磁性流体シール付き軸受
【課題】取扱性が良く、磁性流体の注入作業が容易に行え、さらに回転軸を支持した状態で回転軸の回転性能を低下させることのない磁性流体シール付き軸受を提供する。
【解決手段】本発明の磁性流体シール付き軸受1は、内輪3と、内輪の露出端面3aから軸方向に突出する伸長円筒部5aを具備した外輪5と、内輪3と外輪5との間に介装される複数の転動体7と、外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定され、内輪3の露出端面3aとの間で磁性領域を発生させるように磁石25を保持した保持板21と、保持板21の磁性領域と内輪3の露出端面3aとの間に保持される磁性流体27と、を有する。
【解決手段】本発明の磁性流体シール付き軸受1は、内輪3と、内輪の露出端面3aから軸方向に突出する伸長円筒部5aを具備した外輪5と、内輪3と外輪5との間に介装される複数の転動体7と、外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定され、内輪3の露出端面3aとの間で磁性領域を発生させるように磁石25を保持した保持板21と、保持板21の磁性領域と内輪3の露出端面3aとの間に保持される磁性流体27と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の動力伝達機構に配設され、回転軸を回転自在に支持すると共に、内部に異物が侵入しないようにする磁性流体シールを具備した軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種の駆動力伝達機構に設置される回転軸は、軸受を介して回転自在に支持されている。この場合、軸受は、内輪と外輪との間に周方向に沿って複数の転動体(転がり部材)を収容した、いわゆるボールベアリングを用いることが多く、このようなタイプの軸受を用いることで、回転軸の回転性能の向上を図っている。
【0003】
このような軸受は、様々な駆動装置における駆動力伝達機構の回転軸の支持手段として用いられるが、駆動装置によっては、軸受部分を通過して、内部に埃、水分等の異物の侵入を防止したいことがある。また、軸受そのものに異物が侵入すると、回転性能が劣化したり、異音が生じる等の問題が生じる。このような問題の対策として、軸受に近接する回転軸の外周に、弾性材からなるシール部材を接触させて軸受部分の防水、防塵を図ることが行われているが、弾性材からなるシール部材の接触圧の影響で、回転軸の回転性能が低下してしまう。
【0004】
そこで、回転軸の回転性能を低下させることなく、軸受部分に対する異物の侵入防止を図る構成として、磁性流体を用いた磁気シール機構を備えた軸受(磁性流体シール付き軸受)が知られている。例えば、特許文献1には、磁性体からなる2枚の極板で磁石を挟持し、これらの極板を外輪の内面に取着すると共に、内輪の内面との間の僅かな隙間に磁性流体を保持した構造が開示されている。また、特許文献2には、軸受の開口を閉塞するシール部材(蓋部材)の軸方向内面側に磁性流体を保持した構造が開示されており、特許文献3には、さらに奥まった位置に磁性流体が保持できるように、軸方向に沿って蓋部材と磁束環体を設置し、蓋部材に取着した磁極環体と磁束環体との間に磁性流体を保持した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−91125号
【特許文献2】実公平5−47855号
【特許文献3】実公昭63−40652号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に開示されている磁性流体シール付き軸受は、軸受の開口端側付近に磁性流体を保持するため、外部材(特に布状物)に触れると磁性流体が吸着され易く、保管方法や作業環境に注意を必要とする。また、外輪や内輪の内面に周方向に沿うように磁性流体を保持するため、回転抵抗が大きくなってしまい、回転軸の回転性能に劣るという問題がある(図9から図11参照)。
【0007】
上記した特許文献2や特許文献3に開示されている磁性流体シール付き軸受は、特許文献1に開示されている構造と比較して奥まった位置に磁性流体を保持するため、取扱性の向上は図れるものの、磁性流体の注入が難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、取扱性が良く、磁性流体の注入作業が容易に行え、さらに回転軸を支持した状態で回転軸の回転性能を低下させることのない(回転抵抗を最小限に抑えた)磁性流体シール付き軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る磁性流体シール付き軸受は、内輪と、この内輪の露出端面から軸方向に突出する伸長円筒部を具備した外輪と、前記内輪と外輪との間に介装される複数の転動体と、前記外輪の伸長円筒部の内面に固定され、前記内輪の露出端面との間で磁性領域を発生させるように磁石を保持した保持板と、前記保持板の磁性領域と前記内輪の露出端面との間に保持される磁性流体とを有することを特徴とする。
【0010】
上記した構成によれば、外輪の伸長円筒部の内面に固定された保持板の磁性領域と内輪の露出端面との間に保持される磁性流体によって、内部に水分や埃などの異物が侵入することが防止され、回転軸の回転性能を低下させることなくシール性を高めることが可能となる。また、磁性流体は、軸方向外方に向けて露出することなく、外輪の伸長円筒部の内面に固定された保持板によって遮蔽された状態になるため、布状物のような他物に触れて吸着され難くなり、取扱性が向上する。さらに、内輪が短く形成されているため、磁性流体の注入作業が行い易いと共に、複数の転動体に対して回転抵抗となるような径方向の磁力(内輪と外輪が引き合う方向の磁力)が作用しないため、回転軸の回転性能が低下するのを防止することが可能となる。
【0011】
なお、上記した外輪の伸長円筒部の内面に固定される保持板は、内輪の露出端面との間で磁性流体を保持するために、磁気回路を形成する磁石を保持した非磁性体として構成しても良いし、保持板そのものが内輪の露出端面に対向する対向部を具備した磁性を有する磁性部材として構成されていても良い。すなわち、本発明では、外輪よりも軸方向に短くなった内輪の露出端面側に磁性流体が保持され、この磁性流体が、軸方向の外方において遮蔽された状態になっていれば、磁性流体の保持構造については適宜変形することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、取扱性が良く、磁性流体の注入作業が容易に行え、回転軸を支持した状態で回転軸の回転性能を低下させることのない磁性流体シール付き軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第2の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図4】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第3の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図5】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第4の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図。
【図6】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第5の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図7】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第6の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図8】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第7の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図9】従来の磁性流体シール付き軸受の構成を示す図であり、(a)は軸方向に沿った断面図、(b)は要部拡大図。
【図10】図9に示す磁性流体シール付き軸受の軸方向と直交する方向の断面図。
【図11】(a)及び(b)は、それぞれ図10に示す従来の磁性流体シール付き軸受の問題点を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る磁性流体シール付き軸受の実施形態について説明する。
図1及び図2は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、図1は軸方向に沿った断面図、図2は図1の要部拡大図である。
【0015】
本実施形態に係る磁性流体シール付き軸受(以下、軸受と称する)1は、円筒状の内輪3と、これを囲繞する円筒状の外輪5と、前記内輪3と外輪5との間に介装される複数の転動体(転がり部材)10とを備えている。前記転動体10は、周方向に延出するリテーナ(保持器)11に保持されており、内輪3と外輪5を相対的に回転可能としている。
【0016】
前記内輪3、外輪5及び転動体10は、磁性を有する材料、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されており、前記リテーナ11は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成されている。また、前記外輪5は、内輪3の軸方向Xにおける長さ(軸方向長さ)よりも長く形成されており、前記内輪3の一方の露出端面3aから軸方向に突出する伸長円筒部5aを具備している。なお、本実施形態の外輪5は、内輪3の他方の露出端面3bとは略同一となるように構成されている(後述する第7実施形態のように、外輪5は、一方の露出端面3aに加え、他方の露出端面3bからも軸方向に突出した伸長円筒部を備えていても良い)。
【0017】
上記したように、外輪5が内輪3の露出端面3aから軸方向に突出することで、伸長円筒部5aの径方向内側には、スペースSが生じる。本発明では、このスペース部分に磁性流体シール(磁気シール機構)20を配設している。以下、本実施形態の磁性流体シール20の構成について説明する。
【0018】
磁性流体シール20は、前記外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定され、磁石を保持する保持板21を備えている。この場合、保持板21は、内輪3の露出端面3aとの間で磁性領域を発生させるような構造であれば良く、本実施形態では、真鍮、アルミ合金、樹脂、或いは金属補強された弾性材などの非磁性材料で、中央に開口領域21aを有するリング形状に形成されており、伸長円筒部5aの内面に固定されて軸方向Xに対して直交する方向に延在している。そして、径方向内側となる先端には、リング状に形成された磁石25が内輪3の露出端面3aに対向するように止着されており、これにより、保持板21に上記磁性領域を形成している。
このような構造では、リング状の磁石25を保持板21と共に予めユニット化することが可能であり、磁性流体シール20の構造を簡略化することが可能となる。
【0019】
本実施形態では、リング形状の保持板21は、その中間部分が軸方向外側に向かって膨出するように屈曲形成されており、その先端の軸方向内側に、リング状の凹所21bを形成している。このリング状の凹所21bは、内輪3の露出端面3aと対向するように形成されており、この部分にリング状の磁石25が露出端面3aと所定間隔Gを置いて対向するように取着されている。したがって、保持板21は、リング状の磁石25を保持した際、軸方向に対して厚肉化することなく、省スペース化が図れるようになっている(本実施形態では、保持板21は、リング状の磁石25を凹所21bに取着すると、保持板21の内面側が略面一状になるように構成されている)。なお、前記リング状の磁石25は、軸方向外側25aがS極、軸方向内側25bがN極となっており、これにより、前記所定間隔Gを経由して内輪3との間で磁気回路を形成する(磁束方向の概略を矢印で示す)。
【0020】
上記したリング状の磁石25は、予め保持板21の凹所21bに取着され、この状態で軸受1に圧入される。この圧入に際しては、保持板21の周端部が、軸受1の外輪5の内面に形成された段部5bに当て付いて位置決めされる。このように、外輪5に対して保持板21を圧入した後、スポイト等の注入部材を利用して、中央の開口領域21aを介して磁性流体27を前記所定間隔Gの部分に注入する。
【0021】
注入される磁性流体27は、例えばFe3O4のような磁性微粒子を、界面活性剤およびベースオイルに分散させて構成されたものであり、粘性があって磁石を近づけると反応する特性を備えている。このため、磁性流体27は、上記したように、リング状の磁石25と、磁性材料で構成される内輪3の露出端面3aとの間で形成される磁気回路によって、前記所定間隔Gに全周に亘って安定して保持され、軸受1の内部(転動体側)をシールする。
【0022】
上記した構成では、所定間隔Gは、保持板21に取着されるリング状の磁石25と、内輪3の径方向内面3b(この内面3bは、図示されていない回転軸が嵌入される部分となる)との間の隙間Dよりも小さくなるように設定されていることが好ましい。
これは、嵌入される回転軸が磁性材料で形成されていると、間隔Dの部分に磁性流体が移動してしまうことが考えられるが、上記のように(G<D)となるように設定しておくことで、所定間隔Gに安定した量の磁性流体27を保持させておくことができ、シール効果を高めることが可能となる。
【0023】
また、上記した構成では、保持板21に対して、軸方向外方から、リング状のシールド(密閉板)30を圧入固定することが好ましい。このような密閉板30は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成することが可能であり、周端部に圧入屈曲部30aを形成し、この部分を弾性変形させながら、外輪5の内面に形成された段部5cに嵌入することで、前記保持板21の圧入によるシールに加え、外輪5の内面に沿って水分や埃等が、内部に侵入することを確実に防止することが可能となる。なお、前記中間部分が屈曲した保持板21には、軸方向外方の周縁部にリング状の凹部21cが形成されており、この凹所21cを利用してシールド30の圧入屈曲部30aを配置できるにすることで、軸方向のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0024】
次に、上記した軸受1の作用効果について説明する。
上記したように、磁性流体シール20は、内輪3に対して外輪5を軸方向に突出させ、この外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定された保持板21の磁性を有する領域(本実施形態ではリング状の磁石25を取着した領域)と内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を保持する構成のため、そのようなシール構造を有する軸受の軸方向寸法をコンパクト化できると共に、磁性流体27によって、内部に水分や埃などの異物が侵入することが防止され、回転軸の回転性能を低下させることなくシール性を高めることが可能となる。
【0025】
また、磁性流体27は、軸方向外方に向けて露出することなく、外輪の伸長円筒部の内面に固定された保持板21によって遮蔽された状態になるため、布状物のような他物に触れて吸着され難くなり、取扱性の向上が図れると共に、内輪3が短く形成されていることから、磁性流体27の注入作業が行い易くなる。また、保持される磁性流体27は、水や埃が侵入した場合、上記したように、保持板21によって、軸方向外方側からの侵入圧を受けることがない(直接的な水圧等が作用しない)ため、耐水性、防塵性を高めることが可能となる。
【0026】
また、本実施形態の構成では、シールド30を含め、リング状の磁石25を保持板21に取着しておき、これを外輪5に圧入して、所定領域に磁性流体27を注入するだけの簡単な構造であり、かつ、外輪5の伸長円筒部5a及び保持板21の形状により、これらを効率良く配置したことで、軸受全体としてコンパクト化を図ることが容易になる。
【0027】
さらに、上記したように、本実施形態の構成では、外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定した保持板21の磁性領域と、内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を軸方向Xに沿って保持するため、従来の構成と比較すると、複数の転動体に対して回転抵抗となるような径方向の磁力(内輪と外輪が引き合う方向の磁力)が作用しなくなり、回転軸の回転性能が低下するのを防止することが可能となる。
【0028】
以下、このような作用効果について、図9から図11を参照して具体的に説明する。
なお、これらの図に示す軸受81は、上述した特許文献1に開示されているように、内輪83と外輪85との間の空間部に磁性流体シール90を配置したものである。磁性流体シール90は、リング状の磁石92を挟持保持した一対のポールピース95の先端と内輪83の径方向外側面83aとの間に、磁性流体97を保持した構成となっている。また、内輪83と外輪85との間には、リテーナ88によって、複数の転動体87が保持されている。
【0029】
通常、軸受を構築するに際しては、リテーナ88に保持される転動体87は、内輪83と外輪85の中心軸Xに対して、360°に亘って転動に支障が生じないように、図10に示すように、所定のクリアランス(例えば、径方向の内外の隙間C1及びC2合わせて3ミクロン程度)をもって設置される。ところが、図9に示すようなリング状の磁石92の配置態様によれば、設置後、リング状の磁石92が、360°の全周に亘って均一に内輪と外輪を引き付けることはなく、360°の範囲の内、必ず、どこかで内輪83と外輪85が引き付け合う位置が生じる。これは、磁石92のずれ、各アッセンブリの誤差、組み込み時のずれ等が生じていることによるものであり、磁石92は、内輪と外輪が最も近くなっている位置でより強い吸引作用を生じさせることから、結果として、内外輪の360°の範囲のいずれかに、ラジアル方向の吸引力発生位置(最大磁界位置)が生じることとなる。
【0030】
図11では、便宜上、そのような最大磁界位置が時計の12時の位置で生じるものとして示しており、この12時の位置では、(a)に示すように、ラジアル方向の磁界が強く作用して内輪83と外輪85の距離が最も近くなっており(矢印で示すように引き付け合う)、これに伴い、6時の位置では、内輪83と外輪85の距離が最も離れた状態となる。すなわち、図に示すように、軸受の転動体87が8個設置されて(転動体の間隔は45°)転動するケースを仮定すると、(a)に示す時計の12時の位置では、転動体87が通過できるように、内外輪の隙間d1は、転動体87が押し広げて最も広くなった状態となる。一方、転動体87が12時の位置から最も離れる(b)に示す位置(12時の位置から、22.5°ずれた位置)では、内外輪の間隔d2は最も狭くなった状態となる。
【0031】
このように、内輪83及び外輪85は、回転軸が回転して転動体87が転動する際、最大磁界位置において、互いの距離が近づいたり離れるように動作し、これが、転動体87に対してエネルギー損失を発生させる要因となる。すなわち、内輪83に対して嵌合された回転軸が回転すると、図11(a)及び(b)に示すように、内輪及び外輪が12時の位置で接近/離反を繰り返し、転動体には12時の位置で大きなエネルギー損失が作用することになるため、結果として、回転軸の回転性能が低下することとなる。なお、図において、d3,d4は、内外輪の本来の中心位置Xに対する相対的な上下の変動範囲を示しており、回転軸の回転に伴って転動体87が転動する際、内輪及び外輪は、この範囲内で上下に変動を繰り返す(d1−d2=d4−d3)。
【0032】
また、回転軸が回転して最終的に停止しようとすると、転動体87は、12時の位置で嵌まり込むように停止することはなく、必ず、停止直前に反転動作が生じてしまう。すなわち、図示しない回転軸が時計回り方向に回転しており、最終的に停止する直前には、公転する転動体87は、図11(a)に示す内輪と外輪の間隔が広くなっている12時の位置で停止することはなく、図11(b)に示す位置となるように、反時計回り方向に戻される現象が生じるようになる。したがって、従来の構成では、回転軸を回転方向に沿ってスムースに停止させることができない状態となっている。
【0033】
これに対し、上述した実施形態では、流体磁性シール20のリング状の磁石25は、内輪と外輪をラジアル方向に引き付け合う方向に設置されるのではなく、内輪3を軸方向に引き付けるだけであるため、上記したような転動体に対するラジアル方向の負荷が作用することはない。すなわち、転動体が転動する際、エネルギー損失が小さいことから、回転軸の回転が軽くなる(回転性能が向上する)とともに、回転軸の停止がスムースに行えるようになる。
【0034】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
以下に説明する実施形態では、上記した第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0035】
図3は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第2の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
この実施形態では、上記した第1の実施形態で示したリング状の磁石25の内周面に、360°に亘ってリング状の磁束漏洩防止部材32を止着している。このような磁束漏洩防止部材32は、SUS440Cのような磁性材料で構成することができ、予めリング状の磁石25と共に保持板21と一体化しておくことが可能である。
【0036】
このような構成では、図の矢印で示すような磁束が生じることで回転体側への磁束漏洩を抑制することが可能となる。すなわち、内輪3の露出端面3aとの間の磁束密度が高まり、磁性流体27の保持効率の向上が図れるようになる。
【0037】
図4は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第3の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
この実施形態では、符号32aで示すように、上記した第2の実施形態で示したリング状の磁束漏洩防止部材32を断面凹形状としており、この凹部内にリング状の磁石25を止着して保持板21に保持させている。
【0038】
このような磁束漏洩防止部材32aによれば、図の矢印で示すように、回転体側に加え外輪側への磁束漏洩も抑制することが可能となる。すなわち、内輪3の露出端面3aとの間の磁束密度をより高めることが可能となって、さらに磁性流体27の保持効率の向上が図れるようになる。
【0039】
図5は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第4の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
この実施形態では、上述した各実施形態におけるシールド30を排除しており、これにより、軸受を軸方向によりコンパクト化することが可能となる。
【0040】
図6は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第5の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
上述した実施形態では、外輪の伸長円筒部に、非磁性材料で構成された保持板21を固定し、保持板21に磁性を有する領域(リング状の磁石25を取着した領域)を形成して内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を保持させていたが、本実施形態のように、保持板に代えて、例えば、SUS440Cのような磁性材料で構成される磁性部材41を配設しても良い。この場合、磁性部材41は、リング状に形成され、その先端(径方向内側)が、内輪3の露出端面側に屈曲されており、その屈曲部41aの端面41bを内輪3の露出端面3aと対向させ、両者の間に磁性流体27を保持させている。
【0041】
そして、磁性部材41の基端側の軸方向内側には、リング状の磁石25が取着されており、磁性部材41に対して矢印M1,M2で示すような磁束を発生させている。この場合、磁石25の止着位置については、適宜、変形することが可能である。
このような構成においても、上述した実施形態と同様な作用効果が得られると共に、構造を簡略化して軸方向の省スペース化を図ることが可能となる。
【0042】
図7は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第6の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
本実施形態では、図6に示した実施形態の磁性部材41の軸方向外方、及び外輪の内面側を樹脂等の非磁性材料で構成される非磁性体42で覆っており、これにより、図6に示す外輪側で発生する磁束M2を弱くして、内輪側で発生する磁束M1を高めるようにしている。
このような非磁性体42を設置することで、内輪3の露出端面3aとの間の磁束密度を高めることが可能となり、磁性流体27の保持効率の向上が図れるようになる。
【0043】
図8は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第7の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
上述した実施形態では、いずれも軸受1の片方側の外輪5に伸長円筒部5aを形成し、ここに流体磁性シール20を配設することで、軸受内部、及びそれよりもさらに軸方向内側の各種機能部材をシールするよう構成したが、図に示すように、軸受1の両側に伸長円筒部5aを形成し、それぞれに流体磁性シール20を配設するようにしても良い。
【0044】
このような構成によれば、回転軸の回転性能を低下させることなく、軸受の内部に、水分、埃等が侵入することを確実に防止することが可能になる。
なお、図において、軸方向の両サイドに配設される磁性流体シール20は、上述した第1の実施形態と同様な構成となっているが、上述した第2から第6実施形態のように構成されていても良い。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
本発明は、軸受1の外輪5に伸長円筒部5aを形成し、ここに流体磁性シール20を配設して、内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を保持するように構成されていれば良く、上記した保持板21や磁性部材41の形状については種々変形することが可能である。また、上述した実施形態では、保持板21にリング状の磁石25を取着し、内輪3の露出端面3aとの間で直接、磁性流体27を保持したが、保持板21に、磁石を挟持した極板(ポールピース)を露出端面3aに対向するように配設しても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 磁性流体シール付き軸受
3 内輪
3a 露出端面
5 外輪
5a 伸長円筒部
10 転動体
20 磁性流体シール
21 保持板
25 磁石
27 磁性流体
41 磁性部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の動力伝達機構に配設され、回転軸を回転自在に支持すると共に、内部に異物が侵入しないようにする磁性流体シールを具備した軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種の駆動力伝達機構に設置される回転軸は、軸受を介して回転自在に支持されている。この場合、軸受は、内輪と外輪との間に周方向に沿って複数の転動体(転がり部材)を収容した、いわゆるボールベアリングを用いることが多く、このようなタイプの軸受を用いることで、回転軸の回転性能の向上を図っている。
【0003】
このような軸受は、様々な駆動装置における駆動力伝達機構の回転軸の支持手段として用いられるが、駆動装置によっては、軸受部分を通過して、内部に埃、水分等の異物の侵入を防止したいことがある。また、軸受そのものに異物が侵入すると、回転性能が劣化したり、異音が生じる等の問題が生じる。このような問題の対策として、軸受に近接する回転軸の外周に、弾性材からなるシール部材を接触させて軸受部分の防水、防塵を図ることが行われているが、弾性材からなるシール部材の接触圧の影響で、回転軸の回転性能が低下してしまう。
【0004】
そこで、回転軸の回転性能を低下させることなく、軸受部分に対する異物の侵入防止を図る構成として、磁性流体を用いた磁気シール機構を備えた軸受(磁性流体シール付き軸受)が知られている。例えば、特許文献1には、磁性体からなる2枚の極板で磁石を挟持し、これらの極板を外輪の内面に取着すると共に、内輪の内面との間の僅かな隙間に磁性流体を保持した構造が開示されている。また、特許文献2には、軸受の開口を閉塞するシール部材(蓋部材)の軸方向内面側に磁性流体を保持した構造が開示されており、特許文献3には、さらに奥まった位置に磁性流体が保持できるように、軸方向に沿って蓋部材と磁束環体を設置し、蓋部材に取着した磁極環体と磁束環体との間に磁性流体を保持した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−91125号
【特許文献2】実公平5−47855号
【特許文献3】実公昭63−40652号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に開示されている磁性流体シール付き軸受は、軸受の開口端側付近に磁性流体を保持するため、外部材(特に布状物)に触れると磁性流体が吸着され易く、保管方法や作業環境に注意を必要とする。また、外輪や内輪の内面に周方向に沿うように磁性流体を保持するため、回転抵抗が大きくなってしまい、回転軸の回転性能に劣るという問題がある(図9から図11参照)。
【0007】
上記した特許文献2や特許文献3に開示されている磁性流体シール付き軸受は、特許文献1に開示されている構造と比較して奥まった位置に磁性流体を保持するため、取扱性の向上は図れるものの、磁性流体の注入が難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、取扱性が良く、磁性流体の注入作業が容易に行え、さらに回転軸を支持した状態で回転軸の回転性能を低下させることのない(回転抵抗を最小限に抑えた)磁性流体シール付き軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る磁性流体シール付き軸受は、内輪と、この内輪の露出端面から軸方向に突出する伸長円筒部を具備した外輪と、前記内輪と外輪との間に介装される複数の転動体と、前記外輪の伸長円筒部の内面に固定され、前記内輪の露出端面との間で磁性領域を発生させるように磁石を保持した保持板と、前記保持板の磁性領域と前記内輪の露出端面との間に保持される磁性流体とを有することを特徴とする。
【0010】
上記した構成によれば、外輪の伸長円筒部の内面に固定された保持板の磁性領域と内輪の露出端面との間に保持される磁性流体によって、内部に水分や埃などの異物が侵入することが防止され、回転軸の回転性能を低下させることなくシール性を高めることが可能となる。また、磁性流体は、軸方向外方に向けて露出することなく、外輪の伸長円筒部の内面に固定された保持板によって遮蔽された状態になるため、布状物のような他物に触れて吸着され難くなり、取扱性が向上する。さらに、内輪が短く形成されているため、磁性流体の注入作業が行い易いと共に、複数の転動体に対して回転抵抗となるような径方向の磁力(内輪と外輪が引き合う方向の磁力)が作用しないため、回転軸の回転性能が低下するのを防止することが可能となる。
【0011】
なお、上記した外輪の伸長円筒部の内面に固定される保持板は、内輪の露出端面との間で磁性流体を保持するために、磁気回路を形成する磁石を保持した非磁性体として構成しても良いし、保持板そのものが内輪の露出端面に対向する対向部を具備した磁性を有する磁性部材として構成されていても良い。すなわち、本発明では、外輪よりも軸方向に短くなった内輪の露出端面側に磁性流体が保持され、この磁性流体が、軸方向の外方において遮蔽された状態になっていれば、磁性流体の保持構造については適宜変形することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、取扱性が良く、磁性流体の注入作業が容易に行え、回転軸を支持した状態で回転軸の回転性能を低下させることのない磁性流体シール付き軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第2の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図4】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第3の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図5】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第4の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図。
【図6】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第5の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図7】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第6の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図8】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第7の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図。
【図9】従来の磁性流体シール付き軸受の構成を示す図であり、(a)は軸方向に沿った断面図、(b)は要部拡大図。
【図10】図9に示す磁性流体シール付き軸受の軸方向と直交する方向の断面図。
【図11】(a)及び(b)は、それぞれ図10に示す従来の磁性流体シール付き軸受の問題点を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る磁性流体シール付き軸受の実施形態について説明する。
図1及び図2は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第1の実施形態を示す図であり、図1は軸方向に沿った断面図、図2は図1の要部拡大図である。
【0015】
本実施形態に係る磁性流体シール付き軸受(以下、軸受と称する)1は、円筒状の内輪3と、これを囲繞する円筒状の外輪5と、前記内輪3と外輪5との間に介装される複数の転動体(転がり部材)10とを備えている。前記転動体10は、周方向に延出するリテーナ(保持器)11に保持されており、内輪3と外輪5を相対的に回転可能としている。
【0016】
前記内輪3、外輪5及び転動体10は、磁性を有する材料、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されており、前記リテーナ11は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成されている。また、前記外輪5は、内輪3の軸方向Xにおける長さ(軸方向長さ)よりも長く形成されており、前記内輪3の一方の露出端面3aから軸方向に突出する伸長円筒部5aを具備している。なお、本実施形態の外輪5は、内輪3の他方の露出端面3bとは略同一となるように構成されている(後述する第7実施形態のように、外輪5は、一方の露出端面3aに加え、他方の露出端面3bからも軸方向に突出した伸長円筒部を備えていても良い)。
【0017】
上記したように、外輪5が内輪3の露出端面3aから軸方向に突出することで、伸長円筒部5aの径方向内側には、スペースSが生じる。本発明では、このスペース部分に磁性流体シール(磁気シール機構)20を配設している。以下、本実施形態の磁性流体シール20の構成について説明する。
【0018】
磁性流体シール20は、前記外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定され、磁石を保持する保持板21を備えている。この場合、保持板21は、内輪3の露出端面3aとの間で磁性領域を発生させるような構造であれば良く、本実施形態では、真鍮、アルミ合金、樹脂、或いは金属補強された弾性材などの非磁性材料で、中央に開口領域21aを有するリング形状に形成されており、伸長円筒部5aの内面に固定されて軸方向Xに対して直交する方向に延在している。そして、径方向内側となる先端には、リング状に形成された磁石25が内輪3の露出端面3aに対向するように止着されており、これにより、保持板21に上記磁性領域を形成している。
このような構造では、リング状の磁石25を保持板21と共に予めユニット化することが可能であり、磁性流体シール20の構造を簡略化することが可能となる。
【0019】
本実施形態では、リング形状の保持板21は、その中間部分が軸方向外側に向かって膨出するように屈曲形成されており、その先端の軸方向内側に、リング状の凹所21bを形成している。このリング状の凹所21bは、内輪3の露出端面3aと対向するように形成されており、この部分にリング状の磁石25が露出端面3aと所定間隔Gを置いて対向するように取着されている。したがって、保持板21は、リング状の磁石25を保持した際、軸方向に対して厚肉化することなく、省スペース化が図れるようになっている(本実施形態では、保持板21は、リング状の磁石25を凹所21bに取着すると、保持板21の内面側が略面一状になるように構成されている)。なお、前記リング状の磁石25は、軸方向外側25aがS極、軸方向内側25bがN極となっており、これにより、前記所定間隔Gを経由して内輪3との間で磁気回路を形成する(磁束方向の概略を矢印で示す)。
【0020】
上記したリング状の磁石25は、予め保持板21の凹所21bに取着され、この状態で軸受1に圧入される。この圧入に際しては、保持板21の周端部が、軸受1の外輪5の内面に形成された段部5bに当て付いて位置決めされる。このように、外輪5に対して保持板21を圧入した後、スポイト等の注入部材を利用して、中央の開口領域21aを介して磁性流体27を前記所定間隔Gの部分に注入する。
【0021】
注入される磁性流体27は、例えばFe3O4のような磁性微粒子を、界面活性剤およびベースオイルに分散させて構成されたものであり、粘性があって磁石を近づけると反応する特性を備えている。このため、磁性流体27は、上記したように、リング状の磁石25と、磁性材料で構成される内輪3の露出端面3aとの間で形成される磁気回路によって、前記所定間隔Gに全周に亘って安定して保持され、軸受1の内部(転動体側)をシールする。
【0022】
上記した構成では、所定間隔Gは、保持板21に取着されるリング状の磁石25と、内輪3の径方向内面3b(この内面3bは、図示されていない回転軸が嵌入される部分となる)との間の隙間Dよりも小さくなるように設定されていることが好ましい。
これは、嵌入される回転軸が磁性材料で形成されていると、間隔Dの部分に磁性流体が移動してしまうことが考えられるが、上記のように(G<D)となるように設定しておくことで、所定間隔Gに安定した量の磁性流体27を保持させておくことができ、シール効果を高めることが可能となる。
【0023】
また、上記した構成では、保持板21に対して、軸方向外方から、リング状のシールド(密閉板)30を圧入固定することが好ましい。このような密閉板30は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成することが可能であり、周端部に圧入屈曲部30aを形成し、この部分を弾性変形させながら、外輪5の内面に形成された段部5cに嵌入することで、前記保持板21の圧入によるシールに加え、外輪5の内面に沿って水分や埃等が、内部に侵入することを確実に防止することが可能となる。なお、前記中間部分が屈曲した保持板21には、軸方向外方の周縁部にリング状の凹部21cが形成されており、この凹所21cを利用してシールド30の圧入屈曲部30aを配置できるにすることで、軸方向のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0024】
次に、上記した軸受1の作用効果について説明する。
上記したように、磁性流体シール20は、内輪3に対して外輪5を軸方向に突出させ、この外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定された保持板21の磁性を有する領域(本実施形態ではリング状の磁石25を取着した領域)と内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を保持する構成のため、そのようなシール構造を有する軸受の軸方向寸法をコンパクト化できると共に、磁性流体27によって、内部に水分や埃などの異物が侵入することが防止され、回転軸の回転性能を低下させることなくシール性を高めることが可能となる。
【0025】
また、磁性流体27は、軸方向外方に向けて露出することなく、外輪の伸長円筒部の内面に固定された保持板21によって遮蔽された状態になるため、布状物のような他物に触れて吸着され難くなり、取扱性の向上が図れると共に、内輪3が短く形成されていることから、磁性流体27の注入作業が行い易くなる。また、保持される磁性流体27は、水や埃が侵入した場合、上記したように、保持板21によって、軸方向外方側からの侵入圧を受けることがない(直接的な水圧等が作用しない)ため、耐水性、防塵性を高めることが可能となる。
【0026】
また、本実施形態の構成では、シールド30を含め、リング状の磁石25を保持板21に取着しておき、これを外輪5に圧入して、所定領域に磁性流体27を注入するだけの簡単な構造であり、かつ、外輪5の伸長円筒部5a及び保持板21の形状により、これらを効率良く配置したことで、軸受全体としてコンパクト化を図ることが容易になる。
【0027】
さらに、上記したように、本実施形態の構成では、外輪5の伸長円筒部5aの内面に固定した保持板21の磁性領域と、内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を軸方向Xに沿って保持するため、従来の構成と比較すると、複数の転動体に対して回転抵抗となるような径方向の磁力(内輪と外輪が引き合う方向の磁力)が作用しなくなり、回転軸の回転性能が低下するのを防止することが可能となる。
【0028】
以下、このような作用効果について、図9から図11を参照して具体的に説明する。
なお、これらの図に示す軸受81は、上述した特許文献1に開示されているように、内輪83と外輪85との間の空間部に磁性流体シール90を配置したものである。磁性流体シール90は、リング状の磁石92を挟持保持した一対のポールピース95の先端と内輪83の径方向外側面83aとの間に、磁性流体97を保持した構成となっている。また、内輪83と外輪85との間には、リテーナ88によって、複数の転動体87が保持されている。
【0029】
通常、軸受を構築するに際しては、リテーナ88に保持される転動体87は、内輪83と外輪85の中心軸Xに対して、360°に亘って転動に支障が生じないように、図10に示すように、所定のクリアランス(例えば、径方向の内外の隙間C1及びC2合わせて3ミクロン程度)をもって設置される。ところが、図9に示すようなリング状の磁石92の配置態様によれば、設置後、リング状の磁石92が、360°の全周に亘って均一に内輪と外輪を引き付けることはなく、360°の範囲の内、必ず、どこかで内輪83と外輪85が引き付け合う位置が生じる。これは、磁石92のずれ、各アッセンブリの誤差、組み込み時のずれ等が生じていることによるものであり、磁石92は、内輪と外輪が最も近くなっている位置でより強い吸引作用を生じさせることから、結果として、内外輪の360°の範囲のいずれかに、ラジアル方向の吸引力発生位置(最大磁界位置)が生じることとなる。
【0030】
図11では、便宜上、そのような最大磁界位置が時計の12時の位置で生じるものとして示しており、この12時の位置では、(a)に示すように、ラジアル方向の磁界が強く作用して内輪83と外輪85の距離が最も近くなっており(矢印で示すように引き付け合う)、これに伴い、6時の位置では、内輪83と外輪85の距離が最も離れた状態となる。すなわち、図に示すように、軸受の転動体87が8個設置されて(転動体の間隔は45°)転動するケースを仮定すると、(a)に示す時計の12時の位置では、転動体87が通過できるように、内外輪の隙間d1は、転動体87が押し広げて最も広くなった状態となる。一方、転動体87が12時の位置から最も離れる(b)に示す位置(12時の位置から、22.5°ずれた位置)では、内外輪の間隔d2は最も狭くなった状態となる。
【0031】
このように、内輪83及び外輪85は、回転軸が回転して転動体87が転動する際、最大磁界位置において、互いの距離が近づいたり離れるように動作し、これが、転動体87に対してエネルギー損失を発生させる要因となる。すなわち、内輪83に対して嵌合された回転軸が回転すると、図11(a)及び(b)に示すように、内輪及び外輪が12時の位置で接近/離反を繰り返し、転動体には12時の位置で大きなエネルギー損失が作用することになるため、結果として、回転軸の回転性能が低下することとなる。なお、図において、d3,d4は、内外輪の本来の中心位置Xに対する相対的な上下の変動範囲を示しており、回転軸の回転に伴って転動体87が転動する際、内輪及び外輪は、この範囲内で上下に変動を繰り返す(d1−d2=d4−d3)。
【0032】
また、回転軸が回転して最終的に停止しようとすると、転動体87は、12時の位置で嵌まり込むように停止することはなく、必ず、停止直前に反転動作が生じてしまう。すなわち、図示しない回転軸が時計回り方向に回転しており、最終的に停止する直前には、公転する転動体87は、図11(a)に示す内輪と外輪の間隔が広くなっている12時の位置で停止することはなく、図11(b)に示す位置となるように、反時計回り方向に戻される現象が生じるようになる。したがって、従来の構成では、回転軸を回転方向に沿ってスムースに停止させることができない状態となっている。
【0033】
これに対し、上述した実施形態では、流体磁性シール20のリング状の磁石25は、内輪と外輪をラジアル方向に引き付け合う方向に設置されるのではなく、内輪3を軸方向に引き付けるだけであるため、上記したような転動体に対するラジアル方向の負荷が作用することはない。すなわち、転動体が転動する際、エネルギー損失が小さいことから、回転軸の回転が軽くなる(回転性能が向上する)とともに、回転軸の停止がスムースに行えるようになる。
【0034】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
以下に説明する実施形態では、上記した第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0035】
図3は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第2の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
この実施形態では、上記した第1の実施形態で示したリング状の磁石25の内周面に、360°に亘ってリング状の磁束漏洩防止部材32を止着している。このような磁束漏洩防止部材32は、SUS440Cのような磁性材料で構成することができ、予めリング状の磁石25と共に保持板21と一体化しておくことが可能である。
【0036】
このような構成では、図の矢印で示すような磁束が生じることで回転体側への磁束漏洩を抑制することが可能となる。すなわち、内輪3の露出端面3aとの間の磁束密度が高まり、磁性流体27の保持効率の向上が図れるようになる。
【0037】
図4は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第3の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
この実施形態では、符号32aで示すように、上記した第2の実施形態で示したリング状の磁束漏洩防止部材32を断面凹形状としており、この凹部内にリング状の磁石25を止着して保持板21に保持させている。
【0038】
このような磁束漏洩防止部材32aによれば、図の矢印で示すように、回転体側に加え外輪側への磁束漏洩も抑制することが可能となる。すなわち、内輪3の露出端面3aとの間の磁束密度をより高めることが可能となって、さらに磁性流体27の保持効率の向上が図れるようになる。
【0039】
図5は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第4の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
この実施形態では、上述した各実施形態におけるシールド30を排除しており、これにより、軸受を軸方向によりコンパクト化することが可能となる。
【0040】
図6は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第5の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
上述した実施形態では、外輪の伸長円筒部に、非磁性材料で構成された保持板21を固定し、保持板21に磁性を有する領域(リング状の磁石25を取着した領域)を形成して内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を保持させていたが、本実施形態のように、保持板に代えて、例えば、SUS440Cのような磁性材料で構成される磁性部材41を配設しても良い。この場合、磁性部材41は、リング状に形成され、その先端(径方向内側)が、内輪3の露出端面側に屈曲されており、その屈曲部41aの端面41bを内輪3の露出端面3aと対向させ、両者の間に磁性流体27を保持させている。
【0041】
そして、磁性部材41の基端側の軸方向内側には、リング状の磁石25が取着されており、磁性部材41に対して矢印M1,M2で示すような磁束を発生させている。この場合、磁石25の止着位置については、適宜、変形することが可能である。
このような構成においても、上述した実施形態と同様な作用効果が得られると共に、構造を簡略化して軸方向の省スペース化を図ることが可能となる。
【0042】
図7は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第6の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
本実施形態では、図6に示した実施形態の磁性部材41の軸方向外方、及び外輪の内面側を樹脂等の非磁性材料で構成される非磁性体42で覆っており、これにより、図6に示す外輪側で発生する磁束M2を弱くして、内輪側で発生する磁束M1を高めるようにしている。
このような非磁性体42を設置することで、内輪3の露出端面3aとの間の磁束密度を高めることが可能となり、磁性流体27の保持効率の向上が図れるようになる。
【0043】
図8は、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の第7の実施形態を示す図であり、軸方向に沿った要部拡大断面図である。
上述した実施形態では、いずれも軸受1の片方側の外輪5に伸長円筒部5aを形成し、ここに流体磁性シール20を配設することで、軸受内部、及びそれよりもさらに軸方向内側の各種機能部材をシールするよう構成したが、図に示すように、軸受1の両側に伸長円筒部5aを形成し、それぞれに流体磁性シール20を配設するようにしても良い。
【0044】
このような構成によれば、回転軸の回転性能を低下させることなく、軸受の内部に、水分、埃等が侵入することを確実に防止することが可能になる。
なお、図において、軸方向の両サイドに配設される磁性流体シール20は、上述した第1の実施形態と同様な構成となっているが、上述した第2から第6実施形態のように構成されていても良い。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
本発明は、軸受1の外輪5に伸長円筒部5aを形成し、ここに流体磁性シール20を配設して、内輪3の露出端面3aとの間に磁性流体27を保持するように構成されていれば良く、上記した保持板21や磁性部材41の形状については種々変形することが可能である。また、上述した実施形態では、保持板21にリング状の磁石25を取着し、内輪3の露出端面3aとの間で直接、磁性流体27を保持したが、保持板21に、磁石を挟持した極板(ポールピース)を露出端面3aに対向するように配設しても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 磁性流体シール付き軸受
3 内輪
3a 露出端面
5 外輪
5a 伸長円筒部
10 転動体
20 磁性流体シール
21 保持板
25 磁石
27 磁性流体
41 磁性部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
この内輪の露出端面から軸方向に突出する伸長円筒部を具備した外輪と、
前記内輪と外輪との間に介装される複数の転動体と、
前記外輪の伸長円筒部の内面に固定され、前記内輪の露出端面との間で磁性領域を発生させるように磁石を保持した保持板と、
前記保持板の磁性領域と前記内輪の露出端面との間に保持される磁性流体と、
を有することを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項2】
前記磁石は、前記内輪の露出端面と対向したリング状に形成されて前記保持板に保持されており、
前記磁性流体は、前記磁石と前記内輪の露出端面との間に保持されることを特徴とする請求項1に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項3】
前記保持板には、前記リング状の磁石を止着するように、リング状の凹所が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項4】
内輪と、
この内輪の露出端面から軸方向に突出する伸長円筒部を具備した外輪と、
前記内輪と外輪との間に介装される複数の転動体と、
前記外輪の伸長円筒部の内面に固定され、前記内輪の露出端面に対向する対向部を具備するとともに磁性を有する磁性部材と、
前記磁性部材の対向部と前記内輪の露出端面との間に保持される磁性流体と、
を有することを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項1】
内輪と、
この内輪の露出端面から軸方向に突出する伸長円筒部を具備した外輪と、
前記内輪と外輪との間に介装される複数の転動体と、
前記外輪の伸長円筒部の内面に固定され、前記内輪の露出端面との間で磁性領域を発生させるように磁石を保持した保持板と、
前記保持板の磁性領域と前記内輪の露出端面との間に保持される磁性流体と、
を有することを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項2】
前記磁石は、前記内輪の露出端面と対向したリング状に形成されて前記保持板に保持されており、
前記磁性流体は、前記磁石と前記内輪の露出端面との間に保持されることを特徴とする請求項1に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項3】
前記保持板には、前記リング状の磁石を止着するように、リング状の凹所が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁性流体シール付き軸受。
【請求項4】
内輪と、
この内輪の露出端面から軸方向に突出する伸長円筒部を具備した外輪と、
前記内輪と外輪との間に介装される複数の転動体と、
前記外輪の伸長円筒部の内面に固定され、前記内輪の露出端面に対向する対向部を具備するとともに磁性を有する磁性部材と、
前記磁性部材の対向部と前記内輪の露出端面との間に保持される磁性流体と、
を有することを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−247041(P2012−247041A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121207(P2011−121207)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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