説明

研磨シート及び製造方法

【課題】研磨粒子の脱落や磨耗粉による目詰まりの発生がなく、耐久性に優れ、また研磨粒子の利用効率が高く、最小限の研磨粒子でありながら有効に研磨が可能な研磨シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の研磨シートは基材シート上に研磨層が形成されてなる研磨シートであって、研磨層は研磨粒子が結合樹脂に単層で保持されてなり複数の研磨粒子からなる単層集合体を複数有し、単層集合体は研磨層表面に散在し、各々が中央領域と該中央領域を取り巻く環状領域とを有し、環状領域の各々は円弧状又は環状の凸部を形成し、中央領域及び単層集合体間の領域は凹部を形成し、研磨層表面を占める前記凸部の比率は30パーセントから70パーセントの範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、セラミックス、ガラス、単結晶等の素材研磨、光ファイバー端面研磨、又は磁気ハードディスク、薄膜磁気ヘッド構造体、半導体基板表面等の精密研磨に使用される研磨シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研磨シートは、一般に、プラスチックシート、織布、不織布、紙等の可撓性の基材シートの表面に研磨粒子と結合樹脂を含む研磨層が形成されたものであり、研磨の目的や態様に応じてテープ状、ディスク状又は四角形等所定の形状に適宜加工されて使用される。このような研磨シートにおいて、研磨層に含まれる研磨粒子は多層構造ないし単層構造を形成して、結合樹脂により基材シート表面に固定されている。
【0003】
一般に、使用されている研磨シートでは、研磨層に含まれる研磨粒子は多層構造を形成している。多層構造では、研磨粒子が密集し重なり合って石垣のような構造になっているため、研磨中の研磨粒子の脱落が少ない。しかし、このような研磨シートの表面は、研磨粒子の凝集塊が多くの箇所で突き出ているため、一様ではない。このことが被研磨物に深い傷やスクラッチを生じる原因となっていた。
【0004】
この問題を解決するために、研磨粒子と結合剤とが混合された塗布溶液がロール転写によりパターンニングされ、ピラミッド状ないし円錐状の尖った形状の表面を有する研磨シートが提案されている(特許文献1:特表平6−505200号公報)。この研磨シートは、初期研磨においては大きな研磨力を発揮すると考えられる。
【0005】
また磁気ヘッド構造体、磁気ディスク及び光ファイバー接続端面の精密研磨用の研磨テープとして、多量の無機質成分を含有するコーティング剤で塗布層を形成し、該塗布層を乾燥、固化する過程において溶剤の蒸発により発生する「ベナードセル(対流セル)現象」を利用し、多数の略正六角形のブロックの凸部と、ブロックの画線に相当する部分及び略正六角形の中心に凹部とが形成された研磨テープが提案されている(特許文献2:特開平6−155313号公報、特許文献3:特開平11−333731号公報、特許文献4:特開平11−333732号公報)。このような研磨テープは、研磨の際に発生する磨耗粉(研磨屑)を凹部に溜めることができ、「シロヌケ(摩耗粉による擦り傷で研磨シートが部分的に白く透けて見えるようになる現象)」の無い高品質な研磨ができるとされている。
【0006】
ポリエステルフィルムのようなベース(基材)上に実質的に研磨材粒子が単層でしかもできるだけ個々が一様に分散した状態で固定された構造を有する単層構造の研磨シートが提案されている(特許文献5:特開平1−234169号公報)。このような研磨シートでは研磨材粒子間に間隙が存在するため、粒子と粒子の間隙がチップポケットとして作用し、目詰まりが防止されて耐久性が向上するとされている。
【0007】
また、研磨粒子が単層構造を有するように配置された研磨テープで、フィルム基材をエンボス加工してフィルム基材表面に凹凸を均一に且つ規則正しく形成した研磨テープが提案されている(特許文献6:特開2002−172563号公報)。この研磨テープによれば、目詰まりがしにくく、研磨精度、研磨力、及び研磨粒子の利用効率が優れた研磨ができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平6−505200号公報
【特許文献2】特開平6−155313号公報
【特許文献3】特開平11−333731号公報
【特許文献4】特開平11−333732号公報
【特許文献5】特開平1−234169号公報
【特許文献6】特開2002−172563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているような研磨シートは目詰まりが起こりやすく、研磨シートをロール状にして走行しながら研磨する場合には有効であるが、研磨シートを固定して使用すると急激に研磨力が低下し、耐久性に問題があった。また加工時間の経過とともに研磨層の表面が変化するため品質の一定した研磨ができなかった。さらに、研磨に有効に作用する研磨粒子は表面に存在するものだけであり、研磨層の内部に存在する研磨粒子は研磨材として使用されないため、特に高価な研磨粒子が研磨シートに使用される場合にはコストが高くなった。
【0010】
特許文献2ないし4に記載されているような研磨テープの研磨層の場合、多数の略正六角形の境界と略正六角形の中心に形成された凹部は、研磨の際の磨耗粉を溜め得る間隙としては十分ではなかった。このため目詰まりを発生しやすく、耐久性に問題があった。
【0011】
特許文献5に記載されているような研磨シートは、単層構造を有するものであるが、研磨材粒子が一個ずつ独立に樹脂で固定されているため、従来の多層構造の研磨具に比較し研磨材粒子の保持力が弱かった。従って研磨中の研磨材粒子の脱落が多くなり、研磨能力の低下が速く、耐久性が十分ではなかった。また、一個ずつ独立に分散した研磨粒子では、摩耗粉を保持するためのチップポケットとして十分な効果が得られないという問題もあった。
【0012】
特許文献6に記載されているような研磨テープは、表面の凹凸がエンボス加工で形成されているため凹凸のピッチや形状が粗く、精密部品の研磨に十分ではなかった。また、研磨に作用しない凹部にも研磨粒子が配置されているため、研磨粒子の利用効率が十分ではなかった。
【0013】
以上のとおり従来の研磨シートを円板状にして研磨盤に固定し回転させ、被研磨物を研磨シートに押当てて研磨を行うような場合、研磨層の同一箇所に常時被研磨物が接触した状態で研磨が行われるため、研磨粒子の脱落や摩耗粉による目詰まりが発生して研磨力が低下するものであった。
【0014】
また、従来の研磨シートや研磨テープにはコスト及び研磨粒子の利用効率の問題もあった。例えば研磨テープを走行しながら被研磨物を押当て研磨を行う場合には、研磨に有効に作用する研磨材粒子は研磨層の表面に存在するものだけであり、研磨層の内部や凹部に存在する研磨粒子は研磨材として作用されることがなく、研磨粒子の利用効率が低かった。特にダイヤモンドのような高価な研磨材を使用すればコスト高となった。
【0015】
本発明は上記の問題に鑑み、磁気ヘッド構造体や光ファイバー端面等の研磨において、被研磨物の表面に深い傷やスクラッチを生じることなく、初期研磨から加工時間が経過しても研磨量の劣化が少なく耐久性に優れ、研磨粒子の利用効率が高い研磨シート及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明の研磨シートは、基材シート上に研磨層が形成されてなる研磨シートであって、前記研磨層は研磨粒子が結合樹脂に単層で保持されてなり、前記研磨層は複数の研磨粒子からなる単層集合体を複数有し、前記単層集合体は研磨層表面に散在し、前記単層集合体の各々は中央領域と該中央領域を取り巻く環状領域とを有し、前記環状領域の各々は円弧状又は環状の凸部を形成し、前記中央領域及び単層集合体間の領域は凹部を形成し、前記研磨層表面を占める前記凸部の比率は30%から70%の範囲にあることを特徴とする。
【0017】
前記単層集合体の各々は、前記複数の研磨粒子、結合樹脂前駆体及び有機溶剤を含む塗布溶液が前記基材シートに前記研磨粒子が単層となるように塗布され、加熱され、加熱により前記有機溶剤が蒸発し、塗布溶液中に対流セルが生じて塗布溶液面に複数の流れ及び前記複数の流れが収束する中央領域が複数生じ、前記複数の研磨粒子が前記複数の中央領域の各々に向かって移動し集合して形成されることにより前記中央領域と前記中央領域を取り巻く環状領域とを有するものである。
【0018】
本発明の研磨シートは上記のとおり、複数の研磨粒子からなる単層集合体が研磨層表面に散在し、各々の単層集合体が中央領域と環状領域とを有し、環状領域が円弧状又は環状の凸部を形成し、中央領域及び単層集合体間の領域が凹部を形成し、凸部が研磨層表面に占める比率が30%ないし70%の範囲にあることにより、凹部が摩耗粉を効率よく保持、排出して目詰まりを防止することを可能とするものである。また、研磨粒子が単層で集合体を形成し、研磨の際に研磨粒子にかかる水平方向の力に対して研磨粒子が支え合うため、研磨粒子が脱落しにくい。従って本発明の研磨シート加工時間が経過しても加工量(研磨量)の劣化が少なく、耐久性に優れている。このような研磨シートは、特に光ファイバー接続端面の研磨、あるいは磁気ハードディスクに使用される薄膜磁気ヘッド構造体の研磨等に有効である。
【0019】
また、本発明の研磨シートは、研磨層を構成する研磨粒子のうち前記環状領域に含まれる研磨粒子が70%以上であることを特徴とする。単層集合体の環状領域によって形成される円弧状又は環状の凸部は、円弧状のエッジ部分を含む特徴的な形状により研磨力に優れている。研磨粒子の70%以上が研磨に有効に寄与する環状領域に含まれ、一方で研磨に寄与しない凹部にはほとんど研磨粒子が含まれないことにより、本発明の研磨シートは研磨粒子の利用効率が高い。
【0020】
さらに、本発明の研磨シートは、研磨層を構成する研磨粒子と結合樹脂の重量比が1:1ないし1:5の範囲であることを特徴とする。該重量比の範囲により、単層集合体間の領域のチップポケットとして効果的に作用する凹部が形成される。
【0021】
また、本発明の研磨シートに含まれる研磨粒子は単一粒子、造粒粒子、又は単一粒子及び造粒粒子であることを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明の研磨シートに含まれる研磨粒子の平均粒径は1μm〜20μmの範囲にある。研磨粒子が単一粒子の場合は、単一粒子の平均粒径が1μm〜20μmの範囲にあることが好ましい。また、研磨粒子を複数含む造粒された造粒粒子の場合は、造粒粒子の平均粒径が1μm〜20μmの範囲にあることが好ましい。造粒粒子に含まれる研磨粒子として、平均粒径が1μm未満の単一粒子が用いられると安定して基材シート表面に保持される。複数の単一粒子及び/または造粒粒子からなる単層集合体の環状領域の平均的な直径は、5μm〜100μmの範囲にあることが好ましい。
【0023】
上記の造粒粒子はマイクロカプセル、ビーズ粒子又は複合粒子であってよい。マイクロカプセルは、研磨粒子よりも軟らかい樹脂やガラスのマイクロカプセルの中に微細研磨粒子を粉体又は結合剤と共に封じ込めたものである。ビーズ粒子は、研磨粒子を樹脂又はガラスと混合して球状にしたものである。複合粒子は、2種以上の研磨粒子を結合したもの又は母粒子に子粒子を固着したもの等の造粒粒子である。本発明の研磨シートでは、これら造粒粒子が一つの研磨粒子として基材シートの表面に結合樹脂により固定される。
【0024】
尚、複数の研磨粒子からなる単層集合体の環状領域が形成する凸部の形状は、ドーナツ形状、馬蹄形状、U字形状、半月形状または三日月形状であってよく、研磨シート表面において、これら各々の形状を有する凸部が混在してよい。
【0025】
さらに、本発明の研磨シートを構成する基材シートは、表面粗さが1nm以上となるよう、且つ使用される研磨粒子の平均粒径の1/100以上、1/2以下の範囲となるよう粗面処理された基材シートであることを特徴とする。このような表面粗さを有する基材シートを使用することにより、基材シートと結合樹脂の密着強度がさらに向上し且つ研磨粒子を研磨層に強固に保持することができ、研磨粒子の脱落が防止される。
【0026】
続いて、上記課題を解決する本発明の研磨シートの製造方法が提供される。本発明にかかる基材シート上に研磨層が形成されてなる研磨シートの製造方法は、基材シートが用意される工程と、研磨粒子、結合樹脂前駆体及び有機溶剤を含む塗布溶液が用意され、前記塗布溶液が前記基材シート上に前記研磨粒子が単層となるよう塗布され、加熱され、硬化されて基材シート上に研磨層が形成される工程と、を含み、前記塗布溶液に含まれる前記研磨粒子と前記結合樹脂前駆体の重量比は1:2〜1:8の範囲であり、前記塗布溶液の粘度は10cps〜100cpsであり、前記有機溶剤は沸点が異なる有機溶剤の混合液であることを特徴とする。
【0027】
上記の本発明の研磨シートの製造方法において、結合樹脂前駆体は硬化剤等を含んでよいものである。各成分が所定の重量比で混合され、所定の粘度となる塗布溶液が用意され、塗布溶液が加熱され硬化される工程において、沸点が異なる有機溶剤が蒸発し、塗布溶液中に対流セルが生じることによって研磨粒子が十分に移動し、本発明にかかる単層集合体が形成された研磨シートが得られる。集合体が単層で形成されるためには塗布溶液を塗布する工程において、研磨粒子が単層となるように塗布されることが好ましい。また、塗布溶液の固形分は20重量%ないし50重量%であることが好ましい。
【0028】
本発明の研磨シートの製造方法に用いられる塗布溶液において、有機溶剤を含む各成分の重量比は、研磨粒子、結合樹脂前駆体、有機溶剤が1:2:1〜1:8:5の範囲にあることが好ましい。
【0029】
本発明の研磨シートの製造方法に使用される沸点が異なる有機溶剤の混合液は、沸点が50℃以上100℃未満である有機溶剤A群から選択された少なくとも一種の有機溶剤と沸点が100℃以上200℃未満である有機溶剤B群から選択された少なくとも一種の有機溶剤の混合液であることを特徴とする。このような混合液が使用されることにより、有機溶剤の蒸発過程において複数の研磨粒子からなる単層集合体が形成され、所望の形状の凸部が形成される。
【0030】
有機溶剤A群はアルコール系、ケトン系又はエステル系の有機溶剤を含み、有機溶剤B群は芳香族系の有機溶剤を含むことが好ましい。有機溶剤A群から選択される有機溶剤と有機溶剤B群から選択される有機溶剤の配合を調整することにより、単層集合体の環状領域によって形成される凸部の形状及び単層集合体の大きさ(環状領域の直径)を調整することが可能である。
【0031】
本発明の研磨シート製造方法の塗布溶液が加熱される工程おいて、加熱温度は80℃ないし120℃の範囲にあり、該温度範囲の通過時間が30秒ないし120秒の範囲にあることが好ましい。このような条件で加熱することによって、対流セルによる研磨粒子の移動が十分に行われ、均一に分散し、形状や大きさが揃った単層集合体が形成される。
【発明の効果】
【0032】
本発明の研磨シート及び製造方法により、研磨中に生じる摩耗粉が順次保持、排出され、目詰まりが発生しにくく耐久性に優れた研磨シートが提供される。本発明の研磨シートは、初期研磨からほぼ一定の研磨量が得られ、加工時間が経過しても研磨力の劣化が少ない。また、本発明の研磨シートは光ファイバー端面研磨、磁気ヘッド構造体等の被研磨物の表面に仕様以上の深い傷やスクラッチを形成することなく、効率的な研磨を行うことが可能である。
【0033】
さらに、本発明の研磨シート及び製造方法により、研磨粒子の利用効率の高い研磨シートが提供される。本発明の研磨シートにおいて、単層集合体の環状領域に含まれ円弧状又は環状の凸部を形成する研磨粒子は研磨層に含まれる研磨粒子の70%以上であり、さらに凸部の特徴的な形状が研磨に有効に作用するため、研磨粒子の利用効率が高い。一方で研磨に寄与しない凹部には研磨粒子がほとんど存在せず、必要以上の研磨粒子を使用する必要がないため、ダイヤモンドやcBN等の高価な研磨材を使用しても必要最小限にコストを押えることができ、コスト面でも利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明の研磨シート表面の一態様を模式的に示す図である。
【図2】図2(a)〜(c)は単層集合体の形態を模式的に示す図である。
【図3】図3は図2のA−Aに沿った研磨シートの断面図である。
【図4】図4は本発明の単層集合体の他の形態を模式的に示す図である。
【図5】図5は造粒粒子を含む単層集合体を模式的に示す図である。
【図6】図6は本発明の(a)実施例1(b)実施例2(c)実施例3の研磨シート表面の顕微鏡写真である。
【図7】図7は(a)比較例1(b)比較例2の研磨シート表面の顕微鏡写真である。
【図8】図8は実施例1ないし3、比較例1及び2の研磨シートの研磨試験での加工時間と加工量との関係を示す図である。
【図9】図9は実施例4、比較例3及び4の研磨シートの研磨試験での加工時間と加工量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明のさまざまな特徴は、本発明の限定を意図するものではないが、好適実施例とともに説明される。図面は説明の目的で単純化され、尺度も必ずしも一致しない。
【0036】
図1に、本発明の研磨シート10が模式的に示されている。研磨シート10の表面には凸部を有する単層集合体12が散在している。単層集合体間の領域15及び単層集合体の中央領域16が凹部を形成している。図1の凸部と凹部の比率は模式的なものであるが、本発明の研磨シート10の表面の凸部の比率は30%以上、70%以下であることが好ましい。複数の研磨粒子からなる凸部の比率が30%未満であると研磨粒子の絶対量が少ないために研磨効率が低下し、70%を超えると、チップポケットの占める面積が少なくなり目詰まりが発生して研磨効率が低下するためである。
【0037】
図2には、本発明の単層集合体12の特徴的な形態が模式的に示されている。単層集合体12は複数の研磨粒子13からなり、破線で示された環状領域(部分を含む)において円弧状又は環状の凸部が形成されている。図2(a)ないし(c)の凸部の形状は、各々ドーナツ形状、馬蹄形状、三日月形状である。いずれの凸部も特徴的な円弧状のエッジ部分、つまり湾曲した鎌のような形状の部分を有しており、このエッジ部分が研磨に有効に作用して研磨効率を高めていると考えられる。
【0038】
図3は、図2のA−A断面図である。複数の研磨粒子13は単層で結合樹脂14により基材シート11上に保持されている。単層集合体12の環状領域に含まれる複数の研磨粒子13は凸部を形成し、中央領域16及び単層集合体間の領域15は凹部を形成している。中央領域16は研磨中に発生する磨耗粉を順次保持、排出し、単層集合体間の領域15はチップポケットとして研磨中に発生する磨耗粉の排出路となる。本発明の研磨シート10はこれらの凸部と凹部の構成により、目詰まりの発生がなく耐久性に優れ、また、研磨粒子が単層となっているため均一な研磨面が得られるものである。
【0039】
図4には、本発明の単層集合体12の別の形態が示されている。破線で示されている環状領域において、研磨粒子13が存在しない部分があるが、このような研磨粒子の配置であっても、本発明の研磨シートの効果が得られる。図2及び図4に模式的に示されているような環状領域に含まれる研磨粒子は、本発明の研磨シート10の研磨層を構成する研磨粒子の70%以上であることが好ましい。
【0040】
研磨粒子13は、単結晶又は多結晶のダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(cBN)、酸化アルミニウム、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化鉄のうち少なくとも一種を含む。
【0041】
研磨粒子として、微細な研磨粒子を複数含む造粒粒子が用いられてもよい。図5には、造粒粒子13’を含む単層集合体12が示されている。微細な研磨粒子s(例えば、粒径が1μm未満)は凝集しやすく、単層に固定することが困難であり、結合樹脂に埋もれてしまうため研磨力が十分に得られない。このような複数の微細研磨粒子sをビーズ状の造粒粒子13’に造粒することによって、中央領域16及び単層集合体間の領域15の凹部が深くなり、磨耗粉の排出効率が高くなる。造粒粒子13’は、マイクロカプセル、ビーズ又は複合粒子の造粒粒子であってよい。
【0042】
研磨粒子13及び/または造粒粒子13’の平均粒径は、1μm以上、20μm以下の範囲が好ましく、3μm以上、10μm以下がより好ましい。1μm未満であると、単層粒子を結合樹脂(バインダー)で固定しても密着力が不足して研磨粒子の脱粒が起こる。また、結合樹脂を多くすると研磨粒子が結合樹脂に埋もれ、研磨力が得られない。一方20μmを超えると、粒子が重く溶剤の対流で移動するのが困難となるため、単層集合体12が均一に得られなくなる。なお、20μm以上の研磨粒子は集合体を形成しなくても十分な研磨が得られるため、必ずしも集合体を形成する必要がない。
【0043】
単層集合体12の環状領域の平均的な直径は、5μm〜100μmの範囲が好ましい。5μm未満では、十分な集合体が得られないためチップポケットの形成が不十分である。100μmを越えると単層で集合体を形成するのが困難となり、重なり合う研磨粒子が増加し、研磨シートの表面粗さが大きくなり、スクラッチ増加の原因となる。
【0044】
基材シート11として、製造中の熱による変形や使用中に作用する機械的な力による破断への耐性(耐熱性、高強度)及び柔軟性を有する必要があることから、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが使用される。このようなプラスチックフィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール又はメタアクリルを主成分としたアクリル系樹脂、ポリカーボネート等からなるフィルムが使用されてよい。実用的には、研磨シートを製造するフィルムの取り扱いが容易であるため、ポリエチレンテレフタレートからなるプラスチックフィルムを基材シートとして使用することが好ましい。
【0045】
基材シート11の厚さは、特に限定しないが、5μm以上、200μm以下の範囲で、好適には10μm以上、100μm以下の範囲にあることが望ましい。また用途によっては、研磨シートはその製造後に、例えば研磨シート全体の弾性を調整する場合等に、第2の基材に貼り付けて使用できる。
【0046】
基材シート11として、表面粗さが1nm以上となるよう、且つ使用される研磨粒子の平均粒径の1/100以上、1/2以下の範囲となるよう粗面処理されたシートが使用されることが好ましい。表面粗さが1nm未満では、基材シートの表面と結合樹脂との密着強度が十分に得られない。上記の範囲であれば、研磨粒子が粗面の凹部に埋もれることなく、基材シートと結合樹脂の密着強度が向上し、且つ研磨粒子を研磨層に強固に保持することができ、研磨粒子の脱落を防止することができる。粗面処理方法としては、サンドブラスト、プラズマ、レーザー、エッチング等が用いられてよく、表面の凹部はランダムでも整列していても、又所定のパターンをもってもよい。
【0047】
本発明の研磨シート10の製造方法は次のとおりである。まず、適量の有機溶剤に研磨粒子を加え攪拌し、次に結合樹脂(前駆体)を加えて攪拌、混合して研磨粒子を均一に分散した樹脂溶液が製造される。次に、この樹脂溶液を攪拌しながら硬化剤を添加し、さらに所定の粘度になるまで有機溶剤を加えることにより塗布溶液が製造される。この塗布溶液は基材シートの表面にコータ(塗布機)により所定の厚みに塗布され、その後加熱乾燥により有機溶剤が蒸発して硬化する。こうして出来たものがロールに巻き取られ、使用目的に従って、角形、丸形、ドーナツ形又はテープ状等にスリットされて、本発明の研磨シート10が製造される。
【0048】
結合樹脂の前駆物質として、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等が使用されてよい。これら結合樹脂前駆物質は、重合を開始させるために硬化剤、触媒又は開始剤を含有してもよい。硬化剤(架橋剤)としては、イソシアネート系樹脂(例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)等)が使用されてよい。
【0049】
上記のような結合樹脂の前駆物質に有機溶剤及び研磨粒子が加えられ研磨粒子が均一に分散するように攪拌されて、塗布溶液が製造される。塗布溶液は、均一な厚みの研磨層を形成できる粘度を有し、加熱、乾燥硬化又は重合過程において研磨粒子が十分に流動できるように、有機溶剤を加えて調整される。
【0050】
有機溶剤としては、ケトン系(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン等)、アルコール系(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等)、エステル系(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、芳香族系(ベンゼン、トルエン、キシレン等)及びこれらを適当量混合したものが使用できる。
【0051】
特に本発明の研磨シートの製造方法に使用される有機溶剤は、沸点の低い有機溶剤A群(沸点:50℃以上、100℃未満)から選択された少なくとも一種と比較的沸点の高い有機溶剤B群(沸点:100℃以上、200℃未満)から選択された少なくとも一種とが適当量混合された混合液が使用されることが好ましい。有機溶剤A群として、メチルエチルケトン(沸点:79℃)、イソプロピルアルコール(沸点:82℃)からの少なくとも一種、及び有機溶剤B群として、トルエン(沸点:110℃)、キシレン(沸点:144℃)からの少なくとも一種が混合されることがより好ましい。有機溶剤の蒸発過程において、研磨粒子の対流移動を調整し、所望の単層集合体を形成するためである。
【0052】
塗布された塗布溶液を比較的長時間で加熱乾燥し硬化する過程で研磨粒子を十分に移動させるためには、ゆっくり蒸発させるのに適したキシレン及びトルエンを主成分として、比較的蒸発の速いメチルエチルケトン(MEK)及びイソプロピルアルコール(IPA)を調整して加えるのがよい。
【0053】
塗布溶液に配合される研磨粒子と結合樹脂前駆体(結合剤+硬化剤)の重量比は、1:2〜1:8の範囲にあることが好ましい。塗布溶液中の研磨粒子の割合が多くなりすぎると、加熱乾燥の工程で生じる研磨粒子の対流移動が鈍くなって単層集合体が均一に形成されず、結合樹脂が多くなりすぎると、研磨粒子が結合樹脂の中に沈んで重なり合い、研磨シートの表面粗さが大きくなるためである。
【0054】
さらに、本発明の研磨シートを得るためには、塗布溶液の粘度や固形物に対する有機溶剤の配合比が重要である。塗布された塗布溶液の加熱乾燥(加熱温度:80℃〜120℃)により有機溶剤が蒸発する過程で、研磨粒子が十分に移動して単層集合体12を形成するように、研磨粒子(固形物)と結合樹脂前駆体に有機溶剤が加えられた塗布溶液の粘度は、10cps〜100cpsの範囲に調整される。このとき、研磨粒子、結合樹脂前駆体、有機溶剤の重量比は1:2:1〜1:8:5の範囲にあることが好ましい。
【0055】
本発明に従って調整された塗布溶液を基材シートの表面に塗布する方法は、特に限定するものではなく、研磨粒子が略単層に塗布できるコータが好ましい。例えば、リバースコータ、ナイフコータ、コンマコータ、キスロールコータ、スプレーコータ等が使用できる。
【0056】
以上のようにして基材シート11に塗布された塗布溶液が加熱され、硬化する工程において有機溶剤が蒸発し、塗布溶液中に対流セルが生じ、塗布溶液面に複数の流れと各々の流れが収束する中央領域が複数生じ、中央領域に向かって研磨粒子が移動する。複数の研磨粒子が中央領域を取り巻く環状領域に十分に移動することにより、研磨シート10の表面にほぼ均一に分散した単層集合体12が形成される。また、単層集合体12の環状領域は凸部を形成し、中央領域16と単層重合体間の領域15はほぼ研磨粒子が存在しない凹部を形成する。
【0057】
本発明の研磨シートが、以下の実施例1ないし4に従って製造された。光ファイバーの端面研磨の粗仕上げ用の研磨シート及び中仕上げ用の研磨シートとするために、研磨粒子には平均粒径9μm及び1μmのダイヤモンドが各々使用された。基材シートは厚さ75μmのPETの表面を粗面化したものが使用された。表面粗さ0.6μmの基材シートが平均粒径9μmの研磨粒子に使用され、表面粗さ0.4μmの基材シートが平均粒径1μmの研磨粒子に各々使用された。
【0058】
実施例1
本発明の研磨シートを製造するための塗布溶液の主要成分及び配合量(重量部)、加熱硬化後の研磨層の主要成分及び固形分量(重量部)が以下の表1に示される。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の塗布溶液の配合量に示されている有機溶剤(メチルエチルケトン+トルエン)と研磨粒子が所定量計量され、タンク内で攪拌された。これに結合剤が加えられ、約30分攪拌されて研磨粒子を含む樹脂溶液が製造された。次に樹脂溶液は中で研磨粒子が十分に分散されるように分散機にかけられ、30μmのフィルターにより濾過され、樹脂溶液から異物が除去された。さらに攪拌しながら樹脂溶液に硬化剤が添加され、所定の濃度になるまで有機溶剤(キシレン)が加えられて塗布溶液が製造された。このときの塗布溶液の粘度は60cpsであった。次に塗布溶液が、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる基材シートの表面にリバースコータにより研磨粒子が略単層となるよう塗布された。塗布層の厚さは40μmであった。続いて塗布溶液が塗布された基材シートが110℃の乾燥炉を60秒で通過させられ、塗布溶液中の有機溶剤が蒸発しながら塗布溶液中の結合樹脂が重合し、硬化し、基材シート表面に研磨層が形成された。有機溶剤の蒸発過程において生じる対流セルにより研磨粒子が移動し、複数の研磨粒子からなる所定の形態の単層集合体が形成された。乾燥後の研磨層の厚さは、10μmであった。最後に40℃で72時間エージングされ、所定の形状にカットされて、実施例1の研磨シートが製造された。表1の研磨層の固形分量に示されているとおり、研磨シートの研磨層の研磨粒子と結合樹脂の比率は、100重量部に対して約270重量部であった。
【0061】
図6(a)に、実施例1で得られた研磨シート表面の顕微鏡写真が示されている。単層集合体の形態は、図2(a)に模式的に示されているようなドーナツ形状が多くを占めていた。研磨シートの平均表面粗さRaは、0.30μmであった。最大表面粗さRmaxは、3.27μmであった。
【0062】
実施例2
実施例2の研磨シートは、表1において、有機溶剤(メチルエチルケトン+トルエン)を205重量部、有機溶剤(キシレン)を80重量部とした他は、実施例1と同様に製造された。
【0063】
図6(b)に、実施例2で得られた研磨シート表面の顕微鏡写真が示されている。単層集合体の形態は、図2(b)に模式的に示されているような馬蹄形状が多くを占めていた。研磨シートの平均表面粗さRaは、0.57μmであった。最大表面粗さRmaxは、5.54μmであった。
【0064】
実施例3
実施例3の研磨シートは、表1において、有機溶剤(メチルエチルケトン+トルエン)のみを使用して285重量部とした他は、実施例1と同様に製造された。
【0065】
図6(c)に、実施例3で得られた研磨シート表面の顕微鏡写真が示されている。単層集合体の形態は、図2(b)、図2(c)に模式的に示されているような馬蹄形状、三日月形状、及び図4に模式的に示されているような形態の混在したものであった。研磨シートの平均表面粗さRaは、0.61μmであった。最大表面粗さRmaxは、5.81μmであった。
【0066】
実施例4
実施例4の研磨シートは、表1において、研磨粒子のダイヤモンドの平均粒径を1μmとして製造された。実施例4で製造された塗布溶液の粘度は30cps、塗布層の厚さは、2μmであった。塗布後の工程は、実施例1と同様であり、乾燥後の研磨層の厚さは、1.3μmであった。
【0067】
実施例4の研磨シートの平均表面粗さRaは、0.19μmであった。最大表面粗さRmaxは、3.15μmであった。
【0068】
比較例1
比較例1の研磨シートを製造するための塗布溶液の主要成分及び配合量(重量部)、加熱硬化後の研磨層の主要成分及び固形分量(重量部)が各々以下の表2に示される。比較例1の研磨シートは、従来の多層塗布方法で製造された。
【0069】
【表2】

【0070】
比較例1の研磨シートを製造するための塗布溶液の成分は、表2に示されているとおり、実施例1とほぼ同じであるが、有機溶剤はメチルエチルケトンとトルエンの等量比の混合液とされ、沸点の高いキシレンは使用されなかった。塗布溶液の粘度は、180cpsであった。この塗布溶液が50μmの厚みに塗布され、乾燥、硬化されて16μmの研磨層が得られた。固形分の重量比は、研磨粒子100重量部に対して結合樹脂は70.5重量部であった。
【0071】
図7(a)に、比較例1で得られた研磨シート表面の顕微鏡写真が示されている。図7(a)においては、研磨粒子が重なり合い多層構造を形成している。比較例1では表2に示されているとおり、実施例1とは異なって研磨層における研磨粒子の重量比が結合樹脂の重量比を上回っている。比較例1の研磨シートの平均表面粗さRaは、0.63μm、最大表面粗さRmaxは、5.68μmであった。
【0072】
比較例2
比較例2の研磨シートを製造するための塗布溶液の主要成分及び配合量(重量部)、加熱硬化後の研磨層の主要成分及び固形分量(重量部)が各々以下の表3に示される。比較例2の研磨シートは、従来のベナードセル(対流セル)現象を利用した多層塗布方法で製造された。
【0073】
【表3】

【0074】
比較例2では結合剤にポリエステル系樹脂が使用された。調整された塗布溶液の粘度は、150cpsであった。実施例1のようにして製造された塗布溶液が40μmの厚みに塗布され、乾燥、硬化されて11μmの研磨層が得られた。表3にあるとおり、固形分の重量比率は、研磨粒子100重量部に対して、結合樹脂は72.5重量部であった。
【0075】
図7(b)に、比較例2で得られた研磨シート表面の顕微鏡写真が示されている。研磨シートの表面は、ベナードセル現象により、研磨粒子が多層構造となり、多数の略六角形のブロックを形成している。
【0076】
比較例3
比較例3の研磨シートは、研磨粒子として使用されるダイヤモンドの平均粒径を1μmにした他は比較例1と同様の成分が用いられ、製造方法も同様であった。有機溶剤で調整した粘度は、150cpsであった。平均表面粗さRaは、0.13μm、最大表面粗さRmaxは、1.47μmであった。
【0077】
比較例4
比較例4の研磨シートは、研磨粒子として使用されるダイヤモンドの平均粒径を1μmにした他は比較例2と同様の成分が用いられ、製造方法も同様であった。有機溶剤で調整した粘度は、120cpsであった。平均表面粗さRaは、0.45μm、最大表面粗さRmaxは、4.88μmであった。
【0078】
上記、実施例1ないし4及び比較例1ないし4の研磨シートによる光ファイバー接続端面の研磨試験が行われた。研磨試験においては、平均粒径9μmのダイヤモンドの研磨シートの研磨と評価が行われた後、次に平均粒径1μmのダイヤモンドの研磨シートの研磨と評価が行われた。研磨試験装置として、精工技研社製の研磨装置(SFP−120A)が使用された。
【0079】
まず、研磨粒子に平均粒径9μmのダイヤモンドを用いた各々の研磨シートの試験が行われ、実施例1ないし3、比較例1及び2で製造された粗研磨用の研磨シートを、それぞれ直径127mmの円盤状に加工し、5mm厚みのゴムパッド(JIS K6253に準拠した、ゴム硬度:A80)の回転板に貼り付けた。また、外径2.5mmφの光ファイバーコネクタを12本セットした治具を用意した。そして研磨直前に、研磨シートの表面にイオン交換水1ccを滴下し、その上に光ファイバーコネクタ12本全体に、4.5kgの荷重をかけて、回転板を70rpmで回転させながら、光ファイバーコネクタを研磨シート上で自転と公転を伴う遊星運動をさせ、端面を一定時間(60秒間)研磨した。研磨後、水洗浄を行い、端面をクリーニングした後、研磨された光ファイバー接続端面の研磨量(研磨速度)を測定した。
【0080】
図8に、本発明の実施例1ないし3の研磨シート(折れ線グラフ:31ないし33)と比較例1及び2(折れ線グラフ:34、35)の加工時間と加工量(研磨量)が示されている。比較例1及び2の研磨シートが初期研磨から数分で加工量が急激に劣化しているのに対し、本発明の実施例1ないし3の研磨シートは、初期研磨から約30分の加工時間が経過した後の研磨においてもほぼ均一な加工量となっており、研磨速度が速い。従って本発明の実施例1ないし3の研磨シートは耐久性において利点を有するものである。
【0081】
図9には、研磨粒子に平均粒径1μmのダイヤモンドを使用した本発明の実施例4の研磨シート(折れ線グラフ:36)と比較例3及び4(折れ線グラフ:37、38)の試験結果が示されている。本発明の実施例4の研磨シートは、比較例3及び4の研磨シートと比較して初期研磨から加工時間が経過しても、均一な加工量での研磨がされており、研磨速度が速い。従って本発明の実施例4の研磨シートも耐久性において利点を有するものである。
【0082】
本発明の思想及び態様から離れることなく多くのさまざまな修正が可能であることは当業者の知るところである。したがって、言うまでもなく、本発明の態様は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0083】
10 研磨シート
11 基材シート
12 単層集合体
13 研磨粒子
13’ 造粒粒子
14 結合樹脂
15 単層集合体間の領域
16 中央領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に研磨層が形成されてなる研磨シートであって、
前記研磨層は研磨粒子が結合樹脂に単層で保持されてなり、
前記研磨層は複数の研磨粒子からなる単層集合体を複数有し、
前記単層集合体は研磨層表面に散在し、
前記単層集合体の各々は中央領域と該中央領域を取り巻く環状領域とを有し、
前記環状領域の各々は円弧状又は環状の凸部を形成し、
前記中央領域及び単層集合体間の領域は凹部を形成し、
前記研磨層表面を占める前記凸部の比率は30パーセントから70パーセントの範囲にある、
研磨シート。
【請求項2】
基材シート上に研磨層が形成されてなる研磨シートであって、
前記研磨層は研磨粒子が結合樹脂に単層で保持されてなり、
前記研磨層は複数の研磨粒子からなる単層集合体を複数有し、
前記単層集合体は研磨層表面に散在し、
前記単層集合体の各々は前記複数の研磨粒子、結合樹脂前駆体及び有機溶剤を含む塗布溶液が前記基材シートに前記研磨粒子が単層となるように塗布され、加熱され、加熱により前記有機溶剤が蒸発し、塗布溶液中に対流セルが生じて塗布溶液面に複数の流れ及び前記複数の流れが収束する中央領域が複数生じ、前記複数の研磨粒子が前記複数の中央領域の各々に向かって移動し集合して形成されることにより前記中央領域と前記中央領域を取り巻く環状領域とを有し、
前記環状領域の各々は円弧状又は環状の凸部を形成し、
前記中央領域及び単層集合体間の領域は凹部を形成し、
前記研磨層表面を占める前記凸部の比率は30パーセントから70パーセントの範囲にある、
研磨シート。
【請求項3】
前記研磨粒子のうち前記環状領域に含まれる研磨粒子は70パーセント以上である、
請求項1又は2に記載の研磨シート。
【請求項4】
前記研磨粒子と前記結合樹脂の重量比は1:1ないし1:5の範囲にある、
請求項1ないし3のいずれかに記載の研磨シート。
【請求項5】
前記研磨粒子は単一粒子及び/又は造粒粒子である、
請求項1ないし4のいずれかに記載の研磨シート。
【請求項6】
前記研磨粒子の平均粒径は1μmないし20μmの範囲にあり、
前記環状領域の平均直径は5μmないし100μmの範囲にある、
請求項1ないし5のいずれかに記載の研磨シート。
【請求項7】
前記造粒粒子はマイクロカプセル、ビーズ粒子又は複合粒子である、
請求項5に記載の研磨シート。
【請求項8】
前記円弧状又は環状の凸部はドーナツ形状、馬蹄形状、U字形状、半月形状又は三日月形状の凸部である、
請求項1ないし7のいずれかに記載の研磨シート。
【請求項9】
前記基材シートは表面粗さが1nm以上、且つ使用される研磨粒子の平均粒径の1/100以上1/2以下の範囲となるよう粗面処理された基材シートである、
請求項1ないし8のいずれかに記載の研磨シート。
【請求項10】
基材シート上に研磨層が形成されてなる研磨シートの製造方法であって、
基材シートが用意される工程と、
研磨粒子、結合樹脂前駆体及び有機溶剤を含む塗布溶液が用意され、前記塗布溶液が前記基材シート上に前記研磨粒子が単層となるよう塗布され、加熱され、硬化されて基材シート上に研磨層が形成される工程と、を含み、
前記塗布溶液に含まれる前記研磨粒子と前記結合樹脂前駆体の重量比は1:2〜1:8の範囲にあり、
前記塗布溶液の粘度は10cps〜100cpsであり、
前記有機溶剤は沸点が異なる有機溶剤の混合液である、
研磨シートの製造方法。
【請求項11】
前記塗布溶液に含まれる前記研磨粒子、前記結合樹脂前駆体、前記有機溶剤の重量比は1:2:1ないし1:8:5の範囲にある、
請求項10に記載の研磨シートの製造方法。
【請求項12】
前記有機溶剤の混合液は沸点が50℃以上100℃未満である有機溶剤A群から選択された少なくとも一種の有機溶剤と沸点が100℃以上200℃未満である有機溶剤B群から選択された少なくとも一種の有機溶剤の混合液である、
請求項10又は11に記載の研磨シートの製造方法。
【請求項13】
前記有機溶剤A群はアルコール系、ケトン系又はエステル系の有機溶剤を含み、前記有機溶剤B群は芳香族系の有機溶剤を含む、
請求項10ないし12のいずれかに記載の研磨シートの製造方法。
【請求項14】
前記塗布溶液が加熱される工程おいて、加熱温度は80℃ないし120℃の範囲にある、
請求項10ないし13のいずれかに記載の研磨シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−115957(P2012−115957A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269014(P2010−269014)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】