説明

研削加工中の砥石の品質管理方法

【課題】粒径が大きい固定砥粒を原因とした研削マークを検出可能な研削加工中の砥石の品質管理方法を提供する。
【解決手段】基準砥石により被研削物の研削時に発生するシリコンスラッジ中のシリコン粉の基準表面積を求める一方、砥石を用いて被研削物と同一の被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジ中のシリコン粉の実測表面積を求め、その後、実測表面積と基準表面積との差から研削砥石の品質を検出するので、シリコンスラッジのシリコン粉の表面積の変化から、大径の固定砥粒を原因とした研削マークを簡単に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、研削加工中の砥石の品質管理方法、詳しくはシリコン製の被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積から、研削加工中の砥石の品質変動を管理する研削加工中の砥石の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハ加工プロセスのうち、シリコンウェーハの表面研削工程では、表面研削装置を用いてシリコンウェーハの表面の研削が行われる。表面研削装置は、シリコンウェーハが上面に真空吸着される下定盤と、下定盤の上方に配置され、下面の外周部に環状の研削砥石が固定された研削ヘッドとを備えている。研削砥石は、例えばダイヤモンド砥粒を熱硬化性合成樹脂により固めたレジノイド研削砥石からなる多数の研削チップを、環状に配設したものである。
研削時には、表面を上方に向けてシリコンウェーハを下定盤に真空吸着させ、純水を供給しながら回転中の研削ヘッドを徐々に下降させることで、研削砥石によりウェーハ表面を研削する。このとき、多量のシリコンスラッジが発生する。シリコンスラッジとは、平均粒径が0.1〜5μmのシリコン粉と、純水とが泥状になった滓である。
【0003】
ところで、ウェーハ表面の研削時には、研削砥石の研削作用面において、固定砥粒の脱落、欠落などによる切れ刃の再生がなされるものの、シリコンスラッジが砥石に付着して目詰まりが発生するため、砥石によるシリコンウェーハの表面の切れ味が低下する。これに伴い、ウェーハ表面の表面粗さも細かくなる。
そこで、これを解消する従来技術として、例えば、特許文献1の「研削砥石の切れ味の定量評価方法および切れ味管理方法」が知られている。特許文献1は、研削済みの被研削物の表面粗さを測定することなく、被研削物の研削の前後の表面温度を測定し、その測定結果から求められた研削前後の温度差から、客観的かつ具体的に研削砥石の切れ味を評価するものである。これは、研削済みの被研削物の表面粗さと、被研削物の研削前後の表面温度の差との相対関係について多数の実験データを取得し、その蓄積されたデータに基づいて、被研削物の表面粗さの、上記温度差への置換が可能となったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−136402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1は、被研削物の研削前後の表面温度差から、研削砥石の切れ味を評価するものであった。しかしながら、研削砥石に含まれた大きい粒径の固定砥粒が研削作用面から露出し、それを原因として、シリコンウェーハの表面に研削マークが現出するほどの深い加工ダメージが与えられても、被研削物の表面温度が高まることはなかった。これは、シリコンスラッジが砥石に付着し、研削物と被研削物との間で発生する摩擦熱が伝わり難くなったためである。すなわち、特許文献1の方法では、大きい粒径の固定砥粒を原因とした研削マークを検出することは不可能であった。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積と、研削砥石の品質低下に伴う研削マークとの間に相関があることを発見した。すなわち、研削砥石の研削作用面に存在する固定砥粒(固定砥粒の露出部分)が大きくなれば、その分、研削時にウェーハの表面に深いダメージを与える。その結果、シリコンスラッジ中のシリコン粉は深いダメージを受け、その表面の凹凸が大きくなって表面積が増大し、ウェーハ表面に研削マークが現出し易くなることを突き止めた。よって、この方法を用いれば、従来法では、被研削物の研削前後の表面温度を測定しても顕著な温度差が認められず、検出できなかった研削マークの検出が可能になることを知見し、この発明を完成させた。
【0007】
この発明は、粒径が大きい固定砥粒を原因とした研削マークを検出することができる研削加工中の砥石の品質管理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、研削作用面に固定砥粒を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら、シリコンからなる被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求め、該シリコン粉の表面積から前記砥石の品質を管理する研削加工中の砥石の品質管理方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記シリコン粉の表面積は、次式により求められる請求項1に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法である。
S=m/(t×ρ)
ここで、Sはシリコン粉の表面積、
mはシリコン粉の自然酸化膜の重さ、
tはシリコン粉の自然酸化膜の厚さ、
ρは自然酸化膜の密度である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記シリコン粉の単位重量当たりにおける前記表面積の変動を検出し、該変動データから、前記砥石の研削作用面に存在する前記固定砥粒の大きさの変動を間接的に監視する請求項1または請求項2に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、研削作用面に固定砥粒を有し、かつシリコンからなる被研削物の研削面に対して基準となる面粗さが得られる基準砥石を用意し、研削液を供給しながら前記基準砥石により前記被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積である基準表面積を求め、前記基準砥石と同一の砥石を用いて、前記研削液を供給しながら前記被研削物と同一の被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積である実測表面積を求め、該実測表面積と前記基準表面積との差から前記研削砥石の品質を検出する研削加工中の砥石の品質管理方法である。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、研削作用面に固定砥粒を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら、シリコンからなる被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求め、シリコン粉の表面積から砥石の品質を管理するので、粒径が大きい固定砥粒を原因とした研削マークを検出することができる。すなわち、仮に、固定砥粒が大きくなれば、その分、被研削物の研削時に被研削物の表面に深いダメージを与える。その結果、シリコンスラッジ中のシリコン粉は深いダメージを受け、その表面の凹凸が大きくなって表面積が増大し、被研削物の表面に研削マークが現出し易くなる。このように、砥石の研削作用面に存在する固定砥粒の大きさ(露出部分の大きさ)は、被研削物の研削面のダメージに影響を及ぼし、この固定砥粒の大きさの変動を検出すること、言い換えればシリコン粉の表面積の変化を検出することで、粒径が大きい固定砥粒を原因とした被研削物の表面の研削マークを検出することができる。
【0013】
シリコンからなる被研削物としては、例えば、シリコンインゴットまたはシリコンウェーハなどを採用することができる。その他、ソーラーウェーハなどでもよい。
シリコンスラッジとは、シリコン粉と、水(純水または超純水)とが泥状に混ざり合った滓である。ただし、ここでいうシリコンスラッジは、このシリコン粉を含むスラッジのみでなく、乾燥した(もしくは水分を含んだ)シリコンの粉末を含む。
水分を含んだシリコンスラッジ中のシリコン粉の含有量は、例えば60〜80重量%である。
シリコン粉の平均粒径は、例えば0.1〜5μmである。
【0014】
シリコンスラッジの発生を伴うシリコン加工プロセスとしては、例えば、単結晶シリコンインゴットまたは多結晶シリコンインゴットのブロック切断、研削砥石によるシリコンブロックの外周研削、研削砥石によるシリコンブロックのオリエンテーションフラット加工またはノッチ加工、ワイヤソーなどによるシリコンブロックのスライス、シリコンウェーハの面取り、シリコンウェーハのラッピングなどの各工程が挙げられる。また、デバイス形成後のウェーハに施されるバックグラインド工程も含まれる。
【0015】
砥石としては、例えば、レジノイド研削砥石、メタルボンド研削砥石を採用することができる。
固定砥粒としては、例えばダイヤモンド砥粒、アルミナ砥粒、その他、炭化物、窒化物などを採用することができる。固定砥粒の平均粒径は、例えば2〜10μm、好ましくは4〜6μmである。一般的に、研削砥石には、平均粒径の1.5倍程度の固定砥粒が含まれている。
研削液としては、例えば、水(純水、超純水を含む)、各種の研削オイルを採用することができる。純水とは、物理的または化学的な処理によって不純物を除去した純度の高い水をいう。具体的には、18MΩ・cmまたは1.0〜0.1μS/cmの水を採用することができる。超純水とは、水に含まれる不純物の量が、例えば0.01μg/リットル以下のものである。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、研削液を供給しながら、シリコンからなる被研削物の研削面に対して基準となる面粗さが得られる基準砥石を使用し、被研削物を研削する。このときに発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求める。これを基準表面積とする。
一方、基準砥石と同一の砥石を用いて、研削液を供給しながら前記被研削物と同一の被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求める。これを実測表面積とする。
【0017】
次に、実測表面積と基準表面積との差から、砥石の研削作用面に存在する固定砥粒の品質の変動、具体的には、研削作用面に存在する固定砥粒の大きさの変動(固定砥粒の露出部分の体積変動)を検出する。仮に、この固定砥粒が大きくなれば、その分、被研削物の研削時に被研削物の表面に深いダメージを与える。その結果、シリコンスラッジ中のシリコン粉は深いダメージを受け、表面の凹凸が大きくなって表面積が大きいものとなり、被研削物の表面に研削マークが現出し易くなる。
【0018】
基準砥石とは、研削作用面に存在する砥粒の大きさ(固定砥粒の露出部分)のバラツキが、常時、2μm以下のもの(均一な)である。
ここでいう砥石とは、実際に研削に使用される砥石であって、基準砥石と同一(同一素材、同一形状、同一サイズ)のものである。例えば、基準砥石と同一の砥石製造ラインで、同一材料から得られた砥石である。
基準砥石および砥石としては、例えば、レジノイド研削砥石、メタルボンド研削砥石を採用することができる。基準砥石と砥石とによる被研削物の研削条件は、同一とする。
【0019】
「実測表面積と基準表面積との差から研削砥石の品質を検出する」とは、基準表面積からの実測表面積の変化量を検出し、この変化量から、砥石の研削作用面に存在する固定砥粒の大きさの変化(露出部分の体積変化)を間接的に検出することをいう。
【0020】
また、シリコン粉の表面積(請求項4の基準表面積および実測表面積も同様)は、次式により求めるようにした方が好ましい。
S=m/(t×ρ)
ここで、Sはシリコン粉の表面積、mはシリコン粉の自然酸化膜の重さ、tはシリコン粉の自然酸化膜の厚さ、ρは自然酸化膜の密度である。
【0021】
このようにすれば、シリコン粉の酸素濃度を測定し、その測定値からシリコン粉の自然酸化膜の重さを求め、この重さの値をS=m/(t×ρ)の式に代入することにより、簡単にシリコン粉の表面積(基準表面積および実測表面積)を求めることができる。
シリコン粉の自然酸化膜の厚さtは0.7nmである。自然酸化膜の密度ρは、例えば950℃の熱酸化膜の密度の約2.2g/cmである。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記シリコン粉の表面積は、次式によりそれぞれ求められる請求項4に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法である。
S=m/(t×ρ)
ここで、Sはシリコン粉の表面積、
mはシリコン粉の自然酸化膜の重さ、
tはシリコン粉の自然酸化膜の厚さ、
ρは自然酸化膜の密度である。
【0023】
請求項6に記載の発明は、前記シリコン粉の単位重量当たりにおける前記表面積の変動を検出し、該変動データから、前記砥石の研削作用面に存在する前記固定砥粒の大きさの変動を間接的に監視する請求項4または請求項5に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法である。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の発明によれば、研削作用面に固定砥粒を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら、シリコンからなる被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求め、シリコン粉の表面積から砥石の品質を管理するので、シリコン粉の表面積の変化から、粒径が大きい固定砥粒を原因とした研削マークを簡単に検出することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、基準砥石により被研削物の研削時に発生するシリコンスラッジ中のシリコン粉の基準表面積を求める一方、砥石を用いて被研削物と同一の被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジ中のシリコン粉の実測表面積を求め、その後、実測表面積と基準表面積との差から研削砥石の品質を検出するようにしたので、シリコン粉の表面積の変化から、粒径が大きい固定砥粒を原因とした研削マークを簡単に検出することができる。
【0026】
特に、請求項2および請求項5に記載の発明によれば、シリコン粉の酸素濃度を測定し、その測定値からシリコン粉の自然酸化膜の重さを求め、この重さの値をS=m/(t×ρ)の式に代入することにより、簡単にシリコン粉の表面積(請求項4の基準表面積および実測表面積)を求めることができる。
【0027】
請求項3および請求項6に記載の発明によれば、シリコン粉の単位重量当たりにおける表面積の変動(基準表面積からの実測表面積の変動)を検出し、この変動データから、砥石の研削作用面に存在する固定砥粒の大きさの変動を間接的に監視するようにしたので、固定砥粒の不良を簡素化した方法で、精度良く研削砥石の品質を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0029】
次に、この発明の実施例1に係る研削加工中の砥石(研削加工用の砥石)の品質管理方法を説明する。ここでは、直径300mmのシリコンウェーハの表面を研削する工程における、研削加工用砥石の品質管理を行う。
すなわち、この実施例1は、研削作用面に固定砥粒を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら、シリコンからなる被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を研削加工後に求め、このシリコン粉の表面積から砥石の品質を管理する研削加工中の砥石の品質管理を行う方法である。
【0030】
ここで使用されるシリコンウェーハは、単結晶シリコンインゴットを原料とする。
その製造方法は、まずチョクラルスキー法により直径306mm、比抵抗が10mΩ・cm、初期酸素濃度1.0×1018atoms/cmの単結晶シリコンインゴットを引き上げる。その後、単結晶シリコンインゴットに対して、粗仕上げのダイヤモンド砥石を研削工具とした円筒研削後、長さ方向に400mmピッチで切断するブロック切断、ワイヤソーを用いたスライス、面取り砥石を使用する面取り、スライス時のウェーハ表裏面のダメージを除去するラッピング、シリコンウェーハの表面の平坦度を高める研削、研削時に発生したシリコンウェーハの表面の研削ダメージを除去する研磨が順次施される。これにより、表面が鏡面仕上げされた鏡面シリコンウェーハが製造される。
【0031】
前記研削工程では、純水からなる切削液(水温22℃)を30リットル/分で供給しながら、シリコンウェーハの表面を、表面研削装置により研削する。表面研削装置は、主に下定盤と、その上方に配置される研削ヘッドとを備えたものである。シリコンウェーハは、真空吸着によって下定盤の上面に固定される。研削ヘッドの下面の外周部には、環状の研削砥石が固定されている。研削砥石は、レジノイド研削砥石からなる多数個の研削チップを、環状に配設・組み合わせたものである。
【0032】
前記レジノイド研削砥石の砥粒は、ダイヤモンド砥粒である。ここでのダイヤモンド砥粒は、最大粒径が7.3μmの砥粒を含む、平均粒径が6.7μmのものである。
シリコンウェーハの表面の研削時には、研削ヘッドを回転させながら徐々に下降させることで、下定盤上のシリコンウェーハの表面を研削する。このとき、研削排水(シリコン含有量70〜80ppm)が発生する。その後、研削排水は目開き0.1μmのUF(Ultrafiltration Membrane)膜を有する濃縮用濾過装置に投入されて濃縮され、シリコン含有量60〜80%)のシリコンスラッジとなる。ここでいうシリコンスラッジとは、シリコン粉(最大粒径20μm、平均粒径2μm)と、純水とが泥状になった滓である。
【0033】
次に、シリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を、次の(1)式により求める。
S=m/(t×ρ) ・・・・・・・・(1)
ここで、Sはシリコン粉の表面積、mはシリコン粉の自然酸化膜の重さ、tはシリコン粉の自然酸化膜の厚さである0.7nm、ρは自然酸化膜の密度(950℃の熱酸化膜の密度)の2.2g/cmである。シリコン粉の自然酸化膜の重さmは、シリコン粉の重さに酸素濃度の値を乗算することで求められる。また、酸素濃度は融解ガス分析法(GFA法)により求められる。GFA法とは、高温で試料を融解することで、試料中に含まれる酸素をCO、COとしてガス化し、そのガスを化学的に分析して元の試料中に含まれていた酸素濃度を定量するという原理に基づく分析法である。GFA法は、他の評価法に比べて短時間で酸素濃度の評価を行える利点がある。
【0034】
例えば、濃縮されたシリコンスラッジ中に含まれるシリコン粉の重さが0.3gで、シリコン粉に含まれる酸素濃度が1重量%の場合、
シリコン粉の表面積(S)=自然酸化膜の重さ(0.003g)/(自然酸化膜の厚さ(0.7nm)×自然酸化膜の密度(2.2g/cm))である。この式を解けば、シリコン粉の表面積(S)=19481cmが求まる。
【0035】
このように、実施例1では、研削作用面に固定砥粒を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら、シリコンからなるシリコンウェーハの表面を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求め、シリコン粉の表面積から砥石の品質を管理する。これにより、粒径が大きい固定砥粒を原因とした研削マークを検出することができる。すなわち、仮に、固定砥粒が大きくなれば、その分、シリコンウェーハの表面の研削時にシリコンウェーハの表面に深いダメージを与えることになる。その結果、シリコンスラッジ中のシリコン粉は大きいダメージを受けるため、表面に凹凸が多くなり、よって、表面積が大きくなり、研磨後シリコンウェーハの表面に研削マークが現出し易くなる。このように、シリコン粉の表面積の変化を検出することで、粒径が大きい固定砥粒を原因としたシリコンウェーハの表面の研削マークを検出することができる。
また、シリコン粉の酸素濃度を測定し、その測定値からシリコン粉の自然酸化膜の重さを求め、この重さの値をS=m/(t×ρ)の式に代入してシリコン粉の表面積を求めるので、簡単にこのシリコン粉の表面積を求めることができる。
【0036】
ここで、実際に、上述した実施例1の研削加工中の砥石の品質管理方法に則り、表面研削装置を用いてシリコンウェーハを研削し、ここで得られた研削排水を原料とするシリコンスラッジ中のシリコン粉と、シリコンウェーハの研削マークとの関係を調査した。その結果を表1に示す。
表1中、シリコン粉1〜11は、1100枚のシリコンウェーハの表面を研削した際の研削排水を、実施例1の濃縮用濾過装置により濃縮したものである。また、酸素濃度の測定は、融解ガス分析法によるLECO社製のRO−416DRを採用した。シリコン粉の表面積は、式(1)により求めた。さらに、シリコンウェーハの表面の研削前後の温度差は、タスコジャパン社製の非接触式温度計により研削前後のウェーハ表面温度を測定した後、その測定データを温度差演算装置に入力することで求めた。研削マークの有無は、研磨後のパーティクルカウンター検査により評価した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、シリコン粉1〜11において、酸素濃度が0.403〜0.928重量%の範囲で変動したとき、表面積は9491〜21874cmの範囲で変動した。このうち、表面積が13358cmのシリコン粉5と、15122cmのシリコン粉6と、21874cmのシリコン粉8と、19702cmのシリコン粉10との場合に、シリコンウェーハの表面に研削マークが確認された。これに対して、表面積が9491〜10695cmのシリコン粉1〜4、シリコン粉7、シリコン粉9、シリコン粉11の場合には、研削マークは認められなかった。
一方、研削前後の温度差を求める従来の検出方法では、シリコン粉1〜11において、温度差は12.1〜13.0℃の範囲でしか変動せず、その変動幅は小さかった。これにより、従来法での研削マークの検出は不可能であることが判った。
【0039】
次に、実施例1の研削加工中の砥石の品質管理方法に則り、重量を0.3gで一定にした他は、表1に示すシリコン粉1〜11の試験方法と同様の方法で、研削排水を原料としたシリコンスラッジ中のシリコン粉と、シリコンウェーハの研削マークとの関係を調査した。その結果を表2に示す。
表2中、シリコン粉12〜22は、1100枚のシリコンウェーハの表面を研削した際の研削排水を、実施例1の濃縮用濾過装置により濃縮したものである。また、酸素濃度の測定方法、シリコン粉の表面積の算出方法および研削マークの有無の評価方法は、上述した表1に示すシリコン粉1〜11の試験方法と同じとする。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から明らかなように、シリコン粉12〜22において、酸素濃度が0.473〜1.592重量%の範囲で変動したとき、表面積は9214〜31013cmの範囲で変動した。このうち、表面積が17747cmのシリコン粉18と、21604cmのシリコン粉19と、23494cmのシリコン粉21と、31013cmのシリコン粉22との場合に、シリコンウェーハの表面に研削マークが確認された。これに対して、表面積が9214〜11201cmのシリコン粉12〜17、シリコン粉20の場合には、研削マークは認められなかった。
このように、シリコン粉の単位重量当たりにおける表面積の変動を検出し、この変動データから、砥石の研削作用面に存在する固定砥粒の大きさの変動を間接的に監視するようにしたので、固定砥粒の不良を簡素化した方法で、精度良く研削砥石の品質を評価することができた。
【0042】
次に、この発明の実施例2に係る研削加工中の砥石の品質管理方法を説明する。
実施例2の研削加工中の砥石の品質管理方法の特徴は、研削作用面に固定砥粒を有し、かつシリコンウェーハの表面に対して基準となる面粗さが得られる基準砥石を用意し、純水を供給しながら基準砥石によりシリコンウェーハの表面を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積である基準表面積を求め、一方、基準砥石と同一の砥石を用いて、純水を供給しながら、前記シリコンウェーハと同一の単結晶シリコンインゴットから得られたシリコンウェーハを研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積である実測表面積を求め、その後、実測表面積と基準表面積との差から研削砥石の品質を検出することで、研削加工中の砥石の品質管理を行う点である。
【0043】
前記研削工程では、純水からなる切削液(水温22℃)を30リットル/分で供給しながら、シリコンウェーハの表面を、表面研削装置により研削する。この実施例2の研削加工中の砥石の品質管理を行う場合には、まず、基準砥石を使用したシリコンウェーハの表面の研削加工が施され、基準表面積のデータが取得される。その後、基準砥石と同一の砥石を用いて、基準表面積取得用のものと同一の単結晶シリコンインゴットから得られたシリコンウェーハを使用し、実測表面積のデータの取得が行われる。
次に、(1)式から基準表面積と実測表面積とを求め、その後、実測表面積からの基準表面積の差から研削砥石の品質を評価する。これにより、シリコンスラッジのシリコン粉の表面積の変化から、粒径が大きい固定砥粒を原因とした研削マークを簡単に検出することができる。
その他の構成、作用および効果は、実施例1の場合と略同じであるので、説明を省略する。
【0044】
ここで、実際に、上述した実施例2の研削加工中の砥石の品質管理方法に則り、表面研削装置を用いてシリコンウェーハを研削し、ここで得られた研削排水を原料とするシリコンスラッジ中のシリコン粉と、シリコンウェーハの研削マークとの関係を調査した。その結果を表3に示す。
表3中、シリコン粉23〜33は、1100枚のシリコンウェーハの表面を研削した際の研削排水を、実施例1の濃縮用濾過装置により濃縮したものである。表面積の差の求め方は、まず、基準砥石によりシリコンウェーハの表面の研削加工を施し、基準表面積のデータを取得する(ここではシリコン粉23のものが基準)。その後、基準砥石と同一の砥石を用いて、基準表面積取得用のものと同一の単結晶シリコンインゴットから得られたシリコンウェーハを使用し、実測表面積のデータを取得する。その後、このデータを表面差演算装置に入力することで求めた。また、酸素濃度の測定方法、シリコン粉の表面積の算出方法および研削マークの有無の評価方法は、上述したシリコンウェーハの表面の研削時において、シリコンスラッジ中のシリコン粉と、シリコンウェーハの研削マークとの関係を調査した際と同じとする。
【0045】
【表3】

【0046】
表3から明らかなように、表面積の差が10000cmを超えた場合に研削マークを検出し、3000cm以下の場合には研削マークが観られなかった。この結果からシリコンスラッジの表面積の差により、研削マーク有り無しが容易に判断可能であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明は、固定砥粒の不良を簡素化した方法でありながら、精度良く研削砥石の品質を評価する方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削作用面に固定砥粒を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら、シリコンからなる被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求め、
該シリコン粉の表面積から前記砥石の品質を管理する研削加工中の砥石の品質管理方法。
【請求項2】
前記シリコン粉の表面積は、次式により求められる請求項1に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法。
S=m/(t×ρ)
ここで、Sはシリコン粉の表面積、
mはシリコン粉の自然酸化膜の重さ、
tはシリコン粉の自然酸化膜の厚さ、
ρは自然酸化膜の密度である。
【請求項3】
前記シリコン粉の単位重量当たりにおける前記表面積の変動を検出し、
該変動データから、前記砥石の研削作用面に存在する前記固定砥粒の大きさの変動を間接的に監視する請求項1または請求項2に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法。
【請求項4】
研削作用面に固定砥粒を有し、かつシリコンからなる被研削物の研削面に対して基準となる面粗さが得られる基準砥石を用意し、研削液を供給しながら前記基準砥石により前記被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積である基準表面積を求め、
前記基準砥石と同一の砥石を用いて、前記研削液を供給しながら前記被研削物と同一の被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積である実測表面積を求め、
該実測表面積と前記基準表面積との差から前記研削砥石の品質を検出する研削加工中の砥石の品質管理方法。
【請求項5】
前記シリコン粉の表面積は、次式によりそれぞれ求められる請求項4に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法。
S=m/(t×ρ)
ここで、Sはシリコン粉の表面積、
mはシリコン粉の自然酸化膜の重さ、
tはシリコン粉の自然酸化膜の厚さ、
ρは自然酸化膜の密度である。
【請求項6】
前記シリコン粉の単位重量当たりにおける前記表面積の変動を検出し、
該変動データから、前記砥石の研削作用面に存在する前記固定砥粒の大きさの変動を間接的に監視する請求項4または請求項5に記載の研削加工中の砥石の品質管理方法。

【公開番号】特開2011−230232(P2011−230232A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102911(P2010−102911)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】