説明

矩形掘進機のローリング修正装置

【課題】 推進工法に用いる矩形掘進機において、支持力が少ない地盤でも掘削機本体のローリングを確実に修正できるようにする。
【解決手段】 断面矩形状の外殻の前部に地盤を断面矩形状に掘削するカッターを設けた掘削機本体10と、掘削機本体10の外殻の前端に外周方向へ回動可能に設けられる断面矩形状のフード20と、掘削機本体10の外殻の後端に外周方向へ回動可能に設けられるアダプター30と、そのアダプター30に接続される断面矩形状の函体と、フード20及びアダプター30を回動させる左右の油圧ジャッキ23,33と、掘削機本体10の外周方向の傾きを検知するローリング検知器とで構成し、掘進時にローリング検知器がローリングを検知すると上下又は左右に配置された油圧ジャッキ23,33を相対する方向へ押圧させてフード20及びアダプター30を水平の姿勢へ戻すように回動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法で地盤を断面矩形状に削孔して地中に矩形函路を構築する矩形掘進機に関し、詳しくは、掘削機本体の外周方向への傾き(以下ローリングという)を水平の姿勢に修正するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な円形掘進機の場合、後続する断面円形状の推進管はローリングが発生しても構造物的に問題が少なく、掘削機本体は排土機能や測量誤差を生じさせない程度のローリング修正管理で掘進が行われている。しかしながら、矩形掘進機の場合は、後続する断面矩形状の函体(RC又はPCボックスカルバート等)は永久構造物として水平埋設が求められるため、掘進中は常にローリング管理を行う必要がある。そのためには、掘進時の掘削機本体が水平の姿勢を維持することが求められるため、ボックス推進工法にはローリング修正装置が必要不可欠の要素となる。
【0003】
過去においては、油圧ジャッキを用いたグリッパー装置で、支圧板付スタビライザーを地山に押し付けて反力を採る方式が多い。しかしながら、土被りの浅い堆積地盤では地盤の支持力が得られないため、支圧板の面積のみでは掘削機本体の重量を支えることが困難で、ローリング修正の効果を得にくく、地山に支圧板を押し付けた段階で支圧板全体が地山内に埋没して修正不可となる場合が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−238961号公報
【特許文献2】特開2006−152745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、支持力が少ない地盤でも掘削機本体のローリングを確実に修正できる矩形掘進機のローリング修正装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 推進工法で地盤を断面矩形状に削孔して地中に矩形函路を構築する矩形掘進機であって、断面矩形状の外殻の前部に設けられ地盤を外殻の外径と略同じ断面矩形状に掘削するカッターと外殻内に設けられカッターを駆動する駆動部とを備えた掘削機本体と、その掘削機本体の外殻の前端に外殻に対して外周方向へ回動可能に設けられる断面矩形状で且つカッターの後方位置までの長さのフードと、掘削機本体の外殻の後端に外殻に対して外周方向へ回動可能に設けられる断面矩形状のアダプターと、そのアダプターに接続される断面矩形状の函体と、掘削機本体の外周方向の傾きを検知するローリング検知器とで構成され、そのローリング検知器が掘進時に掘削機本体の外周方向の傾きを検知するとフード及びアダプターが水平の姿勢へ戻るように回動するようにしたことを特徴とする、矩形掘進機のローリング修正装置
2) フード及びアダプターを回動させる駆動機構が、掘削機本体の外殻の上下位置に横向きの油圧ジェッキを又は外殻の左右位置に縦向きの油圧ジャッキを設け、その上下又は左右の油圧ジャッキでフード及びアダプターの上下位置又は左右位置を相対する方向へそれぞれ押圧して回動させるようにした構造である、前記1)記載の矩形掘進機のローリング修正装置
にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、掘進時にローリング検知器が掘削機本体のローリングを検知すると、上下又は左右の油圧ジャッキが作動してフードとアダプターが水平の姿勢に戻るように回動する。掘削機本体は水平姿勢に戻されたフードの通過跡の土圧を受け、掘進しながらフードと同じ水平の姿勢へ自然に誘導されて修正されていく。アダプターに接続されている函体は掘削機本体とはアダプターを介して接続しているから、掘削機本体のローリングには追従せずにアダプターの水平姿勢に追従する。したがって、従来技術のように地盤の反力を得ないから、地盤の支持力に係わらずに掘削機本体のローリングを確実に修正できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例の矩形掘進機の正面図である。
【図2】実施例の矩形掘進機の右側面図である。
【図3】図1のA−A’線断面図である。
【図4】図1のB−B’線断面図である。
【図5】図2のC−C’線断面図である。
【図6】図2のD−D’線断面図である。
【図7】実施例のローリングの修正を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の駆動機構としては、前記2)記載の油圧ジャッキを用いる構成の他、内歯ギヤをフードとアダプターに取り付け、その内歯ギヤに掘削機本体の外殻に備えたピニオンを噛み合わせて外周方向へ回動させるようにした構造も採用できる。油圧ジャッキは、外殻の断面形状に応じて配置しやすい位置に設けられ、例えば断面が横長の矩形の場合は左右に形成されるスペースに、断面が縦長の矩形の場合は上下に形成されるスペースに設けられる。以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0010】
図1は実施例の矩形掘進機の正面図、図2は実施例の矩形掘進機の右側面図、図3は図1のA−A’線断面図、図4は図1のB−B’線断面図、図5は図2のC−C’線断面図、図6は図2のD−D’線断面図、図7は実施例のローリングの修正を示す説明図である。
【0011】
図中、10は掘削機本体、11は外殻、11a,11bは隔壁、11cは回転支持部、12はカッター、13は方向修正用油圧ジャッキ、14は排土口、15は駆動部、15aはモータ、16はスクリューコンベヤ、16aはモータ、17はローリング検知器、20はフード、21は当板、22は押えリング、23は油圧ジャッキ、23aは伸縮部、30はアダプター、31は当板、32は回転接続部、33は油圧ジャッキ、33aは伸縮部、40は函体、Gは掘削ラインである。
【0012】
図1〜6に示すように、掘削機本体10の外殻11は、前後に分割された断面矩形状で、前側と後側の内側同士を4体の方向修正用油圧ジャッキ13で連結し、方向修正用油圧ジャッキ13を個別に伸縮させることで、外殻11が中折れして前側が所定角度に傾斜できるようにしている。外殻11の前後端には隔壁11a,11bを備え、後側の隔壁11bは円形状に開口して回転支持部11cを形成している。
【0013】
隔壁11aの中央部には掘削土砂を取り込む排土口14を開口し、その排土口14の周囲位置に自転公転しながら地盤を外殻11の外径と略同じ断面矩形状に掘削する3体のカッター12を設けている。また、カッター12を自転公転させる駆動部15、排土口14から取り込んだ掘削土砂を後方へ排出するスクリューコンベヤ16、掘削機本体10の外周方向の傾きを検知するローリング検知器17を外殻11内に設けている。
【0014】
フード20は、外殻11と同じ断面矩形状に形成し、内側の左右位置に横向きの当板21を上下に形成し、背面を円形状に開口している。その開口部分を外殻11の隔壁11aに押えリング22を介して外殻11に対して外周方向へ回動可能に取り付けている。隔壁11aの左右位置には両端が相対的に伸縮できる油圧ジャッキ23を縦向きに取り付け、その両端の伸縮部23aをフード20の上下の当板21に当接し、左右の油圧ジャッキ23の伸縮部23aが当板21を上下相対する方向へ押圧することでフード20が回動できるようにしている。
【0015】
アダプター30は、外殻11と同じ断面矩形状に形成し、内側の左右位置に横向きの当板31を上下に形成し、背面に円形状の回転接続部32を形成している。その回転接続部32を外殻11の回転支持部11cに枢支して外殻11に対して外周方向へ回動可能に取り付けている。隔壁11bの左右位置には両側が相対的に伸縮できる油圧ジャッキ33を縦向きに取り付け、その両側の伸縮部33aをアダプター30の上下の当板31に当接し、左右の油圧ジャッキ33の伸縮部33aが当板31を上下相対する方向へ押圧することでアダプター30が回動できるようにしている。
【0016】
コントローラ(図示せず)はローリング検知器17及び左右の油圧ジャッキ23,33を作動させる油圧ポンプ(図示せず)と接続している。このコントローラは、ローリング検知器17が掘削機本体10のローリングを検知すると、左右の油圧ジャッキ23,33をフード20及びアダプター30のローリングが解消される方向へ相対的に伸縮させ、左右の油圧ジャッキ23,33がローリング量に応じたストローク量に伸縮完了すると停止させ、その後、左右の油圧ジャッキ23,33をロックさせる制御を有している。
【0017】
本実施例では、アダプター30の後端にコンクリート製の函体40を接続し、3体のカッター12を自転公転させて地盤を断面矩形状に掘削しながら函体40を後方から押し出し、排土口14から掘削土砂を取り込んでスクリューコンベヤ16で後方へ排出しながら掘進し、函体40の後端に別の函体40を継ぎ足して推進しながら地中に矩形函路を構築していく。掘進時に方向修正用油圧ジャッキ13を個別に伸縮させると、外殻11が中折れして前側が傾斜し、掘削機本体10が傾斜した方向へ掘進する。
【0018】
ここで、図7(a)に示すように、掘削機本体10にローリングが発生すると、図7(b)に示すように、左右の油圧ジャッキ23,33が相対的に伸縮し、フード20とアダプター30が回動して水平の姿勢に戻る。図7(c)に示すように、掘削機本体10は水平の姿勢に戻されたフード20の通過跡の土圧を受け、掘進しながら水平の姿勢へ自然に誘導されて修正されていく。アダプター30に接続されている函体40は掘削機本体10とはアダプター30を介して接続しており、掘削機本体10のローリングには追従せずにアダプター30の水平姿勢に追従する。
【0019】
掘削機本体10がS字状の曲線を描くように掘進する際、方向修正用油圧ジャッキ13の動きでローリングが発生することがあるが、その場合も前記の図7(b),(c)と同様にフード20とアダプター30が自動的に水平の姿勢に回動し、そのフード20の通過跡に沿うように掘削機本体10が水平の姿勢へ自然に修正される。このように、地盤の反力を得る必要がないものであるから、地盤の支持力に係わらずに掘削機本体10のローリングが確実に修正され、後続の函体40は正確に水平埋設されていく。
【0020】
以上のようにして、ローリングを修正しながら計画通りに掘進が終了すると、カッター12や方向修正用油圧ジャッキ13、その他内部機器を全て取り外して立坑に回収し、外殻11の内側にコンクリートを函体40の内面と面一になるように覆工し、外殻11は地中に残置されて矩形函路の一部となる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の技術は、既設地下構造物やパイプラインの直下に地下空間やトンネルを構築する用途に利用され、特に支圧板では地盤反力を得にくい地表面に近い堆積地盤や軟弱地盤の掘進に有用である。
【符号の説明】
【0022】
10 掘削機本体
11 外殻
11a,11b 隔壁
11c 回転支持部
12 カッター
13 方向修正用油圧ジャッキ
14 排土口
15 駆動部
15a モータ
16 スクリューコンベヤ
16a モータ
17 ローリング検知器
20 フード
21 当板
22 押えリング
23 油圧ジャッキ
23a 伸縮部
30 アダプター
31 当板
32 回転接続部
33 油圧ジャッキ
33a 伸縮部
40 函体
G 掘削ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法で地盤を断面矩形状に削孔して地中に矩形函路を構築する矩形掘進機であって、断面矩形状の外殻の前部に設けられ地盤を外殻の外径と略同じ断面矩形状に掘削するカッターと外殻内に設けられカッターを駆動する駆動部とを備えた掘削機本体と、その掘削機本体の外殻の前端に外殻に対して外周方向へ回動可能に設けられる断面矩形状で且つカッターの後方位置までの長さのフードと、掘削機本体の外殻の後端に外殻に対して外周方向へ回動可能に設けられる断面矩形状のアダプターと、そのアダプターに接続される断面矩形状の函体と、掘削機本体の外周方向の傾きを検知するローリング検知器とで構成され、そのローリング検知器が掘進時に掘削機本体の外周方向の傾きを検知するとフード及びアダプターが水平の姿勢へ戻るように回動するようにしたことを特徴とする、矩形掘進機のローリング修正装置。
【請求項2】
フード及びアダプターを回動させる駆動機構が、掘削機本体の外殻の上下位置に横向きの油圧ジェッキを又は外殻の左右位置に縦向きの油圧ジャッキを設け、その上下又は左右の油圧ジャッキでフード及びアダプターの上下位置又は左右位置を相対する方向へそれぞれ押圧して回動させるようにした構造である、請求項1記載の矩形掘進機のローリング修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32779(P2011−32779A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181421(P2009−181421)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(599111965)株式会社アルファシビルエンジニアリング (32)
【出願人】(505229391)ボーディング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】