説明

真空遮断器の電極接点部材及びその製造方法

【課題】Cu−Cr合金母材の表面に厚いCr微細分散層を形成して耐電圧や遮断性能を向上できる真空遮断器の電極接点部材、及びCr微細分散層を容易に形成できて、製造が簡単な真空遮断器の電極接点部材の製造方法を提供する。
【解決手段】真空遮断器の電極接点部材は、Cuの含有量が40〜80重量%とCrの含有量が20から60重量%とを含むCu−Cr合金母材1の表面に、摩擦攪拌による表面処理で形成した厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層2を形成する。Cr微細分散層2は、表面の平坦化処理を施して使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空遮断器の電極接点部材及びその製造方法に係り、特に耐電圧の低下を防いで遮断性能を向上でき、また製造が容易に行える真空遮断器の電極接点部材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、図4に示すように真空遮断器10は、セラミック等の絶縁材料からなる略円筒状の中空部材11の両端部に、封鎖金具12、13をそれぞれ介在させて金属製の端部板14及び15を固着して絶縁容器を形成し、この内部を真空雰囲気の遮断室を構成する。
【0003】
遮断室の内部には、端部板14を貫通して気密に固着する固定側の通電導体16と、端部板15を貫通する可動側の通電導体17を配置している。これら通電導体16及び17には、それぞれ遮断室内で対向する電極を取り付けている。各電極は例えば図4に示す如く、アークを駆動する磁界発生手段となる円弧溝を備えるコイル電極19A、20Aと、各コイル電極19A、20Aの端面側に固着する電極接点部材19B、20Bとから形成されている。
【0004】
可動側の通電導体17は、一端を端部板15に固定すると共に、他端を通電導体側に固定するベローズ18により気密を保持し、操作装置(図示せず)によって軸方向に移動可能に構成する。そして、操作装置を動作させての電流遮断の際に、電極接点部材19B、20B間等に発生するアークに基づく悪影響を防止するため、中空部材11の内面やベローズ18面を保護するシールド筒21や22を配置している。
【0005】
ところで、コイル電極19A、20Aの対向面に固着する電極接点部材19B、20Bは、真空遮断器10の性能、即ち大電流から小電流まで良好に遮断できて絶縁耐力も高く、しかも耐融着性が良いこと等の性能に大きく影響するため、従来から種々の材料や製造方法が提案されている。
【0006】
例えば、導電性の良好なCu(銅)と耐アーク性成分のクロム(Cr)とを適切な割合で含む粉末混合物を、圧縮してから真空中等の非酸素雰囲気で焼結してCu−Cr焼結合金を作り、これを冷間加工して真空遮断器の電極接点部材を作って、使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、真空遮断器の電極接点部材として、Cu−Crの混合物を不活性ガス雰囲気中又は真空中で溶融し、この溶湯をアトマイズ法で微細化してCuマトリックス中に均一に分散した平均粒径5μm以下のCrを含み、しかも平均粒径150μm以下のCu−Cr合金粉末を得て、このCu−Cr合金粉末を焼結してCrの平均粒径を2から20μmとし、遮断電流や対溶着性等の向上を図ることも提案されている。(特許文献2参照)。
【0008】
更に、Cu板とCr板との積層体や、Cu板Cr粒との積層体、Cu粒とCr粒との混合体や成形体、Cu−Cr合金体の接点表面全面に、高エネルギ密度を有するレーザを所定のオーバラップ率で照射し、急激でしかもピーク温度の極めて高い熱履歴を与えることで、照射表面より深さ50μm程度の領域で、Cu相中に直径が0.1から5μmの微細Crを存在させ、再点弧発生確率を小さくし、遮断特性を向上させる真空遮断器用接点の
製造方法も提案されている(特許文献3参照)。
【0009】
また更に、真空遮断器の接点部材として、Cu又はCu合金からなる第1層と、これと接合するCu−Cr系複合材料からなる第2層とで作る積層複合材料を用い、高い電気伝導度や熱伝導率及び耐熱性を有し、しかも耐アーク性の良くできるようにすることも提案されている(特許文献4参照)。
【0010】
【特許文献1】特表平4−505986号公報
【特許文献2】特開平4−95318号公報
【特許文献3】特開平4−312723号公報
【特許文献4】特開平11−229057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように真空遮断器の電極接点部材は、焼結合金母材中のCrの粒径が微細でかつ均一な組織であれば、耐電圧や遮断性能が向上することが知られている。しかし、上記した各特許文献の如き通常の固相焼結による焼結合金母材の製造では、Cr粉の粒径が10μm程度であると、酸化が進んでしまって焼結が難しく、しかも酸素含有量が増加するため、真空遮断器の性能を低下させてしまうことになる。
【0012】
また、特許文献2のように真空アーク溶解等により製造するCu−Cr合金の電極接点部材は、微細で均一な組織となるので、良好な耐電圧や遮断性能を有する。しかし、導電率が低くて真空遮断器の電極接点部材としては接触抵抗が高くなってしまうし、真空アーク溶解は高価でしかも生産性が悪い欠点がある。
【0013】
更に、36kV以上の電圧の真空遮断器では、電極接点部材の表面に電流アークを発生させ、その後急速冷却させてCr微細分散層を生成する方法(電流化成法)もある。この電流化成法では、接点部材面に均一に皮膜を生成させるには、何回かのアーク発生処理が必要である。その上、この処理時のアークによる金属蒸気が、真空遮断器の絶縁容器を構成するセラミック容器の内面を汚損し、真空遮断器の寿命を低下させてしまう欠点がある。しかも、10から20μmの厚さのCr微細分散層を生成するのが限度であって、72kV以上の電圧に使用する真空遮断器の電極接点部材では、開閉回数が多くなるに従って、耐電圧の低下が著しくなる問題があり、この改善が要求されていた。
【0014】
本発明の目的は、Cu−Cr合金母材の表面に、500μm〜3mm厚さのCr微細分散層を形成し、耐電圧や遮断性能を向上できる真空遮断器の電極接点部材を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、Cu−Cr合金母材の表面に、500μm〜3mmの厚いCr微細分散層を容易に形成でき、しかも製造が簡単な真空遮断器の電極接点部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、真空雰囲気の遮断室内で対向する各電極に固着する接点部材であって、前記接点部材はCuの含有量が40〜80重量%とCrの含有量が20〜60重量%とを含むCu−Cr合金母材の表面に、摩擦攪拌による表面処理で形成した厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を形成したことを特徴としている。
【0017】
好ましくは、前記Cr微細分散層中のCr粒径は、Cu−Cr合金母材中のCr粒径より小さくしたことを特徴としており、更に好ましくは、前記Cr微細分散層中のCr粒径は、0.1〜10μmであることを特徴としている。
【0018】
また本発明による真空遮断器の電極接点部材の製造方法は、Cuの含有量が40〜80重量%とCrの含有量が20〜60重量%とを含むCu−Cr合金母材を用い、このCu−Cr合金母材の表面を摩擦攪拌による表面改質処理により厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を形成し、前記Cr微細分散層には表面の平坦化処理を施したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の真空遮断器の電極接点部材によれば、Cu−Cr合金母材の表面に、摩擦攪拌によって厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を形成しているため、耐電圧が低下するのを防止でき、特に72kV以上の電圧の真空遮断器に使用すると効果的である。また、電極接点部材の遮断性能を向上でき、しかもCu−Cr合金母材は導電率が良好なため、接触抵抗が増加するのを抑制できる利点がある。
【0020】
また、真空遮断器の電極接点部材の製造方法によれば、Cu−Cr合金母材の表面に、厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を摩擦攪拌による表面処理で容易に形成でき、加工も簡単に容易に行えるため、真空遮断器の電極接点部材を量産するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の真空遮断器の電極接点部材は、Cu−Cr合金母材を用いる。そして、Cu−Cr合金母材の表面に、摩擦攪拌により形成した厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を形成している。また、本発明による真空遮断器の電極接点部材の製造方法は、任意の方法で作ったCu−Cr合金母材の表面に、摩擦攪拌による表面処理で厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を形成し、このCr微細分散層の表面に平坦化処理を施して製造する。
【実施例1】
【0022】
本発明の真空遮断器の電極接点部材を、図1に示している。この電極接点部材は、Cu−Cr合金母材1とCr微細分散層2の2層構造として形成している。Cu−Cr合金母材1は、粉末状のCuとCrを所定の割合で混合し、真空或いは不活性ガス中等の非酸素雰囲気で焼結すると共に圧縮して粒体を密着させた焼結Cu−Cr合金母材や、所定の割合のCuとCrを真空溶解して形成したCu−Cr合金母材を使用する。
【0023】
Cu−Cr合金母材1は、Cr含有率が20重量%より小さいと遮断性能の向上が図れず、耐電圧低下の防止も図れないし、またCr含有率が60重量%を超えると、抵抗が高くなって導電率の低下や、電極接点部材が高温となって材料が劣化する恐れがある。このため、Cu−Cr合金母材1中のCu及びCrの割合は、望ましくはCuの含有量が40%〜80重量%、Crの含有量が20〜60重量%である。これらCu及びCrに、必要に応じて周知の如くビスマス(Bi)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)、ニオブ(Nb)、その他の添加用金属材料を適宜加えて形成する。
【0024】
Cu−Cr合金母材1の表面に形成するCr微細分散層2は、厚さtが500μm以上、望ましくは500μm〜3mmに形成する。このCr微細分散層2は、金属板間の接合を行う摩擦攪拌接合(例えば、「塑性と加工(日本塑性加工工学会誌)第43巻 第498号(2002−7)」参照)技術を活用する。本発明のCr微細分散層2は、Cu−Cr合金母材1の表面に回転加工材の先端を押し当てる摩擦攪拌の加工を活用し、回転加工材の回転時の摩擦熱及び加工熱によって、Cu−Cr合金母材1を軟化させて形成する。
【0025】
そして、Cr微細分散層2を形成する微細Cr粒子の粒径は、Cu−Cr合金母材1の粒径に比べて小さな粒径の10μm以下にする。より望ましくは、微細Cr粒子の粒径を、0.1〜10μmの粒径となるようにする。
【0026】
このように電極接点部材を、Cu−Cr合金母材1とCr微細分散層2からなる2層構造とし、Cr微細分散層2の厚さをしかも500μm〜3mmに形成すると、真空遮断器の開閉回数が増えるに従って、耐電圧が低下傾向となるのを抑制することができる。
【0027】
これを図2に示す電圧72kVの真空遮断器を使用し、コンデンサバンクの開閉時における投入電流1kAP−遮断電流200Armsで行った、進み小電流開閉試験の特性図により説明する。図2では、電極接点部材のCr微細分散層の厚みtを、10、20、100、500μmと変化させて試験した場合、それぞれ特性曲線T10からT500に示すようになった。
【0028】
即ち、Cr微細分散層の厚みtが10及び20μmの電極接点部材では、開閉試験が始まってまもなく耐電圧の低下が始まり、しかも10μmの場合は特性曲線T10に示す如く開閉回数60回、また20μmの場合は特性曲線T20に示す如く開閉回数500回を超えると、耐電圧が当初の半分以下となる。更に、Cr微細分散層の厚みtが100μmでも、特性曲線T100に示す如く開閉回数が100回程度から耐電圧の低下が始まってしまっている。
【0029】
これに対して、本発明のようにCr微細分散層の厚みtが500μmの電極接点部材の場合は、特性曲線T500に示す如く耐電圧の低下は著しく遅くなり、開閉回数が1000回を越えても僅かな耐電圧の低下に抑制できるようになる。
【0030】
本発明の真空遮断器の電極接点部材は、例えば図3(a)から(c)に示すような手順によって2層構造に製造する。即ち、まず図3(a)に示す如くCu−Cr合金母材を形成する。次に、図3(b)示す如くCu−Cr合金母材の表面に、摩擦攪拌接合で用いるのと同様に、スターロッドと称する回転加工材の先端を押し当て、回転加工材を回転させた時の摩擦攪拌による摩擦熱及び加工熱によって表面を軟化させ、Cr微細分散層を形成する。
【0031】
最後に、図3(c)示す如くCu−Cr合金母材に形成したCr微細分散層の表面部分を、例えば機械加工によって平坦化処理を施し、また必要に応じて通常の電極と同様にアークを駆動する螺旋状溝を形成する。このように形成した電極接点部材は、各コイル電極にCu−Cr合金母材側を固着させ、Cr微細分散層の面が互いに対向するよう取り付けて使用する。
【0032】
このように真空遮断器の電極接点部材を、摩擦攪拌を用いてCu−Cr合金母材とCr微細分散層の2層構造に製造すると、Cr微細分散層の厚さを500μm〜3mm程度に容易にでき、しかも電極接点部材の量産化を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例である真空遮断器の電極接点部材を示す断面図である。
【図2】電極接点部材のCr微細分散層の異なった厚みで、真空遮断器の進み小電流開閉試験時を行ったときの開閉回数と耐電圧との関係を示す特性図である。
【図3】(a)から(c)は本発明の一実施例である真空遮断器の電極接点部材の製造方法を示す工程の概略図である。
【図4】従来の真空遮断器の例を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1…Cu−Cr合金母材、2…Cr微細分散層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気の遮断室内で対向する電極接点部材であって、前記電極接点部材はCuの含有量が40〜80重量%とCrの含有量が20〜60重量%とを含むCu−Cr合金母材の表面に、摩擦攪拌による表面処理で形成した厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を形成したことを特徴とする真空遮断器の電極接点部材。
【請求項2】
請求項1において、前記Cr微細分散層中のCr粒径は、Cu−Cr合金母材中のCr粒径より小さくしたことを特徴とする真空遮断器の電極接点部材。
【請求項3】
請求項1において、前記Cr微細分散層中のCr粒径は、0.1〜10μmであることを特徴とする真空遮断器の電極接点部材。
【請求項4】
Cuの含有量が40〜80重量%とCrの含有量が20〜60重量%とを含むCu−Cr合金母材を形成し、前記Cu−Cr合金母材の表面を摩擦攪拌による表面改質処理により厚さ500μm〜3mmのCr微細分散層を形成し、前記Cr微細分散層には表面の平坦化処理を施したことを特徴とする真空遮断器の電極接点部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−158216(P2009−158216A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333383(P2007−333383)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】