説明

研磨パッドおよびその製造方法

【課題】研磨面を介して内部に研磨粒子が進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを確保しつつ被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂で形成されたウレタンシート2を備えている。ウレタンシート2は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有している。ウレタンシート2では、研磨面Pに砥粒が通過可能な開孔が形成されておらず、研磨面Pを介してウレタンシート2の内部に、砥粒が進入不能に形成されている。ウレタンシート2では、ヒステリシスロス率が5〜40%の範囲に設定されている。研磨加工時に、研磨液中の砥粒によりウレタンシート2の研磨面Pが変形してもその変形が短時間で回復し、砥粒が移動しやすくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドおよびその製造方法に係り、特に、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えた研磨パッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造や液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)の表面(加工面)では、平坦性が求められるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスでは、半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、加工面を一層高度に平坦化する技術が重要となっている。一方、液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、加工面のより高度な平坦性が要求されている。
【0003】
加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、研磨加工における研磨精度や研磨効率等の研磨特性、換言すれば、研磨パッドに要求される性能も高まっている。一般に、研磨加工に用いられる研磨パッドでは、加工面を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えている。研磨加工時に供給される砥粒を含む研磨液(スラリ)を保持しつつ、研磨面と加工面との間に研磨液を略均等に放出するため、ポリウレタン樹脂シートが発泡構造を有しており、研削処理等により研磨面に開孔が形成されている。
【0004】
発泡構造を形成するために、例えば、樹脂製の外殻を有する中空球状微粒子を混合する技術(特許文献1〜特許文献5参照)、水を添加する技術(特許文献6参照)、不活性気体を混合する技術(特許文献7参照)、水溶性微粒子を混合する技術(特許文献8参照)が開示されている。ところが、研磨面に開孔が形成されていると、研磨加工時に供給される研磨液中の砥粒や研磨加工に伴う研磨屑によって開孔が目詰まりすることがある。これを避けるには研磨加工中にドレス処理を施す必要があるが、この場合には却って研磨効率を低下させることとなる。
【0005】
このような欠点を解消するために、開孔を形成しない、すなわち、発泡構造を有していない研磨パッドの技術が開示されている。例えば、160℃以上の融点を有するか、または、荷重4.6kg/cmにおける熱変形温度が150℃以上であって、ヤング率が0.5GPa未満であり、研磨面に複数本の溝を有する無気孔構造の高分子シートからなる研磨パッドの技術が開示されている(特許文献9参照)。また、熱硬化性樹脂からなり、荷重1.82MPaにおける熱変形温度が100℃以上であり、弾性率が1.5GPa以上であり、吸水率が0.2%未満である研磨パッドの技術が開示されている(特許文献10参照)。更に、合成樹脂製で無気孔構造の研磨パッドであって、シート状のパッド本体のショアD硬度が66.0〜78.5度、圧縮率が4%以下、圧縮回復率が50%以上の研磨パッドの技術が開示されている(特許文献11参照)。
【0006】
【特許文献1】特許3013105号公報
【特許文献2】特許3425894号公報
【特許文献3】特許3801998号公報
【特許文献4】特開2006−186394号公報
【特許文献5】特開2007−184638号公報
【特許文献6】特開2005−68168号公報
【特許文献7】特許3455208号公報
【特許文献8】特開2000−34416号公報
【特許文献9】特開平11−48128号公報
【特許文献10】特開2003−163190号公報
【特許文献11】特開2006−110665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献9、特許文献10、特許文献11の技術では、研磨パッドの弾性特性をヤング率や弾性率、圧縮率、圧縮回復率といった静的な応力と歪みとの比のみで定めるため、加工面に対する研磨傷(スクラッチ)の抑制と満足できる研磨レートとを同時に達成することが難しい、という問題がある。また、これらの技術では、いずれも、研磨加工時における研磨液の供給を均等化すると共に、研磨加工に伴う研磨屑の排出を促進することで研磨レートの向上を図るために、研磨面に溝が形成されているが、研磨面における溝の割合が大きくなると、却って研磨傷の遠因になることもある。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、研磨面を介して内部に研磨粒子が進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを確保しつつ被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記ポリウレタン樹脂シートは、前記研磨面を介してその内部に研磨粒子が進入不能であり、該ポリウレタン樹脂シートを一定厚さに重ねて厚さの変位量が75%となるまで一定速さで加圧したのち前記一定速さで除圧したときに、加圧時エネルギと除圧時エネルギとの差の前記加圧時エネルギに対する百分率で定義されるヒステリシスロス率が5%〜40%の範囲であることを特徴とする。
【0010】
第1の態様では、ポリウレタン樹脂シートのヒステリシスロス率を5%〜40%の範囲とすることで、研磨加工時に研磨面が研磨粒子で変形したときの回復性が大きくなるので、研磨粒子が、研磨面と被研磨物との相対移動による作用と、変形した研磨面が回復することによる作用とを受け研磨面に沿って移動しやすくなるため、研磨粒子が研磨面を介してその内部に進入不能でも研磨レートを確保しつつ被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0011】
第1の態様において、ポリウレタン樹脂シートのショアA硬度を5度〜50度の範囲とすることができる。ポリウレタン樹脂シートにカーボンブラックが含有されていれば、ポリポリウレタン樹脂に自己崩壊性を付与することができる。また、ポリウレタン樹脂シートの研磨面側に溝加工またはエンボス加工が施されていることが好ましい。ポリウレタン樹脂シートの厚さを0.1mm〜8.0mmの範囲とすることができる。ポリウレタン樹脂シートの研磨面と反対の面側に基材が更に貼り合わされていてもよい。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様の研磨パッドの製造方法であって、イソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物と、カーボンブラックと、をそれぞれ準備する準備ステップと、前記準備ステップで準備されたイソシアネート基含有化合物、ポリオール化合物およびカーボンブラックを略均一に混合した混合液を調製し、前記混合液から前記カーボンブラックが含有されたポリウレタン樹脂を乾式成形する成形ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリウレタン樹脂シートのヒステリシスロス率を5%〜40%の範囲とすることで、研磨加工時に研磨面が研磨粒子で変形したときの回復性が大きくなるので、研磨粒子が、研磨面と被研磨物との相対移動による作用と、変形した研磨面が回復することによる作用とを受け研磨面に沿って移動しやすくなるため、研磨粒子が研磨面を介してその内部に進入不能でも研磨レートを確保しつつ被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0015】
(研磨パッド)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂で形成されたポリウレタン樹脂シートとしてのウレタンシート2を備えている。ウレタンシート2は、一面側に被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有している。
【0016】
ウレタンシート2では、研磨面Pを介してウレタンシート2の内部に、研磨加工時に供給される研磨液(スラリ)に含まれる砥粒(研磨粒子)が進入不能に形成されている。すなわち、研磨面Pには砥粒が通過可能な開孔が形成されておらず、ウレタンシート2はいわゆる発泡構造を有していない。ウレタンシート2の製造時には、砥粒の粒径より小さい微小な気孔が形成されることもあるが、全体として、ウレタンシート2は無気孔(無発泡)構造を有している。
【0017】
ウレタンシート2を形成するポリウレタン樹脂では、イソシアネート基含有化合物が鎖伸長剤で鎖伸長されている。鎖伸長剤には、側鎖を有するポリオール化合物が用いられている。このようなウレタンシート2では、ウレタンシート2を一定厚さに重ねて厚さの変位量が75%となるまで一定速さで加圧したのち同じ一定速さで除圧したときに、加圧時エネルギと除圧時エネルギとの差の加圧時エネルギに対する百分率で定義されるヒステリシスロス率が5〜40%の範囲に設定されている。また、ウレタンシート2のショアA硬度は、5〜50度の範囲に設定されている。
【0018】
ここで、ヒステリシスロス率について説明する。ヒステリシスロス率の測定では、シート材を重ね合わせて一定の厚さ、サイズとした試験片を測定機の台上に載置し、加圧板で厚さの75%まで押し込んだ後、加圧板を戻し3〜5分放置する。加圧板で試験片に5Nの力を加えた時の厚さを読み取り、これを初めの厚さ(初期厚さ)とする。次に、加圧板を一定速さで初めの厚さの75%まで押し込んだ後(厚さの変位量が75%となる。)、同じ一定速さで加圧板を戻し、力−たわみ(変位量)曲線を記録する。図2に示すように、試験片を加圧板で押し込むとき(加圧時)は、試験片にかかる荷重が曲線aのように原点oからたわみ率が75%となる点bまで変化する。加圧板を戻すとき(除圧時)は、曲線cのように点bから点dまで変化する。すなわち、荷重がかからなくなっても、たわみ率は原点oに戻らず、形状が100%回復しないこととなる。この場合、加圧時エネルギは原点o−曲線a−点b−点eで囲まれる面積で表され、除圧時エネルギは点d−曲線c−点b−点eで囲まれる面積で表される。ヒステリシスロス率は、加圧時エネルギと除圧時エネルギとの差(原点o−曲線a−点b−曲線c−点dで囲まれる面積)の加圧時エネルギ(原点o−曲線a−点b−点eで囲まれる面積)に対する割合を百分率で表した数値である。ヒステリシスロス率が小さくなるほど、弾性が大きくなり、ゴム状の材質となる。ウレタンシート2では、ヒステリシスロス率が5〜40%の範囲のため、ゴム状の性質を有している。
【0019】
図1に示すように、ウレタンシート2の研磨面P側には、研磨加工に伴い生成する研磨屑を排出するための溝3が形成されている。溝3は、研磨面P側に格子状に形成されており、断面が矩形状に形成されている。また、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側には、ウレタンシート2の厚さを均一化するために表面研削処理が施されている。
【0020】
また、研磨パッド10は、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に、研磨機に装着するための両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の基材7aを有している。基材7aの両面には、アクリル系粘着剤等の粘着剤がそれぞれ塗着され粘着剤層(不図示)が形成されている。両面テープ7は、一面側の粘着剤層でウレタンシート2と貼り合わされており、他面側の粘着剤層が剥離紙7bで覆われている。両面テープ7の基材7aは、研磨パッド10全体の基材も兼ねている。
【0021】
(研磨パッドの製造)
研磨パッド10は、図3に示す各工程を経て製造される。すなわち、イソシアネート基含有化合物と、側鎖を有するポリオール化合物と、カーボンブラックとをそれぞれ準備する準備工程(準備ステップ)、イソシアネート基含有化合物、ポリオール化合物およびカーボンブラックを混合した混合液を調製する混合工程(成形ステップの一部)、混合液を型枠に注型する注型工程(成形ステップの一部)、型枠内でポリウレタン成形体を形成する硬化成型工程(成形ステップの一部)、ポリウレタン成形体に溝加工や表面研削処理を施してウレタンシート2を形成するシート形成工程、ウレタンシート2と両面テープ7とを貼り合わせるラミネート工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0022】
(準備工程)
準備工程では、イソシアネート基含有化合物と、側鎖を有するポリオール化合物と、カーボンブラックとをそれぞれ準備する。イソシアネート基含有化合物としては、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成したイソシアネート末端ウレタンプレポリマ(以下、単に、プレポリマと略記する。)が用いられている。このポリオール化合物と、ジイソシアネート化合物とを反応させるときに、イソシアネート基のモル量を水酸基のモル量より大きくすることで、プレポリマを得ることができる。また、使用するプレポリマは、粘度が高すぎると、流動性が悪くなり混合時に略均一に混合することが難しくなる。温度を上昇させて粘度を低くするとポットライフが短くなり(プレポリマの硬化反応が速くなり)、却って混合斑が生じてカーボンブラックの分散状態にバラツキが生じる。反対に粘度が低すぎると、ポリウレタン成形体の硬化成型に長時間を要することとなる。このため、プレポリマは、温度50〜80℃における粘度を500〜4000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。例えば、プレポリマの分子量(重合度)を変えることで粘度を設定することができる。プレポリマは、50〜80℃程度に加熱され流動可能な状態とされる。
【0023】
プレポリマの生成に用いられるジイソシアネート化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。また、これらのジイソシアネート化合物の2種以上を併用してもよい。
【0024】
一方、プレポリマの生成に用いられるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、および、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。また、これらのポリオール化合物の2種以上を併用してもよい。好ましくは、テトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体や、テトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体等といった、側鎖を有するポリエーテルポリオール化合物を挙げることができる。本例では、ポリオール化合物として、テトラヒドロフランと3−メチルテトラヒドロフランとの共重合体が用いられている。
【0025】
また、プレポリマと反応させるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、および、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。また、これらのポリオール化合物の2種以上を併用してもよい。好ましくは、3−メチル−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等といった、側鎖を有するポリエーテルジオール化合物を挙げることができる。本例では、ネオペンチルグリコールが用いられている。このポリオール化合物が側鎖を有するため、プレポリマとの反応で形成されるポリウレタン樹脂の主鎖中に分岐が形成される。このため、ポリウレタン樹脂の分子間力が制限されることから、ポリウレタン樹脂の粘性を低減し軟質化することができる。ポリオール化合物に代えてポリアミン化合物を用いた場合は、プレポリマとの反応で形成されるポリウレタン樹脂中にウレア結合が形成される。このウレア結合がウレタン結合と比べて水素結合を形成しやすいため、得られるポリウレタン樹脂の硬度が上昇する。これに対して、ポリオール化合物を用いた場合は、ウレア結合が形成されず、ウレタン結合のみとなるため、水素結合が減少してポリウレタン樹脂の硬度を低下させる。従って、水素結合が減少する分で、得られるポリウレタン成形体、ひいては、ウレタンシート2を軟質化することができる。
【0026】
準備するカーボンブラックは、炭素材であり、その分子量や形状等に制限されるものではなく、いかなるものを用いてもよい。このカーボンブラックを配合することで、得られるポリウレタン樹脂が軟質化しても若干の自己崩壊性を付与することができる。カーボンブラックの配合割合は、プレポリマの100重量部に対して、0.1〜2.0重量部の範囲に設定されている。
【0027】
(混合工程、注型工程、硬化成型工程)
図3に示すように、混合工程では、準備工程で準備したプレポリマ、側鎖を有するポリオール化合物およびカーボンブラックを混合し混合液を調製する。このとき、カーボンブラックは、混合液中での分散状態を均一化するため、予めポリオール化合物に略均一に混合、分散させておく。注型工程では混合工程で調製された混合液を型枠に注型し、硬化成型工程では型枠内でプレポリマとポリオール化合物とを反応、硬化させてポリウレタン成形体を成型する。本例では、混合工程、注型工程、硬化成型工程を連続して行う。
【0028】
混合工程において混合液を調製するときは混合機が用いられ、注型工程では調製された混合液が混合機から連続して型枠に注型され、硬化成型工程でポリウレタン成形体が成型される。混合機としては、例えば、攪拌翼が内蔵された混合槽と、混合槽の上流側に配置されプレポリマおよびポリオール化合物をそれぞれ収容した供給槽とを備えた混合機を用いることができる。各供給槽からの供給口は混合槽の上流端部に接続されており、攪拌翼は混合槽内の略中央部で上流側から下流側までにわたって配置された回転軸に固定されている。回転軸の回転に伴い攪拌翼が回転し、プレポリマ、ポリオール化合物およびカーボンブラックを剪断するようにして混合する。得られた混合液は混合槽の下流端部に形成された排出口から型枠に注型される。型枠は、上部が開放されており、大きさが、本例では、1050mm(長さ)×1050mm(幅)×50mm(厚さ)に設定されている。なお、プレポリマおよびポリオール化合物の多くがいずれも常温で固体または流動しにくい状態のため、それぞれの供給槽は各成分が流動可能となるように加温されている。また、プレポリマおよびポリオール化合物の配合割合は、得られるウレタンシート2のヒステリシスロス率およびショアA硬度を上述した範囲とするため、プレポリマの100重量部に対して、ポリオール化合物が1〜50重量部の範囲に設定されている。
【0029】
プレポリマおよびポリオール化合物がそれぞれの供給槽から混合槽に供給され、攪拌翼により混合される。混合機での混合条件、すなわち、攪拌翼の剪断速度、剪断回数を調整することで、各成分が略均一に混合されて混合液が調製される。混合機での混合時間(滞留時間)は、混合液の流量(最大1リットル/sec)にもよるが、およそ1秒程度である。すなわち、例えば、注型工程で100kg程度の混合液を型枠に注型するのに要する時間はおよそ1〜2分程度となる。
【0030】
注型工程で、型枠に混合液を注型するときは、混合機からの混合液を混合槽の排出口から排出し、例えばフレキシブルパイプを通じて、型枠の上方に配置された注液口に導液する。注液口は、型枠の長さ方向で対向する2辺間を往復移動し、断面三角状で型枠の幅方向の長さを有している。注液口を型枠の長さ方向に往復移動させながら、排出口の端部(フレキシブルパイプの端部)を型枠の幅方向に往復移動させることで、混合液が型枠に略均等に注型される。
【0031】
硬化成型工程では、注型された混合液を型枠内で反応硬化させブロック状のポリウレタン成形体を成型する。このとき、プレポリマがポリオール化合物との反応により架橋硬化する。型枠の上部が開放されているため、大気圧下で反応(架橋硬化)が進行しポリウレタン成形体が成型される。
【0032】
(シート形成工程)
図3に示すように、シート形成工程では、硬化成型工程で得られたポリウレタン成形体をシート状にスライスし、必要に応じてバフ等の表面研削処理を施してウレタンシート2を形成する。スライスには、一般的なスライス機を使用することができる。スライス時にはポリウレタン成形体の下層部分を保持し、上層部から順に所定厚さにスライスする。スライスする厚さは、本例では、1.3〜2.5mmの範囲に設定されている。本例で用いた厚さが50mmの型枠で成型したポリウレタン成形体では、例えば、ポリウレタン成形体の上層部および下層部の約10mm分をキズ等の関係から使用せず、中央部の約30mm分から10〜25枚のウレタンシート2を形成することができる。
【0033】
得られたウレタンシート2は、一面側に研磨液の供給や研磨屑の排出を促進するために溝加工を施し、他面側にウレタンシート2の厚さ精度を向上させるために研削処理を施す。この研削処理としては、スライス処理やバフ処理等を挙げることができる。バフ処理の場合は、ウレタンシート2の一面側に、表面が平坦な圧接ローラの表面を圧接しながら、ウレタンシート2の他面側がバフ処理される。バフ処理には一般的なバフ機を使用することができる。溝加工では、ウレタンシート2の一面側に溝3が形成される(図1参照)。溝3は、本例では、研磨面P側からみて格子状に形成され、断面形状が矩形状に形成されている。溝3の形成では、機械的な研削やレーザ照射等の手法を用いることができる。溝加工が施されたウレタンシート2の表面が研磨面Pとなる。
【0034】
(ラミネート工程)
ラミネート工程では、シート形成工程で形成されたウレタンシート2と両面テープ7とが貼り合わされる。このとき、両面テープ7の一面側の粘着剤層がウレタンシート2の研磨面Pと反対側の面と貼り合わされる。円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い研磨パッド10を完成させる。
【0035】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨パッド10を装着する。研磨定盤に研磨パッド10を装着するときは、剥離紙7bを取り除き、露出した粘着剤層で研磨定盤に貼着する。研磨定盤と対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨面P側へ押圧すると共に、外部からスラリを供給しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物(の加工面)が研磨加工される。なお、通常、研磨液の媒体としては水が使用されるが、アルコール等の有機溶剤を混合することも可能である。
【0036】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0037】
本実施形態では、研磨パッド10を構成するウレタンシート2のヒステリシスロス率が5〜40%の範囲に設定されている。このため、ウレタンシート2はゴム状の性質を有している。ヒステリシスロス率が小さな材料ほど大きな弾性を有しており、圧縮したのち、外力を取り除くと、短時間で元の形状に回復する。すなわち、ウレタンシート2は高回復性を有している。研磨パッド10を用いた研磨加工時には、供給される研磨液中の砥粒によりウレタンシート2の研磨面Pが変形しても速やかにその変形を回復しようとする。また、研磨加工時には、研磨定盤ないし保持定盤の回転により研磨面Pと被研磨物(の加工面)とが相対的に移動するため、研磨面Pと加工面との間に介在する砥粒には研磨面Pに沿う方向の力が作用する。これにより、砥粒には、研磨面Pと被研磨物との相対移動による作用と、変形した研磨面Pが元に戻ることによる作用とを受けることとなる。いずれの作用も研磨面Pに沿う方向のため、砥粒が移動しやすくなり、加工面の研磨加工を行うことができる。砥粒の移動性を確保し、研磨レートを確保しつつ加工面の平坦性向上を図ることを考慮すれば、ヒステリシスロス率を5〜30%の範囲とすることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、ウレタンシート2は発泡が形成されない無発泡構造を有している。このため、研磨面Pには開孔が形成されず、開孔ないし発泡を通じた研磨液の保持や研磨面Pおよび加工面間への放出が行われない。すなわち、砥粒は、研磨面Pを介してウレタンシート2の内部に進入不能である。このような無発泡構造のウレタンシート2では、上述したヒステリシスロス率を有することで砥粒の移動性が確保されるので、研磨加工時の研磨レートを確保しつつ加工面の平坦性を向上させることができる。また、研磨面Pに開孔が形成されないため、砥粒や研磨屑による目詰まりが生じることなく、長期間にわたり研磨加工を継続することができる。
【0039】
更に、本実施形態では、ウレタンシート2のショアA硬度が5〜50度の範囲に設定されている。一般的なポリウレタン発泡体のショアA硬度が50〜80度程度であることを考慮すれば、ウレタンシート2は低硬度、すなわち、極めて軟質なポリウレタン無発泡体である。このため、ウレタンシート2では、ヒステリシスロス率が上述した範囲に設定されることと合わせて低硬度であることから、研磨加工時に砥粒の移動性を確保することができる。これにより、砥粒が加工面全体にわたり移動するため、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0040】
また更に、本実施形態では、ウレタンシート2にカーボンブラックが配合されている。このため、ウレタンシート2には、若干の自己崩壊性が付与される。通常、高度に軟質化された材料では、研磨加工時の摩擦により引きちぎられかけて残された屑が研磨加工に悪影響を及ぼすことがあるが、ウレタンシート2では比較的速やかに引きちぎれてしまい、加工面から排出される。これにより、加工面に対する悪影響を抑制し、研磨性能を確保することができる。
【0041】
更にまた、本実施形態では、ウレタンシート2の研磨面P側に溝3が形成されている。このため、研磨加工時に、研磨液の供給や研磨加工に伴い生成する研磨屑の排出が促進されるため、加工面に対する研磨傷を抑制し研磨効率を向上させることができる。
【0042】
なお、本実施形態では、プレポリマとして、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリオール化合物に代えて水酸基やアミノ基等を有する活性水素化合物を用い、ジイソシアネート化合物に代えてポリイソシアネート化合物やその誘導体を用い、これらを反応させることで得るようにしてもよい。また、多種のイソシアネート末端プレポリマが市販されていることから、市販のものを使用することも可能である。
【0043】
また、本実施形態では、研磨パッド10の研磨面Pに格子状の溝3を形成する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、放射状、螺旋状等としてもよく、断面形状についても矩形状に限らず、U字状、V字状、半円状等としてもよい。また、溝のピッチ、幅、深さについても、研磨屑の排出やスラリの移動が可能であればよく、特に制限されるものではない。更に、溝加工に代えてエンボス加工を施すようにしてもよい。エンボス加工においても、形状、ピッチ、深さ等に制限のないことはもちろんである。
【0044】
更に、本実施形態では、ウレタンシート2の厚さのバラツキを解消するために、研磨面Pと反対の面側にバフ処理を施されたウレタンシート2を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、ウレタンシート2の厚さ精度を向上させるために両面にバフ処理を施すようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0046】
(実施例1)
実施例1では、ウレタンシート2の作製に、プレポリマとして2,4−トリレンジイソシアネートと、数平均分子量2000のテトラヒドロフランおよび3−メチルテトラヒドロフランの共重合体との反応生成物(NCO当量470)、ポリオール化合物としてネオペンチルグリコールを用いた。プレポリマとネオペンチルグリコールとを重量比400:44で混合した。カーボンブラックの配合割合は、プレポリマの100重量部に対して0.5重量部とした。ポリウレタン成形体の成型後、スライス処理し実施例1の研磨パッド10を製造した。
【0047】
(比較例1)
比較例1では、プレポリマとして2,4−トリレンジイソシアネートと、数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコールとの反応生成物(NCO当量470)、ポリオール化合物として直鎖状のポリテトラメチレングリコールを用い、カーボンブラックを配合しない以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。
【0048】
(物性測定)
各実施例および比較例の研磨パッドについて、ウレタンシート2のヒステリシスロス率およびショアA硬度を測定した。ヒステリシスロス率は、日本工業規格(JIS K 6400−2 軟質発泡材料−物性特性の求め方 第2部 硬さ及び圧縮たわみ 圧縮たわみB法)に基づき測定した。すなわち、ウレタンシート2を重ね合わせて50±2mmの厚みとし、380×380mmの試験片を切り出した。試験片を試験機の台上の中央に置き、加圧板で厚さの75%まで押し込んだ後、加圧板を戻し3〜5分放置する。加圧板で試験片に5Nの力を加えた時の厚さを0.1mmまで読み取り、これを初めの厚さとする。次に加圧版を100±20mm/分の速さで初めの厚さの75%まで押し込んだ後、同じ速さで加圧板を戻し、力−たわみ曲線を記録した(但し、加圧から減圧に移るときの保持時間は2秒以下とした。)。力−たわみ曲線から、原点o−曲線a−点b−点e−原点oで囲まれる面積に対する、原点o−曲線a−点b−曲線c−点dで囲まれる面積の割合を百分率で求めヒステリシスロス率とした(図2参照)。ショアA硬度は、日本工業規格(JIS K 7311)に準じた方法で測定した。ヒステリシスロス率およびショアA硬度の測定結果を下表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、直鎖状のポリオール化合物を用いた比較例1の研磨パッドのウレタンシートでは、ヒステリシスロス率が45%を示し、ショアA硬度が35度を示した。プレポリマと反応するポリオール化合物が直鎖状のため、ウレタンシート中での分子間力が大きくなりショアA硬度が若干大きくなることが判った。これに対して、側鎖を有するポリオール化合物を用いた実施例1の研磨パッド10では、ヒステリシスロス率が28%を示し、ショアA硬度が32度を示した。このことから、側鎖を有するポリオール化合物を用いることでヒステリシスロス率、ショアA硬度をともに小さくすることができることが判った。
【0051】
(研磨性能評価)
次に、各実施例及び比較例の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レートを測定した。研磨レートは、1分間当たりの研磨量を厚さで表したものであり、研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少から求めた研磨量、アルミニウム基板の研磨面積および比重から算出した。また、目視にてスクラッチの有無を判定した。研磨レートおよびスクラッチの測定結果を下表2に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:コロイダルシリカスラリ(pH:11.5)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
(外径95mmφ、内径25mm、厚さ1.27mm)
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、比較例1の研磨パッドでは、研磨レートが0.175μm/minを示し、研磨加工に長時間を要した。これは、軟質化したとはいえショアA硬度が高めであり、大きな反発弾性率を示したことから(表1も参照。)、砥粒の移動が不十分なため、スクラッチが生じやすくなり、研磨レートも低下したと考えられる。これに対して、実施例1の研磨パッド10では、研磨レートが0.190μm/minと向上することが判った。また、実施例1の研磨パッド10では、繰り返し研磨加工を行ったときでも同様の研磨性能の得られることが確認された。このことから、ヒステリシスロス率を小さくすることで無気孔構造のウレタンシート2でも砥粒の移動が確保されたため、研磨レートを向上させることができ、研磨効率および研磨精度を長時間維持できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は研磨面を介して内部に研磨粒子が進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを確保しつつ被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドおよびその製造方法を提供するため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】ウレタンシートのたわみ率と荷重との関係におけるヒステリシスを模式的に示す説明図である。
【図3】実施形態の研磨パッドの製造方法の要部を示す工程図である。
【符号の説明】
【0056】
P 研磨面
2 ウレタンシート(ポリウレタン樹脂シート)
3 溝
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記ポリウレタン樹脂シートは、前記研磨面を介してその内部に研磨粒子が進入不能であり、該ポリウレタン樹脂シートを一定厚さに重ねて厚さの変位量が75%となるまで一定速さで加圧したのち前記一定速さで除圧したときに、加圧時エネルギと除圧時エネルギとの差の前記加圧時エネルギに対する百分率で定義されるヒステリシスロス率が5%〜40%の範囲であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂シートは、ショアA硬度が5度〜50度の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂シートには、カーボンブラックが含有されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂シートは、前記研磨面側に溝加工またはエンボス加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂シートは、厚さが0.1mm〜8.0mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂シートの前記研磨面と反対の面側に基材が更に貼り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
請求項1に記載の研磨パッドの製造方法であって、
イソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物と、カーボンブラックと、をそれぞれ準備する準備ステップと、
前記準備ステップで準備されたイソシアネート基含有化合物、ポリオール化合物およびカーボンブラックを略均一に混合した混合液を調製し、前記混合液から前記カーボンブラックが含有されたポリウレタン樹脂を乾式成形する成形ステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−5747(P2010−5747A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168707(P2008−168707)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】