説明

着色の改良されたアクリロニトリル系共重合体の製造方法

【課題】パラスチレンスルホン酸ナトリウムを反応性乳化剤として用いたソープフリー重合によってアクリロニトリル系共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】パラスチレンスルホン酸ナトリウムを用いたソープフリー重合によりアクリロニトリル系共重合体を製造する際、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、あるいは有機酸エステルの少なくとも一種を共重合させることにより、ソープフリー重合により製造されたにも関わらず着色の改善されたアクリロニトリル系共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソープフリー重合を用いたアクリロニトリル系共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニルとアクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体は、湿式紡糸などの手法により合成繊維としたときに、獣毛様の触感を発現し、難燃性も高いことから、パイル素材や難燃素材、かつら用途などの分野で広く利用されている。
【0003】
一般にソープフリー重合でアクリロニトリル系共重合体を重合すると黄色に強く着色することから、このようなアクリロニトリル系共重合体の白度を改良する方法としては、アクリロニトリル、塩化ビニル、スルホン酸基含有モノマーに加えてアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニルのうち少なくとも一つのモノマーを用いた、乳化重合法による方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法では重合時に乳化剤を使用しているため、ラテックス凝固後に残存する乳化剤を除去するために大量の水を用いて洗浄しなければならず、排水への負荷が大きいという問題があった。
【0004】
また、10〜95重量%のアクリロニトリルを用い、塩化ビニルおよび/又は塩化ビニリデンを必須モノマーとし、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、及びパラスチレンスルホン酸ナトリウムなどを共重合させる方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、この方法でも乳化剤を使用しないとの具体的な記載はなく、特許文献1と同様、洗浄工程、及び排水への負荷に課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183931
【特許文献2】特開平8−3813
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ソープフリー重合を用いて製造した際にも樹脂白度の良好なアクリロニトリル系共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、スチレンスルホン酸ナトリウムを用いたソープフリー重合時に、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、あるいはビニルエステル類の単量体を目的とする共重合体組成物に共重合させることで、樹脂白度の改良された共重合体組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、(A)アクリロニトリル15〜55重量%、(B)ハロゲン含有ビニル系モノマー60〜15重量%、(C)パラスチレンスルホン酸ナトリウム1〜5重量%、(D)アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、有機酸ビニルエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマー0.5〜60重量%、をソープフリー重合することを特徴とするアクリロニトリル系共重合体の製造方法(請求項1)、(D)がアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、または酢酸ビニルである請求項1に記載のアクリロニトリル系共重合体の製造方法(請求項2)、(B)が塩化ビニル、塩化ビニリデン、または塩化ビニルと塩化ビニリデンの併用である請求項1または請求項2に記載のアクリロニトリル系共重合体の製造方法(請求項3)、(A)が30〜55重量%、(B)が60〜30重量%、(C)1〜5重量%、(D)が0.5〜10重量%である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアクリロニトリル系共重合体の製造方法(請求項4)、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得られたアクリロニトリル系共重合体を用いたアクリル系合成繊維(請求項5)、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂白度の良好なアクリロニトリル系共重合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例と比較例に係る、(D)成分添加時の樹脂白度変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0012】
本発明はソープフリー重合を用いたアクリロニトリル系共重合体の製造方法に関するものである。
【0013】
本発明のソープフリー重合とは、乳化剤を使用せずに行う重合であって、アクリロニトリル系共重合体の1成分として導入したスルホン酸基含有ビニル系モノマーまたはその塩に、乳化剤の機能を発揮させることを特徴とする乳化重合をいう。
【0014】
また、本発明のアクリロニトリル系共重合体とは、原料モノマーとして、(A)アクリロニトリルを15〜55重量%、(B)ハロゲン含有ビニル系モノマーを60〜15重量%、(C)パラスチレンスルホン酸ナトリウムを1〜5重量%、(D)アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、有機酸ビニルエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーを0.5〜60重量%含むものである。
【0015】
本発明の(A)アクリロニトリルの量は、15〜55重量%、好ましくは30〜55重量%、さらに好ましくは45〜55重量%である。アクリロニトリルが15〜55重量%の範囲であれば、重合中の乳化状態を安定に保つことができ、ラテックスを塩凝固するときの凝固性が良好である。
【0016】
本発明の(B)ハロゲン含有ビニル系モノマーは、ハロゲンを含むビニル系化合物であり、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどがあげられる。中でも、価格、入手の容易さから塩化ビニル、塩化ビニリデン、もしくはそれらの併用が好ましい。また、(B)の量は60〜15重量%、好ましくは60〜30重量%である。使用する(B)の量が15重量%以上、さらには30重量%以上であれば難燃性の点から好ましく、60重量%以下であれば繊維としたときの耐熱性の点から好ましい。
【0017】
本発明の(C)はスルホン酸基含有ビニル系モノマー、またはその塩である。中でも、パラスチレンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。パラスチレンスルホン酸ナトリウムは反応性乳化剤として使用したときの乳化力が高く、得られる共重合体を用いて湿式紡糸を行う際の紡糸性が良好である。その量は、1〜5重量%である。この範囲であれば乳化状態を安定に保つことができ、また、塩凝固させるときの凝固性も良好である。
【0018】
本発明の(D)はアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、有機酸ビニルエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種である。中でも、得られる共重合体を繊維としたときの耐熱性の面からアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニルが好ましい。また、(D)の量は0.5〜60重量%、好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。0.5〜60重量%であれば、白度に優れた共重合体が得られる。特に、10重量%以下では極めて少量の添加で、得られる共重合体の着色を大幅に低減することができる。
【0019】
また、本発明の共重合体の製造においては、(A)〜(D)のモノマーに加え、これらと共重合可能なビニル系モノマーを1種以上加えることが可能である。このとき加えるモノマーはアクリロニトリル系共重合体と共重合可能なものであれば特に制限はないが、例えば、スチレン等の芳香族ビニル系モノマー;(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有単量体及びその塩;ビニルピロリドンなどで代表される複素環式ビニル化合物;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミドなどのビニル系モノマーなどが挙げられる。これらモノマーの添加量としては、目的とする共重合体の性質に影響を及ぼさない範囲が好ましく、具体的には10重量%以下が好ましい。
【0020】
本発明のソープフリー重合の重合開始剤としては、例えばパーオキシド系化合物、アゾ系化合物、または各種のレドックス系化合物を用いることができる。中でも、重合温度を下げることができるレドックス系開始剤を用いることが着色の面から好ましい。このようなレドックス系開始剤としては、例えば、過硫酸塩と第1鉄塩、過酸化水素と第1鉄系のフェントン試薬、過硫酸塩とチオ硫酸ナトリウム系、過硫酸塩と酸性亜硫酸ナトリウム系、過酸化水素とオギシカルボン酸系などが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0021】
重合温度は用いる単量体の組成に応じて適宜決定すればよい。通常は20〜80℃、好ましくは40〜60℃である。
【0022】
また、本発明において共重合体を製造する際には、組成調整、重合収率向上などを目的として、重合中に適宜モノマーや開始剤を追加してもよい。
【0023】
本発明の製造方法で得られる共重合体は、アクリル系合成繊維の製造に利用することが可能である。そのとき、繊維を得るための方法としては、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾式紡糸法など、一般的に用いられる方法を使用することができる。
【0024】
その際用いる溶媒としては、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが例示される。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例および比較例に基づき更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
尚、実施例の説明に先立ち、測定法などの定義について説明する。
【0027】
また、実施例にて用いた「部」は「重量部」を意味する。
(1)樹脂白度
共重合体20gを、50℃にて80gのジメチルスルホキシドに溶解し、20重量%のドープとした。このドープの450nmにおける吸光度を、溶解後30分後に(株)島津製作所製吸光光度計にて測定し、その値を樹脂白度とした。
(2)アクリロニトリル含有量
(株)アナテック・ヤナコ製CHNコーダを用いて樹脂中の窒素含有量を測定し、この窒素分をアクリロニトリル由来の窒素分とし、窒素含有量を計算した。
(3)スチレンスルホン酸ナトリウム含有量
(株)三菱化学製試料燃焼装置QF−02を用い、アルゴン/O2=100/100、加熱温度900℃、加熱時間35分の条件で燃焼ガスを0.3重量%のH22水溶液中に吸収させ、(株)横河電機製のイオンクロマトグラフィーIC−7000を使い、硫黄の含有量を求めた。この硫黄の含有量からスチレンスルホン酸ナトリウムの含有量を算出した。
(4)(D)成分の含有量
バリアン社製の1H―NMR(300MHz)を用いて測定した。
【0028】
(実施例1)
内容積14Lのステンレス製耐圧重合反応装置に、イオン交換水300部、アクリロニトリル4.3部、塩化ビニル50.5部、パラスチレンスルホン酸ナトリウム0.6部、亜硫酸0.365部、硫酸第一鉄0.002部、過硫酸アンモニウム0.025部を仕込み、重合温度60℃、重合時間3時間10分で乳化重合を行った。重合中にアクリロニトリル42.3部、アクリル酸メチル0.5部、パラスチレンスルホン酸ナトリウム1.8部、過硫酸アンモニウム0.165部を追加した。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル49.4重量%、塩化ビニル47.6重量%、アクリル酸メチル0.5重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.149であった。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルの量は48.1部とし、重合中に追加するアクリロニトリルの量は43.8部、アクリル酸メチルの量は1.4部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル50.0重量%、塩化ビニル46.0重量%、アクリル酸メチル1.5重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.134であった。
【0030】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは41.3部とした。また、重合中に追加するアクリロニトリルは42.4部、アクリル酸メチルは9.6部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル48.7重量%、塩化ビニル38.8重量%、アクリル酸メチル10重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.105であった。
【0031】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは29.4部とした。また、重合中に追加するアクリロニトリルは44.4部、アクリル酸メチルは19.5部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル51.2重量%、塩化ビニル27.4重量%、アクリル酸メチル19重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.4重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.098であった。
【0032】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは18.5部とした。また、重合中に追加するアクリロニトリルは16.3部、アクリル酸メチルは58.5部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル20.2重量%、塩化ビニル17.3重量%、アクリル酸メチル60重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.060であった。
【0033】
(実施例6)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは48.4部とし、(D)成分として酢酸ビニル0.5部を最初に仕込んだ。また、重合中に追加するアクリロニトリルは44.4部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル51.2重量%、塩化ビニル45.8重量%、酢酸ビニル0.5重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.153であった。
【0034】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは47.6部、酢酸ビニルは1.6部とした。また、重合中に追加するアクリロニトリルは44.1部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル51.2重量%、塩化ビニル44.7重量%、酢酸ビニル1.5重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.6重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.138であった。
【0035】
(実施例8)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは47.7部、酢酸ビニルは2.9部とした。また、重合中に追加するアクリロニトリルは42.7部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル49.7重量%、塩化ビニル44.7重量%、酢酸ビニル3重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.6重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.132であった。
【0036】
(実施例9)
実施例1と同様の方法で重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは41.4部、酢酸ビニルは9.5部とした。また、重合中に追加するアクリロニトリルは42.4部とした。重合終了後、未反応の塩化ビニルを回収し、共重合体ラテックスを得た。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル48.2重量%、塩化ビニル39.3重量%、酢酸ビニル10重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.130であった。
【0037】
(実施例10)
実施例1と同様の方法にて重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは45.6部とした。重合中に追加するアクリロニトリルは44.8部とし、(D)成分として、アクリル酸メチルの代わりにメタクリル酸メチル2.9部を用いた。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル51.6重量%、塩化ビニル43.1重量%、メタクリル酸メチル2.9重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.4重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.159であった
【0038】
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて重合を行った。ただし、(D)成分は用いず、最初に仕込むアクリロニトリルは4.9部、塩化ビニルは50.6部とし、重合中に追加するアクリロニトリルは42.1部とした。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル49.8重量%、塩化ビニル47.7重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.247であった。
【0039】
(比較例2)
比較例1と同様の方法にて重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは48.9部、アクリロニトリルは4.3部とし、重合中に追加するアクリロニトリルは41.5部、(D)成分は塩化ビニリデン2.9部とした。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル48.2重量%、塩化ビニル46.3重量%、塩化ビニリデン3.0重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.241であった。
【0040】
(比較例3)
比較例2と同様の方法にて重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは29.1部とし、重合中に追加するアクリロニトリルは25.6部、塩化ビニリデンは38.6部とした。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル30.4重量%、塩化ビニル27.6重量%、塩化ビニリデン39.5重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.205であった。
【0041】
(比較例4)
比較例2と同様の方法にて重合を行った。ただし、最初に仕込む塩化ビニルは19.4部とし、重合中に追加するアクリロニトリルは15.1部、塩化ビニリデンは58.8部とした。得られた共重合体の組成は、アクリロニトリル19.8重量%、塩化ビニル17.8重量%、塩化ビニリデン59.9重量%、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.5重量%であった。
得られた共重合体の樹脂白度を測定したところ、その値は0.120であった。
【0042】
得られた共重合体の組成、および樹脂白度の一覧を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1〜10から分かるように、(D)成分を少量(アクリロニトリル系共重合体100重量部に対して0.5重量部以上)加えることにより、樹脂白度は急激に向上した。アクリル酸メチルを10重量%添加した時には樹脂白度は0.105となった。その後も、樹脂白度は緩やかに向上し、アクリル酸メチルの割合が60重量%となったときには、樹脂白度はおよそ0.06になった。(D)成分として酢酸ビニル、およびメタクリル酸メチルを用いた場合にも同様の傾向が見られた。一方、比較例2〜4のように、(D)成分に代わり塩化ビニリデンを加えたときには樹脂白度の急激な向上は起こらず、約10重量%添加したときでも樹脂白度の値は0.205であった。
【0045】
本発明の方法により製造される共重合体は、合成繊維として利用することが可能である。しかしながら、共重合体の樹脂白度が悪化すると、合成繊維としたときに着色が起こり、染色時の発色が悪化するなどの問題が生じる。このような問題が発生しない樹脂白度の値は0.15未満であるが、本発明の製造方法を用いて得られる共重合体はこの条件をみたしている。このことから、本発明の方法によれば、十分な樹脂白度を有し、アクリル系合成繊維を製造するのに好適なアクリロニトリル系共重合体が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アクリロニトリル15〜55重量%、(B)ハロゲン含有ビニル系モノマー60〜15重量%、(C)パラスチレンスルホン酸ナトリウム1〜5重量%、(D)アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、有機酸ビニルエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマー0.5〜60重量%、をソープフリー重合することを特徴とするアクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項2】
(D)がアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、または酢酸ビニルである請求項1に記載のアクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項3】
(B)が塩化ビニル、塩化ビニリデン、または塩化ビニルと塩化ビニリデンの併用である請求項1または請求項2に記載のアクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項4】
(A)が30〜55重量%、(B)が60〜30重量%、(C)1〜5重量%、(D)が0.5〜10重量%である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアクリロニトリル系共重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得られたアクリロニトリル系共重合体を用いたアクリル系合成繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2011−52119(P2011−52119A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202348(P2009−202348)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】