説明

硬化性組成物

本発明は、高分子系における硬化剤としての式(I)の1,5−エンジイン化合物の用途に関する。詳しくは、本発明は、式(I)の硬化剤と、架橋されるために適するポリマーとを含む硬化性組成物およびこの硬化性組成物から得られた硬化された物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年12月23日出願の欧州特許出願第09180544.0号明細書に対する優先権を主張するものである。この特許出願の全内容は、すべての目的のために本明細書において援用される。
【0002】
本発明は、高分子系における硬化剤としての1,5−エンジイン化合物の用途に関する。詳しくは、本発明は、1,5−エンジイン硬化剤と、架橋されるために適するポリマーとを含む硬化性組成物およびこの硬化性組成物から得られた硬化された物品に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリマーの架橋または硬化は長年にわたり知られてきた。硬化または架橋は、一般にポリマーに強度と安定性を与える、ポリマー鎖を共有結合で橋架けする三次元構造を作り出す。ポリマー系の架橋は、典型的には、照射(例えば、電子線照射)によってまたは適する硬化剤の添加、例えば、ゴムの加硫における硫黄の添加によって行われる。
【0004】
少なくとも1個の1,5−エンジイン部分を含む化合物をポリマー系における硬化剤として使用できることが今見出された。
【0005】
1,5−エンジイン部分を含む化合物は、電子用途における使用のための高度に共役されたポリマー網目の調製のためのモノマーとして記載されてきた。例えば、特許文献1および特許文献2の両方は、芳香族エンジイン誘導体を単独重合することにより得られた半導体薄膜を開示している。
【0006】
同様に、特許文献3は、式(R−C≡C)Ar−L−[Ar(C≡C−R)(式中、各Arは芳香族基であり、各Rは独立してアルキル、アリールであり、Lは、1個のAr基を少なくとも1個の他のAr基に連結する共有結合または基であり、nおよびmは少なくとも2の整数であり、qは少なくとも1の整数である)のエチニル置換芳香族化合物の重合から誘導されたポリマーから得られた少なくとも1層の層を含む塗膜または積層物を開示している。
【0007】
非特許文献1は、メチルメタクリレートと、メチルメタクリレート官能基を有する1,5−エンジイン部分を含むモノマーとから誘導された反復単位を含むコポリマーを開示している。1,5−エンジイン部分は、メチルメタクリレート官能基によってポリ(メチルメタクリレート)ポリマー鎖に導入される。1,5−エンジイン部分を含むコポリマーは、架橋高分子網目を提供する追加のメチルメタクリレートモノマー単位の重合を促進するためにラジカル開始剤として用いられる。一方の側にポリマーと、他方の側に1,5−エンジイン部分とを含む化合物とを含む組成物の開示はなされていない。
【0008】
先行技術文書のいずれも、高分子系における硬化剤としての1,5−エンジイン化合物の用途を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0116452号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0120120号明細書
【特許文献3】米国特許第6,121,495号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C.R.Hickenboth、J.D.Rule、J.S.Moore著、Tetrahedron、64(2008年)8435〜8448
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明は、高分子系における硬化剤としての少なくとも1個の1,5−エンジイン部分を含む化合物の用途に関する。
【0012】
第1の態様において、本発明は、
(a)少なくとも1種のポリマー(P)と
(b)式(I)
【化1】

[式中、式(I)中の互いに同じかまたは異なる各Rは、水素、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキル、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20オキシアルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基、−SiR、−(RSiO)、−PR(式中、互いに同じかまたは異なる各Rは、水素、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキルからなる群から独立して選択され、bは少なくとも1の整数である)からなる群から独立して選択される]
の少なくとも1種の硬化剤と
を含む硬化性組成物に関する。
【0013】
式(I)において、互いに同じかまたは異なるAおよびAは、水素、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキル、好ましくはC〜C10アルキル、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20オキシアルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、−(RSiO)(式中、Rおよびbは上で定義された通りである)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基からなる群からそれぞれ独立して選択され、AおよびAは、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよいアルキルまたは芳香族環式構造に含まれてもよい。
【0014】
本発明の実施形態において、硬化剤は、式(II)
【化2】

[式中、互いに同じかまたは異なる各Rは上で定義された通りであり、Xは、炭素−炭素結合、場合により置換されていてもよい(例えば、−C(CH−)および/または場合によりフッ素化されていてもよい(例えば、−(CF−、−C(CF−)C〜C20アルキレン基、2価(パー)フルオロポリエーテル基、オルガノポリシロキサン基−(RSiO)−(式中、Rおよびbは、上で定義された通りである)、−O−基、−S−基、−SO−基、−C(O)−基、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい縮合芳香族構造または縮合ヘテロ芳香族構造から選択された二価橋架け基である]の化合物から選択される。
【0015】
式(I)および式(II)中の隣接炭素原子上のエチニル基は、熱を加えると二量化して、1,4−二ラジカルを有する芳香族環を形成することが知られている。理論に縛られない一方で、Science、268、(1995年)、pp.814〜816においてWarnerらによって開示されたものなどのBergman環化反応を介して架橋プロセスまたは硬化プロセスを1,4−二ラジカルが促進する場合があることが考えられる。
【0016】
ポリマー(P)は架橋されるために適するポリマーである。好ましいポリマー(P)は、ラジカル開始メカニズムを介して架橋されるために適するポリマーである。より好ましいポリマー(P)はフルオロポリマーである。第1の実施形態において、ポリマー(P)はフルオロエラストマーである。第2の実施形態において、ポリマー(P)は半結晶性フルオロポリマーである。
【0017】
別の態様において、本発明は、硬化性組成物を調製する方法であって、
(a)少なくとも1種のポリマー(P)と
(b)式(I)の少なくとも1種の硬化剤と
を混合することを含む方法に関する。
【0018】
硬化剤は、上の式(II)の化合物から好都合に選択してもよい。
【0019】
別の態様において、本発明は、組成物を加熱することを含む硬化性組成物を硬化させる方法に関する。架橋プロセスまたは硬化プロセスの前に、式(I)または(II)の硬化剤とポリマー(P)との間に化学結合は存在せず、前記化学結合の形成は、硬化剤のエチニル基によって発生する1,4−二ラジカルによって開始される。
【0020】
更なる態様において、本発明は、硬化された物品を製造する方法であって、(a)少なくとも1種のポリマー(P)と(b)式(I)の少なくとも1種の硬化剤の組成物を提供する工程と、この組成物を造形する工程と、この造形された組成物を硬化させて物品を形成する工程と、場合により、この物品を後硬化させる工程とを含む方法に関する。
【0021】
硬化剤は、上の式(II)の化合物から好都合に選択してもよい。
【0022】
出願人は、式(II)の化合物を含む式(I)の化合物から選択された硬化剤が、追加の開始剤、促進剤または共薬剤を全く使用することを必要とせずに高分子材料の熱開始硬化において有効であることを見出した。
【0023】
定義
【0024】
「架橋」という用語は、1つのポリマー鎖を別のポリマー鎖に橋架けする共有化学結合を意味するために本明細書において用いられる。
【0025】
「架橋」または「硬化」という用語は、架橋によって2個以上のポリマー分子を化学的に接続する方法を意味するために本明細書において用いられる。
【0026】
「硬化剤」は、ポリマーおよび/またはポリマー組成物に添加されて、架橋または硬化を促進する物質として本明細書において定義される。
【0027】
発明の開示
従って、本発明の目的は、
(a)少なくとも1種のポリマー(P)と
(b)式(I)
【化3】

の少なくとも1種の硬化剤と
を含む硬化性組成物を提供することである。
【0028】
「少なくとも1種」という言葉は、本発明の硬化性組成物中の硬化剤に言及する時、各タイプの1種または複数種の硬化剤が組成物中に存在することができることを示すために本明細書において用いられる。以後、「硬化剤」という表現は、1種または複数種の硬化剤の両方を意味するために用いることとする。
【0029】
同様に、「少なくとも1種」という言葉は、本発明の硬化性組成物中のポリマー(P)に言及する時、各タイプの1種以上のポリマー(P)が組成物中に存在することができることを示すために本明細書において用いられる。以後、「ポリマーP」という表現は、1種以上のポリマー(P)を意味するために用いることとする。
【0030】
互いに同じかまたは異なる式(I)中の各Rは、水素、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキル、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20オキシアルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基、−SiR、−(RSiO)、−PR(式中、互いに同じかまたは異なる各Rは、水素、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキルからなる群から独立して選択され、bは少なくとも1の整数である)からなる群から独立して選択される。R基は環式構造に含まれてもよい。
【0031】
各R基の特性は本発明にとって特に重大ではない。しかし、R基のサイズは、立体障害のゆえに、エチニル基の二量化反応を好ましくなく妨害する場合がある。一般に、熱処理するとエチニル基の反応から1,4−二ラジカルを形成させるのを妨げないいかなるR基も式(I)または(II)の化合物中で用いることが可能である。
【0032】
好ましくは、各R基は、水素、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜Cアルキル、例えば、−CH、−C(CH、−CF、−C、−C、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC−Cオキシアルキル、例えば、−OCH、−OCF、(パー)フルオロポリエーテル鎖、−(RSiO)(式中、bおよびRは、上で定義された通りである)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基から選択してもよい。好ましくは、R基は環式構造に含まれない。
【0033】
芳香族である時、各R基は、1〜20個の炭素原子、より好ましくは6〜15個の炭素原子、なおより好ましくは、6〜10個の炭素原子を有する。芳香族である時、Rは、好ましくは、非置換フェニル基または置換フェニル基、例えば、1個以上のフッ素原子で置換されたフェニル基または場合によりフッ素化されていてもよいC−Cのアルキル基もしくはオキシアルキル基、例えば、−CH、−CF、−OCH、−OCFで置換されたフェニル基である。なおより好ましくは、芳香族である時、Rは非置換フェニル基である。
【0034】
各R基は、(パー)フルオロポリエーテル鎖であってもよい。適する(パー)フルオロポリエーテル鎖は、式−R−O−Tによって表してもよい。式中、Tは、フッ素原子、塩素原子;、および1個以上の水素原子または塩素原子を場合により含むC−C(パー)フルオロアルキル基から選択され、zは0または1に等しく、Rは、以下から選択された二価(パー)フルオロポリエーテル基である。
− −(CFCFO)(CFO)−(式中、pおよびqは、p/q比が0.2〜4の間であるような整数であり、pは零とは異なる)
− −(CFCF(CF)O)−(CFCFO)−(CFXO)−(式中、Xはフッ素原子または−CFであり、rおよびsは、t+sが1〜50の間であるような整数であり、t/(r+s)比は、0.01〜0.05の間であり、(r+s)は零とは異なる)
− −(CF(CF)CFO)−R’O−(CF(CF)CFO)−(式中、R’は、C−C二官能性パーフルオロアルキル基であり、uは少なくとも1の整数である)
− −(CFXO)−(CFCF(CF)O)−R’O−(CFCF(CF)O)−(CFXO)−(式中、R’、r、tおよびXは上述した通りである)
− −(CF(CFCFO)−(式中、vは少なくとも1の整数であり、xは1または2に等しい整数である)
− −(CFCFCHO)−R’O−(CHCFCFO)−(式中、R’は上述した通りであり、wは少なくとも1の整数である)
【0035】
典型的には、上述した式中のp、q、r、s、t、u、v、wおよびxは、(パー)フルオロポリエーテル基Rの数平均分子量が、500〜10,000の間、好ましくは800〜5000の間であるように選択される。
【0036】
式(I)において、互いに同じかまたは異なるAおよびAは、水素、ハロゲン、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキル、好ましくはC〜C10アルキル、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20オキシアルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、−(RSiO)(式中、Rおよびbは定義された通りである)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基からなる群からそれぞれ独立して選択され、AおよびAは、場合により1,5−エンジイン部分を含む。
【0037】
およびAは、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよいアルキルまたは
【化4】

などの芳香族環式構造に含まれてもよい。
【0038】
およびAが、アルキルの部分または好ましくは芳香族環式構造の部分である時、この構造は、炭素原子のいずれかの上で場合により置換されていてもよい。
【0039】
好ましくは、互いに同じかまたは異なるAおよびAは、水素、直鎖または分枝のフッ素化C〜C20アルキル、好ましくはフッ素化C〜C10アルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、−(RSiO)(式中、bおよびRは上で定義された通りである)、非置換または置換フェニルからなる群から選択される。より好ましくは、AおよびAの少なくとも1方は、上で定義されたような(パー)フルオロポリエーテル鎖または−(RSiO)である。
【0040】
もしくは、AおよびAは、芳香族環式構造の部分、好ましくは6〜10個の炭素原子を有する芳香族環式構造の部分、より好ましくは非置換または置換のフェニル環の部分である。
【0041】
式(I)
【化5】

の化合物の代表的な例は以下を含むが、以下に限定されない。
【0042】
本発明の実施形態において、硬化剤は、式(II)
【化6】

(式中、互いに同じかまたは異なる式(II)中の各Rは上で定義された通りである)によって表される式(I)の化合物の中から選択される。
【0043】
Xは、炭素−炭素結合、場合により置換されていてもよい(例えば、−C(CH−)および/または場合によりフッ素化されていてもよい(例えば、−(CF−、C(CF−)C〜C20アルキレン基、上で定義されたような2価(パー)フルオロポリエーテル基R、オルガノポリシロキサン基−(RSiO)−(式中、Rおよびbは上で定義された通りである)、−O−基、−S−基、−SO−基、−C(O)−基、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい縮合芳香族構造または縮合ヘテロ芳香族構造から選択された二価橋架け基である。
【0044】
好ましくは、二価橋架け基Xは、炭素−炭素結合、−C(CH−などの場合により置換されていてもよいC−C20アルキレン基、場合により置換されていてもよいC−C20場合によりフッ素化アルキレン基、二価(パー)フルオロポリエーテル基R、オルガノシロキサン基−(RSiO)−、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい縮合芳香族構造または縮合ヘテロ芳香族構造から選択してもよい。より好ましくは、Xは、場合により置換されていてもよいC−C20フッ素化アルキレン基、または上で定義されたような2価(パー)フルオロポリエーテル基Rから選択される。
【0045】
適するC−C20フッ素化アルキレン基は、例えば、−C(CF−、または式−(CF−のC−C20フッ素化アルキレン基であり、式中、nは、1〜20の整数、例えば、2、3、4、6、8、10、12、14、16、18、20である。
【0046】
式(II)の化合物の代表的な例は、
【化7】

を含むが、これらに限定されない。
【0047】
式(I)または式(II)の化合物は、Smith,D.W.、Babb,D.A.著;J.Am Chem.Soc.120、n.35、(1998年)9078〜9079、またはBasak,A.、Mandal,S.、Bag,S.S.著;Chemical Rev.103(2003年)4077−4094において記載された方法などの既知の方法に従い調製することが可能である。
【0048】
硬化性組成物中の式(I)の硬化剤の量は、ポリマー(P)100部当たり有利には少なくとも0.1重量部、好ましくは少なくとも0.5重量部、より好ましくは少なくとも1重量部である。
【0049】
硬化剤の量は、ポリマー(P)100部当たり有利には多くとも25重量部、好ましくは多くとも20重量部、より好ましくは多くとも15重量部である。
【0050】
本発明の硬化性組成物中のポリマー(P)は、架橋されるために適する、好ましくはラジカル開始メカニズムにより架橋されるために適するいかなるポリマーであってもよい。
【0051】
典型的には、ラジカル経路によって架橋してもよいポリマーは、ポリマー鎖に導入された官能性モノマーからの反復単位中に存在する適する官能基によって提供されるか、または例えば、適する連鎖移動剤(例えば、ハロゲン含有キュアサイト)によって形成された反応性末端基によって提供される、ポリマー主鎖中にキュアサイトを含む。ポリマー(P)は、典型的には、1,5−エンジイン部分を全く含まない。
【0052】
適するポリマー(P)は、炭化水素ポリマーまたはフッ化炭化水素ポリマーであってもよい。
【0053】
炭化水素ポリマーの目立つ例は、例えば、エチレンコポリマー、エチレン/プロピレン/ジエンコポリマー(例えば、EPDM)、スチレンブタジエンコポリマー、ポリ(ブチレン)、塩素化ゴム、塩素化エチレンポリマーおよびコポリマー、;ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンなどのスルホン橋架け基またはスルフィド橋架け基を含む芳香族ポリマーである。
【0054】
好ましくは、ポリマー(P)はフルオロポリマーである。適するフルオロポリマーは、少なくとも1種のフッ素化モノマーから誘導された反復単位を含むフルオロポリマーである。適するフッ素化モノマーの非限定的な例は、
− テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレンおよびヘキサフルオロイソブチレンなどのC〜Cのフルオロオレフィンおよび/またはパーフルオロオレフィン
− フッ化ビニル、1,2−ジフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびトリフルオロエチレンなどのC〜C水素化フルオロオレフィン
− 式CH=CH−Rf0の(パー)フルオロアルキルエチレン(式中、Rf0は、C〜C(パー)フルオロアルキルまたは1個以上のエーテル基を有するC〜C(パー)フルオロオキシアルキルである)
− クロロトリフルオロエチレンのようなクロロ−および/またはブロモ−および/またはヨード−C〜Cフルオロオレフィン
− CF=CFORf1(式中、Rf1は、C〜Cフルオロアルキルまたはパーフルオロアルキル、例えば、−CF、−C、−Cである)のフルオロアルキルビニルエーテル
− 式CH=CFORf1(式中、Rf1は、C〜Cフルオロアルキルまたはパーフルオロアルキル、例えば、−CF、−C、−Cである)のヒドロフルオロアルキルビニルエーテル
− 式CF=CFOX(式中、Xは、パーフルオロ−2−プロポキシ−プロピルのような1個以上のエーテル基を有するC〜C12オキシアルキルまたはC〜C12(パー)フルオロオキシアルキルである)のフルオロ−オキシアルキルビニルエーテル
− 式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C〜Cフルオロアルキルまたはパーフルオロアルキル、例えば、−CF、−C、−C、もしくは−C−O−CFのような1個以上のエーテル基を有するC〜C(パー)フルオロオキシアルキルである)のフルオロアルキル−メトキシ−ビニルエーテル
− 式CF=CFOYの官能性フルオロ−アルキルビニルエーテル(式中、Yは、C〜C12アルキルまたは(パー)フルオロアルキルもしくはC〜C12オキシアルキルまたはC〜C12(パー)フルオロオキシアルキルであり、前記Y基は、1個以上のエーテル基を有し、酸形態、ハロゲン化酸形態または塩形態を取ったカルボン酸基またはスルホン酸基を含む)
− 式
【化8】

(式中、互いに同じかまたは異なるRf3、Rf4、Rf5、Rf6の各々は、独立して、フッ素原子、場合により1個以上の酸素原子を含むC〜Cフルオロアルキルまたはパー(ハロ)フルオロアルキル、例えば、−CF、−C、−C、−OCF、−OCFCFOCFである)のフルオロジオキソール
【0055】
フッ素化モノマーに加えて、ポリマー(P)は、エチレンおよびプロピレンなどの水素化モノマーを含んでもよい。
【0056】
フルオロポリマーが水素化モノマーから誘導された反復単位を含む場合、フルオロポリマー中のフッ素化モノマーから誘導された反復単位の量は、少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも97重量%の量であろう。
【0057】
第1の実施形態において、ポリマー(P)はフルオロエラストマーである。「フルオロエラストマー」という用語は、5J/g未満、好ましくは4J/g未満、より好ましくは1J/g未満のASTM D3418−08に準拠して決定されるような融解熱によって特徴付けられる非晶質ポリマーを意味するために本明細書において用いられる。典型的には、フルオロエラストマーは、室温未満、殆どの場合、0℃未満でさえあるガラス転移温度(Tg)を有する。
【0058】
適するフルオロエラストマーは、有利には、フッ化ビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレンから誘導された反復単位を含む。好ましくは、本発明の硬化性組成物中で用いられるフルオロエラストマーは、上で記載されたようなフッ化ビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレンおよび少なくとも1種の他のフッ素化モノマーから誘導された反復単位からなる。詳しくは、適するフッ素化モノマーは以下から選択される。
− 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C〜C(パー)フルオロアルキル、例えば、トリフルオロメチル、ブロモトリフルオロメチル、ペンタ−フルオロプロピルである)のフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル
− 式CF=CFOXの、好ましくは、CF=CFOCFOCFCF、CF=CFOCFOCFCFOCF、CF=CFOCFOCFから選択されたフルオロ−オキシアルキルビニルエーテル(式中、Xは、1個以上のエーテル基を含むC〜C12パーフルオロオキシアルキル、例えば、パーフルオロ−2−プロポキシ−プロピル、特に、一般式:
CFX=CXOCFOR’’
(式中、R’’は、C〜C直鎖または分枝(パー)フルオロアルキル、C〜C環式(パー)フルオロアルキル、1〜3個の酸素原子を含むC〜C直鎖または分枝(パー)フルオロオキシアルキルから選択され、Xは、水素またはフッ素である)を有する化合物である)
【0059】
フルオロエラストマーは、場合により水素原子、塩素原子および/または臭素原子および/またはヨウ素原子を含むC−Cフルオロオレフィン、C−C非フッ素化オレフィン、好ましくはエチレンおよび/またはプロピレンから由来する反復単位を場合により含むことが可能である。
【0060】
適するフルオロエラストマーの目立つ例は、例えば、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロアルキルビニルエーテルのコポリマー、フッ化ビニリデン、パーフルオロアルキルビニルエーテルおよび場合によりテトラフルオロエチレンのコポリマー、フッ化ビニリデン、C−C非フッ素化オレフィン、ヘキサフルオロプロピレンおよび/またはパーフルオロアルキルビニルエーテルおよびテトラフルオロエチレンのコポリマー、フッ化ビニリデンと、(パー)フルオロメトキシビニルエーテルと、場合によりパーフルオロアルキルビニルエーテルと、テトラフルオロエチレンとを含むコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルのコポリマーである。
【0061】
第2の実施形態において、ポリマー(P)は、半結晶性フルオロポリマーである。「半結晶性フルオロポリマー」という用語は、ASTM D3418−08に準拠して決定されるような少なくとも5J/gの融解熱によって特徴付けられるフルオロポリマーを意味するために本明細書において用いられる。適する半結晶性フルオロポリマーは、有利には、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび上述した式CF=CFORf1のフルオロアルキルビニルエーテルから誘導された反復単位を含む。
【0062】
適する半結晶性コポリマーの目立つ例は、例えば、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルのコポリマー、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンのコポリマー、エチレンとクロロトリフルオロエチレンのコポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデン、すなわちポリ(フッ化ビニリデン)のターポリマーである。
【0063】
フルオロポリマーは、場合により、ビス−オレフィンから誘導された反復単位を含んでもよい。適するビス−オレフィンの非限定的な例は、以下の式のビス−オレフィンから選択される。
C=CH−(CF−CH=CR(式中、jは、2〜10の間、好ましくは4〜8の間の整数であり、互いに同じかまたは異なるR、R、R、Rは、水素、フッ素またはC−Cアルキル基もしくは(パー)フルオロアルキル基である)、
C=CB−O−E−O−CB=CD(式中、互いに同じかまたは異なる各Dは、水素、フッ素、塩素から独立して選択され、互いに同じかまたは異なる各Bは、水素、フッ素、塩素および−OR(式中、Rは、部分的に、実質的にまたは完全にフッ素化または塩素化され得る分枝または直鎖のアルキル基である)から独立して選択され、Eは、エーテル連結と共に挿入されてもよい場合によりフッ素化されていてもよい2〜10個の炭素原子を有する二価基であり、好ましくは、Eは−(CF−基であり、ここで、mは3−5の整数である)、好ましいビス−オレフィンは、FC=CF−O−(CF−O−CF=CF、RC=CR−E−O−CB=CD(式中、E、DおよびBは、上で定義されたのと同じ意味を有し、互いに同じかまたは異なるR、R、Rは、水素、フッ素またはC〜Cアルキル基もしくは(パー)フルオロアルキル基である)である。
【0064】
ビス−オレフィンを用いる時、得られたポリマーは、典型的には、ポリマー中の単位の全量を基準としてビス−オレフィンから由来する単位0.01モル%〜5モル%を含む。
【0065】
本発明の硬化性組成物のために適するフルオロポリマーは、フルオロポリマーの硬化を可能にする、一般に主鎖中にキュアサイトを含む。
【0066】
フルオロポリマーは、キュアサイトモノマーから誘導された反復単位を含んでもよい。キュアサイトモノマーは、部分的にまたは完全にフッ素化することが可能である。適するキュアサイトモノマーは、例えば、末端シアノ基またはパーフルオロフェニル基を含むパーフルオロ(ビニルエーテル)モノマー、または好ましくは、フッ素以外のハロゲンを含むフッ素化モノマーである。こうしたハロゲンは、フルオロポリマー鎖に沿っておよび/または末端位置の中に存在してもよい。典型的には、ハロゲンは、臭素またはヨウ素である。共重合は、フルオロポリマー鎖に沿った位置にハロゲンを導入するために好ましい。この経路において、上述したフッ素化モノマーは、適するフッ素化キュアサイトモノマーと組み合わされる。適するハロ−フルオロオレフィンの例は、クロロトリフルオロエチレン、ブロモジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ヨードトリフルオロエチレン、1−ブロモ−2,2−ジフルオロエチレン、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1、1−ヨード−2,2−ジ−フルオロエチレン、ヨード−3,3,4,4−テトラ−フルオロブテン−1および4−ヨード−パーフルオロブテン−1などを含む。
【0067】
ブロモ−またはヨード−フルオロビニルエーテルの例は、BrCFOCF=CF、BrCFCFOCF=CF、BrCFCFCFOCF=CF、CFCF(Br)CFOCF=CF、ICFOCF=CF、ICFCFOCF=CF、ICFCFCFOCF=CFおよびCFCFICFOCF=CFなどを含む。更に、非フッ素化ハロ−オレフィン、例えば、塩化ビニル、臭化ビニルおよび4−ブロモ−1−ブテンを用いることが可能である。フルオロポリマー中のキュアサイトモノマーの量は、典型的には0.05〜5モル%、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0068】
キュアサイトは、フルオロポリマー鎖の末端位置にも存在してよい。連鎖移動剤または開始剤は、末端位置にキュアサイトを導入するために用いられる。一般に、適する連鎖移動剤は、ポリマーの調製中に反応媒体に導入されるか、または適する開始剤から誘導される。
【0069】
有用な連鎖移動剤の例は、式Rf7を有する連鎖移動剤を含む。式中、Rf7は、過フッ素化されていてもよい置換または非置換C〜C12フルオロアルキル基であり、Zは、Cl、BrまたはIであり、dは、1または2である。特定の例は、CFBr、Br(CFBr、Br(CFBr、CF(Cl)Br、CFCF(Br)CFBr、CF−I、I(CFI、I(CFI、CFCl、CFCFICFIを含む。適する他の連鎖移動剤は、例えば、アルカリ金属ヨウ化物および/または臭化物もしくはアルカリ土類金属ヨウ化物および/または臭化物である。末端位置におけるキュアサイト成分の量は、一般に0.05〜5モル%、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0070】
本発明の硬化性組成物は、少なくとも1種のポリマー(P)および式(I)または(II)の少なくとも1種の硬化剤に加えて、強化用充填剤、増粘剤、顔料、潤滑剤、酸化防止剤、安定剤および加工助剤などの当該技術分野において知られている追加の成分を含んでもよい。
【0071】
硬化性組成物は、ポリマー(P)への式(I)または(II)の硬化剤の分散を改善できる添加剤を含んでもよい。この添加剤の特性は、典型的には、ポリマー(P)の特性に基づいて選択される。ポリマー(P)がフルオロポリマーである場合、適する分散用添加剤は、(パー)フルオロポリエーテル鎖を含む化合物であってもよく、前記鎖は芳香族側基および/または芳香族末端基のいずれかを含み、前記芳香族は、場合によりフッ素化されていてもよい。適する(パー)フルオロポリエーテル鎖は、式T−Qz−R−O−Tによって表してもよい。式中、T、Rおよびzは、Tおよび/またはRのいずれかが場合によりフッ素化されていてもよい芳香族基、好ましくはベンゼン基を含むことを条件として、上で詳述した通りである。
【0072】
本発明の硬化性組成物は、式(I)または(II)の硬化剤中のエチニル基の二量化反応を促進する触媒を含んでもよい。適する触媒は、後期遷移金属および後期遷移金属化合物の中から、好ましくは、Cu、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh金属およびそれらの化合物の中から選択してもよい。金属は、例えば、カーボンブラック、グラファイトなどの支持体上に場合により担持されていてもよい。触媒の量は、硬化性組成物中の硬化剤の重量を基準として、一般に、金属または金属化合物0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0073】
本発明の別の目的は、硬化性組成物を製造する方法であって、
(a)少なくとも1種のポリマー(P)と
(b)式(I)の少なくとも1種の硬化剤と
を混合することを含む方法である。
【0074】
混合は、ローラ型ゴム用ロール機、バンバリーミキサーおよび二軸スクリュー押出機などを含む、ポリマー組成物を調製するために有用であることが知られているいかなる混合装置によっても実施することが可能である。混合は、適切な溶媒にポリマー(P)および硬化剤を溶解させることにより溶液中で実行することも可能であり、その後、場合により沈降および/または乾燥されることも可能である。混合プロセス中の混合物の温度は、典型的には、組成物の硬化温度より低く維持される。もしくは、混合プロセス中の温度は、いわゆる反応混合プロセスにおいて硬化プロセスを開始させるような温度であってもよい。
【0075】
本発明の更なる目的は、少なくとも1種のポリマー(P)と式(I)の少なくとも1種の硬化剤とを含む硬化性組成物から硬化された物品を製造する方法である。前記方法は、典型的には、上述した通り、少なくとも1種のポリマー(P)および式(I)の少なくとも1種の硬化剤を混合することにより硬化性組成物を調製する工程と、前記組成物を硬化させる工程とを含む。一般に、本方法は、硬化の前に組成物を造形する追加の工程を含む。
【0076】
硬化性組成物は、典型的には、例えば、押出(例えば、フィルム、チューブまたはホースの形状に)によって、成形(例えば、シートまたはO−リングの形態に)によって、または溶液からのキャスティング(例えば、フィルムまたは塗膜の形態に)によって加工または造形される。その後、造形された物品を加熱して、ポリマー組成物を硬化させ、硬化された物品を形成することが可能である。
【0077】
従って、本発明の別の目的は、硬化性組成物を硬化させる方法であって、
− 少なくとも1種のポリマー(P)と
− 式(I)の少なくとも1種の硬化剤と
を含む組成物を加熱することを含む方法である。
【0078】
硬化は、硬化剤中のエチニル部分の二量化の温度より高い温度で本発明の硬化性組成物を加熱することにより有利に生じさせることが可能である。当業者は、特定の硬化剤のための硬化温度が、式(I)および(II)における置換基RとAおよびAの特性および位置ならびにポリマー(P)の特性に応じて決まることを理解するであろう。硬化温度は、上述した通り、更に触媒の存在に応じて決まる場合がある。
【0079】
硬化性組成物の成形またはプレス硬化は、通常、所望の時間後に組成物を硬化させるのに十分な温度で行われる。
【0080】
硬化剤中のエチニル部分の二量化のための典型的な温度は、50℃〜380℃、より典型的には、100℃〜350℃である。
【0081】
1分〜48時間、典型的には5分〜60分の期間にわたり、加熱を加えることが可能である。
【0082】
適切な加熱手段および硬化手段を与えられた従来のプレス、金型および押出機などは、硬化されたポリマー物品を得るために用いることが可能である。
【0083】
最高耐熱度および寸法安定性を要求される時、有利には、硬化プロセスは、約1〜48時間の追加の期間にわたり200〜300℃の温度で、硬化されたポリマー物品を炉、例えば、空気循環炉内で加熱する後硬化操作を含んでもよい。
【0084】
本発明の更なる目的は、本発明の硬化性組成物の硬化によって得られた硬化された物品である。この硬化された物品は、硬化剤中のエチニル部分の二量化から誘導される架橋を含む。この架橋は、典型的には、ポリマー(P)から由来するポリマー鎖の間で三次元網目を作り出す。
【0085】
その目的が単に例示であり、本発明の範囲を限定しない以下の実施例を参照することにより、今、本発明をより詳しく説明する。
【0086】
本明細書において援用される特許、特許出願および刊行物のいずれかの開示が、条項を不明瞭にしかねない程度に本説明と対立する場合は、本説明が優先するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】温度の関数としての貯蔵弾性率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0088】
原材料
【0089】
硬化剤
以後BODAと呼ぶ式(II−1)の硬化剤は、Smith,D.W.、Babb,D.A.著;J.Am Chem.Soc.120、n.35、(1998年)9078〜9079において記載された一般手順に従い調製した。
【0090】
TECNOFLON(登録商標)PFR06HCは、Solvay Solexis SpAから市販されている末端位置にヨウ化物キュアサイトを有する直鎖テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)フルオロエラストマーである。
【0091】
TECNOFLON(登録商標)PFR94は、Solvay Solexis SpAから市販されている末端位置にヨウ化物キュアサイトを有する分枝テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)フルオロエラストマーである。
【0092】
SOLEF(登録商標)32008は、Solvay Solexis SpAから市販されているフッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンの半結晶性コポリマーである。
【0093】
Carbon black N990は、CANCARB Ltd.から市販されている。
【0094】
キャラクタリゼーション
【0095】
貯蔵弾性率の決定(ねじり振子)
【0096】
硬化された品目の貯蔵弾性率(G’)(ねじり振子)の決定を、1.5mmの厚いフィルムから切り出された矩形バー(幅10mm、長さ45mm)を用いてねじり矩形モード(ISO 6721−7)においてARES流動計を用いて方法ISO 6721−10に準拠して実施した。30℃から300℃まで2℃/分の加熱傾斜を加えた。振動周波数は1Hzであった。
【0097】
硬化評価のための一般手順(平行板配置)
【0098】
非等温試験を用いて硬化性組成物の硬化効率を試験した。25mmディスクをARES流動計の中の2つの平行板の間に置いた。ディスクを150℃に加熱し、5分にわたり平衡させた。その後、1℃/分の加熱傾斜を加え、貯蔵弾性率(G’)を1ラド/秒の振動数で測定した。300℃の温度に達した後、試験を終了した。硬化剤を含まない対照サンプルに対する硬化剤入り組成物の300℃での貯蔵弾性率の比から架橋の形成を評価した。
【実施例】
【0099】
実施例1〜3:溶液からのTecnoflon(登録商標)PFR06HCとBODAとを含む組成物の調製および組成物の硬化挙動
【0100】
10グラムのTecnoflon(登録商標)PFR06HCを200グラムのパーフルオロヘプタンに溶解させた。0.1グラムのBODA(ポリマー百部当たり1重量部、phr)を、5グラムのアセトンおよび15グラムのペンタンを含有する溶媒混合物に溶解させた。2つの溶液を機械的攪拌付きの漏斗に注いだ。液媒体の均一乳化を得るために攪拌速度を設定した。乳化液を約80℃より高い温度で維持された熱い金属表面上にゆっくり滴下して、溶媒を迅速に蒸発させ、BODAとポリマーの均一な混合物を生成させた。混合物を7時間にわたり真空下で室温で最終的に乾燥させた。
【0101】
その後、混合物を80℃での圧縮成形によって厚さ約1.5mmのフィルム状に成形した。このフィルムからディスクを切り出し、上で報告した一般硬化手順に従い試験した。
【0102】
Tecnoflon(登録商標)PFR06HC中にBODA0.3g(3phr)および2g(20phr)を含む組成物(それぞれ実施例2および3)を調製し、同じ手順に従い試験した。
【0103】
純粋なTecnoflon(登録商標)PFR06HCを調製し、実施例1のように試験した。
【0104】
温度の関数としての貯蔵弾性率を図1において報告する。各サンプルの300℃での貯蔵弾性率の値、対照サンプルに対する値および貯蔵弾性率の値のそれぞれの比を表1において報告する。
【0105】
【表1】

【0106】
実施例4〜6:開放形ロール機の中でのTecnoflon(登録商標)PFR94とカーボンブラックN990とBODAとを含む組成物の一般調製および組成物の硬化挙動
【0107】
ロールが19℃で冷却された開放形ロール機の中で粉状の20gのN990カーボンブラック(20phr)および粉状の1gのBODA(1phr)を100gのTecnoflon(登録商標)PFR94と混合した。その後、このコンパウンド10グラムを80℃での圧縮成形によって厚さ約1.5mmのフィルム形状に成形した。このフィルムからディスクを切り出し、貯蔵弾性率を温度の関数として測定した。
【0108】
Tecnoflon(登録商標)PFR94およびカーボンブラックN990中にBODA3g(3phr)および5g(5phr)を含む組成物(それぞれ実施例5および6)を調製し、同じ手順に従い試験した。
【0109】
Tecnoflon(登録商標)PFR94と20phrのカーボンブラックN990とを含む組成物を調製し、実施例4のように試験した。
【0110】
各サンプルの300℃での貯蔵弾性率の値、対照サンプルに対する値および貯蔵弾性率の値のそれぞれの比を表2において報告する。
【0111】
【表2】

【0112】
実施例7:SOLEF(登録商標)32008とBODAとを含む組成物の調製および硬化挙動
【0113】
10グラムのSOLEF(登録商標)32008を200グラムのアセトンに溶解させた。0.3グラムのBODA(3phr)を3グラムのアセトンに溶解させた。2つの溶液を一緒に混合し、アセトンを回転蒸発器中で80℃で除去した。SOLEF(登録商標)/BODA混合物を7時間にわたり真空下で室温で最終的に乾燥させた。その後、混合物を180℃での圧縮成形によって厚さ約1.5mmのフィルム状に成形した。その後、フィルムを3時間にわたり260℃でプレスの中で硬化させた。360℃まで全く滴下しないで、垂直位置におけるねじり振子分析のために矩形バーを加熱することが可能であった。
【0114】
この手順で調製された品目は、上述した一般平行板手順に従い評価され0.5MPaの250℃での貯蔵弾性率G’を有していた。
【0115】
比較例
【0116】
幅10mmおよび長さ45mmの矩形バーを180℃での圧縮成形によって調製された純SOLEF(登録商標)32008製の1.5mmの厚いフィルムから切り出した。そのバーを3時間にわたり260℃でプレスの中で硬化させた。垂直位置で試験片を加熱すると、試験片は、融点(160℃)より上で滴下し始めた。一般ねじり振子手順に従う弾性係数G’の測定は、サンプルの滴下のゆえに180℃より上で可能ではなかった。250℃で、1kPa未満の貯蔵弾性率を上述した一般平行板手順に従い測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のポリマー(P)と
(b)式(I)
【化1】

[式中、互いに同じかまたは異なる各Rは、水素、ハロゲン、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキル、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20オキシアルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基、−SiR、−(RSiO)、−PR(式中、互いに同じかまたは異なる各Rは、水素、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキルからなる群から独立して選択され、bは少なくとも1の整数である)からなる群から独立して選択され、互いに同じかまたは異なるAおよびAは、水素、ハロゲン、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20アルキル、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜C20オキシアルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、−(RSiO)(式中、Rおよびbは定義された通りである)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基からなる群からそれぞれ独立して選択され、AおよびAは、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよいアルキルまたは芳香族環式構造に含まれてもよい]
の少なくとも1種の硬化剤と
を含む硬化性組成物。
【請求項2】
およびAが、6〜10個の炭素原子を有する場合により置換されていてもよい芳香族環式構造の部分である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
互いに同じかまたは異なるAおよびAが(パー)フルオロポリエーテル鎖である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が、式(II)
【化2】

[式中、互いに同じかまたは異なる各Rは上で定義された通りであり、Xは、炭素−炭素結合、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよいC〜C20アルキレン基、2価(パー)フルオロポリエーテル基、オルガノポリシロキサン基−(RSiO)−(式中、Rおよびbは、上で定義された通りである)、−O−基、−S−基、−SO−基、−C(O)−基、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい縮合芳香族構造または縮合ヘテロ芳香族構造から選択された二価橋架け基である]
の化合物の間で選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
Xが、炭素−炭素結合、場合により置換されていてもよい場合によりフッ素化C〜C20アルキレン基、二価(パー)フルオロポリエーテル基、オルガノポリシロキサン基−(RSiO)−(式中、Rおよびbは上で定義された通りである)から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
互いに同じかまたは異なる各Rが、水素、ハロゲン、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜Cアルキル、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい直鎖または分枝のC〜Cオキシアルキル、(パー)フルオロポリエーテル鎖、−(RSiO)(式中、bおよびRは上で定義された通りである)、場合により置換されていてもよく、且つ/または場合によりフッ素化されていてもよい単環式または多環式の芳香族基またはヘテロ芳香族基からなる群から独立して選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリマー(P)が水素化ポリマーである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ポリマー(P)がフッ素化ポリマーである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の硬化性組成物を製造する方法であって、少なくとも1種のポリマー(P)と式(I)の少なくとも1種の硬化剤とを混合することを含む方法。
【請求項10】
前記硬化剤が式(II)の化合物の間で選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物を加熱することを含む硬化性組成物を硬化させる方法。
【請求項12】
硬化された物品を製造する方法であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載の硬化性組成物を提供する工程と、前記組成物を造形する工程と、前記造形された組成物を硬化させて物品を形成する工程と、場合により前記物品を後硬化させる工程とを含む方法。
【請求項13】
前記硬化剤中のエチニル部分の二量化反応から誘導された架橋を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物から得ることができる硬化された物品。
【請求項14】
式(I)
【化3】

(式中、各Rは、上で定義された通りであり、互いに同じかまたは異なるAおよびAは、(パー)フルオロポリエーテル鎖または−(RSiO)(式中、bおよびRは上で定義された通りである)である)の硬化剤。
【請求項15】
式(II)
【化4】

(式中、各Rは、上で定義された通りであり、Xは、二価(パー)フルオロポリエーテル基またはオルガノポリシロキサン基−(RSiO)−(式中、Rおよびbは上で定義された通りである)から選択される)の硬化剤。

【図1】
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【公表番号】特表2013−515796(P2013−515796A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545242(P2012−545242)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069846
【国際公開番号】WO2011/076652
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(508305960)ソルヴェイ・スペシャルティ・ポリマーズ・イタリー・エッセ・ピ・ア (53)
【Fターム(参考)】