説明

磁力計

【課題】 小型で、磁極間に設置が可能で、低温環境においても試料を移動または振動させることが可能な振動機構を有した磁力計を提供する。
【解決手段】 磁力計1において、ピエゾポジショナー5、試料13、試料棒15、検出コイル17、19等は、冷却容器3内部に配置されている。ピエゾポジショナー5は圧電素子を備えており、コントローラ7により所定の電気信号を印加され試料棒15を介して試料13を所定の方向に向ける。また、所定の鋸波を印加されて所定の振動を試料13に与える。検出コイル17、19は、コイル軸部の空間を試料13が往復振動することで生ずる磁束密度の変化を、電気信号として検出する。測定装置25は、検出コイル17、19が検出した電気信号に所定の較正を行って試料13の磁化を算出する。磁力計1によれば外部温度、外部磁場が変化しても磁気測定が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料または検出コイルを移動または振動させて磁化測定を行う磁力計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性材料の磁化を測定する手段として、試料振動型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)や、引き抜き法磁力計のような、振動運動が要求される磁力計が用いられている。これらの磁力計では、磁化した試料が振動するときに検出コイルに誘導される電圧を検出し、適切な較正を行うことにより、試料の磁化を測定する。
【0003】
測定時の振動運動は、ラウドスピーカ型ボイスコイル、モーター、油圧シリンダー等(以下加振部分)により行う。これらは通常、試料に磁場を印加する磁極から離れた位置に設置する。このためこれら加振部分と試料とは、例えば、長いロッドによって繋がれて、試料を所定の振幅および周波数で振動させる。この振動運動を正確に行うために、試料が移動するときの交流振幅情報のみでなく絶対位置情報も提供して、磁力計の全体的な安定性を向上させている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2002−75522号公報(第4-5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の磁力計において、これら加振部分の大きさは試料に外部磁界を印加する磁極の間隔に比較して大きいので、磁極内に設置することができず、また加振部分が磁場に影響されるのを避けるため、磁場の影響が軽微あるいは無い場所に設置しなければならない。このため、上述のように試料または加振部分を1mあるいはそれ以上の長いロッドに繋ぐ必要があり、振動時に電気的制御により安定性を向上させようとしても、機械的に横ぶれが生じるのを十分に防止することはできず、試料の移動が不均一になって測定結果に統計的ばらつきが生じてしまう。また、試料位置とは別に加振部分を設置するための空間が必要になる。
【0005】
さらに、これらは低温環境での動作に適しておらず、絶対零度付近から室温までの磁気特性を測定する際に、このような加振部分を備えた磁力計を低温環境に設置することはできない。
【0006】
そこで本発明は、小型で、磁場の影響を受けづらいため磁極間にも設置することができ、低温環境においても動作が可能な振動機構を備えた磁力計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、印加電圧に応じて伸縮する圧電素子と、磁束密度の変化を検出する検出コイルと、前記圧電素子の伸縮を試料または前記検出コイルの少なくとも一方に伝えて前記試料を前記検出コイルに対して相対的に移動または振動させる振動伝達手段と、前記検出コイルが検出した、前記試料を前記検出コイルに対し相対的に移動または振動させることで生ずる磁束密度変化から、前記試料の磁化を算出する磁化算出手段と、を備えたことを特徴とする磁力計である。
【0008】
このような構成により、小型で、磁場の影響を受けにくい圧電素子によって振動伝達手段を介して試料と検出コイルとを互いに相対的に移動または振動させ、磁化測定を行う。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記試料に所定の磁場を印加する磁場形成手段をさらに有することを特徴としている。
【0010】
このような構成により、試料の磁化の磁場依存性等を測定する。このとき圧電素子は小型で磁場の影響を受けにくいので、印加される磁場中の試料または検出コイルの近傍に設置される。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2のいずれか一項に記載の発明において、前記試料を前記移動または振動の方向を軸として任意の角度回転させた状態にする回転手段をさらに有することを特徴としている。
【0012】
このような構成により、試料の任意方向の磁化成分、あるいは、任意方向の磁場中における試料の磁化を測定する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁力計において、前記試料の温度を変化させる温度変化手段をさらに有することを特徴としている。
【0014】
このような構成により、試料の磁化の温度特性等を測定する。このとき圧電素子は温度が変化しても動作するので、試料の近傍に設置される。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁力計において、前記振動伝達手段は、前記圧電素子の伸縮する方向に隣接して設けられ、前記圧電素子への印加電圧の周波数で振動するガイド棒と、前記ガイド棒の周囲に設けられ、前記ガイド棒により移動されて前記ガイド棒の振動変位を所定回積算した変位で移動または振動する慣性駆動部と、を有し、前記試料または前記検出コイルは、前記慣性駆動部と一体に移動または振動することを特徴としている。
【0016】
このような構成によると、慣性駆動部が圧電素子の小さな振動振幅を所定回積算し、所定の変位の振幅を試料または検出コイルに与えて、磁化測定を行うことになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の磁力計によれば、圧電素子は小型なので、試料または検出コイルの近傍に設置することができ、長いロッド等で圧電素子と試料または検出コイルを接続する必要がなく、温度変化によるロッドの伸縮や振動時の横ぶれ等による測定値のばらつきを低減できる。
【0018】
請求項2に記載の磁力計によれば、試料に所定の外部磁場を印加して磁化測定を行い、試料の磁化の外部磁場依存性等を測定できる。このとき、圧電素子は磁場の影響を受けづらいので、試料または検出コイルの近傍の磁場中に設置することができる。
【0019】
請求項3に記載の磁力計によれば、試料を磁力計から取り外すことなく設置角度を変化させることができ、試料の磁化の角度依存性等を簡単に測定することができる。
【0020】
請求項4に記載の磁力計によれば、試料の磁化の温度依存性等を測定できる。このとき、圧電素子により試料または検出コイルを振動させるので、絶対零度付近等の極低温環境などにおいても磁化測定が可能になる。
【0021】
請求項5に記載の磁力計によれば、圧電素子の微小な変位を磁化測定に必要な変位あるいは振幅に変換して、試料または検出コイルを移動または振動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の第1の実施の形態による磁力計について図1から図5を参照しながら説明する。図1に示すように、磁力計1は、ピエゾポジショナー5、コントローラ7、試料棒15、検出コイル17、19、測定装置25等を有している。試料13は、試料棒15の先端部に配置されている。ピエゾポジショナー5、試料13、試料棒15、検出コイル17、19等は、冷却容器3内部に配置され、液体ヘリウム等の冷媒を用いて図示していない真空ポンプ等で気圧の調整等を行うことにより、絶対零度付近までの低温環境で測定が可能に構成されている。
【0023】
ピエゾポジショナー5は、試料棒15を介して試料13を所定の方向に向いた状態で所定の移動または振動を与える振動機構である。ピエゾポジショナー5の外径は、約30mm以下である。コントローラ7は、配線9、11でピエゾポジショナー5と接続され、所定の電気信号を印加してピエゾポジショナー5を制御する。試料棒15は、ピエゾポジショナー5の振動を試料13に伝える例えば円柱状の棒であり、長さは数センチメートル以下であればよい。
【0024】
検出コイル17、19は、互いに逆向きに所定回数巻回されたコイルであり、コイル軸部の空間に試料13が振動可能に配置されている。検出コイル17、19は、試料13が検出コイル17、19間を移動または往復振動することで生ずる磁束密度の変化による誘導起電力を検出する。測定装置25は、配線21、23で検出コイル17、19と接続され、試料13が移動または振動することで生ずる磁束密度の変化を検出コイル17、19が電気信号として検出すると、所定の較正を行って試料13の磁化を算出する。
【0025】
次に、ピエゾポジショナー5の構成および動作について、図2から図5を参照しながら詳細に説明する。図2に示すように、ピエゾポジショナー5は、固定台51、ピエゾアクチュエータ53、ガイド棒55、慣性駆動部57、ローテータ61等を有している。
【0026】
固定台51は、冷却容器3に対してピエゾポジショナー5を固定するためのものである。圧電素子たるピエゾアクチュエータ53は、チタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO)等の圧電セラミックス等よりなるピエゾ素子を複数枚積層したものであり、コントローラ7により所定の電気信号を印加されると、図2のy軸方向に伸縮する。ピエゾアクチュエータ53は、四角柱状をなし、一端が固定台51に固定されている。ガイド棒55は、セラミックスからなる四角柱状の部材であり、一端がピエゾアクチュエータ53に貼り付けられて接続され、ピエゾアクチュエータ53の伸縮と共にy軸方向に振動する。
【0027】
図3に示した図2のIII―III面における断面のように、慣性駆動部57は2つの慣性駆動部57a、57bからなり、中央部にガイド棒55を挟み込んだ形になっている。慣性駆動部57a、57bは、チタン又はセラミックなどで形成されている。慣性駆動部57a、57bは、接続面57c、57dにスプリング58a、58bが内蔵されており、互いに押圧されることにより一体に移動可能となっている。ガイド棒55と慣性駆動部57とは、互いの接触部で所定の摩擦力を持つように構成されている。
【0028】
図4に、ピエゾアクチュエータ53に印加される電圧と時間との関係と、慣性駆動部57の移動と時間との関係を示す。図4に示すように、ピエゾアクチュエータ53には、所定の周波数の鋸波が印加される。この鋸波は、プラスマイナスの極性を、必要に応じて切替可能になっている。
【0029】
今、プラスの電圧を印加されたときにピエゾアクチュエータ53は伸長し、マイナスの電圧を印加されたときに縮小するものとする。鋸波が最初にプラスのピーク電圧になる時刻をt1とすると、ピエゾアクチュエータ53は、初期状態(t=0)の大きさから印加電圧の上昇と共に徐々に伸長し、時刻t1で初めて最大となり初期状態よりもy1伸長する。このとき、一端がピエゾアクチュエータ53と接続しているガイド棒55は、図2のy軸方向にy1移動する。このときの移動方向(図2の下向き)をプラスとする。慣性駆動部57は、ガイド棒55との間に所定の摩擦を有しており、このときは一体に移動するので、慣性駆動部57とローテータ61との接続面59は、時刻t1にガイド棒55と同様に初期状態の位置からプラス方向にy1移動する。
【0030】
時刻t1で鋸波の印加電圧がゼロになると、ピエゾアクチュエータ53は、瞬時に縮小して初期状態の長さに戻る。ガイド棒55は、ピエゾアクチュエータ53と接続しているので初期状態の位置に戻る。しかし、慣性駆動部57は、ガイド棒55との間の摩擦力よりも慣性力の方が強く、プラス方向にy1移動した位置に留まる。このとき、ローテータ61、試料棒15及び試料13は慣性駆動部57と同様にプラス方向にy1移動した位置に留まる。
【0031】
時刻t2で再び鋸波がピーク電圧になると、ピエゾアクチュエータ53は再び徐々に最大に伸長する。このとき、一端がピエゾアクチュエータ53と接続しているガイド棒55は、y軸方向にy1移動する。慣性駆動部57は、ガイド棒55との間に所定の摩擦を有しているので一体に移動し、慣性駆動部57とローテータ61との接続面59は、時刻t2に時刻t1の位置からさらにプラス方向にy1移動する。すなわち、接続面59は、初めの位置からプラス方向に2y1移動したことになる。
【0032】
時刻t2で鋸波の印加電圧が瞬時にゼロになると、ピエゾアクチュエータ53は、再び瞬時に縮小して初期状態の長さに戻る。ガイド棒55は、ピエゾアクチュエータ53と接続されているので初期状態の位置に戻る。しかし、このときも慣性駆動部57は、ガイド棒55との間の摩擦力よりも慣性力の方が強く、2y1移動した位置に留まる。このとき、ローテータ61、試料棒15及び試料13は慣性駆動部57と同様にプラス方向に2y1移動した位置に留まる。上記動作を、試料13が磁化測定に必要な移動距離あるいは振動振幅まで繰り返す。試料13を所定距離移動させると、磁束密度の変化により検出コイル17、19に誘導起電力が生じ、測定装置25により電気信号として検出される。
【0033】
試料13の位置を初期状態に戻すとき、あるいは、試料13を振動させる際には、鋸波をマイナス側に切り替える。例えば時刻t5で鋸波をマイナス側に切り替えると、印加電圧によりピエゾアクチュエータ53は逆に歪み、伸長時とは逆に慣性駆動部57はマイナス方向にy1移動する。ピエゾアクチュエータ53が、鋸波の電圧がゼロになって瞬時に初期状態に戻っても、慣性駆動部57は、マイナス方向にy1移動した位置に留まる。この動作を繰り返して、慣性駆動部57はローテータ61、試料13等と共に初期状態の位置まで戻っていく。さらにマイナス側の鋸波を印加し続ければ、試料13をマイナス側に移動させることになる。
【0034】
上記のように、ピエゾアクチュエータ53は印加電圧に応じて伸縮し、慣性駆動部57、試料棒15などを介して試料13を移動させる。また、印加する鋸歯の極性を周期的に切り替えると、試料13は所定の振動振幅で振動する。
【0035】
図2及び図5に示すように、ローテータ61は、ガイド棒63、慣性駆動ロータ65、2つのピエゾアクチュエータ67a、67b、ハンドル69、ベース71等を有している。
【0036】
ベース71は、断面がコの字型の枠であり、例えばチタンまたはセラミックで形成される。ベース71は、慣性駆動部57の側に、慣性駆動部57と対向する側に開口するように配置されている。ハンドル69は、四角柱を2つ組み合わせたようなてこ状であり、例えばセラミックで形成される。ハンドル69は、ベース71の開口側の中央部に例えば2つのピエゾアクチュエータ67a、67bの中心を軸として回転可能に備えられている。ベース71の両側の立ち上がり部とハンドル69の両端側とに接してピエゾアクチュエータ67a、67bが配置されている。ピエゾアクチュエータ67a、67bとハンドル69の両端側とは固定されている。ピエゾアクチュエータ67a、67bは、例えば四角柱状をなし、ピエゾアクチュエータ53とほぼ同様の機能を有している。ガイド棒63は円柱状であり、例えばセラミックで形成される。ガイド棒63の1つの底面が、ハンドル69表面のベース71の中心に固定されている。
【0037】
慣性駆動ロータ65は例えば円盤状であり、例えばチタンまたはセラミックで形成される。慣性駆動ロータ65は、ベース71の開口側に備えられている。図3に示した図2のVI―VI面における断面のように、慣性駆動ロータ65は2つのロータ65a、65bからなり、中央部にガイド棒63を挟み込んだ形になっている。慣性駆動ロータ65a、65bは、慣性駆動部57と同様に接続面にスプリング66a、66bが内蔵されており、互いに押圧されることにより一体に移動可能となっている。ガイド棒63と慣性駆動ロータ65とは、互いの接触部で所定の摩擦力を持つように構成されている。
【0038】
次に、回転手段たるローテータ61が試料13を回転させる動作について説明する。ピエゾアクチュエータ67a、67bはそれぞれ所定の例えば鋸波電圧を印加され、印加電圧に応じて伸縮する。例えば、ピエゾアクチュエータ67aが図5のp方向に所定の長さ伸長し、ピエゾアクチュエータ67bが図5のq方向に所定の長さ伸長したときには、ハンドル69の両端部がそれぞれピエゾアクチュエータ67a、67bに押される。ハンドル69はガイド棒63と共にピエゾアクチュエータ67a、67bが伸長するときに加わる力をトルクとして、図のR方向に所定の角度回転する。鋸波の電圧がゼロになっても、上記ガイド棒55と慣性駆動部57との関係と同様、慣性駆動ロータ65は所定角度回転した位置に留まる。この動作を所定回数繰り返すことで、慣性駆動ロータ65、すなわち試料13を所定角度回転させる。すなわち、ピエゾアクチュエータ67a、67bに印加する電圧を調整して試料13を、試料13の移動または振動の方向であるy軸を軸として任意の角度回転させる。また、ピエゾアクチュエータ67a、67bに逆極性の電圧を与えると、ローテータ61は逆向きに回転する。
【0039】
以上のように構成された磁力計1により、試料13の磁化を測定する際の動作について説明する。まず、試料棒15に試料13をセットする。低温環境での測定を行う際には低温容器3に液体ヘリウムを注入し、図示しない真空ポンプで排気する等所定の作業により、測定環境を設定する。コントローラ7から所定の電圧をローテータ61に印加し、試料13を所定の向きに設定する。コントローラ7から所定の鋸波を印加して、試料13をy軸方向に移動または振動させる。検出コイル17、19が検出した磁束密度の変化を測定装置25が電気信号として検出し、所定の較正を行って試料13の磁化として出力する。
【0040】
以上説明したように、第1の実施の形態による磁力計1によれば、小型で低温環境でも動作が可能なピエゾポジショナー5を振動機構として用いて、試料13を振動させ、磁化測定が可能である。なお、ピエゾアクチュエータ53は、ナノメータレベルの移動を正確に制御することが可能であり、慣性駆動部57の振動も正確に制御される。このとき、試料棒15は数センチメートル以下の長さでよいので、温度変化による伸縮や、ピエゾポジショナー5からの振動を伝える際に横ぶれ等を起こして試料13が検出コイル17、19の内壁に衝突したりすることが防止でき、測定のばらつきを低減できる。ローテータ61は、試料13の磁場に対する角度依存性を測定する場合に主に使用することができる。また、試料13を試料棒にセットし直さなくても、ローテータ61を用いて異なる方向の磁化成分を測定することができる。
【0041】
本発明の第2の実施の形態による磁力計について図7を参照しながら説明する。第2の実施の形態による磁力計は、第1の実施の形態による磁力計1とは、冷却容器3内部の磁化検出部の構成が異なっている。ここでは、第2の実施の形態による磁化検出部100について説明する。
【0042】
磁化検出部100は、試料13、試料棒15、固定台51、ピエゾアクチュエータ53、ガイド棒55、慣性駆動部57、ローテータ61、検出コイル17、19、固定台83等を有している。第1の実施の形態においては試料13を移動または振動させたが、第2の実施の形態では検出コイル17、19を移動または振動させている点において相違している。なお、第1の実施の形態と同一の構成部材には同一の番号を付している。
【0043】
磁化検出部100では、試料13は、試料棒15を介してローテータ61に接続されている。ローテータ61は、低温容器3に固定台83を介して固定されている。試料13は、ローテータ61に所定の電圧を印加することにより所定の方向に設定される。試料13は、試料棒15、ローテータ61を介して固定台83に接続されているので、図の上下方向には固定されている。
【0044】
検出コイル17は検出コイル19と互いに固定され、検出コイル19は慣性駆動部57に固定されている。慣性駆動部57の中心部には、所定の摩擦力を介してガイド棒55が接するように備えられている。ガイド棒55の一端は、ピエゾアクチュエータ53の一端に貼り付けて接続され、ガイド棒55はピエゾアクチュエータ53の伸縮と一体に移動する。ピエゾアクチュエータ53の他端は固定台51に固定されている。固定台51は、冷却容器3に固定されている。
【0045】
慣性駆動部57は、第1の実施の形態において説明した動作により、ピエゾアクチュエータ53の伸縮により所定の移動または振動を行う。検出コイル17、19は、慣性駆動部57と一体に移動する。これにより試料13と検出コイル17、19とは相対的に移動または振動するので、磁束密度の変化が誘導起電力を生じさせて電気信号として検出され、所定の較正を行うことで試料13の磁化が測定される。
【0046】
第2の実施の形態においても、小型で低温環境でも動作が可能なピエゾアクチュエータ53を用いて、試料13と検出コイル17、19とを相対的に移動または振動させるので、試料13の磁化測定が可能である。このとき、検出コイル17、19は慣性駆動部57に固定されて一体に振動するので、長いロッド等を使用する際の温度による伸縮や、横ぶれ等を起こして試料13が検出コイル17、19の内壁に衝突したりすることが防止でき、測定のばらつきを低減できる。ローテータ61は、試料13の磁場に対する角度依存性を測定する場合に主に使用することができる。また、試料13を試料棒にセットし直さなくても、ローテータ61を用いて異なる方向の磁化成分を測定することができる。
【0047】
以上詳細に説明したように、本発明による磁力計によれば、小型で、温度変化や外部磁場の影響を受けづらい圧電素子を用いた振動機構により試料と検出コイルとを互いに相対的に振動させることができるので、振動機構を試料または検出コイルの近傍に備えることが可能である。このため、振動機構を設置するための空間を設ける必要がなく、装置の小型化に有利である。また、振動機構と試料または検出コイルとを1mあるいはそれ以上の長いロッド等で接続する必要がないので、互いに衝突したり温度の変化でロッドが伸縮したりすることによる測定値のばらつきを低減できる。
【0048】
なお本発明による磁力計は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上記実施の形態では検出コイル17、19が備えられているとしたが、それぞれのコイルの巻回数は適宜変更が可能である。
【0049】
試料13は、所定の外部磁場を印加した状態で磁化測定するようにしてもよく、このとき、外部磁場を印加するための超伝導磁石、電磁石などを備えるようにしてもよい。印加する磁場は、振動方向と同方向でもよく、直交する方向でもよい。この場合、外部磁場の磁極間にピエゾポジショナー5を設置することができる。このとき外部磁場は、10テスラ以上の大きな磁場とすることも可能である。
【0050】
ローテータ61は、試料13の磁場に対する角度依存性を測定する場合に主に使用するものであり、その必要が無い場合はローテータ61を外して使用することも可能である。
【0051】
なお、慣性駆動部57とローテータ61との配置機構は、慣性駆動部57を試料13に近い側に配置するなど相対的に変更してもよい。また、慣性駆動部57とローテータ61との間は接していなくともよく、接続部材によって接続して一部分に空間を有するような構成でもよい。
【0052】
ガイド棒55は、断面が四角形としたが、円形であってもよい。そのとき慣性駆動部57の中央は、ガイド棒55の断面形状に添って貫通孔が設けられるようにすればよい。慣性駆動ロータ65は、円盤状としたが、回転時に周囲の部材に接触したりすることがなければ、慣性駆動部57と同様の形状等でもよい。
【0053】
試料13または検出コイル17、19を固定するには、上記各実施の形態では冷却容器3に対し固定するようにしたが、確実に固定できれば他の部分に固定されるようにしてもよい。
【0054】
試料13は、円形または球体であるように示したが、他の形態であっても測定は可能である。
【0055】
慣性駆動部57または、慣性駆動ロータ61に内蔵するスプリング58a、58b、スプリング66a、66bの形状は、上記に限定されるものではなく、互いに押圧し合って一体に移動が可能であれば他の形状、機構でもよい。
【0056】
検出コイルの配置は、上記検出コイル17、19には限定されず、試料13と互いに相対的に振動することで生ずる磁束密度の変化を検出可能であれば、他の配置、形態でもよい。例えば、検出コイル17、19に替えて試料13の振動方向と直交する方向にコイル軸を有する検出コイルを備えて磁束密度の変化を検出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の磁力計は、極低温から室温までの広い温度範囲における試料の磁化を測定するために利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1の実施の形態による磁力計1の概略構成図。
【図2】ピエゾポジショナー5の構成を示す図。
【図3】図2のIII−IIIにおける断面図。
【図4】ピエゾアクチュエータ53への印加電圧と、慣性駆動部57の動きを示す図。
【図5】図2のV−Vにおける断面図。
【図6】図2のVI−VIにおける断面図。
【図7】第2の実施の形態による磁化検出部100の構成を示す図。
【符号の説明】
【0059】
1 磁力計
3 冷却容器
5 ピエゾポジショナー
7 コントローラ
9、11、21、23 配線
13 試料
15 試料棒
17、19 検出コイル
25 測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧に応じて伸縮する圧電素子と、
磁束密度の変化を検出する検出コイルと、
前記圧電素子の伸縮を試料または前記検出コイルの少なくとも一方に伝えて前記試料を前記検出コイルに対して相対的に移動または振動させる振動伝達手段と、
前記検出コイルが検出した、前記試料を前記検出コイルに対し相対的に移動または振動させることで生ずる磁束密度変化から、前記試料の磁化を算出する磁化算出手段と、
を備えたことを特徴とする磁力計。
【請求項2】
前記試料に所定の磁場を印加する磁場形成手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の磁力計。
【請求項3】
前記試料を前記移動または振動の方向を軸として任意の角度回転させた状態にする回転手段をさらに有することを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の磁力計。
【請求項4】
前記試料の温度を変化させる温度変化手段をさらに有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁力計。
【請求項5】
前記振動伝達手段は、
前記圧電素子の伸縮する方向に隣接して設けられ、前記圧電素子への印加電圧の周波数で振動するガイド棒と、
前記ガイド棒の周囲に設けられ、前記ガイド棒により移動されて前記ガイド棒の振動変位を所定回積算した変位で移動または振動する慣性駆動部と、
を有し、
前記試料または前記検出コイルは、前記慣性駆動部と一体に移動または振動することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の磁力計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−113029(P2006−113029A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303460(P2004−303460)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(504388628)ロックゲート株式会社 (2)
【Fターム(参考)】