説明

研磨パッド

【課題】 取り扱いが容易で、高さ精度を出しやすく、しかも、研磨性能を向上することができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】 研磨パッド10のパッド基材11の下面側をプラテン固定部12とし、このプラテン固定部12を、プラテン20に当接する複数の凸状部14と、この凸状部14間の逃げ部15とから構成する。パッド基材11の下面周縁には、プラテン固定部12を囲んだ状態でプラテン20に当接し、逃げ部15内へのスラリーの侵入を防止する環状の突条部16を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハ等を化学機械研磨するために用いられる研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の研磨パッドには、例えば特許文献1に開示される研磨パッドがある。この研磨パッドは、プラテンに貼着される下地層と、この下地層の上面に張り合わされるパッド本体とからなる。下地層は弾性を有する合成樹脂の発泡体からなり、研磨パッドに作用する応力を緩和して半導体ウェハの被研磨面における面内均一性(平坦度)を向上させる。この研磨パッドでは、下地層よりも大径のパッド本体の下面に貼り付けられた両面テープと、下地層の下面に貼り付けられた両面テープとが下地層の周囲で下地層の外周部を封入するように互いに張り合わされている。これにより、下地層の外周部が密封されている。これは、研磨時においてスラリーが下地層の上面側又は下面側に侵入することを防止し、下地層の圧縮率等の物性が変化することを防止したり、また、下地層とパッド本体との間、下地層とプラテンとの間の剥がれを防止したりするためである。ところで、この研磨パッドは、下地層及びパッド本体と、2枚の両面テープとが積層されたものなので、部品点数が多く、プラテンへの貼付工数が多い。また、積層による厚さ誤差が出やすく、プラテンに貼り付けたときに研磨面の高さ精度が出にくい。さらに、パッド本体の外周部が下地層に支持されないので、パッド本体における研磨面の有効領域が狭くなる。
【0003】
一方、特許文献2に開示される研磨パッドは、上記のような問題を解消するものである。この研磨パッドは、ポリウレタン系発泡体からなるパッド本体における研磨面側と反対側に、前記下地層に代わる応力緩和領域が一体に形成されている。この応力緩和領域は、プラテン上面に当接する多数の応力調整部によって構成され、この応力調整部間には隙間(逃げ部)が形成されている。そして、パッド本体に作用する応力は、応力調整部の弾性変形によって緩和される。この研磨パッドは、1枚の両面テープのみでプラテンに貼り付けられるので、部品点数が少なく、プラテンへの貼付工数が少なくなる。また、プラテンに貼り付けたときに、研磨面の高さ精度が出やすい。
【特許文献1】特開2002−36097号公報
【特許文献2】特開2004−42189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2の研磨パッドでは、研磨時にスラリーが応力緩和領域の隙間内に侵入し、応力調整部の正常な動作を損なう可能性があった。このため、研磨パッドに作用する応力が十分に緩和されず、半導体ウェハの面内均一性が低下する可能性があった。さらに、応力調整部と両面テープとの接着力がスラリーによって弱められ、応力調節部が部分的に両面テープから剥がれるため、ウェハの面内均一性が低下する可能性があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、プラテンへの貼付工数が少ない上、高さ精度を出しやすく、しかも、研磨性能を向上することができる研磨パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、パッド基材の上面を研磨面とし、同パッド基材の下面側をプラテン固定部とし、同プラテン固定部を、プラテンに当接する複数の凸状部と、この複数の凸状部間の逃げ部とによって構成した研磨パッドにおいて、前記パッド基材の下面周縁に、前記プラテン固定部を囲んだ状態で前記プラテンに当接し、前記逃げ部内へのスラリーの侵入を防止する環状の突条部を設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記突条部は0.3〜1.2mmの幅に形成されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記凸状部は、碁盤割り状に形成されたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記パッド基材は、ポリウレタン系樹脂の発泡体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パッド基材の下面周縁に設けられた突条部により、プラテン固定部の逃げ部内へのスラリーの侵入が防止されるので、プラテン固定部における緩衝性能がスラリーによって損なわれず、緩衝性能の低下に起因する被研磨体の面内均一性の悪化が防止される。また、プラテン固定部がプラテンとの間の両面テープから剥がれにくいので、剥がれに起因する被研磨体の面内均一性の悪化が防止される。従って、単一部材からなり、プラテンへの貼付工数が少ない上、研磨面の高さ精度を出しやすい研磨パッドにおいて、半導体ウェハ等の被研磨体における被研磨面の面内均一性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3に従って説明する。
図1(a),(b),(c)及び図2(a),(b),(c)に示すように、研磨パッド10は、RIM(Reaction Injection Molding)成形されたポリウレタン系発泡体からなるパッド基材11を備えている。パッド基材11の上面は研磨面11aとなっており、下面側がプラテン固定部12とされている。
【0011】
パッド基材11の研磨面11aには、パッド基材11の中心軸を中心とする同心状の複数の環状溝13が形成されている。各環状溝13は、研磨時に研磨パッド10の研磨面11a上に供給されるスラリーを保持するために設けられている。研磨パッド10は、例えば直径508mm、厚さ2.54mmに形成され、環状溝13は、例えば幅0.2mm、深さ0.6mm、ピッチ1.5mmで形成されている。
【0012】
前記プラテン固定部12は、パッド基材11の周縁部を除く全体に碁盤割り状に形成された複数の凸状部14と、この複数の凸状部14間の逃げ部としての逃げ溝15とによって構成されている。各凸状部14は、後述するプラテン20の上面に当接可能となっている。そして、各凸状部14は、研磨時に研磨面11aに対して加えられる荷重に対して弾性変形することで、パッド基材11に作用する応力を緩和するようになっている。なお、各凸状部14は、成形後のパッド基材11の平坦な下面に、カッターで逃げ溝15を直線状に切削することによって形成されている。
【0013】
また、パッド基材11の下面周縁には、前記プラテン固定部12を囲んだ状態で各凸状部14とともにプラテン20の上面に当接する環状の突条部16が設けられている。突条部16は、0.3〜1.2mmの範囲の等幅に形成されている。そして、この突条部16は、研磨時において凸状部14の周囲を囲む周壁となり、各逃げ溝15へのスラリーの侵入を防止するようになっている。
【0014】
以上のように構成された研磨パッド10は、図3に示すように、プラテン(研磨定盤)20の上面に対し両面テープ21によって貼り付けられる。すなわち、研磨パッド10は、プラテン20上面と、各凸状部14及び突条部16との間に介在する両面テープ21を介してプラテン20に貼着される。プラテン20の上方には、研磨パッド10の研磨面11aに対向するように加圧ヘッド22が設置され、この加圧ヘッド22の下面に半導体ウェハ23が保持されている。そして、プラテン20及び加圧ヘッド22はそれぞれ回転駆動され、加圧ヘッド22により研磨パッド10の研磨面11aに対しウェハ23が所定の圧力で押し付けられる。研磨パッド10の研磨面11a上には、スラリー供給装置24からスラリーが供給される。なお、スラリーは、分散液中に砥粒が分散されたものである。そして、ウェハ23の下面が、研磨パッド10の研磨面11aと同下面の間に介在するスラリーの砥粒によって研磨される。
【0015】
この場合、本実施形態によれば、パッド基材11の下面周縁に設けられた環状の突条部16により、研磨時におけるプラテン固定部12の逃げ溝15へのスラリーの侵入が防止される。このため、プラテン固定部12における緩衝性能がスラリーによって損なわれず、緩衝性能の低下に起因するウェハ23の被研磨面における面内均一性の悪化が防止される。また、プラテン固定部12がプラテン20との間の両面テープ21から剥がれず、剥がれに起因する面内均一性の悪化が防止される。従って、単一部材からなり、プラテン20への貼付工数が少ない上、研磨面11aの高さ精度を出しやすい研磨パッド10において、半導体ウェハ23等の被研磨面における面内均一性を向上することができる。また、パッド基材11の下面を直線状に切削することによって逃げ溝15を形成し、碁盤割り状の凸状部14を形成したので、プラテン固定部12を加工を容易に行うことができる。さらに、パッド基材11をポリウレタン系発泡体としたので、射出成形が容易である。これは、ポリウレタン系発泡体の原料が低粘度の液状であるため、射出成形時のプレス圧力が低く、樹脂溶融エネルギーが不要であることによる。また、他の樹脂に比較して、硬度調整、物性調整が容易で、スラリー保持のためのセルを容易に形成することができる。
【実施例】
【0016】
次に、以上のように構成された研磨パッド10を用いて半導体ウェハ23の研磨を行った実施例について説明する。
試験条件
a.研磨機 : ラップマスター社製 片面ラッピング試験機LM−15
b.ドレス条件 : ダイヤモンドドレッサーリング♯100(自重4kg)
研磨パッド回転数45rpm
純水流量40ml/min
ドレス時間30分
研磨条件 : 研磨パッド回転数45rpm
スラリー流量40ml/min
研磨時間2分間。
【0017】
c.ウェハ23 : 直径3inch
d.ウェハ加圧荷重 : 120g/cm2
e.試験形態 : この試験では上記のような加圧ヘッド22を用いない。代わりに、プラテン20に貼り付けた研磨パッド10の研磨面11a上における所定位置にリテーナリングを保持し、バッキングクロスを介してウェハ23を保持させたウェイトをリテーナリング内に載置する。そして、このリテーナリングを外部から回転駆動することによってウェイトを回転させるとともに、プラテン20の回転によってもウェイトを回転させる。なお、リテーナリングは、回転数48rpmで回転駆動される。
【0018】
f.研磨パッド仕様 :
直径 : 381mm
厚さ : 2.54mm
環状溝13 ピッチ : 1.5mm
溝幅 : 0.2mm
溝深さ : 0.6mm
逃げ溝15 ピッチ : 3.0mm
幅 : 1.0mm
深さ : 1.27mm
突条部16 幅 : 0, 0.2, 0.3, 0.5, 1.0, 1.2, 1.3, 10.0mm
材質・製法 : ポリウレタン系樹脂をRIM成形した発泡体
g.評価項目 : 1.プラテン固定部12の逃げ溝15内へのスラリーの侵入の有無
2.ウェハ23の被研磨面における面内均一性(%)※
※ (ウェハ膜厚最大値−ウェハ膜厚最小値)/(2×ウェハ膜厚平均値)×100
h.試験結果
【0019】
【表1】

上記表1の試験結果から、次のような結論が得られる。
【0020】
突条部16の幅が、0.3〜1.2mmの範囲内であれば、プラテン固定部12の逃げ溝15内へのスラリーの侵入を防止することができ、かつ、面内均一性がウェハ23に対する要求値である約6%以下となる。これに対し、突条部16の幅が1.3mm以上であると、逃げ溝15内へのスラリーの侵入を防止できるものの、面内均一性が悪化する傾向がある。これは、突条部16の幅が大きいほど、研磨パッド10の外周部におけるプラテン固定部12の応力緩衝作用が悪化するためであると考えられる。一方、幅が0.3mm未満の場合には、逃げ溝15内へのスラリーの侵入を防止できない。
【0021】
(変形例)
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することもできる。
・ パッド基材11を、ポリウレア樹脂、ナイロン樹脂、シクロペンタジエン樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂を用いてRIM成形する。
【0022】
・ プラテン固定部12を、パッド基材11の中心軸を中心とする同心状の複数の環状凸状部と、この環状凸状部間の環状溝とから構成する。
・ パッド基材11の研磨面11aに、環状溝13に代えて、碁盤格子状の溝、放射状の溝、螺旋状の溝等を設けた構成とする。
【0023】
・ パッド基材11の下面をカッターにより3方向から直線状に逃げ溝を切削することにより、三角形の凸状部14を形成する。
・ 図4(a),(b)に示すように、突条部16の下面に、プラテン固定部12を囲む環状の溝30を設けた構成とする。この場合、突条部16の下面を通過してプラテン固定部12側に侵入しようとするスラリーが溝30に溜まり、プラテン固定部12側への侵入が抑制される。この場合には、プラテン固定部12側へのスラリーの侵入がより効果的に抑制される。
【0024】
・ 図5(a),(b)に示すように、突条部16の下面に、プラテン固定部12を囲む環状の溝31を複数設けた構成とする。この場合には、プラテン固定部12側へのスラリーの侵入がより効果的に抑制される。
【0025】
以下、前記各実施形態から把握される技術的思想を記載する。
(1) 請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の研磨パッドにおいて、前記突条部の下面には、同プラテン固定部を囲むように形成され、突条部の下面を通過しての逃げ部内へのスラリーの侵入を抑制する環状の溝(30,31)を設けたことを特徴とする研磨パッド。
【0026】
(2) 請求項1又は請求項2に記載の研磨パッドにおいて、前記逃げ部は、前記パッド基材の下面を直線状に切削することによって形成されていることを特徴とする研磨パッド。このような構成によれば、プラテン固定部の加工を容易に行うことができる。
【0027】
(3) 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の研磨パッドにおいて、前記パッド基材は、合成樹脂の発泡体からなることを特徴とする研磨パッド。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は一実施形態の研磨パッドを示す平面図、(b)は同じく側面図、(c)は同じく底面図。
【図2】(a)は研磨パッドの研磨面を示す拡大図、(b)は縦断面図、(c)はプラテン固定部及び突条部を示す研磨パッドの底面図。
【図3】研磨パッドを装着した研磨機を示す斜視図。
【図4】(a)は研磨パッドの縦断面図、(b)は同じく底面図。
【図5】(a)は研磨パッドの縦断面図、(b)は同じく底面図。
【符号の説明】
【0029】
10…研磨パッド、11…パッド機材、11a…研磨面、12…プラテン固定部、14…凸状部、15…逃げ部としての逃げ溝、16…突条部、20…プラテン、30…溝、31…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド基材の上面を研磨面とし、同パッド基材の下面側をプラテン固定部とし、同プラテン固定部を、プラテンに当接する複数の凸状部と、この複数の凸状部間の逃げ部とによって構成した研磨パッドにおいて、
前記パッド基材の下面周縁に、前記プラテン固定部を囲んだ状態で前記プラテンに当接し、前記逃げ部内へのスラリーの侵入を防止する環状の突条部を設けたことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記突条部は0.3〜1.2mmの幅に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記凸状部は、碁盤割り状に形成されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記パッド基材は、ポリウレタン系樹脂の発泡体からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−68869(P2006−68869A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257516(P2004−257516)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】