説明

眼用レンズ物品の製造方法及びそれによって得られる眼用レンズ物品、並びに眼用レンズ物品の成形型

生体適合性に優れた表面を有する眼用レンズ物品を製造するための、新規な方法を提供すること、及び、そのような生体適合性に優れた眼用レンズ物品、並びにかかる眼用レンズ物品を製造するための成形型を提供することを、解決課題とし、型合わせにより、目的とする眼用レンズ物品44を与える形状の成形キャビティを形成する第一の型12と第二の型14の、成形キャビティを与える部位の少なくとも一部に、導電性材料からなる電極28,38をそれぞれ配し、かかる一対の電極28,38に、イオン性モノマーを少なくとも含有するモノマー混合液が該成形キャビティに充填された状態で接触するようにして、該一対の電極28,38間に直流電圧を印加せしめる一方、該モノマー混合液の重合を行なうようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、眼用レンズ物品の製造方法及びそれによって得られる眼用レンズ物品、並びに眼用レンズ物品の成形型に係り、特に、生体適合性に優れた眼用レンズ物品を有利に製造する方法と、かかる方法によって得られる眼用レンズ物品、更には、そのような眼用レンズ物品をモールド成形する際に好適に用いられ得る成形型に関するものである。ここで、眼用レンズ物品とは、コンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズの他、それら眼用レンズの半完成品をも含んでいることが理解されるべきである。
【背景技術】
従来より、コンタクトレンズに代表されるメディカルデバイスの一部には、接触する生体部位に充分な酸素を供給する目的で、高い酸素透過性が求められている。現在のところ、デバイスに高酸素透過性を付与し得る原料としては、ケイ素含有成分が、最も有効であると共に、汎用である。
そして、近年においては、ケイ素含有モノマー等の重合体から構成されたコンタクトレンズが、実用化されている。しかしながら、このようなケイ素含有モノマーから形成される酸素透過性コンタクトレンズにあっては、表面の撥水性が高く、水濡れ性に劣るため、眼に装用した際に涙液とレンズ表面との馴染みが悪く、涙液がレンズ表面ではじかれてしまう。それ故、装用者に対して乾燥感や異物感等の不快感を与えることがある。また、レンズと角膜との間に存在する涙液の交換が良好に行なわれ難くなるところから、涙液中の脂質成分がレンズ表面に付着し易くなり、これによって、コンタクトレンズの光学的特性が損なわれたり、視野の曇りやボケ等が生じる恐れも内在している。このように、レンズ表面の水濡れ性の悪さは、生体適合性の低さへとつながる。
このため、従来より、レンズ表面の撥水性や疎水性に起因する上述せる如き問題を解消して、コンタクトレンズ等の眼用レンズ物品の生体適合性を向上せしめるべく、レンズ表面を親水化して、その水濡れ性を向上させ、涙液との馴染み、ひいては、角膜とレンズ表面の馴染みを高める各種の手法が、提案されてきている。例えば、具体例を挙げると、重合前にプラズマ処理を施したポリプロピレン製成形型を用いて、コンタクトレンズをモールド成形する方法や、コンタクトレンズ材料表面にプラズマ処理を施して、水濡れ性を向上させる方法(特公昭63−40293号公報)、更には、眼用レンズ表面に親水性モノマーをグラフトする方法(特開平6−49251号公報)等が、提案されている。
しかしながら、重合前にプラズマ処理を施したポリプロピレン製成形型を用いて、型内にてモノマー混合液を重合せしめ、コンタクトレンズをモールド成形する方法にあっては、かかる成形型内にてレンズ材料を重合せしめた後、重合物たるレンズを成形型から取り外すことが非常に困難であり、場合によっては、レンズが破損してしまう恐れがあると共に、プラズマ処理では成形型の表面改質を精密に制御することが技術的に困難であり、得られたレンズ表面の表面濡れ性に関する再現性に乏しいものであった。また、このような煩雑な処理を行なっても、レンズ表面においては、僅かな親水性基が、多数の疎水性基の中に存在せしめられるに過ぎなかったのである。
また、コンタクトレンズ材料の表面にプラズマ処理を施して、水濡れ性を向上させる方法や、眼用レンズ表面に親水性モノマーをグラフト重合する方法は、所定のレンズ形状となるように形成されたレンズ表面を化学修飾する手法であるため、材料の変形を招き易く、眼用レンズ材料の光学的な機能を脅かす恐れがあると共に、プラズマ照射によりレンズ表面の化学結合の一部が破壊され、これによって生ずる分解物が、レンズ表面の親水化を阻害する恐れがあった。
さらに、上述した何れの方法にあっても、レンズ表面に対して充分な親水性を与えることが出来ず、また、その効果の持続性も短いものであるにもかかわらず、煩雑な処理工程が必要となるのであって、レンズ製造に費やす時間及びコストが増大したり、生産性を損なうようになるといった問題をも内在していたのである。
また一方、レンズ材料の親水性を高めるために、レンズ材料を与えるモノマー混合液において、親水性モノマーの配合割合を増加せしめることも、考えられているのであるが、親水性モノマーの配合割合を増加すると、それに伴って、ケイ素含有モノマー等の、酸素透過性の向上に寄与するモノマーの配合割合が必然的に減少してしまうこととなる。それ故、酸素透過性と親水性とを共に高度に確保することは、極めて困難であった。
【発明の開示】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、生体適合性に優れた表面を有する眼用レンズ物品を製造するための、新規な方法を提供することにある。また、本発明は、そのような生体適合性に優れた眼用レンズ物品、及びかかるレンズ物品を製造するための成形型を提供することをも、その解決課題とするものである。
そして、本発明者等が、そのような課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、成形型の成形キャビティ内に、レンズ原料であるイオン性モノマーを含むモノマー混合液を充填した状態で、かかる成形型に通電を行なって、モールド成形を行なうと、得られる眼用レンズ物品の表面が有利に親水性化せしめられて、優れた生体適合性が付与され得ることを見出したのである。
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その第一の態様とするところは、第一の型と第二の型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるように構成した成形型を用いて、該成形キャビティ内に、イオン性モノマーを少なくとも含有するモノマー混合液を充填して重合せしめることにより、モールド成形を行なって、該目的とする眼用レンズ物品を製造する方法であって、前記第一及び第二の型の、前記成形キャビティを与える部位の少なくとも一部に、導電性材料からなる電極をそれぞれ配し、かかる一対の電極に、該成形キャビティに充填される前記モノマー混合液が接触するようにすると共に、該一対の電極間に直流電圧を印加することにより、該一対の電極の何れか一方の側若しくは両方の側に、前記イオン性モノマーを移動させる一方、該モノマー混合液の重合を行なうことにより、前記眼用レンズ物品の表面の少なくとも一部に、該イオン性モノマーの重合割合を高めた重合体からなる生体適合性に優れた表面層を形成せしめることを特徴とする眼用レンズ物品の製造方法にある。
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法における第二の態様にあっては、前記一対の電極間に直流電圧を印加することにより、前記成形キャビティ内に充填される前記モノマー混合液中の前記イオン性モノマーを、該一対の電極の何れか一方の側若しくは両方の側の近傍に移動させた後、その移動せしめた状態において、該モノマー混合液の重合を行なうこととなる。
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第三の態様おいては、前記導電性材料として、金属材料、導電性無機材料、又は導電性有機材料が採用される。
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第四の態様では、前記生体適合性に優れた表面層の厚みが、100μm以下となるように、モールド成形が実施されることとなる。
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第五の態様においては、前記イオン性モノマーとして、双性イオン性モノマーが、用いられる。
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法における第六の態様では、前記モノマー混合液として、ケイ素含有モノマーを更に含んでいるものが、採用されることとなる。
ところで、本発明は、上述せる如き眼用レンズ物品の製造方法によって得られる眼用レンズ物品もまた、その対象とするものであって、前記生体適合性に優れた表面層の液滴接触角(液滴法による接触角)が、70°以下とされた眼用レンズ物品を、その態様としている。
さらに、本発明は、上述せる如き眼用レンズ物品の製造方法に有利に用いられ得る、眼用レンズ物品の成形型も、その対象とするものであって、第一の型と第二の型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるように構成し、該成形キャビティ内において、イオン性モノマーを少なくとも含有するモノマー混合液を重合せしめることにより、該目的とする眼用レンズ物品がモールド成形されるようにした成形型であって、前記第一及び第二の型の、前記成形キャビティを与える部位の少なくとも一部に、導電性材料からなる電極をそれぞれ配し、かかる一対の電極に、該成形キャビティに充填される前記モノマー混合液が接触するようにすると共に、該一対の電極間に所定の直流電圧が印加せしめられ得るようにしたことを特徴とする眼用レンズ物品の成形型を、その一つの態様としている。
また、本発明に従う眼用レンズ物品の成形型における他の態様では、前記一対の電極のうち、前記第一の型に配される電極は、前記成形キャビティを与える該第一の型側の成形キャビティ面の全面を構成する一方、前記第二の型に配される電極は、該成形キャビティを与える該第二の型側の成形キャビティ面の一部を構成し、且つ、該第二の型が、光重合を行なうことが可能な光透過部を有している。
ところで、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法における、先述した第一の態様によれば、成形キャビティに充填されるモノマー混合液に接触するように、導電性材料からなる一対の電極が成形型に設けられており、そして、レンズ原料であるモノマー混合液を、成形型の成形キャビティ内に充填した状態において、一対の電極間に、直流電圧を印加するようにしているところから、かかるモノマー混合液中に含まれるイオン性モノマーが、かかる一対の電極のうちの陰極側若しくは陽極側、或いは両方の電極側に、移動するのである。
それ故、一対の電極間に直流電圧を印加する一方、成形キャビティ内に充填されたモノマー混合液の重合を開始すると、モノマー混合液中のイオン性モノマーが、電極に移動した状態において、モノマー混合液の重合が進行せしめられることとなる。即ち、モノマー混合液中のイオン性モノマーが成形キャビティ面の少なくとも一部を構成する電極に引き寄せられて、配向せしめられた状態において、モノマー混合液の重合が進行するところから、重合後に得られる重合体からなる眼用レンズ物品の、前記電極に接触した表面には、かかるイオン性モノマーの重合割合が高められた重合体からなる表面層が形成されることとなるのであり、以て、そのような表面層が形成された部分には、高い親水性(水濡れ性)が付与されて、優れた生体適合性が発現されることとなるのである。
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第二の態様によれば、モノマー混合液中のイオン性モノマーを電極の近傍に移動させた後、その状態を保持したまま、重合を行なうようにしているところから、より一層確実に、生体適合性に優れた表面層が形成されることとなる。
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第三及び第四の態様によれば、生体適合性に優れた表面層が有利に形成されることとなる。
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第五の態様によれば、イオン性モノマーとして、液中で、双性イオンとなるモノマー(双性イオン性モノマー)が採用されているところから、陽極及び陰極の何れの電極の側にも、かかるイオン性モノマーが移動し得るようになる。
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法における第六の態様においては、前記モノマー混合液に、更に、ケイ素含有モノマーが添加されているところから、生体適合性と共に酸素透過性に優れた眼用レンズ物品が有利に製造されることとなる。
また、本発明に従う眼用レンズ物品にあっては、前述せる如き表面層の液滴接触角が70°以下とされている。このため、かかる眼用レンズ物品を、例えば、コンタクトレンズとして使用すれば、水濡れ性に優れているところから、優れた装用感乃至は使用感が得られるようになる。
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の成形型の前記した態様によれば、そのような成形型を用いて得られる眼用レンズ物品に、イオン性モノマーの重合割合を高めた重合体からなる表面層が、有利に形成されることとなる。
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の成形型において、光透過部を形成すれば、重合操作が容易で、且つ短時間での重合が可能な光重合にて、眼用レンズ物品をモールド成形することが出来、眼用レンズ物品の生産性を有利に向上せしめることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明に従う眼用レンズ物品の製造に用いられる成形型の一例を示す断面説明図である。
第2図は、第1図に示された成形型を構成する雄型の断面説明図である。
第3図は、第1図に示された成形型を構成する雌型の断面説明図である。
第4図は、第3図に示される雌型の平面説明図である。
第5図は、本発明手法に従って、眼用レンズ物品を製造する工程の一例を示す説明図であって、型開き状態下において雌型の半球状部内にモノマー混合液を収容させた状態を示している。
第6図は、本発明手法に従って、眼用レンズ物品を製造する工程の一例を示す説明図であって、電極間に直流電圧を印加せしめた際に、成形キャビティ内に充填されたモノマー混合液中のイオン性モノマーが、電極の近傍に移動する状態を示したイメージ図である。
第7図は、本発明手法に従って、眼用レンズ物品を製造する工程の別の一例を示す説明図であって、雄型と雌型との間に形成された成形キャビティ内で、目的とする眼用レンズ物品をモールド重合した状態を示している。
第8図は、本発明手法に従って、眼用レンズ物品を製造する工程の他の一例を示す説明図であって、モールド成形後、成形型を型開きした状態を示している。
第9図は、実施例において使用された3種類の成形型を示す断面説明図であって、(a)は、アルミニウムフィルムからなる電極(陽極)と、真鍮製の針からなる点電極(陰極)が配された成形型Aの断面説明図であり、また、(b)は、アルミニウムフィルムからなる電極(陽極)と、真鍮製の円形状平板からなる平板電極(陰極)が配された成形型Bの断面説明図であり、更に、(c)は、電極が設けられていない、従来のポリプロピレン製の成形型Cの断面説明図である。
第10図は、実施例の試験例1において、通電開始直後から、一対の電極間に流れる電流値の推移を表わすグラフである。
第11図は、実施例の試験例4において、通電開始直後から、一対の電極間に流れる電流値の推移を表わすグラフである。
第12図は、実施例の試験例4において形成された円形プレート状重合体試料における接触角の測定部位を示すための説明図であって、(a)は、重合体試料の、上型側に面した表面の平面図を示し、また、(b)は、重合体試料が脱型される前の成形型Bの断面図を示し、更に、(c)は、重合体試料の、下型側に面した表面の平面図を示している。
第13図は、実施例の試験例6において、重合開始直後から、一対の電極間に流れる電流値の推移を表わすグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る眼用レンズ物品の成形型及び眼用レンズ物品の製造方法の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、第1図には、眼用レンズ物品(ここでは、コンタクトレンズ)を成形するためのモールド重合用成形型の一具体例が示されている。そこにおいて、本実施形態の成形型10は、断面図として示されており、第一の型としての雄型(上型)12と、第二の型としての雌型(下型)14とを有して、構成されている。そして、それら雄型12と雌型14とが型合わせされることにより、それらの型の間に、目的とするコンタクトレンズを与える形状の成形キャビティ16が形成されるようになっている。
より具体的には、かかる成形型10を構成する雄型12は、全体が導電性材料にて構成されており、第2図に示されるように、全体として、上方が開口された有底円筒形状を呈している。そして、その下部に位置する下底部18が、外方に凸なる湾曲面形状とされており、かかる下底部18の外面(凸面)が、目的とするコンタクトレンズの後面(ベースカーブ面)に正確に対応した形状の後面成形キャビティ面20を与えるように構成されている。また、筒壁部21の上側の開口部側の外周部には、径方向外方に突出する外フランジ部22が、一体的に形成されている。そして、そのような雄型12の適当な部位(ここでは、外フランジ部22)には、第1図に示されるように、雄型12と直流電源24のプラス端子とを繋ぐリード線26が、着脱可能に取り付けられるようになっており、通電時においては、かかる雄型12全体が、一方の電極(ここでは、陽極28)を構成するようになっている。即ち、雄型12の後面成形キャビティ面20は、その全面が、陽極28とされているのである。
一方、成形型10を構成する雌型14は、中央の一部分を除き、光が透過可能な透明性を有する材料にて形成されており、第3図に示される如く、全体として、下方が開口された有底円錐台形状を呈している。そして、その上部に位置する上底部30が、略半球面状に下方に向かって窪んだ形状とされている。また、かかる上底部30の凹面の中央部には、第3図及び第4図に示される如く、導電体材料からなる円柱状乃至は棒状の導電体32が、その上面が上底部30の凹面と面一になるように、一体的に取り付けられている。より具体的には、上底部30の凹面の中央部に設けられた、上下方向に貫通する貫通孔に、かかる貫通孔と同様な大きさの円柱状乃至は棒状の導電体32が、導電体32の上面が上底部30の凹面と面一になるように、挿嵌されて、上底部30の貫通孔が完全に埋められることによって、導電体32が一体的に取り付けられている。そして、導電体32の上面と上底部30の凹面の略全面(具体的には、後述する当接部位41より下側の部位)が、目的とするコンタクトレンズの前面(フロントカーブ面)に正確に対応した前面成形キャビティ面34を与えるように構成されているのである。
また、導電体32の下方には、第1図に示されるように、導電体32と直流電源24のマイナス端子とを連結するリード線36が、着脱可能に取り付けられるようになっており、通電時には、かかる導電体32が、一方の電極(ここでは、陰極38)を構成するようになっている。つまり、雌型14の前面成形キャビティ面34は、その中央の一部が点電極(陰極38)にて構成されているのである。また、雌型14には、その側壁部39の下部において、径方向外方に突出する外フランジ部40が、一体的に形成されている。
そして、第1図に示される如く、雄型12の後面成形キャビティ面20の中心と雌型14の前面成形キャビティ面34の中心が一致するように、雄型12と雌型14とを当接せしめて、それらを組み付け、型合わせすることにより、それらの型の間の空間において、当接部位41の下側に、目的とするコンタクトレンズを与える形状の成形キャビティ16が形成されるようになっている。換言すれば、雄型12の後面成形キャビティ面20と雌型14の前面成形キャビティ面34との間の空間にて、成形キャビティ16が形成されるのである。
また、雄型12と雌型14とが型合わせされることにより、それらの型間に、一対の電極(陽極28と陰極38)が、成形キャビティ16を隔てて、絶縁された状態で、対向配置されることとなる。つまり、一対の電極が直に接して短絡することなく、それぞれが成形キャビティ16に露呈するように配されているのである。そして、かかる成形キャビディ16内に、コンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー混合液を充填すると、かかるモノマー混合液が、それぞれの電極に接触することとなる。
ところで、上記した一対の電極は、それぞれ、所定の導電性材料にて形成されているのであるが、かかる導電性材料としては、特に限定されるものではなく、コンタクトレンズを構成する重合体との親和性やその重合体を与えるモノマー混合液との親和性、コスト、成形性等を勘案して、従来から公知の導電性を有する材料が適宜に選択され得るのである。そのような導電性材料の具体例としては、例えば、純金属、鉄系合金、非鉄合金等の金属;導電性ガラス等の導電性無機材料;導電性ポリマー等の導電性有機材料等を挙げることが出来る。これらの中でも、成形型の加工性や導電性を考慮すると、銅合金やアルミ合金が、特に好適に採用される。
なお、導電性材料の導電性の程度は、特に制限されるものではないものの、導電性が低過ぎると、通電を行なうことが困難となるところから、その抵抗率が、10−8〜10Ω・m、より好ましくは10−8〜10−1Ω・mである材料が、好適に採用され得るのである。
また、本実施形態に係る雌型14にあっては、上記した導電体32以外の部位が、光透過性材料にて形成されている。この光透過性材料にあっても、コンタクトレンズを構成する重合体や、それを与えるモノマー混合液との親和性、コスト、成形性を勘案して、公知の光透過性材料の中より適宜に選択されるのであり、光透過性材料の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド等の樹脂材料や、ガラス、石英、溶融石英等を挙げることが出来る。これらの中でも、成形牲や経済性を考慮すると、特に、ポリオレフィンやポリアミド等の樹脂材料が、好適に採用される。
このように、本実施形態に係る成形型10にあっては、雌型14の中央の一部が導電性材料からなる点電極とされているものの、その他の部分が、光透過性材料からなる光透過部とされているところから、光重合によっても充分に重合操作を実施することが出来るようになっているのである。なお、光重合を実施するに際しては、光透過部を有する雌型14側から、光が照射されることは、勿論、いうまでもないところである。
而して、上述せる如き構造とされた成形型10を用いて、目的とする眼用レンズ物品たるコンタクトレンズをモールド成形(重合)して、製造するに際しては、例えば、以下の如き手法が、採用されることとなる。
すなわち、先ず、第5図に示される如く、雌型14の上底部30の凹部内に、図示しない所定の供給装置から、目的とする眼用レンズ物品たるコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー混合液42を、所定量において供給する。
その後、雄型12の後面成形キャビティ面20の中心と雌型14の前面成形キャビティ面34の中心が一致するように、雄型12と雌型14とを組み付けて、型合わせを行なうことにより、それら雄型12と雌型14との間に成形キャビティ16を形成する(第1図参照)と共に、該成形キャビティ16内にモノマー混合液42を充填するのである。
なお、ここで用いられるモノマー混合液42としては、目的とするコンタクトレンズの種類(例えば、ハード、ソフト、非含水性、含水性等)や、コンタクトレンズに必要とされる特性(例えば、酸素透過性等)に応じて、従来から公知のモノマー成分のうちの2種以上を適宜に配合してなる、各種の配合組成のモノマー混合液が用いられることとなるのであるが、本発明においては、かかるモノマー混合液42に、カチオンやアニオン、双性イオン(両性イオン)等の電荷を有する成分が、換言すれば、アニオン性基及び/又はカチオン性基を有するイオン性モノマーが、少なくとも1種以上において含有せしめられる必要がある。何故なら、イオン性モノマーは、水との親和力が強い親水性成分であり、これが含有せしめられない場合には、後述するように一対の電極間に所定の直流電圧を印加しても、イオン性モノマーの重合割合を高めた重合体からなる表面層が形成されず、生体適合性(例えば、親水性)に優れた眼用レンズ物品を製造することが出来ないからである。
かかるイオン性モノマーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル基やアミノ基、置換アミノ基、スルホン酸基、スルホニル基、ホスホリル基等のアニオン性基又はカチオン性基を有する不飽和化合物、より具体的には、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスホエート等のアニオン性モノマーや、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のカチオン性モノマーや、下記構造式(I)で表わされる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)や、下記構造式(II)で表わされる2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(METAC)、N−(3−スルフォプロピル)−N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン(SPE)等の双性イオン性モノマー(両性モノマー)等、従来より公知の不飽和化合物を例示することが出来、そのようなイオン性モノマーのうちの少なくとも1種又は2種以上が適宜に選択されて用いられ得るのであるが、それらの中でも、特に、AMPSやMPC等の双性イオン性モノマーを用いると、得られる眼用レンズ物品の表面に、生体適合性に優れた表面層が効率的に形成されるところから、そのような双性イオン性モノマーが、特に好適に用いられることとなる。

なお、上記したモノマー混合液42におけるイオン性モノマーの配合量は、特に制限されるものではないものの、余りにも少ないと、重合によって得られる眼用レンズ物品の表面における親水性が不充分となる一方、その配合量が多過ぎると、酸素透過性を向上せしめるためのモノマー成分等、他のモノマー成分を充分に配合することが出来なくなって、親水性以外に眼用レンズ物品に必要とされる他の特性を充分に確保することが出来なくなる恐れがあるところから、かかるイオン性モノマーは、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%の割合において、モノマー混合液中に配合せしめられることが望ましい。
また、かかるモノマー混合液42には、上記したイオン性モノマー以外にも、従来より眼用レンズ物品の原料として用いられてきている疎水性のモノマー成分や親水性のモノマー成分、例えば、シリコン含有(メタ)アクリレートやシリコン含有スチレン誘導体、シリコン含有マクロモノマー等のケイ素含有モノマー;フッ素含有スチレン誘導体、フッ素含有アルキル(メタ)アクリレート等のフッ素含有モノマー;(メタ)アクリル酸エステル;架橋性モノマー等が、適宜に選択されて含有せしめられるのである。特に、眼用レンズ物品に対して、優れた酸素透過性を付与したり、また、成形性を良好に確保して、複雑な形状のものを容易に成形するためには、シロキサンマクロモノマーやシロキサンモノマー等のケイ素含有モノマーが含有せしめられることが望ましい。なお、かかるケイ素含有モノマーを用いる場合、その配合量としては、一般に、30〜90重量%、好ましくは50〜80重量%の割合が好適に採用される。また、上記「・・・(メタ)アクリレート」なる表記は、「・・・アクリレート」及び「・・・メタクリレート」を含む総称として用いられており、また、その他の(メタ)アクリル誘導体についても同様である。
更に、かかるモノマー混合液42には、必要に応じて、従来から一般的に用いられている各種の添加剤、例えば、紫外線吸収剤や色素等が、従来と同様に、適量において、添加せしめられても何等差支えなく、更には、非重合性の溶媒が、重合の妨げにならない程度の量において添加されていてもよい。
加えて、そのようなモノマー混合液42は、従来と同様に、熱及び/又は光による重合が有利に実現されるように、採用する重合手法に見合った重合開始剤等が添加された状態で、上述せるように、成形型10の成形キャビティ16内に充填されることとなるのである。
かくして、モノマー混合液42が、成形キャビティ16内に充填されると、そこに収容されたモノマー混合液42が、成形型10に配された一対の電極に接触することとなる。そして、電極とモノマー混合液42が接触した状態で、かかる一対の電極間(陽極28−陰極38間)に、直流電源24から直流電圧を印加して、通電を行なうのである。
この際、電極間に印加する電圧は、コンタクトレンズを構成する材料や原料、成形型10の材質等に応じて、適宜に設定されるのであり、特に制限されるものではない。例えば、コンタクトレンズの前面と後面の両面を親水化したい場合には、一対の電極に正負の直流電圧を印加することが望ましく、また、コンタクトレンズの片面のみを親水化する場合には、正負の何れかの電圧を一方の電極に印加し、他方の電極を0電位(アース)とすることも出来る。但し、印加する電圧は、正の電圧であっても、或いは負の電圧であっても何等差支えないのであるが、コンタクトレンズを構成する材料や原料、成形型10を構成する材料が電気分解しない電圧が、採用されることとなる。何故なら、通電によって材料の分解が惹起されると、気泡が発生する等して、眼用レンズ物品の表面の仕上がりが悪くなる等、悪影響が生じることとなるからである。
このように電圧を印加して、通電を実施すると、第6図に示されるように、モノマー混合液42中のイオン性モノマー43が、一対の電極の何れか一方の側、或いは両方の側に移動することとなる。これにより、通電前にはモノマー混合液42中に均一に存在せしめられていたイオン性モノマー43が、通電によって、電極付近に引き寄せられて偏って存在するようにより、電極付近におけるイオン性モノマー43の濃度が効果的に高められるのである。
そして、かかる通電により、イオン性モノマーが電極の近傍に移動しつつある状態で、或いは、イオン性モノマーの電極近傍への移動が略完了して、イオン性モノマーの濃度が変化しなくなった状態(換言すれば、電極間を流れる電流が一定となった状態)で、モノマー混合液42の重合操作を実施するのである。このように、モノマー混合液42に含有せしめられたイオン性モノマーが、静電的な相互作用によって、電極の周辺、つまり成形キャビティ面側に引きつけられた状態において、モノマー混合液42の重合が進行せしめられると、重合終了後に得られる重合体(眼用レンズ物品)の表面には、通電を実施しないで重合された眼用レンズ物品に比して、より多くのイオン性モノマーが配向して存在せしめられ得ることとなるのであり、特に、電極が配された部位に対応する表面には、イオン性モノマーの重合割合が高められた重合体からなる表面層が形成されることとなるのである。従って、眼用レンズ物品たるコンタクトレンズには、かかる表面層にて、優れた親水性、ひいては生体適合性が付与されることとなる。また、かかる表面層による親水化の効果は長期間に亘って持続するのである。ここにおいて、上記した「イオン性モノマーの重合割合が高められた重合体」とは、イオン性モノマーの濃度分布が均一な通電前のモノマー混合液をそのまま重合して得られる重合体よりも、イオン性モノマーユニットが多く含まれた重合体を意味している。
なお、モノマー混合液42への通電操作とモノマー混合物42の重合操作は、同時に開始しても、或いは、通電操作を開始して、所定時間の経過の後に、重合操作を開始するようにしても良いのであるが、有利には、イオン性モノマーの移動が見かけ上無くなって、濃度分布の変化が生じなくなる状態まで、通電を実施した後、重合が開始せしめられることが望ましく、これによって、イオン性モノマーがより一層有利に電極(成形キャビティ面)側に配向せしめられた状態で、モノマー混合液42の重合が実施されることとなる。そして、得られる眼用レンズ物品にあっては、より一層優れた親水性が付与されるようになるのである。また、重合操作の開始に先立って、モノマー混合液42への通電を実施する場合、かかる通電操作は、重合操作を開始する際に終了するようにしても、或いは重合操作の途中で終了するようにしても、或いは、重合操作の終了と共に終了するようにしても良い。要するに、モノマー混合液42の重合速度や、イオン性モノマーの移動速度等を勘案して、イオン性モノマーの重合割合が、電極の近傍で高くなるように通電処理を施せば良いのである。
ところで、上記モノマー混合液42の重合方法としては、特に限定されるものではなく、モノマー混合液42を室温〜約130℃の温度範囲で徐々に或いは段階的に加熱して重合せしめる熱重合法や、マイクロ波、紫外線、放射線(γ線)等の電磁波を照射して重合を行なう光重合法等、従来から公知の重合方法を何れも採用することが出来る。また、重合は、塊状重合法によって行なわれても良いし、溶媒等を用いた溶液重合法によって行なわれても良く、またその他の方法によって行なわれても良い。
そして、本実施形態においては、第7図に示されるように、紫外光を、光透過性を有する透明な雌型14を通じて、成形キャビティ16内に導入しており、光重合法にてモノマー混合液42の重合を行なっている。
かくして、モノマー混合液42が重合せしめられることにより、生成する重合体にて目的とする眼用レンズ物品たるコンタクトレンズ44がモールド成形されるのである。そして、形成されたコンタクトレンズ44には、雄型12の後面成形キャビティ面20に対応したベースカーブ面と、雌型14の前面成形キャビティ面34に対応したフロントカーブ面が付与されることとなる。
その後、第8図に示されるように、雄型12を雌型14から取り外すことにより、型開きを行ない、そして、かかる型開きの後、従来と同様な離型操作で、コンタクトレンズ44を脱型すれば、目的とする眼用レンズ物品たるコンタクトレンズ44が得られるのである。
このようにして得られたコンタクトレンズ44にあっては、電極に接触していた部分に、イオン性モノマーの重合割合が高められた重合体からなる表面層が形成されるのである。従って、かかる表面層にて、コンタクトレンズ44には、優れた親水性、ひいては生体適合性が付与されているのである。特に、本実施形態に係るコンタクトレンズ44は、雄型12の後面成形キャビティ20の全面が電極であるところから、ベースカーブ面の親水性が極めて効果的に向上せしめられる。これによって、角膜への適合性が向上して、装用感が顕著に高められるのである。
このように、モノマー混合液42中のイオン性モノマーが、レンズ表面に移動した状態で重合が行なわれ、得られる重合体にてコンタクトレンズが形成されているところから、イオン性モノマーの配合量をむやみに増加せしめなくても、従来に比して、優れた親水性が実現されることとなる。それ故、眼用レンズ物品に必要とされる酸素透過性を高度に維持したまま、レンズ表面の親水性を有利に改善することが出来るのである。
しかも、上述せる如くして眼用レンズ物品を製造すれば、眼用レンズ物品のモールド成形と同時に、眼用レンズ物品表面の親水性化を実施することが出来ることから、従来、眼用レンズ物品のモールド成形後に行なっていた煩雑な親水化処理工程も不要となり、レンズ製造に費やす時間やコストを有利に低減することも可能となる。
なお、上述せる如きイオン性モノマーの重合割合が高められた重合体からなる、生体適合性に優れた表面層は、液滴法による水滴の接触角が、70°以下、好ましくは、50°以下とされることが望ましい。
また、このような親水性を有利に実現するためには、上記したイオン性モノマーの重合割合が高められた表面層が、レンズ表面から、0.1〜100μm、より好ましくは0.1〜10μmの厚みとなるように、形成されることが望ましいのである。何故なら、0.1μm未満では、表面層が形成されても、有効な親水性が発現され得ず、所望とする生体適合性を確保することが出来なくなるからであり、また、100μmを超える場合には、眼用レンズ物品自体の基材特性を損なう恐れがあるからである。尤も、上述せる如き表面層を、所望とする厚みにするには、電極間に印加する電圧の大きさや、通電時間、イオン性モノマーの配合量等を適宜に設定すればよい。
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
例えば、上記の実施形態では、雄型12全体が導電性材料にて形成されていたため、雄型12の後面成形キャビティ面20の全面が、一方の電極として作用していたが、かかる後面成形キャビティ面20の全面を電極とする必要は必ずしもなく、雌型14と同様に、後面成形キャビティ面20の一部のみを、導電性材料にて形成して、これを、一方の電極とすることも可能である。また、雌型14にあっても、前面成形キャビティ面34の一部を導電性材料にて形成して点電極とする以外にも、前面成形キャビティ面34の全面を、導電性材料にて形成し、これを、もう一方の電極とすることも可能である。要するに、親水性を付与したいレンズ部位に対応する成形キャビティ面の部位に、電極を配するようにすれば良いのである。但し、一対の電極は、モノマー混合液42が成形キャビティ16内に充填された状態下で電気が通じるように、つまり、電極同士が直接接触せず、モノマー混合液42の非充填下では、絶縁されるように、配されることとなる。
また、雄型12と雌型14を共に金属等の導電性材料にて形成することも可能であるが、上例のように、何れか一方の型に光透過部が形成されるように構成することが、望ましい。何故なら、何れか一方の型に光透過性材料からなる透過部を設ければ、光重合法にて、モノマー混合液42の重合を実施することが可能となるからである。
また、上記実施形態では、雄型12全体が導電性材料にて形成されていたが、例えば、雄型を樹脂材料にて作製し、かかる樹脂製の雄型の下底部18の凸面に、導電性材料をコーティングして、その導電性材料からなるコーティング層を電極としたり、或いは、樹脂製の雄型12の所定の部位に、導電性材料を埋め込み、その部分を電極とすることも可能である。同様に、雌型14についても、各種の形態において、適宜に電極が配されることとなる。
さらに、上例では、第一の型である雄型12に配される電極が、直流電源のプラス端子に接続されて、陽極とされる一方、第二の型である雌型14に配される電極が、直流電源のマイナス端子に接続されて、陰極とされていたが、何れの電極が陽極であっても、或いは陰極であっても良いのであり、レンズ表面の所望とする部位が親水性化され得るように、イオン性モノマーの種類等を勘案して、適宜に設定されることとなる。
加えて、前記実施形態では、コンタクトレンズを成形するための成形型及びその製造方法に対して本発明を適用したものの具体例を示したが、本発明は、そのようなコンタクトレンズの他、眼内レンズ等の眼用レンズ、或いは、それらの眼用レンズの半完成品(例えば、一方の面が完成されたレンズ面形状に成形されている一方、他方の面が、レンズ面としては未だ完成されていない、切削加工等の後加工を必要とする形状に成形された、該眼用レンズを与える眼用レンズ材料)等の、所謂眼用レンズ物品を成形するための成形型及びそれらの製造方法に対しても、有利に適用され得る。そして、特に、眼用レンズ物品が眼用レンズの半完成品の場合には、少なくとも目的とする眼用レンズのレンズ形状に完成された側の面に、親水性が付与されることとなる。
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
<モノマー混合液の準備>
先ず、下記表1に示されるように、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルアクリレート及びジメチルシロキサンマクロモノマーよりなるケイ素含有モノマーの79重量%と、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシエチルアクリレートよりなる親水性モノマーの20重量%と、架橋性モノマーであるエチルジメタクリレートの1重量%とを混合して、溶液(A)を調製した。


そして、下記表2の配合割合となるように、上記で調製された溶液(A)と、イオン性モノマーである2−メタクリロイルオキシメチルホスホリルコリン(MPC)又は2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸(AMPS)とを、混合して、モノマー混合液1〜モノマー混合液4を調製した。なお、かかるモノマー混合液には、それぞれ、全モノマー成分の100重量部に対して、0.2重量部の光重合開始剤:2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン(シグマアルドリッチ社製)と、全モノマー成分の100重量部に対して、20重量部の重合溶媒:エタノール(和光純薬(株)製)を各々添加、混合した。

<成形型の準備>
円形プレート状の重合体試料を作製するために、第9図の(a)〜(c)に示される如き構造の成形型A〜Cの3種類の成形型を、それぞれ、必要な分だけ準備した。
なお、成形型A〜Cは、何れも、0.5mm深さで直径20mmの円形状凹部46,48,50が形成されたポリプロピレン製の下型52,54,56と、かかる下型52,54,56の円形状凹部46,48,50の開口部を全て覆うことが出来る、ポリプロピレン製の平板状の上型58,60,62とから、構成されており、かかる上型と下型の間に形成される空間にて、それぞれ、成形キャビティが形成されている。
かかる成形型A〜Cのうち、成形型Aにあっては、その下型52の中心に、直径2mmの真鍮製の針64が差し込まれており、かかる針64からなる点電極が、凹部46内に収容されるモノマー混合液に接触するようになっている。一方、かかる成形型Aの上型58の下面には、アルミニウムフィルムからなる電極66が、凹部46の開口部を覆うように設置されている。
また、成形型Bにあっては、その下型54の凹部48の中央に位置する部位に、直径10mmの真鍮製の円形状平板68が埋設されており、かかる円形状平板68からなる電極が、凹部48内に収容されるモノマー混合液に接触するようになっている。一方、かかる成形型Bの上型60の下面には、成形型Aと同様に、アルミニウムフィルムからなる電極70が、凹部48の開口部を覆うように設置されている。
一方、成形型Cにあっては、上型62にも下型56にも電極が形成されておらず、従来と同様な樹脂製のモールド成形型とされている。
<試験例 1>
上記で調製されたモノマー混合液1〜4を、それぞれ、上記成形型Aの成形キャビティ内に充填した。そして、上型58側の電極66に、+1.2V、下型52側の電極(64)に、−1.2Vの直流電圧を印加して、通電を行なった。そして、10分間通電を行なった後、ピーク波長が360nmである紫外線を、放射照度が10mW/cmとなるように、下型52の下方側から30分間照射することにより、モノマー混合液の重合を行なった。なお、かかる重合中も、一対の電極間に、電圧を印加し続けた。そして、重合反応終了後、アルミニウムフィルムに付着した円形プレート状重合体試料を、2−プロパノール中に浸漬した。次いで、アルミニウムフィルムから剥離した重合体試料を、生理食塩水中に移して置換した。
また、モノマー混合液1を用いた際において、通電開始時から、一対の電極間を流れる電流値を測定し、得られた電流値の推移を、第10図に示した。かかる第10図より、通電開始後5〜10分で、電流値が安定することが確認された。
さらに、上述せる如くして得られた各円形プレート状重合体試料の表面(第9図中、電極66に接する側の表面中央部)の接触角(液滴法)を測定し、その結果を下記表3に示した。なお、かかる接触角の測定は、重合体試料の表面上に、マイクロシリンジにて約2μlの液滴(蒸留水)を付け、かかる重合体試料表面と液滴との接する角度を、ゴニオメーター式接触角測定装置G−1(エルマ光学株式会社製)を用いて測定することによって、行なった。
<試験例 2>
上記で調製されたモノマー混合液1〜4を、それぞれ、非導電性の上記成形型Cの成形キャビティ内に充填した。そして、10分経過後、ピーク波長が360nmである紫外線を、放射照度が10mW/cmとなるように、下型56の下方側から30分間照射することにより、モノマー混合液の重合を行なった。その後、上記試験例1と同様に、2−プロパノール及び生理食塩水への浸漬処理を行なうことにより、円形プレート状重合体試料を得た。また、そのようにして得られた各重合体試料の表面(第9図中、上型62に接する側の表面中央部)の接触角(液滴法)を測定し、その結果を下記表3に示した。
<試験例 3>
上記で調製されたモノマー混合液1〜4を、それぞれ、上記成形型Aの成形キャビティ内に充填した。そして、電圧を印加することなく、10分経過の後、ピーク波長が360nmである紫外線を、放射照度が10mW/cmとなるように、下型52の下方側から30分間照射することにより、モノマー混合液の重合を行なった。その後、上記試験例1と同様に、2−プロパノール及び生理食塩水への浸漬処理を行なうことにより、円形プレート状重合体試料を得た。また、そのようにして得られた各重合体試料の表面(第9図中、電極66に接する側の表面中央部)の接触角(液滴法)を測定し、その結果を下記表3に示した。

かかる表3の結果から明らかなように、従来よりモールディング製法において一般的に用いられているポリプロピレン製の成形型Cを用いて、電圧を印加することなく、モールド成形を行なって得られた試験例2に係る重合体試料と比較すると、一対の電極が配された成形型Aを用いて、直流電圧を印加した状態で、モールド成形を行なって得られた試験例1に係る重合体試料は、何れも、接触角が著しく低下しており、水濡れ性が高められていることが、認められる。
また、成形型Aを用いて、電圧を印加することなく、アルミニウム製の成形面に接した状態でモールド成形が行なわれた試験例3に係る重合体試料は、何れも、ポリプロピレン製の成形面と接して得られた試験例2に係る重合体試料よりも接触角の値が小さくなっているものの、上記試験例1に係る重合体試料の接触角と比べると、接触角の値が大きなものとなっていることが分かる。
さらに、双性イオン性モノマー不含のモノマー混合液4からなる重合体にあっては、通電を実施しても、接触角があまり低下しないのに対して、双性イオン性モノマーを含むモノマー混合液1〜3からなる重合体にあっては、通電によって、接触角が著しく低下しており、イオン性モノマーが含まれていない系では、通電を行なっても、親水化を有利に実施することが出来ないことが認められる。
<試験例 4>
上記で調製されたモノマー混合液1を、上記成形型Bの成形キャビティ内に充填した。そして、上型60側の電極70に、+1.2V、下型54側の電極(68)に、−1.2Vの直流電圧を印加して、通電を行なった。そして、10分間通電を行なった後、ピーク波長が360nmである紫外線を、放射照度が10mW/cmとなるように、下型54の下方側から30分間照射することにより、モノマー混合液の重合を行なった。なお、かかる重合中も、一対の電極間に、電圧を印加し続けた。そして、重合反応終了後、アルミニウムフィルムに付着した円形プレート状重合体試料を、2−プロパノール中に浸漬した。次いで、アルミニウムフィルムから剥離した重合体試料を、生理食塩水中に移して、置換した。
この際、通電開始時から、一対の電極間を流れる電流値を測定し、得られた電流値の推移を、第11図に示した。また、上述せる如くして得られた円形プレート状重合体試料の表面の接触角(液滴法)を測定し、その結果を下記表4に示した。なお、接触角の測定は、第12図に示されるように、円形プレート状重合体試料72の、電極70側の上面中央部(i)、上面周辺部(ii)、円形状平板68側の下面中央部(iii)、下面周辺部(iv)の4箇所で行なった。また、下記表4には、比較のために、上記試験例1〜3において、モノマー混合液1を重合して得られた重合体試料の接触角を併せて示した。

かかる表4からも明らかなように、一対の電極が配された成形型Bを用いて、直流電圧を印加した状態で、モールド成形を行なって得られた試験例4に係る重合体試料は、ポリプロピレン製の成形型Cを用いて、電圧を印加することなく、モールド成形を行なって得られた試験例2に係る重合体試料や、成形型Aを用いて、電圧を印加することなく、アルミニウム製の成形面に接した状態でモールド成形が行なわれた試験例3に係る重合体試料に比べて、接触角の値が低くなっている。
また、陰極が平板状電極とされた成形型Bを用いて得られた試験例4に係る重合体試料は、陰極が点電極とされた成形型Aを用いて得られた試験例1に係る重合体試料よりも、接触角が大きく低下することが、認められた。
さらに、重合体試料の表面の中でも、とりわけ、陽極や陰極に接して形成された部位(第12図中、i,iii)の接触角が一様に低いものとなった。これは、電極の近傍に、双性イオン性モノマーである2−メタクリロイルオキシメチルホスホリルコリンが凝集したためであると、考えられる。
<試験例 5>
直流電圧を印加した際におけるチャージの影響を確認するために、上記試験例1と試験例4において、モノマー混合液1を重合して得られた重合体試料の接触角(液滴法)を、下記表5に纏めた。

かかる表5からも明らかなように、陽極側表面にあっても、陰極側表面にあっても、親水化が有利に図られていることが分かる。これは、双性イオン性モノマー(MPC)が、通電によって、両側の電極に移動するためであると、考えられる。
<試験例 6>
通電操作と重合操作を実施するタイミングによる影響をみるために、上記表2に示される配合組成のモノマー混合液1と、前記成形型Bを用いて、(1)通電開始から10分を経過した後に重合を開始して、或いは、(2)通電と重合を同時に開始して、円形プレート状重合体試料を作製した。なお、使用した成形型や通電操作と重合操作を実施するタイミング以外は、上記試験例1と同様にして、重合体試料を作製した。
また、重合開始直後から、それぞれの電極間を流れる電流値を測定し、得られた電流値の推移を、第13図に示した。かかる第13図より、重合に先立って電圧を印加した方が、電流値が大きくなっていることが、認められる。
さらに、上述せる如くして得られた各円形プレート状重合体試料の表面(第9図中、電極70に接する側の表面中央部)の接触角(液滴法)を測定し、その結果を下記表6に示した。

かかる表6から明らかなように、(1)重合に先立って通電を開始した場合の重合体試料の方が、(2)通電と重合を同時に開始した場合の重合体試料より、接触角が有利に低下せしめられていることが、分かる。これは、第13図に示される電流値の推移等を勘案すると、上記(2)では、電荷を有するイオン性モノマーが、電極近傍の表面付近に充分に凝集される前に、重合が開始されたことが原因ではないかと考えられる。また、上記(1)では、電極近傍に電荷を有する成分が充分に凝集されて、電流値が安定した状態で、重合を開始しているところから、表面の親水性がより一層有利に高められていると、考えられる。
本実施例では、ケイ素含有モノマーの中でも、疎水性を高め易いシロキサンユニットを含むケイ素含有モノマーが70重量%以上といった高い割合で用いられているところから、通常であれば、接触角が極めて高くなるはずである。しかし、以上の結果から明らかなように、本発明に従って眼用レンズ物品を製造した場合には、その表面の接触角が、70°以下となるのである。因みに、これまで、シロキサンユニットを含むケイ素含有モノマーを用いて、表面の接触角を低下せしめるには、かかるケイ素含有モノマーと同量以上の親水性成分を共重合させる必要があったのであり、この親水性成分の割合の増加によって、酸素透過性が抑制されていたのである。
また、以上の結果より、本実施例において確認された接触角の低下は、電荷を有する成分が、表面側に凝集したことに起因して生じた可能性が高いと推察される。つまり、通電によって、電荷を有する成分の帯電部が、効果的に表面に凝集され、重合によって、バルクとは異なる親水性に優れた表面層を形成するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
以上の説明から明らかなように、本発明に従えば、酸素透過性を高度に維持しつつ、生体適合性、特に水濡れ性に優れた表面を有する眼用レンズ物品を、有利に得ることが出来るのである。また、本発明は、眼用レンズ物品の他にも、生体適合性が必要とされるメディカルデバイスの製造にも適用することが出来る。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の型と第二の型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるように構成した成形型を用いて、該成形キャビティ内に、イオン性モノマーを少なくとも含有するモノマー混合液を充填して重合せしめることにより、モールド成形を行なって、該目的とする眼用レンズ物品を製造する方法であって、
前記第一及び第二の型の、前記成形キャビティを与える部位の少なくとも一部に、導電性材料からなる電極をそれぞれ配し、かかる一対の電極に、該成形キャビティに充填される前記モノマー混合液が接触するようにすると共に、該一対の電極間に直流電圧を印加することにより、該一対の電極の何れか一方の側若しくは両方の側に、前記イオン性モノマーを移動させる一方、該モノマー混合液の重合を行なうことにより、前記眼用レンズ物品の表面の少なくとも一部に、該イオン性モノマーの重合割合を高めた重合体からなる生体適合性に優れた表面層を形成せしめることを特徴とする眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項2】
前記一対の電極間に直流電圧を印加することにより、前記成形キャビティ内に充填される前記モノマー混合液中の前記イオン性モノマーを、該一対の電極の何れか一方の側若しくは両方の側の近傍に移動させた後、その移動せしめた状態において、該モノマー混合液の重合を行なう請求の範囲第1項に記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項3】
前記導電性材料が、金属材科、導電性無機材料、又は導電性有機材料である請求の範囲第1項又は第2項に記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項4】
前記生体適合性に優れた表面層の厚みが、100μm以下である請求の範囲第1項乃至第3項の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項5】
前記イオン性モノマーが、双性イオン性モノマーである請求の範囲第1項乃至第4項の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項6】
前記モノマー混合液が、ケイ素含有モノマーを更に含んでいる請求の範囲第1項乃至第5項の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至第6項の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法によって得られる眼用レンズ物品であって、前記生体適合性に優れた表面層の液滴接触角が、70°以下であることを特徴とする眼用レンズ物品。
【請求項8】
第一の型と第二の型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるように構成し、該成形キャビティ内において、イオン性モノマーを少なくとも含有するモノマー混合液を重合せしめることにより、該目的とする眼用レンズ物品がモールド成形されるようにした成形型であって、
前記第一及び第二の型の、前記成形キャビティを与える部位の少なくとも一部に、導電性材料からなる電極をそれぞれ配し、かかる一対の電極に、該成形キャビティに充填される前記モノマー混合液が接触するようにすると共に、該一対の電極間に所定の直流電圧が印加せしめられ得るようにしたことを特徴とする眼用レンズ物品の成形型。
【請求項9】
前記一対の電極のうち、前記第一の型に配される電極は、前記成形キャビティを与える該第一の型側の成形キャビティ面の全面を構成する一方、前記第二の型に配される電極は、該成形キャビティを与える該第二の型側の成形キャビティ面の一部を構成し、且つ、該第二の型が、光重合を行なうことが可能な光透過部を有している請求の範囲第8項に記載の眼用レンズ物品の成形型。

【国際公開番号】WO2005/032792
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509321(P2005−509321)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012761
【国際出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】