説明

石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及びガス濃度推定方法

【課題】本発明の目的は、石炭焚きボイラの排ガス中のガス成分の変化をニューラルネットを用いてシミュレーションする場合に、実機データに含まれる計測誤差に起因した推定誤差を抑制してガス成分の濃度を高精度で推定する石炭焚きボイラのガス濃度推定装置を提供する。
【解決手段】ニューラルネットを用いて石炭焚きボイラから排出される排ガス中のガス成分の濃度を推定するガス濃度推定装置は、該ボイラのプロセスデータを格納するプロセスデータベース部と、格納されたプロセスデータからニューラルネットの学習に適したデータを抽出するフィルタリング処理を行なうフィルタリング処理部と、抽出されたニューラルネットの学習に適したデータに基づいてニューラルネットの学習処理を行なうニューラルネット学習処理部と、この学習処理に基づいて前記ボイラから排出する排ガス中のCO濃度又はNOx濃度を推定処理するニューラルネット推定処理部とで構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電プラントに備えられた石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及びガス濃度推定方法に係わり、特に石炭焚きボイラから排出される排ガスに含まれるガス成分であるCO濃度やNOxの濃度を推定する石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及びガス濃度推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭焚きボイラは燃料として石炭を使用するが、この石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントでは、石炭焚きボイラから排出される排ガスに含まれている環境汚染物質であるCOとNOxの濃度を規定値以下に抑制しなければならない。
【0003】
石炭焚きボイラの排ガスに含まれるCOとNOxの生成量は相反する関係にあり、石炭焚きボイラで石炭を燃焼させる際に燃焼用の空気(酸素)過剰であればNOxの生成量が多くなり、逆に空気が不足していればCOの生成量が多くなる。
【0004】
最近の石炭焚きボイラでは、COとNOxの両者が生成する濃度を低減し、かつ石炭焚きボイラの燃焼効率を向上させるため、燃焼用空気を段階的に石炭焚きボイラ内に送り込む二段燃焼方式が採用されている。
【0005】
この二段燃焼方式による燃焼制御では、石炭焚きボイラに供給する燃焼用空気量の調整と、石炭焚きボイラに設置されたバーナの燃焼パターンの選択などを行なって、石炭焚きボイラの最適な燃焼状態をつくる。
【0006】
また、この燃焼制御の最適化のための調整(制御ゲインの調整、バーナ燃焼パターンの計画など)はオフラインであらかじめ実施しておく。
【0007】
ただし、このようにして前もって調整された燃焼条件は、代表的な運転モードに対して最適化されたものであり、大まかな運転計画でしかない。
【0008】
また、経年劣化によりプラントである石炭焚きボイラの特性が変わるので、石炭焚きボイラ運転開始時には最適な燃焼条件であったものが、経年によって最適な燃焼条件から徐々にずれてくる。
【0009】
これに対して、時々刻々と変わる負荷要求値などの運転条件や経年劣化に対応して、石炭焚きボイラの運転の最適化(COとNOx濃度を許容範囲内に抑えながら、燃焼効率を最大化する)を実施することが、経済的な観点から要求されている。
【0010】
この石炭焚きボイラの運転の最適化を実現するには、現在の運転条件をベースとして、制御デマンド変更に対する排ガス中のCOとNOx濃度の変化をオンラインでシミュレーションできることが必要である。
【0011】
つまり、計測データから得られる現在の石炭焚きボイラの運転条件に対して、制御デマンドを変更した場合の石炭焚きボイラの燃焼効率と環境負荷物質の排出量を評価し、両者の点を鑑みて最適な制御ポイントを探索する機能が必要である。
【0012】
石炭焚きボイラから排出される排ガス中のCOとNOx濃度を推定する方法は幾つかあるが、ニューラルネットのような学習型のアルゴリズムを基に、実機データを用いて各運転条件とガス濃度の変化傾向との関係をモデリングする方法がある。
【0013】
例えば、特開2007−264796号公報には、ボイラの制御に使用するプラントの特性を模擬する連続モデルの作成に関して、ボイラのプロセスデータに基づいて連続モデルを作成し、数値解析したプロセスデータと実機の運転データを用いて連続モデルを再度作成し、この再度作成された連続モデルを用いて強化学習しボイラの制御を行なうことによって、排ガス中の環境負荷物質を減少させる制御方法が開示されている。そして連続モデルの作成にニューラルネットを用いることも示唆されている。
【0014】
このようなモデリング方法の場合、実機データがあれば、その実機の特性に応じたCO濃度とNOx濃度の推定モデルが容易に作成できる。つまり、石炭焚きボイラの運転開始後も運転中の実機データを用いれば、その状態に適した推定モデルが作成できるので、よく適用される方法の一つである。
【0015】
【特許文献1】特開2007−264796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、石炭焚きボイラの計測値である実機データは、出力などの運転条件を変えている場合の過渡的な状態も含まれている。この場合、計測値間の相関関係は一時的な状態であり、時間が経過してプラントの状態が整定した後の相関関係とは異なる状態を示すことになる。
【0017】
特開2007−264796号公報に示唆されたニューラルネットを用いてプラントの動特性をモデリングしたい場合には、このような実機データを用いてニューラルネットの学習を行なうことが有効である。
【0018】
しかしながら、プラントの静特性を学習したい場合には、このような過渡的な状態を含む実機データを学習に用いると、モデリングに誤差を生じる要因となる。また、通常、プラントの計測値は計測誤差を含む。
【0019】
例えば、温度などは比較的、高精度で計測できるが、流量などは計測誤差を含みやすい。また、センサの経年劣化も計測誤差の要因となる。つまり、上記したように実機データの中には、精度の高いデータと精度が低く誤差が大きいデータとが混在している。
【0020】
これらの精度が低いデータが混在した実機データを全て用いてニューラルネットの学習を行った場合には、構築されたニューラルネットのモデルも精度が低いものとなる。
【0021】
この結果、精度が低いデータが混在した実機データを用いて実機データの傾向を学習してプラントである石炭焚きボイラから排出される排ガス中のCO/NOx濃度の推定モデルを構築する場合に、構築されたモデルの推定精度が低くなるという問題があった。
【0022】
本発明の目的は、石炭焚きボイラの燃焼制御で排ガス中のCO濃度又はNOx濃度の変化をニューラルネットを用いてシミュレーションする場合に、実機データに含まれる計測誤差に起因したニューラルネットモデルの推定誤差を抑制して精度の高いガス濃度の推定を可能にする石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及びガス濃度推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のニューラルネットを用いて石炭焚きボイラから排出される排ガスに含まれるガス成分の濃度を推定する石炭焚きボイラのガス濃度推定装置において、前記ガス濃度推定装置は石炭焚きボイラのプロセスデータを格納するプロセスデータベース部と、このプロセスデータベース部に格納されたプロセスデータからニューラルネットの学習に適したデータを抽出するフィルタリング処理を行なうフィルタリング処理部と、このフィルタリング処理部で抽出されたニューラルネットの学習に適したデータに基づいてニューラルネットの学習処理を行なうニューラルネット学習処理部と、このニューラルネット学習処理部の学習処理に基づいて前記石炭焚きボイラから排出する排ガス中のCO濃度又はNOx濃度を推定処理するニューラルネット推定処理部とを備えていることを特徴とする石炭焚きボイラのガス濃度推定装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、石炭焚きボイラの燃焼制御で排ガス中のCO濃度又はNOx濃度の変化をニューラルネットを用いてシミュレーションする場合に、実機データに含まれる計測誤差に起因したニューラルネットモデルの推定誤差を抑制して精度の高いガス濃度の推定を可能にする石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及びガス濃度推定方法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係わるガス濃度推定装置は、火力発電プラントに設置された石炭焚きボイラを対象としており、ニューラルネットを用いて石炭焚きボイラから排出される排ガスに含まれるCOとNOxのガス濃度の推定処理を行なうガス濃度推定装置である。
【0026】
石炭焚きボイラから排出される排ガスに含まれるCOとNOxの物質は環境規制により排ガス中の濃度に制限値が設けられている。
【0027】
本発明の実施例である石炭焚きボイラのガス濃度推定装置は、石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの種々の運転条件に対する排ガス中のCO濃度とNOx濃度を推定するものである。
【0028】
本発明の対象となる石炭焚きボイラを備えた火力発電プラントの制御システムは、前記ガス濃度推定装置から得られる種々の運転条件(燃料流量、空気流量など)に対するCO濃度とNOx濃度の推定値を基に、排ガスの環境規制を満足し、かつ、ボイラの効率が最大となる石炭焚きボイラの運転条件を計画するものである。
【0029】
本発明の実施例である石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及び方法について図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の一実施例である石炭焚きボイラのガス濃度推定装置の構成を示す概略図である。
【0031】
図1に示したプラントである石炭焚きボイラ4の燃焼制御は制御システム2によって行われている。そして図1に示した石炭焚きボイラ4のガス濃度推定装置1は、石炭焚きボイラ4から排出される排ガス中のCO濃度とNOx濃度を推定するガス濃度推定装置1が設置されている。
【0032】
前記ガス濃度推定装置1は、石炭焚きボイラ4の実機データとなるプロセスデータを制御システム2を介してオンラインで取り込み、この取り込んだプロセスデータを時系列に格納するプロセスデータベース(プロセスDB)11と、このプロセスDB11に時系列に格納されたプロセスデータからニューラルネットの学習に適したデータを抽出するフィルタリング処理を行なうフィルタリング処理部12と、このフィルタリング処理部12におけるフィルタリング処理結果を格納するフィルタリング処理結果格納部13とを備えている。
【0033】
また前記ガス濃度推定装置1は、フィルタリング処理で抽出されて前記フィルタリング処理結果格納部13に格納されたニューラルネットの学習に適したデータに基づいて、石炭焚きボイラ4から排出される排ガス中のCO濃度及び又はNOx濃度の推定のためのニューラルネットの学習処理を行なうニューラルネット学習処理部14と、このニューラルネット学習処理部14の学習処理で求めた結合係数を格納する学習結果格納部15とを備えている。
【0034】
更に前記ガス濃度推定装置1は、ニューラルネット学習処理部14の学習処理に基づいて前記石炭焚きボイラ4から排出する排ガス中のCO濃度及び又はNOx濃度を推定処理するニューラルネット推定処理部16を備えている。
【0035】
本発明の実施例では、制御対象の石炭焚きボイラ4にはボイラの燃焼制御を行なう制御システム2が設置されており、この制御システム2によってガス濃度推定装置1に対して石炭焚きボイラ4の運転条件を設定し、ガス濃度推定装置1ではこの運転条件でのCO濃度とNOx濃度の推定値を演算するように構成されている。
【0036】
ガス濃度推定装置1は、石炭焚きボイラ4のCO濃度とNOx濃度を推定するに際して、制御システム2を通して取り込んだ石炭焚きボイラ4のプロセスデータを使用する。
【0037】
制御システム2から取り込んだ石炭焚きボイラ4のプロセスデータは、上記したようにガス濃度推定装置1に設置されたプロセスDB11に送付されて時系列に格納される。
【0038】
そしてガス濃度推定装置1では、次にフィルタリング処理部12にてプロセスDB11に時系列に格納された石炭焚きボイラ4のプロセスデータを取り込んで、ニューラルネットの学習に適したプロセスデータのみを抽出するフィルタリング処理を行なう。
【0039】
本実施例では、モデル構築に使用する石炭焚きボイラ4の実機のプロセスデータの中から、モデルの誤差となるデータを省いた後、モデルの学習を行なう処理とする。モデルの誤差要因となるデータの選別は以下のようにして行なう。
【0040】
通常、モデルの入力として使用するデータの種類は複数ある。これらのうち、最初に1つの入力信号に着目し、この入力信号を除いて、他の入力信号の値がほぼ同じであるデータの組合せを複数抽出する。
【0041】
抽出した複数のデータについて、着目した入力信号の変化に対する傾向を確認する。このとき、傾向から逸脱したデータがあれば、そのデータがモデリングの際の誤差要因となると判断し、学習データから除外する。以上の処理を、入力信号に使用するデータの種類ごとに実施する。
【0042】
次に、このフィルタリング処理部12におけるフィルタリング処理の具体的な内容について説明する。
【0043】
フィルタリング処理部12は、ニューラルネットの入力として使用する入力信号、及び、推定対象であるCO濃度、NOx濃度に対応する計測値をプロセスDB11に格納された石炭焚きボイラ4のプロセスデータの中から取得する。
【0044】
ニューラルネットの入力信号としては、例えば、石炭焚きボイラ4に供給される燃焼用の一次空気流量(非計測の場合は一次空気ファン動力など)、二次空気流量、石炭焚きボイラの負荷、及び燃料の石炭を供給する給炭機流量などがある。
【0045】
このうち、最初の手順として1つの信号に着目し、フィルタリング処理部12にてプロセスDB11に格納されているプロセスデータのグループ化を行なう。
【0046】
例えば、最初の手順における1つの信号として給炭機流量の信号に着目した場合、給炭機流量以外の信号値について、差が所定の閾値以内にあるデータを同じグループとして定義する。
【0047】
つまり、給炭機流量以外の信号を入力信号とする場合には、フィルタリング処理部12にて、給炭機流量の値は異なるが、一次空気流量、二次空気流量、ボイラ負荷の各信号は所定の閾値以内にあるほぼ同じ値を示すデータを集めてグループ化する。
【0048】
次に、上記でグループ化した各グループについて、フィルタリング処理部12にて入力信号である給炭機流量と、推定するガス濃度の対象となるCO濃度とNOx濃度との関係をグラフ化する。この処理の概念を図2に示す。
【0049】
図2はフィルタリング処理部12にて行なうグラフ化の処理であり、同じグループに属するデータに対して、横軸に入力信号の給炭機流量、縦軸に推定するガス濃度の対象となるNOx濃度をプロットしたときの特性グラフを示している。
【0050】
給炭機流量の信号以外の他の信号の値は前述したように所定の閾値以内にあるほぼ同じ値となっているので、給炭機流量以外の他の信号は同条件と仮定できる。この場合、特性グラフはデータの給炭機流量に対する依存性、即ち、NOx濃度に与える影響の関係の程度を示し、図2(a)のケースでは前記関係の程度が大の状況を表している。
【0051】
次に、図2にプロットしたデータに対して、フィルタリング処理部12にて関数フィッティングを行なう。
【0052】
図2(a)に示された曲線状の関数100がフィッティング処理により得られたフィッティング関数を示している。
【0053】
次に、このフィッティング関数100とプロットされた各データとの誤差をフィルタリング処理12で計算する。
【0054】
そしてフィルタリング処理12における計算によって、誤差が所定の閾値の値を超えていたデータは、給炭機流量に対する前記依存性が他のデータと異なるので、誤差を多く含むデータと判断して、後述するニューラルネット学習処理部14でニューラルネットのモデルを学習するモデリング処理で使用するデータから除外する。
【0055】
例えば、図2(a)に示したケースにおいて、曲線状の関数100に対してデータ101の誤差ΔEが所定の閾値の値を超えていれば、データ101に含まれる誤差ΔEが大きいと判断してこのデータ101をモデリング処理で使用するデータから除外する。
【0056】
次に、図2(b)に示したケースのように、前記フィルタリング処理12でのフィッティング処理で除外されなかったデータに対して、再度、フィッティング処理を行なう。
【0057】
この図2(b)の例では、データ101を除外してフィッティング処理を行ない、新たに曲線状のフィッティング関数102を得た状況を示している。
【0058】
次に、この新たなフィッティング関数102とプロットされた各データとの誤差をフィルタリング処理12にて計算する。そして誤差が所定の閾値の値を超えるデータが存在した場合には、この所定の閾値の値を超える誤差となるデータを除外して、再度、フィッティング処理を行なう。
【0059】
そして誤差が所定の閾値の値を超えるデータがなければ、このグループに対する処理は終了である。別のグループに対しても同様の処理を行なう。
【0060】
上記に説明した処理を、ニューラルネットモデルの入力信号として設定している各信号(前記した例では、給炭機流量の他に一次空気流量、二次空気流量、及びボイラの負荷)に関して行なう。
【0061】
上記したフィルタリング処理12におけるフィルタリング処理によって、モデルの誤差要因となる誤差の大きなデータを除外することができる。
【0062】
これらのフィルタリング処理部12におけるフィルタリング処理結果は、フィルタリング処理結果格納部13に格納される。
【0063】
次に、ニューラルネット学習処理部14にて、フィルタリング処理結果格納部13に格納されたフィルタリング処理したデータを基に、CO濃度とNOx濃度を推定するためのニューラルネットの学習処理を行なう。
【0064】
前記ニューラルネット学習処理部14におけるニューラルネットの構成例を図3に示す。
【0065】
図3に示したニューラルネット学習処理部14を構成するニューラルネットの構成例では、ニューラルネットの入力信号として、石炭焚きボイラ4のプロセスデータである給炭機流量、一次空気流量、二次空気流量、ボイラ負荷をそれぞれ与え、ニューラルネットの出力信号として石炭焚きボイラ4から排出される排ガス中のCO濃度とNOx濃度を設定している。
【0066】
このニューラルネット学習処理部14を構成するニューラルネットにおける学習処理によって、ニューラルネットの入力値と出力値との関係を表す結合係数が求められる。
【0067】
ニューラルネット学習処理部14におけるニューラルネットによる学習処理で求めた結合係数は学習結果格納部15に格納される。
【0068】
以上の説明が、石炭焚きボイラ4から排出される排ガス中のガス濃度(CO濃度及び又はNOx濃度)を推定するためのニューラルネットモデルを構築する学習処理の内容である。
【0069】
このニューラルネット学習処理部14での学習処理では、プロセスDB11に種々の運転条件における石炭焚きボイラ4の計測データが格納されていれば、リアルタイムで処理する必要はない。
【0070】
また、後述するニューラルネット推定処理部16におけるガス濃度(CO濃度とNOx濃度)を推定する処理を行なう前に、あらかじめ前記した学習処理を行っておき、ニューラルネットモデルを用意しておくことも可能である。
【0071】
次に、前記ニューラルネット学習処理部14の学習処理で構築されたニューラルネットモデルを用いてニューラルネット推定処理部16で、石炭焚きボイラ4の排ガスに含まれるガス濃度(CO濃度及び又はNOx濃度)の推定を行なう動作について説明する。
【0072】
図1に示した石炭焚きボイラを備えた火力発電プラント4の制御システム2では、環境規制値が設定されている石炭焚きボイラ4の排ガスに含まれるガス濃度であるCO濃度及び又はNOx濃度を低減させるために、石炭焚きボイラ4の燃焼制御の最適化を行なう。
【0073】
この燃焼制御の最適化の処理は、制御システム2に設置された運転条件設定部3によって、該制御システム2からの指令信号に基づいてニューラルネットの入力に設定するプロセス値のうち制御条件に対応するプロセス値を変更する。
【0074】
例えば、一次空気流量を変えたときのCO濃度やNOx濃度の変化傾向を解析する場合には、運転条件設定部3がニューラルネットの入力信号のうち、一次空気流量の値のみを変え、その他の入力信号(例えば、給炭機流量、二次空気流量、及びボイラの負荷)の値については現在値をそのまま設定するように動作する。
【0075】
このとき、ニューラルネット推定処理部16による推定処理で得られるCO濃度やNOx濃度の推定値(上記の例では、入力信号の一次空気流量に対する変化傾向が分かる)を基に、制御システム2が石炭焚きボイラにおけるボイラ燃焼の最適な制御方法を決定する。
【0076】
ボイラ燃焼の最適な制御方法としては、例えばボイラに供給する燃焼用空気量の調節や、ボイラの燃焼パターンを変更してボイラの燃焼制御を行なうことが考えられる。
【0077】
上記で述べたニューラルネット推定処理部16による処理の結果については、図1に示した表示装置5に表示して確認できるように構成されている。
【0078】
図4に図1に示した本実施例に設置した表示装置5における表示例の一例を示すが、図4(a)に示した表示装置5の表示例では、フィルタリング処理部12のフィルタリング処理によって除外されたデータ101を図示している。
【0079】
また、図4(b)に示した表示装置5の表示例では、本実施例のニューラルネット推定処理部16によって、学習処理により得られたニューラルネットモデルのNOx濃度に対する推定値を点線で示すと共に、時間の経過によるNOx濃度の推定値のトレンドも表示している。
【0080】
また、この図4(b)の表示例では、実線で示したNOx濃度の実測値と、点線で示したニューラルネットモデルによる推定値のトレンドとの双方を比較する形式で図示している。
【0081】
以上に説明した本実施例では、制御システムによるボイラの燃焼制御の最適化を行なうための排ガス中のCO濃度及び又はNOx濃度の推定処理を高精度で行なうことが可能となる。
【0082】
即ち、本発明の実施例によれば、石炭焚きボイラの燃焼制御で排ガス中のCO濃度又はNOx濃度の変化をニューラルネットを用いてシミュレーションする場合に、実機データに含まれる計測誤差に起因したニューラルネットモデルの推定誤差を抑制して精度の高いガス濃度の推定を可能にする精度の高いガス濃度の推定を可能にする石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及びガス濃度推定方法が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は石炭焚きボイラから排出される排ガスに含まれるガス成分であるCO濃度やNOxの濃度を推定する石炭焚きボイラのガス濃度推定装置及びガス濃度推定方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施例である石炭焚きボイラのガス濃度推定装置の構成を示す概略図。
【図2】図1に示した実施例のガス濃度推定装置を構成するフィルタリング処理部におけるグラフ化の処理の一例を示した概略図。
【図3】図1に示した実施例のガス濃度推定装置を構成するニューラルネット学習処理部におけるニューラルネットの構成の一例を示す概略図。
【図4】図1に示した実施例に設置した表示装置における表示の一例を示す概略図。
【符号の説明】
【0085】
1:ガス濃度推定装置、2:制御システム、3:運転条件設定部、4:石炭焚きボイラ、5:表示装置、11:プロセスデータベース、12:フィルタリング処理部、13:フィルタリング処理結果格納部、14:ニューラルネット学習処理部、15:学習結果格納部、16:ニューラルネット推定処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューラルネットを用いて石炭焚きボイラから排出される排ガスに含まれるガス成分の濃度を推定する石炭焚きボイラのガス濃度推定装置において、
前記ガス濃度推定装置は石炭焚きボイラのプロセスデータを格納するプロセスデータベース部と、このプロセスデータベース部に格納されたプロセスデータからニューラルネットの学習に適したデータを抽出するフィルタリング処理を行なうフィルタリング処理部と、このフィルタリング処理部で抽出されたニューラルネットの学習に適したデータに基づいてニューラルネットの学習処理を行なうニューラルネット学習処理部と、このニューラルネット学習処理部の学習処理に基づいて前記石炭焚きボイラから排出する排ガス中のCO濃度又はNOx濃度を推定処理するニューラルネット推定処理部とを備えていることを特徴とする石炭焚きボイラのガス濃度推定装置。
【請求項2】
ニューラルネットを用いて石炭焚きボイラから排出されるガス成分の濃度を推定する石炭焚きボイラのガス濃度推定方法において、
石炭焚きボイラのプロセスデータをプロセスデータベース部に格納し、このプロセスデータベース部に格納されたプロセスデータはフィルタリング処理部によってニューラルネットの学習に適したデータを抽出するフィルタリング処理を行ない、このフィルタリング処理部で抽出されたニューラルネットの学習に適したデータに基づいてニューラルネット学習処理部によってニューラルネットの学習処理を行ない、このニューラルネット学習処理部の学習処理に基づいてニューラルネット推定処理部によって石炭焚きボイラから排出する排ガス中のCO濃度又はNOx濃度を推定処理することを特徴とする石炭焚きボイラのガス濃度推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の石炭焚きボイラのガス濃度推定方法において、
フィルタリング処理部におけるフィルタリング処理は、前記ニューラルネット学習処理部の学習に用いるプロセスデータに対してニューラルネットの入力信号として使用する各信号に対する変化傾向を基に誤差を多く含むデータを特定し、この特定したデータを除外するようにフィルタリング処理することを特徴とする石炭焚きボイラのガス濃度推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の石炭焚きボイラのガス濃度推定方法において、
フィルタリング処理部におけるフィルタリング処理は、前記ニューラルネット学習処理部の学習に用いるプロセスデータに対してニューラルネットの入力信号として使用する各信号に対して、1つの入力信号を基準として他の入力信号の値が所定の閾値以内にあるプロセスデータを抽出してグループとし、該グループに属するプロセスデータを用いて基準とする入力信号と推定対象であるガス濃度の信号値との関係をフィッティングした関数を求め、フィッティングした関数の値と推定対象であるCO濃度又はNOx濃度の信号値との差を用いて、除外するデータを特定することを特徴とする石炭焚きボイラのガス濃度推定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の石炭焚きボイラのガス濃度推定方法において、
同じグループに属するデータと、フィッティングにより求めた関数と、除外したデータを表示装置に表示することを特徴とする石炭焚きボイラのガス濃度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−198136(P2009−198136A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42796(P2008−42796)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】