知覚的選好ガイドラインに基づく適応型シグモイド関数を用いたデジタル・イメージ・トーン・マッピングのためのシステム及び方法
【課題】イメージ再現システムにおいて、ユーザの好みに合った再現イメージをより低コストかつ高速に生成すること。
【解決手段】知覚的な選好指針に基づく適応型イメージトーンマッピング曲線(170)をS字形関数として生成する。S字形関数のパラメータ(150)(勾配とシフト)は、元のイメージ統計値(149)により決定される。異なるイメージに対して生成されたトーン曲線(170)の各々は、なめらかなS字形状をなしており、そのため、トーンマッピング処理によって、イメージヒストグラムの形状が急激に変化することはない。S字形トーン曲線(170)の計算は、αとβの計算に使用される種々の要素を予め計算し、記憶することによって、及び、2つの極値勾配を有する一対の固定トーン曲線(158)を生成して、これらの曲線(158)間を補間することによって、単純な算術演算を用いて効率的に実行することができる。
【解決手段】知覚的な選好指針に基づく適応型イメージトーンマッピング曲線(170)をS字形関数として生成する。S字形関数のパラメータ(150)(勾配とシフト)は、元のイメージ統計値(149)により決定される。異なるイメージに対して生成されたトーン曲線(170)の各々は、なめらかなS字形状をなしており、そのため、トーンマッピング処理によって、イメージヒストグラムの形状が急激に変化することはない。S字形トーン曲線(170)の計算は、αとβの計算に使用される種々の要素を予め計算し、記憶することによって、及び、2つの極値勾配を有する一対の固定トーン曲線(158)を生成して、これらの曲線(158)間を補間することによって、単純な算術演算を用いて効率的に実行することができる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一般に、デジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムに関するものであり、とりわけ、知覚的選好ガイドラインに基づくデジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】デジタル・イメージ・マッピングとは、捕捉(または撮像)シーンの輝度レベルを出力装置(ディスプレイまたはプリンタ)の輝度または濃度レベルにマッピングするプロセスをいう。デジタル・イメージ・トーン・マッピングは、シーンの輝度範囲が出力装置の輝度範囲に整合することが滅多にないために必要とされる。デジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムを任意のデジタル装置内で実施することにより、視覚的に満足のいく出力イメージを得ることが可能になる。例えば、こうした装置には、デジタル・カメラ、スキャナ、デジタル・カムコーダ、デジタル・イメージを印刷することが可能なプリンタ、及び、デジタル・テレビジョンを含めることができる。さらに、デジタル・トーン・マッピング・アルゴリズムは、画質改善ソフトウエアアプリケーションにおいて使用される場合が多い。
【0003】人間の目は、さまざまな光レベルにさまざまに適応するので、もとのシーンに対して「正確に」見える再現イメージを生成しようとする場合には、知覚的要素を考慮しなければならない。用途に応じて、イメージ・トーン・マッピングには、一般に、3つの目標、すなわち、(1)外観の一致、(2)主観的選好、及び、(3)情報保存、の内の1つの目標がある。外観の一致という目標では、再現されたイメージをできる限りもとのシーンに知覚的に似せようとする。これは、通常、顧客の画像形成及びイメージ合成用途における暗黙の目標である。主観的選好を考慮すると、イメージをできる限り、見る者にとって満足のいくものにすることができる。これは、通常、顧客の画像形成及び営業用写真において望ましい。目標が情報保存の場合、アルゴリズムは、イメージの全ての領域及び全ての輝度レベルにおける細部を保存または改善(または強調)しようとする。これは、医療用撮像、衛星による撮像、及び、アーカイビングにおいて最も多く要求される。
【0004】多くの既存のトーン・マッピング・アルゴリズムは、もとのイメージと再現イメージとの外観の一致を実現することに主眼を置いている。こうしたアルゴリズムにおいて一般に考慮される知覚的要素には、少なくとも、(1)大局的輝度適応と(2)局所的輝度適応、の2つがある。シーンの総合的な大局的輝度レベルは、目の適応状態に影響する。こうした大局的輝度適応の2つの側面が、トーン・マッピング、明るさ、及び、空間コントラストにかなりの影響を及ぼす。
【0005】まず、明るさ関数(輝度関数)は、シーンの輝度レベルが異なれば異なることになる。見る者の知覚した光強度に対応する知覚された明るさは、ほぼ、物理的輝度のベキ関数である(スティーヴンスの法則)。全体の輝度レベルが高くなると、こうしたベキ関数の指数は大きくなる。輝度の低い装置でイメージを再現する場合には、指数を調整して、こうした差に適応しなければならない。明るさ関数の変化に加えて、目が、異なる周囲輝度レベルに適応すると、目の空間コントラスト感度も変化する。周囲が明るい場合、目は、周囲が暗い場合に比べて、よりはっきりとイメージの高空間周波数成分(細部)を知覚する、すなわち、目の視覚的鋭敏度は、周囲の照明が良くなると向上する。また、コントラストしきい値、すなわち、イメージの成分を検出するのに必要とされる最低コントラストは、輝度レベルが増すにつれて低下する。輝度の低い装置で明るいイメージを再現するために、これらの効果を考慮して、イメージにおける細部の輝度コントラストを高めることが可能である。
【0006】Jack Holmと、Tumblin&Rushmeierによってそれぞれ開発された2つの異なるトーン・マッピング・アルゴリズムは、シーンの絶対輝度レベルに基づいてトーン曲線の曲率を調整することによって、明るさ関数の変化を考慮する。これらのトーン・マッピング方法(両方とも、参考として本明細書に援用する)は、それぞれ、Holm,J.による「Photographic Tone and Colour Reproduction Goals」(CIE Expert Symposium on Colour Standards for Image Technology,pp.51-56(1996))、Tumblin,J.及びRushmeier,H.による「Tone Reproduction for RealisticImages」(IEEE Computer Graphics and Applications,13(6):42-48(1993))にそれぞれ記載されている。これらのアルゴリズムには、ハイエンドのデジタル画像形成において望ましい、もとのイメージに対応する明または暗の全体的な感じが適正に生成されるという利点がある。しかし、両方とも、もとのイメージの絶対輝度レベルに関する正確な情報が必要になる。デジタル・カメラの場合、生(すなわち未加工)のピクセル値、及び、開口、露出時間、レンズ特性等のようなカメラの撮影設定条件からイメージ・ピクセルの絶対輝度レベルを推定することが可能である。しかし、低コストのカメラの場合、複雑さ及びコストが増すため、こうした計算はできないことが多い。従って、選好(好みや趣向)に主眼を置いた大局的輝度適応による解決がより実際的である。
【0007】選好に基づくトーン・マッピング・アルゴリズムの場合、目標は、見る者が好む所定の組をなすイメージ特性を実現することである。広く用いられているヒストグラム等化法は、こうしたアルゴリズムとして分類することができる。ヒストグラム法は、最も「良好な」イメージは、出力ダイナミック・レンジを完全に占める輝度ヒストグラムを有する、という観測結果に基づくものである。このアルゴリズムは、イメージのグレー・レベルを調整して、フラットなガウス形状または他の所定の形状に向かってヒストグラム形状を移行させる。もちろん、こうした方法がどれほどうまく働くかは、全ての「良好な」イメージが同じヒストグラムを有しているという仮定が真か否かによって決まる。この方法は、対称性を有して、良好に分布したヒストグラムを有するイメージにはうまく作用するが、イメージに暗い、または、明るい、広い面積の背景が存在し、このため、ヒストグラムが一方の側に偏る場合には、イメージが不自然に見える。
【0008】Larson他によって開発された修正ヒストグラム等化法は、伝統的なヒストグラム等化法よりも頑強である。Larsonの方法では、トーン・マッピングで許容されるグレー・レベルの調整量が制限される。グレー・レベルの調整量は、輝度コントラスト感度測定に基づいて制限される。さらに、この方法のバリエーションの1つでは、さまざまな照明レベル下における視覚的鋭敏度の変化も考慮されている(参照により本明細書に援用する、Larson,G.W.,Rushmeier,H.及び、Piatko,C.,による「A Visibility Matching Tone Reproduction Operator for High Dynamic Range Scenes」(IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics,3(4):291-306(1997))を参照されたい)。しかしながら、計算は反復型であり、従って、その実施はコストが高くつき、低速である。さらに、修正ヒストグラム等化法は、やはり、正確な絶対輝度レベル情報を必要とする。従って、この修正ヒストグラム等化法によれば、より正確な外観の一致が得られるが、計算の複雑さが増すという犠牲を払うことになる。
【0009】局所的輝度適応の場合の知覚的要素は、目は、イメージを見るのに、あちこちをざっと観察するという事実を考慮している。目は、もとのシーンの小領域の輝度レベルにすばやく適応して、陰影内の領域及びハイライト内の領域がはっきりと見えるようにする。再現イメージにおいては、ダイナミック・レンジと適応環境が、両方とも異なっている。従って、目の適応プロセスを完全にまねるには、その局所的輝度レベルに従って、イメージの輝度レベルを調整することになる。
【0010】Tumblinの細部保存コントラスト低減法(detail-preserving contrast reduction meshod:参照により本明細書に援用する、Tumblin,J.及びTurk,G.,による「LCIS:A Boundary Hierarchy for Detail-Preserving Contrast Reduction」(Computer Graphics Proceedings,SIGGRAPH99,pp.83-90,Los Angeles,CA,USA(1999))のような各種局所トーン・マッピング・アルゴリズム、及び、retinex理論に基づく各種アルゴリズムは、局所的輝度適応プロセスをまねようとしてきた。retinex理論に関しては、Jobson,D.,Rahman,Z.,及び、Woodell,G.による「A Multiscale Retinex for Bridging the Gap Between Color Images and Human Observation of Scenes」(IEEE Transactions on Image Processing,6(7):965-976(1997))、Rahman,Z.,Jobson,D.,及び、Woodell,G.,による「Multi-Scale Retinex for Color Image Enhancement ,Proceedings」(International Conference on Image Processing,volume3,pp.1003-1006,Lausanne,Switzerland(1996))(いずれも、参照により本明細書に援用する)を参照されたい。これらのアルゴリズムでは、イメージの局所コントラストが保存されるが、やはり、イメージの異なる空間解像成分の分解を必要とする反復法であり、計算コストが高くつく。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】デジタル・イメージ・システムにおいて、ユーザが所望するイメージを、計算コストを低くして、かつ高速に再現する手段が必要とされている。
【0012】
【課題を解決するための手段】知覚的選好ガイドラインに基づく適応型デジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムを実施するためのシステム及び方法を提供する。トーン曲線は、もとのイメージ統計値によって決まるシグモイド関数(すなわち、S字形関数)パラメータ(勾配及びシフトのパラメータ)を有するシグモイド(S字形)関数として生成される。これらのパラメータは、もとのイメージ統計値に基づいているので、アルゴリズムは適応型である。それぞれのイメージに関して生成されるトーン曲線は、それぞれ、平滑なS字形状を有しているので、トーン・マッピング・プロセスによって、イメージのヒストグラム形状が急激に変化することはない。従って、このアルゴリズムは、頑強でかつ保存性がある(例えば、このアルゴリズムによれば、大部分のイメージに関して外観が向上し、見た目が悪くなるイメージはない)。シグモイド関数は、次の形式を有している。
【0013】
【数1】
【0014】ここで、αは勾配パラメータであり、βはシフト・パラメータである。トーン曲線が、0〜100の値を有するL*スケールで生成されるので、シグモイド関数の入力値xは、[0,100]の範囲で変動する。S字状トーン曲線の計算は、α及びβの計算に用いられるさまざまな要素を事前計算して、記憶し、2つの極値勾配を有する1対の固定トーン曲線を事前生成して、それらの間を補間することにより、単純な算術演算を使用して効率よく実施することが可能である。以下に本発明を、本発明の重要な実施態様例を図示した添付図面を参照して説明する。
【0015】
【発明の実施の形態】本出願の多くの革新的な教示を、現在のところ望ましい典型的な実施態様を特に参照して説明する。しかしながら、言うまでもなく、本明細書において、これらの実施態様によって示されるのは、その革新的な教示に関する多くの有効な使用例のうちのほんの一部である。一般に、本出願の明細書においてなされる説明は、特許請求の範囲に記載されているさまざまな発明を限定することを意図してなしたものではない。さらに、その説明の内容は、本発明のある特徴には当てはまるが、別の特徴には当てはまらない場合がある。
【0016】図1にはデジタル・イメージ・システム10内で実施される、本発明の望ましい実施態様によるデジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズム100が示されている。デジタル・イメージ・システム10は、デジタル・カメラ、スキャナ、デジタル・カムコーダ、デジタル・イメージを印刷することが可能なプリンタ、または、デジタル・テレビジョン(但し、これらに限定されない)を含む、任意のデジタル装置とすることが可能である。ローエンドCMOSセンサ・チップ、CCDセンサ・チップ、または、センサ・チップと共にパッケージングされた個別のイメージ処理チップのような、デジタル装置のイメージ処理チップ内、または、デジタル装置に関連したソフトウェア・パッケージ(ドライバ)内に、アルゴリズム100を含めることができる。あるいはまた、デジタル・イメージ・システム10は、デジタル・イメージのトーン特性を向上させるため、画質改善ソフトウェア・パッケージがインストールされたコンピュータ・システムとすることが可能である。
【0017】トーン・マッピング・アルゴリズム100は、記憶及び処理時間に関して単純及び高速であり、カラー・チャネルの全てに対してトーン曲線が1つの、大局トーン・マッピング法を使用する。留意すべきは、トーン・マッピング・アルゴリズム100は、カラー・イメージとモノクロ・イメージの両方に適用できるという点である。トーン・マッピング・アルゴリズム100によれば、平滑で、むらのない、曲率の穏やかな(すなわち、比較的緩やかな)トーン曲線が得られるので、いくつかのヒストグラム等化法において明白な極端なコントラストの変化が回避される。さらに、トーン・マッピング・アルゴリズム100は、形状が常にS字状になる適応トーンを使用することによって、トーン曲線がフレーム毎に比較的安定した状態を保つので、ビデオ用途にとって理想的である。さらに、トーン・マッピング・アルゴリズム100によれば、もとのイメージの絶対輝度レベルを推定することなく、ユーザにとって(明るさ、コントラスト、及び、色の恒常性に関して)満足のいくように見えるイメージが生成される。
【0018】トーン・マッピング・アルゴリズム100は、n番目と(100−n)番目のL*百分位数(パーセンタイル:percentile)、約20のL*標準偏差、及び、約50の平均L*値(ここでは、各ピクセルの線形輝度値をL*スケールに変換して(この変換後の値がL*値)から、全てのピクセルのL*値を平均したもの)、にセンタリング関数(centering function)を用いることにより、範囲の中央における全体的なヒストグラム形状を保存するといった知覚的選好ガイドラインに基づいている。もちろん、L*スケールは、受信された線形(リニア)イメージ・データに基づく線形(リニア)スケールからの単なる変換である。留意すべきは、ユーザ、または、トーン・マッピング・アルゴリズムが実施される特定のデジタル・イメージ・システム10の要件に基づいて、他の知覚的選好ガイドラインを使用することができるという点である。知覚的選好を考慮し、計算の複雑性に関する制約条件に適合するトーン・マッピング・アルゴリズム100を得るために、シグモイド関数トーン・マッピング法が使用されるが、これについては、図2〜8を参照してさらに詳細に後述する。
【0019】図2には、本発明のトーン・マッピング・アルゴリズム100を用いて、デジタル・イメージの輝度(ピクセル)値を表す受信デジタル・イメージ・データを出力装置50の輝度範囲にマッピングするためのステップが例示されている。デジタル・イメージ撮像(または捕捉)装置またはデジタル・イメージ・ファイルのようなデジタル・イメージ源20によって、デジタル・イメージに関連したデジタル・イメージ・データ25が、線形変換装置30に供給され(ステップ200)、デジタル・イメージ・データ25が線形スケールで線形イメージ・データ130に変換される(ステップ210)。留意すべきは、もとのデジタル・イメージ・データ25を任意のスケールにすることができるという点である。あるいはまた、デジタル・イメージ・データ25は、既に線形スケールのものとすることができ、この場合は、線形変換装置30は必要ではない。この線形イメージ・データ130は、後で、トーン・マッピング・オペレータ40によって使用されて、出力装置50の輝度範囲にマッピングされる(ステップ250)。
【0020】変換が終了すると、線形イメージ・データ130は、イメージ統計プロセッサ120に送られ、もとの線形イメージ・データ130に基づいて、1つ以上のイメージ統計値149が求められる(ステップ220)。これらのイメージ統計値149は、2つのトーン曲線パラメータ150、すなわち、勾配パラメータ及びシフト・パラメータの計算において、トーン曲線パラメータ計算論理回路140によって、定義済みの1つ以上の知覚的選好と共に使用される(ステップ230)。定義済みの知覚的選好は、オペレータ(例えば、デジタル・イメージ・システム10のユーザまたはメーカ)が定義することができる。シフト・パラメータによって、トーン曲線がシフトされ、露出不足または露出過剰のイメージが適正な範囲に近づけられる。勾配パラメータによって、トーン曲線が伸張または圧縮されて、所望のヒストグラムの広がりが実現される。これら2つのトーン曲線パラメータ150は、トーン曲線発生器160によって、イメージに関するトーン曲線170の生成に用いられる(ステップ240)。トーン曲線発生器160は、下記のシグモイド関数を使用して、S字状トーン曲線170を生成する。
【0021】
【数2】
【0022】ここで、αは勾配パラメータであり、βはシフト・パラメータである。シグモイド関数の入力値xは、トーン曲線170が、イメージ・ピクセルの明るさ(輝度)レベルの測度であり、0〜100の値を有するL*スケールで生成されるので、[0,100]の範囲で変動する。CIE規格の公式に基づき、L*スケールは、次式のように、線形イメージ・データのほぼ立方根変換になる。
【0023】
【数3】
【0024】ここで、Yは線形輝度であり、Ynは、白色点の輝度レベルである。Y値は、L*の計算に備えてYn値によって正規化されるため、Y及びYnの絶対スケールは、両方とも絶対輝度に比例している限りにおいて、重要ではない。実施の際、生(すなわち未加工)の、または色補正された線形RGB値をY値の代わりに使用することができる。
【0025】L*スケールは、いくつかの理由から、トーン曲線170の生成において望ましいスケールである。まず、L*スケールは、線形スケールに比べて知覚的に均一である。第2に、大部分の自然のままのイメージのヒストグラムは、線形スケールに比べて、L*スケールの方が対称性が良くなりがちであり、このため、L*スケールのほうがヒストグラムの広がり調整が容易になる(また、知覚的により頑強になる)。ただし、留意すべきは、線形スケールは、トーン曲線発生器160によって、本明細書に記載のL*スケールの代わりに使用される可能性があるという点である。また、言うまでもないが、S字状トーン曲線170は、負及び正の無限大において0及び100に漸近する。従って、トーン曲線170が生成された場合には、0が0に、100が100に確実にマッピングされるように、曲線170を、下記のように、[0,100]の範囲に合わせてスケーリングしなければならない。
【0026】
【数4】
【0027】トーン曲線発生器160によって得られる図9に示すタイプのS字形状トーン曲線170には、上述の制約条件及び知覚的選好を満たすいくつかの特性がある。S字形状トーン曲線170は、範囲の中央においてほぼ線形であり、勾配がきついと、暗部の端及び明部の端が飽和する。範囲の中央におけるほぼ線形の部分は、大部分のイメージについて、大部分のピクセルが、幾分線形にマッピングされ、従って、もとのヒストグラムの形状が保存されることを表している。さらに、S字状トーン曲線170のパラメータを、所望のL*標準偏差レベルが得られるように設定することが可能である。さらに、シグモイド関数は平滑であり、異なるパラメータ設定間で曲率にかなりの一貫性がある(β点の前で加速度的に大きくなり、その後では小さくなる)。従って、シグモイド関数が、急激な曲がり及びピークを有するトーン曲線170を生成する可能性は低い。
【0028】トーン曲線170が生成されると(ステップ240)、トーン・マッピング・オペレータ40により、受信した線形イメージ・データ130をこのトーン曲線170にマッピングして、出力装置50のレベルに対応する出力イメージ・データ45を再生する(ステップ250)。出力装置50は、ディスプレイ、プリンタ、または、他のイメージ処理装置とすることができる。また、出力装置50への送信前に、出力イメージ・データ45に追加処理を施すことができる(ステップ260)。
【0029】図3A〜3C及びそれらに対応する図4A〜4Cのフローチャートには、図1のイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様が例示されている。図3A及び図4Aに示す第1の実施態様では、線形イメージ・データ130が、ヒストグラム発生器122に送られ(ステップ400)、データ130のデジタル値の分布を表すヒストグラム145(例えば、テーブル)が生成される(ステップ405)。例えば、カラー・デジタル・イメージの場合、所定の数の赤、青、及び、緑値(例えば、イメージ内の各ピクセル毎に1つ)が存在する。例えば、緑値のヒストグラムを生成するために、ヒストグラム発生器122は、ビン・サイズ(例えば、0〜10、11〜20、21〜30等の値の範囲)を決定し、各ビンにおける緑ピクセル値の発生数をカウントする。グラフ表現によるヒストグラムを生成するために、各ビンのデータを、ビン中心(例えば、5、15、25等)の関数としてプロットする。
【0030】ヒストグラムが生成されると、ヒストグラムのビン中心値135が、L*ビン中心値変換器124に伝送されて、L*ビン中心値135aに変換される(ステップ410)。変換は、上記式(2)を使用して実施されるが、この場合、Yはビン中心値であり、Ynはピクセル値について可能性のある最大デジタル値である。L*ビン中心値135a、及び、各ビンにおける値の数のカウント数を含むヒストグラム145が、L*統計値計算論理回路128に伝送されて、イメージ統計値149が計算され(ステップ420)、この統計値が、続いて、S字状トーン曲線に関する勾配パラメータα及びシフト・パラメータβの計算に用いられる。
【0031】勾配パラメータα及びシフト・パラメータβを計算するためのさまざまな実施態様については、図5及び6を参照して後述する。要するに、勾配パラメータα及びシフト・パラメータβの計算に用いられるL*イメージ統計値149には、現在のL*標準偏差と、現在の平均L*値またはヒストグラムのL*百分位数値(n番目及び(100−n)番目の百分位数)が含まれている。ヒストグラムのL*百分位数値は、ヒストグラムの端点を表している。従って、nは、比較的小さく(5未満が望ましい)になるように選択される。例えば、全てのL*ピクセル値の5%が、18未満の値を有する場合、5番目の百分位数は18であり、従って、低端点は18になる。高端点は、従って、ちょうど95番目の百分位数に対応するL*値になる(例えば、全てのL*ピクセル値の95%が、高端点より低い値を有することになる)。
【0032】現在のL*標準偏差σcurrentは、下記のようにヒストグラムから計算することができる。
【0033】
【数5】
【0034】ここで、Biは、L*値におけるヒストグラムのビン中心であり、niは、ヒストグラムのi番目のビンにおけるピクセル・カウントであり、nbは、ヒストグラムのビン数であり、nは、イメージのピクセル総数であり、
【数6】
は、下記のように、やはり、イメージ・ヒストグラムから計算することが可能な平均ピクセルL*値である。
【0035】
【数7】
【0036】実施態様の1つでは、σcurrentは、緑のカラー(色)プレーンにおけるヒストグラムだけから計算される。大部分のセンサについて、緑のチャネルは、輝度情報をほぼ捕捉するカラー(色)プレーンである。しかし、留意すべきは、代わりに、ある組み合わせのRGBピクセル値を用いて、イメージL*標準偏差を計算することが可能であるという点である。その選択が輝度の妥当な表現である限りにおいて、結果生じるトーン曲線が大幅に変化することはないはずである。
【0037】ヒストグラムを利用できない場合は、代替的に、図3B及び図4Bに示すように、イメージ統計値149を、イメージ・ピクセル値自体から計算することが可能である。従って、線形イメージ・データ130がイメージ統計プロセッサ120に到達すると(ステップ430)、線形イメージ・データ130は、L*イメージ・データ変換器125によってL*イメージ値130aに変換され(ステップ435)、L*イメージ値130aは、L*統計値計算論理回路128に送られて、イメージ統計値149(例えば、現在のL*標準偏差、及び、現在の平均L*値またはL*百分位数のいずれか)が計算される(ステップ440)。例えば、この実施態様の場合、現在の平均L*値は、全てのL*イメージ値の平均をとることによって計算することが可能である。
【0038】図3C及び図4Cに示すような、計算の複雑さを軽減するためのもう1つの代替案として、ヒストグラム・ビンが、イメージ毎に変化しない(各ビンのカウント値が変化するだけである)ので、線形イメージ・データ130を受信する前に、ヒストグラムのビン中心値135をL*ビン中心値135aに変換することができる。従って、この実施態様の場合、ヒストグラムのビン中心値135が決まると(ステップ450)、ビン中心値135は、L*ビン中心値変換器124によってL*ビン中心値135aに変換され(ステップ455)、これらのL*ビン中心値135aは、イメージ統計プロセッサ120にとってアクセス可能なメモリ129、または、イメージ統計プロセッサ120内に記憶される(前者が図示されている)(ステップ460)。さらに他の代替案として、L*ビン中心値135aへの変換は、外部で実施することが可能であり、L*ビン中心値135aを、メモリ129に事前にロードすることが可能である。
【0039】その後、線形イメージ・データ130が、イメージ統計プロセッサ120に到達すると(ステップ465)、線形イメージ・データ130は、(上述の)ヒストグラム発生器122に送られ、各ビンにおけるピクセル値の数がカウントされる(ステップ470)。カウントが終了すると、各ビンのピクセル値の数のカウント値を含むテーブル145がL*統計値計算論理回路128に送られ、メモリ129からL*ビン中心値135aが取り出されて(ステップ480)、イメージ統計値149が計算される(ステップ485)。この実施態様では、イメージ統計値149(例えば、L*標準偏差及び平均L*値)を、単純な加算、減算、及び、乗算だけで計算することができる。
【0040】図5、6A、及び6Bには、イメージ統計プロセッサによって計算されたイメージ統計値(例えば、L*標準偏差、及び、平均L*値またはL*百分位数)を用いて、勾配パラメータα及びシフト・パラメータβを計算するステップが例示されている。上述のように、シフト・パラメータ及び勾配パラメータを計算する場合、さまざまな知覚的選好ガイドラインを使用して、見る者にとって満足のいく出力イメージを生成することが可能である。知覚的選好ガイドラインは、ユーザが選択することもできるし、あるいは、トーン・マッピング・アルゴリズムが実施される特定のデジタル・イメージ・システムのメーカが選択することも可能である。例えば、以下の説明は、範囲の中央における全体的なヒストグラム形状の保存、約20の所望のL*標準偏差レベル、及び、約50の所望の平均L*レベルを含む3つの望ましい知覚的選好に基づくものである。もちろん、これらの望ましい知覚的選好の代わりに、他の知覚的選好を使用することも可能である。
【0041】図5に例示するように、勾配パラメータαを求めるために、イメージ統計プロセッサによって計算された現在のL*標準偏差が、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路に伝送される(ステップ500)。所望のL*標準偏差が、ユーザまたはメーカによって事前選択され、トーン曲線パラメータ計算論理回路にとってアクセス可能なメモリ(不図示)、または、トーン曲線パラメータ計算論理回路内に記憶される(ステップ510)。上述のように、望ましい実施態様の場合、所望のL*標準偏差は、約20になるように選択される。しかし、ユーザまたはメーカの要求に従って、他の値を選択することも可能である。値が20を超えると、よりコントラストの強いイメージが生成され、一方、値が20未満になると、よりコントラストの弱いイメージが生成される。所望のL*標準偏差以外に、デフォルト時の勾配値も事前選択される(ステップ520)。
【0042】線形トーン曲線の場合、q/pのトーン曲線勾配を使用して、標準偏差を、ある値(p)から別の値(q)に変更することが可能である。S字状トーン曲線は、非線形であるが、S字状曲線の中間部分はほぼ線形である。ほとんどのイメージでは、イメージ・ピクセルの大部分が、範囲の中央(1実施態様では、
【数8】
となるポイントのあたり)に近い値を有しているので、このポイントでS字状曲線の勾配を変化させて、所望のL*標準偏差の実現を試みることができる。
【0043】x=100βのポイントにおいて、α=4であれば、t(x)の勾配は1になる。従って、デフォルト時の勾配αdefaultを4に設定することができる。しかし、使用される(上述したような)実際のトーン曲線は、αが4未満の場合、勾配が1になるt1(x)である。実際には、イメージがどの程度のコントラストの強さで見えるようにしたいかに応じて、3と4の間の任意の値をデフォルト時の勾配αdefaultとして使用することができる。デフォルト時の勾配を選択すると、現在のL*標準偏差、所望のL*標準偏差、及び、デフォルト時の勾配に基づいて、勾配パラメータαを計算することができる(ステップ530)。σcurrentのL*標準偏差を有するイメージについての勾配パラメータαを得るために、現在のL*標準偏差及び所望のL*標準偏差σdesiredに従って、下記のように、デフォルト時のα値にスケーリングが施される。
【0044】
【数9】
【0045】上述のように、出力イメージ全体の明るさに影響を与えるために、シフト・パラメータβによって、ヒストグラムをシフトする。特定の用途において、どの知覚的要素がより重要であるかに従って、また、許容される計算上の複雑さがどれほどであるかに応じて、シフト・パラメータを求める方法は異なる。図6A及び6Bには、シフト・パラメータβを計算するためのこうした2つの代替実施態様が例示されている。
【0046】第1の実施態様の場合、図6Aに示すように、シフト・パラメータβは、平均L*値に基づいて計算される。この実施態様の場合、イメージ統計プロセッサによって計算された現在の平均L*値は、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路に送られる(ステップ600)。所望の平均L*値は、ユーザまたはメーカによって事前選択され、トーン曲線パラメータ計算論理回路にとってアクセス可能なメモリ(不図示)内、または、トーン曲線パラメータ計算論理回路内に記憶される(ステップ610)。しかし、環境によっては、この事前選択された所望の平均L*値を、処理されるイメージに関する追加情報に基づいて調整することも可能である。例えば、イメージ・プロセッサに、イメージの内容が主として黒の物体であることが分かっている場合、所望のL*値を50未満に調整して、イメージが過剰に明るくならないようにすることが可能である。あるいは、イメージ・データが高レベルノイズを含んでいることが分かっている場合、所望のL*値にバイアスをかけて、もとのイメージの平均L*値に近づけ、トーン・マッピングによるノイズの増幅を回避することも可能である。
【0047】例えば、イメージ全体の所望の平均L*値を、ほぼ50(中間の明るさ)になるように事前選択することが可能である。あるいはまた、所望の平均L*値を、所定のイメージ領域において50になるように選択することも可能である。一例として、人間の顔を含むイメージの場合、顔の領域におけるL*平均値を50に設定することが可能である。こうした基準を使用して、S字状トーン曲線のシフト・パラメータを求めると、一般に、優れた画質が得られる。しかし、顔の認識をすることができない場合には、イメージの中心部、またはイメージにおいて対象とする他の領域の平均L*値を、ほぼ50のレベルにすることができる。シフト・パラメータを求めるこの後者の方法は、低コストのイメージング(画像形成)システムにとってより実際的である。もちろん、50の代わりに、他の任意の所望の平均L*値を用いることも可能である。
【0048】シフト・パラメータを、現在の平均L*値及び所望の平均L*値に基づいて計算することが可能である(ステップ620)。例えば、
【数10】
がイメージにおいて対象とする領域(例えば、顔の領域)の平均L*値であり、Ldesiredが所望の平均L*値ある場合、シフト・パラメータβは、次のようになる。
【0049】
【数11】
【0050】50のLdesired値を使用すると、βは単に、
【数12】
になる。
【0051】図6Bに示す第2の実施態様の場合、シフト・パラメータβは、L*百分位数値に基づいて計算される。さまざま研究(例えば、1997年のタナカ他による研究を参照されたい)が示すように、観察者は、できるだけ出力色域の広い再現を選好する。従って、こうした選好に応じるために、ヒストグラムをシフトすることによってシフト・パラメータを求めて、できる限り出力装置のダイナミック・レンジの広い範囲を占めるようにし、同時に、できる限りヒストグラムの形状を乱さないようにして分布のいずれかの端における多数のポイントの飽和を回避することができる。これは、トーン曲線の中心が、ヒストグラムの端点間の中間にくるようにするセンタリング関数を使用することによって行われる。これは、保存的な選択であり、一般に、もとのRGBヒストグラムがある程度「正常」(値が全範囲中の小さな部分に集中しない)であれば、イメージの平均輝度にはわずかな変化しか生じない。
【0052】従って、トーン曲線パラメータ計算論理回路が、L*百分位数(例えば、nが扱いやすい小さい値である、n番目及び(100−n)番目の百分位数)を受信すると(ステップ650)、シフト・パラメータβを、これら2つの端点間の中点値として計算することが可能になる(ステップ660)。例えば、ヒストグラムにおけるピクセル値のn番目の百分位数がx1で、ピクセル値の(100−n)番目の百分位数がx2である場合、シフト・パラメータは、下記の式によって求められる。
【0053】
【数13】
【0054】RGB値の組み合わせヒストグラムを使用して、百分位数を求め、トーン曲線のシフトを計算するときに、カラー・プレーンが無視されないようにするのが望ましい。これは、とりわけ、トーン・マッピング後のカラー(色)シフトを回避するために、鮮明な色調を有するイメージに対して施されるトーン・マッピングにとって重要である。
【0055】上述のβを求める方法は、両方とも、イメージに対して実施され、テストされた。第1の方法(βを平均L*値から計算する)は、実施がより容易であり、大部分の屋内及び屋外のイメージに対してうまく作用する。イメージ全体の平均L*値をβとして用いると、夜間のイメージまたは暗いイメージ、すなわち、燭光によるシーンのような、平均L*値が低いイメージを過剰に明るくすることになりがちである。第2の方法(βとしてヒストグラムの最高と最低の百分位数の平均を使用する)は、暗いイメージの場合により良好に作用する。この第2の方法は、第1の方法に比べて、イメージの明るさを変化させる傾向が少ないので、より保存的な方法である。
【0056】用途によっては、S字状曲線のシフト範囲、すなわち、シフト・パラメータβが0.5から偏移することが可能な範囲を制限するのが望ましい場合もあり得る。例えば、かなり露出不足のイメージの場合、(β値が0に近い)トーン曲線を過剰にシフト・アップすると、センサ・ノイズが増幅されるので、低画質のイメージが生じることになる。同様に、かなり露出過度のイメージの場合、(β値が1に近い)トーン曲線を過剰にシフト・ダウンすると、ほぼ飽和した領域にカラー(色)シフトが生じる可能性がある。これらの問題を最小限に抑えるために、もとのイメージの平均ピクセル値に従って、シフト・パラメータの値を制限することが可能である。もとのイメージ平均ピクセル値が、トーン・マッピング・アルゴリズムの特定の用途に応じて、高すぎるか、または、低すぎる場合には、ノイズの増幅を低減するために、シフト・パラメータβに調整を加えて、中点値0.5からの偏差が少なくなるようにする。実施態様の1つでは、それぞれが、もとのイメージ・ピクセル値の平均レベルMjの1つに対応する、一連のβ値の上限Tjが事前選択される。もとのイメージの平均ピクセル値がMj未満である場合、β値は、少なくともTjに制限される。すなわち、式7または式8から計算される値がTj未満の場合、βはTjに等しくなるように設定される。同様に、それぞれが、平均ピクセル・レベルMkの1つに対応する、一連の下限Tkも事前選択することが可能である。もとのイメージの平均ピクセル値がMkを超える場合、βは、Tkより大きくならないように制限される。シフト・パラメータをこのように制限することによって、トーンの過剰補償から生じるアーティファクト(人工的ノイズなど)を最小限に抑えることが可能になる。
【0057】図7A及び7Bには、図1に示したトーン曲線発生器160を実施するための代替実施態様が例示されている。図7A、及び図8Aのステップに示されている第1の実施態様の場合、トーン曲線パラメータ150(例えば、勾配パラメータα及びシフト・パラメータβ)が、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路140によって計算されると、トーン曲線発生器160に送られる(ステップ800)。その後、S字状トーン曲線170が、上述の受信トーン曲線パラメータ150、及び、式(1)及び(3)を用いて、トーン曲線発生器160内のS字関数ロジック(シグモイド関数論理回路)162によって生成される(ステップ805及び810)。生成されたトーン曲線170は、図9に示すトーン曲線に似ている。
【0058】図9に示すトーン曲線170は、L*イメージ入力値を適正な出力装置に対するL*イメージ出力値にマッピングすることが可能である。しかし、L*は、一般に、出力装置において用いられるスケールではないので、出力デジタル・イメージデータは、特定の出力装置によって必要とされるスケールに変換される前に、線形形式に変換される。望ましい実施態様の場合、Y軸(L*イメージ出力値)は、Y軸変換器164によって、L*スケールから線形スケールに変換されるが(ステップ815)、これは、上述した、トーン曲線170aを生成するための変換の概ね3乗である。
【0059】さらに、CRTディスプレイのような大部分の表示装置は、ほぼベキ関数である強度(例えば輝度)対電圧応答曲線を有している(例えば、γをディスプレイのガンマ値とした場合、ピクセル値がxに設定されると、表示輝度は、xγに比例する)ので、こうした出力装置において適正に表示するためには、線形出力値にガンマ補正を施す必要がある。大部分のトーン・マッピング法において、ガンマ補正は、マッピング後に実施される。本明細書に記載のS字状トーン・マッピング法の場合、ガンマ補正は、トーン・マッピング後に別個に実施することもできるし、あるいは、トーン・マッピング・ステップと組み合わせることも可能である。1実施態様では、ガンマ補正は、ガンマ補正論理回路166をY軸に適用して、トーン曲線170bを生成することによって、トーン・マッピングと共に実施される(ステップ820)。Y軸(出力)の線形変換とガンマ補正を組み合わせた効果は、3/γの累乗であり、ここで、γは、出力装置がRGB(標準色空間)ディスプレイの場合、2.4のような意図するディスプレイ・ガンマ値である。
【0060】一般に、トーン・マッピングは、線形RGB入力ピクセル値に施される(例えば、線形イメージ・データ130が、線形変換装置30によって図1のトーン・マッピング・オペレータ40に供給される)。S字状トーン曲線は、X軸上におけるL*スケールを想定して、すなわち、X軸値がL*スケールで均一にサンプリングされると想定して生成される。従って、線形入力値をトーン曲線に適正にマッピングするためには、トーン曲線をイメージに適用するときに、テーブル参照動作を容易に行えるように、トーン曲線のX軸サンプリングを、線形スケールにおいて均一になるように変換しなければならない。この変換は、トーン曲線170cを生成するために、X軸変換器168によって、単純な線形補間プロセスを用いて実施されるが(ステップ825)、これには、Y軸変換器に関連して上述したような算術演算だけしか必要としない。この最終トーン曲線170cは、(図1に示した)トーン・マッピング・オペレータによって、線形イメージ・データを出力装置の輝度にマッピングするために使用される。
【0061】図7B、及び図8Bのステップで示す第2の実施態様の場合、トーン・マッピング・アルゴリズムの最も計算コストが高くつく部分の1つに、計算の複雑さを軽減するための、シグモイド関数における指数関数計算が含まれるので、算術演算だけで、S字状トーン曲線計算の近似を実施することが可能である。シグモイド関数における指数計算は、2つの極値勾配(または最大勾配)を有する1対の固定トーン曲線を予め計算し、次に、補間を施して、中間勾配を有するトーン曲線を求めることによって回避することができる。上述のように、シフト・パラメータによって、水平(X)軸上のトーン曲線が並進させられる。従って、X(入力ピクセル値)軸の広い範囲にわたってトーン曲線を事前計算して、それぞれのシフト・パラメータについて事前計算されたトーン曲線のそれぞれの部分を「取り除く」ことによって、適正なトーン曲線を選択することが可能になる。
【0062】2つのトーン曲線を事前に計算するために、ユーザまたはメーカは、2つの勾配パラメータαmax及びαminを事前に選択しなければならない(ステップ850)。大部分のイメージに対する勾配パラメータαは、2.5〜6.5の範囲内にある。従って、望ましい実施態様の場合、αminは、2.5に設定され、αmaxは、6.5に設定される。最大及び最小勾配パラメータ155が設定されると、シグモイド関数論理回路162は、2つのトーン曲線、すなわち、(L*スケールにおいて)ほぼ線形のトーン曲線をもたらす、勾配が2.5の曲線(曲線P1)と、イメージのコントラストをかなり強めることになる、6.5の急勾配の曲線(曲線P2)を事前に計算することができる(ステップ855)。図10には、事前に生成された2つのトーン曲線が示されている。留意すべきは、2つの曲線は、0のシフト値βについて生成されたものであるという点である(異なるβ値についてのX軸の範囲は、後述するように、X軸のX原点を並進させることによって後で決定される)。
【0063】勾配値が2.5と6.5の間にある場合、トーン曲線は、P1とP2の間を線形補間することによって生成される。a⊂[2.5,6.5]である場合に、Pa(x)がaというα値を有するトーン曲線であると仮定すると、Pa(x)は次のように表せる。
【0064】
【数14】
【0065】これは、もちろん、近似であるが、α値が2.5〜6.5の範囲に制限される場合、近似はかなり正確になる。図11Aでは、トーン曲線出力L*値を、11の異なる入力ピクセル・レベル(11のラインで表示)についてαの関数としてプロットしている。図からわかるように、出力L*値は、αと線形関係に近い。
【0066】上述のように、一般に、トーン・マッピング出力は、画面表示用のガンマ補正された線形RGB値である。従って、図7A及び8Aを参照して上述したように、P1及びP2 158のY軸を、トーン曲線発生器160のY軸変換器164及びガンマ補正論理回路166によって、ガンマ補正された線形RGB値に変換することができる(ステップ860及び865)。トーン曲線出力Pa(x)がガンマ補正された線形RGB値である場合、αとの関係は、図11Bに示すように、やはり、極めて線形である。従って、ガンマ補正されたピクセル値としてP1及びP2 158を事前に計算することによって、補間されたトーン値もガンマ補正されることになる。これは、トーン曲線計算には、補間に用いられる算術演算(上記式9)だけしか必要がないということを表している。ガンマ補正後のトーン曲線P1及びP2 158は、事前に生成されると、後で、特定の入力値集合に関するトーン曲線の計算に使用するために、トーン曲線発生器にとってアクセス可能なメモリ169に記憶されるか(ステップ870)、あるいは、トーン曲線発生器内に記憶される。
【0067】トーン曲線発生器160が、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路から、現在の勾配パラメータαcurrent150a及び現在のシフト・パラメータβcurrent150bを受信すると(ステップ875)、トーン曲線発生器160内の計算論理回路163が、上記のガンマ補正後のトーン曲線P1及びP2 158、及び、現在の勾配パラメータ150a及び式9を使用して、Pa(x)159を求める(ステップ880)。その後、Pa(x)のある部分を選択するために、現在のシフト・パラメータ150b及びPa(x)159が、トーン曲線発生器160内のシフト論理回路165に伝送される(ステップ885)。シフト・パラメータ150bは、単に、トーン曲線をX軸上で並進させるものであるから、Pa(x)のX軸上における並進によって、シフト・パラメータの異なるトーン曲線を得ることができる。
【0068】例えば、シフト・パラメータが0で、かつ、[−100,100]の範囲内のPa(x)を生成して、[0,100]のX軸範囲内で、シフト・パラメータがβのトーン曲線が得られると仮定すると、そのトーン曲線をX軸上で並進させることによって、−β×100のX値が0になり、(1−β)×100のX値が、100になる。 シフト・パラメータβのトーン曲線は、ポイントX=−β×100からポイントX=(1−β)×100までの事前生成されたトーン曲線Pa(x)を「取り除く」ことによって得られる。実施時には、この操作に必要とされるのは、単に、事前生成テーブルにおける異なる開始点にファイル・ポインタを移動させることだけであり、従って、計算はほとんど不要である。
【0069】Pa(x)からトーン曲線を「取り除いた」後、トーン曲線の両端には、全Y範囲に合わせてスケーリングを施す必要がある。これに必要なのは、やはり、事前に作成されたテーブルから前に取り除かれたトーン・マッピング・テーブルの各エントリに対する算術演算だけである。その後、図7A及び8Aに関連して上述したように、X軸変換器168によって、X軸がL*スケールから線形スケールに変換されて(ステップ890)、最終トーン曲線170が作成される。留意すべきは、トーン曲線の並進は、トーン曲線P1及びP2 158の並進によって正しい勾配を得るのに必要な補間ステップの前または後に行われる可能性があるという点である。最小量の計算の場合、並進がまず実施されるので、補間を施す必要があるのは、事前に生成されたトーン曲線P1及びP2 158の「取り除かれた」部分に対してだけになる。
【0070】当業者には明らかなように、本明細書及び図面において開示した革新的な概念について、その広範囲の用途にわたり、修正及び変更を加えることが可能である。従って、特許付与される範囲は、説明した特定の実施態様例に制限されるべきものではなく、特許請求の範囲によって画定される。
【0071】以下においては、本発明の種々の構成要件の組み合わせからなる例示的な実施態様を示す。
1.デジタル・イメージの少なくとも一部を表すデジタル・イメージ・データ(25)を受信し、前記デジタル・イメージ・データ(25)を出力装置(50)の範囲にマッピングすることが可能なデジタル・イメージ・システム(10)において、前記デジタル・イメージ・データ(25)に基づいて、少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算することが可能なイメージ統計プロセッサ(120)と、計算論理回路(140)であって、前記イメージ統計プロセッサ(120)から、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)と、前記デジタル・イメージ・システム(10)に関連した少なくとも1つの知覚的選好に基づいて、少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算することが可能である、計算論理回路と、トーン曲線発生器(160)であって、前記計算論理回路(140)から、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)とシグモイド関数を使用して、トーン曲線(170)を生成することが可能である、トーン曲線発生器を備え、前記トーン曲線(170)を使用して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングすることからなる、デジタル・イメージ・システム(10)。
2.前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を線形イメージ・データ(130)に変換し、かつ、前記線形イメージ・データ(130)を前記イメージ統計プロセッサ(120)に伝送するように接続された、線形変換装置(30)をさらに備え、前記イメージ統計プロセッサ(120)が、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)の計算において前記線形イメージ・データ(130)を使用することからなる、上項1に記載のシステム(10)。
3.前記イメージ統計プロセッサが、前記線形イメージ・データ(130)を受信して、前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値のヒストグラム(145)を生成するように接続されたヒストグラム発生器(122)であって、前記ヒストグラム(145)に、ピクセル値のそれぞれの範囲を表す複数のビンと、前記複数のビンの各ビン内における前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値数のカウントが含まれることからなる、ヒストグラム発生器と、前記ヒストグラム(145)に関連した前記ビンの各々のビン中心値(135)を線形スケールからL*スケールに変換して、複数のL*ビン中心値(135a)を生成することが可能な変換器(124)と、前記ヒストグラム発生器(122)から前記カウントを受信し、前記変換器(124)から前記複数のL*ビン中心値(135a)を受信し、かつ、前記カウント及び前記複数のL*ビン中心値(135a)を使用して、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するように接続された統計値計算論理回路(128)を備えることからなる、上項2に記載のシステム(10)。
4.前記ヒストグラム(145)の生成前に、前記複数のL*ビン中心値(135a)を記憶するためのメモリ(129)をさらに備え、前記統計値計算論理回路(128)が、前記カウントの受信に応答して、前記複数のL*ビン中心値(135a)を取り出すことからなる、上項3に記載のシステム(10)。
5.前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)に、勾配パラメータとシフト・パラメータが含まれ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)に、現在のL*標準偏差と、現在の平均L*値または低及び高L*百分位数値の一方とが含まれる、上項1に記載のシステム(10)。
6.前記少なくとも1つの知覚的選好に、所望のL*標準偏差と、所望の平均L*値またはセンタリング関数の一方とが含まれ、前記勾配パラメータが、前記現在のL*標準偏差と前記所望のL*標準偏差を用いて計算され、前記シフト・パラメータが、前記現在の平均L*値及び前記所望の平均L*値、または、前記低及び高L*百分位数値と前記センタリング関数を用いて計算されることからなる、上項5に記載のシステム(10)。
7.上位の事前選択された平均L*値及び関連する上位の事前選択されたシフト値と下位の事前選択された平均L*値及び関連する下位の事前選択されたシフト値をさらに含み、前記現在の平均L*値が前記上位の事前選択された平均L*値未満で、かつ、前記計算されたシフト・パラメータが、前記上位の事前選択されたシフト値未満であるときは、前記シフト・パラメータが、前記上位の事前選択されたシフト値に設定され、前記現在の平均L*値が前記下位の事前選択された平均L*値を超え、前記計算されたシフト・パラメータが、前記下位の事前選択されたシフト値を超えるときは、前記シフト・パラメータが、前記下位の事前選択されたシフト値に設定されることからなる、上項6に記載のシステム(10)。
8.前記デジタル・イメージ・システム(10)が前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信する前に、前記トーン曲線発生器(160)によって生成された第1と第2の事前計算されたトーン曲線(158)を記憶するためのメモリ(169)をさらに備え、前記第1の事前計算されたトーン曲線が、最小勾配を有し、前記第2の事前計算されたトーン曲線が最大勾配を有することからなる、上項5に記載のシステム(10)。
9.前記トーン曲線発生器が、計算論理回路(163)であって、前記勾配パラメータ(150a)及び前記第1と第2の事前計算されたトーン曲線(158)を受信するように接続され、かつ、前記勾配パラメータ(150a)を使用して、前記第1の事前計算されたトーン曲線と前記第2の事前計算されたトーン曲線(158)の間の補間を行って、初期トーン曲線(159)を求めることが可能である、計算論理回路と、シフト論理回路(165)であって、前記初期トーン曲線(159)及び前記シフト・パラメータ(150b)を受信するように接続され、かつ、前記シフト・パラメータ(150b)を使用して、X軸上で前記初期トーン曲線(159)をシフトさせて、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングする際に用いられる前記トーン曲線(170)を生成することが可能である、シフト論理回路を備えることからなる、上項8に記載のシステム。
10.前記トーン曲線発生器が、前記トーン曲線(170)のY軸にガンマ補正を施すためのガンマ補正論理回路(166)と、前記トーン曲線(170)のX軸を前記デジタル・イメージ・データ(25)のスケールに変換するための変換器(168)をさらに備える、上項1に記載のシステム。
11.デジタル・イメージの少なくとも一部を表すデジタル・イメージ・データ(25)を出力装置(50)の範囲にマッピングするための方法であって、デジタル・イメージ・システム(10)において前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信するステップと、前記デジタル・イメージ・データ(25)に基づいて、少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップと、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)と、少なくとも1つの知覚的選好に基づいて、少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算するステップと、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)とシグモイド関数を使用して、トーン曲線(170)を生成し、前記トーン曲線(170)を使用して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングするステップを含む、方法。
12.前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算する前記ステップが、前記デジタル・イメージ・データ(25)を線形イメージ・データ(130)に変換するステップと、前記線形イメージ・データ(130)を用いて、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップをさらに含む、上項11に記載の方法。
13.前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップが、前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値のヒストグラム(145)を生成するステップであって、前記ヒストグラム(145)に、ピクセル値のそれぞれの範囲を表す複数のビンと、前記複数のビンの各ビン内における前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値数のカウントが含まれることからなる、ステップと、前記ヒストグラム(145)に関連した前記ビンのそれぞれについてビン中心値(135)を線形スケールからL*スケールに変換して、複数のL*ビン中心値(135a)を得るステップと、前記カウント及び前記複数のL*ビン中心値(135a)を使用して、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップをさらに含む、上項12に記載の方法。
14.前記ビン中心値を変換するステップが、前記生成するステップの前に、前記ビン中心値(135)を変換して、複数のL*ビン中心値(135a)を得るステップと、前記複数のL*ビン中心値(135a)をメモリ(129)内に記憶するステップをさらに含む、上項13に記載の方法。
15.前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)に、勾配パラメータとシフト・パラメータが含まれ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)に、現在のL*標準偏差と、現在の平均L*値または低及び高L*百分位数値の一方とが含まれることからなる、上項11に記載の方法。
16.前記少なくとも1つの知覚的選好に、所望のL*標準偏差と、所望の平均L*値またはセンタリング関数の一方とが含まれ、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算するステップが、前記現在のL*標準偏差と前記所望のL*標準偏差を用いて前記勾配パラメータを計算するステップと、前記現在の平均L*値及び前記所望の平均L*値、または、前記低及び高L*百分位数値及び前記センタリング関数を用いて、前記シフト・パラメータを計算するステップをさらに含むことからなる、上項15に記載の方法。
17.前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算するステップが、前記現在の平均L*値が、上位の事前選択されたシフト値に関連した上位の事前選択された平均L*値未満で、かつ、前記計算されたシフト・パラメータが、前記上位の事前選択されたシフト値未満である場合、前記シフト・パラメータを前記上位の事前選択されたシフト値に等しくなるように設定するステップと、前記現在の平均L*値が、下位の事前選択されたシフト値に関連した下位の事前選択された平均L*値を超え、かつ、前記計算されたシフト・パラメータが、前記下位の事前選択されたシフト値を超える場合、前記シフト・パラメータを前記下位の事前選択されたシフト値に等しくなるように設定するステップをさらに含む、上項16に記載の方法。
18.前記生成するステップが、前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信する前記ステップの前に、第1と第2の事前計算されたトーン曲線(158)を生成するステップをさらに含み、前記第1の事前計算されたトーン曲線が最小勾配を有し、前記第2の事前計算されたトーン曲線が最大勾配を有することからなる、上項15に記載の方法。
19.前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングする際に用いられる前記トーン曲線(170)を生成するステップが、前記勾配パラメータ(150a)を用いて、前記第1の事前計算されたトーン曲線と前記第2の事前計算されたトーン曲線の間の補間を行い、初期トーン曲線(159)を得るステップと、前記シフト・パラメータ(150b)を使用して、X軸上で前記初期トーン曲線(159)をシフトさせ、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングする際に用いられる前記トーン曲線(170)を得るステップを含むことからなる、上項18に記載の方法。
20.前記トーン曲線(170)を生成するステップが、前記トーン曲線(170)のY軸にガンマ補正を施すステップと、前記トーン曲線(170)のX軸を前記デジタル・イメージ・データ(25)のスケールに変換するステップを含むことからなる、上項11に記載の方法。
【0072】本発明では、知覚的な選好指針に基づく適応型イメージトーンマッピング曲線(170)をS字形関数として生成する。S字形関数のパラメータ(150)(勾配とシフト)は、元のイメージ統計値(149)により決定される。異なるイメージに対して生成されたトーン曲線(170)の各々は、なめらかなS字形状をなしており、そのため、トーンマッピング処理によって、イメージヒストグラムの形状が急激に変化することはない。S字形関数は、
【数15】
で表すことができる。ここで、αは勾配パラメータ(150a)、βはシフトパラメータ(150b)である。トーン曲線(170)は、L*スケールにおいて生成され、0から100までの値を有するので、S字形関数の入力値xは、[0、100]の範囲で変わる。S字形トーン曲線(170)の計算は、αとβの計算に使用される種々の要素を予め計算し、記憶することによって、及び、2つの極値勾配を有する一対の固定トーン曲線(158)を生成して、これらの曲線(158)間を補間することによって、単純な算術演算を用いて効率的に実行することができる。
【0073】
【発明の効果】本発明のイメージ・トーン・マッピングのためのシステム及び方法によれば、平滑で、むらのない、曲率が比較的緩やかなトーン曲線が得られるので、再現される画像(イメージ)に急激なコントラストの変化が生じないようにすることができる。さらに、本発明によれば、もとのイメージの絶対輝度レベルを見積もることなく、ユーザの好みに合った画像を生成することができる。さらにまた、本発明によれば、トーン曲線の計算を、計算コストの安価な単純な算術演算を使用して効率よく実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムの望ましい実施態様を利用したシステムを示すブロック図である。
【図2】図1に示すトーン・マッピング・アルゴリズムに含まれるステップを示すフローチャートである。
【図3A】図1に示すイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図3B】図1に示すイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図3C】図1に示すイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図4A】図3Aに示す実施態様において必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図4B】図3Bに示す実施態様において必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図4C】図3Cに示す実施態様において必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図5】図1のトーン・マッピング・アルゴリズムの勾配パラメータを計算するためのステップを示すフローチャートである。
【図6A】図1のトーン・マッピング・アルゴリズムのシフト・パラメータを計算するための代替実施態様を示すフローチャートである。
【図6B】図1のトーン・マッピング・アルゴリズムのシフト・パラメータを計算するための代替実施態様を示すフローチャートである。
【図7A】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムのトーン曲線を生成するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図7B】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムのトーン曲線を生成するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図8A】図7Aに示した代替実施態様に必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図8B】図7Bに示した代替実施態様に必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図9】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムによって生成されるタイプのトーン曲線の1例のグラフ表示である。
【図10】図7B及び8Bに示した実施態様に従ってL*軸に描かれた、予め生成された2つのトーン曲線のグラフ表示である。
【図11A】図7B及び8Bに示す実施態様に従って勾配パラメータの関数として描かれた、出力L*レベルのグラフ表示である。
【図11B】図7B及び8Bに示す実施態様に従って勾配パラメータの関数として描かれた、ガンマ補正後の出力レベルのグラフ表示である。
【符号の説明】
10 デジタル・イメージ・システム
25 デジタル・イメージ・データ
30 線形変換装置
50 出力装置
100 トーン・マッピング・アルゴリズム
120 イメージ統計プロセッサ
140 計算論理回路
149 イメージ統計値
150 トーン曲線パラメータ
160 トーン曲線発生器
170 トーン曲線
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一般に、デジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムに関するものであり、とりわけ、知覚的選好ガイドラインに基づくデジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】デジタル・イメージ・マッピングとは、捕捉(または撮像)シーンの輝度レベルを出力装置(ディスプレイまたはプリンタ)の輝度または濃度レベルにマッピングするプロセスをいう。デジタル・イメージ・トーン・マッピングは、シーンの輝度範囲が出力装置の輝度範囲に整合することが滅多にないために必要とされる。デジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムを任意のデジタル装置内で実施することにより、視覚的に満足のいく出力イメージを得ることが可能になる。例えば、こうした装置には、デジタル・カメラ、スキャナ、デジタル・カムコーダ、デジタル・イメージを印刷することが可能なプリンタ、及び、デジタル・テレビジョンを含めることができる。さらに、デジタル・トーン・マッピング・アルゴリズムは、画質改善ソフトウエアアプリケーションにおいて使用される場合が多い。
【0003】人間の目は、さまざまな光レベルにさまざまに適応するので、もとのシーンに対して「正確に」見える再現イメージを生成しようとする場合には、知覚的要素を考慮しなければならない。用途に応じて、イメージ・トーン・マッピングには、一般に、3つの目標、すなわち、(1)外観の一致、(2)主観的選好、及び、(3)情報保存、の内の1つの目標がある。外観の一致という目標では、再現されたイメージをできる限りもとのシーンに知覚的に似せようとする。これは、通常、顧客の画像形成及びイメージ合成用途における暗黙の目標である。主観的選好を考慮すると、イメージをできる限り、見る者にとって満足のいくものにすることができる。これは、通常、顧客の画像形成及び営業用写真において望ましい。目標が情報保存の場合、アルゴリズムは、イメージの全ての領域及び全ての輝度レベルにおける細部を保存または改善(または強調)しようとする。これは、医療用撮像、衛星による撮像、及び、アーカイビングにおいて最も多く要求される。
【0004】多くの既存のトーン・マッピング・アルゴリズムは、もとのイメージと再現イメージとの外観の一致を実現することに主眼を置いている。こうしたアルゴリズムにおいて一般に考慮される知覚的要素には、少なくとも、(1)大局的輝度適応と(2)局所的輝度適応、の2つがある。シーンの総合的な大局的輝度レベルは、目の適応状態に影響する。こうした大局的輝度適応の2つの側面が、トーン・マッピング、明るさ、及び、空間コントラストにかなりの影響を及ぼす。
【0005】まず、明るさ関数(輝度関数)は、シーンの輝度レベルが異なれば異なることになる。見る者の知覚した光強度に対応する知覚された明るさは、ほぼ、物理的輝度のベキ関数である(スティーヴンスの法則)。全体の輝度レベルが高くなると、こうしたベキ関数の指数は大きくなる。輝度の低い装置でイメージを再現する場合には、指数を調整して、こうした差に適応しなければならない。明るさ関数の変化に加えて、目が、異なる周囲輝度レベルに適応すると、目の空間コントラスト感度も変化する。周囲が明るい場合、目は、周囲が暗い場合に比べて、よりはっきりとイメージの高空間周波数成分(細部)を知覚する、すなわち、目の視覚的鋭敏度は、周囲の照明が良くなると向上する。また、コントラストしきい値、すなわち、イメージの成分を検出するのに必要とされる最低コントラストは、輝度レベルが増すにつれて低下する。輝度の低い装置で明るいイメージを再現するために、これらの効果を考慮して、イメージにおける細部の輝度コントラストを高めることが可能である。
【0006】Jack Holmと、Tumblin&Rushmeierによってそれぞれ開発された2つの異なるトーン・マッピング・アルゴリズムは、シーンの絶対輝度レベルに基づいてトーン曲線の曲率を調整することによって、明るさ関数の変化を考慮する。これらのトーン・マッピング方法(両方とも、参考として本明細書に援用する)は、それぞれ、Holm,J.による「Photographic Tone and Colour Reproduction Goals」(CIE Expert Symposium on Colour Standards for Image Technology,pp.51-56(1996))、Tumblin,J.及びRushmeier,H.による「Tone Reproduction for RealisticImages」(IEEE Computer Graphics and Applications,13(6):42-48(1993))にそれぞれ記載されている。これらのアルゴリズムには、ハイエンドのデジタル画像形成において望ましい、もとのイメージに対応する明または暗の全体的な感じが適正に生成されるという利点がある。しかし、両方とも、もとのイメージの絶対輝度レベルに関する正確な情報が必要になる。デジタル・カメラの場合、生(すなわち未加工)のピクセル値、及び、開口、露出時間、レンズ特性等のようなカメラの撮影設定条件からイメージ・ピクセルの絶対輝度レベルを推定することが可能である。しかし、低コストのカメラの場合、複雑さ及びコストが増すため、こうした計算はできないことが多い。従って、選好(好みや趣向)に主眼を置いた大局的輝度適応による解決がより実際的である。
【0007】選好に基づくトーン・マッピング・アルゴリズムの場合、目標は、見る者が好む所定の組をなすイメージ特性を実現することである。広く用いられているヒストグラム等化法は、こうしたアルゴリズムとして分類することができる。ヒストグラム法は、最も「良好な」イメージは、出力ダイナミック・レンジを完全に占める輝度ヒストグラムを有する、という観測結果に基づくものである。このアルゴリズムは、イメージのグレー・レベルを調整して、フラットなガウス形状または他の所定の形状に向かってヒストグラム形状を移行させる。もちろん、こうした方法がどれほどうまく働くかは、全ての「良好な」イメージが同じヒストグラムを有しているという仮定が真か否かによって決まる。この方法は、対称性を有して、良好に分布したヒストグラムを有するイメージにはうまく作用するが、イメージに暗い、または、明るい、広い面積の背景が存在し、このため、ヒストグラムが一方の側に偏る場合には、イメージが不自然に見える。
【0008】Larson他によって開発された修正ヒストグラム等化法は、伝統的なヒストグラム等化法よりも頑強である。Larsonの方法では、トーン・マッピングで許容されるグレー・レベルの調整量が制限される。グレー・レベルの調整量は、輝度コントラスト感度測定に基づいて制限される。さらに、この方法のバリエーションの1つでは、さまざまな照明レベル下における視覚的鋭敏度の変化も考慮されている(参照により本明細書に援用する、Larson,G.W.,Rushmeier,H.及び、Piatko,C.,による「A Visibility Matching Tone Reproduction Operator for High Dynamic Range Scenes」(IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics,3(4):291-306(1997))を参照されたい)。しかしながら、計算は反復型であり、従って、その実施はコストが高くつき、低速である。さらに、修正ヒストグラム等化法は、やはり、正確な絶対輝度レベル情報を必要とする。従って、この修正ヒストグラム等化法によれば、より正確な外観の一致が得られるが、計算の複雑さが増すという犠牲を払うことになる。
【0009】局所的輝度適応の場合の知覚的要素は、目は、イメージを見るのに、あちこちをざっと観察するという事実を考慮している。目は、もとのシーンの小領域の輝度レベルにすばやく適応して、陰影内の領域及びハイライト内の領域がはっきりと見えるようにする。再現イメージにおいては、ダイナミック・レンジと適応環境が、両方とも異なっている。従って、目の適応プロセスを完全にまねるには、その局所的輝度レベルに従って、イメージの輝度レベルを調整することになる。
【0010】Tumblinの細部保存コントラスト低減法(detail-preserving contrast reduction meshod:参照により本明細書に援用する、Tumblin,J.及びTurk,G.,による「LCIS:A Boundary Hierarchy for Detail-Preserving Contrast Reduction」(Computer Graphics Proceedings,SIGGRAPH99,pp.83-90,Los Angeles,CA,USA(1999))のような各種局所トーン・マッピング・アルゴリズム、及び、retinex理論に基づく各種アルゴリズムは、局所的輝度適応プロセスをまねようとしてきた。retinex理論に関しては、Jobson,D.,Rahman,Z.,及び、Woodell,G.による「A Multiscale Retinex for Bridging the Gap Between Color Images and Human Observation of Scenes」(IEEE Transactions on Image Processing,6(7):965-976(1997))、Rahman,Z.,Jobson,D.,及び、Woodell,G.,による「Multi-Scale Retinex for Color Image Enhancement ,Proceedings」(International Conference on Image Processing,volume3,pp.1003-1006,Lausanne,Switzerland(1996))(いずれも、参照により本明細書に援用する)を参照されたい。これらのアルゴリズムでは、イメージの局所コントラストが保存されるが、やはり、イメージの異なる空間解像成分の分解を必要とする反復法であり、計算コストが高くつく。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】デジタル・イメージ・システムにおいて、ユーザが所望するイメージを、計算コストを低くして、かつ高速に再現する手段が必要とされている。
【0012】
【課題を解決するための手段】知覚的選好ガイドラインに基づく適応型デジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズムを実施するためのシステム及び方法を提供する。トーン曲線は、もとのイメージ統計値によって決まるシグモイド関数(すなわち、S字形関数)パラメータ(勾配及びシフトのパラメータ)を有するシグモイド(S字形)関数として生成される。これらのパラメータは、もとのイメージ統計値に基づいているので、アルゴリズムは適応型である。それぞれのイメージに関して生成されるトーン曲線は、それぞれ、平滑なS字形状を有しているので、トーン・マッピング・プロセスによって、イメージのヒストグラム形状が急激に変化することはない。従って、このアルゴリズムは、頑強でかつ保存性がある(例えば、このアルゴリズムによれば、大部分のイメージに関して外観が向上し、見た目が悪くなるイメージはない)。シグモイド関数は、次の形式を有している。
【0013】
【数1】
【0014】ここで、αは勾配パラメータであり、βはシフト・パラメータである。トーン曲線が、0〜100の値を有するL*スケールで生成されるので、シグモイド関数の入力値xは、[0,100]の範囲で変動する。S字状トーン曲線の計算は、α及びβの計算に用いられるさまざまな要素を事前計算して、記憶し、2つの極値勾配を有する1対の固定トーン曲線を事前生成して、それらの間を補間することにより、単純な算術演算を使用して効率よく実施することが可能である。以下に本発明を、本発明の重要な実施態様例を図示した添付図面を参照して説明する。
【0015】
【発明の実施の形態】本出願の多くの革新的な教示を、現在のところ望ましい典型的な実施態様を特に参照して説明する。しかしながら、言うまでもなく、本明細書において、これらの実施態様によって示されるのは、その革新的な教示に関する多くの有効な使用例のうちのほんの一部である。一般に、本出願の明細書においてなされる説明は、特許請求の範囲に記載されているさまざまな発明を限定することを意図してなしたものではない。さらに、その説明の内容は、本発明のある特徴には当てはまるが、別の特徴には当てはまらない場合がある。
【0016】図1にはデジタル・イメージ・システム10内で実施される、本発明の望ましい実施態様によるデジタル・イメージ・トーン・マッピング・アルゴリズム100が示されている。デジタル・イメージ・システム10は、デジタル・カメラ、スキャナ、デジタル・カムコーダ、デジタル・イメージを印刷することが可能なプリンタ、または、デジタル・テレビジョン(但し、これらに限定されない)を含む、任意のデジタル装置とすることが可能である。ローエンドCMOSセンサ・チップ、CCDセンサ・チップ、または、センサ・チップと共にパッケージングされた個別のイメージ処理チップのような、デジタル装置のイメージ処理チップ内、または、デジタル装置に関連したソフトウェア・パッケージ(ドライバ)内に、アルゴリズム100を含めることができる。あるいはまた、デジタル・イメージ・システム10は、デジタル・イメージのトーン特性を向上させるため、画質改善ソフトウェア・パッケージがインストールされたコンピュータ・システムとすることが可能である。
【0017】トーン・マッピング・アルゴリズム100は、記憶及び処理時間に関して単純及び高速であり、カラー・チャネルの全てに対してトーン曲線が1つの、大局トーン・マッピング法を使用する。留意すべきは、トーン・マッピング・アルゴリズム100は、カラー・イメージとモノクロ・イメージの両方に適用できるという点である。トーン・マッピング・アルゴリズム100によれば、平滑で、むらのない、曲率の穏やかな(すなわち、比較的緩やかな)トーン曲線が得られるので、いくつかのヒストグラム等化法において明白な極端なコントラストの変化が回避される。さらに、トーン・マッピング・アルゴリズム100は、形状が常にS字状になる適応トーンを使用することによって、トーン曲線がフレーム毎に比較的安定した状態を保つので、ビデオ用途にとって理想的である。さらに、トーン・マッピング・アルゴリズム100によれば、もとのイメージの絶対輝度レベルを推定することなく、ユーザにとって(明るさ、コントラスト、及び、色の恒常性に関して)満足のいくように見えるイメージが生成される。
【0018】トーン・マッピング・アルゴリズム100は、n番目と(100−n)番目のL*百分位数(パーセンタイル:percentile)、約20のL*標準偏差、及び、約50の平均L*値(ここでは、各ピクセルの線形輝度値をL*スケールに変換して(この変換後の値がL*値)から、全てのピクセルのL*値を平均したもの)、にセンタリング関数(centering function)を用いることにより、範囲の中央における全体的なヒストグラム形状を保存するといった知覚的選好ガイドラインに基づいている。もちろん、L*スケールは、受信された線形(リニア)イメージ・データに基づく線形(リニア)スケールからの単なる変換である。留意すべきは、ユーザ、または、トーン・マッピング・アルゴリズムが実施される特定のデジタル・イメージ・システム10の要件に基づいて、他の知覚的選好ガイドラインを使用することができるという点である。知覚的選好を考慮し、計算の複雑性に関する制約条件に適合するトーン・マッピング・アルゴリズム100を得るために、シグモイド関数トーン・マッピング法が使用されるが、これについては、図2〜8を参照してさらに詳細に後述する。
【0019】図2には、本発明のトーン・マッピング・アルゴリズム100を用いて、デジタル・イメージの輝度(ピクセル)値を表す受信デジタル・イメージ・データを出力装置50の輝度範囲にマッピングするためのステップが例示されている。デジタル・イメージ撮像(または捕捉)装置またはデジタル・イメージ・ファイルのようなデジタル・イメージ源20によって、デジタル・イメージに関連したデジタル・イメージ・データ25が、線形変換装置30に供給され(ステップ200)、デジタル・イメージ・データ25が線形スケールで線形イメージ・データ130に変換される(ステップ210)。留意すべきは、もとのデジタル・イメージ・データ25を任意のスケールにすることができるという点である。あるいはまた、デジタル・イメージ・データ25は、既に線形スケールのものとすることができ、この場合は、線形変換装置30は必要ではない。この線形イメージ・データ130は、後で、トーン・マッピング・オペレータ40によって使用されて、出力装置50の輝度範囲にマッピングされる(ステップ250)。
【0020】変換が終了すると、線形イメージ・データ130は、イメージ統計プロセッサ120に送られ、もとの線形イメージ・データ130に基づいて、1つ以上のイメージ統計値149が求められる(ステップ220)。これらのイメージ統計値149は、2つのトーン曲線パラメータ150、すなわち、勾配パラメータ及びシフト・パラメータの計算において、トーン曲線パラメータ計算論理回路140によって、定義済みの1つ以上の知覚的選好と共に使用される(ステップ230)。定義済みの知覚的選好は、オペレータ(例えば、デジタル・イメージ・システム10のユーザまたはメーカ)が定義することができる。シフト・パラメータによって、トーン曲線がシフトされ、露出不足または露出過剰のイメージが適正な範囲に近づけられる。勾配パラメータによって、トーン曲線が伸張または圧縮されて、所望のヒストグラムの広がりが実現される。これら2つのトーン曲線パラメータ150は、トーン曲線発生器160によって、イメージに関するトーン曲線170の生成に用いられる(ステップ240)。トーン曲線発生器160は、下記のシグモイド関数を使用して、S字状トーン曲線170を生成する。
【0021】
【数2】
【0022】ここで、αは勾配パラメータであり、βはシフト・パラメータである。シグモイド関数の入力値xは、トーン曲線170が、イメージ・ピクセルの明るさ(輝度)レベルの測度であり、0〜100の値を有するL*スケールで生成されるので、[0,100]の範囲で変動する。CIE規格の公式に基づき、L*スケールは、次式のように、線形イメージ・データのほぼ立方根変換になる。
【0023】
【数3】
【0024】ここで、Yは線形輝度であり、Ynは、白色点の輝度レベルである。Y値は、L*の計算に備えてYn値によって正規化されるため、Y及びYnの絶対スケールは、両方とも絶対輝度に比例している限りにおいて、重要ではない。実施の際、生(すなわち未加工)の、または色補正された線形RGB値をY値の代わりに使用することができる。
【0025】L*スケールは、いくつかの理由から、トーン曲線170の生成において望ましいスケールである。まず、L*スケールは、線形スケールに比べて知覚的に均一である。第2に、大部分の自然のままのイメージのヒストグラムは、線形スケールに比べて、L*スケールの方が対称性が良くなりがちであり、このため、L*スケールのほうがヒストグラムの広がり調整が容易になる(また、知覚的により頑強になる)。ただし、留意すべきは、線形スケールは、トーン曲線発生器160によって、本明細書に記載のL*スケールの代わりに使用される可能性があるという点である。また、言うまでもないが、S字状トーン曲線170は、負及び正の無限大において0及び100に漸近する。従って、トーン曲線170が生成された場合には、0が0に、100が100に確実にマッピングされるように、曲線170を、下記のように、[0,100]の範囲に合わせてスケーリングしなければならない。
【0026】
【数4】
【0027】トーン曲線発生器160によって得られる図9に示すタイプのS字形状トーン曲線170には、上述の制約条件及び知覚的選好を満たすいくつかの特性がある。S字形状トーン曲線170は、範囲の中央においてほぼ線形であり、勾配がきついと、暗部の端及び明部の端が飽和する。範囲の中央におけるほぼ線形の部分は、大部分のイメージについて、大部分のピクセルが、幾分線形にマッピングされ、従って、もとのヒストグラムの形状が保存されることを表している。さらに、S字状トーン曲線170のパラメータを、所望のL*標準偏差レベルが得られるように設定することが可能である。さらに、シグモイド関数は平滑であり、異なるパラメータ設定間で曲率にかなりの一貫性がある(β点の前で加速度的に大きくなり、その後では小さくなる)。従って、シグモイド関数が、急激な曲がり及びピークを有するトーン曲線170を生成する可能性は低い。
【0028】トーン曲線170が生成されると(ステップ240)、トーン・マッピング・オペレータ40により、受信した線形イメージ・データ130をこのトーン曲線170にマッピングして、出力装置50のレベルに対応する出力イメージ・データ45を再生する(ステップ250)。出力装置50は、ディスプレイ、プリンタ、または、他のイメージ処理装置とすることができる。また、出力装置50への送信前に、出力イメージ・データ45に追加処理を施すことができる(ステップ260)。
【0029】図3A〜3C及びそれらに対応する図4A〜4Cのフローチャートには、図1のイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様が例示されている。図3A及び図4Aに示す第1の実施態様では、線形イメージ・データ130が、ヒストグラム発生器122に送られ(ステップ400)、データ130のデジタル値の分布を表すヒストグラム145(例えば、テーブル)が生成される(ステップ405)。例えば、カラー・デジタル・イメージの場合、所定の数の赤、青、及び、緑値(例えば、イメージ内の各ピクセル毎に1つ)が存在する。例えば、緑値のヒストグラムを生成するために、ヒストグラム発生器122は、ビン・サイズ(例えば、0〜10、11〜20、21〜30等の値の範囲)を決定し、各ビンにおける緑ピクセル値の発生数をカウントする。グラフ表現によるヒストグラムを生成するために、各ビンのデータを、ビン中心(例えば、5、15、25等)の関数としてプロットする。
【0030】ヒストグラムが生成されると、ヒストグラムのビン中心値135が、L*ビン中心値変換器124に伝送されて、L*ビン中心値135aに変換される(ステップ410)。変換は、上記式(2)を使用して実施されるが、この場合、Yはビン中心値であり、Ynはピクセル値について可能性のある最大デジタル値である。L*ビン中心値135a、及び、各ビンにおける値の数のカウント数を含むヒストグラム145が、L*統計値計算論理回路128に伝送されて、イメージ統計値149が計算され(ステップ420)、この統計値が、続いて、S字状トーン曲線に関する勾配パラメータα及びシフト・パラメータβの計算に用いられる。
【0031】勾配パラメータα及びシフト・パラメータβを計算するためのさまざまな実施態様については、図5及び6を参照して後述する。要するに、勾配パラメータα及びシフト・パラメータβの計算に用いられるL*イメージ統計値149には、現在のL*標準偏差と、現在の平均L*値またはヒストグラムのL*百分位数値(n番目及び(100−n)番目の百分位数)が含まれている。ヒストグラムのL*百分位数値は、ヒストグラムの端点を表している。従って、nは、比較的小さく(5未満が望ましい)になるように選択される。例えば、全てのL*ピクセル値の5%が、18未満の値を有する場合、5番目の百分位数は18であり、従って、低端点は18になる。高端点は、従って、ちょうど95番目の百分位数に対応するL*値になる(例えば、全てのL*ピクセル値の95%が、高端点より低い値を有することになる)。
【0032】現在のL*標準偏差σcurrentは、下記のようにヒストグラムから計算することができる。
【0033】
【数5】
【0034】ここで、Biは、L*値におけるヒストグラムのビン中心であり、niは、ヒストグラムのi番目のビンにおけるピクセル・カウントであり、nbは、ヒストグラムのビン数であり、nは、イメージのピクセル総数であり、
【数6】
は、下記のように、やはり、イメージ・ヒストグラムから計算することが可能な平均ピクセルL*値である。
【0035】
【数7】
【0036】実施態様の1つでは、σcurrentは、緑のカラー(色)プレーンにおけるヒストグラムだけから計算される。大部分のセンサについて、緑のチャネルは、輝度情報をほぼ捕捉するカラー(色)プレーンである。しかし、留意すべきは、代わりに、ある組み合わせのRGBピクセル値を用いて、イメージL*標準偏差を計算することが可能であるという点である。その選択が輝度の妥当な表現である限りにおいて、結果生じるトーン曲線が大幅に変化することはないはずである。
【0037】ヒストグラムを利用できない場合は、代替的に、図3B及び図4Bに示すように、イメージ統計値149を、イメージ・ピクセル値自体から計算することが可能である。従って、線形イメージ・データ130がイメージ統計プロセッサ120に到達すると(ステップ430)、線形イメージ・データ130は、L*イメージ・データ変換器125によってL*イメージ値130aに変換され(ステップ435)、L*イメージ値130aは、L*統計値計算論理回路128に送られて、イメージ統計値149(例えば、現在のL*標準偏差、及び、現在の平均L*値またはL*百分位数のいずれか)が計算される(ステップ440)。例えば、この実施態様の場合、現在の平均L*値は、全てのL*イメージ値の平均をとることによって計算することが可能である。
【0038】図3C及び図4Cに示すような、計算の複雑さを軽減するためのもう1つの代替案として、ヒストグラム・ビンが、イメージ毎に変化しない(各ビンのカウント値が変化するだけである)ので、線形イメージ・データ130を受信する前に、ヒストグラムのビン中心値135をL*ビン中心値135aに変換することができる。従って、この実施態様の場合、ヒストグラムのビン中心値135が決まると(ステップ450)、ビン中心値135は、L*ビン中心値変換器124によってL*ビン中心値135aに変換され(ステップ455)、これらのL*ビン中心値135aは、イメージ統計プロセッサ120にとってアクセス可能なメモリ129、または、イメージ統計プロセッサ120内に記憶される(前者が図示されている)(ステップ460)。さらに他の代替案として、L*ビン中心値135aへの変換は、外部で実施することが可能であり、L*ビン中心値135aを、メモリ129に事前にロードすることが可能である。
【0039】その後、線形イメージ・データ130が、イメージ統計プロセッサ120に到達すると(ステップ465)、線形イメージ・データ130は、(上述の)ヒストグラム発生器122に送られ、各ビンにおけるピクセル値の数がカウントされる(ステップ470)。カウントが終了すると、各ビンのピクセル値の数のカウント値を含むテーブル145がL*統計値計算論理回路128に送られ、メモリ129からL*ビン中心値135aが取り出されて(ステップ480)、イメージ統計値149が計算される(ステップ485)。この実施態様では、イメージ統計値149(例えば、L*標準偏差及び平均L*値)を、単純な加算、減算、及び、乗算だけで計算することができる。
【0040】図5、6A、及び6Bには、イメージ統計プロセッサによって計算されたイメージ統計値(例えば、L*標準偏差、及び、平均L*値またはL*百分位数)を用いて、勾配パラメータα及びシフト・パラメータβを計算するステップが例示されている。上述のように、シフト・パラメータ及び勾配パラメータを計算する場合、さまざまな知覚的選好ガイドラインを使用して、見る者にとって満足のいく出力イメージを生成することが可能である。知覚的選好ガイドラインは、ユーザが選択することもできるし、あるいは、トーン・マッピング・アルゴリズムが実施される特定のデジタル・イメージ・システムのメーカが選択することも可能である。例えば、以下の説明は、範囲の中央における全体的なヒストグラム形状の保存、約20の所望のL*標準偏差レベル、及び、約50の所望の平均L*レベルを含む3つの望ましい知覚的選好に基づくものである。もちろん、これらの望ましい知覚的選好の代わりに、他の知覚的選好を使用することも可能である。
【0041】図5に例示するように、勾配パラメータαを求めるために、イメージ統計プロセッサによって計算された現在のL*標準偏差が、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路に伝送される(ステップ500)。所望のL*標準偏差が、ユーザまたはメーカによって事前選択され、トーン曲線パラメータ計算論理回路にとってアクセス可能なメモリ(不図示)、または、トーン曲線パラメータ計算論理回路内に記憶される(ステップ510)。上述のように、望ましい実施態様の場合、所望のL*標準偏差は、約20になるように選択される。しかし、ユーザまたはメーカの要求に従って、他の値を選択することも可能である。値が20を超えると、よりコントラストの強いイメージが生成され、一方、値が20未満になると、よりコントラストの弱いイメージが生成される。所望のL*標準偏差以外に、デフォルト時の勾配値も事前選択される(ステップ520)。
【0042】線形トーン曲線の場合、q/pのトーン曲線勾配を使用して、標準偏差を、ある値(p)から別の値(q)に変更することが可能である。S字状トーン曲線は、非線形であるが、S字状曲線の中間部分はほぼ線形である。ほとんどのイメージでは、イメージ・ピクセルの大部分が、範囲の中央(1実施態様では、
【数8】
となるポイントのあたり)に近い値を有しているので、このポイントでS字状曲線の勾配を変化させて、所望のL*標準偏差の実現を試みることができる。
【0043】x=100βのポイントにおいて、α=4であれば、t(x)の勾配は1になる。従って、デフォルト時の勾配αdefaultを4に設定することができる。しかし、使用される(上述したような)実際のトーン曲線は、αが4未満の場合、勾配が1になるt1(x)である。実際には、イメージがどの程度のコントラストの強さで見えるようにしたいかに応じて、3と4の間の任意の値をデフォルト時の勾配αdefaultとして使用することができる。デフォルト時の勾配を選択すると、現在のL*標準偏差、所望のL*標準偏差、及び、デフォルト時の勾配に基づいて、勾配パラメータαを計算することができる(ステップ530)。σcurrentのL*標準偏差を有するイメージについての勾配パラメータαを得るために、現在のL*標準偏差及び所望のL*標準偏差σdesiredに従って、下記のように、デフォルト時のα値にスケーリングが施される。
【0044】
【数9】
【0045】上述のように、出力イメージ全体の明るさに影響を与えるために、シフト・パラメータβによって、ヒストグラムをシフトする。特定の用途において、どの知覚的要素がより重要であるかに従って、また、許容される計算上の複雑さがどれほどであるかに応じて、シフト・パラメータを求める方法は異なる。図6A及び6Bには、シフト・パラメータβを計算するためのこうした2つの代替実施態様が例示されている。
【0046】第1の実施態様の場合、図6Aに示すように、シフト・パラメータβは、平均L*値に基づいて計算される。この実施態様の場合、イメージ統計プロセッサによって計算された現在の平均L*値は、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路に送られる(ステップ600)。所望の平均L*値は、ユーザまたはメーカによって事前選択され、トーン曲線パラメータ計算論理回路にとってアクセス可能なメモリ(不図示)内、または、トーン曲線パラメータ計算論理回路内に記憶される(ステップ610)。しかし、環境によっては、この事前選択された所望の平均L*値を、処理されるイメージに関する追加情報に基づいて調整することも可能である。例えば、イメージ・プロセッサに、イメージの内容が主として黒の物体であることが分かっている場合、所望のL*値を50未満に調整して、イメージが過剰に明るくならないようにすることが可能である。あるいは、イメージ・データが高レベルノイズを含んでいることが分かっている場合、所望のL*値にバイアスをかけて、もとのイメージの平均L*値に近づけ、トーン・マッピングによるノイズの増幅を回避することも可能である。
【0047】例えば、イメージ全体の所望の平均L*値を、ほぼ50(中間の明るさ)になるように事前選択することが可能である。あるいはまた、所望の平均L*値を、所定のイメージ領域において50になるように選択することも可能である。一例として、人間の顔を含むイメージの場合、顔の領域におけるL*平均値を50に設定することが可能である。こうした基準を使用して、S字状トーン曲線のシフト・パラメータを求めると、一般に、優れた画質が得られる。しかし、顔の認識をすることができない場合には、イメージの中心部、またはイメージにおいて対象とする他の領域の平均L*値を、ほぼ50のレベルにすることができる。シフト・パラメータを求めるこの後者の方法は、低コストのイメージング(画像形成)システムにとってより実際的である。もちろん、50の代わりに、他の任意の所望の平均L*値を用いることも可能である。
【0048】シフト・パラメータを、現在の平均L*値及び所望の平均L*値に基づいて計算することが可能である(ステップ620)。例えば、
【数10】
がイメージにおいて対象とする領域(例えば、顔の領域)の平均L*値であり、Ldesiredが所望の平均L*値ある場合、シフト・パラメータβは、次のようになる。
【0049】
【数11】
【0050】50のLdesired値を使用すると、βは単に、
【数12】
になる。
【0051】図6Bに示す第2の実施態様の場合、シフト・パラメータβは、L*百分位数値に基づいて計算される。さまざま研究(例えば、1997年のタナカ他による研究を参照されたい)が示すように、観察者は、できるだけ出力色域の広い再現を選好する。従って、こうした選好に応じるために、ヒストグラムをシフトすることによってシフト・パラメータを求めて、できる限り出力装置のダイナミック・レンジの広い範囲を占めるようにし、同時に、できる限りヒストグラムの形状を乱さないようにして分布のいずれかの端における多数のポイントの飽和を回避することができる。これは、トーン曲線の中心が、ヒストグラムの端点間の中間にくるようにするセンタリング関数を使用することによって行われる。これは、保存的な選択であり、一般に、もとのRGBヒストグラムがある程度「正常」(値が全範囲中の小さな部分に集中しない)であれば、イメージの平均輝度にはわずかな変化しか生じない。
【0052】従って、トーン曲線パラメータ計算論理回路が、L*百分位数(例えば、nが扱いやすい小さい値である、n番目及び(100−n)番目の百分位数)を受信すると(ステップ650)、シフト・パラメータβを、これら2つの端点間の中点値として計算することが可能になる(ステップ660)。例えば、ヒストグラムにおけるピクセル値のn番目の百分位数がx1で、ピクセル値の(100−n)番目の百分位数がx2である場合、シフト・パラメータは、下記の式によって求められる。
【0053】
【数13】
【0054】RGB値の組み合わせヒストグラムを使用して、百分位数を求め、トーン曲線のシフトを計算するときに、カラー・プレーンが無視されないようにするのが望ましい。これは、とりわけ、トーン・マッピング後のカラー(色)シフトを回避するために、鮮明な色調を有するイメージに対して施されるトーン・マッピングにとって重要である。
【0055】上述のβを求める方法は、両方とも、イメージに対して実施され、テストされた。第1の方法(βを平均L*値から計算する)は、実施がより容易であり、大部分の屋内及び屋外のイメージに対してうまく作用する。イメージ全体の平均L*値をβとして用いると、夜間のイメージまたは暗いイメージ、すなわち、燭光によるシーンのような、平均L*値が低いイメージを過剰に明るくすることになりがちである。第2の方法(βとしてヒストグラムの最高と最低の百分位数の平均を使用する)は、暗いイメージの場合により良好に作用する。この第2の方法は、第1の方法に比べて、イメージの明るさを変化させる傾向が少ないので、より保存的な方法である。
【0056】用途によっては、S字状曲線のシフト範囲、すなわち、シフト・パラメータβが0.5から偏移することが可能な範囲を制限するのが望ましい場合もあり得る。例えば、かなり露出不足のイメージの場合、(β値が0に近い)トーン曲線を過剰にシフト・アップすると、センサ・ノイズが増幅されるので、低画質のイメージが生じることになる。同様に、かなり露出過度のイメージの場合、(β値が1に近い)トーン曲線を過剰にシフト・ダウンすると、ほぼ飽和した領域にカラー(色)シフトが生じる可能性がある。これらの問題を最小限に抑えるために、もとのイメージの平均ピクセル値に従って、シフト・パラメータの値を制限することが可能である。もとのイメージ平均ピクセル値が、トーン・マッピング・アルゴリズムの特定の用途に応じて、高すぎるか、または、低すぎる場合には、ノイズの増幅を低減するために、シフト・パラメータβに調整を加えて、中点値0.5からの偏差が少なくなるようにする。実施態様の1つでは、それぞれが、もとのイメージ・ピクセル値の平均レベルMjの1つに対応する、一連のβ値の上限Tjが事前選択される。もとのイメージの平均ピクセル値がMj未満である場合、β値は、少なくともTjに制限される。すなわち、式7または式8から計算される値がTj未満の場合、βはTjに等しくなるように設定される。同様に、それぞれが、平均ピクセル・レベルMkの1つに対応する、一連の下限Tkも事前選択することが可能である。もとのイメージの平均ピクセル値がMkを超える場合、βは、Tkより大きくならないように制限される。シフト・パラメータをこのように制限することによって、トーンの過剰補償から生じるアーティファクト(人工的ノイズなど)を最小限に抑えることが可能になる。
【0057】図7A及び7Bには、図1に示したトーン曲線発生器160を実施するための代替実施態様が例示されている。図7A、及び図8Aのステップに示されている第1の実施態様の場合、トーン曲線パラメータ150(例えば、勾配パラメータα及びシフト・パラメータβ)が、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路140によって計算されると、トーン曲線発生器160に送られる(ステップ800)。その後、S字状トーン曲線170が、上述の受信トーン曲線パラメータ150、及び、式(1)及び(3)を用いて、トーン曲線発生器160内のS字関数ロジック(シグモイド関数論理回路)162によって生成される(ステップ805及び810)。生成されたトーン曲線170は、図9に示すトーン曲線に似ている。
【0058】図9に示すトーン曲線170は、L*イメージ入力値を適正な出力装置に対するL*イメージ出力値にマッピングすることが可能である。しかし、L*は、一般に、出力装置において用いられるスケールではないので、出力デジタル・イメージデータは、特定の出力装置によって必要とされるスケールに変換される前に、線形形式に変換される。望ましい実施態様の場合、Y軸(L*イメージ出力値)は、Y軸変換器164によって、L*スケールから線形スケールに変換されるが(ステップ815)、これは、上述した、トーン曲線170aを生成するための変換の概ね3乗である。
【0059】さらに、CRTディスプレイのような大部分の表示装置は、ほぼベキ関数である強度(例えば輝度)対電圧応答曲線を有している(例えば、γをディスプレイのガンマ値とした場合、ピクセル値がxに設定されると、表示輝度は、xγに比例する)ので、こうした出力装置において適正に表示するためには、線形出力値にガンマ補正を施す必要がある。大部分のトーン・マッピング法において、ガンマ補正は、マッピング後に実施される。本明細書に記載のS字状トーン・マッピング法の場合、ガンマ補正は、トーン・マッピング後に別個に実施することもできるし、あるいは、トーン・マッピング・ステップと組み合わせることも可能である。1実施態様では、ガンマ補正は、ガンマ補正論理回路166をY軸に適用して、トーン曲線170bを生成することによって、トーン・マッピングと共に実施される(ステップ820)。Y軸(出力)の線形変換とガンマ補正を組み合わせた効果は、3/γの累乗であり、ここで、γは、出力装置がRGB(標準色空間)ディスプレイの場合、2.4のような意図するディスプレイ・ガンマ値である。
【0060】一般に、トーン・マッピングは、線形RGB入力ピクセル値に施される(例えば、線形イメージ・データ130が、線形変換装置30によって図1のトーン・マッピング・オペレータ40に供給される)。S字状トーン曲線は、X軸上におけるL*スケールを想定して、すなわち、X軸値がL*スケールで均一にサンプリングされると想定して生成される。従って、線形入力値をトーン曲線に適正にマッピングするためには、トーン曲線をイメージに適用するときに、テーブル参照動作を容易に行えるように、トーン曲線のX軸サンプリングを、線形スケールにおいて均一になるように変換しなければならない。この変換は、トーン曲線170cを生成するために、X軸変換器168によって、単純な線形補間プロセスを用いて実施されるが(ステップ825)、これには、Y軸変換器に関連して上述したような算術演算だけしか必要としない。この最終トーン曲線170cは、(図1に示した)トーン・マッピング・オペレータによって、線形イメージ・データを出力装置の輝度にマッピングするために使用される。
【0061】図7B、及び図8Bのステップで示す第2の実施態様の場合、トーン・マッピング・アルゴリズムの最も計算コストが高くつく部分の1つに、計算の複雑さを軽減するための、シグモイド関数における指数関数計算が含まれるので、算術演算だけで、S字状トーン曲線計算の近似を実施することが可能である。シグモイド関数における指数計算は、2つの極値勾配(または最大勾配)を有する1対の固定トーン曲線を予め計算し、次に、補間を施して、中間勾配を有するトーン曲線を求めることによって回避することができる。上述のように、シフト・パラメータによって、水平(X)軸上のトーン曲線が並進させられる。従って、X(入力ピクセル値)軸の広い範囲にわたってトーン曲線を事前計算して、それぞれのシフト・パラメータについて事前計算されたトーン曲線のそれぞれの部分を「取り除く」ことによって、適正なトーン曲線を選択することが可能になる。
【0062】2つのトーン曲線を事前に計算するために、ユーザまたはメーカは、2つの勾配パラメータαmax及びαminを事前に選択しなければならない(ステップ850)。大部分のイメージに対する勾配パラメータαは、2.5〜6.5の範囲内にある。従って、望ましい実施態様の場合、αminは、2.5に設定され、αmaxは、6.5に設定される。最大及び最小勾配パラメータ155が設定されると、シグモイド関数論理回路162は、2つのトーン曲線、すなわち、(L*スケールにおいて)ほぼ線形のトーン曲線をもたらす、勾配が2.5の曲線(曲線P1)と、イメージのコントラストをかなり強めることになる、6.5の急勾配の曲線(曲線P2)を事前に計算することができる(ステップ855)。図10には、事前に生成された2つのトーン曲線が示されている。留意すべきは、2つの曲線は、0のシフト値βについて生成されたものであるという点である(異なるβ値についてのX軸の範囲は、後述するように、X軸のX原点を並進させることによって後で決定される)。
【0063】勾配値が2.5と6.5の間にある場合、トーン曲線は、P1とP2の間を線形補間することによって生成される。a⊂[2.5,6.5]である場合に、Pa(x)がaというα値を有するトーン曲線であると仮定すると、Pa(x)は次のように表せる。
【0064】
【数14】
【0065】これは、もちろん、近似であるが、α値が2.5〜6.5の範囲に制限される場合、近似はかなり正確になる。図11Aでは、トーン曲線出力L*値を、11の異なる入力ピクセル・レベル(11のラインで表示)についてαの関数としてプロットしている。図からわかるように、出力L*値は、αと線形関係に近い。
【0066】上述のように、一般に、トーン・マッピング出力は、画面表示用のガンマ補正された線形RGB値である。従って、図7A及び8Aを参照して上述したように、P1及びP2 158のY軸を、トーン曲線発生器160のY軸変換器164及びガンマ補正論理回路166によって、ガンマ補正された線形RGB値に変換することができる(ステップ860及び865)。トーン曲線出力Pa(x)がガンマ補正された線形RGB値である場合、αとの関係は、図11Bに示すように、やはり、極めて線形である。従って、ガンマ補正されたピクセル値としてP1及びP2 158を事前に計算することによって、補間されたトーン値もガンマ補正されることになる。これは、トーン曲線計算には、補間に用いられる算術演算(上記式9)だけしか必要がないということを表している。ガンマ補正後のトーン曲線P1及びP2 158は、事前に生成されると、後で、特定の入力値集合に関するトーン曲線の計算に使用するために、トーン曲線発生器にとってアクセス可能なメモリ169に記憶されるか(ステップ870)、あるいは、トーン曲線発生器内に記憶される。
【0067】トーン曲線発生器160が、(図1に示した)トーン曲線パラメータ計算論理回路から、現在の勾配パラメータαcurrent150a及び現在のシフト・パラメータβcurrent150bを受信すると(ステップ875)、トーン曲線発生器160内の計算論理回路163が、上記のガンマ補正後のトーン曲線P1及びP2 158、及び、現在の勾配パラメータ150a及び式9を使用して、Pa(x)159を求める(ステップ880)。その後、Pa(x)のある部分を選択するために、現在のシフト・パラメータ150b及びPa(x)159が、トーン曲線発生器160内のシフト論理回路165に伝送される(ステップ885)。シフト・パラメータ150bは、単に、トーン曲線をX軸上で並進させるものであるから、Pa(x)のX軸上における並進によって、シフト・パラメータの異なるトーン曲線を得ることができる。
【0068】例えば、シフト・パラメータが0で、かつ、[−100,100]の範囲内のPa(x)を生成して、[0,100]のX軸範囲内で、シフト・パラメータがβのトーン曲線が得られると仮定すると、そのトーン曲線をX軸上で並進させることによって、−β×100のX値が0になり、(1−β)×100のX値が、100になる。 シフト・パラメータβのトーン曲線は、ポイントX=−β×100からポイントX=(1−β)×100までの事前生成されたトーン曲線Pa(x)を「取り除く」ことによって得られる。実施時には、この操作に必要とされるのは、単に、事前生成テーブルにおける異なる開始点にファイル・ポインタを移動させることだけであり、従って、計算はほとんど不要である。
【0069】Pa(x)からトーン曲線を「取り除いた」後、トーン曲線の両端には、全Y範囲に合わせてスケーリングを施す必要がある。これに必要なのは、やはり、事前に作成されたテーブルから前に取り除かれたトーン・マッピング・テーブルの各エントリに対する算術演算だけである。その後、図7A及び8Aに関連して上述したように、X軸変換器168によって、X軸がL*スケールから線形スケールに変換されて(ステップ890)、最終トーン曲線170が作成される。留意すべきは、トーン曲線の並進は、トーン曲線P1及びP2 158の並進によって正しい勾配を得るのに必要な補間ステップの前または後に行われる可能性があるという点である。最小量の計算の場合、並進がまず実施されるので、補間を施す必要があるのは、事前に生成されたトーン曲線P1及びP2 158の「取り除かれた」部分に対してだけになる。
【0070】当業者には明らかなように、本明細書及び図面において開示した革新的な概念について、その広範囲の用途にわたり、修正及び変更を加えることが可能である。従って、特許付与される範囲は、説明した特定の実施態様例に制限されるべきものではなく、特許請求の範囲によって画定される。
【0071】以下においては、本発明の種々の構成要件の組み合わせからなる例示的な実施態様を示す。
1.デジタル・イメージの少なくとも一部を表すデジタル・イメージ・データ(25)を受信し、前記デジタル・イメージ・データ(25)を出力装置(50)の範囲にマッピングすることが可能なデジタル・イメージ・システム(10)において、前記デジタル・イメージ・データ(25)に基づいて、少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算することが可能なイメージ統計プロセッサ(120)と、計算論理回路(140)であって、前記イメージ統計プロセッサ(120)から、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)と、前記デジタル・イメージ・システム(10)に関連した少なくとも1つの知覚的選好に基づいて、少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算することが可能である、計算論理回路と、トーン曲線発生器(160)であって、前記計算論理回路(140)から、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)とシグモイド関数を使用して、トーン曲線(170)を生成することが可能である、トーン曲線発生器を備え、前記トーン曲線(170)を使用して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングすることからなる、デジタル・イメージ・システム(10)。
2.前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を線形イメージ・データ(130)に変換し、かつ、前記線形イメージ・データ(130)を前記イメージ統計プロセッサ(120)に伝送するように接続された、線形変換装置(30)をさらに備え、前記イメージ統計プロセッサ(120)が、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)の計算において前記線形イメージ・データ(130)を使用することからなる、上項1に記載のシステム(10)。
3.前記イメージ統計プロセッサが、前記線形イメージ・データ(130)を受信して、前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値のヒストグラム(145)を生成するように接続されたヒストグラム発生器(122)であって、前記ヒストグラム(145)に、ピクセル値のそれぞれの範囲を表す複数のビンと、前記複数のビンの各ビン内における前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値数のカウントが含まれることからなる、ヒストグラム発生器と、前記ヒストグラム(145)に関連した前記ビンの各々のビン中心値(135)を線形スケールからL*スケールに変換して、複数のL*ビン中心値(135a)を生成することが可能な変換器(124)と、前記ヒストグラム発生器(122)から前記カウントを受信し、前記変換器(124)から前記複数のL*ビン中心値(135a)を受信し、かつ、前記カウント及び前記複数のL*ビン中心値(135a)を使用して、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するように接続された統計値計算論理回路(128)を備えることからなる、上項2に記載のシステム(10)。
4.前記ヒストグラム(145)の生成前に、前記複数のL*ビン中心値(135a)を記憶するためのメモリ(129)をさらに備え、前記統計値計算論理回路(128)が、前記カウントの受信に応答して、前記複数のL*ビン中心値(135a)を取り出すことからなる、上項3に記載のシステム(10)。
5.前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)に、勾配パラメータとシフト・パラメータが含まれ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)に、現在のL*標準偏差と、現在の平均L*値または低及び高L*百分位数値の一方とが含まれる、上項1に記載のシステム(10)。
6.前記少なくとも1つの知覚的選好に、所望のL*標準偏差と、所望の平均L*値またはセンタリング関数の一方とが含まれ、前記勾配パラメータが、前記現在のL*標準偏差と前記所望のL*標準偏差を用いて計算され、前記シフト・パラメータが、前記現在の平均L*値及び前記所望の平均L*値、または、前記低及び高L*百分位数値と前記センタリング関数を用いて計算されることからなる、上項5に記載のシステム(10)。
7.上位の事前選択された平均L*値及び関連する上位の事前選択されたシフト値と下位の事前選択された平均L*値及び関連する下位の事前選択されたシフト値をさらに含み、前記現在の平均L*値が前記上位の事前選択された平均L*値未満で、かつ、前記計算されたシフト・パラメータが、前記上位の事前選択されたシフト値未満であるときは、前記シフト・パラメータが、前記上位の事前選択されたシフト値に設定され、前記現在の平均L*値が前記下位の事前選択された平均L*値を超え、前記計算されたシフト・パラメータが、前記下位の事前選択されたシフト値を超えるときは、前記シフト・パラメータが、前記下位の事前選択されたシフト値に設定されることからなる、上項6に記載のシステム(10)。
8.前記デジタル・イメージ・システム(10)が前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信する前に、前記トーン曲線発生器(160)によって生成された第1と第2の事前計算されたトーン曲線(158)を記憶するためのメモリ(169)をさらに備え、前記第1の事前計算されたトーン曲線が、最小勾配を有し、前記第2の事前計算されたトーン曲線が最大勾配を有することからなる、上項5に記載のシステム(10)。
9.前記トーン曲線発生器が、計算論理回路(163)であって、前記勾配パラメータ(150a)及び前記第1と第2の事前計算されたトーン曲線(158)を受信するように接続され、かつ、前記勾配パラメータ(150a)を使用して、前記第1の事前計算されたトーン曲線と前記第2の事前計算されたトーン曲線(158)の間の補間を行って、初期トーン曲線(159)を求めることが可能である、計算論理回路と、シフト論理回路(165)であって、前記初期トーン曲線(159)及び前記シフト・パラメータ(150b)を受信するように接続され、かつ、前記シフト・パラメータ(150b)を使用して、X軸上で前記初期トーン曲線(159)をシフトさせて、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングする際に用いられる前記トーン曲線(170)を生成することが可能である、シフト論理回路を備えることからなる、上項8に記載のシステム。
10.前記トーン曲線発生器が、前記トーン曲線(170)のY軸にガンマ補正を施すためのガンマ補正論理回路(166)と、前記トーン曲線(170)のX軸を前記デジタル・イメージ・データ(25)のスケールに変換するための変換器(168)をさらに備える、上項1に記載のシステム。
11.デジタル・イメージの少なくとも一部を表すデジタル・イメージ・データ(25)を出力装置(50)の範囲にマッピングするための方法であって、デジタル・イメージ・システム(10)において前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信するステップと、前記デジタル・イメージ・データ(25)に基づいて、少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップと、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)と、少なくとも1つの知覚的選好に基づいて、少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算するステップと、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)とシグモイド関数を使用して、トーン曲線(170)を生成し、前記トーン曲線(170)を使用して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングするステップを含む、方法。
12.前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算する前記ステップが、前記デジタル・イメージ・データ(25)を線形イメージ・データ(130)に変換するステップと、前記線形イメージ・データ(130)を用いて、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップをさらに含む、上項11に記載の方法。
13.前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップが、前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値のヒストグラム(145)を生成するステップであって、前記ヒストグラム(145)に、ピクセル値のそれぞれの範囲を表す複数のビンと、前記複数のビンの各ビン内における前記線形イメージ・データ(130)によって表されるピクセル値数のカウントが含まれることからなる、ステップと、前記ヒストグラム(145)に関連した前記ビンのそれぞれについてビン中心値(135)を線形スケールからL*スケールに変換して、複数のL*ビン中心値(135a)を得るステップと、前記カウント及び前記複数のL*ビン中心値(135a)を使用して、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算するステップをさらに含む、上項12に記載の方法。
14.前記ビン中心値を変換するステップが、前記生成するステップの前に、前記ビン中心値(135)を変換して、複数のL*ビン中心値(135a)を得るステップと、前記複数のL*ビン中心値(135a)をメモリ(129)内に記憶するステップをさらに含む、上項13に記載の方法。
15.前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)に、勾配パラメータとシフト・パラメータが含まれ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)に、現在のL*標準偏差と、現在の平均L*値または低及び高L*百分位数値の一方とが含まれることからなる、上項11に記載の方法。
16.前記少なくとも1つの知覚的選好に、所望のL*標準偏差と、所望の平均L*値またはセンタリング関数の一方とが含まれ、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算するステップが、前記現在のL*標準偏差と前記所望のL*標準偏差を用いて前記勾配パラメータを計算するステップと、前記現在の平均L*値及び前記所望の平均L*値、または、前記低及び高L*百分位数値及び前記センタリング関数を用いて、前記シフト・パラメータを計算するステップをさらに含むことからなる、上項15に記載の方法。
17.前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算するステップが、前記現在の平均L*値が、上位の事前選択されたシフト値に関連した上位の事前選択された平均L*値未満で、かつ、前記計算されたシフト・パラメータが、前記上位の事前選択されたシフト値未満である場合、前記シフト・パラメータを前記上位の事前選択されたシフト値に等しくなるように設定するステップと、前記現在の平均L*値が、下位の事前選択されたシフト値に関連した下位の事前選択された平均L*値を超え、かつ、前記計算されたシフト・パラメータが、前記下位の事前選択されたシフト値を超える場合、前記シフト・パラメータを前記下位の事前選択されたシフト値に等しくなるように設定するステップをさらに含む、上項16に記載の方法。
18.前記生成するステップが、前記デジタル・イメージ・データ(25)を受信する前記ステップの前に、第1と第2の事前計算されたトーン曲線(158)を生成するステップをさらに含み、前記第1の事前計算されたトーン曲線が最小勾配を有し、前記第2の事前計算されたトーン曲線が最大勾配を有することからなる、上項15に記載の方法。
19.前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングする際に用いられる前記トーン曲線(170)を生成するステップが、前記勾配パラメータ(150a)を用いて、前記第1の事前計算されたトーン曲線と前記第2の事前計算されたトーン曲線の間の補間を行い、初期トーン曲線(159)を得るステップと、前記シフト・パラメータ(150b)を使用して、X軸上で前記初期トーン曲線(159)をシフトさせ、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングする際に用いられる前記トーン曲線(170)を得るステップを含むことからなる、上項18に記載の方法。
20.前記トーン曲線(170)を生成するステップが、前記トーン曲線(170)のY軸にガンマ補正を施すステップと、前記トーン曲線(170)のX軸を前記デジタル・イメージ・データ(25)のスケールに変換するステップを含むことからなる、上項11に記載の方法。
【0072】本発明では、知覚的な選好指針に基づく適応型イメージトーンマッピング曲線(170)をS字形関数として生成する。S字形関数のパラメータ(150)(勾配とシフト)は、元のイメージ統計値(149)により決定される。異なるイメージに対して生成されたトーン曲線(170)の各々は、なめらかなS字形状をなしており、そのため、トーンマッピング処理によって、イメージヒストグラムの形状が急激に変化することはない。S字形関数は、
【数15】
で表すことができる。ここで、αは勾配パラメータ(150a)、βはシフトパラメータ(150b)である。トーン曲線(170)は、L*スケールにおいて生成され、0から100までの値を有するので、S字形関数の入力値xは、[0、100]の範囲で変わる。S字形トーン曲線(170)の計算は、αとβの計算に使用される種々の要素を予め計算し、記憶することによって、及び、2つの極値勾配を有する一対の固定トーン曲線(158)を生成して、これらの曲線(158)間を補間することによって、単純な算術演算を用いて効率的に実行することができる。
【0073】
【発明の効果】本発明のイメージ・トーン・マッピングのためのシステム及び方法によれば、平滑で、むらのない、曲率が比較的緩やかなトーン曲線が得られるので、再現される画像(イメージ)に急激なコントラストの変化が生じないようにすることができる。さらに、本発明によれば、もとのイメージの絶対輝度レベルを見積もることなく、ユーザの好みに合った画像を生成することができる。さらにまた、本発明によれば、トーン曲線の計算を、計算コストの安価な単純な算術演算を使用して効率よく実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムの望ましい実施態様を利用したシステムを示すブロック図である。
【図2】図1に示すトーン・マッピング・アルゴリズムに含まれるステップを示すフローチャートである。
【図3A】図1に示すイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図3B】図1に示すイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図3C】図1に示すイメージ統計プロセッサを実施するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図4A】図3Aに示す実施態様において必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図4B】図3Bに示す実施態様において必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図4C】図3Cに示す実施態様において必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図5】図1のトーン・マッピング・アルゴリズムの勾配パラメータを計算するためのステップを示すフローチャートである。
【図6A】図1のトーン・マッピング・アルゴリズムのシフト・パラメータを計算するための代替実施態様を示すフローチャートである。
【図6B】図1のトーン・マッピング・アルゴリズムのシフト・パラメータを計算するための代替実施態様を示すフローチャートである。
【図7A】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムのトーン曲線を生成するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図7B】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムのトーン曲線を生成するための代替実施態様を示すブロック図である。
【図8A】図7Aに示した代替実施態様に必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図8B】図7Bに示した代替実施態様に必要とされるステップを示すフローチャートである。
【図9】本発明のトーン・マッピング・アルゴリズムによって生成されるタイプのトーン曲線の1例のグラフ表示である。
【図10】図7B及び8Bに示した実施態様に従ってL*軸に描かれた、予め生成された2つのトーン曲線のグラフ表示である。
【図11A】図7B及び8Bに示す実施態様に従って勾配パラメータの関数として描かれた、出力L*レベルのグラフ表示である。
【図11B】図7B及び8Bに示す実施態様に従って勾配パラメータの関数として描かれた、ガンマ補正後の出力レベルのグラフ表示である。
【符号の説明】
10 デジタル・イメージ・システム
25 デジタル・イメージ・データ
30 線形変換装置
50 出力装置
100 トーン・マッピング・アルゴリズム
120 イメージ統計プロセッサ
140 計算論理回路
149 イメージ統計値
150 トーン曲線パラメータ
160 トーン曲線発生器
170 トーン曲線
【特許請求の範囲】
【請求項1】デジタル・イメージの少なくとも一部を表すデジタル・イメージ・データ(25)を受信し、前記デジタル・イメージ・データ(25)を出力装置(50)の範囲にマッピングすることが可能なデジタル・イメージ・システム(10)において、前記デジタル・イメージ・データ(25)に基づいて、少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算することが可能なイメージ統計プロセッサ(120)と、計算論理回路(140)であって、前記イメージ統計プロセッサ(120)から、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)と、前記デジタル・イメージ・システム(10)に関連した少なくとも1つの知覚的選好に基づいて、少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算することが可能である、計算論理回路と、トーン曲線発生器(160)であって、前記計算論理回路(140)から、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)とシグモイド関数を使用して、トーン曲線(170)を生成することが可能である、トーン曲線発生器を備え、前記トーン曲線(170)を使用して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングすることからなる、デジタル・イメージ・システム(10)。
【請求項1】デジタル・イメージの少なくとも一部を表すデジタル・イメージ・データ(25)を受信し、前記デジタル・イメージ・データ(25)を出力装置(50)の範囲にマッピングすることが可能なデジタル・イメージ・システム(10)において、前記デジタル・イメージ・データ(25)に基づいて、少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を計算することが可能なイメージ統計プロセッサ(120)と、計算論理回路(140)であって、前記イメージ統計プロセッサ(120)から、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つの現在のイメージ統計値(149)と、前記デジタル・イメージ・システム(10)に関連した少なくとも1つの知覚的選好に基づいて、少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を計算することが可能である、計算論理回路と、トーン曲線発生器(160)であって、前記計算論理回路(140)から、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)を受信するように接続され、かつ、前記少なくとも1つのトーン曲線パラメータ(150)とシグモイド関数を使用して、トーン曲線(170)を生成することが可能である、トーン曲線発生器を備え、前記トーン曲線(170)を使用して、前記デジタル・イメージ・データ(25)を前記出力装置(50)の範囲にマッピングすることからなる、デジタル・イメージ・システム(10)。
【図1】
【図4A】
【図4B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図4A】
【図4B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【公開番号】特開2003−44846(P2003−44846A)
【公開日】平成15年2月14日(2003.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−113090(P2002−113090)
【出願日】平成14年4月16日(2002.4.16)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成15年2月14日(2003.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成14年4月16日(2002.4.16)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】
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