説明

研削盤の制御装置および制御方法

【課題】簡便にワークの膨張量を求めることができて、その膨張量に基づいて研削目標値を補正することにより、加工寸法のばらつきを低減できるようにした研削盤の制御装置を提供する。
【解決手段】循環使用する研削液を研削箇所に供給しながら研削目標値となるように順次ワークを研削する研削盤の制御装置であって、各ワークの研削工程ごとに循環使用する研削液の温度を定点測定する温度センサ1と、温度センサの測定した研削液温に変化があった場合にその変化量に基づいて研削目標値の補正値を演算し、その補正値に基づいて研削盤の研削目標値を補正する演算装置3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型のリング状ワークの研削に利用される研削盤の制御装置および制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型軸受に代表されるような大型のリング状ワークの研削においては、ワークの仕上げ研削完了時の温度のばらつきにより、加工終了後、常温に冷却した際にワークの径寸法がばらつくことが知られている。
【0003】
この問題を解決する先行技術として、特許文献1に示されているものがある。この方法は、インプロセスゲージを使用して所定寸法になったときに自動的に研削を停止する自動定寸研削加工を対象としており、研削中の研削動力と熱流入定数および熱流出係数からワークの膨張量を計算して、ワークの膨張量に相当する寸法だけインプロセスゲージの零点を補正するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−57562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の従来技術では、ワークの膨張量を求めて研削目標値(インプロセスゲージの零点)を補正するものの、膨張量を求めるための上記の定数や係数をワークの種類や、使用するクーラントなど加工条件ごとに事前に求めておく必要があるため、ワークの種類に変更がある場合や加工条件に変更がある場合には、柔軟な対応が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワークの種類に変更がある場合や加工条件に変更がある場合にも、簡便にワークの膨張量を求めることができて、その膨張量に基づいて研削目標値を補正することにより、加工寸法のばらつきを低減できるようにした研削盤の制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前述した目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 循環使用する研削液を研削箇所に供給しながら研削目標値となるように順次ワークを研削する研削盤の制御装置であって、
前記各ワークの研削工程ごとに前記循環使用する研削液の温度を定点測定する温度センサと、
該温度センサの測定した研削液温に変化があった場合にその変化量に基づいて前記研削目標値の補正値を演算し、その補正値に基づいて前記研削盤の研削目標値を補正する研削目標値補正手段と、
を備えることを特徴とする研削盤の制御装置。
(2) 循環使用する研削液を研削箇所に供給しながら研削目標値となるように順次ワークを研削する研削盤の制御方法において、
各ワークの研削工程ごとに前記循環使用する研削液の温度を温度センサにより定点測定し、該温度センサの測定した研削液温に変化があった場合にその変化量に基づいて前記研削目標値の補正値を演算し、その補正値に基づいて前記研削盤の研削目標値を補正することを特徴とする研削盤の制御方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研削盤の制御装置および制御方法によれば、研削中のワークの温度を研削液温から推定するので、ワークの種類に変更がある場合や加工条件に変更がある場合にも、簡便にワークの膨張量を求めることができ、それに基づいて研削目標値を補正することにより、仕上加工完了時の温度のばらつきによる常温冷却後の製品寸法のばらつきを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態において実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】サンプル実験の結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
一般的に、水溶性研削液を用いる大型のリング状ワークの研削においては、サイクルタイムが長く研削液の冷却能が高いために、仕上げ研削後のワーク温度と研削液温が近似している場合が多い。つまり、ワーク温度≒研削液温と見なせることから、本発明は、その点に着目して研削液温を検出することにより、ワーク温度を推定することをポイントにしている。なお、ワークの一例としては、400mm以上の軸受軌道輪が挙げられる。
【0011】
図1は実施形態の構成を示すブロック図、図2はフローチャートである。
ここで対象とする研削盤は、循環使用する研削液を研削箇所に供給しながら研削目標値となるように順次ワークを研削するNC加工装置であり、ワークを保持するチャックなどを備えた主軸、砥石軸、ワークおよび研削点を冷却する研削液ノズル、砥石切り込み方向の座標軸を含む。また、研削盤は、NC制御装置4の指令によりサイズマ研削(NCの座標値に従い加工を行う方式)を行うか、あるいは、ゲージアンプ5からの信号に基づき、ゲージマ研削(ゲージで測定しながら加工を行い、所望の寸法になったらゲージ信号を出力し、NC加工装置はこの信号を受けて加工を終了する方式)を行う。
【0012】
本実施形態の制御装置は、そのような研削盤(NC加工装置)の研削目標値を設定するための制御装置であって、各ワークの研削工程ごとに循環使用する研削液の温度を定点測定する温度センサ1と、温度センサ1からの信号を研削液温に換算するアンプ2と、アンプ2を介して入力される研削液温に変化があった場合にその変化量に基づいて研削目標値の補正値(膨張量の変化分に相当)を演算し、その補正値に基づいて研削盤(NC加工装置)の研削目標値を補正する信号をNC制御装置4やゲージアンプ5に入力する演算装置(研削目標値補正手段)3と、を備えている。
【0013】
なお、温度センサ1としては、熱電対や測温抵抗体など液体温度が測定可能でかつ研削液中で使用しても耐性のあるものが使用される。研削液温の測定場所は、研削中にワークを冷却する研削液ノズルの近傍、または、その点と同じ温度の研削液中とする。また、演算装置3としては、アンプ2からの温度を取得可能で、NC制御装置4と通信可能なパーソナルコンピュータ(PC)等を使用することができる。
【0014】
このように構成された本実施形態の制御装置は、i番目のワークを研削する時に、図2のフローチャートに従って処理を進める。
まず、ステップS101で温度センサ1の測定する研削液温を取得する。次にステップS102で、その取得した研削液温度がi−1番目の研削時に取得した研削液温に対し変化があるかどうかをチェックする。温度変化がない場合は、ここでの判断がNOとなり処理を終了する。温度変化がある場合は、ステップS103に進み、研削目標値の補正値λを演算する。
【0015】
この補正値λは、i番目の研削時の研削液温をT、i−1番目の研削時の研削液温をTi−1とした場合に、i−1番目のワークと比べたi番目のワークの膨張量の変化分として、次のように定義することができる。なお、Dはワーク径、αはワークの熱膨張係数である。
λ=D×α×(T−Ti−1
【0016】
そして、補正値λを演算したら、その補正値λをNC制御装置4に代入して研削目標値を補正する。具体的には、定寸装置を用いないサイズマ研削の場合は、研削液温の変化ごとに狙い値(研削目標値)に寸法変化分λを加える。あるいは、定寸装置を用いるゲージマ研削の場合は、研削液温の変化ごとに寸法変化分λだけゲージアンプ5の零点を調節する。
【0017】
このような構成の制御装置や制御方法を用いれば、研削中のワークの温度を研削液温から推定するので、ワークの種類に変更がある場合や加工条件に変更がある場合にも、簡便にワークの膨張量を求めることができ、それに基づいて研削目標値を補正することにより、仕上加工完了時の温度のばらつきによる常温冷却後の製品寸法のばらつきを減少させることができる。
【0018】
以下に連続加工して検証したサンプル実験の結果を記す。この実験に用いたサンプルや加工条件は次の通りである。
ワーク :円筒ころ軸受外輪
加工部位:溝(Φ624mm)
狙い寸法:上記寸法に対して−100μm
【0019】
図3に連続7個のワークを研削したときの寸法変化を、縦軸を寸法、横軸を時間にとって示す。
この実験の間に研削液温は約5℃変化した。本実施形態の方法を用いない場合(▲印)は、29μm寸法が変化したのに対して、本実施形態の方法を用いた場合(●印)は、15μmの寸法変化であった。従って、本実施形態の方法の有効性が確認できた。
【0020】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0021】
1 温度センサ
3 演算装置(研削目標値補正手段)
4 NC制御装置
5 ゲージアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環使用する研削液を研削箇所に供給しながら研削目標値となるように順次ワークを研削する研削盤の制御装置であって、
前記各ワークの研削工程ごとに前記循環使用する研削液の温度を定点測定する温度センサと、
該温度センサの測定した研削液温に変化があった場合にその変化量に基づいて前記研削目標値の補正値を演算し、その補正値に基づいて前記研削盤の研削目標値を補正する研削目標値補正手段と、
を備えることを特徴とする研削盤の制御装置。
【請求項2】
循環使用する研削液を研削箇所に供給しながら研削目標値となるように順次ワークを研削する研削盤の制御方法において、
各ワークの研削工程ごとに前記循環使用する研削液の温度を温度センサにより定点測定し、該温度センサの測定した研削液温に変化があった場合にその変化量に基づいて前記研削目標値の補正値を演算し、その補正値に基づいて前記研削盤の研削目標値を補正することを特徴とする研削盤の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94902(P2013−94902A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240312(P2011−240312)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】