説明

研磨方法

【課題】スクラッチや傷、うねりを大幅に低減して均一性の高い研磨を可能とすると共に、高速研磨を可能とする研磨方法を提供する。
【解決手段】滑らかな表面を有する回転定盤111と、回転定盤111の表面と対向配置されると共に回転定盤111の表面を介して被加工物Mに押圧力を加える重鎮112とを備えた研磨装置100を用意する。続いて、回転定盤111と重鎮112との間に被加工物Mを載置すると共に被加工物Mに押圧力を加えたのち、回転定盤111および重鎮112の少なくとも一方を回転定盤111および重鎮112の対向方向と直交する方向に変位させる。次に、基材11と、1または複数種類の無機材料からなり、少なくとも基材11の表面に担持された砥粒12とを有する複合粒子2を分散媒3中に分散させた研磨液1を被加工物Mと回転定盤111との間に供給し、被加工物Mの回転定盤111側の表面を研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を機械的に平滑化する研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大口径化の進む半導体基板や、高記録密度化の進む磁気ディスク基板などでは、形状精度にムラがなく、かつダメージフリーの平滑化技術が今まで以上に要求されるようになってきた。一般に平滑化工程は4つの工程からなり、具体的には、粗ラッピング、仕上げラッピング、粗ポリッシングおよび仕上げポリッシングからなる。
【0003】
例えば、仕上げポリッシングでは、定盤の上に置いた研磨パッドと、被加工物とをそれぞれ回転駆動させ、pH調整された分散媒中にシリカ、アルミナ、セリア等の砥粒を分散してなる研磨液(スラリー)を研磨パッド上に供給しながら、被加工物を研磨する遊離砥粒研磨が行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−300843号公報
【特許文献2】特開2003−89055号公報
【特許文献3】特開2003−277728号公報
【特許文献4】特開2003−277730号公報
【特許文献5】特開2003−277733号公報
【特許文献6】特開2003−282498号公報
【特許文献7】特開2003−321672号公報
【特許文献8】特開2004−75827号公報
【特許文献9】特開2005−97445号公報
【特許文献10】特開2005−187488号公報
【特許文献11】特開2005−254360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら従来の砥粒では、硬度が高く、分散性が悪いので、凝集すると被加工物にスクラッチや傷が発生することがあった。そこで、分散媒に合成界面活性剤を添加し、砥粒を分散媒中に強引に分散させることも可能であるが、合成界面活性剤は人体に有害な物質であり、環境にも悪影響を及ぼすので、それをできるだけ使用しない方が好ましい。また、上記したように、砥粒は硬いので、定盤のひずみやうねりが直接、被加工物に悪影響を及ぼす虞がある。
【0006】
また、仕上げポリッシングでは、鏡面を実現するために不織布、発泡体などの弾性のある研磨布が研磨パッドとして使用されている。しかし、不織布では密度にムラがあり、それが被加工物に微小うねりを生じさせることが指摘されている。そのため、最近では発泡体の使用が増加している。
【0007】
最近では、形状精度の高い加工が要求されるようになり、上記の例よりも硬質の研磨布が好まれるようになってきているが、硬質の研磨布を使用すると、粗さが出にくい、スクラッチが発生しやすいなどの問題があり、硬質樹脂層と軟質樹脂層を重ね合わせた二層研磨布などが提案されている。ところが、この二層研磨布では、研磨時間とともにその表面の凹凸が少なくなり、また切り屑や砥粒が堆積して研磨能率を低下させる現象がある。このため、コンディショニングと称してダイヤモンド砥石でその表面を削り直す作業が行われている。これは研磨布の寿命を短くし、またダイヤモンド砥石からの砥粒の脱落がスクラッチを生じさせるなど問題視されている。
【0008】
また、特許文献1〜11に記載されているように、合成系の有機高分子からなるポリマー粒子を砥粒と共に分散媒にそれぞれ混合し、ポリマー粒子を弾性体として使用する方法がある。ここで、ポリマー粒子はもろくて割れ易いもの、またはスクラッチはできないが被加工物をほとんど研磨できないものであるが、ポリマー粒子が以下に示した材料によって構成されている場合には、研磨の際にその表面に砥粒が付着して、これがミクロな研磨布として作用し、研磨が行えることがわかっている。
【0009】
ここで、表面に砥粒が付着しうる合成系の有機高分子は、ポリウレタン、ナイロン、ポリイミド、ポリエステル、カーボン、アクリル、ガラス、メソカーボン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、架橋ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS 樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタール樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンなどである。
【0010】
しかし、合成系の有機高分子は環境に悪影響を及ぼし得るので、このような材料もできるだけ使用しない方が好ましい。また、合成系の有機高分子は疎水性を有している場合が多い。そのため、水系の分散媒を用いた場合には、分散媒中で均一に分散しにくく、凝集してしまうこともあり、その結果、被加工物にスクラッチや傷が発生することがあった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スクラッチや傷、うねりを大幅に低減して均一性の高い研磨を可能とすると共に、高速研磨を可能とする研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の研磨方法は、以下の(A1)〜(A3)の各工程を含むものである。
(A1)滑らかな表面を有する定盤と、定盤の表面と対向配置されると共に定盤の表面を介して被加工物に押圧力を加える重鎮とを備えた研磨装置を用意する工程
(A2)定盤と重鎮との間に被加工物を載置すると共に被加工物に押圧力を加えたのち、定盤および重鎮の少なくとも一方を定盤および重鎮の対向方向と直交する方向に変位させる工程
(A3)基材と、1または複数種類の無機材料からなり、少なくとも基材の表面に担持された砥粒とを有する複合粒子を分散媒中に分散させた研磨液を被加工物と定盤との間に供給し、被加工物の定盤側の表面を研磨する工程
【0013】
本発明の第1の研磨方法では、基材に担持された砥粒を、基材を介して被加工物に押し付けながら、被加工物が研磨される。
【0014】
ここで、基材は多糖類により構成されていることが好ましい。このとき、多糖類がその誘導体の酸化還元電位の極性がマイナスとなる高分子であり、砥粒がpH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mV以下となる材料からなる場合には、砥粒を基材の表面に主に担持させることが可能である。また、多糖類がその誘導体の酸化還元電位の極性がマイナスとなる高分子であり、砥粒がpH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mVより大きくなる材料、またはpH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がプラスとなる材料により構成されている場合には、砥粒を基材の表面に担持させると共に内部に内包させることが可能である。
【0015】
なお、酸化還元電位とは、当該液状物質が他の液状物質をどの程度酸化または還元することができるかを表す指標であって、当該液状物自体がどれだけの電荷を持っているかを表す指標でもある。また、ゼータ電位とは、粒子表面がどれだけの電荷を持っているかを表す指標であるが、ゼータ電位は粒子を分散させている液状物質のpH(ペーハ)によって変動するので、本発明では液状物質のpHを13としたときの値で表されている。従って、本発明は、砥粒が常にpH13の液状物質に分散されることを前提としたものではない。
【0016】
本発明の第2の研磨方法は、以下の(B1)〜(B3)の各工程を含むものである。
(A1)滑らかな表面を有する定盤と、定盤の表面と対向配置されると共に定盤の表面を介して被加工物に押圧力を加える重鎮とを備えた研磨装置を用意する工程
(A2)定盤と重鎮との間に被加工物を載置すると共に被加工物に押圧力を加えたのち、定盤および重鎮の少なくとも一方を定盤および重鎮の対向方向と直交する方向に変位させる工程
(A3)1または複数種類の無機材料からなる砥粒と、多糖類からなる基材とを分散媒中にそれぞれ分散させた研磨液を被加工物と定盤との間に供給し、被加工物の定盤側の表面を研磨する工程
【0017】
本発明の第2の研磨方法では、分散媒中に分散された砥粒を、分散媒中に分散された基材を介して被加工物に押し付けながら、被加工物が研磨される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の研磨方法によれば、基材に担持された砥粒を、基材を介して被加工物に押し付けながら、被加工物を研磨するようにしたので、単に砥粒を分散媒中に分散させた従来の研磨液を用いた場合と比べて、担持された砥粒を効率よく被加工物に接触させることができる。つまり、基材がいわば微小研磨布として作用するので、研磨液に含まれる砥粒が少なくても、また研磨布がなくても高速研磨が可能である。また、複合粒子が被加工物と定盤との間のスペーサとしても働くので、上記した従来の研磨液を用いた場合と比べて研磨抵抗が低くなり、切り屑の排出が容易となる。これにより、定盤にひずみやうねりがある場合や、砥粒の硬度が高い場合であっても、複合粒子の転がり効果により、それらの影響をほとんど受けなくなる。その結果、スクラッチや傷、うねりが大幅に低減され、均一性の高い研磨が可能である。
【0019】
ここで、基材を多糖類により構成した場合には、被加工物を研磨する際に、砥粒の被加工物に対する研磨圧が基材によって緩和される。これにより、上記した影響をほとんど無視することができるので、より均一性の高い研磨が可能である。また、多糖類は合成系の有機高分子とは異なり、環境に極めて優しい。また、多糖類は親水性を有しているので、水系の分散媒を用いた場合には、複合粒子が分散媒中で均一に分散しやすく、凝集しにくい。これにより、スクラッチや傷、うねりが大幅に低減され、より均一性の高い研磨が可能である。
【0020】
また、砥粒を基材の表面に主に担持させた場合には、複合粒子による被加工物の研磨速度を上げることができ、砥粒を基材の内部に主に内包させた場合には、複合粒子による被加工物の研磨精度を上げることができる。すなわち、砥粒の基材への分布のさせ方を調整することにより、研磨速度と研磨精度とのバランスを自由に調整することができる。
【0021】
また、基材の径を1としたときの砥粒の大きさを例えば1/4000以上1/2以下の範囲内で適宜調整した場合には、第1の研磨方法を平滑化工程における各工程に適用することが可能である。
【0022】
本発明の第2の研磨方法によれば、分散媒中に分散された砥粒を、分散媒中に分散された基材を介して被加工物に押し付けながら、被加工物を研磨するようにしたので、単に砥粒を分散媒中に分散させた従来の研磨液を用いた場合と比べて、砥粒が効率よく被加工物に接触する。つまり、基材がいわば微小研磨布として作用するので、研磨液に含まれる砥粒が少なくても、また研磨布がなくても高速研磨が可能である。また、複合粒子が被加工物と定盤または研磨布との間のスペーサとしても働くので、上記した従来の研磨液を用いた場合と比べて研磨抵抗が低くなり、切り屑の排出が容易となり、さらに、定盤にひずみやうねりがある場合や、砥粒の硬度が高い場合であっても、それらの影響をほとんど受けなくなる。加えて、基材は多糖類により構成されているので、環境に極めて優しい。また、多糖類は親水性を有しており、水系の分散媒を用いた場合には、基材が分散媒中で均一に分散しやすく、凝集する虞がない。これにより、スクラッチや傷、うねりが大幅に低減され、均一性の高い研磨が可能である。
【0023】
ここで、基材の径を1としたときの砥粒の大きさを例えば1/4000以上1/2以下の範囲内で適宜調整した場合には、本発明の第2の研磨液を平滑化工程における各工程に適用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態に係る研磨方法に用いられる研磨液1を容器に入れた状態を表したものである。この研磨液1は、複合粒子2を、例えば水系の材料からなる分散媒3中に分散させたものである。
【0026】
図2は、複合粒子2を、一部を切り欠いて表したものである。図3は、複合粒子1の表面およびその近傍の断面構成を拡大して表したものである。この複合粒子1は基材11および砥粒12からなり、基材11の表面全体に砥粒12が担持された構造を有している。つまり、この複合粒子2は、基材11をコアとして砥粒12がその表面全体を覆う殻(シェル)となったシェル−コア型構造となっている。
【0027】
基材11は、球形状を有する多糖類からなる。ここで、多糖類とは、その誘導体の酸化還元電位の極性がマイナスとなる天然系の有機高分子、例えば、セルロース系、プルラン系、キトサン系、デンプン系、アルギン系、セルロース系の異性体などを指す。この多糖類は合成系の有機高分子とは異なり、環境に極めて優しい。また、多糖類は合成系の有機高分子の多くとは異なり、親水性を有している。そのため、分散媒3として水系の材料を用いた場合には、複合粒子2が分散媒3中で均一に分散しやすく、凝集しにくい。なお、基材11が例えば20nm〜100nmの細孔を有する多孔質の材料により構成されていてもよい。
【0028】
この基材11は、後述するように、不溶性の多糖類を、酸化還元電位の極性がマイナスとなる溶解性の多糖類誘導体11Aに一旦変化させたのち、その多糖類誘導体11Aに対して固定化処理を施して、この多糖類誘導体11Aを再び多糖類に戻すことにより形成されたものである。従って、この基材11は、再生多糖類からなるともいえる。
【0029】
砥粒12は、1または複数種類の無機材料からなる。ここでの無機材料とは、分散媒14(後述)中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mV以下となる材料、例えば、ダイヤモンド系、アルミナ系、炭化ケイ素系、ジルコニア系、セリア系またはシリカ系の材料を指す。
【0030】
なお、ゼータ電位は、砥粒12を分散させている液状物質のpH(ペーハ)によって変動するので、液状物質のpHを13としたときの値で表されている。従って、本実施の形態は、砥粒12を常にpH13の液状物質に分散することを前提とするものではない。また、ゼータ電位は、砥粒12の形状および大きさなどによっても変化するので、上で挙げた材料を用いればゼータ電位が必ず上記した範囲内のプロファイルになるとは限らず、後の実施の形態のように、これとは異なる範囲内のプロファイルとなることもある。ゼータ電位は、例えば、レーザードップラー(Laser Doppler)方式を用いて測定することが可能である。
【0031】
この砥粒12の径は、一般に、5nmから15μm程度であり、平滑化工程の各々の工程(粗ラッピング、仕上げラッピング、粗ポリッシングまたは仕上げポリッシング)に適した大きさとすることが好ましい。また、砥粒12の径は、以下の製造方法を用いた場合には、基材11の径を1とすると、1/4000以上1/2以下であることが好ましく、1/1500以上1/4以下であることがより好ましい。砥粒12の径を1/4000以上1/2以下とすることにより複合粒子2の形状を比較的安定して球形状にすることができ、砥粒12の径を1/1500以上1/4以下とすることにより複合粒子2の形状を安定して球形状にすることができる。また、砥粒12の径を1/2以下とすることにより基材11から砥粒12が脱落するのを抑制することができる。なお、砥粒12は、基材11に担持させることが可能であればどのような形状であってもよい。
【0032】
分散媒3は、酸化還元電位の極性がマイナスとなるアルカリ性の溶液、例えば、カルボン酸を有する高分子の金属塩水溶液からなる。このような金属塩水溶液としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液がある。この分散媒3の粘土は、例えば、5〜10000CPSであり、後述の製造過程において、多糖類誘導体11Aをどのくらいの大きさにするかによって適切な値に調整することが好ましい。
【0033】
次に、図4〜図5を参照して、本実施の形態の研磨液1の製造方法について説明する。
【0034】
まず、基材11の前駆体である多糖類誘導体11Aを製造する(ステップS1)。ここで、多糖類誘導体11Aは、砥粒12と混合する際に用いる溶媒(以下の例では水)に対して溶解しやすい性質(溶解性)を有しており、酸化還元電位の極性がマイナスとなる性質を有している。
【0035】
例えば、出発原料として不溶性のセルロースを、溶媒として水をそれぞれ用いた場合には、例えば、(1)セルロースをキサントゲン酸アルカリ金属塩水溶液に溶解させたり、(2)セルロースをロダン金属塩水溶液に溶解させたり、(3)アンモニアおよび銅の双方を錯体としてセルロースに配位結合させることにより、多糖類誘導体11Aとして溶解性のセルロース誘導体(ビスコース)を製造することができる。このとき、多糖類誘導体11Aが溶解されている溶媒に砥粒12を混合した際に、砥粒12のゼータ電位は上記した範囲内となるので、多糖類誘導体11Aに砥粒12を混合することが可能であるが、砥粒12を溶媒に直接混合せずに、砥粒12を分散媒3に混合することも可能である。
【0036】
なお、以下では、多糖類誘導体11Aに砥粒12を混合した場合について説明するが、砥粒12を溶媒に混合した場合に、砥粒のゼータ電位が上記の範囲内とならないときには、砥粒12を溶媒に直接混合せずに、砥粒12を分散媒3に混合することが好ましい。
【0037】
次に、溶媒に溶解した多糖類誘導体11Aに砥粒12を混合して予備混合液13を作る(ステップS2)。ここで、多糖類誘導体11Aに混合する砥粒12の量は、1重量%の多糖類誘導体11Aに対して最大で0.1以上5.0以下の重量%であることが好ましい。砥粒12の混合量が0.1重量%に満たない場合には、後の工程において多糖類誘導体11Aの表面を砥粒12で十分に覆うことができなくなり、複合粒子2の加工能力が低下してしまうからであり、他方、砥粒12の混合量が5.0重量%を超える場合には、砥粒12を多糖類誘導体11A中で分散しにくくなり、多糖類誘導体11Aと混合させることが容易でなくなるからである。なお、砥粒12の混合量を1.0重量%未満とした場合には、複合粒子2を容易に球形状にすることができる。また、砥粒12の混合量を最大で0.1以上5.0以下の重量%とした場合にも、後の工程において基材11の表面に砥粒12を担持させることはもちろん可能である。
【0038】
ところで、多糖類誘導体11Aに複数種類の砥粒12を混合する場合には、例えば、メカニカルアロイング法に準じた混合法や、スタンプミルによる混合法を用いて、個々の砥粒12を互いに混合して均質に分散させた混合物を多糖類誘導体11Aに混合することが好ましい。これにより、各種の砥粒12が多糖類誘導体11A中に均一に分散するので、後の工程で各種の砥粒12を多糖類誘導体11Aの表面に均質に分散させることが可能となり、複合粒子2の表面の部位によらず均質な加工能力を発現させることができる。なお、このような事前の混合を行わずに複数種類の砥粒12を多糖類誘導体11Aに直接混合した場合には、各種の砥粒12が多糖類誘導体11A中で相分離しやすく、後の工程で各種の砥粒12が複合粒子2の表面に不均一に集まる虞があるので、良好な加工能力を得ることが容易でない。
【0039】
次に、その予備混合液13を分散媒14に滴下して混合液15を作る(ステップS3)。ここで、分散媒14は、酸化還元電位の極性がマイナスとなるアルカリ性の溶液、例えば、カルボン酸を有する高分子の金属塩水溶液からなる。このような金属塩水溶液としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム水溶液がある。この分散媒14の粘土は、例えば、5〜10000CPSであり、多糖類誘導体11Aをどのくらいの大きさにするかによって適切な値に調整することが好ましい。
【0040】
このとき、例えば、図5に示したようなスリーワンモータなどのホモジナイザHを用いて分散媒14をかき混ぜて、多糖類誘導体11Aを混合液15中において微小化する。なお、多糖類誘導体11Aの大きさは、かき混ぜることによって生じる分散媒14の流速の大きさや、分散媒3の粘土の大きさによって制御される。
【0041】
ここで、多糖類誘導体11Aおよび分散媒14は共に、酸化還元電位の極性がマイナスとなる性質を有しており、砥粒12は、上記したように、分散媒14中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mV以下となるので、多糖類誘導体11Aは、凝集力および分散媒14による電荷的反発力によって球状化し、他方、砥粒12は、多糖類誘導体11Aおよび分散媒14の双方による電荷的反発力により、多糖類誘導体11Aと分散媒14との界面、すなわち、多糖類誘導体11Aの表面に偏在するようになる。
【0042】
なお、砥粒12が、分散媒14中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値もマイナスとなる場合には、多糖類誘導体11Aおよび分散媒14の双方による電荷的反発力が砥粒12に対して強く働く。また、多糖類誘導体11Aおよび分散媒14の酸化還元電位が大きい場合にも、これらの双方による電荷的反発力が砥粒12に対して強く働く。従って、このような場合には、混合液15中に含まれる砥粒12のほとんどが多糖類誘導体11Aの表面に偏在するようになり、シェルとコアとが明確に分離されたシェル−コア型構造となる。
【0043】
例えば、多糖類誘導体11Aがビスコースであり、分散媒14がポリアクリル酸ナトリウム水溶液である場合には、ビスコースのCSS- (ザンテート基)と、ポリアクリル酸ナトリウムのCOO- (カルボキシル基)との間に生じる電荷的反発力と、多糖類誘導体11Aの凝集力とによって、多糖類誘導体11Aが球状化する(ビスコース相分離法)。また、CSS- およびCOO- の双方による電荷的反発力によって、砥粒12は多糖類誘導体11Aおよび分散媒3の双方から排斥され、その境界面となる多糖類誘導体11Aの表面にほとんど集められ、多糖類誘導体11Aの表面全体を覆うようになる。その結果、シェルとコアとが明確に分離されたシェル−コア型構造が形成される。
【0044】
なお、多糖類誘導体11Aを球状化するために、上記したビスコース相分離法を用いてもよいが、その代わりにまたはそれと共に、例えば、予備混合液13をノズル噴霧して分散媒3に滴下するようにしてもよい。
【0045】
次に、砥粒12が多糖類誘導体11Aの表面に偏在した状態で砥粒12の固定化処理を行う(ステップS4)。例えば、多糖類誘導体11Aがビスコースである場合には、まず、ビスコースを脱硫する。すると、ビスコースの水酸基同士が水素結合して架橋構造が形成され、再生セルロースが生成される。このとき、ビスコースの表面に偏在していた砥粒12がこの水素結合によって再生セルロースの表面に強固に固定化される。また、再生セルロースは分散媒14に対して不溶性を有しているので、分散媒14中で沈降する。そこで、次に、混合液15から分散媒14を除去し(デカンテーションを行い)、表面全体が砥粒12で覆われた再生セルロース(砥粒複合体)を乾燥させる。このようにして、本実施の形態の複合粒子2が製造される。
【0046】
なお、多糖類誘導体11Aの物性に応じて、その固定化の方法は適宜選択される。また、多糖類誘導体11Aを球状化する過程で砥粒12の固定化処理が完了している場合には、この固定化処理を省略することもできる。また、必要に応じて、複合粒子2の粒径に応じて選別を行ったり、複合粒子2の表面の洗浄を行ってもよい。
【0047】
このように、本実施の形態では、砥粒12を再生多糖類からなる球形状の基材11の表面に強固に担持させるようにしたので、基材11に対して、例えば100℃を超える熱を加えて炭素化させる必要がない。従って、加熱によって砥粒12の加工能力が低下する虞はない。
【0048】
次に、上記したようにして製造した複合粒子2を、例えば水系の分散媒16に分散して
研磨液1を得る。このようにして、本実施の形態の研磨液1が製造される。
【0049】
[変形例]
上記実施の形態では、砥粒12は、分散媒14中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスであって、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mV以下である無機材料により構成されていたが、砥粒12が、分散媒14中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mVより大きくなる材料、またはpH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がプラスとなる材料、例えば、ダイヤモンド系、アルミナ系、炭化ケイ素系、ジルコニア系、セリア系またはシリカ系の材料により構成されていてもよい。
【0050】
このとき、分散媒14が酸化還元電位の極性がプラスとなる溶液により構成されている場合には、砥粒12は、多糖類誘導体11Aとの電気的な引力により、多糖類誘導体11Aの表面および内部に偏在するようになる。そして、砥粒12が多糖類誘導体11Aの表面および内部に偏在した状態で多糖類誘導体11Aに対して固定化処理を行うと、多糖類誘導体11Aが不溶性の基材11に変化する。これにより、砥粒12が基材11の表面に担持されると共に基材11の内部に内包された複合粒子5を製造することができ、図6に示したように、この複合粒子5を分散媒3に分散させることにより研磨液4を製造することができる。
【0051】
[適用例]
次に、上記実施の形態の研磨液1を備えた研磨装置100について説明する。
【0052】
図7は、本適用例に係る研磨装置100の断面構成を表したものである。この研磨装置100は、回転定盤111と重鎮112とが互いに対向配置されたものである。回転定盤111はZ軸に垂直な平面を有する金属円盤、例えば、硬度の高い鋳鉄円盤や、硬度の低いすず定盤からなり、図示しない駆動部によりZ軸に垂直な面内で回転駆動されるようになっている。また、回転定盤111の表面は滑らかな平面となっており、回転定盤111の表面には研磨パッドが設けられていない。重鎮112は、Z軸に垂直な平面を有する金属円盤、例えば、ステンレスからなる。この重鎮112は、被加工物Mを回転定盤111との対向面に保持する機構を有しており、回転定盤111を介して被加工物Mに押圧力を加えると共に、Z軸に垂直な面内で任意の方向に移動させることができるようになっている。
【0053】
この研磨装置100はまた、研磨液供給装置113を備えている。この研磨液供給装置113は、複合粒子2を分散媒14中に分散させた研磨液1を貯蔵した貯蔵部113Aと、この貯蔵部113Aから研磨液1を吐出するための吐出部113Bとを備えている。吐出部113Bの先端は、回転定盤111のうち被加工物Mと接することとなる表面の近傍に配置されており、研磨液1を回転定盤111の表面に吐出するようになっている。
【0054】
本適用例では、回転定盤111と、被加工物Mを回転定盤111との対向面に載置した重鎮112とを互いに対向配置して重鎮112で被加工物Mを回転定盤111側に押し付けると共に、回転定盤111を回転駆動させる。続いて、研磨液供給装置113から、研磨液1を被加工物Mと回転定盤111との間に供給する。すると、研磨液1に含まれる複合粒子2が被加工物Mと回転定盤111との間を転がり、基材11の表面に担持された砥粒12が基材11を介して被加工物Mに押し付けられる。その結果、被加工物Mが研磨される。
【0055】
これにより、単に砥粒を分散媒中に分散させた従来の研磨液を用いた場合と比べて、担持された砥粒12を効率よく被加工物Mに接触させることができる。つまり、基材11がいわば微小研磨布として作用するので、研磨液1に含まれる砥粒12が少なくても、また研磨布がなくても高速研磨が可能である。
【0056】
また、複合粒子2が被加工物Mと回転定盤111との間のスペーサとしても働くので、上記した従来の研磨液を用いた場合と比べて研磨抵抗が低くなり、また、切り屑の排出が容易となる。これにより、回転定盤111や重鎮112にひずみやうねりがある場合や、砥粒12の硬度が高い場合であっても、複合粒子2の転がり効果により、それらの影響をほとんど受けなくなる。その結果、スクラッチや傷、うねりが大幅に低減され、均一性の高い加工が可能である。
【0057】
ここで、本適用例では、基材11を多糖類により構成するようにしたので、被加工物Mを研磨する際に、砥粒12の被加工物Mに対する研磨圧が基材11によって緩和される。これにより、上記した影響をほとんど無視することができるので、より均一性の高い研磨が可能である。また、多糖類は合成系の有機高分子とは異なり、環境に極めて優しい。また、多糖類は親水性を有しているので、本適用例のように分散媒14として水系の溶液を用いることにより、複合粒子2が分散媒14中で均一に分散しやすく、凝集しにくい。これにより、スクラッチや傷、うねりが大幅に低減され、より均一性の高い研磨が可能である。
【0058】
また、本適用例において、砥粒12を、分散媒14中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスであって、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mV以下である無機材料により構成した場合には、砥粒12を基材11の表面に主に担持させることができるので、このようにした場合には、複合粒子2による被加工物Mの研磨速度を上げることができる。また、砥粒12を、分散媒14中で、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mVより大きくなる材料、またはpH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がプラスとなる材料により構成した場合には、砥粒12を基材11の表面に担持させると共にその内部に内包させることができるので、このようにした場合には、複合粒子2による被加工物Mの研磨精度を上げることができる。すなわち、砥粒12の基材11への分布のさせ方を調整することにより、研磨速度と研磨精度とのバランスを自由に調整することができる。
【0059】
また、本適用例において、基材11の径を1としたときの砥粒12の大きさを例えば1/4000以上1/2以下の範囲内で適宜調整した場合には、研磨液1を平滑化工程における各工程に適用することが可能である。
【0060】
[実施例]
次に、実施例に係る複合粒子2の製造方法について説明する。
【0061】
まず、分散媒14としてポリアクリル酸ナトリウム水溶液を用いた。このポリアクリル酸ナトリウム水溶液は、3リットルのビーカーにポリアクリル酸ナトリウム( 商品名アクアリックDL522:日本触媒製( 分子量50000))の35%水溶液400gに蒸留水800gを加えて11. 7%の高分子粘性媒体を調製し、これに分散材としてのCaCO3(商品名TP221G;奥多摩工業製) 80gと、33%のNaOH水溶液を48gとを加えたのち、120回転/分、時間530分の条件で、攪拌することにより作製されたものである。
【0062】
次に、多糖類誘導体11Aとしてビスコース溶液250gを、砥粒12として10gのダイヤモンド(200nm) 、5gの酸化セリウム(500nm)、13.3gの酸化セリウム(500nm)、10gのコロイダルシリカ(80nm)をそれぞれ用意して、多糖類誘導体11Aに砥粒12を加え、ホモジナイザHにより5000回転/分、時間5分の条件で均一な色になるまで攪拌して混合液13を得た。次に、先に調整した分散媒14に混合液13を滴下・混合し、120回転/分、時間15分の条件で攪拌することで、混合液15を得た。次に、汎用のオイルバスを使用して、昇温時間30分の条件で混合液15を70℃まで加熱し、更に30分間、当該温度を保持しつつ攪拌を施して、次に44μメッシュによって分散材であるCaCO3 を除去し、濾取された砥粒複合体(含水) を5%塩酸500gで脱硫することで固定化処理を完了させた。最後に、ガラスフィルターでろ過、水洗してそのまま凍結乾燥し、所望の複合粒子2を得た。
【0063】
図8はダイヤモンドの粒径が200nmで、ダイヤモンドの含有量が30%の複合粒子2の表面写真を、図9は酸化セリウムの粒径が500nmで、酸化セリウムの含有量が15%の複合粒子2の表面写真を、図10は酸化セリウムの粒径が500nmで、酸化セリウムの含有量が40%の複合粒子2の表面写真を、図11はコロイダルシリカの粒径が80nmで、コロイダルシリカの含有量が15%の複合粒子2の表面写真を、図12はコロイダルシリカの粒径が80nmで、コロイダルシリカの含有量が30%の複合粒子2の表面写真をそれぞれ示したものである。
【0064】
図8〜図12に示したように、本実施の形態の複合粒子2の製造方法を用いることにより、砥粒12が基材11の表面に担持されていることがわかる。なお、本製造方法において使用した原料や装置についての詳細情報を以下に示した。
【0065】
(使用原料)
1.ビスコース:苛性ソーダ5. 5重量%、セルロース9.5重量%;レンゴー株式会社製
2.炭酸カルシウム: 奥多摩工業株式会社製 TP221GS
3.ダイヤモンド(200nm);東名ダイヤモンド工業株式会社製
( pH13におけるゼータ電位の上限値:15mV)
4.酸化セリウム(500nm);太陽鉱工株式会社製
( pH13におけるゼータ電位の上限値:25mV)
5.コロイダルシリカ(80nm);Baikalox,Baikowski製
( pH13におけるゼータ電位の上限値:-15mV)
【0066】
(使用装置)
1.ホモジナイザH( SMT-Process Homogenizer);エスエムテー株式会社製
2.電解放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM);商品名S−4000;日立製作所株式会社製
【0067】
次に、実施例に係る研磨装置100について説明する。
【0068】
本実施例では、被加工物Mとして、石英ガラスまたはシリコン基板を用いた。まず、市販のダイヤモンド(3μm)を砥粒として分散媒中に分散させた研磨液と、回転定盤111として鋳鉄定盤とを用いて、被加工物Mをあらかじめ粗ラッピングしたのち、市販のダイヤモンド(1μm)を砥粒として分散媒中に分散させた研磨液と、回転定盤111としてすず定盤とを用いて、被加工物Mを仕上げラッピングした。このようにして研磨した後の被加工物Mを後述のポリッシング工程におけるテストピースとした。なお、石英ガラスのテストピースおよびシリコン基板のテストピースの表面粗さを表面粗さ測定装置を用いて計測した。その計測結果を図13、図14に示した。なお、図13に石英ガラスのテストピースの結果を、図14にシリコン基板のテストピースの結果をそれぞれ示した。
【0069】
次に、ポリッシング工程で用いる研磨液を複数種類、製造し、各研磨液を用いてポリッシングを行った。
【0070】
(実験1)
市販の酸化セリウム(600nm)を砥粒として、水系の分散媒中に分散させて研磨液を製造した。また、重鎮112として重さ2320gのステンレスを用い、回転定盤111上に研磨パッドを配置した。このとき、回転定盤111の回転速度を60rpmとし、研磨液供給装置113からの研磨液1の吐出量を0.3ml/minとして、石英ガラスのテストピースに対してポリッシング(パッドポリッシング)を行った。その後、ポリッシングを行った後のテストピースの表面粗さを表面粗さ測定装置を用いて計測した。その計測結果を図15に示した。
【0071】
(実験2)
基材11としてセルロースを、砥粒12として市販の酸化セリウム(500nm)をそれぞれ用いて複合粒子2を製造した。このとき、複合粒子2として平均粒径が30μmのものを用意し、複合粒子2における砥粒12の仕込み比をそれぞれ15重量%とした。また、分散媒16として水系の潤滑液を用い、平均粒径が30μmの複合粒子2の仕込み比がそれぞれ4重量%の研磨液1を製造した。また、重鎮112として重さ2320gのステンレスを、回転定盤111としてグラナイト定盤をそれぞれ用いた。このとき、回転定盤111の回転速度を60rpmとし、研磨液供給装置113からの研磨液1の吐出量を0.3ml/minとして、石英ガラスのテストピースに対して硬質パッドを用いて、ポリッシング(パッドレスポリッシング)を行った。その後、ポリッシングを行った後のテストピースの表面粗さを表面粗さ測定装置を用いて計測した。その計測結果を図16に示した。
【0072】
(実験3)
上記実験2の複合粒子2における砥粒12の仕込み比を15重量%から40重量%に変えて研磨液1を製造し、上記実験2と同一の条件で、石英ガラスのテストピースに対してポリッシング(パッドレスポリッシング)を行った。その後、ポリッシングを行った後のテストピースの表面粗さを表面粗さ測定装置を用いて計測した。その計測結果を図17に示した。
【0073】
(実験4)
基材11としてセルロースを、砥粒12としてコロイダルシリカ(80nm)をそれぞれ用いて複合粒子2を製造した。このとき、複合粒子2として平均粒径が20μmのものを用意し、複合粒子2における砥粒12の仕込み比を15重量%とした。また、分散媒16として水系の潤滑液およびエタノールアミン10体積%を用い、複合粒子2の仕込み比が4重量%の研磨液1を製造した。また、重鎮112として重さ2320gのステンレスを、回転定盤111としてグラナイト定盤をそれぞれ用いた。このとき、回転定盤111の回転速度を60rpmとし、研磨液供給装置113からの研磨液1の吐出量を10ml/minとして、シリコン基板のテストピースに対してポリッシング(パッドレスポリッシング)を行った。その後、ポリッシングを行った後のテストピースの表面粗さを表面粗さ測定装置を用いて計測した。その計測結果を図18に示した。
【0074】
図14、図18から、図18におけるRaの方が図14におけるRaよりも小さくなったことがわかる。このことから、複合粒子2を含む研磨液1を用いてシリコン基板を研磨することにより、表面粗さを小さくすることができたことがわかる。また、図14ではスクラッチや大きなうねりが生じていたが、図18ではスクラッチや大きなうねりがなくなったことがわかる。
【0075】
図13、図15〜図17から、図15〜図17におけるRaの方が図13におけるRaよりもおおむね小さくなったことがわかる。このことから、複合粒子2を含む研磨液1を用いてシリコン基板を研磨することにより、表面粗さをおおむね小さくすることができたことがわかる。また、図13、図15ではスクラッチまたはおおきなうねりが生じていたが、図16、図17ではスクラッチや大きなうねりがなくなったことがわかる。
【0076】
なお、本実施例において使用した原料や装置についての詳細情報を以下に示した。
【0077】
(原料)
1.潤滑液: 日本エンギス株式会社製
2.市販ダイヤモンド配合研磨液(1im, 3μm): 日本エンギス株式会社製
3.市販酸化セリウム配合研磨液: (600nm) SHOROX-V2104 昭和電工株式会社製
4.コロイダルシリカ: Baikalox,S-080C バイコウスキージャパン製
【0078】
(装置)
1.ポリッシング・ラッピング装置: LAPOLISH 15 LAPMASTER SDT Corp. 製
2.表面粗さ測定装置: SVRFCON 東京精密株式会社製
3.研磨パッド:硬質パッド ランプラン製
4.重鎮: 2320g
5.鋳鉄製定盤: ノリタケダイヤ株式会社製
6.すず定盤: 日本エンギス株式会社製
7.グラナイト定盤: テクノライズ株式会社製
【0079】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0080】
例えば、上記実施の形態および適用例では、基材11の表面に砥粒12を担持させた複合粒子2を分散媒3に分散させて研磨液1を製造していたが、図19に示したように、砥粒22を基材21とは別個に設け、基材21および砥粒22を分散媒3中に別個に分散させて研磨液6を製造してもよい。このとき、基材21および砥粒22は上記実施の形態の基材11および砥粒12と同様の材料、形状および大きさを有している。
【0081】
研磨液6の場合であっても、例えば、重鎮112で被加工物Mを回転定盤111側に押し付けて、基材21および砥粒22を分散媒3中に別個に分散させた研磨液6を被加工物Mと回転定盤111との間に供給しながら、回転定盤111を回転駆動させると、基材21が被加工物Mと回転定盤111との間を転がり、その転がる基材21を介して砥粒22が被加工物Mに押し付けられる。その結果、被加工物Mを研磨することができる。これにより、上記実施の形態および適用例と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施の形態に係る研磨液の概略構成図である。
【図2】図1の複合粒子を、一部を切り欠いて表した斜視図である。
【図3】図1の複合粒子の断面構成図である。
【図4】図1の複合粒子の製造手順を表した流れ図である。
【図5】図1の複合粒子の製造過程を説明するための概略構成図である。
【図6】一変形例に係る研磨液の概略構成図である。
【図7】図1の研磨液を備えた研磨装置の概略構成図である。
【図8】一実施例に係る複合粒子の表面写真である。
【図9】他の実施例に係る複合粒子の表面写真である。
【図10】さらに他の実施例に係る複合粒子の表面写真である。
【図11】さらに他の実施例に係る複合粒子の表面写真である。
【図12】さらに他の実施例に係る複合粒子の表面写真である。
【図13】仕上げラッピング後の石英ガラスのテストピースの表面形状図である。
【図14】仕上げラッピング後のシリコン基板のテストピースの表面形状図である。
【図15】パッドポリッシング後の石英ガラスのテストピースの表面形状図である。
【図16】パッドレスポリッシング後の石英ガラスのテストピースの表面形状図である。
【図17】複合粒子における砥粒の仕込み比を図16における仕込み比とは異なる値にしてパッドレスポリッシングをした後の石英ガラスのテストピースの表面形状図である。
【図18】パッドレスポリッシング後のシリコン基板のテストピースの表面形状図である。
【図19】他の変形例に係る研磨液の概略構成図である。
【符号の説明】
【0083】
1,4,6…研磨液、2,5…複合粒子、3,14…分散媒、11…基材、11A…多糖類誘導体、12…砥粒、13…予備混合液、15…混合液、100…研磨装置、111…回転定盤、112…重鎮、113…研磨液供給装置、113A…貯蔵部、113B…吐出部、H…ホモジナイザ、M…被加工物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑らかな表面を有する定盤と、前記定盤の表面と対向配置されると共に前記定盤の表面を介して被加工物に押圧力を加える重鎮とを備えた研磨装置を用意し、
前記定盤と前記重鎮との間に被加工物を載置すると共に前記被加工物に押圧力を加えたのち、前記定盤および前記重鎮の少なくとも一方を前記定盤および前記重鎮の対向方向と直交する方向に変位させ、
基材と、1または複数種類の無機材料からなり、少なくとも前記基材の表面に担持された砥粒とを有する複合粒子を分散媒中に分散させた研磨液を前記被加工物と前記定盤との間に供給し、前記被加工物の前記定盤側の表面を研磨する
ことを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
前記基材は多糖類からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記多糖類は、その誘導体の酸化還元電位の極性がマイナスとなる高分子であり、
前記砥粒は、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mV以下となる材料からなる
ことを特徴とする請求項2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記多糖類は、その誘導体の酸化還元電位の極性がマイナスとなる高分子であり、
前記砥粒は、pH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がマイナスとなり、かつpH13におけるゼータ電位の上限値が30mVより大きくなる材料、またはpH13におけるゼータ電位のピーク値の極性がプラスとなる材料により構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記砥粒の径は、前記基材の径を1とすると、1/4000以上1/2以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項6】
滑らかな表面を有する定盤と、前記定盤の表面と対向配置されると共に前記定盤の表面を介して被加工物に押圧力を加える重鎮とを備えた研磨装置を用意し、
前記定盤と前記重鎮との間に被加工物を載置すると共に前記被加工物に押圧力を加えたのち、前記定盤および前記重鎮の少なくとも一方を前記定盤および前記重鎮の対向方向と直交する方向に変位させ、
1または複数種類の無機材料からなる砥粒と、多糖類からなる基材とを分散媒中にそれぞれ分散させた研磨液を前記被加工物と前記定盤との間に供給し、前記被加工物の前記定盤側の表面を研磨する
ことを特徴とする研磨方法。
【請求項7】
前記砥粒の径は、前記基材の径を1とすると、1/4000以上1/2以下である
ことを特徴とする請求項6に記載の研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−83027(P2009−83027A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254794(P2007−254794)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度地域新生コンソーシアム研究開発事業、九州経済産業局に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(591202155)熊本県 (17)
【出願人】(506350252)西日本長瀬株式会社 (8)
【Fターム(参考)】