説明

研磨装置

【課題】温度変化に関係なく板状ワークを均一に加工する。
【解決手段】金属部材2をその温度変化に伴って最も伸縮する方向へ複数に分割し、これら複数の分割片2aの間に隙間Sを空けて、各分割片2aをそれぞれの温度変化に伴う伸縮変形量が該隙間S内で収まるように配置することにより、主要部がセラミックスで形成される保持部材1と金属部材2との熱膨張率の違いで、金属部材2の分割片2aにおける単位面積当たりの伸縮変形量が、保持部材1における単位面積当たりの伸縮変形量より大きくなっても保持部材1が変形せず、保持部材1に保持した板状ワークの他面全体が、定盤の加工面に対して傾斜することなく圧接される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体シリコンウエハなどの製造過程において、ウエハなどの片面を吸着保持し、その吸着側の面と反対側の面を鏡面研磨(ポリッシング)加工や研削加工するために用いられる研削装置を含む研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の研磨装置としては、ウエハを吸着する吸着面を有する回転自在なベースと、この吸着面の反対側面に取り付けられるセラミック部材と、セラミック部材の回転ベースに取り付けられる面の反対側の面に重ね合わされる金属リングと、セラミック部材を挟んだ状態で金属リングを回転ベースに固定する複数の固定部材を備え、セラミック部材が金属リングと回転ベースとの間に挟まれた状態で回転ベースに取り付けられ、回転ベースで吸引保持されたウエハを、ターンテーブルの研磨パッドに対し相対移動させて研磨を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−141400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような従来の研磨装置では、熱膨張率が大きく異なるセラミック部材と金属リングを互いに当接させて一体的に取り付けているため、加工による発熱(加工自体、モーターなどの発熱等)が装置内温度を変化させて、金属リングにおける単位面積当たりの伸び長さが、セラミック部材における単位面積当たりの伸び長さよりも大きくなると、金属リングと反対側の吸着面が断面凹状に湾曲変形し、また逆に作業場の室温が基準温度よりも下降すると吸着面が断面凸状に湾曲変形することになる。
このような吸着面の湾曲変形に伴って該吸着面に保持されるウエハなどの板状ワークは、研磨パッドなどの加工面に対して傾斜し、該板状ワークの表面を設定通り均一に研磨することができないという問題があった。
特に、研磨する板状ワークが半導体シリコンウエハのように、ミクロン単位の平坦度が必要なものでは要求を満たせなかった。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題とするものであり、温度変化に関係なく板状ワークを均一に加工すること、温度変化に関係なく板状ワークを更に均一に加工すること、簡単な構造で温度変化に関係なく板状ワークを更に均一に加工すること、温度変化に関係なく板状ワークを回転して均一に加工すること、などを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために本発明は、主要部がセラミックスで形成されて板状ワークの一面を保持する保持部材と、この保持部材に設けられる金属部材と、前記板状ワークの他面と対向する加工面が設けられて前記保持部材との相対移動により該板状ワークの他面を加工する定盤とを備え、前記金属部材をその温度変化に伴って最も伸縮する方向へ複数に分割し、これら複数の分割片の間に隙間を空けて、各分割片をそれぞれの温度変化に伴う伸縮変形量が該隙間内で収まるように配置したことを特徴とする。
【0007】
前述した特徴に加えて、前記分割片を、温度変化に伴って最も膨張・収縮変形する長手方向の一端部が、前記保持部材に対して移動不能に固定されるとともに、長手方向の他端部が前記保持部材に対して長手方向へ伸縮移動可能に取り付けられるように配置したことを特徴とする。
【0008】
さらに前述した特徴に加えて、前記分割片に、固着手段によって移動不能に取り付けられる固定孔と、固着手段によって該分割片の温度変化に伴い伸縮する方向へ移動可能に取り付けられる長孔をそれぞれ形成したことを特徴とする。
【0009】
さらに前述した特徴に加えて、前記金属部材が、前記保持部材の周方向に沿ってリング状に形成され、前記分割片の周面に沿って、駆動体と連動する駆動ギャと係合する従動ギャを形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
前述した特徴を有する本発明は、金属部材をその温度変化に伴って最も伸縮する方向へ複数に分割し、これら複数の分割片の間に隙間を空けて、各分割片をそれぞれの温度変化に伴う伸縮変形量が該隙間内で収まるように配置することにより、主要部がセラミックスで形成される保持部材と金属部材との熱膨張率の違いで、金属部材の分割片における単位面積当たりの伸縮変形量が、保持部材における単位面積当たりの伸縮変形量より大きくなっても保持部材が変形せず、保持部材に保持した板状ワークの他面全体が、定盤の加工面に対して傾斜することなく圧接されるので、温度変化に関係なく板状ワークを均一に加工することができる。
その結果、温度変化により金属リングとの熱膨張率の違いで吸着面が湾曲変形しウエハが研磨パッドに対して傾斜する従来のものに比べ、板状ワークの平坦度を向上させてミクロン単位の平坦度を達成することができる。
【0011】
さらに、前記分割片を、温度変化に伴って最も膨張・収縮変形する長手方向の一端部が、前記保持部材に対して移動不能に固定されるとともに、長手方向の他端部が前記保持部材に対して長手方向へ伸縮移動可能に取り付けられるように配置した場合には、僅かな温度変化でも各分割片の他端部が保持部材に対してそれぞれスムーズに膨張変形又は収縮変形し、保持部材に対する影響が無くなって、保持部材に保持した板状ワークの他面が定盤の加工面に対して全く傾斜しないので、温度変化に関係なく板状ワークを更に均一に加工することができる。
その結果、板状ワークWの平坦度を更に向上できる。
【0012】
また、前記分割片に、固着手段によって移動不能に取り付けられる固定孔と、固着手段によって該分割片の温度変化に伴い伸縮する方向へ移動可能に取り付けられる長孔をそれぞれ形成した場合には、僅かな温度変化でも各分割片の他端部が長孔に沿ってそれぞれスムーズに膨張変形又は収縮変形し、保持部材に対する影響が無くなって、保持部材に保持した板状ワークの他面が定盤の加工面に対して全く傾斜しないので、簡単な構造で温度変化に関係なく板状ワークを更に均一に加工することができる。
その結果、板状ワークWの平坦度を更に向上できる。
【0013】
また、前記金属部材が、前記保持部材の周方向に沿ってリング状に形成され、前記分割片の周面に沿って、駆動体と連動する駆動ギャと係合する従動ギャを形成した場合には、駆動源からの回転力が駆動ギャ及び金属部材の従動ギャを介して保持部材に伝達され、保持部材に保持した板状ワークが定盤の加工面に対して回転移動するので、温度変化に関係なく板状ワークを回転して均一に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る研磨装置を示す縦断正面図であり、中心線より半分のみを部分的に示している。
【図2】図1の(2)−(2)線に沿える縮小横断平面図であり、中心線より半分のみを部分的に示している。
【図3】実施装置の測定結果を示すグラフであり、(a)がX方向の測定結果を示し、(b)がY方向の測定結果を示している。
【図4】比較装置の測定結果を示すグラフであり、(a)がX方向の測定結果を示し、(b)がY方向の測定結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る研磨装置Aは、図1及び図2に示すように、主要部がセラミックスで形成されて例えば半導体シリコンウエハなどの板状ワークWの一面(保持面)W1を着脱自在に保持する保持部材1と、この保持部材1に設けられる金属部材2と、板状ワークWの他面W2と対向するように加工面3aが設けられる定盤3とを備え、保持部材1と定盤3とを相対的に移動させることにより、板状ワークWの他面(加工面)W2を加工面3aに押し付けて鏡面研磨(ポリッシング)加工や平面研削などの加工が行われるものである。
すなわち、本発明の実施形態に係る研磨装置Aは、板状ワークWの他面(加工面)W2を鏡面研磨(ポリッシング)加工するためのいわゆる研磨装置に限らず、板状ワークWの他面(加工面)W2を平面研削加工するためのいわゆる研削装置も含まれる。
【0016】
保持部材1は、図1に示すように、その主要部又は全体が化学的に侵され難く、且つ経年変化や荷重に対して変形の少ないセラミックスにより板状に形成され、板状ワークWと対向する一方面1aには、板状ワークWを着脱可能に保持するための保持手段1bが設けられる。
板状ワークWの保持手段1bとしては、例えば真空ポンプなど真空源(図示しない)に通じる吸引機構や粘着による保持機構や静電吸着による保持機構などが用いられ、保持部材1の一方面1aに対して板状ワークWを着脱自在で且つ移動不能に保持する。
さらに、保持部材1において板状ワークWの保持手段が設けられる一方面1aとは反対側の他方面1cには、後述する金属部材2が付設される。
【0017】
金属部材2は、保持部材1に駆動源からの動力を伝えるために付設される伝動部品、保持部材1に他の部品を取り付けるために付設される取付部品、保持部材1を回転自在に支持するために付設される支持部品などからなり、保持部材1の他方面1cに沿って固定され、例えば耐食性に優れたステンレスなどによって所定の形状に形成することが好ましい。
さらに、金属部材2は、図2に示すように、温度変化に伴って最も膨張・収縮変形する方向へ複数に分割され、これら複数の分割片2aの間に隙間Sを空けて、各分割片2aをそれぞれの温度変化に伴う伸縮変形量が隙間S内で収まるように配置している。
すなわち、各分割片2a間の隙間Sは、保持部材1の他方面1cに沿って、各分割片2aが温度変化に伴い膨張変形又は収縮変形しても、それぞれの伸縮変形量よりも長くなるように設定される。
各分割片2aは、保持部材1の他方面1cに対し隙間Sを挟んで、それぞれ温度変化に伴い膨張・収縮変形可能に取り付けられている。
詳しくは、複数の分割片2aを、温度変化に伴って最も膨張・収縮変形する長手方向の一端部が、保持部材1の他方面1cに対して移動不能に固定されるとともに、長手方向の他端部が保持部材1の他方面1cに対して長手方向へ伸縮移動可能に取り付けられるように配置することが好ましい。
【0018】
金属部材2の具体例としては、保持部材1の他方面1cに沿って周方向へ延びるリング形状の板状に形成され、その周方向へそれぞれの周方向寸法がそれと交差する幅寸法よりも長くなるように複数に分割し、これら複数の分割片2aの間に所定寸法の隙間Sが周方向へ空くように配置するとともに、各分割片2aを例えばボルトなどの固着手段4でそれぞれ保持部材1の他方面1cに対して取り付けている。
また、その他の例として、金属部材2を例えば直線方向へ延びる帯状、円形状、矩形状、多角形状に形成することも可能である。
さらに、各分割片2aをボルトなどの固着手段4で取り付ける際には、分割片2aの周方向一端部を保持部材1の他方面1cに対して移動不能に固定し、分割片2aの周方向他端部を保持部材1の他方面1cに対して少なくとも周方向へ伸長移動可能に取り付けることが好ましい。
【0019】
定盤3は、保持部材1の一方面1aと対向する表面に沿って、例えば研磨布などを着脱自在に張架することで加工面3aが設けられ、この加工面3aを保持部材1と相対的に移動するように構成し、更に必要に応じて研磨砥粒液(スラリー)を、板状ワークWの他面W2と加工面3aとの間に供給することにより、加工面3aが板状ワークWの他面W2に対し所定圧力で圧接するように構成されている。
【0020】
このような本発明の実施形態に係る研磨装置Aによると、板状ワークWの保持手段1bを作動開始することで、保持部材1の一方面1aに板状ワークWの一面W1が移動不能に保持され、保持部材1と定盤3との相対移動により、板状ワークWの他面W2が加工面3aに押し付けられて鏡面研磨加工や研削加工される。
そして、研磨装置Aが配備される場所の室内温度が設定温度よりも高くなった時には、セラミックス製の保持部材1と金属部材2が共に伸長変形するが、セラミックスと金属との熱膨張率の違いにより、分割片2aにおける単位面積当たりの伸長量が、保持部材1における単位面積当たりの伸長量よりも大きくなっても、各分割片2aの伸長量はそれぞれ隙間S内に収まるため、分割片2aの伸長変形に連動して保持部材1が伸長変形することはない。
また、研磨装置Aが配備される場所の室内温度が設定温度よりも低くなった時には、セラミックス製の保持部材1と金属部材2が共に収縮変形するが、セラミックスと金属との熱膨張率の違いにより、分割片2aにおける単位面積当たりの収縮量が、保持部材1における単位面積当たりの収縮量よりも大きくなっても、各分割片2a間の隙間Sがそれぞれ広がるだけで、分割片2aの収縮変形に連動して保持部材1が収縮変形することはない。
それにより、温度変化しても保持部材1の一方面1aが変形せず、この一方面1aに保持される板状ワークWの他面(加工面)W2全体が、定盤3の加工面3aに対して傾斜することなく圧接され、温度変化に関係なく板状ワークWを均一に鏡面研磨加工や研削加工することができ、板状ワークWの平坦度を向上できる。
【0021】
特に、複数の分割片2aが、温度変化に伴って最も膨張・収縮変形する長手方向の一端部を、保持部材1の他方面1cに対して移動不能に固定させるとともに、他端部が保持部材1の他方面1cに対して長手方向へ伸縮移動可能に取り付けるように配置されると、僅かな温度変化でも各分割片2aの他端部が、保持部材1の他方面1cに対してそれぞれスムーズに伸長変形又は収縮変形し、保持部材1の他方面1cに対する影響が無くなって、保持部材1の一方面1aに保持した板状ワークWの他面(加工面)W2が定盤3の加工面3aに対して全く傾斜しない。
それにより、温度変化に関係なく板状ワークWを更に均一に鏡面研磨加工や研削加工することができ、板状ワークWの平坦度を更に向上できる。
次に、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0022】
この実施例は、図1及び図2に示すように、保持部材1が回転自在に支持される円板状のトップリングであり、金属部材2が駆動体5からの動力を保持部材1となるトップリングへ伝えるように構成される伝動部品であり、定盤3がターンテーブルであり、これら保持部材(トップリング)1の自転と定盤(ターンテーブル)の回転により、板状ワークWとして例えば拡散ウエハの非拡散面などが高平坦でキズや不純物の無い高品質な鏡面に磨き上げられる場合を示すものである。
【0023】
さらに、図1及び図2に示される例では、板状ワークWの保持手段1bとして、例えば真空ポンプなど真空源(図示しない)に通じる複数の吸引孔を開穿している。
また、その他の例として図示しないが、板状ワークWの保持手段1bとして、真空ポンプなど真空源に通じる吸引孔に代え、粘着による保持機構や静電吸着による保持機構などを設けることも可能である。
【0024】
金属部材2の伝動部品は、例えばステンレスなどで保持部材1となるトップリングの他方面(上面)1cの外周に沿ったリング状に形成され、この伝動リングをその周方向へ複数に分割している。
図1及び図2に示される例では、これら伝動リングの分割片2aにおいてその周方向一端に、固定孔2bがそれぞれ開穿され、この固定孔2bを挿通するボルトなどの固着手段4により、各分割片2aの周方向一端部を保持部材1となるトップリングの他方面(上面)1cに対して移動不能に取り付けている。
伝動リングの分割片2aにおいてその周方向他端には、少なくとも周方向へ固着手段4の長さ寸法よりも大きな長孔2cがそれぞれ開穿され、この長孔2cを挿通するボルトなどの固着手段4で、各分割片2aの周方向他端部を各分割片2aの温度変化に伴って周方向へ伸縮移動可能に取り付けている。
また、その他の例として図示しないが、固定孔2bを開穿せずに、分割片2aの周方向両端又は所定位置に、固着手段4の長さ寸法よりも大きな長孔2cのみを開穿することも可能である。
【0025】
さらに、伝動リングの分割片2aの内周面には、例えばモータなどの駆動源(図示しない)と連動する駆動体5に設けられた駆動ギャ5aと係合する従動ギャ2dを形成し、駆動体5の回転力が駆動ギャ5a及び従動ギャ2dを介して保持部材1となるトップリングに伝えられるように構成している。
図1及び図2に示される例では、駆動体5の外周端に対し、駆動ギャ5aが刻設されたリング部材5bを、例えばボルトなどの固着手段5cによって着脱自在に取り付けている。
また、その他の例として図示しないが、分割片2aの外周面に、駆動体5の駆動ギャ5aと係合する従動ギャ2dを形成したり、駆動体5に駆動ギャ5aを一体形成することも可能である。
【0026】
そして、図1及び図2に示される例では、金属部材2として、伝動部品(伝動リング)を保持部材(トップリング)1に対して取り付けるために取付部品が設けられている。
この金属部材2の取付部品は、保持部材1となるトップリングの他方面(上面)1cに対して金属部材2の伝動リングを挟むように付設される押えリングであり、この押えリングが伝動リングと同様に例えばステンレスなどで形成される場合には、押えリングを伝動リングの分割片2aと同様にその周方向へ複数に分割し、これら押えリングの分割片2eの間に隙間Sを空けて、各分割片2eをそれぞれの温度変化に伴う伸縮変形量が隙間S内で収まるように配置している。
詳しくは、押えリングの分割片2eにおいてその周方向一端には、固定孔2fがそれぞれ開穿され、この固定孔2fを挿通するボルトなどの固着手段4により、各分割片2eの周方向一端部を分割片2aの上面に対して移動不能に取り付けている。
押えリングの分割片2eにおいてその周方向他端には、長孔2gがそれぞれ開穿され、この長孔2gを挿通するボルトなどの固着手段4により、各分割片2eの周方向他端部を各分割片2eの温度変化に伴って伸縮移動可能に取り付けている。
また、その他の例として図示しないが、取付部品の押えリング(分割片2e)を付設せずに、金属部材2の伝動部品(伝動リング)を保持部材(トップリング)1に対して直接取り付けることも可能である。
【0027】
このような本発明の実施例に係る研磨装置Aによると、研磨装置Aが配備される場所の室内温度が設定温度よりも僅かに高低変化した時には、金属部材2の伝動部品(伝動リング)となる各分割片2aの周方向他端が長孔2cに沿ってそれぞれスムーズに膨張変形又は収縮変形し、保持部材1となるトップリングの他方面(上面)1cに対する影響が無くなって、保持部材1の一方面1aに保持した板状ワークWの他面(加工面)W2が定盤3の加工面3aに対して全く傾斜しない。
それにより、簡単な構造でありながら温度変化に関係なく板状ワークWを更に均一に鏡面研磨加工や研削加工することができ、板状ワークWの平坦度を更に向上できるという利点がある。
【0028】
さらに、保持部材1となるトップリングの他方面(上面)1cに対して、金属部材2となる伝動部品の伝動リング(分割片2a)を挟むように取付部品の押えリング(分割片2e)が付設されると、僅かな温度変化でも各分割片2eの周方向他端が長孔2gに沿ってそれぞれスムーズに膨張変形又は収縮変形するため、温度変化による取付部品の押えリング(分割片2e)の伸縮変形が金属部材2を介して保持部材1となるトップリングの他方面(上面)1cに影響せず、保持部材1の一方面1aに保持した板状ワークWの他面(加工面)W2が定盤3の加工面3aに対して全く傾斜しないという利点がある。
【0029】
このような金属部材2の温度変化による伸縮変形と保持部材1の変形との関係を明確にするために実験を行った。
この実験とは、図1及び図2に示される研磨装置A(以下「実施装置」という)と、これと同サイズで保持部材(トップリング)1に対し分割されない伝動部品(伝動リング)及び取付部品(押えリング)が取り付けられた比較用の研磨装置(以下「比較装置」という)とを用意し、これら両装置の保持部材(トップリング)1の板状ワークWと対向する一方面1aや一方面1aと平行な面などの基準面を加熱又は冷却してその表面温度を変化させながら、この基準面において複数個所の変形量を、それぞれ測定機で測定したところ、図3(a)(b),図4(a)(b)に示すグラフのようになった。
詳しくは、これら実施装置と比較装置の保持部材(トップリング)1として、アルミナセラミックス100%で外径が約500mm、厚みが約50mmの円板状に形成されたものを用意し、それぞれの基準面の表面温度を、所定温度範囲(約20〜35℃)内で約5℃ずつ変化させ、この基準面の中心を通るX方向直線と、それに対し90度で交差するY軸方向直線において所定間隔毎に配置される各測定ポイントの凹凸を、それぞれダイヤルゲージで測定した。
【0030】
図3(a)は、実施装置のX方向直線上で7〜10個所を測定している。
図3(b)は、実施装置のY方向直線上で7〜10個所を測定している。
図4(a)は、比較装置のX方向直線上で7〜10個所を測定している。
図4(b)は、比較装置のY方向直線上で7〜10個所を測定している。
その結果、図3(a)(b)に示される実施装置の温度変化に伴う基準面の凹凸変形量(μm)が、図4(a)(b)に示される比較装置の温度変化に伴う基準面の凹凸変形量(μm)よりも遙かに小さくなることが解る。
それにより、基準面となる一方面1a又は基準面と平行な一方面1aに保持される板状ワークWの他面W2は、温度変化しても定盤3の加工面3aに対して傾斜し難くなることが容易に推測できる。
【0031】
なお、前示実施例では、保持部材1がトップリングで、定盤3がターンテーブルであり、これらトップリングの自転とターンテーブルの回転により、板状ワークWとして例えば拡散ウエハの非拡散面などを鏡面研磨する場合を示したが、これに限定されず、板状ワークWとして拡散ウエハとは別のウエハなどの表面を鏡面研磨したり、拡散ウエハの非拡散面や拡散ウエハとは別のウエハなどの片面を目的の厚さまで平面状に研削して除去しても良い。
これらの場合も、前述した実施例と同様な作用効果が得られる。
また、図示例では、各分割片2aの内周面に駆動体5に設けられた駆動ギャ5aと係合する従動ギャ2dを形成したが、これに限定されず、各分割片2aの外周面に駆動体5に設けられた駆動ギャ5aと係合する従動ギャ2dを形成しても良い。
【符号の説明】
【0032】
1 保持部材 2 金属部材
2a 分割片 2b 固定孔
2c 長孔 2d 従動ギャ
3 定盤 3a 加工面
4 固着手段 5 駆動体
5a 駆動ギャ S 隙間
W 板状ワーク W1 一面
W2 他面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要部がセラミックスで形成されて板状ワーク(W)の一面(W1)を保持する保持部材(1)と、
この保持部材(1)に設けられる金属部材(2)と、
前記板状ワーク(W)の他面(W2)と対向する加工面(3a)が設けられて前記保持部材(1)との相対移動により該板状ワーク(W)の他面(W2)を加工する定盤(3)とを備え、
前記金属部材(2)をその温度変化に伴って最も伸縮する方向へ複数に分割し、これら複数の分割片(2a)の間に隙間(S)を空けて、各分割片(2a)をそれぞれの温度変化に伴う伸縮変形量が該隙間(S)内で収まるように配置したことを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記分割片(2a)を、温度変化に伴って最も膨張・収縮変形する長手方向の一端部が、前記保持部材(1)に対して移動不能に固定されるとともに、長手方向の他端部が前記保持部材(1)に対して長手方向へ伸縮移動可能に取り付けられるように配置したことを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
前記分割片(2a)に、固着手段(4)によって移動不能に取り付けられる固定孔(2b)と、固着手段(4)によって該分割片(2a)の温度変化に伴い伸縮する方向へ移動可能に取り付けられる長孔(2c)をそれぞれ形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の研磨装置。
【請求項4】
前記金属部材(2)が、前記保持部材(1)の周方向に沿ってリング状に形成され、前記分割片(2a)の周面に沿って、駆動体(5)と連動する駆動ギャ(5a)と係合する従動ギャ(2d)を形成したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−23250(P2012−23250A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161078(P2010−161078)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000214928)直江津電子工業株式会社 (37)
【出願人】(500204131)株式会社エム・エー・ティ (5)
【Fターム(参考)】