説明

磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置

【課題】 特定方向における残留磁化が殆どない磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置を提供する。
【解決手段】 第1の方向の磁界を発生させる磁界発生装置と、磁界発生装置が発生させる磁界中に配置された、第1の方向と異なる第2の方向を回転軸として、回転軸に対して回転自在とされている複数の磁性体片20とを有する磁性構造体40とする。気密性および耐圧性を有する容器が不要な、特定方向における残留磁化が殆どない磁性構造体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定方向における残留磁化が殆どない磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、絶縁型の直流電流センサの代表的なものとしてホール素子型の電流センサがある。ホール素子型の電流センサは、透磁率の高い軟磁性材のリングの一部を切除して隙間を持つヨークを形成し、この隙間にホール素子を挟み込んだ構造になっている。ところが、ヨークを構成する軟磁性材にはヒステリシス特性があるため残留磁化が生じ、この残留磁化がオフセット誤差の原因となっている。センサ出力のオフセット量は、センサ稼動中に計測することが事実上不可能なため、センサを連続的に使用しなければならない用途においては、大きな問題となる。
【0003】
このような問題を解決するために、残留磁化の要因は軟磁性材の磁壁にある点に着眼し、磁壁をもたない磁性流体を用いてコアを形成した電流センサが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1にて提案された電流センサによれば、容器に封入した磁性流体をコアとして用いていることから、コアの残留磁化が殆どないため、オフセット誤差が殆どない優れた特性を有する電流センサを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4310373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にて提案された電流センサは、磁性流体を容器に封入する必要があるため、容器に気密性が要求されるとともに、温度変化により磁性流体が膨張および収縮して容器へ加わる圧力が変動するため、その対策が必要となるという問題があった。また、磁性流体は微細な磁性粉と溶液とを混合したものであるため、磁性特性に温度依存性が生じるという問題点もあった。
【0006】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、気密性および耐圧性を有する容器が不要な、特定方向における残留磁化が殆どない磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の磁性構造体は、第1の方向の磁界を発生させる磁界発生装置と、該磁界発生装置が発生させる磁界中に配置された、前記第1の方向と異なる第2の方向を回転軸として、該回転軸に対して回転自在とされている複数の磁性体片とを有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の磁性部品は、コイルと、前記複数の磁性体片の少なくとも一部が前記コイルの内側に位置するように配置された前記第1または第2のいずれかの磁性構造体とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の磁気センサ装置は、前記磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の電流センサ装置は、環の周方向が前記第1の方向および前記第2の方向に垂直になるように前記複数の磁性体片が環状に配置された前記磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備え、前記複数の磁性体片によって形成された環の内側を通過するように、測定対象の電流を流すための導電路が配置されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁性構造体によれば、気密性および耐圧性を有する容器が不要な、特定方向における残留磁化の殆どない磁性体として機能する磁性構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態の第1の例の磁性構造体の、外部磁界が0のときの状態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示す磁性構造体のx軸方向に強い外部磁界が加えられたときの状態を模式的に示す斜視図である。
【図3】図1に示す磁性構造体のx軸方向におけるB−H曲線を模式的に示すグラフである。
【図4】図1に示す磁性構造体のx軸方向におけるμ−H曲線を模式的に示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の第2の例の磁性部品を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態の第3の例の磁気センサ装置を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施の形態の第4の例の電流センサ装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の磁性構造体ならびにそれを用いた磁性部品,磁気センサ装置および電流センサ装置を添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
(実施の形態の第1の例)
図1は本発明の実施の形態の第1の例の磁性構造体の、外部磁界が0のときの状態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示す磁性構造体の、図のx軸方向に強い外部磁界が加えられたときの状態を模式的に示す斜視図である。なお、図1および図2においては、構造を分かりやすくするために、内部を透視した状態を示している。
【0015】
本例の磁性構造体40は、図1および図2に示すように、壁部材10と、複数の棒状支持体15と、複数の磁性体片20と、磁界発生装置として機能するコイル30とを備えている。
【0016】
壁部材10は、直方体の箱状であり、図のz軸方向および図のx軸方向に垂直な図のy軸方向に所定の間隔を開けて、互いに対向するように配置された1対のzx面に平行な壁11,12を含む6つの壁を有している。
【0017】
複数の棒状支持体15は、図のz軸方向に第1の繰り返し間隔P1で、且つz軸方向に垂直な図のx軸方向に第1の繰り返し間隔P1よりも長い第2の繰り返し間隔P2で、それぞれ図のy軸方向に平行に配置されて、両端が1対の壁11,12に接続されている。
【0018】
複数の磁性体片20は、全て同一形状の直方体状の強磁性体であり、長手方向と磁気モーメントの方向とが平行になっている。また、磁性体片20のそれぞれは、回転軸となる貫通孔を有するとともに、回転軸方向に一様な形状を有している。さらに、磁性体片20のそれ
ぞれは、壁部材10の内側に配置されており、貫通孔を棒状支持体15が貫くように、複数の棒状支持体15のそれぞれに回転自在に取り付けられている。すなわち、磁性体片20のそれぞれは、図のy軸方向に平行な棒状支持体15を回転軸として、その回転軸に対して回転自在とされている。なお、棒状支持体15には図示せぬストッパーが設けられており、磁性体片20の図のy軸方向への移動が防止されている。
【0019】
また、複数の磁性体片20は、図のz軸方向に第1の繰り返し間隔(第1の配列ピッチ)P1で、且つz軸方向に垂直な図のx軸方向に第1の繰り返し間隔P1よりも長い第2の繰り返し間隔(第2の配列ピッチ)P2で配置されている。ここで、第1の繰り返し間隔P1および第2の繰り返し間隔P2は、複数の磁性体片20が回転軸を中心に回転したときに、相互にぶつからないような値に設定される必要がある。本例の磁性構造体40においては、複数の磁性体片20は全て同一形状の直方体であるため、第1の繰り返し間隔P1および第2の繰り返し間隔P2は、磁性体片20の長手方向の寸法よりも大きい値に設定されている。
【0020】
コイル30は、コイル30の横断面が図のxy平面に平行になるように壁部材10の周囲に巻き付けられている。また、コイル30は図示せぬ電源に接続されており、コイル30には直流電流が流れている。これにより、コイル30は、壁部材10内に図のz方向の磁界を発生させる磁界発生装置として機能している。そして、磁性体片20は、コイル30が発生させる図のz方向の磁界中に配置されている。よって、それぞれの磁性体片20は、外部磁界が加わらない状態では、磁気モーメントの方向が図のz軸方向と平行になるようにされている。
【0021】
このような構成を備える本例の磁性構造体40によれば、それぞれの磁性体片20は、図のy軸方向に沿った回転軸に対して回転自在とされているとともに、コイル30が発生させる図のz方向の磁界中に配置されている。よって、図1に示すように、外部磁界が0の場合には、コイル30が発生させる磁界によってそれぞれの磁性体片20に働く力によって、それぞれの磁性体片20の磁気モーメントの方向が図のz軸方向に向いている。これにより、図のx軸方向における磁化は0になっている。そして、図のx軸方向に外部磁界が加わると、外部磁界が強くなるにつれて、それぞれの磁性体片20の磁気モーメントの方向が徐々に図のx軸方向に近づいていく。そして、外部磁界の強さが一定以上に強くなると、図2に示すように、それぞれの磁性体片20の磁気モーメントの方向が図のx軸方向に殆ど等しくなって、全体として図のx軸方向に磁化する。これは、図のx軸方向における磁束密度が飽和した状態を示している。そして、外部磁界が弱くなると、それぞれの磁性体片20の磁気モーメントの方向が徐々に図のz軸方向に近づいていき、外部磁界が0になると、図1に示すように、それぞれの磁性体片20の磁気モーメントの方向が図のz軸方向に戻るので、図のx軸方向における残留磁化は殆ど0となる。このようにして、本発明の磁性構造体40によれば、図のx軸方向における残留磁化の殆どない磁性体として機能する磁性構造体40を得ることができる。
【0022】
本例の磁性構造体40の図のx軸方向における磁界Hと磁束密度Bとの関係を図3のグラフに示す。図3のグラフにおいて、横軸は磁界Hを示し、縦軸は磁束密度Bを示す。本例の磁性構造体40は図のx軸方向において残留磁化が殆どないので、磁化Bと磁界Hとの関係は、図3に示すようなtanh(H)型の曲線を示す。また、透磁率μをdB/dHで定義すると、本例の磁性構造体40の図のx軸方向における磁界Hと透磁率μとの関係は、図4のグラフに示すような曲線となる。図4のグラフにおいて、横軸は磁界Hを示し、縦軸は透磁率μを示す。
【0023】
図3および図4のグラフに示したような本例の磁性構造体40の特性は、コイル30の巻き方,コイル30のを流れる電流の大きさ,壁部材10の形状、磁性体片20の形状および材料ならびに磁性体片20の配列方法に依存する。よって、これらの調整により、利用するシステ
ムに適したB−H曲線を得ることも可能である。例えば、第1の繰り返し間隔P1を小さくすると、外部磁界0におけるエネルギー的な安定状態が強くなり、図1,2のx軸方向に外部磁界をかけても、その方向に動きにくくなるため、H=0におけるB−H曲線の傾き(dB/dH)が小さくなる。
【0024】
また、図4のグラフに示したμ−H曲線によれば、磁界Hが0の場合は磁性構造体40の透磁率はμであるが、磁界Hが大きくなるにつれて減少して、H=Hのときにはμ=μとなり、磁界Hと透磁率μとが1対1に対応する。従って、磁性構造体40の透磁率の変化によって、磁性構造体40に加えられた磁界Hの強度を推定することが出来る。
【0025】
また、本例の磁性構造体40によれば、磁性流体を用いないことから、気密性および耐圧性を有する容器が不要な磁性構造体40を得ることができる。
【0026】
さらに、本例の磁性構造体40によれば、特許文献1にて提案された従来の電流センサのように、熱膨張の大きい液体を使用していないため、温度変化による特性変化の小さい磁性構造体40を得ることができる。
【0027】
またさらに、本例の磁性構造体40によれば、複数の磁性体片20が全て同一形状であることから、設計が容易で安定に動作する磁性構造体40を得ることができる。
【0028】
さらにまた、本例の磁性構造体40によれば、コイル30によって発生する磁界の方向(図のz軸方向)における隣り合う磁性体片20同士の距離が、コイル30によって発生する磁界の方向および磁性体片20の回転軸の方向(図のz軸方向)に垂直な図のx軸方向における隣り合う磁性体片20同士の距離よりも小さい。これにより、磁性体片20同士に働く磁力を考慮すると、外部磁界が0の場合にエネルギー的な安定状態になるのは、それぞれの磁性体片20の磁気モーメントの方向が図のz軸方向に向いたときであり、コイル30によって発生する磁界の作用によって磁性体片20の磁気モーメントの方向が向こうとする向きと一致する。これにより、外部磁界が0のときに、さらに、それぞれの磁性体片20の磁気モーメントの方向がコイル30によって発生する磁界の方向に平行になりやすくなるため、さらに安定して動作する磁性構造体40を得ることができる。
【0029】
但し、コイル30によって発生する磁界の方向(図のz軸方向)における隣り合う磁性体片20同士の距離が、コイル30によって発生する磁界の方向および回転軸の方向に垂直な図のx軸方向における隣り合う磁性体片20同士の距離よりも小さいことは必須の要件ではない。例えば、コイル30によって発生する磁界の方向(図のz軸方向)における隣り合う磁性体片20同士の距離が、図のx軸方向における隣り合う磁性体片20同士の距離よりも大きい場合や、コイル30によって発生する磁界の方向(図のz軸方向)における隣り合う磁性体片20同士の距離と、図のx軸方向における隣り合う磁性体片20同士の距離とが等しい場合においても、コイル30によって発生する磁界を充分に大きくすることにより、外部磁界が加わらない場合の磁性体片20の磁気モーメントの方向をコイル30によって発生する磁界の方向(図のz軸方向)と平行にすることができる。
【0030】
本例の磁性構造体40において、磁性体片20は軟質磁性体であることが望ましい。磁性体片20の形状は、1つの方向に長い形状が望ましく、例えば、角柱状,円柱状,卵形等の形状が好適に使用できる。また、複数の磁性体片20は、出来るだけ均一な形状であることが望ましく、全て同じ形状であることがさらに望ましい。磁性体片20の大きさは、用途に応じて適宜設定することができる。
【0031】
本例の磁性構造体40において、壁部材10は様々な材料で形成可能であり、例えば、セラミックス材料や合成樹脂等を使用することができる。
【0032】
(実施の形態の第2の例)
図5は本発明の実施の形態の第2の例の磁性部品を模式的に示す斜視図である。なお、本例においては、上述した実施の形態の第1の例と異なる部分について説明し、同一の構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0033】
本例の磁性部品70は、図5に示すように、図1,図2に示した実施の形態の第1の例の磁性構造体40と、コイル50とを備えており、壁部材10にコイル50が巻かれている。そして、複数の磁性体片20の少なくとも一部がコイル50の内側に位置するように配置されている。
【0034】
図5においては、磁界発生装置であるコイル30,磁性体片20および棒状支持体15の図示を省略しているが、図1,図2と全く同様に、複数の磁性体片20は、壁部材10の内側に、図のz軸方向に第1の繰り返し間隔(第1の配列ピッチ)P1で、且つz軸方向に垂直な図のx軸方向に第1の繰り返し間隔P1よりも長い第2の繰り返し間隔(第2の配列ピッチ)P2で配置されている。そして、複数の棒状支持体15は図のy軸方向に平行に配置されており、複数の磁性体片20は、図のy軸方向の回転軸に対して回転自在とされている。また、コイル30は、コイル30の横断面が図のxy平面に平行になるように壁部材10の周囲に巻き付けられている。また、コイル30は図示せぬ電源に接続されており、コイル30には直流電流が流れている。これにより、コイル30は、壁部材10内に図のz方向の磁界を発生させる磁界発生装置として機能している。そして、磁性構造体40の図示せぬコイル30の外側に、図5に示すようにコイル50が巻き付けられている。なお、コイル50は、コイル50の横断面が図のyz平面にほぼ一致するように巻き付けられている。
【0035】
そして、複数の磁性体片20の少なくとも一部がコイル50の内側に位置するように配置されている。原理的には、少なくとも1個の磁性体片20がコイル50の内側に位置していれば、電磁石や磁気センサとして機能する磁性部品を得ることができるが、性能の高い磁性部品を得るためには、少しでも多くの磁性体片20がコイル50の内側に位置することが望ましい。
【0036】
このような構成を備える本例の磁性部品70によれば、コイル50のコアとして、図のx軸方向における残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、例えば、磁化を殆ど0にすることが可能な電磁石を得ることができる。
【0037】
また、本例の磁性部品70においては、前述したように、磁界Hに対応して磁性構造体40の透磁率が変化し、磁性構造体40の透磁率の変化に対応してコイル50のインダクタンスが変化する。よって、本例の磁性部品70によれば、コイル50のインダクタンスの変化によって磁界Hを検知する磁気センサ素子として機能する磁性部品70を得ることができる。
【0038】
さらに、本例の磁性部品70によれば、コイル50のコアとして、図のx軸方向における残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、残留磁化に起因するオフセット誤差の殆どない磁気センサ素子として機能する磁性部品70を得ることができる。
【0039】
(実施の形態の第3の例)
図6は本発明の実施の形態の第3の例の磁気センサ装置を模式的に示す図である。なお、本例においては、上述した実施の形態の第2の例と異なる部分について説明し、同一の構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
本例の磁気センサ装置は、図6に示すように、図5に示した実施の形態の第2の例の磁性部品70とインダクタンス測定装置60とを備えている。また、インダクタンス測定装置60
は、4つの抵抗素子65〜68と、可変容量キャパシタ61と、交流発生装置62と、電流検出装置63とを備えている。
【0041】
抵抗素子65,コイル50,抵抗素子66,抵抗素子67および抵抗素子68がループを形成するように順次直列に接続されており、さらに、抵抗素子67に可変容量キャパシタ61が並列に接続されている。そして、コイル50および抵抗素子66の接続点と抵抗素子67および抵抗素子68の接続点との間に電流検出装置63が接続されているとともに、抵抗素子65および抵抗素子68の接続点と、抵抗素子66および抵抗素子67の接続点との間に交流発生装置62が接続されている。このようにして、Maxwellブリッジが構成されている。
【0042】
コイル50のyz面における断面積(壁部材10で囲まれた領域のyz面における断面積に一致する。)をS、コイル50の巻き数をN、コイル50のx方向の長さをAとし、外部磁界Hが磁性構造体40に作用しているときの透磁率をμとすると、コイル50部の自己インダクタンスLはμの関数と成り、μS/Aで近似することができる。
【0043】
インダクタンス測定装置60において、交流発生装置62により交流を流すと、一般には電流検出装置63に電流が流れる。しかし、このブリッジが平衡条件を満たすときには電流検出装置63に電流が流れない。この平衡条件は、抵抗素子65の抵抗値をR、抵抗素子66の抵抗値をR、抵抗素子67の抵抗値をR、抵抗素子68の抵抗値をR、可変容量キャパシタ61の容量値をCとすると、R=R=L/Cである。このとき、交流発生装置62による交流の周波数には無関係となる。従って、予め抵抗素子65〜68の抵抗値を調整しておき、可変容量キャパシタ61を調整することにより未知のインダクタンスLを検出することができ、透磁率μを求めることが出来る。また、予めこの磁性構造体40の図4に示すようなμ−H曲線を算出しておけば、この求められた透磁率μの値から外部磁界Hの大きさを求めることが出来る。
【0044】
このような構成を備える本例の磁気センサ装置によれば、コイル50のコアとして、図のx軸方向における残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、残留磁化に起因するオフセット誤差の殆どない磁気センサ装置を得ることができる。
【0045】
(実施の形態の第4の例)
図7は本発明の実施の形態の第4の例の電流センサ装置を模式的に示す図である。なお、本例においては、上述した実施の形態の第3の例と異なる部分について説明し、同一の構成要素には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0046】
本例の電流センサ装置は、図7に示すように、磁性部品70とインダクタンス測定装置60とを備えている。
【0047】
磁性部品70は、壁部材10が環状に形成されており、壁部材10の内部の全体に渡って分布するように複数の磁性体片20が配置されている。すなわち、図1,2におけるx方向が図7におけるθ軸方向(壁部材10の環の周(円周)方向)に対応し、図1,2におけるy方向が図7におけるr軸方向(壁部材10の環の半径方向)に対応し、図1,2におけるz軸方向が図7におけるz軸方向(r軸およびθ軸に垂直な方向であり、導電路80の長さ方向)に対応するように複数の磁性体片20が環状に配置されている。コイル50は、環状に形成された壁部材10の一部に巻き付けられて構成されている。インダクタンス測定装置60は、可変容量キャパシタ61、交流発生装置62および電流検出装置63を備えており、コイル50に接続されてコイル50のインダクタンスを測定する。また、壁部材10の環の内側を通過するように、すなわち、複数の磁性体片20によって形成された環の内側を通過するように、測定対象の電流Iを流すための導電路80が配置されている。インダクタンス測定装置60と環状の壁部材10に巻かれたコイル50とが接続され、コイル50のインダクタンスLと可変容量
キャパシタ61とでLCの直列共振回路を形成している。
【0048】
なお、本例の電流センサ装置に用いられている磁性構造体40は、図1,2に示すコイル30およびそれに接続された電源を備えておらず、その代わりに、環状の壁部材10の両主面(図のz軸方向の両端面)に、その全面に渡って配置された面状強磁性体(図示せず)を備えている。そして、この一対の面状強磁性体によって、図のz軸方向の磁界を壁部材10内部に発生させている。すなわち、この一対の面状強磁性体が、図のz軸方向の磁界を壁部材10内部に発生させる磁界発生装置となっている。
【0049】
本例の電流センサ装置において、コイル50の断面積(環状の壁部材10の断面積に一致する。)をS、壁部材の環における円周の長さの平均値をA、コイル50の巻き数をN、測定対象の電流Iによる環状の壁部材10につくる磁界をHに対する透磁率をμとすると、コイル50における自己インダクタンスLは透磁率μの関数となり、L=μS/Aで表せる。インダクタンス測定装置60において、交流発生装置62により交流を流すと、電流検出装置63に電流が流れる。このときの電流の振幅は、コイル50における自己インダクタンスL,可変容量キャパシタ61の容量値C,および交流発生装置62の角周波数ωにより変動し、ω√(LC)=1の関係にあるとき直列共振を起こし、最大の電流振幅となる。従って、電流検出装置63で検出される電流の振幅が最大になるように、可変容量キャパシタ61の容量値および交流発生装置62の角周波数ωの少なくとも一方を調整することにより、コイル50のインダクタンスLを検出することが出来る。このインダクタンスLから前述の磁気センサ装置と同様にして測定対象の電流Iによる磁界Hを求めることが出来る。結局、H=NI/Aの関係から測定対象の電流Iを検出することが出来る。
【0050】
このような構成を備える本例の電流センサ装置によれば、コイル50のコアとして、図のθ軸方向における残留磁化の殆どない磁性構造体40を用いていることから、残留磁化に起因するオフセット誤差の殆どない電流センサ装置を得ることができる。
【0051】
(変形例)
本発明は前述した実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0052】
例えば、前述した実施形態の第1の例においては、直方体の箱状の壁部材10を使用した例を示したが、これに限定されるものではなく、他の形状を有する壁部材であっても構わない。また、必ず壁部材を必要とするものではなく、例えば、平板状の台座の上面に棒状支持体15が固定されていても良い。さらに、壁部材10は面状である必要はなく、複数の棒状支持体15を固定することができれば、網状や格子状の壁部材10であっても構わない。
【0053】
また、前述した実施の形態の第1〜第3の例においては、棒状支持体15を有する磁性構造体40の例を示したが、これらに限定されるものではない。例えば、それぞれの磁性体片20の表面の回転軸と交わる2点に各々糸を接続し、この2本の糸を引っ張ることによって磁性体片20を支持するようにしても構わない。
【0054】
さらに、前述した実施の形態の第1の例においては、複数の磁性体片20を格子状に配置した場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の磁性体片20を千鳥格子状に配置してもかまわない。
【0055】
またさらに、前述した実施の形態の第2,第3の例においては、壁部材10の内側の全体に渡って、複数の磁性体片20が直方体状に配置された磁性構造体40を用いた例を示したが、これに限定されるものではなく、複数の磁性体片20が他の形状に配置された磁性構造体40を用いても構わない。
【0056】
さらにまた、前述した実施の形態の第4の例においては、壁部材10の内側の全体に渡って、複数の磁性体片20が、横断面が矩形の円環状に配置された磁性構造体40を用いた例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の磁性体片20が、横断面が円形の円環状に配置された磁性構造体40を用いてもよい。また、円環状ではなく、多角形の環状の磁性構造体40を用いることも可能である。
【0057】
またさらに、前述した実施の形態の第2〜第4の例においては、コイル50の横断面がx軸方向またはθ軸方向に略垂直になるように、コイル50が壁部材10に巻き付けられている例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、複数の磁性体片20と間隔をあけてその周囲を大きく取り囲むようにコイル50が配置されるようにしても構わない。また、x軸方向またはθ軸方向がコイル50の横断面と斜めに交わるようにしても構わない。
【0058】
さらにまた、前述した実施の形態の第3,第4の例においては、外部磁界Hによる透磁率μの計測手法として、MaxwellブリッジやLC共振を用いたインダクタンス測定装置を用いた例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、特許文献1に示されているような磁気ブリッジを用いた手法でも検出可能である。
【0059】
またさらに、前述した実施の形態の第4の例においては、コイル50内の透磁率からコイル50を貫く磁界および導電路80を流れる電流を算出する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、実施の形態の第3の例の磁気センサ装置において、コイル50を貫く磁界Hを変化させたときのコイル50のインダクタンスの変化を測定して、コイル50を貫く磁界Hとコイル50のインダクタンスとの対応関係を示すデータを保存しておけば、コイル50のインダクタンスに基づいてコイル50を貫く磁界Hの大きさを得ることができる。同様に、実施の形態の第4の例の電流センサ装置において、導電路80を流れる電流Iを変化させたときのコイル50のインダクタンスの変化を測定して、導電路80を流れる電流Iとコイル50のインダクタンスとの対応関係を示すデータを保存しておけば、コイル50のインダクタンスに基づいて導電路80を流れる電流Iの値を得ることができる。
【0060】
さらにまた、上述した実施の形態の第4の例においては、図示せぬ一対の面状強磁性体からなる磁界発生装置を用いた例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、コイルの横断面が図7のr−θ平面にほぼ一致するように環状の壁部材10の外周面に巻き付けられたコイルによって磁界発生装置を構成しても構わない。
【0061】
またさらに、上述した実施の形態の第1〜第4の例においては、磁界発生装置(コイル30または図示せぬ面状強磁性体)が発生する磁界の方向と、磁性体片20の回転軸の方向とが垂直である例を示したが、これに限定されるものではない。極端に言えば、磁界発生装置が発生する磁界の方向と磁性体片20の回転軸の方向とが異なっていればよい。但し、磁界発生装置が発生する磁界の方向と磁性体片20の回転軸の方向とが垂直に近いほど、磁界発生装置が発生する磁界の力によって、磁性体片20の磁気モーメントの方向が磁界発生装置が発生する磁界の方向に揃いやすいので望ましい。
【符号の説明】
【0062】
20:磁性体片
40:磁性構造体
50:コイル
60:インダクタンス測定装置
70:磁性部品
80:導電路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向の磁界を発生させる磁界発生装置と、該磁界発生装置が発生させる磁界中に配置された、前記第1の方向と異なる第2の方向を回転軸として、該回転軸に対して回転自在とされている複数の磁性体片とを有することを特徴とする磁性構造体。
【請求項2】
前記複数の磁性体片は全て同一形状であることを特徴とする請求項1に記載の磁性構造体。
【請求項3】
コイルと、前記複数の磁性体片の少なくとも一部が前記コイルの内側に位置するように配置された請求項1または請求項2に記載の磁性構造体とを備えることを特徴とする磁性部品。
【請求項4】
請求項3に記載の磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備えることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項5】
環の周方向が前記第1の方向および前記第2の方向に垂直になるように前記複数の磁性体片が環状に配置された請求項3に記載の磁性部品と、前記コイルに接続された該コイルのインダクタンスを測定するインダクタンス測定装置とを備え、前記複数の磁性体片によって形成された環の内側を通過するように、測定対象の電流を流すための導電路が配置されることを特徴とする電流センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−49309(P2012−49309A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189604(P2010−189604)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】