説明

磁場偏向型の質量分析管及びリークディテクタ

【課題】 部品点数の増加を招くことなく確実に圧力を把握でき、リークディテクタの使用継続時間に関係なく、正確にリーク値を測定することに最適なリークディテクタ用の質量分析管を提供することにある。
【解決手段】 磁場偏向型の質量分析管2は、ガス導入口22が開設された管体21を有し、この管体内にフィラメント23aとグリッド23bとを有してガス導入口から導入されたガス分子をイオン化するイオンソース23と、ヘリウムイオンを捕集する第1のイオンコレクタ25と、管体内でイオンソースとイオンコレクタとの間に介設され、このイオンソースから所定の加速電圧下で放出されたイオンをその質量数に応じて偏向させる磁場を形成してヘリウムイオンのみをイオンコレクタへと導くマグネット24とを備え、イオンソースの周囲に第2のイオンコレクタ27が付設され、この第2のイオンコレクタにイオンソースによりイオン化された正イオンを捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場偏向型の質量分析管及びリークディテクタに関する。
【背景技術】
【0002】
気密容器、配管やバルブ等の試験体から微小なリークを検出(検査)するリークテストにリークディテクタを用いることが従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。リークディテクタは、真空中のガス分子をイオン化し、ヘリウムイオンのみを選別してイオンコレクタに入射させるようにした質量分析管を備え、このイオンコレクタを流れるイオン電流から真空中に漏れるヘリウムガスを定量的に検知する。
【0003】
また、この種のリークディテクタでは、試験体から漏洩した必要最小限のヘリウムのみを質量分析管に導くことができると共に、質量分析管でのバックグランド値を迅速に低下できることから、逆拡散式のものが広く利用されている(例えば、特許文献2参照)。逆拡散式のリークディテクタでは、質量分析管が所謂高真空ポンプに配管を介して接続され、この高真空ポンプにて逆拡散したヘリウムのみが質量分析管へと導かれるようになっている。
【0004】
上記逆拡散式のリークディテクタにて試験体のリークテストを行う場合、リークディテクタを起動し、高真空ポンプにより質量分析管内を所定圧力まで真空引きした後、先ずリーク値が実際の漏れ量に一致するように校正が行われる。ここで、質量分析管の真空引き当初、質量分析管内には、排気され難い水蒸気等のガス成分が残留している。このような状態では、残留するガス成分により平均自由工程が短くなって、イオンコレクタへのヘリウムイオンの到達が妨げられる。このガス成分は時間の経過と共に次第に排気されていき、残留するガス成分が減少してくると、平均自由工程が長くなってイオンコレクタにヘリウムイオンが到達し易くなる。
【0005】
また、上記ガス成分はイオンソースによってイオン化させるため、この残留するガス成分が多いときには、イオンソースでのイオン密度が高くなる。このような場合、これらのイオンによって空間電荷の影響を受けてイオンソースからのイオン放出が妨げられる。その結果、イオンコレクタへのヘリウムイオンの到達が到達し難くなる。他方、上記ガス成分が次第に排気されてくると、空間電荷の影響が小さくなって、イオンコレクタにヘリウムイオンが到達し易くなる。
【0006】
このようにリークディテクタを起動した直後に校正を行い、リークテストすると、このリークテスト時間が長くなるに従い、イオンコレクタへのヘリウムイオンの到達率が変化していく。それに加えて、イオンソースのイオン密度の変化から起きる空間電荷の影響によりイオンの放出率も変化する。その結果、ヘリウムイオンの到達率やイオンの放出率が変化することを考慮しない上記従来例のものでは、イオンコレクタを流れるヘリウムイオンのイオン電流値からリーク値を算出する際に、そのリーク値(量)が時間経過と共に変化するという不具合がある。この場合、質量分析管内が十分に排気された後、校正を行ってリークテストを開始することが考えられるが、これでは効率が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−38746号公報
【特許文献2】特開2007−198865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、部品点数の増加を招くことなく確実に圧力を把握でき、リークディテクタの使用継続時間に関係なく、正確にリーク値を得ることに最適なリークディテクタ用の磁場偏向型の質量分析管を提供することを第一の課題とするものである。また、本発明は、リークディテクタの使用継続時間に関係なく、正確なリーク値を指示し得る効率のよいリークディテクタを提供することを第二の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第一の課題を解決するために、本発明の磁場偏向型の質量分析管は、試験体からの微小なリークを検出するリークディテクタに用いられる磁場偏向型の質量分析管であって、ガス導入口が開設された管体を有し、この管体内に、フィラメントとグリッドとを有してガス導入口から導入されたガス分子をイオン化するイオンソースと、ヘリウムイオンを捕集する第1のイオンコレクタと、管体内でイオンソースと第1のイオンコレクタとの間に介設され、このイオンソースから所定の加速電圧下で放出されたイオンをその質量数に応じて偏向させる磁場を形成してヘリウムイオンのみを第1のイオンコレクタへと導くマグネットと、を備え、前記イオンソースの周囲に第2のイオンコレクタが付設され、この第2のイオンコレクタにイオンソースによりイオン化された正イオンを捕集するように構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、イオンソースに第2のイオンコレクタを付設して、この第2のイオンコレクタに入射され、このときイオンコレクタを流れるイオン電流値から質量分析管内の全圧を直接測定し得る。このため、本発明の質量分析管をリークディテクタに適用すると、別の真空計を設けることなしに、質量分析管内の圧力変化を確実に把握した状態でリークテストを行い得るため、正確なリーク値を得ることが可能となる。
【0011】
上記第二の課題を解決するために、本発明のリークディテクタは、ガス導入口が開設された管体内にこのガス導入口から導入されたガス分子をイオン化するイオンソース及びヘリウムイオンを捕集する第1のイオンコレクタを備える質量分析管と、この第1のイオンコレクタを流れるイオン電流を測定する第1の測定手段と、質量分析管の管体内の全圧を測定する第2の測定手段と、第1の測定手段にて測定されたヘリウムイオンのイオン電流値からリーク値を算出する制御手段と、制御手段にて算出されたリーク値を指示する指示手段とを備え、前記質量分析管の所定の圧力範囲にて、複数の特定圧力とそのときのリーク値との関係から、特定圧力における補正係数を算出して記憶する記憶手段を更に有し、前記質量分析管内の所定圧力にてリーク値が実際の漏れ量に一致するように校正を行った後、リークテストにより試験体からのリーク値を指示する際、そのとき第2の測定手段で測定された圧力を特定圧力とし、第1の測定手段で測定されたイオン電流値から制御手段により算出されたリーク値に、記憶手段に記憶されたその特定圧力における補正係数を乗じて得た値を補正リーク値として算出し、この補正リーク値を指示するように構成したことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、リークディテクタの使用時間が増加するのに従い、質量分析管内に残留するガス成分の量が少なくなることから、特定圧力における補正係数を乗じて得た値を補正リーク値として算出し、この補正リーク値を指示手段にて指示することで、リークディテクタの使用継続時間に関係なく、正確なリーク値を指示し得る。また、質量分析管内に残留し易い水蒸気等の十分に排気されるまで待つ必要がないため、リークテストの効率も良い。
【0013】
また、上記第二の課題を解決するために、本発明のリークディテクタは、ガス導入口が開設された管体内に、フィラメントとグリッドとを有してこのガス導入口から導入されたガス分子をイオン化するイオンソース及びヘリウムイオンを捕集する第1のイオンコレクタを備える質量分析管と、この第1のイオンコレクタを流れるイオン電流を測定する第1の測定手段と、質量分析管の管体内の全圧を測定する第2の測定手段と、イオンソースのフィラメント及びグリッド間を流れるエミッション電流を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、リーク検知の際に、第2の測定手段により測定された圧力に応じてエミッション電流を制御するように構成したことを特徴とする。
【0014】
ここで、リーク値は、第1のイオンコレクタを流れるイオン電流値から算出されるが、第1のイオンコレクタへのヘリウムイオンの到達率は空間電荷の影響に変動する。そこで、本発明において、制御手段は、リーク検知の際に、第2の測定手段により測定された圧力に応じてエミッション電流を制御する構成を採用することで、例えば、質量分析管内の圧力が高い領域においてはエミッション電流を小さくすることで、イオンの生成が減少するため、空間電荷の影響が小さくなり、リークディテクタの使用継続時間に関係なく、正確なリーク値を指示し得る。
【0015】
ところで、質量分析管内の圧力(全圧)を常時検知するために、真空計を別途設けたものでは部品点数が増加してコスト高を招く等の不具合が生じる。本発明においては、前記質量分析管として請求項1記載の磁場偏向型の質量分析管を用い、前記第2の測定手段は、磁場偏向型の質量分析管の第2のイオンコレクタを流れるイオン電流から質量分析管の管体内の全圧を測定することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のリークディテクタの構成を模式的に説明する図。
【図2】本発明の磁場偏向型の質量分析管を拡大して説明する断面図。
【図3】質量分析管内の圧力(全圧)と指示手段での指示値との関係を示すグラフ。
【図4】エミッション電流を変化させたときの質量分析管内の圧力(全圧)と指示手段での指示値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、ヘリウムをトレーサーガスとして、タンク等の気密容器たる試験体TPのリークテストを行い得る本発明の実施形態の磁場偏向型の質量分析管及びこの質量分析管を備えたリークディテクタを説明する。
【0018】
図1を参照して、1は、リークディテクタであり、リークディテクタ1は、磁場偏向型の質量分析管2を有する。質量分析管2には主管路3が接続され、この主管路3には、高真空排気手段たる複合分子ポンプ4と、その背圧側でフォアバルブ31を介在させて接続された補助真空排気手段たるロータリポンプ5とが設けられ、質量分析管2内を所定圧力(例えば、10−3Pa以下)に保持できるようになっている。複合分子ポンプ4としては、ポンプケーシングにターボ分子ポンプとドラッグポンプとを内蔵したもので構成でき、また、補助真空排気手段5としては、上記限定されるものではなく、メンブレンポンプ等であってもよい。
【0019】
図示省略した試験体に接続し得るテストポート6には排気通路7が接続され、この排気通路7は、2箇所で分岐され、分岐した第1及び第2の気体導入管路71、72が、第1及び第2の各開閉弁81、82を介して、複合分子ポンプ4の圧縮比の異なる位置にそれぞれ接続されている。
【0020】
ロータリポンプ5に通じる排気通路7は、ピラニ真空計等の真空計9と他の開閉弁83とが設けられている。真空計9は、各開閉弁81、82、83の開閉やフォアバルブ31の開閉を制御するために利用される。また、排気管路7には、リークディテクタ1の起動時に校正を行うための標準リーク10が開閉弁10aを介して接続されていると共に、ベントバルブ11が接続されている。
【0021】
磁場偏向型の質量分析管2は、図2に示すように、一方向に長手の管体をその略中央で略L字状に屈曲させてなる本体21を備える。なお、本実施形態では、本体21は、リークディテクタ1内での取付姿勢であって、上方に略直角に屈曲させたものを例に説明する。本体21内の水平通路21aには、主管路3に接続されるガス導入口22が開設されている。水平通路21aの端部(図2中、右端)には、ガス導入口22を介して内部に導入されたガス分子をイオン化するイオンソース23が設けられている。
【0022】
イオンソース23は、図示省略の電源回路から所定電圧が印加されて熱電子を放出するフィラメント23aと、このフィラメント23aの内側に位置し、図示省略の電源回路から所定電圧が印加される陽極たるグリッド23bと、このフィラメント23aから後述のマグネット24側に所定の間隔を存して配置され、図示省略の電源回路からグリッド23bより低い電圧が印加されるスリット23cとを備える。なお、フィラメント23a及びグリッド23bが接続される端子23d、23eは、本体21の一端(図2中、右側)を閉塞する蓋体21bで保持されている。
【0023】
そして、フィラメント23aから放出された熱電子がグリッド23bに引き込まれて電子電流になると共に、熱電子と衝突した本体21内に残留する気体分子から正イオンが生じる。この正イオンは、グリッド23bとスリット23cとの電位差により適切な速度(運動エネルギー)が与えられ、マグネット24側に向けて引き出される。なお、フィラメント23aとグリッド23bとの間には電流計(図示せず)が設けられ、これの間を流れる電流をエミッション電流といい、このエミッション電流が一定値となるように各電源回路にて制御される。
【0024】
マグネット24は、本体21の屈曲された箇所に設けられ、例えば永久磁石から構成され、マグネット24の磁場強度は、ヘリウムイオンのみが後述の第1のイオンコレクタへと導かれるように適宜調節されている。つまり、マグネット24は、イオンソース23から一定の加速電圧下で放出された正イオンを質量数に応じて偏向させる磁場を形成し、所定の正イオン(即ち、ヘリウムイオン)を、本体21のうち上方に屈曲させた直角通路21cの中央を通って第1のイオンコレクタ25へと送る(図2中、矢印で示すもの)。
【0025】
第1のイオンコレクタ25は、水平通路21aに対して直交する方向にのびる直角通路21cの端部(図2中、上端)に設けられ、この直角通路21cに対して直交する方向にのびる金属製の板材25aを備える。また、マグネット24と第1のイオンコレクタ25との間には、マグネット24で偏向されたヘリウムイオンのみが第1のイオンコレクタ25へと導かれて捕捉されるように他のスリット26が設けられている。そして、第1のイオンコレクタ25に付設された第1の測定手段たる電流計A1にて、この第1のイオンコレクタ25を流れるイオン電流が測定され、そのときのイオン電流値が制御手段Cに出力されてリーク値が算出される。
【0026】
また、イオンソース23の周囲には、金属製の筒体からなる全圧測定用の第2のイオンコレクタ27が配置され、本体21内の全圧を測定できるようになっている。即ち、フィラメント23aから放出された熱電子と衝突した本体21内に残留する気体分子から生じた正イオンが第2のイオンコレクタ27にも捕捉され、第2のイオンコレクタ27に付設された第2の測定手段たる電流計A2にて、この第2のイオンコレクタ27を流れるイオン電流が測定され、そのときのイオン電流値が制御手段Cに出力される。これにより、本体21内の全圧を測定される。
【0027】
上記各部品の作動等は、コンピュータやシーケンサ等を備えた制御手段Cによって統括制御される。また、制御手段Cには、第1及び第2のイオンコレクタ25、27にて測定されたイオン電流値からリーク値や圧力を算出するための算出表やリークテスト時のリークディテクタの制御プログラム(作動シーケンス)等が予め記憶されたROM等の記憶手段Mが付設され、また、リーク値や質量分析管2内の圧力を表示できるようにディスプレイDが設けられている。
【0028】
次に、テストポート6に接続された試験体TPのリークテストを行う場合の本発明のリークディテクタ1の作動を説明する。以下では、試験体TPに対してスプレーガン等によってヘリウムを吹付ける場合を例に説明するが、試験体TPに予めヘリウムガスが封入したものを真空雰囲気の形成が可能なテストチャンバ内に設置してリークテストを行うような場合にも適用できる。
【0029】
制御手段Cからリークディテクタ1の起動指示が入力されると、フォアバルブ31が開弁されると共に、複合分子ポンプ4とロータリポンプ5とが起動される。なお、その他の弁は閉弁状態である。そして、第2のイオンコレクタ27を流れて電流計A2にて測定されたイオン電流値から質量分析管2内の圧力が所定値(例えば、6.0×10−3Pa)に達すると、先ず、リーク値が実際の漏れ量に一致するようにリークディテクタ1が校正される。この校正は、例えば、標準リーク10の開閉弁10a及び開閉弁81(または開閉弁82)を開弁して基準漏れ量のヘリウムガスを導入する。そして、複合分子ポンプ4から逆拡散したヘリウムを質量分析管2へと導き、第1のイオンコレクタ25を流れるヘリウムイオンのイオン電流値に基づき校正が行われる。
【0030】
リークディテクタ1の校正が終了すると、開閉弁10a及び第1の開閉弁81が一旦閉弁され、質量分析管2が再度真空引きされる。
【0031】
続いて、ロータリポンプ5によって試験体TP内が真空排気され、真空計9で検出した圧力が所定値に達すると、フォアバルブ31が開弁され、大きな漏れを検出するリークテストが行われる。このリークテストでは、複合分子ポンプ4の圧縮比が比較的高い部分に位置する第2の開閉弁82が開弁され、このとき、ヘリウムガスを吹き付けることで試験体TPにリークが存すると、リーク箇所から試験体内に侵入したヘリウムがテストポート6、第2の気体導入管路72を経て複合分子ポンプ4の圧縮比の比較的高い部分に導入され、このヘリウムが複合分子ポンプ4を逆拡散して質量分析管2へと導かれる。そして、電流計A1にて測定されたイオン電流値が制御手段Cに出力され、制御手段Cによってリーク値が算出され、そのリーク値がディスプレイDに表示される。本実施形態では、このディスプレイDがリーク値を指示する指示手段を構成するが、これに限定されるものではない。
【0032】
次に、質量分析管2でヘリウムが捕捉されず、リーク(漏れ)が確認できないときは、そのまま真空排気を継続し、真空計9の検出圧力が上記所定値よりさらに低く(高真空に)なると、制御手段Cによって第2の開閉弁82を閉弁して第1の開閉弁81を開弁する。これにより、高感度リークテストが開始される。高感度リークテストでは、上記同様、試験体TPにリークが存在すると、リーク箇所から試験体内に侵入したヘリウムがテストポート6、第1の気体導入管路71を経て、複合分子ポンプ4の圧縮比の比較的小さい部分に導入され、逆拡散したヘリウムが質量分析管2で捕捉されてリーク値が指示される。
【0033】
ところで、上記手順にてリークテストを行うとき、質量分析管2の真空引き当初、質量分析管2内には、排気され難い水蒸気等のガス成分が残留している。このような状態では、残留するガス成分により平均自由工程が短くなって、第1のイオンコレクタ25へのヘリウムイオンの到達が妨げられる。このガス成分は時間の経過と共に次第に排気されていき、残留するガス成分が減少してくると、平均自由工程が長くなって第1のイオンコレクタ25にヘリウムイオンが到達し易くなる。
【0034】
また、上記残留するガス成分が多い場合、これらのガス成分がイオンソース23によりイオン化されるため、イオンソース23でのイオン密度が高くなる。このため、これらのイオンによって空間電荷の影響を受けてイオンソースからのイオン放出が妨げられる。その結果、第1のイオンコレクタ25にヘリウムイオンの到達し難くなる。他方、上記ガス成分が次第に排気されてくると、空間電荷の影響が小さくなって、第1のイオンコレクタ25にヘリウムイオンが到達し易くなる。
【0035】
このように、上記手順にてリークディテクタ1を起動した直後に校正を行い、リークテストを行うと、このリークテスト時間が長くなるに従い、第1のイオンコレクタ25へのヘリウムイオンの到達率が変化したり、空間電荷の影響によりイオンの放出率が変化し、正確なリーク値が指示できない虞がある。
【0036】
本実施形態では、電流計A2にて測定された質量分析管2内の圧力と、電流計A1にて測定されたイオン電流から算出されるリーク値との関係を予め測定し、これらの関係から質量分析管2内の圧力に応じた補正係数を求め、これを記憶手段Mに記憶させておくこととした。そして、リークテスト時に、電流計A1にて測定されたイオン電流値が制御手段Cに出力されると、制御手段Cは、イオン電流値に応じたリーク値を一旦算出し、次に、電流計A2にて測定された圧力に応じた補正係数を記憶手段Mから読み出す。次に、算出したリーク値にこの補正係数を乗じて、指示すべき補正リーク値を求め、この補正リーク値をディスプレイDに表示することとした。
【0037】
以上のリーク値の補正を、図3を参照して具体的に説明すると、例えば、リークディテクタ1の起動直後の質量分析管2の圧力が6.0×10−3Paに達した後、校正を行い、その圧力状態で試験体のリークテストを行う。このとき、ディスプレイDに表示された指示値が6.0×10−9Pa・m/Sであると仮定する。そして、同一の試験体TPに対してリークテストを継続して所定時間経過後、質量分析管2の圧力(特定圧力)が2.0×10−3Paに達したときのディスプレイDに表示された指示値が1.0×10−8Pa・m/Sとなったものとする。
【0038】
これを補正するために、質量分析管2内の圧力とリーク値との関係を測定し、補正係数を求めておく。上記では、図3から、0.6÷1=0.6となり、これが2.0×10−3Paの圧力での補正係数となる。そして、質量分析管2の圧力が2.0×10−3Paの状態で実際に算出された1.0×10−8Pa・m/Sに補正係数0.6を乗じて6.0×10−9Pa・m/Sとなる。なお、補正係数は、例えば、校正を行ったときの質量分析管2内の圧力に対する所定の圧力時のリーク指示値を予め測定しておき、その値から求めて記憶手段Mに記憶させておけばよい。
【0039】
以上によれば、リークディテクタ1の使用時間が増加するのに従い、質量分析管2内に残留するガス成分の量が少なくなることから、特定圧力における補正係数を乗じて得た値を補正リーク値として算出し、この補正リーク値をディスプレイDに表示することで、リークディテクタ1の使用継続時間に関係なく、正確なリーク値を常に指示し得る。しかも、質量分析管2内に残留し易い水蒸気等の十分に排気されるまで待つ必要がないため、リークテストの効率も良い。
【0040】
次に、エミッション電流を圧力変化に応じて切り替えることで、正確なリーク値を指示し得るようにした他の実施形態について説明する。
【0041】
ここで、図4には、リークディテクタ1の校正時、エミッション電流を2mAとし、その後、エミッション電流を20μAに切り換えて1.0×10−7 Pa・m/Sのリークを質量分析管2内の圧力を変化させながら記録したリーク値を示す。これによれば、エミッション電流を20μAに固定した方が広い圧力領域において安定してリーク値が得られているものの、エミッション電流が2mAの時と比べてリーク値が100分の1になっている(つまり、リークディテクタ1の感度がエミッション電流に依存する)。従って、質量分析管2内の圧力が高い場合、圧力依存性が小さい20μAとし、他方、低い場合、感度が高い2mAの方が良いということになる。
【0042】
以上より、エミッション電流を20μAで校正して、質量分析管2内の圧力が(1.0×10−2Paより)低い領域になったら、エミッション電流を2mAに切り替えて指示値を100分の1に補正する。これにより、リークディテクタ1の起動直後など質量分析管2の圧力が十分に低くない状況でも精度の高い測定が可能となる。即ち、例えば、質量分析管2内の圧力が高い領域においてはエミッション電流を小さくすることで、イオンの生成が減少するため、空間電荷の影響が小さくなり、リークディテクタ1の使用継続時間に関係なく、正確なリーク値を指示し得る。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これに限定されるものではく、例えば、質量分析管2内の全圧を測定するための第2のイオンコレクタ27の形態は変更可能である。また、エミッション電流を切り換える電流値は、上記に限定されるものではなく、適宜変更し得る。さらに、上記実施形態のリークディテクタでは、コスト高を招かないように、全圧測定が可能な質量分析管2を備えたものを例に説明しているが、真空計を別途備えたものであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…リークディテクタ、2…質量分析管、21…本体(管体)、22…ガス導入口、23…イオンソース、23a…フィラメント、23b…グリッド、24…マグネット、25…(ヘリウムイオン検知用)第1のイオンコレクタ、27…(全圧測定用)第2のイオンコレクタ、A1、A2…電流計(第1及び第2の測定手段)、C…制御手段、D…ディプレイ(指示手段)、M…記憶手段、TP…試験体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体からの微小なリークを検出するリークディテクタに用いられる磁場偏向型の質量分析管であって、
ガス導入口が開設された管体を有し、この管体内に、フィラメントとグリッドとを有してガス導入口から導入されたガス分子をイオン化するイオンソースと、ヘリウムイオンを捕集する第1のイオンコレクタと、管体内でイオンソースと第1のイオンコレクタとの間に介設され、このイオンソースから所定の加速電圧下で放出されたイオンをその質量数に応じて偏向させる磁場を形成してヘリウムイオンのみを第1のイオンコレクタへと導くマグネットと、を備え、
前記イオンソースの周囲に第2のイオンコレクタが付設され、この第2のイオンコレクタにイオンソースによりイオン化された正イオンを捕集するように構成したことを特徴とする磁場偏向型の質量分析管。
【請求項2】
ガス導入口が開設された管体内にこのガス導入口から導入されたガス分子をイオン化するイオンソース及びヘリウムイオンを捕集する第1のイオンコレクタを備える質量分析管と、この第1のイオンコレクタを流れるイオン電流を測定する第1の測定手段と、質量分析管の管体内の全圧を測定する第2の測定手段と、第1の測定手段にて測定されたヘリウムイオンのイオン電流値からリーク値を算出する制御手段と、制御手段にて算出されたリーク値を指示する指示手段とを備え、
前記質量分析管の所定の圧力範囲にて、複数の特定圧力とそのときのリーク値との関係から、特定圧力における補正係数を算出して記憶する記憶手段を更に有し、
前記質量分析管内の所定圧力にてリーク値が実際の漏れ量に一致するように校正を行った後、リークテストにより試験体からのリーク値を指示する際、そのとき第2の測定手段で測定された圧力を特定圧力とし、第1の測定手段で測定されたイオン電流値から制御手段により算出されたリーク値に、記憶手段に記憶されたその特定圧力における補正係数を乗じて得た値を補正リーク値として算出し、この補正リーク値を指示するように構成したことを特徴とするリークディテクタ。
【請求項3】
ガス導入口が開設された管体内に、フィラメントとグリッドとを有してこのガス導入口から導入されたガス分子をイオン化するイオンソース及びヘリウムイオンを捕集する第1のイオンコレクタを備える質量分析管と、この第1のイオンコレクタを流れるイオン電流を測定する第1の測定手段と、質量分析管の管体内の全圧を測定する第2の測定手段と、イオンソースのフィラメント及びグリッド間を流れるエミッション電流を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、リーク検知の際に、第2の測定手段により測定された圧力に応じてエミッション電流を制御するように構成したことを特徴とするリークディテクタ。
【請求項4】
前記質量分析管として請求項1記載の磁場偏向型の質量分析管を用い、前記第2の測定手段は、磁場偏向型の質量分析管の第2のイオンコレクタを流れるイオン電流から質量分析管の管体内の全圧を測定することを特徴とする請求項2または請求項3記載のリークディテクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127929(P2011−127929A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284406(P2009−284406)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】