。その結果として得られる研磨パッドの密度は、0.2〜1.1g/cm3が好ましく、0.6〜1.1g/cm3がより好ましい。
【0040】
本発明の高分子成形体はポリオールとポリイソシアネートから得られたポリウレタン成形体であることが好ましく、ポリオールとポリイソシアネートを2液混合して得られたポリウレタン成形体であることが特に好ましい。ここで、ポリオールとは、水酸基を2個以上有する化合物をいう。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどから選ばれた1種および2種以上の混合物を挙げることができる。ポリオールの分子量としては、数平均分子量3000以上が好ましい。数平均分子量が3000未満であるとエポキシ基を含む架橋剤及びラジカル重合性組成物が含浸しない場合がある。
【0041】
また、ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、ナフタレンジイソシアネート、などの芳香族イソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、などの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加TDI、水素添加MDI、などの脂環式ジイソシアネート、などを挙げることができる。これらイソシアネートから選ばれた1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0042】
高分子成形体の調製にあたっては、ポリオール、ポリイソシアネートの他に、架橋剤、鎖延長剤、整泡剤、発泡剤、樹脂化触媒、泡化触媒、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、可塑剤、着色剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤を含有し、成形を行ってもよい。高分子成形体の調製方法は特に限定されないが、射出成形、反応成形などの方法で調製できる。特に、ポリウレタン成形体の調製では、ミキシングヘッド内で原料同士を衝突させて瞬時に混合する高圧注入機、ミキシングヘッドに供給された各原料を攪拌翼などによって機械的に混合するいわゆる低圧注入機に使用して、モールド成形やスラブ成形などに適用することが好ましい。
【0043】
エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bの重量割合はエチレン性不飽和化合物Aの重量をa、エチレン性不飽和化合物Bの重量をbとして、その重量割合(a/(a+b))が15/100〜35/100あるいは65/100〜85/100であることが好ましい。エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bの重量割合が15/100よりも小さい場合、エチレン性不飽和化合物Bのみを含浸・重合させた場合とその特性があまり変わらず、エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bを含浸・重合させるメリットが小さい場合がある。一方、エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bの重量割合が85/100よりも大きい場合、同様にエチレン性不飽和化合物Aのみを含浸・重合させた場合とその特性があまり変わらず、エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bを含浸・重合させるメリットが小さい場合がある。
【0044】
また、エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bの重量割合が35/100〜65/100である場合、すなわち、エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bの重量の差が小さい場合、ラジカル重合性組成物が高分子成形体内部に均一に浸入する効果が低下し、エチレン性不飽和化合物Aとエチレン性不飽和化合物Bを含浸・重合させるメリットが小さい場合がある。
【0045】
高分子成形体の重量と、含浸されたエチレン性不飽和化合物Aおよびエチレン性不飽和化合物Bから重合された重合体の総重量の比は、100/5〜100/300が好ましく、100/50〜100/200がより好ましい。高分子成形体の重量と、含浸されたエチレン性不飽和化合物Aおよびエチレン性不飽和化合物Bから重合された重合体の総重量の比が100/5よりも小さい場合、高分子成形体のみの場合とその特性があまり変わらず、含浸・重合させるメリットが小さい場合がある。一方、高分子成形体の重量と、含浸されたエチレン性不飽和化合物Aおよびエチレン性不飽和化合物Bから重合された重合体の総重量の比が100/300よりも大きい場合、含浸に要する時間が長くなりすぎるため好ましくない場合がある。
【0046】
ラジカル重合性組成物に高分子成形体を含浸させる工程は、15〜60℃の温度で3時間〜20日間が好ましく、3時間〜10日間がさらに好ましい。
【0047】
本発明の研磨パッドは、10〜200μmの独立気泡を有することが好ましく、20〜150μmの独立気泡を有する発泡体であることがより好ましく、30〜120μmの独立気泡を有する発泡体であることが特に好ましい。平均気泡径は、研磨パッドの表面やスライス面を倍率200倍で走査型電子顕微鏡(SEM)の像とし、その平均気泡径を画像処理して得る。研磨パッドの表面に適度な割合で平坦面と気泡に由来する開口部が存在することが好ましい。任意のスライス面における気泡数は、20〜1000個/mmが好ましく、200〜600個/mmがより好ましい。研磨パッドの密度は0.2〜1.1g/cmが好ましい。密度は、日本工業規格(JIS) K 7112記載の方法により測定することができる。
【0048】
本発明の研磨パッドにおける被研磨物は特に限定されるものではない。具体的には、半導体基板,光学ガラス,光学レンズ,磁気ヘッド、ハードディスク、液晶ディスプレイ用カラーフィルター,プラズマディスプレイ用背面板等の光学部材、セラミックス、サファイア等を挙げることができる。これらの中でも特に化学機械的研磨(CMP;Chemical Mechanical Polishing)技術による半導体ウエハーの平坦化を目的とした研磨に用いることが好ましい。CMP工程において、研磨剤と薬液からなる研磨スラリーを用いて、半導体ウエハーと研磨パッドを相対運動させることにより、半導体ウエハー面を研磨して、半導体ウエハー面を平坦に、滑らかにする目的で研磨パッドが使用される。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、評価方法は以下のようにして行った。
【0050】
[密度]JIS K 7112記載の方法にしたがってピクノメーター(ハーバード型)を使用して測定した。
【0051】
[平均気泡径]平均気泡径は、走査型電子顕微鏡“SEM2400”(日立製作所(株)製)を使用し、パッド断面を倍率200倍で観察した写真を画像処理装置で解析することにより、写真中に存在するすべての気泡径を計測し、その平均値を平均気泡径とした。
【0052】
[引張試験] 引張試験機RTM−100((株)オリエンテック製)を用い、次のような測定条件で破断強度、破断伸度を測定した。5本の試験片を測定値とした。
試験温度:25℃
試験片形状:1号形小形試験片
試験片厚み:1〜2mm
チャック間距離:58mm
試験速度:50mm/分
[ガラス転移温度]ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置“DVE−V4”((株)レオロジー製)を用い、次のような測定条件で測定した際のtanδ極大値温度とした。なお、tanδ極大値温度が2つ以上存在する場合は、低い方をガラス転移点とした。
治具:引張り
チャック間距離:20mm
波形:正弦波歪
周波数:10Hz
変位振幅:3.0μm
測定温度:0〜150℃
昇温速度:2℃/分
[研磨評価] 研磨評価は以下のようにして行った。
【0053】
銅用研磨スラリー(キャボット社製iCue(登録商標)5003)1000mLに対して、30wt%過酸化水素水5mLを使用直前に添加、混合してスラリーを調製した。
【0054】
両面接着テープを研磨層シートと貼り合わせ、単層研磨パッドを作製した。単層研磨パッドを研磨機の定盤上に貼り付け、ダイヤモンドコンディショナーを押しつけ圧力0.8psi、研磨定盤回転数30rpm、コンディショナー回転数28rpmで研磨定盤と同方向に回転させた。精製水を100mL/分の割合で研磨パッド上に供給しながら30分間、研磨パッドのコンディショニングを行った。
【0055】
評価用8インチウエハーを研磨装置の研磨ヘッドに装着し、33rpmで回転させ、単層研磨パッドを研磨機のプラテンに固定して、30rpmで研磨ヘッドの回転方向と同方向に回転させて、調整済みの銅用研磨スラリー(キャボット社製iCue(登録商標)5003)を220mL/分で供給しながら研磨圧力4psiで1分間研磨を行い、銅膜の研磨レートを測定した。50枚目および400枚目の銅膜の研磨レートを測定した。50枚目の研磨レートを測定後、ディッシング評価用のパターン付きウエハーを研磨し、ディッシング量の測定を行った。研磨の終了は光学式終点信号検出により行った。続いて、銅ベタ膜の研磨を行い、パーティクル数の測定を行った。
【0056】
[研磨レート] 研磨前後のウエハーを抵抗率測定器VR−120S(国際電気アルファ(株)製)で測定することにより、単位時間当たりの研磨量(研磨レート)を算出した。8インチのシリコンウエハー上に10000オングストロームの銅膜を製膜したものを使用した。なお、50枚目と400枚目の研磨レートの差が小さいほど研磨レート変動が小さく、望ましい。
【0057】
[パーティクル数] パターンなしウエハー上におけるパーティクル数を欠陥/異物検査装置(KLAテンコール社製SP−1)を用いて評価した。0.2μm以上のパーティクルの合計数を測定した。なお、パーティクル数は少ないほど望ましい。
【0058】
[ディッシング量] 酸化膜内に孤立した銅配線(配線幅10μm)を有するパターン付きウエハーを用いて研磨を行い、表面計測プロファイラ(KLAテンコール社製P−15)を用いて評価した。なお、ディッシング量は小さいほど、望ましい。
【0059】
(比較例1)
RIM成形機の第1原料タンク、第2原料タンクに以下のように原料組成物を仕込み、第1原料タンクに窒素ガスをローディング後、両タンクから原料組成物を金型に注入し、硬化させて、750mm×750mm、厚さ10mmのポリウレタン成形体を得た。ポリウレタンのみかけ密度は、0.84g/cm3であり、平均気泡径が31μmの独立気泡が形成された。
【0060】
<第1原料タンク>
ポリプロピレングリコール 85重量部
1,2−ブタンジオール 15重量部
オクチル酸スズ 0.5重量部
シリコーン系整泡剤 3重量部
精製水 0.3重量部
<第2原料タンク>
ジフェニルメタンジイソシアネート 120重量部
次に、ポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比が100/140の割合で、以下のラジカル重合性組成物を調製し、上記ポリウレタン成形体を20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量がポリウレタン成形体に含浸されていた。(含浸工程)
メチルメタクリレート 300重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
含浸により膨潤したポリウレタン成形体を、塩化ビニル製ガスケットを介して2枚のガラス板間に挟み込み、周囲を固定して密閉した後、70℃で5時間加熱し、続いて100℃オーブン中で3時間加熱することにより重合硬化させ相互侵入高分子網目構造体を得た。(重合工程)
ガラス板間から離型した後、重量測定を行った。その後、50℃で12時間、続いて100℃で12時間、乾燥を行った。さらに、常温で12時間乾燥し、直後に重量測定したところ、常温乾燥前後の重量減少はなかった。
【0061】
このようにして得られた相互侵入高分子網目構造体の厚み方向の中央部分をスライスし、厚み2mmまで研削加工した。見かけ密度は0.80g/cm3、独立気泡の平均気泡径は43μmであった。表面には、213個/mmの気泡に由来する開口部が観察された。引張破断点伸度は、124%であった。
【0062】
次に、両面テープを貼り合せた後、直径600nmの円に打ち抜き、その片面に幅1.0mm、深さ0.5mm、ピッチ幅30mmの格子状の溝加工を施した。研磨評価を行ったところ、研磨レートはそれぞれ460nm/分および320nm/分であった。また、ディッシング量は63nmであった。パーティクル数は65個であった。
【0063】
(実施例1)
比較例1と同様にして得られたポリウレタン成形体を用い、ポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比が100/110の割合で、以下のラジカル重合性組成物を調製し、上記ポリウレタン成形体を20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量がポリウレタン成形体に含浸されていた。(含浸工程A)
メチルメタクリレート 300重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させた。(重合工程A)
さらに、この重合硬化物にポリウレタン成形体時の重量とラジカル重合性組成物の重量比が100/30の割合で以下のラジカル重合性組成物を調整し、20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量が重合硬化物に含浸されていた。(含浸工程B)a/(a+b)は110/(110+30)すなわち79/100であった。
メチルメタクリレート 300重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させ相互侵入高分子網目構造体を得た。(重合工程B)
ガラス板間から離型した後、重量測定を行った。その後、50℃で12時間、続いて100℃で12時間、乾燥を行った。さらに、常温で12時間乾燥し、直後に重量測定したところ、常温乾燥前後の重量減少はなかった。
【0064】
このようにして得られた相互侵入高分子網目構造体の厚み方向の中央部分をスライスし、厚み2mmまで研削加工した。見かけ密度は0.78g/cm3、独立気泡の平均気泡径は44μmであった。表面には、219個/mmの気泡に由来する開口部が観察された。引張破断点伸度は、123%であった。
【0065】
次に、比較例1と同様に研磨評価を行ったところ、研磨レートはそれぞれ560nm/分および510nm/分であった。また、ディッシング量は38nmであった。パーティクル数は52個であった。
【0066】
(実施例2)
含浸工程Aでポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比を100/35の割合に調整し、含浸工程Bでポリウレタン成形体時の重量とラジカル重合性組成物の重量比が100/105の割合に調整した以外は実施例1と同様にして、相互侵入高分子網目構造体を得た。a/(a+b)は35/(35+105)すなわち25/100であった。
【0067】
ガラス板間から離型した後、重量測定を行った。その後、50℃で12時間、続いて100℃で12時間、乾燥を行った。さらに、常温で12時間乾燥し、直後に重量測定したところ、常温乾燥前後の重量減少はなかった。
【0068】
このようにして得られた相互侵入高分子網目構造体の厚み方向の中央部分をスライスし、厚み2mmまで研削加工した。見かけ密度は0.79g/cm3、独立気泡の平均気泡径は45μmであった。表面には、210個/mmの気泡に由来する開口部が観察された。引張破断点伸度は、106%であった。
【0069】
次に、両面テープを貼り合せた後、直径600nmの円に打ち抜き、その片面に幅1.0mm、深さ0.5mm、ピッチ幅30mmの格子状の溝加工を施した。研磨評価を行ったところ、研磨レートはそれぞれ540nm/分および500nm/分であった。また、ディッシング量は39nmであった。パーティクル数は63個であった。
【0070】
(比較例2)
比較例1と同様にして得られたポリウレタン成形体を用い、ポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比が100/140の割合で、以下のラジカル重合性組成物を調製し、上記ポリウレタン成形体を20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量がポリウレタン成形体に含浸されていた。(含浸工程)
メチルメタクリレート 150重量部
スチレン 150重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させ相互侵入高分子網目構造体を得た。(重合工程)
ガラス板間から離型した後、重量測定を行った。その後、50℃で12時間、続いて100℃で12時間、乾燥を行った。さらに、常温で12時間乾燥し、直後に重量測定したところ、常温乾燥前後の重量減少はなかった。
【0071】
このようにして得られた相互侵入高分子網目構造体の厚み方向の中央部分をスライスし、厚み2mmまで研削加工した。見かけ密度は0.89g/cm3、独立気泡の平均気泡径は41μmであった。また、表面には、185個/mmの気泡に由来する開口部が観察された。なお、走査型電子顕微鏡画像から、高分子成形体中の気泡の中にラジカル重合性組成物が入り込んでいるものが観察され、そのためにポリウレタン成形体のラジカル重合性組成物含浸硬化物の見かけ密度が高くなったと考えられる。引張破断点伸度は、116%であった。
【0072】
次に、比較例1と同様に研磨評価を行ったところ、研磨レートはそれぞれ460nm/分および260nm/分であった。また、ディッシング量は103nmであった。パーティクル数は72個であった。
【0073】
(実施例3)
比較例1と同様にして得られたポリウレタン成形体を用い、ポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比が100/70の割合で、以下のラジカル重合性組成物を調製し、上記ポリウレタン成形体を20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量がポリウレタン成形体に含浸されていた。(含浸工程A)
メチルメタクリレート 300重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させた。(重合工程A)
さらに、この重合硬化物にポリウレタン成形体時の重量とラジカル重合性組成物の重量比が100/70の割合で以下のラジカル重合性組成物を調整し、20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量が重合硬化物に含浸されていた。(含浸工程B)a/(a+b)は70/(70+70)すなわち50/100であった。
スチレン 300重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させ相互侵入高分子網目構造体を得た。(重合工程B)
ガラス板間から離型した後、重量測定を行った。その後、50℃で12時間、続いて100℃で12時間、乾燥を行った。さらに、常温で12時間乾燥し、直後に重量測定したところ、常温乾燥前後の重量減少はなかった。
【0074】
このようにして得られた相互侵入高分子網目構造体の厚み方向の中央部分をスライスし、厚み2mmまで研削加工した。見かけ密度は0.78g/cm3、独立気泡の平均気泡径は41μmであった。また、表面には、205個/mmの気泡に由来する開口部が観察された。なお、高分子成形体中の気泡へのラジカル重合性組成物による入り込みは観察されなかった。引張破断点伸度は、124%であった。
【0075】
次に、比較例1と同様に研磨評価を行ったところ、研磨レートはそれぞれ470nm/分および320nm/分であった。また、ディッシング量は79nmであった。パーティクル数は52個であった。
【0076】
(比較例3)
比較例1と同様にして得られたポリウレタン成形体を用い、ポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比が100/140の割合で、以下のラジカル重合性組成物を調製し、上記ポリウレタン成形体を20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量がポリウレタン成形体に含浸されていた。(含浸工程)
メチルメタクリレート 150重量部
アクリロニトリル 150重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させ相互侵入高分子網目構造体を得た。(重合工程)
ガラス板間から離型した後、重量測定を行った。その後、50℃で12時間、続いて100℃で12時間、乾燥を行った。さらに、常温で12時間乾燥し、直後に重量測定したところ、常温乾燥前後の重量減少はなかった。
【0077】
このようにして得られた相互侵入高分子網目構造体の厚み方向の中央部分をスライスし、厚み2mmまで研削加工した。見かけ密度は0.83g/cm3、独立気泡の平均気泡径は41μmであった。表面には、192個/mmの気泡に由来する開口部が観察された。引張破断点伸度は、122%であった。
【0078】
次に、比較例1と同様に研磨評価を行ったところ、研磨レートはそれぞれ510nm/分および390nm/分であった。また、ディッシング量は57nmであった。パーティクル数は66個であった。
【0079】
(実施例4)
比較例1と同様にして得られたポリウレタン成形体を用い、ポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比が100/70の割合で、以下のラジカル重合性組成物を調製し、上記ポリウレタン成形体を20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量がポリウレタン成形体に含浸されていた。(含浸工程A)
メチルメタクリレート 300重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させた。(重合工程A)
さらに、この重合硬化物にポリウレタン成形体時の重量とラジカル重合性組成物の重量比が100/70の割合で以下のラジカル重合性組成物を調整し、20℃で7日間浸漬したところラジカル重合性組成物は全量が重合硬化物に含浸されていた。(含浸工程B)a/(a+b)は70/(70+70)すなわち50/100であった。
アクリロニトリル 300重量部
アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部
比較例1と同様に重合硬化させ相互侵入高分子網目構造体を得た。(重合工程B)
ガラス板間から離型した後、重量測定を行った。その後、50℃で12時間、続いて100℃で12時間、乾燥を行った。さらに、常温で12時間乾燥し、直後に重量測定したところ、常温乾燥前後の重量減少はなかった。
【0080】
このようにして得られた相互侵入高分子網目構造体の厚み方向の中央部分をスライスし、厚み2mmまで研削加工した。見かけ密度は0.80g/cm3、独立気泡の平均気泡径は43μmであった。表面には、207個/mmの気泡に由来する開口部が観察された。引張破断点伸度は、140%であった。
【0081】
次に、比較例1と同様に研磨評価を行ったところ、研磨レートはそれぞれ580nm/分および550nm/分であった。また、ディッシング量は41nmであった。パーティクル数は52個であった。
【0082】
(実施例5〜8)
含浸工程Aのポリウレタン成形体とラジカル重合性組成物の重量比と、含浸工程Bのポリウレタン成形体時の重量とラジカル重合性組成物の重量比を、それぞれ表1のとおりに変化させて調整した以外は実施例1と同様にして、相互侵入高分子網目構造体を得た。
【0083】
これらの結果を、それぞれの相互侵入高分子網目構造体のガラス転移温度も含めて表1にまとめた。
【0084】
【表1】

【0085】
以上から、エチレン性不飽和化合物A、ラジカル重合開始剤A、連鎖移動剤Aからなるラジカル重合性組成物Aに高分子成形体を浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Aを含浸させた高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Aを重合させる工程、エチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体をさらにエチレン性不飽和化合物B、ラジカル重合開始剤B、連鎖移動剤Bからなるラジカル重合性組成物Bに浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Bを含浸させたエチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Bを重合させる工程、をこの順に含むことによって製造される相互侵入高分子網目構造体から作製された研磨パッドは、温度による物性変化が生じにくく、かつ研磨レートの変動が小さく、長寿命である。また、配線に生じるディッシングが低減されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の研磨パッドは、シリコンウエハーなどの半導体基板、レンズなどの光学部材、磁気ヘッド、ハードディスクなどの電子材料などの研磨に使用できる。特に、化学機械的研磨(CMP)技術による半導体ウエハーの平坦化の目的で被研磨物である半導体ウエハーの研磨処理を行う研磨パッドとして使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和化合物A、ラジカル重合開始剤A、連鎖移動剤Aからなるラジカル重合性組成物Aに高分子成形体を浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Aを含浸させた高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Aを重合させる工程、エチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体をさらにエチレン性不飽和化合物B、ラジカル重合開始剤B、連鎖移動剤Bからなるラジカル重合性組成物Bに浸漬させる工程、ラジカル重合性組成物Bを含浸させたエチレン性不飽和化合物Aが重合した高分子成形体の膨潤状態下においてエチレン性不飽和化合物Bを重合させる工程、をこの順に含むことを特徴とする相互侵入高分子網目構造体の製造方法。
【請求項2】
エチレン性不飽和化合物Aの重量をa、エチレン性不飽和化合物Bの重量をbとして、その重量割合(a/(a+b))が15/100〜35/100あるいは65/100〜85/100である請求項1に記載の相互侵入高分子網目構造体の製造方法。
【請求項3】
エチレン性不飽和化合物Bがスチレンモノマーであり、エチレン性不飽和化合物Aがスチレンモノマー以外のモノマーである請求項1に記載の相互侵入高分子網目構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の相互侵入高分子網目構造体の製造方法によって製造された相互侵入高分子網目構造体を含む研磨パッド。
【請求項5】
高分子成形体がポリウレタンを含む請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
高分子成形体の重量と含浸されたエチレン性不飽和化合物Aおよびエチレン性不飽和化合物Bから重合された重合体の総重量との重量比が100/5〜100/300である請求項4または5に記載の研磨パッド。
【請求項7】
半導体基板の研磨および/または光学部材の研磨に使用される請求項4〜6のいずれかに記載の研磨パッド。

【公開番号】特開2010−242064(P2010−242064A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50345(P2010−50345)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】