磁気エンコーダ
【課題】 特に、1つのブリッジ回路で、移動方向(回転方向)を検知可能とした磁気エンコーダを提供することを目的とする。
【解決手段】 本実施形態の磁気エンコーダ1は、各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1が、磁極ピッチλの正整数倍と異なる点と、フリー磁性層の飽和状態を維持する相対移動距離が、外部磁界H1が作用しているときと外部磁界H2が作用しているときとで異なる点に特徴的構成がある。これにより、CWでの出力波形と、CCWでの出力波形とが異なるため、1つのブリッジ回路でも、移動方向(回転方向)を検知することが可能になる。
【解決手段】 本実施形態の磁気エンコーダ1は、各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1が、磁極ピッチλの正整数倍と異なる点と、フリー磁性層の飽和状態を維持する相対移動距離が、外部磁界H1が作用しているときと外部磁界H2が作用しているときとで異なる点に特徴的構成がある。これにより、CWでの出力波形と、CCWでの出力波形とが異なるため、1つのブリッジ回路でも、移動方向(回転方向)を検知することが可能になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動速度(回転速度)や移動方向(回転方向)等を検知可能な磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、従来の磁気エンコーダ20の構成を示す模式図である。磁気エンコーダ20は磁石21と磁気センサ22とを有して構成される。図12では、磁石21はX1−X2方向に延びる棒状であり、磁気センサ22がX1方向に向けて相対移動する。
【0003】
磁気センサ22には8つの磁気抵抗効果素子A1,A2,B1,B2が設けられる。このうち2つの磁気抵抗効果素子A1と2つの磁気抵抗効果素子A2とでA相ブリッジ回路が構成され、2つの磁気抵抗効果素子B1と2つの磁気抵抗効果素子B2とでB相ブリッジ回路が構成される(図13参照)。
【0004】
図12に示すように磁石21の着磁ピッチ(N極とS極の中心間距離)はλであり、一方、磁気センサ22にてブリッジ回路を構成する磁気抵抗効果素子A1と磁気抵抗効果素子A2の中心間距離、及び磁気抵抗効果素子B1と磁気抵抗効果素子B2の中心間距離も同じくλとなっている。
【0005】
図1に示すように、磁気センサ22が相対移動すると、前記磁石21の着磁面21aから磁気センサ22に向けて外部磁界H1及び外部磁界H2が作用する。外部磁界H1は、磁気センサ22がS極側からN極側に向けて相対移動したときに磁気センサ22に作用する外部磁界であり、外部磁界H2は、磁気センサ22がN極側からS極側に向けて相対移動したときに磁気センサ22に作用する外部磁界である。
【0006】
図13に示すA相のブリッジ回路から得られる出力と、B相のブリッジ回路から得られる出力に基づいて、移動量や移動速度を検知でき、さらには、出力タイミングがずれるA相及びB相の位相関係により移動方向を検知することも出来る。
【特許文献1】特開平3−125918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図12に示す従来の磁気エンコーダ20では、移動方向を知るのに2つのブリッジ回路を必要とした。また図12の磁気センサ22は磁気抵抗効果素子と、これら磁気抵抗効果素子を搭載する基板のみが図示されているが、実際には出力を生成するためのASICも搭載されたパッケージ構造である。そして従来の構成では、ASIC側も同じ構成の回路を2つ必要とした。
【0008】
以上から磁気センサ22の製造コストが増大する問題があった。また、磁気センサ22のサイズが大きくなるといった問題もあった。
【0009】
なお、図12は、直線型の磁気エンコーダ20であるが、回転型の磁気エンコーダであっても同様の問題が生じる。
【0010】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、1つのブリッジ回路で、移動方向(回転方向)を検知可能とした磁気エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、相対移動方向に交互にN極とS極が着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、前記磁界発生部材の前記着磁面から離れた位置に配置され、基板表面に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した複数の磁気抵抗効果素子を有する磁気センサと、を有して構成される磁気エンコーダであって、
複数の前記磁気抵抗効果素子にて1つのブリッジ回路が構成されており、
出力端子を介して直列接続される各磁気抵抗効果素子は、前記相対移動方向に磁極ピッチλの正整数と異なる中心間距離にて配列されており、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるS極側からN極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L1と、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるN極側からS極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L2とが、異なっていることを特徴とするものである。
【0012】
上記の構成により、1つのブリッジ回路であっても、移動方向(回転方向)を検知できる。このように本発明ではブリッジ回路を1つにでき、素子数を従来より減らせることで、磁気センサ、ひいては磁気エンコーダの製造コストの低減及び小型化を図ることができる。
【0013】
本発明では、前記着磁面に形成された各磁極内の磁化の強さが、前記相対移動方向への両側にて異なるように着磁されていることが好ましい。これにより、上記した相対移動距離L1と相対移動距離L2とを容易に異ならせることができる。
【0014】
また本発明では、前記各磁気抵抗効果素子の中心間距離は、前記磁極ピッチλよりも小さいことが好ましい。これにより、より効果的に、磁気センサ、ひいては磁気エンコーダの小型化を図ることが可能である。
【0015】
本発明では、前記ブリッジ回路から得られる出力波形は、最小出力ラインと最大出力ライン間の出力の立ち上がり側、あるいは立ち下がり側のどちらか一方が、途中に段差を介した形状となっており、他方が前記段差がない連続形状となっていることが好ましい。これにより、高精度に移動方向(回転方向)を検知できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気センサと磁界発生部材とを有してなる磁気エンコーダによれば、1つのブリッジ回路であっても、移動方向(回転方向)を検知できる。このように本発明ではブリッジ回路を1つにでき、素子数を従来より減らせることで、磁気センサ、ひいては磁気エンコーダの製造コストの低減及び小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本実施形態の磁気エンコーダの斜視図、図2は、磁気抵抗効果素子の部分断面図、図3は、従来例の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図、図4は、第1実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、図5は、第2実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、図6(a)は、ノーマル着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、(b)は、オフセット着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、である。
【0018】
各図におけるX1−X2方向、Y1−Y2方向、及びZ1−Z2方向の各方向は残り2つの方向に対して直交した関係となっている。X1−X2方向は、磁石2及び磁気センサ3の相対移動方向である。この実施形態において特に断らない限り「相対移動方向」とは磁気センサ3の相対移動方向を指す。そしてこの実施形態では、磁気センサ3の相対移動方向はX1方向である。よって、磁石2が固定で磁気センサ3が移動する場合は、磁気センサ3はX1方向に動き、磁気センサ3が固定で磁石2が移動する場合は、磁石2がX2方向に動いている。なお磁石2及び磁気センサ3の双方が動く形態でもよい。Y1−Y2方向は、基板4の平面内にて相対移動方向に対して直交する磁気センサ3の幅方向である。Z1−Z2方向は磁石2と磁気センサ3とが所定の間隔を空けて対向する高さ方向である。
【0019】
図1に示すように磁気エンコーダ1は、磁石(磁界発生部材)2と磁気センサ3を有して構成される。
【0020】
例えば磁石2は図示X1−X2方向に延びる棒状であり、磁気センサ3との対向面が図示X1−X2方向に所定幅にてN極とS極とが交互に着磁された着磁面2aである。磁極間ピッチ(N極とS極との中心間距離)はλである。例えば、λは、0.5〜4.0mmである。
【0021】
図1に示すように磁気センサ3は、基板4と、共通の基板4の表面(磁石2との対向面)4aに設けられた複数の磁気抵抗効果素子5a,5bとを有して構成される。
【0022】
磁気抵抗効果素子は、符号5aが第1の磁気抵抗効果素子であり、符号5bが第2の磁気抵抗効果素子である。第1の磁気抵抗効果素子5a及び第2の磁気抵抗効果素子5bは、夫々、2つずつ設けられ、計4つの磁気抵抗効果素子で構成されている。
【0023】
2つの第1の磁気抵抗効果素子5aは、Y1−Y2方向に間隔を空けて配置されている。同様に、2つの第2の磁気抵抗効果素子5bは、Y1−Y2方向に間隔を空けて配置されている。
【0024】
そして、図1に示すように各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bは、X1−X2方向に間隔を空けて対向しており、各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離は、T1となっている。
【0025】
本実施形態では、前記中心間距離T1は、磁極ピッチλの正整数倍と異なる大きさである。
【0026】
これら磁気抵抗効果素子5a,5bは、従来例で示した図13と同様のフルブリッジ回路を構成する。ただし本実施形態では、磁気抵抗効果素子5a,5bが夫々1つずつ設けられ出力端子を介して直列接続されたハーフブリッジ回路の構成であってもよい。
【0027】
各磁気抵抗効果素子5a,5bは、例えば、Y1−Y2方向に細長形状で形成された複数本の素子部がX1−X2方向に配列され各素子部の端部間が連結されたミアンダ形状で形成されることが好適である。
【0028】
各磁気抵抗効果素子5a,5bは、図2に示すように、下から反強磁性層7、固定磁性層8、非磁性層9、フリー磁性層(磁化変動層)10及び保護層11の順で積層された構造で形成される。ただし、図2の積層構造は一例である。例えば固定磁性層8は積層フェリ構造で形成されてもよい。また、例えば反強磁性層7はIrMn、固定磁性層8はCoFe、非磁性層9はCu、フリー磁性層10はNiFe、保護層11はTaで形成される。
【0029】
磁気抵抗効果素子5a,5bは、少なくとも固定磁性層8とフリー磁性層10が非磁性層9を介して積層された積層部分を備える。反強磁性層7と固定磁性層8との間には交換結合磁界(Hex)が生じて固定磁性層8の磁化は一方向に固定されている。
【0030】
一方、フリー磁性層10の磁化方向は固定されておらず外部磁界Hによって磁化変動する。
【0031】
本実施形態では、磁気抵抗効果素子5a,5bを構成するフリー磁性層10と非磁性層9との間の界面は、磁石2の着磁面2aと平行な面方向(X−Y面方向)を向いている。
【0032】
上記の構成では非磁性層9がCuで形成された巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)の構成であるが、例えば非磁性層9がAl2O3、MgO等の絶縁材料で形成されるとき、トンネル型磁気抵抗効果素子(TMR素子)として構成される。磁気抵抗効果素子5a,5bは異方性磁気抵抗効果素子(AMR素子)であってもよい。
【0033】
この実施形態での、各磁気抵抗効果素子5a,5bの固定磁性層8の固定磁化方向(PIN方向)は、X1方向か、X2方向である。
【0034】
磁気センサ3が磁石2に対してX1方向に相対移動すると、各磁気抵抗効果素子5a,5bには、磁石2の着磁面2aから外部磁界H1,H2が進入する。図1に示すように外部磁界H1と外部磁界H2の方向は異なり(反対方向である)、またちょうど磁気抵抗効果素子が磁極上に位置すると、磁気抵抗効果素子に対して磁場成分は垂直磁場が支配的となり、外部磁界がゼロの状態(無磁場状態)となる。
【0035】
各磁気抵抗効果素子5a,5bに対して固定磁性層8の磁化方向と同じ方向の外部磁界が進入し、フリー磁性層10が固定磁性層8の磁化方向と同方向を向くと電気抵抗値は最小値になる。一方、固定磁性層8の磁化方向と反対の方向の外部磁界が進入し、フリー磁性層10が固定磁性層8の磁化方向の反対方向を向くと電気抵抗値は最大値になる。
【0036】
磁気センサ3が磁石2のN極側からS極側に向けて相対移動したときに、磁気センサ3に作用する外部磁界はH2であり、前記磁気センサ3が磁石2のS極側からN極側に向けて相対移動したときに、磁気センサ3に作用する外部磁界はH1である。
【0037】
磁気センサ3の相対移動に伴い、移動量、移動速度、さらには移動方向を検知することが出来る。
【0038】
本実施形態の磁気エンコーダ1は、各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1が、磁極ピッチλの正整数倍と異なる点と、フリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離が、外部磁界H1が作用しているときと外部磁界H2が作用しているときとで異なる点に特徴的構成がある。
【0039】
フリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離を、外部磁界H1が作用しているときと外部磁界H2が作用しているときとで異なせるには、「オフセット着磁」を施すことで達成できる。
【0040】
図6(a)はノーマル着磁の磁界強度変化を示している。横軸は、磁気センサの着磁面に対する相対移動方向への距離あるいは時間を示している。縦軸は、着磁面から発生する外部磁界の磁界強度を示している。
【0041】
図6(a)に示すように、横軸より上側が例えば外部磁界H2の磁界強度変化を示し、横軸より下側が外部磁界H1の磁界強度変化を示している。
【0042】
図6(a)に示すように、外部磁界H1の最大磁界強度H1aと外部磁界H2の最大磁界強度H2aとはほぼ同じ大きさであり、前記外部磁界H1の磁界強度変化曲線と、外部磁界H2の磁界強度変化曲線とは横軸を対称軸とした対称形状である。
【0043】
図6(a)に示す点線位置の磁界強度H1b,H2bは、磁気抵抗効果素子A1,A2を構成するフリー磁性層10を磁気飽和させるための下限値である。
【0044】
フリー磁性層10にはある一定以上の強い外部磁界が作用することで全体がその外部磁界の方向を向き磁気飽和に達する。このとき、フリー磁性層10の磁化が固定磁性層8の磁化方向を向けば電気抵抗値は徐々に小さくなり、やがて磁気飽和に達すると最小値になる。また、フリー磁性層10の磁化が固定磁性層8の磁化方向を向けば電気抵抗値は徐々に大きくなり、やがて磁気飽和に達すると最大値になる。
【0045】
図6(a)のノーマル着磁では、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離L3(飽和時間)と、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動方向距離L4(飽和時間)とがほぼ同じとなっている。
【0046】
図6(b)は、オフセット着磁の磁界強度変化を示している。横軸は、磁気センサの着磁面に対する相対移動方向への距離あるいは時間を示している。縦軸は、着磁面から発生する外部磁界の磁界強度を示している。
【0047】
図6(b)に示すように、横軸より上側が例えば外部磁界H2の磁界強度変化を示し、横軸より下側が外部磁界H1の磁界強度変化を示している。
【0048】
図6(b)に示すように、外部磁界H1の最大磁界強度H1cと外部磁界H2の最大磁界強度H2cとが異なった大きさであり、前記外部磁界H1の磁界強度変化曲線と、外部磁界H2の磁界強度変化曲線とは、横軸を対称軸としたとき、非対称形状である。図6(b)のオフセット着磁での磁界強度変化曲線は、いわば、図6(a)のノーマル着磁での磁界強度変化曲線を外部磁界H2側へ一定のオフセット量で移動させた波形となっている。
【0049】
図6(b)に示す点線位置の磁界強度H1d,H2dは、磁気抵抗効果素子A1,A2を構成するフリー磁性層10を磁気飽和させるための下限値である。これら磁界強度H1d,H2dは、図6(a)での磁界強度H1b,H2bと同じ大きさである。
【0050】
図6(b)のオフセット着磁では、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離L1(飽和時間)と、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動方向距離L2(飽和時間)とが異なる。
【0051】
図3(a)は、従来例の磁気エンコーダの構成である。すなわち、図12で示す磁気エンコーダの構成であるが、説明をしやすくするため、磁気センサ22に搭載される磁気抵抗効果素子にはA相の磁気抵抗効果素子A1,A2を一つずつ図示した。磁気抵抗効果素子A1,A2の中心間距離は磁極ピッチλと同じ大きさである。
【0052】
図3(b)は、図6(a)で説明したノーマル着磁に対する磁気抵抗効果素子A1の電気抵抗変化に基づく第1出力波形、磁気抵抗効果素子A2の電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び磁気抵抗効果素子Aと磁気抵抗効果素子A2とを直列に接続して得られた差動出力波形(Total出力)を示している。
【0053】
図3(c)は、オフセット着磁に対する磁気抵抗効果素子A1の電気抵抗変化に基づく第1出力波形、磁気抵抗効果素子A2の電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び磁気抵抗効果素子Aと磁気抵抗効果素子A2とを直列に接続して得られた差動出力波形を示している。
【0054】
図3(b)に示すように、ノーマル着磁では第1出力の立ち上がりタイミングと、第2出力の立ち下がりタイミングとが同じタイミングになり、及び、第1出力の立ち下がりタイミングと、第2出力の立ち上がりタイミングとが同じタイミングになっている。そして図3(b)での出力波形のデューティ比はほぼ50%である。
【0055】
一方、図3(c)に示すように、オフセット着磁では、第1出力の立ち上がりタイミングと、第2出力の立ち下がりタイミングとが異なるタイミングになり、及び、第1出力の立ち下がりタイミングと、第2出力の立ち上がりタイミングとが異なるタイミングになっている。図3(c)での出力波形のデューティ比は50%より小さくなり、しかも、第1出力の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングは、必ず、第2出力が最小出力ラインのときとなっている。
【0056】
図3(c)のように、オフセット着磁における、磁気抵抗効果素子Aと磁気抵抗効果素子A2とを直列に接続して得られた差動出力波形は、ノーマル着磁における差動出力波形(図3(b))とは異なる。ここで、CWとは、時計方向を指し、CCWは反時計方向を指す。これは、図11の実施形態に示すように回転型の磁気エンコーダを想定したものであり、直線移動する場合、CWは、ある一方向への直線移動を指し、CCWは、CWと反対方向への直線移動を指している。
【0057】
図3(c)に示すように、差動出力変化は、CW及びCCWで同じ波形となっている。よって、磁気抵抗効果素子A1,A2の中心間距離を磁極ピッチλと同じにすると、オフセット着磁しても、1つのブリッジ回路だけでは、移動方向(回転方向)を検知できない。
【0058】
一方、図4(a)は、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を、磁極ピッチλより小さくした実施形態である。
【0059】
図4(b)は、ノーマル着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形(Total出力)を示している。
【0060】
図4(c)は、オフセット着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形を示している。
【0061】
図4(b)のノーマル着磁では第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、及び、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形は、共にデューティ比がほぼ50%であるが、出力タイミングがずれている。そして、得られた差動出力波形(Total出力)は、対称形状であり、既に説明した図3(c)に示す差動出力波形とほぼ同じ形状である。よって、ノーマル着磁では、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより小さくしても、移動方向(回転方向)を検知することが出来ない。
【0062】
一方、図4(c)のオフセット着磁では、第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、及び、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形は、共にデューティ比が50%より小さくなる。このとき、図4(c)に示すように、第1出力の出力波形の立ち下がりタイミングaと、第2出力の出力波形の立ち上がりタイミングbはずれている。また、図4(c)のように、第1出力の出力波形の立ち上がりタイミングcと、第2出力の出力波形の立ち下がりタイミングdは同じタイミングとなっている。
【0063】
そして、図4(c)の差動出力波形に示すように、CWでの差動出力波形は、立ち上がりタイミングeで最大まで一気に立ち上がり、立ち下がりタイミングf,gは段差を介して2段になっている。このため、CWでの差動出力波形は、非対称形状となっている。CCWでの差動出力波形は、CWでの差動出力波形を反転させた形状である。このように、CWでの差動出力波形と、CCWでの差動出力波形とが異なるため、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより小さくし、且つオフセット着磁することにより、1つのブリッジ回路でも、移動方向(回転方向)を検知することが可能になる。
【0064】
図5(a)は、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を、磁極ピッチλより大きくした実施形態である。
【0065】
図5(b)は、ノーマル着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形(Total出力)を示している。
【0066】
図5(c)は、オフセット着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形を示している。
【0067】
図5(b)のノーマル着磁では、図4(b)と同様に、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより大きくしても、移動方向(回転方向)を検知することが出来ない。
【0068】
これに対して、図5(c)のオフセット着磁では、図5(c)に示すように、CWでの差動出力波形は、段差を介した2段の立ち上がりタイミングh,iで最大まで立ち上がり、立ち下がりタイミングjで一気に最小まで立ち下がる。
【0069】
このため、CWでの差動出力波形は、非対称形状となっている。CCWでの差動出力波形は、CWでの差動出力波形を180度反転させた形状である。このように、CWでの差動出力波形と、CCWでの差動出力波形とが異なるため、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより大きくし、且つオフセット着磁することにより、1つのブリッジ回路でも、移動方向(回転方向)を検知することが可能になる。
【0070】
このように本実施形態では移動方向(回転方向)を検知するのに、1つのブリッジ回路で足りるため、磁気センサ3に搭載する磁気抵抗効果素子5a,5bの素子数を従来より減らすことが出来る。また1つのブリッジ回路で足りるためASICでの回路構成も従来より簡単に出来る。したがって、従来に比べて磁気センサ3、ひいては磁気エンコーダ1の製造コストを低減できる。
【0071】
また、図4のように、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより小さくすれば、従来に比べて、効果的に、磁気センサ3、ひいては磁気エンコーダ1の小型化を図ることができる。前記中心間距離T1は、0.5mm以上でλより小さいことが好適である。
【0072】
また、図5のように、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1が磁極ピッチλより大きい場合でも、中心間距離T1を3λ/2(3λ/2は図12の従来例に示す両側に配置された磁気抵抗効果素子の中心間距離)より小さく形成することが可能であり、従来に比べて磁気センサ3の小型化を図ることができる。
【0073】
第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1は、図6(b)で説明した、磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離L1,L2(飽和時間)に基づいて調整される。特に、図4(c)に示すように、第1出力の立ち上がりタイミングcと、第2出力の立ち下がりタイミングdとが同じタイミングになるように、あるいは、図5(c)に示すように、第1出力の立ち下がりタイミングkと、第2出力の立ち上がりタイミングlとが同じタイミングになるように、前記中心間距離T1(あるいは相対移動距離L1,L2)を調整することが好ましい。これにより、複数の磁気抵抗効果素子から成るブリッジ回路から得られる差動出力波形は、最小出力ラインと最大出力ライン間の出力の立ち上がり側、あるいは立ち下がり側のどちらか一方が、途中に段差を介した形状となり、他方が前記段差がない連続形状となる(図4(c)、図5(c))。これにより、より高精度に、移動方向(回転方向)を検知できる。
【0074】
図3ないし図5での差動出力波形は、得られたアナログ信号をデジタル化したものであるが、アナログ信号をそのまま、移動方向(回転方向)の検知信号として使用することも出来る。デジタル信号であるとき、例えば図4(c)に示すように中間出力ラインと最大出力ラインの間に第1のスレッショルドレベルLV1を規定し、中間出力ラインと最小出力ラインの間に第2のスレッショルドレベルLV2を規定する。そして、磁気センサ3及び磁石2の停止状態では、必ず、中間出力ライン上に位置するように制御し、磁気センサ3が磁石2に対して相対移動し始めたときに、出力が、第1のスレッショルドレベルLV1を超えるか、あるいは、第2のスレッショルドレベルLV2を下回るかによって、移動方向(回転方向)を検知することが出来る。
【0075】
次に、オフセット着磁の方法を説明する。なお、次に挙げる3例はあくまでも例示であって、これ以外のオフセット着磁の方法を除外するものでない。
【0076】
図7(a)は、磁石の平面図と側面図、(b)は、ノーマル着磁における回転方向への磁界強度変化、(c)はオフセット着磁における回転方向への磁界強度変化、(d)がオフセット着磁の方法を示す着磁面とヨーク面との模式図である。
【0077】
着磁面とヨーク面とを平行にして着磁した場合、図7(b)に示すノーマル着磁になる。一方、図7(d)に示すように着磁面に対してヨーク面を傾斜させて着磁すると、着磁面に形成される各磁極内での磁化の強さは均一でなくなり、各磁極内の回転方向の両側にて磁化の強さが異なる着磁パターンとなる。その結果、図7(c)に示すように、図7(b)のノーマル着磁から所定のオフセット量が生じたオフセット着磁となる。
【0078】
図8(a)は、磁石の斜視図と側面図、(b)は、傾斜なし磁石(着磁面が平面の磁石)での回転方向への磁界強度変化、(c)は傾斜付き磁石での回転方向への磁界強度変化、である。
【0079】
図8(a)に示すように、各磁極の着磁面に回転方向に向って傾斜する傾斜面を形成する。そして、従来と同様に、磁石に対して平行にヨークを対向させて、着磁することで、図8(c)に示すように、図8(b)のノーマル着磁から所定のオフセット量が生じたオフセット着磁となる。
【0080】
図9は、磁石の平面図及び側面図である。図9での磁石は、従来と同様に着磁面とヨーク面とを平行状態にして着磁したものである。図9に示すように、磁石と磁気センサに搭載される磁気抵抗効果素子との間の距離(Airgap)を1.0mm、1.5mm、2.0mm、2.5mmと変化させ、また、磁石の内周位置(R0mm)、及び前記内周位置から外周へ向けて1mm、2mm、3mmの各位置にて前記磁気センサを対向させた状態で、前記磁気センサを磁石に対して相対移動させた。磁気センサには図4、図5と同様に第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bが搭載されており、これら磁気抵抗効果素子5a,5bの中心間距離T1は、2.0mmであった。図10は、上記のように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)や、磁気センサの対向位置を変化させたときの各出力変化(アナログ出力)を示す。図10に示すように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)を2.5mmとすれば、出力波形が図4(c)のCCWでの出力波形、あるいは図5(c)のCWでの出力波形とほぼ同様になることがわかった。また、磁気センサの対向位置は、磁石の内周位置(R0mm)か、前記内周位置から1mmの位置であると、中間出力ライン(段差位置)が平行に長く延びるため好適である。
【0081】
上記のように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)を大きくしていくと、磁石から磁気抵抗効果素子に作用する磁界強度が弱くなり、微妙な着磁のオフセットが顕在化して差動出力変化を左右非対称な波形に形成することが出来る。
【0082】
図7ないし図9はリング状の磁石に対してアキシャル着磁を施した形態であったがラジアル着磁にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本実施形態の磁気エンコーダの斜視図、
【図2】磁気抵抗効果素子の部分断面図、
【図3】従来例の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図、
【図4】第1実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、
【図5】第2実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、
【図6】(a)は、ノーマル着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、(b)は、オフセット着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、
【図7】オフセット着磁の一例であり、(a)は、磁石の平面図と側面図、(b)は、ノーマル着磁における回転方向への磁界強度変化、(c)はオフセット着磁における回転方向への磁界強度変化、(d)がオフセット着磁の方法を示す着磁面とヨーク面との模式図、
【図8】オフセット着磁の一例であり、(a)は、磁石の斜視図と側面図、(b)は、傾斜なし磁石(着磁面が平面の磁石)での回転方向への磁界強度変化、(c)は傾斜付き磁石での回転方向への磁界強度変化、
【図9】オフセット着磁の一例であり、磁石の平面図及び側面図、
【図10】図9のように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)や、磁気センサの対向位置を変化させたときの各出力変化(アナログ出力)を示すグラフ、
【図11】本実施形態における回転型の磁気エンコーダの斜視図、
【図12】従来の磁気エンコーダの構成を示す模式図(斜視図)、
【図13】A相及びB相のブリッジ回路の構成図、
【符号の説明】
【0084】
1 磁気エンコーダ
2 磁石
3 磁気センサ
5a、5b 磁気抵抗効果素子
7 反強磁性層
8 固定磁性層
9 非磁性層
10 フリー磁性層(磁化変動層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動速度(回転速度)や移動方向(回転方向)等を検知可能な磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、従来の磁気エンコーダ20の構成を示す模式図である。磁気エンコーダ20は磁石21と磁気センサ22とを有して構成される。図12では、磁石21はX1−X2方向に延びる棒状であり、磁気センサ22がX1方向に向けて相対移動する。
【0003】
磁気センサ22には8つの磁気抵抗効果素子A1,A2,B1,B2が設けられる。このうち2つの磁気抵抗効果素子A1と2つの磁気抵抗効果素子A2とでA相ブリッジ回路が構成され、2つの磁気抵抗効果素子B1と2つの磁気抵抗効果素子B2とでB相ブリッジ回路が構成される(図13参照)。
【0004】
図12に示すように磁石21の着磁ピッチ(N極とS極の中心間距離)はλであり、一方、磁気センサ22にてブリッジ回路を構成する磁気抵抗効果素子A1と磁気抵抗効果素子A2の中心間距離、及び磁気抵抗効果素子B1と磁気抵抗効果素子B2の中心間距離も同じくλとなっている。
【0005】
図1に示すように、磁気センサ22が相対移動すると、前記磁石21の着磁面21aから磁気センサ22に向けて外部磁界H1及び外部磁界H2が作用する。外部磁界H1は、磁気センサ22がS極側からN極側に向けて相対移動したときに磁気センサ22に作用する外部磁界であり、外部磁界H2は、磁気センサ22がN極側からS極側に向けて相対移動したときに磁気センサ22に作用する外部磁界である。
【0006】
図13に示すA相のブリッジ回路から得られる出力と、B相のブリッジ回路から得られる出力に基づいて、移動量や移動速度を検知でき、さらには、出力タイミングがずれるA相及びB相の位相関係により移動方向を検知することも出来る。
【特許文献1】特開平3−125918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図12に示す従来の磁気エンコーダ20では、移動方向を知るのに2つのブリッジ回路を必要とした。また図12の磁気センサ22は磁気抵抗効果素子と、これら磁気抵抗効果素子を搭載する基板のみが図示されているが、実際には出力を生成するためのASICも搭載されたパッケージ構造である。そして従来の構成では、ASIC側も同じ構成の回路を2つ必要とした。
【0008】
以上から磁気センサ22の製造コストが増大する問題があった。また、磁気センサ22のサイズが大きくなるといった問題もあった。
【0009】
なお、図12は、直線型の磁気エンコーダ20であるが、回転型の磁気エンコーダであっても同様の問題が生じる。
【0010】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、1つのブリッジ回路で、移動方向(回転方向)を検知可能とした磁気エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、相対移動方向に交互にN極とS極が着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、前記磁界発生部材の前記着磁面から離れた位置に配置され、基板表面に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した複数の磁気抵抗効果素子を有する磁気センサと、を有して構成される磁気エンコーダであって、
複数の前記磁気抵抗効果素子にて1つのブリッジ回路が構成されており、
出力端子を介して直列接続される各磁気抵抗効果素子は、前記相対移動方向に磁極ピッチλの正整数と異なる中心間距離にて配列されており、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるS極側からN極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L1と、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるN極側からS極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L2とが、異なっていることを特徴とするものである。
【0012】
上記の構成により、1つのブリッジ回路であっても、移動方向(回転方向)を検知できる。このように本発明ではブリッジ回路を1つにでき、素子数を従来より減らせることで、磁気センサ、ひいては磁気エンコーダの製造コストの低減及び小型化を図ることができる。
【0013】
本発明では、前記着磁面に形成された各磁極内の磁化の強さが、前記相対移動方向への両側にて異なるように着磁されていることが好ましい。これにより、上記した相対移動距離L1と相対移動距離L2とを容易に異ならせることができる。
【0014】
また本発明では、前記各磁気抵抗効果素子の中心間距離は、前記磁極ピッチλよりも小さいことが好ましい。これにより、より効果的に、磁気センサ、ひいては磁気エンコーダの小型化を図ることが可能である。
【0015】
本発明では、前記ブリッジ回路から得られる出力波形は、最小出力ラインと最大出力ライン間の出力の立ち上がり側、あるいは立ち下がり側のどちらか一方が、途中に段差を介した形状となっており、他方が前記段差がない連続形状となっていることが好ましい。これにより、高精度に移動方向(回転方向)を検知できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気センサと磁界発生部材とを有してなる磁気エンコーダによれば、1つのブリッジ回路であっても、移動方向(回転方向)を検知できる。このように本発明ではブリッジ回路を1つにでき、素子数を従来より減らせることで、磁気センサ、ひいては磁気エンコーダの製造コストの低減及び小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本実施形態の磁気エンコーダの斜視図、図2は、磁気抵抗効果素子の部分断面図、図3は、従来例の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図、図4は、第1実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、図5は、第2実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、図6(a)は、ノーマル着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、(b)は、オフセット着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、である。
【0018】
各図におけるX1−X2方向、Y1−Y2方向、及びZ1−Z2方向の各方向は残り2つの方向に対して直交した関係となっている。X1−X2方向は、磁石2及び磁気センサ3の相対移動方向である。この実施形態において特に断らない限り「相対移動方向」とは磁気センサ3の相対移動方向を指す。そしてこの実施形態では、磁気センサ3の相対移動方向はX1方向である。よって、磁石2が固定で磁気センサ3が移動する場合は、磁気センサ3はX1方向に動き、磁気センサ3が固定で磁石2が移動する場合は、磁石2がX2方向に動いている。なお磁石2及び磁気センサ3の双方が動く形態でもよい。Y1−Y2方向は、基板4の平面内にて相対移動方向に対して直交する磁気センサ3の幅方向である。Z1−Z2方向は磁石2と磁気センサ3とが所定の間隔を空けて対向する高さ方向である。
【0019】
図1に示すように磁気エンコーダ1は、磁石(磁界発生部材)2と磁気センサ3を有して構成される。
【0020】
例えば磁石2は図示X1−X2方向に延びる棒状であり、磁気センサ3との対向面が図示X1−X2方向に所定幅にてN極とS極とが交互に着磁された着磁面2aである。磁極間ピッチ(N極とS極との中心間距離)はλである。例えば、λは、0.5〜4.0mmである。
【0021】
図1に示すように磁気センサ3は、基板4と、共通の基板4の表面(磁石2との対向面)4aに設けられた複数の磁気抵抗効果素子5a,5bとを有して構成される。
【0022】
磁気抵抗効果素子は、符号5aが第1の磁気抵抗効果素子であり、符号5bが第2の磁気抵抗効果素子である。第1の磁気抵抗効果素子5a及び第2の磁気抵抗効果素子5bは、夫々、2つずつ設けられ、計4つの磁気抵抗効果素子で構成されている。
【0023】
2つの第1の磁気抵抗効果素子5aは、Y1−Y2方向に間隔を空けて配置されている。同様に、2つの第2の磁気抵抗効果素子5bは、Y1−Y2方向に間隔を空けて配置されている。
【0024】
そして、図1に示すように各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bは、X1−X2方向に間隔を空けて対向しており、各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離は、T1となっている。
【0025】
本実施形態では、前記中心間距離T1は、磁極ピッチλの正整数倍と異なる大きさである。
【0026】
これら磁気抵抗効果素子5a,5bは、従来例で示した図13と同様のフルブリッジ回路を構成する。ただし本実施形態では、磁気抵抗効果素子5a,5bが夫々1つずつ設けられ出力端子を介して直列接続されたハーフブリッジ回路の構成であってもよい。
【0027】
各磁気抵抗効果素子5a,5bは、例えば、Y1−Y2方向に細長形状で形成された複数本の素子部がX1−X2方向に配列され各素子部の端部間が連結されたミアンダ形状で形成されることが好適である。
【0028】
各磁気抵抗効果素子5a,5bは、図2に示すように、下から反強磁性層7、固定磁性層8、非磁性層9、フリー磁性層(磁化変動層)10及び保護層11の順で積層された構造で形成される。ただし、図2の積層構造は一例である。例えば固定磁性層8は積層フェリ構造で形成されてもよい。また、例えば反強磁性層7はIrMn、固定磁性層8はCoFe、非磁性層9はCu、フリー磁性層10はNiFe、保護層11はTaで形成される。
【0029】
磁気抵抗効果素子5a,5bは、少なくとも固定磁性層8とフリー磁性層10が非磁性層9を介して積層された積層部分を備える。反強磁性層7と固定磁性層8との間には交換結合磁界(Hex)が生じて固定磁性層8の磁化は一方向に固定されている。
【0030】
一方、フリー磁性層10の磁化方向は固定されておらず外部磁界Hによって磁化変動する。
【0031】
本実施形態では、磁気抵抗効果素子5a,5bを構成するフリー磁性層10と非磁性層9との間の界面は、磁石2の着磁面2aと平行な面方向(X−Y面方向)を向いている。
【0032】
上記の構成では非磁性層9がCuで形成された巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)の構成であるが、例えば非磁性層9がAl2O3、MgO等の絶縁材料で形成されるとき、トンネル型磁気抵抗効果素子(TMR素子)として構成される。磁気抵抗効果素子5a,5bは異方性磁気抵抗効果素子(AMR素子)であってもよい。
【0033】
この実施形態での、各磁気抵抗効果素子5a,5bの固定磁性層8の固定磁化方向(PIN方向)は、X1方向か、X2方向である。
【0034】
磁気センサ3が磁石2に対してX1方向に相対移動すると、各磁気抵抗効果素子5a,5bには、磁石2の着磁面2aから外部磁界H1,H2が進入する。図1に示すように外部磁界H1と外部磁界H2の方向は異なり(反対方向である)、またちょうど磁気抵抗効果素子が磁極上に位置すると、磁気抵抗効果素子に対して磁場成分は垂直磁場が支配的となり、外部磁界がゼロの状態(無磁場状態)となる。
【0035】
各磁気抵抗効果素子5a,5bに対して固定磁性層8の磁化方向と同じ方向の外部磁界が進入し、フリー磁性層10が固定磁性層8の磁化方向と同方向を向くと電気抵抗値は最小値になる。一方、固定磁性層8の磁化方向と反対の方向の外部磁界が進入し、フリー磁性層10が固定磁性層8の磁化方向の反対方向を向くと電気抵抗値は最大値になる。
【0036】
磁気センサ3が磁石2のN極側からS極側に向けて相対移動したときに、磁気センサ3に作用する外部磁界はH2であり、前記磁気センサ3が磁石2のS極側からN極側に向けて相対移動したときに、磁気センサ3に作用する外部磁界はH1である。
【0037】
磁気センサ3の相対移動に伴い、移動量、移動速度、さらには移動方向を検知することが出来る。
【0038】
本実施形態の磁気エンコーダ1は、各第1の磁気抵抗効果素子5aと各第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1が、磁極ピッチλの正整数倍と異なる点と、フリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離が、外部磁界H1が作用しているときと外部磁界H2が作用しているときとで異なる点に特徴的構成がある。
【0039】
フリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離を、外部磁界H1が作用しているときと外部磁界H2が作用しているときとで異なせるには、「オフセット着磁」を施すことで達成できる。
【0040】
図6(a)はノーマル着磁の磁界強度変化を示している。横軸は、磁気センサの着磁面に対する相対移動方向への距離あるいは時間を示している。縦軸は、着磁面から発生する外部磁界の磁界強度を示している。
【0041】
図6(a)に示すように、横軸より上側が例えば外部磁界H2の磁界強度変化を示し、横軸より下側が外部磁界H1の磁界強度変化を示している。
【0042】
図6(a)に示すように、外部磁界H1の最大磁界強度H1aと外部磁界H2の最大磁界強度H2aとはほぼ同じ大きさであり、前記外部磁界H1の磁界強度変化曲線と、外部磁界H2の磁界強度変化曲線とは横軸を対称軸とした対称形状である。
【0043】
図6(a)に示す点線位置の磁界強度H1b,H2bは、磁気抵抗効果素子A1,A2を構成するフリー磁性層10を磁気飽和させるための下限値である。
【0044】
フリー磁性層10にはある一定以上の強い外部磁界が作用することで全体がその外部磁界の方向を向き磁気飽和に達する。このとき、フリー磁性層10の磁化が固定磁性層8の磁化方向を向けば電気抵抗値は徐々に小さくなり、やがて磁気飽和に達すると最小値になる。また、フリー磁性層10の磁化が固定磁性層8の磁化方向を向けば電気抵抗値は徐々に大きくなり、やがて磁気飽和に達すると最大値になる。
【0045】
図6(a)のノーマル着磁では、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離L3(飽和時間)と、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動方向距離L4(飽和時間)とがほぼ同じとなっている。
【0046】
図6(b)は、オフセット着磁の磁界強度変化を示している。横軸は、磁気センサの着磁面に対する相対移動方向への距離あるいは時間を示している。縦軸は、着磁面から発生する外部磁界の磁界強度を示している。
【0047】
図6(b)に示すように、横軸より上側が例えば外部磁界H2の磁界強度変化を示し、横軸より下側が外部磁界H1の磁界強度変化を示している。
【0048】
図6(b)に示すように、外部磁界H1の最大磁界強度H1cと外部磁界H2の最大磁界強度H2cとが異なった大きさであり、前記外部磁界H1の磁界強度変化曲線と、外部磁界H2の磁界強度変化曲線とは、横軸を対称軸としたとき、非対称形状である。図6(b)のオフセット着磁での磁界強度変化曲線は、いわば、図6(a)のノーマル着磁での磁界強度変化曲線を外部磁界H2側へ一定のオフセット量で移動させた波形となっている。
【0049】
図6(b)に示す点線位置の磁界強度H1d,H2dは、磁気抵抗効果素子A1,A2を構成するフリー磁性層10を磁気飽和させるための下限値である。これら磁界強度H1d,H2dは、図6(a)での磁界強度H1b,H2bと同じ大きさである。
【0050】
図6(b)のオフセット着磁では、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離L1(飽和時間)と、磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動方向距離L2(飽和時間)とが異なる。
【0051】
図3(a)は、従来例の磁気エンコーダの構成である。すなわち、図12で示す磁気エンコーダの構成であるが、説明をしやすくするため、磁気センサ22に搭載される磁気抵抗効果素子にはA相の磁気抵抗効果素子A1,A2を一つずつ図示した。磁気抵抗効果素子A1,A2の中心間距離は磁極ピッチλと同じ大きさである。
【0052】
図3(b)は、図6(a)で説明したノーマル着磁に対する磁気抵抗効果素子A1の電気抵抗変化に基づく第1出力波形、磁気抵抗効果素子A2の電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び磁気抵抗効果素子Aと磁気抵抗効果素子A2とを直列に接続して得られた差動出力波形(Total出力)を示している。
【0053】
図3(c)は、オフセット着磁に対する磁気抵抗効果素子A1の電気抵抗変化に基づく第1出力波形、磁気抵抗効果素子A2の電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び磁気抵抗効果素子Aと磁気抵抗効果素子A2とを直列に接続して得られた差動出力波形を示している。
【0054】
図3(b)に示すように、ノーマル着磁では第1出力の立ち上がりタイミングと、第2出力の立ち下がりタイミングとが同じタイミングになり、及び、第1出力の立ち下がりタイミングと、第2出力の立ち上がりタイミングとが同じタイミングになっている。そして図3(b)での出力波形のデューティ比はほぼ50%である。
【0055】
一方、図3(c)に示すように、オフセット着磁では、第1出力の立ち上がりタイミングと、第2出力の立ち下がりタイミングとが異なるタイミングになり、及び、第1出力の立ち下がりタイミングと、第2出力の立ち上がりタイミングとが異なるタイミングになっている。図3(c)での出力波形のデューティ比は50%より小さくなり、しかも、第1出力の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングは、必ず、第2出力が最小出力ラインのときとなっている。
【0056】
図3(c)のように、オフセット着磁における、磁気抵抗効果素子Aと磁気抵抗効果素子A2とを直列に接続して得られた差動出力波形は、ノーマル着磁における差動出力波形(図3(b))とは異なる。ここで、CWとは、時計方向を指し、CCWは反時計方向を指す。これは、図11の実施形態に示すように回転型の磁気エンコーダを想定したものであり、直線移動する場合、CWは、ある一方向への直線移動を指し、CCWは、CWと反対方向への直線移動を指している。
【0057】
図3(c)に示すように、差動出力変化は、CW及びCCWで同じ波形となっている。よって、磁気抵抗効果素子A1,A2の中心間距離を磁極ピッチλと同じにすると、オフセット着磁しても、1つのブリッジ回路だけでは、移動方向(回転方向)を検知できない。
【0058】
一方、図4(a)は、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を、磁極ピッチλより小さくした実施形態である。
【0059】
図4(b)は、ノーマル着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形(Total出力)を示している。
【0060】
図4(c)は、オフセット着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形を示している。
【0061】
図4(b)のノーマル着磁では第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、及び、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形は、共にデューティ比がほぼ50%であるが、出力タイミングがずれている。そして、得られた差動出力波形(Total出力)は、対称形状であり、既に説明した図3(c)に示す差動出力波形とほぼ同じ形状である。よって、ノーマル着磁では、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより小さくしても、移動方向(回転方向)を検知することが出来ない。
【0062】
一方、図4(c)のオフセット着磁では、第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、及び、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形は、共にデューティ比が50%より小さくなる。このとき、図4(c)に示すように、第1出力の出力波形の立ち下がりタイミングaと、第2出力の出力波形の立ち上がりタイミングbはずれている。また、図4(c)のように、第1出力の出力波形の立ち上がりタイミングcと、第2出力の出力波形の立ち下がりタイミングdは同じタイミングとなっている。
【0063】
そして、図4(c)の差動出力波形に示すように、CWでの差動出力波形は、立ち上がりタイミングeで最大まで一気に立ち上がり、立ち下がりタイミングf,gは段差を介して2段になっている。このため、CWでの差動出力波形は、非対称形状となっている。CCWでの差動出力波形は、CWでの差動出力波形を反転させた形状である。このように、CWでの差動出力波形と、CCWでの差動出力波形とが異なるため、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより小さくし、且つオフセット着磁することにより、1つのブリッジ回路でも、移動方向(回転方向)を検知することが可能になる。
【0064】
図5(a)は、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を、磁極ピッチλより大きくした実施形態である。
【0065】
図5(b)は、ノーマル着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形(Total出力)を示している。
【0066】
図5(c)は、オフセット着磁に対する第1の磁気抵抗効果素子5aの電気抵抗変化に基づく第1出力波形、第2の磁気抵抗効果素子5bの電気抵抗変化に基づく第2出力波形、及び第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bとを直列に接続して得られた差動出力波形を示している。
【0067】
図5(b)のノーマル着磁では、図4(b)と同様に、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより大きくしても、移動方向(回転方向)を検知することが出来ない。
【0068】
これに対して、図5(c)のオフセット着磁では、図5(c)に示すように、CWでの差動出力波形は、段差を介した2段の立ち上がりタイミングh,iで最大まで立ち上がり、立ち下がりタイミングjで一気に最小まで立ち下がる。
【0069】
このため、CWでの差動出力波形は、非対称形状となっている。CCWでの差動出力波形は、CWでの差動出力波形を180度反転させた形状である。このように、CWでの差動出力波形と、CCWでの差動出力波形とが異なるため、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより大きくし、且つオフセット着磁することにより、1つのブリッジ回路でも、移動方向(回転方向)を検知することが可能になる。
【0070】
このように本実施形態では移動方向(回転方向)を検知するのに、1つのブリッジ回路で足りるため、磁気センサ3に搭載する磁気抵抗効果素子5a,5bの素子数を従来より減らすことが出来る。また1つのブリッジ回路で足りるためASICでの回路構成も従来より簡単に出来る。したがって、従来に比べて磁気センサ3、ひいては磁気エンコーダ1の製造コストを低減できる。
【0071】
また、図4のように、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1を磁極ピッチλより小さくすれば、従来に比べて、効果的に、磁気センサ3、ひいては磁気エンコーダ1の小型化を図ることができる。前記中心間距離T1は、0.5mm以上でλより小さいことが好適である。
【0072】
また、図5のように、第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1が磁極ピッチλより大きい場合でも、中心間距離T1を3λ/2(3λ/2は図12の従来例に示す両側に配置された磁気抵抗効果素子の中心間距離)より小さく形成することが可能であり、従来に比べて磁気センサ3の小型化を図ることができる。
【0073】
第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bの中心間距離T1は、図6(b)で説明した、磁気抵抗効果素子のフリー磁性層10の飽和状態を維持する相対移動距離L1,L2(飽和時間)に基づいて調整される。特に、図4(c)に示すように、第1出力の立ち上がりタイミングcと、第2出力の立ち下がりタイミングdとが同じタイミングになるように、あるいは、図5(c)に示すように、第1出力の立ち下がりタイミングkと、第2出力の立ち上がりタイミングlとが同じタイミングになるように、前記中心間距離T1(あるいは相対移動距離L1,L2)を調整することが好ましい。これにより、複数の磁気抵抗効果素子から成るブリッジ回路から得られる差動出力波形は、最小出力ラインと最大出力ライン間の出力の立ち上がり側、あるいは立ち下がり側のどちらか一方が、途中に段差を介した形状となり、他方が前記段差がない連続形状となる(図4(c)、図5(c))。これにより、より高精度に、移動方向(回転方向)を検知できる。
【0074】
図3ないし図5での差動出力波形は、得られたアナログ信号をデジタル化したものであるが、アナログ信号をそのまま、移動方向(回転方向)の検知信号として使用することも出来る。デジタル信号であるとき、例えば図4(c)に示すように中間出力ラインと最大出力ラインの間に第1のスレッショルドレベルLV1を規定し、中間出力ラインと最小出力ラインの間に第2のスレッショルドレベルLV2を規定する。そして、磁気センサ3及び磁石2の停止状態では、必ず、中間出力ライン上に位置するように制御し、磁気センサ3が磁石2に対して相対移動し始めたときに、出力が、第1のスレッショルドレベルLV1を超えるか、あるいは、第2のスレッショルドレベルLV2を下回るかによって、移動方向(回転方向)を検知することが出来る。
【0075】
次に、オフセット着磁の方法を説明する。なお、次に挙げる3例はあくまでも例示であって、これ以外のオフセット着磁の方法を除外するものでない。
【0076】
図7(a)は、磁石の平面図と側面図、(b)は、ノーマル着磁における回転方向への磁界強度変化、(c)はオフセット着磁における回転方向への磁界強度変化、(d)がオフセット着磁の方法を示す着磁面とヨーク面との模式図である。
【0077】
着磁面とヨーク面とを平行にして着磁した場合、図7(b)に示すノーマル着磁になる。一方、図7(d)に示すように着磁面に対してヨーク面を傾斜させて着磁すると、着磁面に形成される各磁極内での磁化の強さは均一でなくなり、各磁極内の回転方向の両側にて磁化の強さが異なる着磁パターンとなる。その結果、図7(c)に示すように、図7(b)のノーマル着磁から所定のオフセット量が生じたオフセット着磁となる。
【0078】
図8(a)は、磁石の斜視図と側面図、(b)は、傾斜なし磁石(着磁面が平面の磁石)での回転方向への磁界強度変化、(c)は傾斜付き磁石での回転方向への磁界強度変化、である。
【0079】
図8(a)に示すように、各磁極の着磁面に回転方向に向って傾斜する傾斜面を形成する。そして、従来と同様に、磁石に対して平行にヨークを対向させて、着磁することで、図8(c)に示すように、図8(b)のノーマル着磁から所定のオフセット量が生じたオフセット着磁となる。
【0080】
図9は、磁石の平面図及び側面図である。図9での磁石は、従来と同様に着磁面とヨーク面とを平行状態にして着磁したものである。図9に示すように、磁石と磁気センサに搭載される磁気抵抗効果素子との間の距離(Airgap)を1.0mm、1.5mm、2.0mm、2.5mmと変化させ、また、磁石の内周位置(R0mm)、及び前記内周位置から外周へ向けて1mm、2mm、3mmの各位置にて前記磁気センサを対向させた状態で、前記磁気センサを磁石に対して相対移動させた。磁気センサには図4、図5と同様に第1の磁気抵抗効果素子5aと第2の磁気抵抗効果素子5bが搭載されており、これら磁気抵抗効果素子5a,5bの中心間距離T1は、2.0mmであった。図10は、上記のように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)や、磁気センサの対向位置を変化させたときの各出力変化(アナログ出力)を示す。図10に示すように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)を2.5mmとすれば、出力波形が図4(c)のCCWでの出力波形、あるいは図5(c)のCWでの出力波形とほぼ同様になることがわかった。また、磁気センサの対向位置は、磁石の内周位置(R0mm)か、前記内周位置から1mmの位置であると、中間出力ライン(段差位置)が平行に長く延びるため好適である。
【0081】
上記のように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)を大きくしていくと、磁石から磁気抵抗効果素子に作用する磁界強度が弱くなり、微妙な着磁のオフセットが顕在化して差動出力変化を左右非対称な波形に形成することが出来る。
【0082】
図7ないし図9はリング状の磁石に対してアキシャル着磁を施した形態であったがラジアル着磁にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本実施形態の磁気エンコーダの斜視図、
【図2】磁気抵抗効果素子の部分断面図、
【図3】従来例の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図、
【図4】第1実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、
【図5】第2実施形態の構成であり、(a)は、磁石と磁気抵抗効果素子との位置関係を示す模式図、(b)は、ノーマル着磁に対する出力波形図(比較例)、(c)は、オフセット着磁に対する出力波形図(実施例)、
【図6】(a)は、ノーマル着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、(b)は、オフセット着磁したときの相対移動方向に対する磁界強度変化を示すグラフ、
【図7】オフセット着磁の一例であり、(a)は、磁石の平面図と側面図、(b)は、ノーマル着磁における回転方向への磁界強度変化、(c)はオフセット着磁における回転方向への磁界強度変化、(d)がオフセット着磁の方法を示す着磁面とヨーク面との模式図、
【図8】オフセット着磁の一例であり、(a)は、磁石の斜視図と側面図、(b)は、傾斜なし磁石(着磁面が平面の磁石)での回転方向への磁界強度変化、(c)は傾斜付き磁石での回転方向への磁界強度変化、
【図9】オフセット着磁の一例であり、磁石の平面図及び側面図、
【図10】図9のように、磁気センサと磁石間の距離(Airgap)や、磁気センサの対向位置を変化させたときの各出力変化(アナログ出力)を示すグラフ、
【図11】本実施形態における回転型の磁気エンコーダの斜視図、
【図12】従来の磁気エンコーダの構成を示す模式図(斜視図)、
【図13】A相及びB相のブリッジ回路の構成図、
【符号の説明】
【0084】
1 磁気エンコーダ
2 磁石
3 磁気センサ
5a、5b 磁気抵抗効果素子
7 反強磁性層
8 固定磁性層
9 非磁性層
10 フリー磁性層(磁化変動層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対移動方向に交互にN極とS極が着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、前記磁界発生部材の前記着磁面から離れた位置に配置され、基板表面に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した複数の磁気抵抗効果素子を有する磁気センサと、を有して構成される磁気エンコーダであって、
複数の前記磁気抵抗効果素子にて1つのブリッジ回路が構成されており、
出力端子を介して直列接続される各磁気抵抗効果素子は、前記相対移動方向に磁極ピッチλの正整数と異なる中心間距離にて配列されており、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるS極側からN極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L1と、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるN極側からS極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L2とが、異なっていることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項2】
前記着磁面に形成された各磁極内の磁化の強さが、前記相対移動方向への両側にて異なるように着磁されている請求項1記載の磁気エンコーダ。
【請求項3】
前記各磁気抵抗効果素子の中心間距離は、前記磁極ピッチλよりも小さい請求項1又は2に記載の磁気エンコーダ。
【請求項4】
前記ブリッジ回路から得られる出力波形は、最小出力ラインと最大出力ライン間の出力の立ち上がり側、あるいは立ち下がり側のどちらか一方が、途中に段差を介した形状となっており、他方が前記段差がない連続形状となっている請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気エンコーダ。
【請求項1】
相対移動方向に交互にN極とS極が着磁された着磁面を有する磁界発生部材と、前記磁界発生部材の前記着磁面から離れた位置に配置され、基板表面に外部磁界に対して電気抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した複数の磁気抵抗効果素子を有する磁気センサと、を有して構成される磁気エンコーダであって、
複数の前記磁気抵抗効果素子にて1つのブリッジ回路が構成されており、
出力端子を介して直列接続される各磁気抵抗効果素子は、前記相対移動方向に磁極ピッチλの正整数と異なる中心間距離にて配列されており、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるS極側からN極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H1が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L1と、
前記磁気センサが前記磁界発生部材の前記着磁面におけるN極側からS極側に向けて相対移動し、前記磁気抵抗効果素子に対して外部磁界H2が作用しているときに、前記磁気抵抗効果素子の磁化変動層の飽和状態を維持する相対移動距離L2とが、異なっていることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項2】
前記着磁面に形成された各磁極内の磁化の強さが、前記相対移動方向への両側にて異なるように着磁されている請求項1記載の磁気エンコーダ。
【請求項3】
前記各磁気抵抗効果素子の中心間距離は、前記磁極ピッチλよりも小さい請求項1又は2に記載の磁気エンコーダ。
【請求項4】
前記ブリッジ回路から得られる出力波形は、最小出力ラインと最大出力ライン間の出力の立ち上がり側、あるいは立ち下がり側のどちらか一方が、途中に段差を介した形状となっており、他方が前記段差がない連続形状となっている請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気エンコーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−145166(P2010−145166A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320986(P2008−320986)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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