説明

磁性焼結体、磁性体と誘電体との複合焼結体、およびそれらの製造方法、ならびにそれらを用いた電子部品

【課題】 本発明は、GHz帯領域で使用可能な磁性焼結体、および磁性体と誘電体との複合焼結体、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 六方晶Baフェライト粉末と、LiO換算で5.0モル%以上のLi、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiを含み、軟化点が400〜470℃のガラス粉末とを、前記六方晶Baフェライト粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記ガラス粉末が15〜30体積%となるように混合し、成形し得られるLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とする磁性焼結体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性焼結体、磁性体と誘電体との複合焼結体、およびそれらの製造方法、ならびにそれらを用いた電子部品に関し、例えば、機器の高周波ノイズ対策用EMIフィルタ等に用いられる、磁性焼結体にインダクタ回路形成されている電子部品および磁性体の性質と誘電体の性質とを合わせ持つ磁性体と誘電体との複合焼結体にコンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されている電子部品に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の高周波ノイズ対策用としては、EMI(Electro Magnetic Interference)フィルタが多く用いられている。近年では、携帯電話機、無線LAN等の移動体通信機器の高周波化に伴い、EMIフィルタにも数百MHz〜数GHzの高周波数帯域でも使用可能なフィルタ特性が求められている。
【0003】
一般的に、このような電子機器のノイズ対策用として使用されているEMIフィルタは、コンデンサとインダクタとを個々に組み合わせて構成されているものが多い。しかし、近年では電子機器の小型化に伴い、磁性体により形成されるインダクタ層と、誘電体により形成されるコンデンサ層とを積層して両者を一体化した複合積層体の中に、銀電極などでコイルを形成したものが提案されてきている。その一例として、磁性体と誘電体とが混合焼成された複合焼結体の内部に、銀あるいは銀−パラジウム電極などでコイルを形成したノイズフィルタがある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
用いられる磁性体材料としては、数MHz〜数百MHz帯領域で比透磁率が高いMn−Zn系、Ni−Zn系、Ni−Cu−Zn系等のスピネル型フェライトが多く用いられてきた。しかし、このスピネル型フェライトは、磁気異方性が低いために数百MHzの周波数で自然共鳴を起こしてしまい、透磁率の周波数限界(スネークの限界)を超えることができず、数百MHz〜数GHz帯領域では十分な透磁率が得られないため、高い周波数帯域でのフィルタ材料には適用することができなかった。
【0005】
そこで、最近では、スピネル型フェライトの周波数限界を超えた高い周波数領域まで比透磁率を維持する六方晶フェライトが、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として提案されている。
【0006】
この六方晶フェライトは、c軸に対して垂直な面内に磁化容易軸を持ち、フェロックスプレーナ型フェライトとも呼ばれる磁性体材料である。フェロックスプレーナ型の代表的なフェライトとしては、Co置換系Z型六方晶Baフェライト(3BaO・2CoO・12Fe)、Co置換系Y型六方晶Baフェライト(2BaO・2CoO・6Fe)、Co置換系W型六方晶Baフェライト(BaO・2CoO・8Fe)等が知られている。
【0007】
これらのフェロックスプレーナ型フェライトの中でも、Y型六方晶Baフェライト単相の合成温度(約1050℃)は、Z型六方晶Baフェライト単相(1300℃)およびW型六方晶Baフェライト単相(1200℃)それぞれの合成温度に比べて低く、また、Y型六方晶Baフェライトは、比透磁率の周波数限界が3GHz以上と高くなっているため、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として有望視されている。
【0008】
また、フェライトの焼成温度を低くするため、フェライト粉末とホウ珪酸ガラス粉末とを混合して製造する、磁性焼結体が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−249294号公報
【特許文献2】特開平1−110708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、六方晶Baフェライト粉末とガラス粉末とを混合して焼成すると、六方晶Baフェライトの一部が分解して、亜鉛スピネルフェライト(ZnFe)などが生成されるため、100MHzにおける比透磁率に対して、GHz帯領域での比透磁率が低くなるという問題があった。
【0011】
このため、このようなフェライトの磁性焼結体を用いたコイルなどの電子部品、あるいは、このようなフェライトの磁性体と誘電体との複合焼結体を用いたフィルタなどの電子部品は、安定した動作をする周波数帯域が狭いという問題があった。
【0012】
したがって、本発明は、MHz帯領域と比較してGHz帯領域での比透磁率の低下の少ない磁性焼結体、磁性体と誘電体との複合焼結体、およびそれらの製造方法、ならびにそれらを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の磁性焼結体は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、100MHzにおける比透磁率が4.5以上であるとともに、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率の比が0.60〜0.87であることを特徴とするものである。
【0014】
また、前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、CuKα特性X線回折の第1ピークが2θ=35.51°〜35.55°の範囲にあり、Zn:Cu:Feの元素比が5:2:26であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体は、前記磁性焼結体からなる磁性体とアルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体とを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の電子部品は、前記磁性焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、インダクタ回路が形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の電子部品は、前記磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の磁性焼結体の製造方法は、六方晶Baフェライト粉末と、LiO換算で5.0モル%以上のLi、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiを含み、軟化点が400〜470℃のガラス粉末とを、前記六方晶Baフェライト粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記ガラス粉末が15〜30体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することを特徴とする。
【0019】
また、六方晶Baフェライト粉末と、アルカリ土類金属のチタン酸塩粉末と、LiO換算で5.0モル%以上のLi、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiを含み、軟化点が400〜470℃のガラス粉末とを、前記六方晶Baフェライト粉末、前記アルカリ土類金属のチタン酸塩粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記ガラス粉末が15〜35体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の磁性焼結体によれば、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、100MHzにおける比透磁率が4.5以上であるとともに、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率の比が0.60〜0.87であることにより、MHz帯領域からGHz帯領域での比透磁率の変化が少なく、製造されるフィルタなどの電子部品が広い帯域で安定した特性が得られる。
【0021】
また、前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、CuKα特性X線回折の第1ピークが2θ=35.51°〜35.55°の範囲にあり、Zn:Cu:Feの元素比が5:2:26であることにより、MHz帯領域からGHz帯領域での比透磁率の変化が少なく、製造されるフィルタなどの電子部品が広い帯域で安定した特性が得られる。
【0022】
また、本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体によれば、前記磁性焼結体からなる磁性体とアルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体とを含むことにより、比誘電率が高くなる。
【0023】
また、本発明の電子部品によれば、前記磁性焼結体からなる磁性体とアルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体とを含むため、GHz帯領域で比透磁率および比誘電率が高くなる。
【0024】
また、本発明の電子部品によれば、前記磁性焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、インダクタ回路が形成されていることにより、MHz帯領域からGHz帯領域での比透磁率の変化が少なく、広い帯域で安定した特性が得られる。
【0025】
また、本発明の電子部品によれば、前記磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されていることにより、MHz帯領域からGHz帯領域での比透磁率の変化が少なく、広い帯域で安定した特性が得られる。
【0026】
本発明の磁性焼結体の製造方法によれば、六方晶Baフェライト粉末と、LiO換算で5.0モル%以上のLi、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiを含み、軟化点が400〜470℃のガラス粉末とを、前記六方晶Baフェライト粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記ガラス粉末が15〜30体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することにより、焼結体は六方晶Baフェライトとガラスの原料とから生成されたLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とするものになり、MHz帯領域からGHz帯領域での比透磁率の変化が少なくものとなる。
【0027】
また、本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体の製造方法は、六方晶Baフェライト粉末と、アルカリ土類金属のチタン酸塩粉末と、LiO換算で5.0モル%以上のLi、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiを含み、軟化点が400〜470℃のガラス粉末とを、前記六方晶Baフェライト粉末、前記アルカリ土類金属のチタン酸塩粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記ガラス粉末が15〜35体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することより、焼結体は六方晶Baフェライトとガラスの原料とから生成されたLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、アルカリ土類金属のチタン酸塩粉末の結晶を含むようになるため、MHz帯領域からGHz帯領域での比透磁率の変化が少なくなるとともに比透磁率が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)本発明の電子部品の一実施例であるLC複合電子部品のEMIフィルタの縦断面図であり、(b)本発明の電子部品の一実施例であるチップコイルの縦断面図である。
【図2】本発明の複合焼結体および本発明の範囲外の複合焼結体のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の電子部品は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、100MHzにおける比透磁率が4.5以上であるとともに、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率の比が0.60〜0.87である磁性焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、インダクタ回路が形成されているもの、もしくはLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、アルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体を含むとともに、100MHzにおける比透磁率が4.5以上であり、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率の比が0.60〜0.87である磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されているものである。
【0030】
図1(a)は、本発明の電子部品の一実施例であるLC複合電子部品のEMIフィルタの縦断面図ある。絶縁層である磁性体と誘電体との複合焼結体層1(以下で、絶縁体層と呼ぶことがある)が複数積層され、複合焼結体層1の表面に銀系導体層2(以下で、導体層と呼ぶことがある)が形成されている。また、複合焼結体層1によって隔てられた銀系導体層2同士を電気的に接続する銀系ビアホール導体(以下で、ビアホール導体と呼ぶことがある)3が複合焼結体層1を貫通して形成されている。
【0031】
複合焼結体層1は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、アルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体を含む。このLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、Zn:Cu:Feの元素比が5:2:26であり、CuKα特性X線回折での第1ピークが2θ=35.51°〜35.55°の範囲にあるものである。また、組成式では、おおよそLi0.20Zn0.43Cu0.17Fe2.20と表されるものである。スピネル型フェライトは、一般的には、1GHz程度で比透磁率が急激に低下してしまうものであるが、前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶のフェライトでは、後述の製造方法で製造されたものであるため、高い周波数領域(数百M〜数GHz)においても、比透磁率が高い状態を維持することが可能である。
【0032】
複合焼結体層1は、アルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体を含むことにより、比誘電率を高くできる。
【0033】
図1(b)は、本発明の電子部品の一実施例であるチップコイルの縦断面図ある。絶縁層である磁性焼結体層11(以下で、絶縁体層と呼ぶことがある)が複数積層され、磁性焼結体層11の表面に銀系導体層12(以下で、導体層と呼ぶことがある)が形成されている。また、磁性焼結体11によって隔てられた銀系導体層12同士を電気的に接続する銀系ビアホール導体(以下で、ビアホール導体と呼ぶことがある)13が磁性焼結体11を貫通して形成されている。
【0034】
磁性焼結体層11は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶としする。このLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、Zn:Cu:Feの元素比が5:2:26であり、CuKα特性X線回折での第1ピークが2θ=35.51°〜35.55°であるものである。また、組成式では、おおよそLi0.20Zn0.43Cu0.17Fe2.20と表されるものである。スピネル型フェライトは、一般的には、1GHz程度で比透磁率が急激に低下してしまうものであるが、前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶のフェライトでは、後述の製造方法で製造されたものであるため、高い周波数領域(数百M〜数GHz)においても、比透磁率が高い状態を維持することが可能である。
【0035】
次に、本発明の磁性焼結体、および磁性体と誘電体との複合焼結体の製造方法について説明する。
【0036】
いずれの場合も、まず六方晶Baフェライト粉末を作成する。六方晶Baフェライト粉末は、原料として、それぞれ酸化物換算でFeを57〜63モル%、MOを18〜22モル%(ただし、MはCuおよびZnを含み、さらに任成分としてCoを含んでもよい)、BaOを残部となるように調合する。この際、各原料はこれに限定されず、焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いても良い。
【0037】
六方晶Baフェライトは、六方晶系結晶構造を有しているとともに磁化容易軸を持っているもののことである。具体的には、六方晶フェライトは結晶方向により異なる異方性磁界を持つために回転磁化共鳴周波数(fr)が高くなるとともに、c軸に垂直な結晶面(c面)内のa軸が磁界の方向に容易に磁化され、かつ外部磁界の方向の変化に容易に追従して磁化の向きが変化する。このため、高い周波数領域(数百M〜数GHz)においても、比透磁率が高い状態を維持することが可能であり、後述の本焼成後に六方晶Baフェライトが残っても、GHz帯での高い透磁率を維持できる
また、Y型六方晶Baフェライト単相の合成温度(約1050℃)は、Z型六方晶Baフェライト単相(1300℃)およびW型六方晶Baフェライト単相(1200℃)それぞれの合成温度に比べて低く、また、Y型六方晶Baフェライトは、比透磁率の周波数限界が3GHz以上と高くなっているため、六方晶Baフェライトの中でもY型六方晶Baフェライトを使用するのが好ましい。
【0038】
このような配合比率で混合した粉末を、大気中で900〜1300℃の温度範囲で、1〜10時間仮焼した後、粉砕することによって六方晶Baフェライト粉末を得ることができる。
【0039】
粉砕に際しては振動ミル、回転ミル、バレルミル等を用いて、磁性体材料を鋼鉄ボール、セラミックボール等のメディアと、水またはイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール等の有機溶剤を用いて湿式で行なうことができる。
【0040】
その際、六方晶Baフェライトの素原料となる粉末は、平均粒子径が0.1〜5μm、より好ましくは0.1〜1μmであることが仮焼時の焼結性を高める点で望ましい。なお、「平均粒子径」とは、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径d50を意味する。粉体の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱法によるマイクロトラック粒度分布測定装置X−100(日機装株式会社製)を用いて測定できる。
【0041】
かくして得られる六方晶Baフェライト粉末を、後述のガラス粉末と混合し、焼成(本焼成)することで、本発明の磁性焼結体が得られる。また、六方晶Baフェライト粉末と、アルカリ土類金属のチタン酸塩の粉末と後述のガラス粉末と混合し、焼成(本焼成)することで、本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体が得られる。
【0042】
次に、本焼成で使用するガラスについて説明する。使用するガラス粉末は、LiO換算で5.0モル%以上のLiと、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiとを含み、軟化点が400〜470℃のものである。このガラスは、六方晶Baフェライトと混合して焼成することによりLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶が析出する。組成の残部としては、B3、BaOおよびCaOなどが例示できる。軟化点を低くする点からBを含むことが好ましいが、Bだけではガラスの反応性が高くなりすぎるため、BaOあるいはCaOも含むことが好ましく、他の組成が混ざったものであってもかまわない。
【0043】
軟化点が400〜470℃以上であることにより、低温で焼結が進むようになるとともに、適切な温度で焼成が進むことでLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶が生成される。軟化点が400℃より低くい場合、低温での焼結はできるが、結晶のほとんど析出しなくなる。
【0044】
Liはガラスの軟化点を下げる役目をはたすとともに、六方晶Baフェライトと反応する。ガラスが軟化して焼結が進む際に、Liは六方晶Baフェライトと反応し、六方晶Baフェライトの大部分、もしくはほとんどがLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶に変わる。
【0045】
また、ガラス中のSi量が多いと、焼成の際に六方晶Baフェライトを分解する反応が大きく進む。この反応の生成物は比透磁率が低いので、この反応を抑制するため、SiO換算で24.1モル%以下のSiを含有するガラスを用いる。また、SiOは、ガラスの骨材であり、(Ba,Ca)SiOの結晶のもとでもあるので、SiO換算で17.0モル%以上のSiを含有するガラスを用いる。
【0046】
さらに、ガラスの軟化点を低くするため、B換算のB量は、25.6モル%以上であることが好ましい。また、Bが多くなると、焼成過程で六方晶Baフェライトを分解するようになるため、B換算のB量は、43.5モル%以下であることが好ましい。
【0047】
残部の組成としては、BaOおよびCaOであることが好ましい。
【0048】
ガラス粉末の量は、ガラス粉末以外の焼結体の原料とガラス粉末を合わせた中で15〜30体積%とする。15体積%以上とすることで、焼結体を十分焼結されることができる。35体積%以下することで、焼結体中のガラスの体積が増えること、および焼成過程での六方晶Baフェライトあるいはアルカリ土類金属のチタン酸塩の分解量が増えることによる、比透磁率あるいは比誘電率の低下を抑制できる。
【0049】
ガラス粉末は、平均粒子径が0.3〜2.0μmのもの使用する。
磁性体と誘電体との複合焼結体を製造する場合の、誘電体としてアルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体を用いることで、上述のガラス粉末と焼成した場合において、焼成過程での誘電体の分解が比較的少なく、高い比誘電率が得られる。アルカリ土類金属のチタン酸塩としては、SrTiO3、BaTiO、CaTiOおよびMgTiOなどが例示できる。SrTiOはBaTiOより、100MHzにおける誘電損失が小さいために好ましい。また、SrTiOは、CaTiOおよびMgTiOより、100MHzにおける比誘電率が大きいために好ましい。
【0050】
誘電体としてはSrTiOを主成分とするものが好ましく、BaTiO、CaTiOおよびMgTiOが混合したものであってもよい。混合は、それぞれの粉末を混ぜたものでも、所望の組成比の素原料を仮焼などで合成して固溶体にしたものでもよい。誘電体材料中のSrTiOの比率は、90質量%以上、好ましくは95質量%以上であり、特に99質量%以上(残部は不純物)が好ましい。
【0051】
SrTiO粉末の平均粒子径は、誘電体と磁性体との複合焼結体層の透磁率、誘電率を高くするために、0.1〜3.0μm、さらには1.2〜2.2μmであることが好ましい。
【0052】
アルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体の量は、必要とされる比誘電率および比透磁率に変わるが、誘電率を高くするためには、原料粉末全体の中で5体積%以上、特に10体積%以上が好ましい。また、アルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体が増えると焼結性が低くなるため、原料粉末全体の中で25体積%以下、特に15体積%以下が好ましい。
【0053】
SrTiO粉末の平均粒子径が細かすぎると、六方晶Baフェライト粉末間の至るところにSrTiO粉末が分散配置され、六方晶Baフェライトの焼結を阻害し、所望の透磁率を得られないことになる。また、高い比透磁率を得るためには誘電体材料の量をそれほど多くできなく、そのような状態でも比誘電率を高くするため、SrTiO粉末は、ある程度平均粒子径が大きい方が好ましい。すなわち、原料の混合時のSrTiO粉末の平均粒子径は1.2〜2.2μmが好ましい。
【0054】
原料組成中にはAlを実質的に含まないことが好ましい。Alは、磁性体材料や誘電体材料を作る際の仮焼合成後の粉砕などに、アルミナのメディアを用いることなどで、不純物として混じることがある。また、Y型六方晶Baフェライトの原料となる鉄の中に微量含まれていることもある。Alが含まれると、複合焼結体層の焼成時にAlを含む複合酸化物結晶(例えば、ZnAl結晶など)が生成され、その際にY型六方晶BaフェライトまたはSrTiOが分解されることがある。Al量を少なくすることにより、この分解を抑制できるので、100MHzにおける比透磁率あるいは100MHzにおける比誘電率を高くすることができる。そのため、原料組成中あるいは複合焼結体層中のAlの量はAl換算で0.05質量%以下、特に0.03質量%以下であることが好ましい。また、Al量を少なくすることにより、ZnAl結晶などの誘電損失の大きい結晶の生成を抑制できるので、誘電損失を低くすることができる。
【0055】
また、複合焼結体層をX線回折で測定した際に、複合焼結体層に含まれているAlを含む結晶のピーク強度が、複合焼結体層に含まれている結晶のうち最も高いピーク強度を有する結晶のピーク強度に対して100分の1以下であるようにするのが好ましい。ZnAl結晶以外のAlを含む結晶としては、不純物などとして含まれることがあるSiと反応して生じるBaAlSi結晶が挙げられる。
【0056】
このような焼結体を用いた電子部品を製造するには、原料として、例えば、50〜85体積%のY型六方晶Baフェライト粉末、5〜25体積%のSrTiO粉末および15〜35質量%の、組成がSiO換算で17.0質量%のSiと、B換算で29.2質量%のBと、CaO換算で21.5質量%のCaと、BaO換算で19.84質量%のBaと、LiO換算で12.5質量%で軟化点が410℃のガラス粉末を用いる。
【0057】
これらの原料に対して、適当な有機バインダ、分散剤、溶媒を添加、混合してスラリーを調製し、これを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法、あるいは圧延法、プレス成形法により、シート状に成形し、厚さ25μmのグリーンシートを作製する。
【0058】
そして、前述のグリーンシートに所望によりスルーホールを形成した後、スルーホール内に、導体ペーストを充填する。
【0059】
続いて、導体ペーストをスクリーン印刷で、前述のグリーンシートに塗布して、乾燥し、銀系導体層となる導体を形成する。なお、銀系導体層の厚さは焼成後2〜15μm程度である。
【0060】
複数の導体を形成されたグリーンシートを、所望の銀系導体層が形成されるように位置合わせして積層圧着し、積層体を作製する。酸化性雰囲気中、または低酸化性雰囲気中、200〜500℃で脱バインダ処理した後、酸化性雰囲気または非酸化性雰囲気で900〜1200℃で焼成され、電子部品となる。
【0061】
この電子部品にさらに、端子電極を形成してもよい。端子電極は、銀、銀/パラジウムあるいは銀/白金等の銀合金を主成分とする導電材料等から成り、かかる導電材料を用いて作製した導体ペーストを積層体の表面に従来周知のディップ法やスクリーン印刷等によって所定パターンに塗布し、これを高温で焼成することによって形成さる。この端子電極には、さらにニッケルメッキや金メッキ、すずメッキ、半田メッキ等のメッキ処理を施してもよい。
【0062】
上述したような工程を経ることによって、前述したように高い透磁率、および誘電率を有するとともに、数百MHz〜数GHzの高周波数帯域でもノイズの減衰特性が高いとともに、抗折強度の高い電子部品を得ることができる。
【0063】
このようにして作製した電子部品であるEMIフィルタ部品を、図1(a)をもとに説明する。複数の複合焼結体層1が積層され、この複合焼結体層1の表面に導体層2が形成されている。また、複合焼結体層1によって隔てられた導体層2同士を電気的に接続するビアホール導体3が複合焼結体層1を貫通して形成されている。
【0064】
さらに、これらの導体層2およびビアホール導体3により複数の複合焼結体層1からなる絶縁基体の内部には、回路的にインダクタ部4およびコンデンサ部5が形成され、フィルタ回路をなしている。
【0065】
このインダクタ部4は、導体層2およびビアホール導体3により多層のコイル状に形成されているが、通常、回路のインダクタンスを増加させるためには、このコイルの巻き数を増加させる必要がある。しかし、本実施形態の複合磁性材料のような透磁率の高い磁性材料を用いた場合、コイルの巻き数を増やさずとも必要なインダクタンスを得ることが可能となる。これより、導体層2の積層数を減らすことができるため、電子部品の小型、低背化が可能になる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0067】
まず、Fe粉末、CoO粉末、CuO粉末、ZnO粉末およびBaCO粉末を出発原料とし、組成比がBa2.05Zn1.4Cu0.5Co0.05Fe1222となるように調合をした。調合した粉末に、有機溶媒としてIPA、メディアとして鋼鉄ボールを加えて湿式混合し、乾燥した後、大気中、950℃で仮焼し、さらに湿式で72時間粉砕し、平均粒子径1μmのY型六方晶Baフェライトを主結晶とする磁性体材料(100MHzにおける比誘電率:25、100MHzにおける比透磁率:15)を得た。
【0068】
なお、比較例で使用する磁性体材料として、ニッケル亜鉛スピネルフェライト(Ni,Zn)Fe)粉末を準備した。
【0069】
次に、誘電体材料として、SrTiO粉末(平均粒子径0.9μm、100MHzにおける比誘電率:180、100MHzにおける比透磁率:1.0)、BaTiO粉末およびMgTiO粉末を準備した。
【0070】
次に、ガラス粉末として表1に記載のものを準備した。ガラス粉末の平均粒子径はいずれも0.6μmのものを用いた。以上の粉末を表1に示す混合比となるように、有機溶媒にIPA、メディアに鋼鉄ボールを用いて湿式混合し、乾燥した後、比透磁率、比誘電率、誘電損失、嵩密度および吸水率を評価できるようにプレス成形し、大気中、表1記載の温度で2時間焼成し、焼結体を得た。
【0071】
また、調合は、各粉末の密度をあらかじめ測定し、その密度から体積比を質量比に換算して行なった。なお、Y型六方晶Baフェライトの密度は、5.4g/cm、SrTiOの密度は5.1g/cm、試料No1などに使用したガラスの密度は3.0g/cmであった。
【0072】
なお、比較例として組成式でLi0.20Zn0.43Cu0.17Fe2.20と表される比率で原料粉末を調合、仮焼し、仮焼後粉砕した粉末をBi粉末と質量比で99.5:0.5で混合して焼成し、焼結体を得た。
【0073】
かくして得られた磁性焼結体、もしくは誘電体と磁性体との複合焼結体について、比透磁率、抗折強度および吸水率を評価した。比透磁率については、100MHzと1GHzでの値を測定した。ここで測定した比透磁率の値は、次に作製した子部品評価のフィルタ特性の評価結果と整合した。なお、この比透磁率は、同軸管を用いたSパラメータ法により測定した。
【0074】
X線回折を行ない、その結果をリートベルト解析し、複合焼結体層に含まれている結晶の種類と含まれている結晶全体に対するそれらの割合を求めた。表1のフェライト結晶の欄にフェライト結晶の多い順に記載した。フェライト、SrTiO3および(Ba,Ca)SiO以外の結晶は10質量%以下であった。また、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶中のZn:Cu:Feの元素のモル比はいずれも5:2:26であった。
【0075】
【表1】

【0076】
CuKα特性X線回折の第1ピークが2θ=35.51°〜35.55°であり、Zn:Cu:Feの元素のモル比が5:2:26であるLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、Zn:Cu:Feの元素のモル比が5:2:26である本発明の試料No.1、2、4〜6、8〜16および18〜24では、100MHzにおける比透磁率が4.5以上であるとともに、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率の比が0.60〜0.87と高くなった。
【0077】
これに対して、本発明の範囲外の試料No.3、7、17および25では、CuKα特性X線回折の第1ピークが2θ=35.51°〜35.55°の範囲にあり、Zn:Cu:Feの元素のモル比が5:2:26であるLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶としていないため、100MHzにおける比透磁率が4.5未満となるか、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率の比が0.56以下と低くなった。
【0078】
なお、試料No.25では、あらかじめ他の使用で生成されたLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶と同じ元素比率で、調合してBiを焼結助剤として作製した、100MHzの比透磁率に対して1GHzの非透磁率の低い焼結体しか得られず、CuKα特性X線回折の第1ピークも35.40と異なるものであった。
【0079】
図2は、本発明の複合焼結体である試料A、Bおよび本発明の範囲外の複合焼結体である試料CのCuKα特性X線回折図である。試料Aは試料No.20である。試料B、Cはそれぞれ、Y型六方晶BaフェライトとSrTiOとガラスとの体積比を70:15:15、85:15:0とした以外は試料No.19と同様に作製した焼結体である。
【0080】
試料Cでは、焼成過程で、Y型六方晶Baフェライトの一部は分解し、亜鉛スピネルフェライト(ZnFe)が生成されているが、(Ba,Ca)SiOの結晶の析出は観察されない。
【0081】
試料Bでは、Y型六方晶Baフェライトの一部はガラスと反応しLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶が生成されており、Y型六方晶BaフェライトとLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とがそれぞれ多く観察されるとともに、Ba1.55Ca0.55SiO結晶が観察された。
【0082】
試料Aでは、Y型六方晶Baフェライトは、ほとんどLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶になっており、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶以外のフェライトは、焼結体中の10質量%以下しか観察されない。
【符号の説明】
【0083】
1・・・磁性体と誘電体との複合焼結体層
11・・・磁性焼結体層
2、12・・・導体層
3、13・・・ビアホール導体
4、15・・・インダクタ部
5・・・コンデンサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を主結晶とし、100MHzにおける比透磁率が4.5以上であるとともに、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率の比が0.60〜0.87であることを特徴とする磁性焼結体
【請求項2】
前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、CuKα特性X線回折の第1ピークが2θ=35.51°〜35.55°の範囲にあり、Zn:Cu:Feの元素のモル比が5:2:26であることを特徴とする請求項1記載の磁性焼結体。
【請求項3】
請求項1または2記載の磁性焼結体からなる磁性体とアルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体とを含むことを特徴とする磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項4】
請求項1または2記載の磁性焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、インダクタ回路が形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項5】
請求項3記載の磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項6】
六方晶Baフェライト粉末と、LiO換算で5.0モル%以上のLi、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiを含み、軟化点が400〜470℃のガラス粉末とを、前記六方晶Baフェライト粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記ガラス粉末が15〜35体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することを特徴とする磁性焼結体の製造方法。
【請求項7】
六方晶Baフェライト粉末と、アルカリ土類金属のチタン酸塩粉末と、LiO換算で5.0モル%以上のLi、およびSiO換算で17.0〜24.1モル%のSiを含み、軟化点が400〜470℃のガラス粉末とを、前記六方晶Baフェライト粉末、前記アルカリ土類金属のチタン酸塩粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記ガラス粉末が15〜35体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することを特徴とする磁性体と誘電体との複合焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−228936(P2010−228936A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75754(P2009−75754)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】