説明

眼科デバイス製造用シリコーン

【課題】末端(メタ)アクリル基の反応率が高い眼科デバイス製造用のシリコーンを提供する。
【解決手段】分子両末端に(メタ)アクリル基を有するシリコーン。


[ここで、R1は下記式で表される基、


3はポリエーテル基をあらわす。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科デバイス製造用シリコーンに関し、詳細には、両末端に(メタ)アクリレート基を有し、眼科デバイス製造用モノマーと共重合させて架橋構造を形成することにより、コンタクトレンズ(親水性コンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲル)、眼内レンズ、人工角膜などの眼科デバイスに好適な可撓性ポリマーを与える両末端(メタ)アクリルシリコーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
両末端に重合性の基を有し、且つ、親水性の側鎖を有するシリコーンは知られており(特許文献1)、該シリコーンを重合性モノマーと共重合して、親水性コンタクトレンズを形成することも知られている。該シリコーンは、ウレタン結合を含まないので医療用途に好適であるとされている。しかし、該シリコーンの末端(メタ)アクリル基の反応率が十分高くなく、未反応物の残存度合により、得られるコンタクトレンズの物性がばらつくという欠点があった。
【特許文献1】特公昭62−29776
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来のポリシロキサンよりも反応率が高いシリコーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、下記式(I)で表される、分子両末端に(メタ)アクリル基を有する、眼科デバイス製造用のシリコーンである。

[ここで、R1は下記式で表される基、

(ここでnは3または4、kは1〜15の整数、jは0〜15の整数、Qはメチル基または水素原子である)
は互いに独立に、炭素数1〜10の、炭化水素基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる基、
3は下記式で表される基、

−C2mO(CO)(CO)

(ここでmは3または4であり、xは1〜15の整数、yは0〜15の整数、Qはメチル基または水素原子である)
aは1〜500の整数、bは1〜100の整数、但し、a+bは50〜500の整数である。]
【発明の効果】
【0005】
上記従来のシリコーンは、シロキサン末端のSi原子と(メタ)アクリロキシ基間がプロピレン基もしくはブチルレン基で結ばれている(特許文献1、第56欄、n34は3〜4)。これに対して、上記式(I)のシリコーンは、所定の長さのオキシアルキレン鎖を備える。これにより、目的とする高反応性が得られる。その理由を、但し、本願発明を限定する趣旨ではなく、考えるとオキシアルキレン基がプロピレン基等より長いためシロキサン部分による反応の阻害が少ないこと、親水性基であるので、モノマーとの相溶性が高いこと等が考えられる。なお、本願発明者による特開2008−202060号記載のシリコーンも(メタ)アクリル基とSi原子の間に、オキシアルキレン基を含むが、(メタ)アクリル基は片末端にあり、ポリマー主鎖にグラフトされる点で、本願シリコーンと異なる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
上記式(I)において、R1は下記式で表される基である。

ここでnは3または4であり、kは1〜15、好ましくは1〜5の整数、jは0〜15、好ましくは0〜3の整数であり、より好ましくはk=1、j=0である。Qはメチル基または水素原子である。本発明のシリコーンは、Rによって高い反応率で架橋構造を形成する。
【0007】
は互いに独立に、炭素数1〜10の、炭化水素基及びトリフロロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基から選ばれる基であり、好ましくはメチル基である。
【0008】
3は下記式で表される基である。

−C2mO(CO)(CO)

ここでmは3又は4の整数であり、xは1〜15、好ましくは4〜12、の整数、yは0〜15、好ましくはx/y≧3となる0〜4の整数である。最も好ましくは、xが4〜12でy=0のポリオキシエチレン基である。Qはメチル基または水素原子であり、好ましくはメチル基である。
【0009】
式(I)において、aは1〜500、好ましくは50〜300の整数、bは1〜100、好ましくは4〜40の整数であり、但し、a+bは50〜500、好ましくは100〜300の整数である。a及びbが上記範囲内であって、且つ、a/bが10〜50であることが、親水性とシロキサンの疎水性とのバランスの点で好ましい。a+bが前記下限値未満では、所望の可撓性を有するポリマーを得ることが難しく、一方、前記上限値を超えては、モノマーとの相溶性が悪くなる傾向がある。
【0010】
本発明のシリコーンは、分子中に疎水性のポリシロキサン部分、側鎖に親水性のエーテル部分を有する。該ポリシロキサン部分は、得られる共重合体の酸素透過性を向上させる作用を有する。一方、親水性のポリエーテル部分は親水性モノマーと相溶し、共重合性を高くする。さらに、両末端の(メタ)アクリル基の反応率が高いので、安定した物性の共重合ポリマーを与えることができる。
【0011】
本発明のシリコーンは、単独重合して眼内レンズ用ポリマーを形成することも不可能ではないが、他の単官能モノマーと共重合して、架橋構造を形成するポリマーとしてより適する。該モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基および他の共重合可能な炭素−炭素不飽和結合有するモノマーが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、 2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモロホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、スチレン、ビニルピリジン、マレイミドなどがあり、(メタ)アクリル、スチリル、(メタ)アクリルアミド等の重合性基含有トリストリメチルシロキシシリルプロピルシランモノマー、ビストリメチルシロキシメチルシリルプロピルシランモノマーが挙げられる。
【0012】
本発明のシリコーンは様々な方法で合成可能である。第1の方法は、下記式(III)の水酸基含有両末端シリコーンと(メタ)アクリル酸クロライドを、例えば脱塩酸剤トリエチルアミン共存下で反応する方法である。該式(III)の水酸基含有両末端シリコーンは酸平衡化法により合成される。



ここでR、R、a、bは上記のとおりであり、Rは下記式で表される基である。

−C2nO(CO)(CO)

(ここでm、k、jは上記のとおりである)。
【0013】
第2の方法は、下記式(II)で表される(メタ)アクリル基を有するハイドロジェンシリコーンと、過剰の(メタ)アリルポリエーテルとを付加反応した後、過剰ポリエーテルを除去し、式(I)のシリコーンを得る方法である。該ハイドロジェンシリコーンは酸平衡化法で合成される。

(ここでR、R、a、bは上記のとおりである。)
【0014】
上記(II)を調製するための最も好ましいルートは、末端源である(メタ)アクリルシリコーンダイマーを出発原料とするルートである。(メタ)アクリルシリコーンダイマーは、下記一般式で表され、

MeSiOSiMe

(R1、Qは上記の通りである)
例えば、下記式(IV)で表されるダイマーを出発原料とする。


該ダイマー(IV)と 1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン及び1,3,5,7−テトラメチルテトラシロキサンを目的の構造となる量で仕込み、たとえばトリフロロメタンスルホン酸触媒で酸平衡、中和、低沸点物を減圧ストリップすることで下記シリコーン(II)を得ることが出来る。

(a、bは上記のとおり)
【0015】
式(II)のシリコーン1モルに対し、(b×1.2)モル程度に相当する量の下記式のポリエーテル
2m-1O(CO)(CO)

(ここでm、x,y、Qは上記のとおり)

をイソプロピルアルコール溶剤、塩化白金酸ビニルシロキサン錯体触媒、酢酸カリウム助触媒下反応し、過剰分のポリエーテルをメタノールで抽出除去することで、目的の両末端メタアクリルシリコーン(I)が得られる。


(R3、a、bは上記のとおりである。)
【0016】
上記(メタ)アクリルシリコーンダイマーは、(1)クロロシラン経由法、(2)水酸基シリコーン、エステル化法等で合成される。以下に各方法の流れを簡単に示す。

(1)ClMeSiH+C2n−1O(CO)(CO)C=OCQ=CH→ヒドロシリル化→ClMeSiC2nO(CO)(CO)C=OCQ=CHと水とを反応→加水分解及び縮合→RMeSiOSiMe
(2)RMeSiOSiMe+2ClC=OCQ=CH→(メタ)アクリル化→RMeSiOSiMe
(ここで、RはC2nO(CO)(CO)H、n、k、jは上記のとおりである)]
【0017】
[実施例]
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
[合成実施例1]
ジムロート、温度計を付けた2Lフラスコに、下記式(IV)のメタアクリルシリコーンダイマー(IV)47.4g(0.1モル)、

1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン1110g(3.75モル)、1,3,5,7−テトラメチルテトラシロキサン36g(0,15モル)を仕込み、トリフロロメタンスルホン酸1.8g(シリコーン分に対して1500ppm)を添加し、室温で8時間反応した。反応物を重曹で中和し、濾過し、120℃、5Torr下で減圧ストリップすることで無色透明なオイル状中間生成物を1070g(収率90%)得た。該中間生成物の物性は以下のとおりである。
粘度(25℃):415mm/s
屈折率(25℃):1.4052
また、29Si−NMR、H−NMRで、以下の構造であることが確認された。但し、シロキサン部分については、組成を示す。

【0018】
次に、ジムロート、温度計を付けた1Lフラスコに、該中間生成物を200g(0.02モル)、下記平均構造式のアリルポリエーテル52g(0.14モル)(中間生成物中のSiH量に対して1.25倍モル量に相当)、

CH=CHCHO(CO)7.4Me

(ポリエーテル鎖長は平均値である。)

イソプロピルアルコール400g、塩化白金酸ビニルシロキサン錯体2%ブタノール溶液0.13g、10%酢酸カリエタノール溶液0.39gを仕込み、イソプロピルアルコール還流下、80℃で4時間反応した。反応系中の残存Si−H量を、定法に従い測定したところ、検出限界以下であった。イソプロピルアルコールを減圧ストリップすることで白濁したオイル状生成物が得られた。これを6倍量のメタノール中に投入したところ、目的物が下層に移行した。また上層のメタノール層に過剰分のポリエーテルは移行した。さらに1回、メタノールで処理し、下層を120℃、5Torr下で減圧ストリップ、濾過することで、146gの無色透明なオイル状生成物(以下「シリコーンA」とする)を得た。
該両末端メタアクリル基含有シリコーンAの物性は以下のとおりである。
粘度(25℃):1223mm/s
屈折率(25℃):1.4150
また、29Si−NMR、H−NMR(図1)で、以下の構造であることが確認された。但し、シロキサン部分については、組成を示す。


[但しRは−CO(CO)7.4Me]
【0019】
[比較合成例1]
合成実施例1のメタアクリルシリコーンダイマー(IV)47.4g(0.1モル)に代えて、以下のシリコーンダイマー(V)38.6g(0.1モル)を使用し、合成実施例1の手順を繰り返したところ、


無色透明なオイル状生成物(「シリコーンB」とする)が得られた。
シリコーンBの物性は以下の通りである。
粘度(25℃):1150mm/s
屈折率(25℃):1.4148
また、29Si−NMR、H−NMRで、以下の構造であることが確認された。但し、シロキサン部分については、組成を示す。

(但しRはCO(CO)7.4Me)
【0020】
[実施例1]
反応容器に、合成実施例1で得られたシリコーンAを30質量部、N-ビニル-2-ピロリドンを70質量部、トリアリルイソシアヌレートを0.1質量部、2、4、6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドを0.1質量部量り採り、攪拌混合した。混合物を、エチレン-ビニルアルコール樹脂製の金型に注入し、露光装置内で1時間UVを照射してポリマーを得た。このポリマー中に残存するメタクリル基を、固体H−NMRにより測定した。該NMRにおいて、残存するメタクリル基は検出されず、シリコーンAのメタクリル基は100%反応していたことが分った。
【0021】
[比較例1]
実施例1のシリコーンAに代えて、比較合成例1で得られたシリコーンBを30質量部使用した以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。このポリマー中に残存するメタクリル基を、固体H−NMRにより測定した。その結果、反応前の8%のメタクリル基の残存が確認され、シリコーンBのメタクリル基は92%しか反応していなかったことが分った。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上の結果より、本発明のシリコーンは、両末端の(メタ)アクリル基が高反応性であり、硬化物中に残存しない。従って、得られるポリマーの物性の再現性が良い。さらに、本発明のシリコーンは、眼科デバイス製造用モノマーとして一般に使用されるモノマーとの相溶性もよく、それらの架橋剤として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】シリコーンAのH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される、分子両末端に(メタ)アクリル基を有する、眼科デバイス製造用のシリコーン。

[ここで、R1は下記式で表される基、

(ここでnは3または4、kは1〜15の整数、jは0〜15の整数、Qはメチル基または水素原子である)
は互いに独立に、炭素数1〜10の、炭化水素基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる基、
3は下記式で表される基、

−C2mO(CO)(CO)

(ここでmは3または4であり、xは1〜15の整数、yは0〜15の整数、Qはメチル基または水素原子である)
aは1〜500の整数、bは1〜100の整数、但し、a+bは50〜500の整数である。]
【請求項2】
式(I)において、k=1、及びj=0である、請求項1記載のシリコーン。
【請求項3】
式(I)で表されるシリコーンの残基を含む、眼科デバイス用ポリマー。
【請求項4】
下記式(II)で表される両末端(メタ)アクリルハイドロジェンシリコーンと、アリルポリエーテルもしくはメタリルポリエーテルと付加反応させる工程を含む、上記式(I)で表されるシリコーンの製造方法。


(ここでR、R2、a、及びbは上記のとおりである)
【請求項5】
上記式(II)で表されるシリコーンが、
(1)下記式で表される(メタ)アクリルシリコーンダイマー

MeSiOSiMe

(R1、Qは上記の通りである)
と1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン及び1,3,5,7−テトラメチルテトラシロキサンを、トリフロロメタンスルホン酸触媒で酸平衡させる工程、
(2)工程(1)で得られた反応物を中和する工程、次いで
(3)低沸点物を減圧ストリップする工程
を含む方法で調製される、請求項4記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−95589(P2010−95589A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266301(P2008−266301)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】