説明

硫黄化合物の添加によるATRP生成物からの銅の除去

本発明は、ポリマー溶液から遷移金属を除去する沈殿方法に関する。詳細には、原子移動ラジカル重合の終結後にポリマー溶液から、多くの場合に銅を含有する遷移金属錯体を除去することが重要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、ポリマー溶液から遷移金属を除去する方法に関する。詳細には、1000ppmまでの含量を有する遷移金属錯体の除去が重要である。殊に詳細には、原子移動ラジカル重合の終結後にポリマー溶液から、多くの場合に銅を含有する遷移金属錯体を除去することが重要である。
【0002】
原子移動ラジカル重合(以下、短くATRPと呼ぶ)は、数多くのポリマー、例えばポリアクリレート、ポリメタクリレートまたはポリスチロールを製出するための重要な方法である。この種の重合でポリマーを調製するという目的のために良好な方策が詳説されている。ATRP法は、1990年代にマティヤスツェフスキー教授(Prof. Matyjaszewski)によって決定的に開発された(Matyjaszewski et al., J. Am. Chem. Soc., 1995m 117, 第5614頁;WO 97/18247;Science, 1996, 272, 第866頁)。ATRP法は、Mn=5000〜120000g/molの分子量範囲内の狭く分布された(ホモ)ポリマーを提供する。この場合、特殊な利点は、分子量ならびに分子量分布が調節可能であることにある。更に、このATRP法は、リビング重合として、例えばランダム共重合体またはブロック共重合体構造のようなポリマーアーキテクチャーの意図的な構成を可能にする。例えば、相応する開始剤により、付加的に並はずれたブロック共重合体およびスターポリマーが入手可能である。重合機構に関する理論的な基礎は、なかんずくHans Georg Elias, Makromolekuele, 第1巻, 第6版, Weinheim 1999, 第344頁中に詳説されている。
【0003】
先行技術
重合体または重合体溶液の精製は、しばしば書き換えられている。即ち、例えば低分子量化合物は、溶液から抽出法により除去されてもよいし、固体の重合体から抽出法により除去されてもよい。一般に、このような方法は、例えばWO 02/28916中に記載されている。しかし、遷移金属錯体を殆んど完全に、即ち1ppm未満の含量で重合体溶液から除去するためには、純粋な抽出は不適当である。しかし、前記化合物の殆んど完全な除去は、種々の理由から著しく重要である。最初に、殊に配位された配位空間(koordinierte Ligandenspaere)を有する遷移金属は、特に有色化合物である。しかし、最終製品が有色であることは、数多くの使用において望ましいことではない。更に、高すぎる濃度で使用される遷移金属は、食品との接触または化粧用途に関連して排除することができる。当該濃度での製品品質の低下も十分に予想することができる:一面で、金属含分は、解重合を促進し、それによって重合体の熱安定性を減少させる可能性があり、他面、重合体の官能基の配位によって、溶融粘度または溶液粘度の重大な上昇を排除しない可能性がある。
【0004】
とりわけ、遷移金属で導入される配位子は、望ましくない副作用も連行しうる。この強配位化合物の中の数多くのもの、例えばATRP法で普及された二官能性アミンまたは三官能性アミンは、例えばヒドロシリル化の後続反応で触媒毒として作用する。即ち、遷移金属それ自体の除去が著しく重要であるだけでなく、後処理で配位子濃度をできるだけ効果的に減少させることは、重要である。従って、遷移金属錯体が破壊されながら専ら金属の除去が進行する方法は、数多くの後続反応または用途にとって十分ではない。また、殊に、前記配位子の中の数多くの配位子は、臭いが強力で色が濃いので、用途にとって十分ではない。
【0005】
抽出の特殊な形は、重合体溶液からの水性の液−液抽出である。即ち、例えばポリフェニレンオキシドを合成する場合には、銅触媒が使用され、この銅触媒は、重合後に水性抽出によって重合体溶液から除去される(Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第5版, 第2a卷, 第606頁以降参照)。この方法の欠点は、数多くの極性重合体が懸濁安定剤として作用して支障を来し、2つの液相を分離することができないことである。即ち、この方法は、例えばポリメチルメタクリレートの後処理に使用することができない。もう1つの欠点は、このような方法を大工業的生産規模に極めて費用をかけてのみ転用しうることである。
【0006】
実験室規模では、重合体溶液からの遷移金属化合物、例えば銅触媒の分離は、多くの場合に酸化アルミニウムでの吸着および引続き適当な沈殿剤中での重合体の沈殿によるかまたは吸着工程なしの直接の沈殿によって行なわれる。沈殿剤としては、殊に極めて極性の溶剤、例えばメタノールが適している。しかし、相応する配位空間の場合には、特に非極性の沈殿媒体、例えばヘキサンまたはペンタンが使用されてもよい。しかし、この種の方法は、種々の理由から不利である。最初に、ポリマーは、沈殿後、例えばグラニュールのような単一の形では存在しない。この理由から、分離、ひいては後処理は、困難である。更に、沈殿法の場合には、大量の沈殿媒体が溶剤、触媒残基および他の分離すべき成分、例えば残留モノマーと混合されて生じる。この混合物は、後続工程で費用を掛けて分離されなければならない。総じて、沈殿法は、大工業的生産に転用することが不可能であり、実験室規模でのみ目的に適うように使用することができる。
【0007】
更に、固体触媒を液状の重合体含有溶液から分離する方法は、公知である。この場合、触媒それ自体は、例えば酸化によって不溶性になるかまたは触媒は、重合前または重合後に固体の吸着剤または膨潤しているが不溶性の樹脂に結合される。液状の重合体含有相は、濾過または遠心分離によって不溶性物質と分離される。即ち、例えばCN 121011には、吸着剤(殊に、活性炭または酸化アルミニウム)をATRP処理後に重合体溶液中に添加し、引続き濾過によって分離する方法が記載されている。この場合、反応混合物中の遷移金属錯体の含量が比較的僅かであるとしても、極めて大量の吸着剤によってのみ完全な分離が可能であることは、不利である。酸化アルミニウムの使用は、JP 2002 363213中にも特許保護が請求されている。JP 2005 015577、JP 2004 1149563および他の刊行物では、塩基性または酸性のシリカが使用されている。JP 2003 096130、JP 2003 327620、JP 2004 155846およびKaneka社(またはKanegafuchi)の一連の他の特許明細書では、ハイドロタルサイトからの酸性物質、塩基性物質またはこれらの組合せ物が吸着剤として多くの場合に多工程の濾過方法に使用されている。この場合も、大量の無機物質が使用される。更に、この種の吸着剤は、比較的高価であり、極めて費用を掛けてリサイクルされなければならない。殊に、イオン交換体材料を使用することは、不経済である(Matyjazewski et al., Macromolecules, 2000, 33(4), 第1476〜1478参照)。
【0008】
また、前記の効果は、非極性溶剤中でのATRP法が記載されているDE 10015583の発明に基づくものである。遷移金属錯体は、酸化による反応中または反応後に不溶性になり、および濾別されることができる。しかし、この種の方法は、相対的に非極性の重合体を製造するためにのみ適している。極性重合体、例えばポリメチルメタクリレートを製造する場合には、この重合体は、溶剤中で不溶性である。従って、この方法は、極めて制限されており、極めて特殊な重合に使用可能である。この方法により使用可能な生成物範囲は、後処理条件下で遷移金属錯体の不溶性を生じる、配位子の意図された"設計"によりなお拡大することができ、このことは、例えばLiou et al., Polym. Prep.中に記載されている(Am. Chem. Soc., Div. Poly. Chem., 1999, 40 (2), 第380頁)。これと同様に、JP 2005 105265では、溶解性の変化のために、EDTAと一緒に付加的に錯化剤が添加される。配位子のための価格が極めて高いことは、不利である。また、純粋に処理に付随する沈殿を基礎とする全ての方法が沈殿剤の添加なしに不完全な触媒の除去だけをまねきうることは、当業者には自明のことである。従って、公知技術水準の大抵の方法は、多くの場合に吸着剤として機能する助剤を添加しながらの多工程法である。JP 2002 356510では、相分離下での相応する不利な後処理も見られる。
【0009】
このような多工程法では、しばしば遠心分離が使用される。勿論、前記方法は、大工業的な生産規模では経済的に拡大不可能である。このような工程は、EP 1132410またはJP 2003 119219中に記載されている。
【0010】
更に、電気化学的な方法も記載されている(Nasser-Eddine et al., Macrom. Mat. Eng., 2004, 289 (2), 第204〜207頁)が、しかし、この方法は、単に安全技術的な検討によれば、大容量の処理では使用することができない。
【0011】
更に、重合を既に固体またはゲルで不動態化された触媒を用いて実施するような方法は、公知である(例えば、WO 00/062803;Brittain et al. Polymer. Prepr. (Am. Chem. Soc., Div. Poly. Chem., 2002, 43 (2),第275頁参照)。この方法の欠点は、殊に触媒の調製によって生じる高い費用にある。更に、この種の反応は、不均質な性質およびそれと関連する、鎖長末端による触媒中心の劣悪な達成可能性のために比較的遅速である。
【0012】
相応することは、WO 01/84424に記載の方法にも言えることであり、この場合開始剤は、固体の単体に結合されている。重合後、形成された重合体鎖は、前記の固体担体に依存し、触媒溶液の分離後に分裂される。この方法の主な欠点は、固有の重合を併発する数多くの非経済的な処理工程である。更に、また、前記方法は、濾過および沈殿なしでは不十分である。
【0013】
課題
本発明の課題は、殊に公知技術水準に鑑み、遷移金属錯体を重合体溶液から分離するための大工業的に実現可能な方法を提供することである。同時に、新規方法は、安価で迅速に実施可能であるはずである。更に、本発明の課題は、溶液重合に適した公知の装置を費用を掛けて再建設することなしに実施することができる方法を提供することであった。もう1つの課題は、既に濾過工程後に5ppm未満の遷移金属錯化合物の特に低い残留濃度を実現させることであった。
【0014】
殊に、本発明の課題は、重合の中断後にATRP重合の溶液から遷移金属残基を除去することであった。従って、詳述すれば、金属除去中に重合体の性質を全く変化させず、収量損失が極端に僅かであると記載することができるという課題が課された。更に、詳述すれば、なかんずくATRP生成物の多くの場合に達成される狭い分子量分布は、本発明による処理中、不変のままであるはずであった。
【0015】
本発明のもう1つの視点は、本発明が重合体特性、例えば官能性、ガラス温度、構造、分子量、分枝または別の変法の可能性に依存せずに使用可能であり、前記性質が処理中、同様に不変であることであった。
【0016】
もう1つの課題は、遷移金属残基と一緒に、場合によっては遊離するかまたはいずれにせよ過剰量で存在する配位子を重合体溶液から除去することであった。
【0017】
解決策
前記課題は、遷移金属化合物を適当な沈殿剤の添加により沈殿させ、引続き濾過により分離することにより解決された。
【0018】
反応の中断は、記載されたATRP法では、多くの場合に遷移金属の酸化によって行なわれる。これは、空気酸素の導入または硫酸の添加によって全く簡単に行なうことができる。触媒としての銅の場合には、前記の既に確立された方法でしばしば既に金属錯体の一部分が沈殿する。しかし、この含分では、重合体を後加工するためには不十分である。触媒除去を最適化するという課題は、硫黄化合物、例えばメルカプタンを沈殿剤として添加することによって解決された。
【0019】
更に、本発明の構成成分は、濾過における簡単な変更により、残留硫黄含分を付加的に全く簡単で殆んど完全に除去しうることである。こうして、不快な硫黄化合物に必然的な臭いを全く有しない生成物を得ることができる。
【0020】
意外なことに、適当な硫黄化合物の添加によって、重合体溶液からの銅塩の殆んど完全沈殿が行なわれることが見い出された。更に、沈殿された塩は、極めて簡単に濾過により除去することができる。
【0021】
本発明の大きな利点は、溶液から遷移金属錯体を効率的に除去することである。本発明による方法を使用することによって、遷移金属含量を濾過により少なくとも80質量%、有利に少なくとも95質量%、殊に有利に少なくとも99質量%減少させることが可能である。特殊な実施態様においては、むしろ、本発明による方法の使用によって、遷移金属含量を99.9質量%を上廻るほどに減少させることが可能である。
【0022】
更に、意外なことに、相応する硫黄化合物を遷移金属化合物に対して1.5当量、有利に1.2当量、特に有利に1.1当量の最少の過剰量で使用しなければならないことが見出された。この最少の過剰量それ自体は、重合体溶液中で極めて僅かな残留硫黄含量だけを生じる。
【0023】
沈殿のために、数多くの種々の無機硫黄化合物ならびに有機硫黄化合物およびこれらの混合物が使用されてよい。無機硫黄化合物としては、殊に硫化水素および/または硫化物、例えば硫化アンモニウムが適している。
【0024】
好ましくは、本発明による沈殿剤は、硫黄を有機的結合された形で含有する化合物である。殊に、遷移金属イオンまたは遷移金属錯体の沈殿に使用される前記硫黄含有化合物は、SH基を有する。有機化合物として、殊に有利には、メルカプタンおよび/または1個以上のチオール基を有しおよび/または溶剤条件下で相応するチオール基を形成しうる、官能化されたまたは官能化されていない別の化合物が記載される。この場合には、硫化水素または有機化合物、例えばチオグリコール酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、メルカプトヘキサノール、オクチルチオグリコラート、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、イソオクチルメルカプタンおよび第三ドデシルメルカプタンが重要である。多くの場合に実施される実施例は、商業的に簡単に入手可能な、フリーラジカル重合において調節剤として使用される化合物である。しかし、本発明は、前記化合物に制限されるものではない。むしろ、使用される沈殿剤が−SH−基を有するかまたは−SH−基を重合体溶液の当該条件下で原位置で形成することは、重要なことである。
【0025】
殊に意外なことに、前記硫黄化合物として、フリーラジカル重合から調節剤として公知である化合物を使用しうることが見出された。前記化合物の利点は、簡単な使用可能性、低価格およびそれぞれの重合系への沈殿試薬の最適な適合を可能にする幅広い変法可能性である。調節剤は、フリーラジカル重合に使用され、重合体の分子量を制御する。
【0026】
フリーラジカル重合においては、重合すべきモノマーに対する調節剤の量は、多くの場合に0.05質量%〜5質量%が記載される。本発明においては、使用される硫黄化合物の量は、モノマーに対するものではなく、重合体溶液中での遷移金属化合物の濃度に対するものである。本発明による硫黄含有沈殿剤は、本発明の範囲内で1.5モル当量、有利に1.2モル当量、特に有利に1.1モル当量未満、殊に有利に1.05モル当量未満で使用される。
【0027】
記載されたメルカプタンが重合体溶液への添加の際に重合の中断後に重合体に対して何の影響も及ぼさないことは、当業者には自明のことである。これは、殊に分子量分布、分子量、官能性、ガラス温度、または部分結晶性重合体の場合の溶融温度および構造、例えば分枝またはブロック構造について言えることである。
【0028】
更に、装置的に専ら重合体溶液の濾過に基づく相応する方法が大工業的方法で、存在する溶液重合装置の多大な再建設なしに簡単に実施可能であることは、当業者に自明のことである。
【0029】
更に、本発明の利点は、1回または最大2回の濾過工程に減少させることによって、多くの確立されたシステムと比較して重合体溶液の極めて迅速な後処理を行なうことができることにある。
【0030】
その上、沈殿および引続く濾過は、0℃〜120℃の範囲内の温度で通常の範囲の処理パラメーターで行なわれる。
【0031】
更に、本発明の分野は、遷移金属錯体中に結合されて存在するかまたは過剰の使用または場合による遊離によって重合の中断中に自由に重合体溶液中で存在する配位子を同時に効率的に除去することである。硫黄化合物を金属核に配位することによって、しばしばATRP法で使用される多官能性のアミン配位子が金属中心から脱配位されることは、多分にあり得ることである。こうして、大部分の配位子は、遷移金属と一緒に沈殿される。
【0032】
他の配位子含分を溶液から除去するために、濾過前に微少量の不溶性の、有利に酸性の助剤を添加することができる。この助剤は、例えば無機化合物、例えば酸性の酸化アルミニウム、シリカ、ハイドロタルサイトまたは別の公知の酸性の、有機溶剤中で不溶性の化合物またはこれらの混合物であることができる。しかし、他の選択可能な方法によれば、不溶性の有機ポリ酸、例えばポリアクリル酸またはポリメタクリル酸または不溶性のポリメタクリレート、または高い酸含分を有するポリアクリレートまたはこれらの混合物、またはこれらと前記無機化合物との混合物が添加されてもよい。公知技術水準で記載された、しばしば同一の吸着剤の使用とは異なり、相応する助剤は、本発明による方法において場合によってのみ使用される。更に、公知技術水準の記載された方法とは異なり、明らかに微少量の前記助剤が必要とされる。また、前記助剤の分離は、付加的な濾過工程に制限されるかまたは沈殿された遷移金属化合物の除去と同様に濾過工程で同時に行なうことができる。
【0033】
添加された硫黄化合物および/または配位子を減少させるために、吸着剤または吸着剤混合物は、使用されてよい。これは、平行にかまたは連続した後処理工程で行なうことができる。吸着剤は、公知技術水準から公知であり、特にシリカおよび/または酸化アルミニウム、有機ポリ酸ならびに活性炭の群から選択される。
【0034】
他の選択可能な方法によれば、遊離配位子、例えば多官能性アミンは、活性炭(例えば、Norit社のNorit SX plus)の添加によって減少させることができる。また、活性炭の除去は、特殊な濾過工程または遷移金属除去のために同時の濾過工程で行なうことができる。特に効率的な変法の場合、活性炭は、固体として重合体溶液に添加されず、濾過は、商業的に入手可能な、活性炭で負荷されたフィルターによって行なわれる(例えば、Pall Seitz Schenk社のAKS 5)。また、先に記載された酸性助剤および活性体の添加、または先に記載された助剤の添加および活性炭で負荷されたフィルターを介する濾過の組合せが使用されることができる。
【0035】
更に、本発明の大きな利点は、水性系中での使用可能性にある。また、数多くの遷移金属硫化物は、水中で殆んど零の溶解性を有する。それによって、遷移金属錯体を除去するための記載されたシステムは、エマルション法、ミニエマルション法、マイクロエマルション法および懸濁法に転用可能である。
【0036】
重合体溶液から遷移金属化合物を除去するための、および重合体溶液から配位子を除去するための本発明による方法の問題は、記載された硫黄化合物の使用にある。重合体中に残留する、相応するメルカプト化合物の含量は、重合体の臭いの支障をまねく。また、生成物の色の支障および例えば化粧的使用に関連する制限された使用スペクトルは、不利であろう。従って、本発明による方法の場合、使用されたメルカプト化合物の相応する残基を殆んど完全に除去することは、付加的に重要である。そのために、種々の公知の脱硫方法またはチオール基の温和な酸化は、記載された精製法に続けて考えることができる。
【0037】
しかし、他の選択可能な方法で本発明の特殊な構成成分は、記載されたメルカプタンの過剰の含量を同時に殆んど完全に除去することであり、この場合には、付加的な精製工程を必要としないであろう。一面で、メルカプタンは、遷移金属化合物に対して1.5当量、有利に1.2当量、特に有利に1.1当量の最少の過剰量でのみ使用される。他面、硫黄含有化合物の含量は、付加的に前記配位子を除去するために、記載された酸性の無機および/または有機の不溶性助剤および/または活性炭の使用によっておよび/または活性炭で負荷されているフィルターの使用によって他の作業工程なしに最少化される。
【0038】
本発明は、ATRP法により製造された全ての重合体溶液から遷移金属錯体を除去することに関する。以下、ATRP法からもたらされる可能性は、略して概要が記載される。しかし、この列挙される記載は、ATRP法、ひいては本発明を詳細に記載するためには不適当である。この列挙される記載は、ATRP法の重要な意味および多方面での使用可能性、ひいては本発明の重要な意味および多方面での使用可能性を、相応するATRP生成物の後処理のため、提示するために使用される。
【0039】
ATRP法により重合可能なモノマーは、十分に公知である。以下、1対の例がリストアップされるが、本発明を何らかの形で制限するものではない。この場合、(メタ)アクリレートとの表記法は、(メタ)アクリル酸のエステルを意味し、本明細書中では、メタクリレート、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート等、ならびにアクリレート、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート等、ならびにこれら双方からの混合物を意味する。
【0040】
重合されるモノマーは、(メタ)アクリレート、例えば1〜40個のC原子を有する直鎖状、分枝鎖状または脂環式のアルコールのアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、第三ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、例えばそれぞれ置換されていないかまたは1〜4回置換されたアリール基を有することができるベンジル(メタ)アクリレートまたはフェニル(メタ)アクリレート;〜の群から選択されている。
【0041】
別の芳香族置換された(メタ)アクリレート、例えばナフチル(メタ)アクリレート;5〜C原子を有する、エーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはこれらの混合物のモノ(メタ)アクリレート、例えばテトラヒドロフルフリルメタクリレート、メトキシ(メトキシ)エトキシエチルメタクリレート、1−ブトキシプロピルメタクリレート、シクロヘキシルオキシメチルメタクリレート、ベンジルオキシメチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、2−ブトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、アリルオキシメチルメタクリレート、1−エトキシブチルメタクリレート、1−エトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレートおよびポリ(プロピレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレートの群から選択されている。選択されるモノマーは、それぞれヒドロキシ官能化されたおよび/またはアミノ官能化されたおよび/またはメルカプト官能化されたおよび/またはオレフィン官能化されたアクリレートまたはメタクリレート、例えばアリルメタクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリレートを含んでいてもよい。
【0042】
先に説明した(メタ)アクリレートと共に、重合されうる組成物は、前記の(メタ)アクリレートとATRP法により共重合可能である他の不飽和モノマーも含有していてもよい。これに加えて、なかんずく1−アルケン、例えば1−ヘキセン、1−ヘプテン、分枝鎖状アルケン、例えばビニルシクロヘキサン、3,3−ジメチル−1−プロペン、3−メチル−1−ジイソブチレン、4−メチル−1−ペンテン、アクリルニトリル、ビニルエステル、例えばビニルアセテート、スチレン、ビニル基に対してアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばα−メチルスチレンおよびα−エチルスチレン、環上に1または数個のアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばビニルトルエンおよびp−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロムスチレンおよびテトラブロムスチレン;
ヘテロ環式化合物、例えば2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、3−エチル−4−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、ビニルピリミジン、9−ビニルカルバゾール、3−ビニルカルバゾール、4−ビニルカルバゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、ビニルオキソラン、ビニルフラン、ビニルチオフェン、ビニルチオラン、ビニルチアゾール、ビニルオキサゾールおよびイソプレニルエーテル;マレイン酸誘導体、例えば無水マレイン酸、マレインイミド、メチルマレインイミドおよびジエン、例えばジビニルベンゼン、ならびにそれぞれヒドロキシ官能化されたおよび/またはアミノ官能化されたおよび/またはメルカプト官能化されたおよび/またはオレフィン官能化された化合物が属する。更に、この共重合体は、当該共重合体がヒドロキシ官能性および/またはアミノ官能性および/またはメルカプト官能性および/またはオレフィン官能性を置換基中に有するように製造されてもよい。このようなモノマーは、例えばビニルピペリジン、1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、3−ビニルピロリジン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルブチロラクタム、水素化ビニルチアゾールおよび水素化ビニルオキサゾールである。特に有利には、ビニルエステル、ビニルエーテル、フマレート、マレエート、スチレンまたはアクリロニトリルは、Aブッロクおよび/またはBブロックと共重合される。
【0043】
この方法は、任意のハロゲン不含の溶剤中で実施されてよい。好ましいのは、トルエン、キシレン、H2O、アセテート、特にブチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ケトン、特にエチルメチルケトン、アセトン;エーテル;脂肪族化合物、特にペンタン、ヘキサン;アルコール、特にシクロヘキサノール、ブタノール、ヘキサノールであるが、しかし、バイオディーゼルも好ましい。
【0044】
組成物ABのブロック共重合体は、順次の重合により製出されうる。組成物ABAまたはABCBAのブロック共重合体は、順次の重合および二官能性開始剤での開始により製出される。
【0045】
ATRP法は、溶液重合と共に、エマルション重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合および懸濁重合として実施されてもよい。
【0046】
重合は、常圧、減圧または過圧で実施されることができる。また、重合温度は、重要でない。しかし、一般に、重合温度は、−20℃〜200℃、特に0℃〜130℃、特に有利に50℃〜120℃の範囲内にある。
【0047】
特に、本発明により取得された重合体は、5000g/mol〜120000g/mol、特に有利に50000g/mol未満、殊に有利に7500g/mol〜25000g/molの数平均分子量を有する。
【0048】
分子量分布は、1.8未満、有利に1.6未満、特に有利に1.4未満、理想的には1.2未満であることが見い出された。
【0049】
開始剤としては、ATRP法の重合条件下でラジカル的に転移可能な1個以上の原子または原子団を有する全ての化合物を使用することができる。適当な開始剤は、一般化された次の式:
123C−X、R1C(=O)−X、R123Si−X、R1NX2、R12N−X、(R1nP(O)m−X3-n、(R1O)nP(O)m−X3-nおよび(R1)(R2O)P(O)m−X
〔式中、Xは、Cl、Br、I、OR4、SR4、SeR4、OC(=O)R4、OP(=O)R4、OP(=O)(OR42、OP(=O)R4、O−N(R4)、CN、NC、SCN、NCS、OCN、CNOおよびN3からなる群から選択され(この場合、R4は、炭素原子数1〜20のアルキル基、但し、この場合全ての水素原子は、無関係にハロゲン原子、特に弗化物または塩化物によって代替されていてよいものとし、または炭素原子数2〜20のアルケニル、特にビニル、炭素原子数2〜10のアルケニル、特にアセチレニル、1〜5個のハロゲン原子で置換されていてよいかまたは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基で置換されていてよいフェニル、またはアラルキルを表わす)、この場合R1、R2およびR3は、互いに独立に水素、ハロゲン、1〜20個、特に1〜10個、特に有利に1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、3〜8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、シリル基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基、アミン基、アミド基、COCl、OH、CN、2〜20個の炭素原子、特に2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基またはアルキニル基および特に有利にアリルまたはビニル、オキシラニル、グリシジル、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基またはアルキニル基であり、これらのアルケニル基は、オキシラニルまたはグリシジル、アリール、ヘテロシクリル、アラルキル、アラルケニル(アリール置換アルケニル)であり、この場合アリールは、前記と同様に定義されかつアルケニルビニルであり、このアルケニルビニルは、水素原子の1個または全部、特に1個がハロゲンによって置換されている(特に1個または多数の水素原子が代替されている場合には弗素または塩素、および有利に1個の水素原子が代替されている場合には、弗素、臭素または臭素)1または2個のC1〜C6アルキル基;C1〜C4アルコキシ、アリール、ヘテロシクリル、ケチル、アセチル、アミン、アミド、オキシラニルおよびグリシジルからなる群から選択された1〜3個の置換基(特に1個)で置換されているアルケニル基であり、mは0または1であり;mは0、1、2である〕を含む。特に、基R1、R2およびR3の2個以下は、水素であり、特に有利に基R1、R2およびR3の最大1個は、水素である。
【0050】
特に好ましい開始剤には、ベンジルハロゲン化物、例えばp−クロロメチルスチレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−i−フェニルエタンおよび1−クロロ−i−フェニルエタンが属する。更に、特に好ましいのは、α位でハロゲン化されているカルボン酸誘導体、例えばプロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネートまたはエチル−2−ブロモイソブチレートである。トシルハロゲン化物、例えばp−トルエンスルホニルクロリド;アルキルハロゲン化物、例えばテトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリドまたは1−ビニルエチルブロミド;および燐酸エステルのハロゲン誘導体、例えばデメチル燐酸クロリドも好ましい。
【0051】
ブロック共重合体の合成に適した、開始剤の特殊な群は、マクロ開始剤である。このマクロ開始剤は、基R1、R2およびR3からの1〜3個、有利に1〜2個、特に有利に1個の基がマクロ分子基であることを示す。このマクロ基は、ポリオレフィン、例えばポリエチレンまたはポリプロピレン;ポリシロキサン;ポリエーテル、例えばポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシド;ポリエーテル、例えばポリ乳酸または別の公知の末端基官能化可能なマクロ分子の群から選択されていてよい。この場合、マクロ分子基は、それぞれ500〜100000、有利に1000〜50000、特に有利に1500〜20000の分子量を有することができる。また、両端部に開始剤として適した基を、例えばブロモテレケレ(Bromtelechele)の形で有する前記マクロ分子をATRPの開始のために使用することが可能である。この種のマクロ開始剤を用いると、ABAトリブロック共重合体を形成させることが可能である。
【0052】
開始剤のもう1つの重要な群は、二官能性または多官能性開始剤である。多官能性開始剤分子を用いると、例えばスターポリマーを合成することが可能である。二官能性開始剤分子を用いると、三ブロック共重合体または五ブロック共重合体およびテレケレ(telechele)ポリマーが製出可能である。二官能性開始剤としては、RO2C−CHX−(CH2n−CHX−CO2R、RO2C−C(CH3)X−(CH2n−C(CH3)X−CO2R、RO2C−CX2−(CH2n−CX2−CO2R、RC(O)−CHX−(CH2n−CHX−C(O)R、RC(O)−C(CH3)X−(CH2n−C(CH)3X−C(O)R、RC(O)−CX2−(CH2n−CX2−C(O)R、XCH2−CO2−(CH2n−OC(O)CH2X、CH3CHX−CO2−(CH2n−OC(O)CHXCH3、(CH32CX−CO2−(CH2n−OC(O)CX(CH32、X2CH−CO2−(CH2n−OC(O)CHX2、CH3CX2−CO2−(CH2n−OC(O)CX2CH3、XCH2C(O)C(O)CH2X、CH3CHXC(O)C(O)CHXCH3、XC(CH32C(O)C(O)CX(CH32、X2CHX(O)C(O)CHX2、CH3CX2C(O)C(O)CX2CH3、XCH2−C(O)−CH2X、CH3−CHX−C(O)−CHX−CH3、CX(CH32−C(O)−CX(CH32、X2CH−C(O)−CHX2、C65−CHX−(CH2n−CHX−C65、C65−CX2−(CH2n−CX2−C65、C65−CX2−(CH2n−CX2−C65、o−、m−またはp−XCH2−Ph−CH2X、o−、m−またはp−CH3CHX−Ph−CHXCH3、o−、m−またはp−(CH32CX−Ph−CX(CH32、o−、m−またはp−CH3CX2−Ph−CX2CH3、o−、m−またはp−X2CH−Ph−CHX2、o−、m−またはp−XCH2−CO2−Ph−OC(O)CH2X、o−、m−またはp−CH3CHX−CO2−Ph−OC(O)CHXCH3、o−、m−またはp−(CH32CX−CO2−Ph−OC(O)CX(CH32、CH3CX2−CO2−Ph−OC(O)CX2CH3、o−、m−またはp−X2CH−CO2−Ph−OC(O)CHX2またはo−、m−またはp−XSO−Ph−SOX(Xは、塩素、臭素または沃素を表わし;Phは、フェニレン(C64)を表わし;Rは、直鎖状、分枝鎖状または環状の構造であってよい、1〜20個の炭素原子からなる脂肪族基を表わし、飽和またはモノもしくはポリの不飽和であることができ、1つ以上の芳香族化合物を含有してもよいし、芳香族化合物不含であってもよく、nは、0〜20の数である)を使用することができる。特に、1,4−ブタノールジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)、1,2−エチレングリコール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)、2,5−ジブロモ−アジピン酸−ジ−エチルエステルまたは2,3−ジブロモ−マレイン酸−ジ−エチルエステルが使用される。全部のモノマーが使用される場合には、開始剤とモノマーとの比から後の分子量が判明する。
【0053】
ATRPのための触媒は、Chem. Rev. 2001, 101, 2921中に記載されている。主に、銅錯体が記載されているが、しかし、特に、鉄化合物、コバルト化合物、クロム化合物、マンガン化合物、モリブデン化合物、銀化合物、亜鉛化合物、パラジウム化合物、ロジウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、イリジウム化合物、イッテルビウム化合物、サマリウム化合物、レニウム化合物および/またはニッケル化合物が使用される。一般に、開始剤でレドックス環状化合物を形成することができるかまたは転移可能な原子団を有する重合体鎖でレドックス環状化合物を形成することができる全ての遷移金属化合物が使用されてよい。そのために、銅は、例えばCu2O、CuBr、CuCl、CuI、CuN3、CuSCN、CuCN、CuNO2、CuNO3、CuBF4、Cu(CH3COO)またはCu(CF3COO)から出発して系に供給されることができる。
【0054】
記載されたATRPに対して他の選択可能な方法は、同様の1つの変法を表わす:所謂逆ATRP法においては、化合物は、よりいっそう高度な酸化段階、例えばCuBr2、CuCl2、CuO、CrCl3、Fe23またはFeBr3で使用されることができる。この場合には、反応は、古典的なラジカル形成剤、例えばAIBNにより開始されることができる。この場合、遷移金属化合物は、最初に還元される。それというのも、この遷移金属化合物は、古典的なラジカル形成剤から形成されたラジカルと反応されるからである。この逆ATRP法は、なかんずくWangおよびMatyjaszewskiによってMacromolekules (1995), 第28巻, 第7572頁以降に記載されている。
【0055】
この逆ATRP法の1つの変法は、金属を酸化段階零で付加的に使用することである。よりいっそう高度な酸化段階の遷移金属化合物との均等化(Komproportionierung)を採用することにより、反応速度の加速が生じる。この方法は、WO 98/40415中に詳細に記載されている。
【0056】
遷移金属と一官能性開始剤とのモル比は、一般に0.01:1〜10:1の範囲内、特に0.1:1〜3:1の範囲内、特に有利に0.5:1〜2:1の範囲内にあり、この場合、これによって制限が生じることはない。
【0057】
遷移金属と二官能性開始剤とのモル比は、一般に0.02:120:1の範囲内、特に0.2:1〜6:1の範囲内、特に有利に1:1〜4:1の範囲内にあり、この場合、これによって制限が生じることはない。
【0058】
有機溶剤中での金属の溶解度を上昇させ、同時に安定性の、そのため重合不活性の有機金属化合物の形成を回避させるために、配位子が系に添加される。付加的に、配位子は、転移可能な原子団の抽象化を遷移金属化合物によって簡易化する。リストアップされた公知の配位子は、例えばWO 97/18247、WO 97/47661またはWO 98/40415中に見出される。配位子として使用される化合物は、多くの場合に1つ以上の窒素原子、酸素原子、燐原子および/または硫黄原子を配位成分として有する。この場合、特に好ましいのは、窒素含有化合物である。殊に好ましいのは、窒素含有キレート配位子である。例として、2,2′−ビピリジン、N,N,N’,N’’,N’’’−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス(2−アミノエチル)アミン(TREN)、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンまたは1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミンが記載される。個々の成分の選択および組合せに関する価値のある指摘は、当業者にとってWO 98/40415中に見出せる。
【0059】
この配位子は、原位置で金属化合物と配位化合物を形成することができるかまたは最初に配位化合物として形成され、引続き反応混合物中に添加することができる。
【0060】
配位子(L)と遷移金属との比は、配位子の座および遷移金属(M)の配位数に依存する。一般に、モル比は、100:1〜0.1:1、特に6:1〜0.1:1、特に有利に3:1〜1:1の範囲内にあり、この場合、これによって制限が生じることはない。
【0061】
本発明により後処理された生成物には、幅広の使用分野が存在する。使用例の選択は、本発明による重合体の使用を制限するために不適当である。実施例は、無作為抽出検査と同様に記載された重合体の幅広い使用可能性を表わすために唯一使用される。例えば、ATRP法により合成された重合体は、ホットメルト、接着材料、シール材料、ヒートシール材料におけるプレポリマーとして使用されるか、重合体類似の反応のために使用されるか、またはブロック共重合体の形成に使用される。また、重合体は、化粧的使用のための調製物中、被覆材料中、分散剤として、重合体添加剤として、相容性助剤としてまたは包装に使用される。
【0062】
次に記載の実施例は、本発明をより良好に説明するためのものであるが、しかしながら本発明をこれに開示された特徴に限定するためには適していない。
【0063】
実施例
実施例1
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および滴下漏斗を備えた二重外被容器中に、N2雰囲気下でn−ブチルアクリレート15g、ブチルアセテート15.5g、酸化銅(I)0.2gおよびPMDETA0.5gを装入した。この溶液を60℃で15分間攪拌する。引続き、同じ温度で1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)0.47gを添加する。この混合物を70℃で4時間の重合時間の間、攪拌する。空気酸素の導入から約5分後に、反応の中断時にチオグリコール酸0.28gを添加する。先に緑色の溶液は、自然発生的にアンズ色に変色し、赤色の沈殿物が析出沈殿する。濾過は、過圧濾過により行なわれる。最終的に、平均分子量および分子量分布をSEC測定によって測定する。引続き、濾液の乾燥した試料から、AASにより銅含量を測定する。
【0064】
残留する溶液にTonsil Optimum 210 FF8g(Suedchemie社)を添加し、30分間攪拌し、引続き過圧下で活性炭フィルター(Pall Seitz Shenk社のAKS 5)を介して濾過する。また、この画分からAASにより乾燥した試料の銅含量を測定し、GPC測定を行なう。
【0065】
実施例2
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および滴下漏斗を備えた二重外被容器中に、N2雰囲気下でn−ブチルアクリレート15g、ブチルアセテート15.5g、酸化銅(I)0.2gおよびPMDETA0.5gを装入した。この溶液を60℃で15分間攪拌する。引続き、同じ温度で1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)0.49gを添加する。この混合物を70℃で4時間の重合時間の間、攪拌する。空気酸素の導入から約5分後に、反応の中断時にn−ドデシルメルカプタン0.8gを添加する。先に緑色の溶液は、自然発生的に赤色に変色し、赤色の沈殿物が析出沈殿する。濾過は、過圧濾過により行なわれる。最終的に、平均分子量および分子量分布をSEC測定によって測定する。引続き、濾液の乾燥した試料から、AASにより銅含量を測定する。
【0066】
残留する溶液にTonsil Optimum 210 FF8g(Suedchemie社)を添加し、30分間攪拌し、引続き過圧下で活性炭フィルター(Pall Seitz Shenk社のAKS 5)を介して濾過する。また、この画分からAASにより乾燥した試料の銅含量を測定し、GPC測定を行なう。
【0067】
比較例1
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および滴下漏斗を備えた二重外被容器中に、N2雰囲気下でn−ブチルアクリレート15g、ブチルアセテート15.5g、酸化銅(I)0.2gおよびPMDETA0.5gを装入した。この溶液を60℃で15分間攪拌する。引続き、同じ温度で1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)0.48gを添加する。この混合物を70℃で4時間の重合時間の間、攪拌する。空気酸素の導入から約5分後に、反応の中断時に溶液にTonsil Optimum 210 FF8g(Suedchemie社)および水4質量%を添加し、60分間攪拌する。引続き、濾過を加圧下で活性炭フィルター(Pall Seitz Shenk社のAKS 5)を介して濾過する。最終的に、平均分子量および分子量分布をSEC測定によって測定する。引続き、濾液の乾燥した試料から、AASにより銅含量を測定する。
【0068】
実施例3
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および滴下漏斗を備えた二重外被容器中に、N2雰囲気下でメチルメタクリレート10g、ブチルアセテート15.8g、酸化銅(I)0.2gおよびPMDETA0.5gを装入した。この溶液を60℃で15分間攪拌する。引続き、同じ温度で1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)0.47gを添加する。この混合物を70℃で4時間の重合時間の間、攪拌する。空気酸素の導入から約5分後に、反応の中断時に2−メルカプトエタノール0.4gを添加する。先に緑色の溶液は、自然発生的に赤色に変色し、赤色の沈殿物が析出沈殿する。濾過は、過圧濾過により行なわれる。最終的に、平均分子量および分子量分布をSEC測定によって測定する。引続き、濾液の乾燥した試料から、AASにより銅含量を測定する。
【0069】
残留する溶液にTonsil Optimum 210 FF8g(Suedchemie社)を添加し、30分間攪拌し、引続き過圧下で活性炭フィルター(Pall Seitz Shenk社のAKS 5)を介して濾過する。また、この画分からAASにより乾燥した試料の銅含量を測定し、GPC測定を行なう。
【0070】
比較例2
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および滴下漏斗を備えた二重外被容器中に、N2雰囲気下でメチルメタクリレート10g、ブチルアセテート15.8g、酸化銅(I)0.2gおよびPMDETA0.5gを装入した。この溶液を60℃で15分間攪拌する。引続き、同じ温度で1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)0.47gを添加する。この混合物を70℃で4時間の重合時間の間、攪拌する。空気酸素の導入から約5分後に、反応の中断時に溶液にTonsil Optimum 210 FF8g(Suedchemie社)および水4質量%を添加し、60分間攪拌する。引続き、濾過を過圧濾過により活性炭フィルター(Pall Seitz Shenk社のAKS 5)を介して行なう。最終的に、平均分子量および分子量分布をSEC測定によって測定する。引続き、濾液の乾燥した試料から、AASにより銅含量を測定する。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例から、重合体溶液からの遷移金属錯体(この場合には銅錯体)の除去のための吸着剤での既に極めて良好な結果は、硫黄化合物での先行する沈殿によって明らかに改善されうることが判明する。本発明を何らかの方法で制限するために使用された訳ではない記載された実施例において、フリーラジカル重合で調節剤として使用される、3つの種々のメルカプタンは、沈殿に使用された。
【0073】
当該の実施例は、ATRP法に対するものであった。この場合、重合パラメーターは、特に高い同濃度で作業されなければならないように選択された:低い分子量、50%の溶液および二官能性開始剤。
【0074】
実施例1に対する結果から、相応する硫黄化合物は、遷移金属化合物に対して既に最少の過剰量で使用され、極めて効率的な沈殿を生じることが確認される。実施例から、チオールで官能化された全ての試薬を用いると、吸着剤で既に最適化された後処理によって可能である場合よりも、溶液からの遷移金属化合物の効率的な除去が実現可能であることが確認される。それにも拘わらず、沈殿剤を適当に選択することによって、それぞれの結果は、なお向上させることができる。即ち、非極性媒体中での極性メルカプタン、例えばTGSの使用は、恐らくよりいっそう効果的である。反対に、非極性沈殿剤、例えばn−DDMは、極性媒体中でよりいっそう好適である。また、付加的な官能基、例えばアルコール基(MEOH)または酸基(TGS)は、過剰の硫黄化合物の除去を上昇させることができる。
【0075】
表中で、残留硫黄含量に関する記載から、既に満足すべき除去は、明らかである。更に、本発明による方法の範囲内での変動により、分離効率の上昇は、実現可能である。
【0076】
後処理前および後処理後の分子量と分子量分布との比較から、全ての実施例および比較例の記載から、使用された方法は、重合体特性に影響を及ぼさないことが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する方法において、遷移金属化合物を適当な沈殿剤の添加により沈殿させ、引続き濾過により分離し、および沈殿剤が硫黄化合物であることを特徴とする、原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する方法。
【請求項2】
原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する方法において、硫黄化合物は、硫化水素、無機硫化物、メルカプタンまたはチオール基を有する化合物であることを特徴とする、原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する方法。
【請求項3】
原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項2記載の方法において、硫黄化合物は、フリーラジカル重合技術で常用の調節剤であることを特徴とする、原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項2記載の方法。
【請求項4】
原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、遷移金属化合物を重合の中断後に沈殿することを特徴とする、原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項1記載の方法において、遷移金属化合物の濃度に対して沈殿剤1.5モル等量を使用することを特徴とする、原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項1記載の方法。
【請求項6】
原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項5記載の方法において、遷移金属化合物の濃度に対して沈殿剤最大1.1モル等量を使用することを特徴とする、原子移動ラジカル重合(ATRP)により重合体溶液から遷移金属化合物を分離する請求項5記載の方法。
【請求項7】
重合に触媒として使用される遷移金属化合物は、銅化合物、鉄化合物、コバルト化合物、クロム化合物、マンガン化合物、モリブデン化合物、銀化合物、亜鉛化合物、パラジウム化合物、ロジウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、イリジウム化合物、イッテルビウム化合物、サマリウム化合物、レニウム化合物および/またはニッケル化合物である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
重合に触媒として使用される遷移金属化合物は、銅化合物である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
銅化合物をCu2O、CuBr、CuCl、CuI、CuN3、CuSCN、CuCN、CuNO2、CuNO3、CuBF4、Cu(CH3COO)および/またはCu(CF3COO)として系に重合前に添加した、請求項8記載の方法。
【請求項10】
触媒を重合前に、遷移金属との1つ以上の配位結合により金属−配位子−錯体を生じうる窒素含有化合物、酸素含有化合物、硫黄含有化合物または燐含有化合物と一緒にもたらす、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
配位子としてN含有キレート配位子を使用する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
先行する重合で、Cl、Br、I、SCNおよび/またはN3を含有する開始剤を使用する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
開始剤は、活性基に関連して1価、2価または多価であることができる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
重合体を、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、スチレン、ビニルエステル、ビニルエーテル、フマレート、マレエート、イタコネート、アクリロニトリルおよび/またはATRP法により重合可能な別のモノマーおよび/またはアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルエステル、ビニルエーテル、フマレート、マレエート、イタコネート、スチレン、アクリロニトリルおよび/またはATRP法により重合可能な別のモノマーからなる混合物の重合によって得ることができる、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
重合体を、アルキルアクリレートおよび/またはアルキルメタクリレートおよび/または主にアルキルアクリレートおよび/またはアルキルメタクリレートからなる混合物の重合によって得ることができる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
重合体は、5000g/mol〜120000g/molの数平均分子量を有する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
重合体は、1.8未満の分子量分布を有する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
重合体は、1.4未満の分子量分布を有する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
重合体は、遷移金属化合物の除去後に重合体特性官能価、ガラス温度、構造、分子量、枝分れおよび/または分子量分布に関連する変化を全く有しない、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
沈殿および引続く濾過を0℃〜120℃の範囲内の温度で実施する、請求項1から19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
重合体溶液中の金属含量は、沈殿および引続く濾過によって少なくとも80質量%減少する、請求項1から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
重合体溶液中の金属含量は、沈殿および引続く濾過によって少なくとも95質量%減少する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
添加された硫黄化合物を減少させるために、吸着剤または吸着剤混合物を使用する、請求項1から22までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
添加された硫黄化合物を減少させるために、同時に吸着剤または吸着剤混合物を使用する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
添加された硫黄化合物を減少させるために、第2の後処理工程で吸着剤または吸着剤混合物を使用する、請求項23記載の方法。
【請求項26】
添加された配位子を減少させるために、吸着剤または吸着剤混合物を使用する、請求項1から25までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
添加された配位子を減少させるために、同時に吸着剤または吸着剤混合物を使用する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
添加された配位子を減少させるために、第2の後処理工程で吸着剤または吸着剤混合物を使用する、請求項26記載の方法。
【請求項29】
吸着剤または吸着剤混合物は、シリカおよび/または酸化アルミニウムである、請求項23から28までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
吸着剤または吸着剤混合物は、有機ポリ酸である、請求項23から28までのいずれか1項に記載の方法
【請求項31】
吸着剤または吸着剤混合物は、活性炭である、請求項23から28までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
活性炭は、活性炭フィルターの形で濾過の際に使用される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
ホットメルト、接着材料、シール材料、ヒートシール材料中、重合体類似の反応のため、化粧的使用のため、被覆材料中、分散剤として、重合体添加剤として、または包装への、請求項1から32までのいずれか1項の記載により後処理された重合体の使用。

【公表番号】特表2009−532542(P2009−532542A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503505(P2009−503505)
【出願日】平成19年2月12日(2007.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051304
【国際公開番号】WO2007/115848
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】