真空処理装置
【課題】加熱と冷却とをバランスさせて、真空処理用電極を一定の温度範囲に保持するとともに、効率的なメンテナンス性を確保することのできる真空処理装置を提供すること。
【解決手段】アノード電極7の内部には、被処理用基板5を加熱する加熱部が設けられている。加熱部は、互いに並列状に設けられた棒状ヒータ31からなる。アノード電極7の内部には、アノード電極7を冷却する管状冷却部32も設けられている。冷却部32は、それぞれのヒータ31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体を流通させた後に外部へ排出することのできる冷却管32からなる。冷却管32は、冷却用媒体の導入部32aおよび排出部32bがアノード電極7の一方端部側に偏在して設けられている。また、冷却用媒体の流れる方向が隣り合う冷却管32どうしの間で逆になるようにされている。
【解決手段】アノード電極7の内部には、被処理用基板5を加熱する加熱部が設けられている。加熱部は、互いに並列状に設けられた棒状ヒータ31からなる。アノード電極7の内部には、アノード電極7を冷却する管状冷却部32も設けられている。冷却部32は、それぞれのヒータ31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体を流通させた後に外部へ排出することのできる冷却管32からなる。冷却管32は、冷却用媒体の導入部32aおよび排出部32bがアノード電極7の一方端部側に偏在して設けられている。また、冷却用媒体の流れる方向が隣り合う冷却管32どうしの間で逆になるようにされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、真空処理装置に関するものであり、さらに詳しくは、真空処理室における被処理物の温度制御をするための加熱部と冷却部とを含む、プラズマ処理装置などの真空処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ処理装置としては、例えば特許文献1および特許文献2に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,264,393号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/95575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のプラズマ処理装置にあっては、長時間の成膜下において、プラズマ加熱によって、被処理物である基板の温度が設定温度よりも上昇してしまうおそれがある。
【0005】
すなわち、プラズマ処理装置に高周波電力や直流電力を供給してプラズマを発生させると、大部分の電力はプラズマ処理用反応ガスの分解に使用されるが、一部の電力によって、約100〜1000cal/分のジュール熱が発生する。このジュール熱は、基板の温度を約0.1〜1℃/分で上昇させる。そして、プラズマ放電を伴うプロセス時間が例えば20分の場合には、最大で20℃程度の基板の温度上昇をもたらすことになる。このため、長時間の成膜を行うときには、加熱機構だけでなく、放熱機構も必要になる。
【0006】
また、特許文献2のプラズマ処理装置における冷却方法によれば、冷却のための構造物がヒータの両側に設けられる。このため、プラズマ処理装置のロードロック室や搬送室などが隣接されたプラズマ処理用チャンバにあっては、そのメンテナンスが片側からに限定されることから、このような冷却方法は適していない。
【0007】
すなわち、このようなチャンバのメンテナンスは、実質的にロードロック室や搬送室などの反対側からに限定される。このため、特許文献2のように、ヒータの両側に空冷用ガス流通管が張り出していると、ロードロック室や搬送室などに近い側の配管についてはメンテナンスが困難になる。
【0008】
この発明は以上のような事情を考慮してなされたものであり、その課題は、加熱と冷却とをバランスさせて、真空処理に用いられる電極を一定の温度範囲に保持するとともに、ロードロック室や搬送室などが隣接された真空処理室における効率的なメンテナンス性を確保することのできる真空処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、被処理物に真空処理を行うための真空処理室と、この真空処理室に設けられた少なくとも一対の対向電極とを備えてなり、前記対向電極のうちの少なくとも一方の電極が、被処理物の温度制御をするための加熱部と冷却部とを含み、加熱部は複数の棒状ヒータからなり、冷却部は内部に冷却用媒体が流通される複数の折り返し状冷却部材からなり、加熱部および冷却部は互いに並列状に設けられ、冷却用媒体の導入部および排出部が前記少なくとも一方の電極の一方側および他方側のうちの一方側に偏在して設けられ、それぞれの冷却部材は、前記少なくとも一方の電極の一方側の導入部から同電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返された後、同電極に沿って再び排出部まで延びているか、または、同電極の内部に冷却部材の断面形状よりも大きく設けられた溝の中を通って再び排出部まで延びており、再び排出部まで延びている部分が同電極と直接接触しないように設けられ、それぞれの冷却部材はさらに、隣接する冷却部材との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されていることを特徴とする真空処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
この発明の真空処理装置は上記のように、加熱部および冷却部が互いに並列状に設けられ、冷却用媒体の導入部および排出部が処理用電極の一方側および他方側のうちの一方側に偏在して設けられ、それぞれの冷却部材は、前記電極の一方側の導入部から同電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返された後、再び排出部まで延びる部分が、同電極と直接接触しないように設けられ、さらに、隣接する冷却部材との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されている。
【0011】
従って、この発明の真空処理装置によれば、上記のように構成された加熱部および冷却部によって、長時間の真空処理でも電極の温度を面内で均一にかつ設定温度範囲に保つことができる。その結果、被処理物の面内バラツキや劣化を抑制することができるとともに、ヒータの過熱による被処理物の変形を防ぐことができる。さらに、ロードロック室や搬送室などが隣接された真空処理室が備わっている真空処理装置にあっても、効率的なメンテナンス性を確保することができる。
【0012】
この発明の真空処理装置は、ある実施の形態では、それぞれの冷却部材が第1冷却管と第2冷却管とからなり、第1冷却管と第2冷却管とが、互いに隣り合うように配設されている。ここで、第1冷却管は、前記導入部から前記電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返されて前記排出部まで延び、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように構成されている。また第2冷却管は、同電極の外部で一方側から他方側まで、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように延び、同電極の他方側で折り返されて他方側から同電極の内部に入り、一方側まで延びるように構成されている。
【0013】
なお、この明細書および特許請求の範囲において、「電極の一方側」とは電極の一方端部側または一方側縁部側を指し、「電極の他方側」とは電極の他方端部側または他方側縁部側を指すものとする。
【0014】
加熱部を構成する棒状ヒータは例えば、前記電極の一方側から前記電極内に入り、前記電極の他方側で折り返され、一方側まで延びるU字状シーズヒータから構成される。
【0015】
それぞれの棒状ヒータは、他の棒状ヒータから独立して加熱温度制御することができ、それぞれの冷却部材は、他の冷却部材から独立して冷却温度制御することができるのが好ましい。
【0016】
この発明の真空処理装置は、ある実施の形態では、冷却部材が、前記電極の全長の半分までの長さで同電極の内部に設けられた、冷却部材の断面形状よりも大きい溝の中を通るように配設することができる。
【0017】
棒状ヒータは、加熱性能が、前記電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成されているのが好ましい。このように構成されているときには、電極の被加熱性がその中央部においてはより大きく、側縁部においてはより小さいという電極の一般的特性に応じて、電極の加熱制御をより効果的に行うことができる。
【0018】
冷却管は、冷却性能が、前記電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成されているのが好ましい。このように構成されているときには、電極の被冷却性がその中央部においてはより小さく、側縁部においてはより大きいという電極の一般的特性に応じて、電極の冷却制御をより効果的に行うことができる。
【0019】
この発明のある実施の形態では、電極の中央部と側縁部とにおける被加熱性の相違を解消するために、棒状ヒータは、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成することができる。
【0020】
この発明のある実施の形態では、電極の中央部と側縁部とにおける被冷却性の相違を解消するために、冷却管は、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成することができる。
【0021】
冷却管は、熱伝導率が同電極を構成する材料の熱伝導率よりも低い材料から構成されているのが好ましい。このように構成されているときには、冷却管の中における冷却用媒体の温度の急激な上昇を抑えることができるため、大型ヒータにおいても電極面の冷却を均一に行うことができ、電極のいっそう均一な加熱/冷却制御を行うことができる。
【0022】
冷却用媒体は、電極の冷却効率を高めるためには、冷却管の内部で停滞することなく常時流通されるのが好ましい。
【0023】
棒状ヒータは例えば、前記電極の側面または表面から5.0mm以上の深さにその先端が位置するよう同電極内部に配設された熱電対で測定された温度に基づいて加熱温度制御される。このような深さに配設された熱電対を使用すると、棒状ヒータの加熱温度制御を良好に行うことができることが、加熱試験により判明したからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の概略正面図である。
【図2】図2は、図1に示されたプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図3】図3は、図2のアノード電極の側面図である。
【図4】図4は、図2のアノード電極のA−A線に沿う断面図である。
【図5】図5は、この発明の実施の形態2における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図6】図6は、図5のアノード電極の側面図である。
【図7】図7は、図5のアノード電極のB−B線に沿う断面図である。
【図8】図8は、この発明の実施の形態3における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図9】図9は、図8のアノード電極の側面図である。
【図10】図10は、この発明の実施の形態4における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図11】図11は、図10のアノード電極の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面である図1〜図11に基づいて、この発明の好ましい4つの実施の形態を説明する。なお、これらによってこの発明が限定されるものではない。
【0026】
実施の形態1
図1に示されたように、実施の形態1における真空処理装置としてのプラズマ処理装置Dは、搬送上流側から搬送下流側へかけて隣接状に設けられた第1真空処理室1、第2真空処理室2および第3真空処理室3を備えてなる。これら3つの真空処理室1〜3は、長手方向に直線状に延びる1つのケーシングを開閉可能な2つの隔離用ゲートバルブ4,4により3つに区画することで構成されている。3つの真空処理室1〜3はステンレス鋼製で、内面には鏡面加工が施されている。ゲートバルブ4,4は、開閉可能に構成され、隣接する2つの真空処理室1,2または2,3を連通状態にするかあるいは隔離することができる。
【0027】
第1真空処理室1は、板状の被処理物である基板5を搬入するための搬入室にされている。第1真空処理室1には、基板5を加熱するヒータ101が設けられている。第2真空処理室2は、搬入室1に接続された、基板5にプラズマ処理を行うためのプラズマ処理室にされている。第3真空処理室3は、プラズマ処理室2に接続された、基板5を搬出するための搬出室にされている。
【0028】
また、搬入室1、プラズマ処理室2および搬出室3はそれぞれ、室内を排気するために開閉バルブ16aを介して外部の真空ポンプ14に接続されている。搬入室1には、その入口側に搬入用扉15が設けられている。プラズマ処理室2は、圧力調整バルブ16bを介して真空ポンプ14に接続されているとともに、プラズマ処理用反応ガスを導入するための反応ガス導入管19に接続されている。搬出室3には、その出口側に搬出用扉17が設けられている。さらに、搬入室1および搬出室3は、それぞれリークガス導入管20に接続されている。
【0029】
プラズマ処理室2には、方形板状のアノード電極7が水平に配置されている。また、プラズマ処理室2のアノード電極7と対向する位置には、プラズマ処理用カソード電極18が設けられている。カソード電極18は、プラズマ処理室2の外部におけるコンデンサ21および整合回路22を介して、高周波電源23へ電気的に接続されている。
【0030】
図2〜図4に示されたように、アノード電極7にはさらに、その内部に、プラズマ処理すべき基板5を加熱するための加熱部31,……,31が設けられている。加熱部31,……,31は、平面形状がU字状であって互いに並列状に隣り合って設けられた7本の棒状ヒータ(ここではシーズヒータ)31,……,31からなる。それぞれの棒状ヒータ31は、図1に示されたように、ヒータ用配線33に接続されている。
【0031】
アノード電極7の内部には、アノード電極7を冷却するための管状冷却部32,……,32も設けられている。冷却部32,……,32は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる14本の冷却管32,……,32からなる。
【0032】
これらの冷却管32,……,32は、アノード電極7を構成する材料(ここではアルミニウム合金)と同じ材料で構成することもできるが、ここでは、熱伝導率がアノード電極7を構成する材料の熱伝導率よりも低い材料(ここではステンレス鋼)から構成されている。
【0033】
それぞれの冷却管32は、図2〜図4に示されたように設けられている。すなわち、冷却管32は、冷却用媒体の導入部32aおよび排出部32bがアノード電極7の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管32の本体部32cが、アノード電極7の一方端部側の導入部32aからアノード電極7の内部へ入り、アノード電極7の他方端部側まで延び、他方端部側で外部へ出て下方へ折り返された後、アノード電極7の下面に沿って、再び排出部32bまで延びている。アノード電極7の下面に沿った本体部32cは、アノード電極7の下面と直接接触しないように配設されている。
【0034】
これらの棒状ヒータ31,……,31は互いに独立して加熱温度制御することができるものであり、これらの冷却管32,……,32は互いに独立して冷却温度制御することができるものである。
【0035】
次に、図4を参照して、アノード電極7の構成および作製方法を説明する。アノード電極7は2枚の板7a,7bを張り合わせた構成である。板7a,7bの各対向面には、棒状ヒータ31を挿入する溝(断面形状が半円)と冷却管32を挿入する溝(断面形状が半円)とが形成されている。これらの板7a,7bは、冷間圧延によるカシメや、ねじ止めにより一体化できる。本実施形態では、ねじ止めにより板7a,7bを一体化して、アノード電極7を作製した。
【0036】
この発明に係るアノード電極7は、複数のヒータ31,……,31および冷却管32,……,32が内部に必要であるため、内部加工が複雑である。しかし、上述のようにアノード電極7を厚み方向に2つに分割して、複数のヒータ31,……,31および冷却管32,……,32を挟み込むことにより、比較的容易に作製することができる。
【0037】
この実施の形態1では、冷却管32のほぼ半分がアノード電極7の裏面側の外部に設けられている。そして、冷却用媒体の流れる方向が隣り合う冷却管32どうしの間で逆になるようにされている。
【0038】
この実施の形態1では、ヒータ31,……,31および冷却管32,……,32が以上のように構成されているので、被処理物である基板5およびアノード電極7の特定箇所を選択的に加熱/冷却制御することが可能であり、基板5の加熱効率およびアノード電極7の冷却効率をよりいっそう向上させることができる。
【0039】
また、この実施の形態1では、アノード電極7の外部を流れる冷却用媒体は、アノード電極7とは接していないため、アノード電極7とほとんど熱交換しない。つまり、温められていない冷却用媒体をアノード電極7の両側から交互に導入することができるので、アノード電極7の表面は面内で均一に冷却することができる。さらに、各冷却管32はアノード電極7の片側のみで分岐しているので、例えば電極交換メンテナンスの際は、アノード電極7の片側のみで冷却管32を取り外せばよい。
【0040】
なお、ヒータ31の加熱部はU字状部分には設けない構造にすることもできる。これにより、ヒータ31の加熱部分と冷却管32の冷却部分との間隔が面内のどこでも同じになり、さらに面内温度分布が向上する。
【0041】
実際の運用方法としては、冷却管32,……,32に冷却用媒体としての一定量の冷却用ガスを流した状態でヒータ31,……,31の電源を入れて、ヒータをPID制御/SSR出力することで、アノード電極7の温度を設定値に合わせる。ここで、冷却用ガス流量ではなくヒータ出力を制御する理由は、流量調整バルブよりもSSR回路の方が応答性・繰り返し耐久性に優れているためである。
【0042】
冷却用ガスの流量は、成膜中にもヒータのSSR出力が有効に動作する(=ヒータ出力がonとoffとを交互に繰り返す)ように設定する。具体的には、RF電力密度0.6W/cm2に対しては750リットル/minが、また、0.8W/cm2に対しては1250リットル/minが挙げられる。ただし、加熱された冷却用ガスによる配管内での圧力上昇を防ぐため、最低でも1リットル/min程度は流して循環させる必要がある。
【0043】
なお、冷却用ガスとしては、熱伝導性の観点からは水素もあり得るが、安全性や費用を考慮すれば窒素や希ガスなどの不活性ガスが望ましい。
【0044】
実施の形態2
図5〜図7に示されたように、実施の形態2における真空処理装置としてのプラズマ処理装置では、上下2枚の板27a,27bを張り合わせた構成のアノード電極27の内部に、実施の形態1と同じ加熱部としての7本の棒状ヒータ(シーズヒータ)31,……,31が設けられている。アノード電極27の下側の板27bには、下方へ開口した8本の長手溝27c,……,27cがこの板27bの長手方向の全長に沿って設けられている。
【0045】
アノード電極27の内部には、アノード電極27を冷却するための管状冷却部42,……,42も設けられている。冷却部42,……,42は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる8本の冷却管42,……,42からなる。
【0046】
それぞれの冷却管42は、図5〜図7に示されたように、冷却用媒体の導入部42aおよび排出部42bがアノード電極27の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管42の本体部42cが、アノード電極27の一方端部側の導入部42aからアノード電極27の上側の板27aの内部へ入り、アノード電極27の他方端部側まで延び、他方端部側で外部へ出て下方へ折り返された後、アノード電極27の下側の板27bの溝27cの内部へ入り、再び排出部42bまで延びている。アノード電極27の下側の板27bの溝27cに沿った本体部42cは、その溝27cと直接接触しないように配設されている。
【0047】
この実施の形態2では、それぞれの冷却管42は、アノード電極27の一方側の導入部から同電極27の内部へ入り、同電極27の他方側まで延び、他方側で折り返された後、同電極27に冷却管42の断面よりも大きく設けられた溝27cの中を通って再び排出部まで延びている。そして、再び排出部まで延びている本体部42cが同電極27と直接接触しないように設けられ、それぞれの冷却管42はさらに、隣接する冷却管42との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されている。
【0048】
従って、アノード電極27の外部を流れる冷却用媒体は、アノード電極27とは接していないため、アノード電極27とほとんど熱交換しない。つまり、温められていない冷却用媒体をアノード電極27の両側から交互に導入することができるので、アノード電極27の表面は面内で均一に冷却することができる。さらに、冷却管42はアノード電極27の片側のみで分岐しているので、例えば電極交換メンテナンスの際は、アノード電極27の片側のみで冷却管42を取り外せばよい。
【0049】
実施の形態3
図8および図9に示されたように、実施の形態3における真空処理装置としてのプラズマ処理装置では、板状構成のアノード電極37の内部に、実施の形態1と同じ加熱部としての7本の棒状ヒータ(シーズヒータ)31,……,31が設けられている。
【0050】
アノード電極37の内部には、アノード電極37を冷却するための管状冷却部52,……,52も設けられている。冷却部52,……,52は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる8本の冷却管52,……,52からなる。
【0051】
それぞれの冷却管52は、図8および図9に示されたように、冷却用媒体の導入部52aおよび排出部52bがアノード電極37の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管52の本体部52cが、アノード電極37の一方端部側の導入部52aからアノード電極37の内部へ入り、アノード電極37の他方端部側まで延び、他方端部側で外部へ出て下方へ折り返された後、アノード電極37の下面に沿って、再び排出部52bまで延びている。アノード電極37の下面に沿った本体部52cは、アノード電極37の下面と直接接触しないように配設されている。
【0052】
棒状ヒータ31,……,31および冷却管52,……,52は、鋳込み法によって設けられたものである。
【0053】
この実施の形態3では、アノード電極37の外部を流れる冷却用媒体は、アノード電極37とは接していないため、アノード電極37とほとんど熱交換しない。つまり、温められていない冷却用媒体をアノード電極37の両側から交互に導入することができるので、アノード電極37の表面は面内で均一に冷却することができる。さらに、各冷却管52はアノード電極37の片側のみで分岐しているので、例えば電極交換メンテナンスの際は、アノード電極7の片側のみで冷却管52を取り外せばよい。
【0054】
実施の形態4
図10および図11に示されたように、実施の形態4における真空処理装置としてのプラズマ処理装置では、板状構成のアノード電極47の内部に、実施の形態1と同じ加熱部としての7本の棒状ヒータ(シーズヒータ)31,……,31が設けられている。
【0055】
アノード電極47の内部には、アノード電極47を冷却するための管状冷却部62,……,62も設けられている。冷却部62,……,62は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる8本の冷却管62,……,62からなる。
【0056】
それぞれの冷却管62は、図10および図11に示されたように、冷却用媒体の導入部62aおよび排出部62bがアノード電極47の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管62の本体部42cが、アノード電極47の一方端部側の導入部62aからアノード電極47の内部へ入り、アノード電極47の他方端部側まで延び、他方端部側で折り返された後、再び排出部62bまで延びている。
【0057】
棒状ヒータ31,……,31および冷却管62,……,62は、鋳込み法によって設けられたものである。
【符号の説明】
【0058】
1・・・第1真空処理室(被処理物搬入室)
2・・・第2真空処理室(プラズマ処理室)
3・・・第3真空処理室(被処理物搬出室)
4・・・ゲートバルブ
5・・・被処理物(基板)
7・・・アノード電極
18・・・カソード電極
27・・・アノード電極
27c・・溝
31・・・加熱部(棒状ヒータ)
32・・・冷却部(冷却管)
32a・・導入部
32b・・排出部
32c・・本体部
42・・・冷却部(冷却管)
42a・・導入部
42b・・排出部
42c・・本体部
52・・・冷却部(冷却管)
52a・・導入部
52b・・排出部
52c・・本体部
62・・・冷却部(冷却管)
62a・・導入部
62b・・排出部
62c・・本体部
【技術分野】
【0001】
この発明は、真空処理装置に関するものであり、さらに詳しくは、真空処理室における被処理物の温度制御をするための加熱部と冷却部とを含む、プラズマ処理装置などの真空処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ処理装置としては、例えば特許文献1および特許文献2に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,264,393号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/95575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のプラズマ処理装置にあっては、長時間の成膜下において、プラズマ加熱によって、被処理物である基板の温度が設定温度よりも上昇してしまうおそれがある。
【0005】
すなわち、プラズマ処理装置に高周波電力や直流電力を供給してプラズマを発生させると、大部分の電力はプラズマ処理用反応ガスの分解に使用されるが、一部の電力によって、約100〜1000cal/分のジュール熱が発生する。このジュール熱は、基板の温度を約0.1〜1℃/分で上昇させる。そして、プラズマ放電を伴うプロセス時間が例えば20分の場合には、最大で20℃程度の基板の温度上昇をもたらすことになる。このため、長時間の成膜を行うときには、加熱機構だけでなく、放熱機構も必要になる。
【0006】
また、特許文献2のプラズマ処理装置における冷却方法によれば、冷却のための構造物がヒータの両側に設けられる。このため、プラズマ処理装置のロードロック室や搬送室などが隣接されたプラズマ処理用チャンバにあっては、そのメンテナンスが片側からに限定されることから、このような冷却方法は適していない。
【0007】
すなわち、このようなチャンバのメンテナンスは、実質的にロードロック室や搬送室などの反対側からに限定される。このため、特許文献2のように、ヒータの両側に空冷用ガス流通管が張り出していると、ロードロック室や搬送室などに近い側の配管についてはメンテナンスが困難になる。
【0008】
この発明は以上のような事情を考慮してなされたものであり、その課題は、加熱と冷却とをバランスさせて、真空処理に用いられる電極を一定の温度範囲に保持するとともに、ロードロック室や搬送室などが隣接された真空処理室における効率的なメンテナンス性を確保することのできる真空処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、被処理物に真空処理を行うための真空処理室と、この真空処理室に設けられた少なくとも一対の対向電極とを備えてなり、前記対向電極のうちの少なくとも一方の電極が、被処理物の温度制御をするための加熱部と冷却部とを含み、加熱部は複数の棒状ヒータからなり、冷却部は内部に冷却用媒体が流通される複数の折り返し状冷却部材からなり、加熱部および冷却部は互いに並列状に設けられ、冷却用媒体の導入部および排出部が前記少なくとも一方の電極の一方側および他方側のうちの一方側に偏在して設けられ、それぞれの冷却部材は、前記少なくとも一方の電極の一方側の導入部から同電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返された後、同電極に沿って再び排出部まで延びているか、または、同電極の内部に冷却部材の断面形状よりも大きく設けられた溝の中を通って再び排出部まで延びており、再び排出部まで延びている部分が同電極と直接接触しないように設けられ、それぞれの冷却部材はさらに、隣接する冷却部材との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されていることを特徴とする真空処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
この発明の真空処理装置は上記のように、加熱部および冷却部が互いに並列状に設けられ、冷却用媒体の導入部および排出部が処理用電極の一方側および他方側のうちの一方側に偏在して設けられ、それぞれの冷却部材は、前記電極の一方側の導入部から同電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返された後、再び排出部まで延びる部分が、同電極と直接接触しないように設けられ、さらに、隣接する冷却部材との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されている。
【0011】
従って、この発明の真空処理装置によれば、上記のように構成された加熱部および冷却部によって、長時間の真空処理でも電極の温度を面内で均一にかつ設定温度範囲に保つことができる。その結果、被処理物の面内バラツキや劣化を抑制することができるとともに、ヒータの過熱による被処理物の変形を防ぐことができる。さらに、ロードロック室や搬送室などが隣接された真空処理室が備わっている真空処理装置にあっても、効率的なメンテナンス性を確保することができる。
【0012】
この発明の真空処理装置は、ある実施の形態では、それぞれの冷却部材が第1冷却管と第2冷却管とからなり、第1冷却管と第2冷却管とが、互いに隣り合うように配設されている。ここで、第1冷却管は、前記導入部から前記電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返されて前記排出部まで延び、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように構成されている。また第2冷却管は、同電極の外部で一方側から他方側まで、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように延び、同電極の他方側で折り返されて他方側から同電極の内部に入り、一方側まで延びるように構成されている。
【0013】
なお、この明細書および特許請求の範囲において、「電極の一方側」とは電極の一方端部側または一方側縁部側を指し、「電極の他方側」とは電極の他方端部側または他方側縁部側を指すものとする。
【0014】
加熱部を構成する棒状ヒータは例えば、前記電極の一方側から前記電極内に入り、前記電極の他方側で折り返され、一方側まで延びるU字状シーズヒータから構成される。
【0015】
それぞれの棒状ヒータは、他の棒状ヒータから独立して加熱温度制御することができ、それぞれの冷却部材は、他の冷却部材から独立して冷却温度制御することができるのが好ましい。
【0016】
この発明の真空処理装置は、ある実施の形態では、冷却部材が、前記電極の全長の半分までの長さで同電極の内部に設けられた、冷却部材の断面形状よりも大きい溝の中を通るように配設することができる。
【0017】
棒状ヒータは、加熱性能が、前記電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成されているのが好ましい。このように構成されているときには、電極の被加熱性がその中央部においてはより大きく、側縁部においてはより小さいという電極の一般的特性に応じて、電極の加熱制御をより効果的に行うことができる。
【0018】
冷却管は、冷却性能が、前記電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成されているのが好ましい。このように構成されているときには、電極の被冷却性がその中央部においてはより小さく、側縁部においてはより大きいという電極の一般的特性に応じて、電極の冷却制御をより効果的に行うことができる。
【0019】
この発明のある実施の形態では、電極の中央部と側縁部とにおける被加熱性の相違を解消するために、棒状ヒータは、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成することができる。
【0020】
この発明のある実施の形態では、電極の中央部と側縁部とにおける被冷却性の相違を解消するために、冷却管は、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成することができる。
【0021】
冷却管は、熱伝導率が同電極を構成する材料の熱伝導率よりも低い材料から構成されているのが好ましい。このように構成されているときには、冷却管の中における冷却用媒体の温度の急激な上昇を抑えることができるため、大型ヒータにおいても電極面の冷却を均一に行うことができ、電極のいっそう均一な加熱/冷却制御を行うことができる。
【0022】
冷却用媒体は、電極の冷却効率を高めるためには、冷却管の内部で停滞することなく常時流通されるのが好ましい。
【0023】
棒状ヒータは例えば、前記電極の側面または表面から5.0mm以上の深さにその先端が位置するよう同電極内部に配設された熱電対で測定された温度に基づいて加熱温度制御される。このような深さに配設された熱電対を使用すると、棒状ヒータの加熱温度制御を良好に行うことができることが、加熱試験により判明したからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の概略正面図である。
【図2】図2は、図1に示されたプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図3】図3は、図2のアノード電極の側面図である。
【図4】図4は、図2のアノード電極のA−A線に沿う断面図である。
【図5】図5は、この発明の実施の形態2における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図6】図6は、図5のアノード電極の側面図である。
【図7】図7は、図5のアノード電極のB−B線に沿う断面図である。
【図8】図8は、この発明の実施の形態3における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図9】図9は、図8のアノード電極の側面図である。
【図10】図10は、この発明の実施の形態4における真空処理装置としてのプラズマ処理装置の1つの構成要素であるアノード電極の平面図である。
【図11】図11は、図10のアノード電極の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面である図1〜図11に基づいて、この発明の好ましい4つの実施の形態を説明する。なお、これらによってこの発明が限定されるものではない。
【0026】
実施の形態1
図1に示されたように、実施の形態1における真空処理装置としてのプラズマ処理装置Dは、搬送上流側から搬送下流側へかけて隣接状に設けられた第1真空処理室1、第2真空処理室2および第3真空処理室3を備えてなる。これら3つの真空処理室1〜3は、長手方向に直線状に延びる1つのケーシングを開閉可能な2つの隔離用ゲートバルブ4,4により3つに区画することで構成されている。3つの真空処理室1〜3はステンレス鋼製で、内面には鏡面加工が施されている。ゲートバルブ4,4は、開閉可能に構成され、隣接する2つの真空処理室1,2または2,3を連通状態にするかあるいは隔離することができる。
【0027】
第1真空処理室1は、板状の被処理物である基板5を搬入するための搬入室にされている。第1真空処理室1には、基板5を加熱するヒータ101が設けられている。第2真空処理室2は、搬入室1に接続された、基板5にプラズマ処理を行うためのプラズマ処理室にされている。第3真空処理室3は、プラズマ処理室2に接続された、基板5を搬出するための搬出室にされている。
【0028】
また、搬入室1、プラズマ処理室2および搬出室3はそれぞれ、室内を排気するために開閉バルブ16aを介して外部の真空ポンプ14に接続されている。搬入室1には、その入口側に搬入用扉15が設けられている。プラズマ処理室2は、圧力調整バルブ16bを介して真空ポンプ14に接続されているとともに、プラズマ処理用反応ガスを導入するための反応ガス導入管19に接続されている。搬出室3には、その出口側に搬出用扉17が設けられている。さらに、搬入室1および搬出室3は、それぞれリークガス導入管20に接続されている。
【0029】
プラズマ処理室2には、方形板状のアノード電極7が水平に配置されている。また、プラズマ処理室2のアノード電極7と対向する位置には、プラズマ処理用カソード電極18が設けられている。カソード電極18は、プラズマ処理室2の外部におけるコンデンサ21および整合回路22を介して、高周波電源23へ電気的に接続されている。
【0030】
図2〜図4に示されたように、アノード電極7にはさらに、その内部に、プラズマ処理すべき基板5を加熱するための加熱部31,……,31が設けられている。加熱部31,……,31は、平面形状がU字状であって互いに並列状に隣り合って設けられた7本の棒状ヒータ(ここではシーズヒータ)31,……,31からなる。それぞれの棒状ヒータ31は、図1に示されたように、ヒータ用配線33に接続されている。
【0031】
アノード電極7の内部には、アノード電極7を冷却するための管状冷却部32,……,32も設けられている。冷却部32,……,32は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる14本の冷却管32,……,32からなる。
【0032】
これらの冷却管32,……,32は、アノード電極7を構成する材料(ここではアルミニウム合金)と同じ材料で構成することもできるが、ここでは、熱伝導率がアノード電極7を構成する材料の熱伝導率よりも低い材料(ここではステンレス鋼)から構成されている。
【0033】
それぞれの冷却管32は、図2〜図4に示されたように設けられている。すなわち、冷却管32は、冷却用媒体の導入部32aおよび排出部32bがアノード電極7の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管32の本体部32cが、アノード電極7の一方端部側の導入部32aからアノード電極7の内部へ入り、アノード電極7の他方端部側まで延び、他方端部側で外部へ出て下方へ折り返された後、アノード電極7の下面に沿って、再び排出部32bまで延びている。アノード電極7の下面に沿った本体部32cは、アノード電極7の下面と直接接触しないように配設されている。
【0034】
これらの棒状ヒータ31,……,31は互いに独立して加熱温度制御することができるものであり、これらの冷却管32,……,32は互いに独立して冷却温度制御することができるものである。
【0035】
次に、図4を参照して、アノード電極7の構成および作製方法を説明する。アノード電極7は2枚の板7a,7bを張り合わせた構成である。板7a,7bの各対向面には、棒状ヒータ31を挿入する溝(断面形状が半円)と冷却管32を挿入する溝(断面形状が半円)とが形成されている。これらの板7a,7bは、冷間圧延によるカシメや、ねじ止めにより一体化できる。本実施形態では、ねじ止めにより板7a,7bを一体化して、アノード電極7を作製した。
【0036】
この発明に係るアノード電極7は、複数のヒータ31,……,31および冷却管32,……,32が内部に必要であるため、内部加工が複雑である。しかし、上述のようにアノード電極7を厚み方向に2つに分割して、複数のヒータ31,……,31および冷却管32,……,32を挟み込むことにより、比較的容易に作製することができる。
【0037】
この実施の形態1では、冷却管32のほぼ半分がアノード電極7の裏面側の外部に設けられている。そして、冷却用媒体の流れる方向が隣り合う冷却管32どうしの間で逆になるようにされている。
【0038】
この実施の形態1では、ヒータ31,……,31および冷却管32,……,32が以上のように構成されているので、被処理物である基板5およびアノード電極7の特定箇所を選択的に加熱/冷却制御することが可能であり、基板5の加熱効率およびアノード電極7の冷却効率をよりいっそう向上させることができる。
【0039】
また、この実施の形態1では、アノード電極7の外部を流れる冷却用媒体は、アノード電極7とは接していないため、アノード電極7とほとんど熱交換しない。つまり、温められていない冷却用媒体をアノード電極7の両側から交互に導入することができるので、アノード電極7の表面は面内で均一に冷却することができる。さらに、各冷却管32はアノード電極7の片側のみで分岐しているので、例えば電極交換メンテナンスの際は、アノード電極7の片側のみで冷却管32を取り外せばよい。
【0040】
なお、ヒータ31の加熱部はU字状部分には設けない構造にすることもできる。これにより、ヒータ31の加熱部分と冷却管32の冷却部分との間隔が面内のどこでも同じになり、さらに面内温度分布が向上する。
【0041】
実際の運用方法としては、冷却管32,……,32に冷却用媒体としての一定量の冷却用ガスを流した状態でヒータ31,……,31の電源を入れて、ヒータをPID制御/SSR出力することで、アノード電極7の温度を設定値に合わせる。ここで、冷却用ガス流量ではなくヒータ出力を制御する理由は、流量調整バルブよりもSSR回路の方が応答性・繰り返し耐久性に優れているためである。
【0042】
冷却用ガスの流量は、成膜中にもヒータのSSR出力が有効に動作する(=ヒータ出力がonとoffとを交互に繰り返す)ように設定する。具体的には、RF電力密度0.6W/cm2に対しては750リットル/minが、また、0.8W/cm2に対しては1250リットル/minが挙げられる。ただし、加熱された冷却用ガスによる配管内での圧力上昇を防ぐため、最低でも1リットル/min程度は流して循環させる必要がある。
【0043】
なお、冷却用ガスとしては、熱伝導性の観点からは水素もあり得るが、安全性や費用を考慮すれば窒素や希ガスなどの不活性ガスが望ましい。
【0044】
実施の形態2
図5〜図7に示されたように、実施の形態2における真空処理装置としてのプラズマ処理装置では、上下2枚の板27a,27bを張り合わせた構成のアノード電極27の内部に、実施の形態1と同じ加熱部としての7本の棒状ヒータ(シーズヒータ)31,……,31が設けられている。アノード電極27の下側の板27bには、下方へ開口した8本の長手溝27c,……,27cがこの板27bの長手方向の全長に沿って設けられている。
【0045】
アノード電極27の内部には、アノード電極27を冷却するための管状冷却部42,……,42も設けられている。冷却部42,……,42は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる8本の冷却管42,……,42からなる。
【0046】
それぞれの冷却管42は、図5〜図7に示されたように、冷却用媒体の導入部42aおよび排出部42bがアノード電極27の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管42の本体部42cが、アノード電極27の一方端部側の導入部42aからアノード電極27の上側の板27aの内部へ入り、アノード電極27の他方端部側まで延び、他方端部側で外部へ出て下方へ折り返された後、アノード電極27の下側の板27bの溝27cの内部へ入り、再び排出部42bまで延びている。アノード電極27の下側の板27bの溝27cに沿った本体部42cは、その溝27cと直接接触しないように配設されている。
【0047】
この実施の形態2では、それぞれの冷却管42は、アノード電極27の一方側の導入部から同電極27の内部へ入り、同電極27の他方側まで延び、他方側で折り返された後、同電極27に冷却管42の断面よりも大きく設けられた溝27cの中を通って再び排出部まで延びている。そして、再び排出部まで延びている本体部42cが同電極27と直接接触しないように設けられ、それぞれの冷却管42はさらに、隣接する冷却管42との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されている。
【0048】
従って、アノード電極27の外部を流れる冷却用媒体は、アノード電極27とは接していないため、アノード電極27とほとんど熱交換しない。つまり、温められていない冷却用媒体をアノード電極27の両側から交互に導入することができるので、アノード電極27の表面は面内で均一に冷却することができる。さらに、冷却管42はアノード電極27の片側のみで分岐しているので、例えば電極交換メンテナンスの際は、アノード電極27の片側のみで冷却管42を取り外せばよい。
【0049】
実施の形態3
図8および図9に示されたように、実施の形態3における真空処理装置としてのプラズマ処理装置では、板状構成のアノード電極37の内部に、実施の形態1と同じ加熱部としての7本の棒状ヒータ(シーズヒータ)31,……,31が設けられている。
【0050】
アノード電極37の内部には、アノード電極37を冷却するための管状冷却部52,……,52も設けられている。冷却部52,……,52は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる8本の冷却管52,……,52からなる。
【0051】
それぞれの冷却管52は、図8および図9に示されたように、冷却用媒体の導入部52aおよび排出部52bがアノード電極37の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管52の本体部52cが、アノード電極37の一方端部側の導入部52aからアノード電極37の内部へ入り、アノード電極37の他方端部側まで延び、他方端部側で外部へ出て下方へ折り返された後、アノード電極37の下面に沿って、再び排出部52bまで延びている。アノード電極37の下面に沿った本体部52cは、アノード電極37の下面と直接接触しないように配設されている。
【0052】
棒状ヒータ31,……,31および冷却管52,……,52は、鋳込み法によって設けられたものである。
【0053】
この実施の形態3では、アノード電極37の外部を流れる冷却用媒体は、アノード電極37とは接していないため、アノード電極37とほとんど熱交換しない。つまり、温められていない冷却用媒体をアノード電極37の両側から交互に導入することができるので、アノード電極37の表面は面内で均一に冷却することができる。さらに、各冷却管52はアノード電極37の片側のみで分岐しているので、例えば電極交換メンテナンスの際は、アノード電極7の片側のみで冷却管52を取り外せばよい。
【0054】
実施の形態4
図10および図11に示されたように、実施の形態4における真空処理装置としてのプラズマ処理装置では、板状構成のアノード電極47の内部に、実施の形態1と同じ加熱部としての7本の棒状ヒータ(シーズヒータ)31,……,31が設けられている。
【0055】
アノード電極47の内部には、アノード電極47を冷却するための管状冷却部62,……,62も設けられている。冷却部62,……,62は、側面形状が細長リング状であってそれぞれの棒状ヒータ31,……,31の外側に沿って互いに並列状に隣り合って設けられ、内部へ導入された冷却用媒体(窒素ガス)を流通させた後に外部へ排出することのできる8本の冷却管62,……,62からなる。
【0056】
それぞれの冷却管62は、図10および図11に示されたように、冷却用媒体の導入部62aおよび排出部62bがアノード電極47の一方端部側に偏在して設けられている。そして、冷却管62の本体部42cが、アノード電極47の一方端部側の導入部62aからアノード電極47の内部へ入り、アノード電極47の他方端部側まで延び、他方端部側で折り返された後、再び排出部62bまで延びている。
【0057】
棒状ヒータ31,……,31および冷却管62,……,62は、鋳込み法によって設けられたものである。
【符号の説明】
【0058】
1・・・第1真空処理室(被処理物搬入室)
2・・・第2真空処理室(プラズマ処理室)
3・・・第3真空処理室(被処理物搬出室)
4・・・ゲートバルブ
5・・・被処理物(基板)
7・・・アノード電極
18・・・カソード電極
27・・・アノード電極
27c・・溝
31・・・加熱部(棒状ヒータ)
32・・・冷却部(冷却管)
32a・・導入部
32b・・排出部
32c・・本体部
42・・・冷却部(冷却管)
42a・・導入部
42b・・排出部
42c・・本体部
52・・・冷却部(冷却管)
52a・・導入部
52b・・排出部
52c・・本体部
62・・・冷却部(冷却管)
62a・・導入部
62b・・排出部
62c・・本体部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に真空処理を行うための真空処理室と、この真空処理室に設けられた少なくとも一対の対向電極とを備えてなり、
前記対向電極のうちの少なくとも一方の電極が、被処理物の温度制御をするための加熱部と冷却部とを含み、
加熱部は複数の棒状ヒータからなり、冷却部は内部に冷却用媒体が流通される複数の折り返し状冷却部材からなり、加熱部および冷却部は互いに並列状に設けられ、冷却用媒体の導入部および排出部が前記少なくとも一方の電極の一方側および他方側のうちの一方側に偏在して設けられ、
それぞれの冷却部材は、前記少なくとも一方の電極の一方側の導入部から同電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返された後、同電極に沿って再び排出部まで延びているか、または、同電極の内部に冷却部材の断面形状よりも大きく設けられた溝の中を通って再び排出部まで延びており、再び排出部まで延びている部分が同電極と直接接触しないように設けられ、
それぞれの冷却部材はさらに、隣接する冷却部材との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されていることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
それぞれの冷却部材は、前記導入部から前記電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返されて前記排出部まで延び、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように構成されている第1冷却管と、同電極の外部で一方側から他方側まで、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように延び、同電極の他方側で折り返されて他方側から同電極の内部に入り、一方側まで延びるように構成されている第2冷却管とからなり、
第1冷却管と第2冷却管とは、互いに隣り合うように配設されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項3】
棒状ヒータは、前記電極の一方側から前記電極内に入り、前記電極の他方側で折り返され、一方側まで延びるU字状シーズヒータである請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項4】
それぞれの棒状ヒータは、他の棒状ヒータから独立して加熱温度制御することができ、それぞれの冷却部材は、他の冷却部材から独立して冷却温度制御することができる請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項5】
冷却部材は、前記導入部から前記電極の全長の半分までの長さで同電極の内部に設けられた、冷却部材の断面よりも大きい溝の中を通るように配設されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項6】
棒状ヒータは、加熱性能が、前記電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項7】
冷却管は、冷却性能が、前記電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成されている請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項8】
棒状ヒータは、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項9】
冷却管は、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成されている請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項10】
冷却管は、熱伝導率が同電極を構成する材料の熱伝導率よりも低い材料から構成されている請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項11】
冷却用媒体は、冷却管の内部で停滞することなく常時流通される請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項12】
棒状ヒータは、前記電極の側面または表面から5.0mm以上の深さにその先端が位置するよう同電極内部に配設された熱電対で測定された温度に基づいて加熱温度制御される請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項13】
前記対向電極のそれぞれに請求項2に記載の冷却部材が配設されてなる真空処理装置。
【請求項1】
被処理物に真空処理を行うための真空処理室と、この真空処理室に設けられた少なくとも一対の対向電極とを備えてなり、
前記対向電極のうちの少なくとも一方の電極が、被処理物の温度制御をするための加熱部と冷却部とを含み、
加熱部は複数の棒状ヒータからなり、冷却部は内部に冷却用媒体が流通される複数の折り返し状冷却部材からなり、加熱部および冷却部は互いに並列状に設けられ、冷却用媒体の導入部および排出部が前記少なくとも一方の電極の一方側および他方側のうちの一方側に偏在して設けられ、
それぞれの冷却部材は、前記少なくとも一方の電極の一方側の導入部から同電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返された後、同電極に沿って再び排出部まで延びているか、または、同電極の内部に冷却部材の断面形状よりも大きく設けられた溝の中を通って再び排出部まで延びており、再び排出部まで延びている部分が同電極と直接接触しないように設けられ、
それぞれの冷却部材はさらに、隣接する冷却部材との間で冷却用媒体が互いに対向して流通するように構成されていることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
それぞれの冷却部材は、前記導入部から前記電極の内部へ入り、同電極の他方側まで延び、他方側で折り返されて前記排出部まで延び、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように構成されている第1冷却管と、同電極の外部で一方側から他方側まで、同電極に沿う部分の少なくとも一部が同電極と接触しないように延び、同電極の他方側で折り返されて他方側から同電極の内部に入り、一方側まで延びるように構成されている第2冷却管とからなり、
第1冷却管と第2冷却管とは、互いに隣り合うように配設されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項3】
棒状ヒータは、前記電極の一方側から前記電極内に入り、前記電極の他方側で折り返され、一方側まで延びるU字状シーズヒータである請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項4】
それぞれの棒状ヒータは、他の棒状ヒータから独立して加熱温度制御することができ、それぞれの冷却部材は、他の冷却部材から独立して冷却温度制御することができる請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項5】
冷却部材は、前記導入部から前記電極の全長の半分までの長さで同電極の内部に設けられた、冷却部材の断面よりも大きい溝の中を通るように配設されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項6】
棒状ヒータは、加熱性能が、前記電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項7】
冷却管は、冷却性能が、前記電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成されている請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項8】
棒状ヒータは、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより小さく、かつ、側縁部においてより大きくなるように構成されている請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項9】
冷却管は、前記電極の平面単位面積当たりにおける設置本数密度が、同電極の中央部においてより大きく、かつ、側縁部においてより小さくなるように構成されている請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項10】
冷却管は、熱伝導率が同電極を構成する材料の熱伝導率よりも低い材料から構成されている請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項11】
冷却用媒体は、冷却管の内部で停滞することなく常時流通される請求項2に記載の真空処理装置。
【請求項12】
棒状ヒータは、前記電極の側面または表面から5.0mm以上の深さにその先端が位置するよう同電極内部に配設された熱電対で測定された温度に基づいて加熱温度制御される請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項13】
前記対向電極のそれぞれに請求項2に記載の冷却部材が配設されてなる真空処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−168810(P2011−168810A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31348(P2010−31348)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【特許番号】特許第4746700号(P4746700)
【特許公報発行日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【特許番号】特許第4746700号(P4746700)
【特許公報発行日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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