説明

磁気センサー

【課題】磁化自由層へスピン流を注入し易くすることにより、出力効率を向上させることが可能な磁気センサーを提供することを目的とする。
【解決手段】磁気センサー100aにおいて、非磁性導電層5と、非磁性導電層5の第一の部分上に設けられた磁化自由層6と、非磁性導電層5の第一の部分とは異なる第二の部分上に設けられた磁化固定層7と、非磁性導電層5及び磁化自由層6を間に挟んで対向する上部第一磁気シールド層11及び下部第一磁気シールド層1と、非磁性導電層5及び磁化固定層7を間に挟んで対向する上部第二磁気シールド層12及び下部第二磁気シールド層2と、下部第二磁気シールド層2と非磁性導電層5との間に設けられた第一電気絶縁層21と、下部第二磁気シールド層2と非磁性導電層5とを電気的に接続する第一電極層4と、を備え、非磁性導電層5を間に介して、磁化固定層7と第一電極層4とが互いに対向していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、薄膜磁気記録再生ヘッド等に用いられる磁気センサーとして、磁気抵抗(MR: Magneto Resistive)素子が知られている。一般的にMR素子では、磁化固定層と磁化自由層との間に電流を流すため、高出力が得られる。しかしながら、MR素子では、電流が与えるスピントルクによる磁壁の移動などに起因する、磁気センサーとして不必要な信号が得られてしまう。
【0003】
一方、磁化自由層及び磁化固定層を同一水平面(スピンを蓄積するための非磁性導電層)上に形成するスピン蓄積型(SA: Spin Accumulation)磁気センサーが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。例えば、薄膜磁気記録再生ヘッドにスピン蓄積型磁気センサーを用いた場合、磁気記録媒体などの外部磁場を感知する磁化自由層には、電流を流す必要がない。すなわち、スピン蓄積型磁気センサーでは、スピン電流のみを利用して、磁気状態を出力電圧として検出することが可能である。従って、MR素子で観測されてしまう不必要な信号が、スピン蓄積型磁気センサーでは観測される恐れは少ない。
【0004】
【特許文献1】特開2007−299467号公報
【特許文献2】特許第4029772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に、従来のスピン蓄積型磁気センサーの一例を示す。図5に示す従来のスピン蓄積型磁気センサー50では、非磁性導電層5上に磁化自由層6及び磁化固定層7が設けられており、磁化固定層7上に反強磁性層8及び第二電極層9がこの順に設けられている。また、第二電極層9は電気絶縁層13に挟まれており、上部第一磁気シールド層11及び下部第一磁気シールド層1が非磁性導電層5及び磁化自由層6を間に挟んで対向して設けられている。さらに、上部第二磁気シールド層12が第二電極層9上に設けられており、電気絶縁層3及び第一電極層4が下部第一磁気シールド層1と非磁性導電層5との間に設けられている。
【0006】
図5に示すように、従来のスピン蓄積型磁気センサー50では、磁化固定層7が設けられている位置を基準として、磁化自由層6が設けられている位置とは反対側に、第一電極層4が下部第一磁気シールド層1上に設けられている。すなわち、第一電極層4は、非磁性導電層5を介して磁化固定層7から離れた位置に設けられている。
【0007】
図6に、図5の領域60の拡大図を示す。従来のスピン蓄積型磁気センサーでは、磁化固定層7から第一電極層4へ検出用電流Iを印加することによって、非磁性導電層5における磁化固定層7と対向する領域のうち、磁化自由層6側とは反対側の第一電極層4側の領域Aに、最も多くスピンSpが注入されることとなる。したがって、磁化自由層6側へスピンSpが拡散しにくく、その結果、磁気センサーの出力効率が悪いといった問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、磁化自由層へスピン流を注入し易くすることにより、出力効率を向上させることが可能な磁気センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明の磁気センサーは、非磁性導電層と、非磁性導電層の第一の部分上に設けられた磁化自由層と、非磁性導電層の第一の部分とは異なる第二の部分上に設けられた磁化固定層と、非磁性導電層及び磁化自由層を間に挟んで対向する上部第一磁気シールド層及び下部第一磁気シールド層と、非磁性導電層及び磁化固定層を間に挟んで対向する上部第二磁気シールド層及び下部第二磁気シールド層と、下部第二磁気シールド層と非磁性導電層との間に設けられた第一電気絶縁層と、下部第二磁気シールド層と非磁性導電層とを電気的に接続する第一電極層と、を備え、非磁性導電層を間に介して、磁化固定層と第一電極層とが互いに対向していることを特徴とする。
【0010】
これにより、磁化固定層から非磁性導電層を介して第一電極層へ電流を流すと、非磁性導電層における磁化固定層と第一電極層とが対向している領域にスピン流が多く注入され易くなる。その結果、従来の磁気センサーに比べて、非磁性導電層における磁化自由層に近い位置に多くのスピンを注入することができるため、注入されたスピンの拡散距離が短くなる。従って、スピンが磁化自由層側へ拡散し易くなるので、従来の磁気センサーよりも出力効率を向上することが可能となる。
【0011】
本発明の磁気センサーにおいて、第一電極層は、磁化固定層のうちの磁化自由層側の部分と対向していることが好ましい。
【0012】
これにより、磁化固定層から非磁性導電層を介して第一電極層へ電流を流すと、非磁性導電層における磁化固定層と第一電極層とが対向している領域の中でも特に磁化自由層側の部分にスピン流が多く注入され易くなる。その結果、磁化自由層側へスピン流がより一層拡散し易くなるので、従来の磁気センサーよりも出力効率をより効果的に向上することが可能となる。
【0013】
本発明の磁気センサーにおいて、非磁性導電層及び第一電極層は同一の材料から形成されており、非磁性導電層の厚みと第一電極層の厚みとの和が、磁化固定層から磁化自由層までの距離よりも大きいことが好ましい。
【0014】
これにより、スピン流が、第一電極層に流出されにくくなる一方、磁化自由層側へ注入され易くなり、その結果、磁気センサーの出力効率をより一層効果的に向上することが可能となる。
【0015】
本発明の磁気センサーにおいて、下部第一磁気シールド層は下部第二磁気シールド層よりも非磁性導電層に近く配置されていることが好ましい。
【0016】
これにより、磁化自由層を挟む上部磁気シールド層及び下部第一磁気シールド層間のギャップを小さくでき、磁気センサーの分解能を向上することが可能となる。
【0017】
本発明の磁気センサーにおいて、下部第一磁気シールド層と下部第二磁気シールド層とは接触しており、下部第一磁気シールド層と非磁性導電層との間に第二電気絶縁層を更に備えていることが好ましい。
【0018】
これにより、下部第一磁気シールド層と下部第二磁気シールド層とを一体に形成することができるため、製造が容易となる。また、第二電気絶縁層が下部第一磁気シールド層と非磁性導電層との間に設けられていることにより、非磁性導電層から下部第一磁気シールド層へスピン流が流失することを抑制することが可能となる。
【0019】
本発明の磁気センサーにおいて、下部第一磁気シールド層と下部第二磁気シールド層とは互いに独立して設けられていることが好ましい。
【0020】
これにより、下部第一磁気シールド層を磁化自由層と非磁性導電層との界面で生じる電圧測定用の電極として使用し、かつ、下部第二磁気シールド層を非磁性導電層へのスピン注入のための電極として使用することが可能となる。
【0021】
本発明の磁気センサーにおいて、磁化自由層にバイアス磁界を印加する永久磁石を更に備えることが好ましい。
【0022】
これにより、磁化自由層の磁気異方性が制御されるため、磁化自由層の磁区構造が単一化されて安定化し、磁壁の移動に起因するバルクハウゼンノイズを抑制することが可能となる。
【0023】
本発明の磁気センサーにおいて、磁化固定層の磁化方向は、磁化固定層上に設けられた反強磁性層、及び磁化固定層の形状異方性のうち少なくとも一つによって固定されることが好ましい。
【0024】
磁化固定層の磁化の向きを、磁化固定層上に反強磁性層を設けることや、磁化固定層の形状異方性によって固定することで、磁化固定層の磁化の向きを外部磁界に反応し難くすることが容易となる。
【0025】
本発明の磁気センサーにおいて、磁化固定層の保磁力は、磁化自由層の保磁力よりも大きいことが好ましい。
【0026】
これにより、磁気センサーにおける磁化固定層及び磁化自由層を好適に実現することが可能である。
【0027】
本発明の磁気センサーにおいて、磁化自由層は、非磁性導電層の磁束が進入する側に配置され、磁化固定層は、非磁性導電層の磁束が進入する側の反対側に配置されていることが好ましい。
【0028】
これにより、磁化固定層側とは反対側に配置した磁化自由層側を磁気記録媒体側に近接して設置することで、記録媒体の磁気情報を検出して磁気情報の再生を行うことが可能となる。
【0029】
本発明の磁気センサーにおいて、磁化自由層は、B、V、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の金属を1種以上含む合金、又は、前記群から選択される1又は複数の金属及びB、C、及びNのうち少なくとも一種を含む合金であることが好ましい。
【0030】
これらの材料は軟磁性材料であるため、磁気センサーにおける磁化自由層を好適に実現することが可能である。
【0031】
本発明の磁気センサーにおいて、磁化固定層は、B、V、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の金属を1種以上含む合金、又は、前記群から選択される1又は複数の金属及びB、C、及びNのうち少なくとも一種を含む合金であることが好ましい。
【0032】
これらの材料はスピン分極率の大きい強磁性材料であるため、磁気センサーにおける磁化固定層を好適に実現することが可能である。
【0033】
本発明の磁気センサーにおいて、非磁性導電層は、B、C、Mg、Al、Ag及びCuからなる群から選択される一種以上の元素を含む材料であることが好ましい。
【0034】
これらの材料はスピン拡散長が長く、且つ導電率が比較的小さいため、スピン蓄積層を好適に実現することが可能となる。
【0035】
本発明の磁気センサーにおいて、非磁性導電層は、Si又はZnOを含む半導体化合物であることも好ましい。
【0036】
これらの半導体化合物はスピン拡散長が更に長いため、スピン蓄積層としてより好適であり、なおかつ上記金属や上記合金を用いた非磁性導電層よりも、出力を高くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、スピン流を磁化自由層側へ注入し易くすることにより、出力効率を向上することが可能な磁気センサーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面の寸法比率は、必ずしも実際の寸法比率とは一致していない。
【0039】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係る磁気センサーの一例として、薄膜磁気記録再生ヘッド100Aを説明する。
【0040】
図1に、薄膜磁気記録再生ヘッド100Aを示す部分断面図を示す。
【0041】
薄膜磁気記録再生ヘッド100Aは、そのエアベアリング面(Air Bearing Surface:媒体対向面)Sが磁気記録媒体20の記録面20aに対向配置されるような位置で磁気情報の記録及び読み取り動作を行う。
【0042】
磁気記録媒体20は、記録面20aを有する記録層20bと、記録層20bに積層される軟磁性の裏打ち層20cとを含んで構成されており、図中Y方向で示す方向に、薄膜磁気記録再生ヘッド100Aに対して相対的に進行する。
【0043】
薄膜磁気記録再生ヘッド100Aは、磁気記録媒体20から記録を読み取る磁気センサー100a及び磁気記録媒体20への記録を行う磁気記録部100bを備える。磁気センサー100a及び磁気記録部100bは、基板SB上に設けられており、アルミナ等の非磁性絶縁層により覆われている。
【0044】
図1に示すように、磁気センサー100aの上に磁気記録部100bが設けられている。磁気記録部100bにおいて、リターンヨーク30上にコンタクト部32及び主磁極33が設けられており、これらが、磁束のパスを形成している。コンタクト部32を取り囲むように薄膜コイル31が設けられており、薄膜コイル31に記録電流を流すと主磁極33の先端から磁束が放出され、ハードディスク等の磁気記録媒体20の記録層20bに情報を記録することができる。
【0045】
磁気センサー100aは、電子のスピンを蓄積する非磁性導電層5と、非磁性導電層5の第一の部分上に設けられた磁化自由層6と、非磁性導電層5の第一の部分とは異なる第二の部分上に設けられた磁化固定層7と、非磁性導電層5及び磁化自由層6を間に挟んで対向する上部第一磁気シールド層11及び下部第一磁気シールド層1と、非磁性導電層5及び磁化固定層7を間に挟んで対向する上部第二磁気シールド層12及び下部第二磁気シールド層2と、下部第二磁気シールド層2と非磁性導電層5との間に設けられた第一電気絶縁層21と、下部第二磁気シールド層2と非磁性導電層5とを電気的に接続する第一電極層4とを主として備えている。
【0046】
非磁性導電層5は、スピン注入によりスピンが蓄積される層であり、第一電極層4、第一電気絶縁層21及び第二電気絶縁層22により形成される平面上に設けられている。非磁性導電層5の材料は非強磁性導電材料を用いる。非磁性導電層5の材料として、スピン拡散長が長く、導電率が比較的小さい材料が選択されることが好ましい。
【0047】
例えば、非磁性導電層5の材料として、B、C、Mg、Ag、Al、及びCuからなる群から選択される1つ以上の元素を含む材料が挙げられる。具体的には、Cu、Alが挙げられる。また、非磁性導電層5として、Si、ZnO、又はGaAs等の半導体化合物も挙げられる。これらの半導体化合物はスピン拡散長が更に長く、導電率が比較的小さいため、これらの半導体化合物を用いた非磁性導電層5はスピン蓄積層としてより好適であり、なおかつ上記金属や合金を用いた非磁性導電層5よりも、出力を高くすることも可能である。
【0048】
磁化自由層6は、外部磁界を検出し、磁気記録媒体20などの磁化方向の変化を鋭敏に検出するための層である。磁化自由層6は、非磁性導電層5の上面上において非磁性導電層5の磁束が進入する側すなわちエアベアリング面S側に配置されている。磁化自由層6を磁気記録媒体20に近接して設置することにより、磁気記録媒体20から磁気情報を好適に読み取ることが可能である。磁化自由層6として強磁性材料、特に軟磁性材料が適用され、例えば、B、V、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の金属を1種以上含む合金、又は、前記群から選択される1又は複数の金属及びB、C、及びNのうち少なくとも一種を含む合金が挙げられる。具体的には、CoFeB、NiFeが挙げられる。
【0049】
磁化固定層7は、所定のスピンを有する電子を非磁性導電層5へ注入するための層であり、磁化固定層7は、非磁性導電層5の上面上において非磁性導電層5の磁束が進入する側の反対側、すなわち、エアベアリング面Sから離れた側に配置されている。磁化固定層7の材料として、スピン分極率の大きい強磁性金属材料を使用することができ、例えば、B、V、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の元素を1種以上含む合金、又は、前記群から選択される1種以上の元素及びB、C、及びNからなる群から選択される一種以上の元素を含む合金が挙げられる。具体的には、CoFe、FeMnが挙げられる。
【0050】
磁化固定層7の保磁力は、磁化自由層6の保磁力よりも大きい。磁化固定層7の磁化は、後述する反強磁性層8を用いる磁化固定方法、及び磁化固定層7の形状異方性による磁化固定方法のうち少なくともいずれか一の磁化固定方法によって固定されていることが好ましい。これにより、磁化固定層7の磁化の向きを外部磁界に反応し難くすることが可能となる。
【0051】
磁化固定層7の磁化固定方法として、反強磁性層8を用いる磁化固定方法を用いる場合、反強磁性層8は、磁化固定層7上に設けられている。反強磁性層8が磁化固定層7と交換結合することにより、磁化固定層7の磁化方向を固定(一方向異方性を付与)することが可能となる。この場合、反強磁性層8を設けない場合よりも、高い保磁力を一方向に有する磁化固定層7が得られる。従って、反強磁性層8に用いられる材料は、磁化固定層7に用いられる材料に合わせて選択される。例えば、反強磁性層8として、Mnを用いた反強磁性を示す合金、具体的にはMnと、Pt,Ir,Fe,Ru,Cr,Pd,及びNiのうちから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、例えば、IrMn、PtMnが挙げられる。
【0052】
一方、磁化固定層7に形状異方性を持たせて、磁化固定層7の磁化を固定する方法を採用する場合には、反強磁性層8を省略することが可能である。たとえば、磁化固定層7を、Y方向から見てZ方向が長軸となる矩形形状にすればよい。なお、反強磁性層8及び形状異方性の両方によって磁化を固定してもよいことは言うまでもない。
【0053】
第二電極層9は、上部第二磁気シールド層12を電極として磁化固定層7に電流を流すべく、上部第二磁気シールド層12と反強磁性層8とを電気的に接続するための層である。なお、反強磁性層8が存在しない場合には、第二電極層9は、磁化固定層7と接触することとなる。また、第二電極層9は、上部第二磁気シールド層12と反強磁性層8や磁化固定層7との間の原子の拡散等を抑制する効果もある。なお、第二電極層9を有さず、上部第二磁気シールド層12と反強磁性層8又は磁化固定層7とが接触していても実施は可能である。第二電極層9の材料として、例えば、CrやAlなどの金属材料が用いられる。
【0054】
上部第一磁気シールド層11及び上部第二磁気シールド層12が、上部磁気シールド層を構成し、外部、特に磁気センサー100aの上部から、磁化自由層6、磁化固定層7に侵入する磁気をそれぞれ遮断する。上部第一磁気シールド層11は、上部第二磁気シールド層12よりも非磁性導電層5に近く配置されている。これにより、磁化自由層6と上部第一磁気シールド層11との間隔を小さくすることが可能となるため、磁気センサーの分解能を向上することが可能となる。また、上部第一磁気シールド層11は磁化自由層6に接触している。これにより、磁化自由層6と上部第一磁気シールド層11との間隔を更に小さくすることが可能となるため、磁気センサーの分解能をより一層向上することが可能となる。
【0055】
磁化固定層7については、反強磁性層8や第二電極層9等によって、非磁性導電層5と上部第二磁気シールド層12との間隔が大きくなりやすい傾向があるが、上部第一磁気シールド層11を、上部第二磁気シールド層12よりも非磁性導電層5に近づけることにより、磁化自由層6において、上部第一磁気シールド層11と下部第一磁気シールド層1との間隔を狭くしやすい。
【0056】
図1に示すように、上部第一磁気シールド層11は磁化自由層6上に形成されている。一方、上部第二磁気シールド層12は、磁化固定層7、反強磁性層8、及び、第二電極層9からなる層構造の上に形成されている。
【0057】
そして、本実施形態では、上部第一磁気シールド層11と上部第二磁気シールド層12とは、互いに独立して離間して設けられている。これにより、上部第一磁気シールド層11を非磁性導電層5と磁化自由層6との界面に生じる電圧測定用の電極として使用し、かつ、上部第二磁気シールド層12を非磁性導電層5にスピン注入するための電極として使用することが可能となる。
【0058】
下部第一磁気シールド層1及び下部第二磁気シールド層2は、下部磁気シールド層を構成し、外部、特に磁気センサー100aの下部から、磁化自由層6、磁化固定層7に侵入する磁気をそれぞれ遮断するためのものである。本実施形態では、下部第一磁気シールド層1と下部第二磁気シールド層2とが接触して一体に形成されており、互いに電気的に接続されているので、製造が容易である。
【0059】
また、後述する第二電気絶縁層22を間に介して磁化自由層6と対向する下部第一磁気シールド層1は、磁化固定層7と対向する下部第二磁気シールド層2よりも非磁性導電層5に近くに位置するように非磁性導電層5に向かって突出している。このため、磁化自由層6と下部第一磁気シールド層1との間隔を従来の磁気センサーよりも小さくすることができ、上部第一磁気シールド層11と下部第一磁気シールド層1との間隔を小さくできる。これにより、分解能の目安となる磁化自由層6を挟む上部第一磁気シールド層11と下部第一磁気シールド層1との間隔を狭くすることができ、磁気センサーの分解能を向上することが可能となる。
【0060】
下部第一磁気シールド層1、下部第二磁気シールド層2、上部第一磁気シールド層11、及び上部第二磁気シールド層12の材料として、例えばNi及びFeを含む合金、センダスト、Fe及びCoを含む合金、Fe、Co、及びNiを含む合金等の軟磁性体材料が挙げられる。
【0061】
第一電気絶縁層21は、非磁性導電層5と、下部第二磁気シールド層2との間に設けられている。第一電気絶縁層21は、非磁性導電層5に蓄積させる電子のスピンが下部第二磁気シールド層2側へ流出することを防ぐためのものである。スピン蓄積を効率良く行う観点から、第一電気絶縁層21は、非磁性導電層5の下部面上において、磁化固定層7側から磁化自由層6側に亘って設けられている。
【0062】
また、下部第一磁気シールド層1と非磁性導電層5との間に第二電気絶縁層22が設けられているため、下部第一磁気シールド層1は非磁性導電層5と接触していない。このため、磁化自由層6と対向する非磁性導電層5から下部第一磁気シールド層1へスピン流が流失することを防ぐことが可能となる。第一電気絶縁層21及び第二電気絶縁層22として、例えばSiOが挙げられる。
【0063】
第一電極層4は、磁化固定層7へ検出用電流を流すための電極である。図1では、第一電極層4を介して、非磁性導電層5は下部第二磁気シールド層2と電気的に接続している。従って、第一電極層4下に設けられている下部第二磁気シールド層2を磁化固定層7へ検出用電流を流すための電極として用いることができる。
【0064】
第一電極層4は、非磁性導電層5を介して、磁化固定層7と互いに対向する位置に設けられている。また、第一電極層4は、磁化固定層7下における領域のうち、なるべく磁化自由層6側の部分と対向して設けられていることが好ましい。
【0065】
また、図1のY軸方向から見た場合、第一電極層4の外郭は磁化固定層7の外郭からはみ出さない範囲に設けられている。例えば、図1において、第一電極層4の磁化自由層6側の一端(図1に示す第一電極層4の左側部分)と、磁化固定層7の磁化自由層6側の一端(図1に示す磁化固定層7の左側部分)とがX軸方向に整列している例を示した。電流ノイズによるS/N比の低下を抑制する観点から、磁化固定層7の磁化自由層6側の一端はX方向に整列して配置していることが望ましい。しかしながら、磁化固定層7の磁化自由層6側の一端が、第一電極層4の磁化自由層6側の一端よりも磁化自由層6側にずれて配置されていても実施は可能である。
【0066】
第一電極層4及び非磁性導電層5が同一の材料から形成されている場合、第一電極層4の厚みT4と非磁性導電層5の厚みT5との和が、磁化固定層7から磁化自由層6までの距離L1よりも大きいことが好ましい。
【0067】
第一電極層4として、例えば、B、C、Mg、Al、Ag、及びCuからなる群から選択される一つ以上の元素を含む材料を用いることができる。また、第一電極層4として、SiやZnOなどの半導体化合物を用いることもできる。第一電極層4の材料は非磁性導電層5と同一材料であることが好ましい。
【0068】
第三電気絶縁層13は、第二電極層9の両端に形成されている。第三電気絶縁層13として、例えばSiOが挙げられる。なお、第三電気絶縁層13は省略することが可能である。
【0069】
次に、図2を用いて、図1に示した磁気センサー100aのZ方向に平行な断面形状を説明する。図2は、図1のII−II線に沿った断面構成を説明するための概略図である。
【0070】
図2に示すように、非磁性導電層5の内の磁化自由層6の直下に設けられる部分は、非磁性導電層5の内の磁化自由層6の直下以外に設けられる部分よりも、後述する第四電気絶縁層14の厚さtの分だけ厚いことが好ましい。これは、磁化自由層6の厚さと、後述する永久磁石15の厚さを揃えるためであり、これにより磁化自由層6の磁区構造の安定化をより均一に行うことが可能となる。
【0071】
下部第一磁気シールド層1と磁化自由層6との間には、第二電気絶縁層22が設けられている。第四電気絶縁層14は、非磁性導電層5及び磁化自由層6と永久磁石15との間に設けられ、非磁性導電層5及び磁化自由層6と永久磁石15とを絶縁するためのものである。第四電気絶縁層14として、SiOなどが用いられる。
【0072】
永久磁石15は、第四電気絶縁層14を介して、磁化自由層6の両側に配置されている。永久磁石15からの漏洩磁束を用いて、磁化自由層6にバイアス磁界を印加することにより、磁化自由層6の磁区構造を安定化(一軸化)することが可能となる。これにより、磁壁の移動に起因するバルクハウゼンノイズを抑制することが可能となる。
【0073】
以下に、第1実施形態に係る磁気センサー100aの動作と効果について、図1及び図3を用いて説明する。図3は、図1における第一電極層4と磁化固定層7とが互いに対向している領域を拡大した図である。
【0074】
図1に示すように、磁化固定層7へ検出用電流を流すために、下部第二磁気シールド層2と、上部第二磁気シールド層12とを、電流源70に電気的に接続する。また、非磁性導電層5及び上部第一磁気シールド層11を、電圧測定器80に電気的に接続する。なお、上部第一磁気シールド層11が磁化自由層6から離れて設けられていて磁化自由層6と絶縁されている場合には、非磁性導電層5及び磁化自由層6が電圧測定器80に電気的に接続されていても良い。
【0075】
まず、磁気センサー100aの磁化固定層7へ検出用電流Iを流す。例えば、図1に示すように、電流源70から検出用電流Iを、上部第二磁気シールド層12、第二電極層9、反強磁性層8、磁化固定層7、非磁性導電層5、第一電極層4、下部第二磁気シールド層2の順に流す。
【0076】
図3に示すように、強磁性体である磁化固定層7から非磁性導電層5へ検出用電流Iを流す。本実施形態では、非磁性導電層5を介して第一電極層4と磁化固定層7とが互いに対向して設けられているため、従来の磁気センサーよりも、磁化固定層7と非磁性導電層5との界面において、磁化自由層6に近い領域Bに、磁化固定層7の磁化の向きに対応するスピンSpを有する電子が多く注入され易くなる。従って、注入されたスピンSpの拡散距離が短くなり、スピンSpは磁化自由層6側へ拡散し易くなる。その結果、磁気センサーの出力効率を向上することが可能となる。
【0077】
また、第一電極層4が、磁化固定層7下における領域のうち、磁化自由層6側の部分と対向して設けられている場合、より効果的にスピン流を磁化自由層6側へ注入させることが可能となる。その結果、磁気センサーの出力効率を一層向上することが可能となる。
【0078】
さらに、第一電極層4及び非磁性導電層5が同一の材料から形成されている場合、第一電極層4の厚みT4と非磁性導電層5の厚みT5との和が、磁化固定層7から磁化自由層6までの距離L1よりも大きいと、スピン流は磁化自由層6側へ注入され易くなる。従って、磁気センサーの出力効率をより一層向上することが可能となる。
【0079】
そして、外部からの磁界によって磁化の向きが変化する磁化自由層6の磁化の向きと、磁化固定層7の磁化の向きとの相対角に応じて、磁化自由層6と非磁性導電層5との界面において互いに異なる電圧出力が発生する。本実施形態では、非磁性導電層5と上部第一磁気シールド層11との間に生じる電圧を検出している。このようにして、磁気センサー100aを外部磁場センサーとして応用することができる。
【0080】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る、磁気センサーの一例としての薄膜磁気記録再生ヘッド100Bを説明する。
【0081】
図4に、薄膜磁気記録再生ヘッド100Bを示す部分断面図を示す。
【0082】
図4に示す薄膜磁気記録再生ヘッド100Bが、第一実施形態に係る薄膜磁気記録再生ヘッド100Aと異なる点は、磁気センサー100cにおける下部第一磁気シールド層1、下部第二磁気シールド層2、第一電気絶縁層21、第二電気絶縁層22であるので、これらについてのみ説明する。
【0083】
本実施形態では、第一電気絶縁層21は、下部第一磁気シールド層1及び下部第二磁気シールド層2の間にも設けられているため、下部第一磁気シールド層1及び下部第二磁気シールド層2は互いに独立して離間して設けられている。これにより、下部第一磁気シールド層1を非磁性導電層5と磁化自由層6との界面に生じる電圧測定用の電極として使用し、かつ、下部第二磁気シールド層2を非磁性導電層5にスピン注入するための電極として使用することが可能となる。
【0084】
また、図4に示すように、第二電気絶縁層22を省略することで、下部第一磁気シールド層1が非磁性導電層5と接触して設けられている。これにより、磁化自由層6と下部第一磁気シールド層1との間隔を更に小さくすることができ、磁気センサー100cの分解能を更に向上することが可能となる。
【0085】
第2実施形態に係る磁気センサー100cにおいても、第1実施形態に係る磁気センサー100aによる効果と同様な効果が得られる。
【0086】
以上、各実施形態において、本発明の磁気センサーを薄膜磁気記録再生ヘッドに適用する例を用いて説明したが、本発明の磁気センサーは、薄膜磁気記録再生ヘッド以外の例えば小型ロボット、ディジタルカメラ、及びインクジェットプリンターなどで使用される磁気エンコーダー装置、磁場計測装置、磁気検知装置等の各種用途にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】磁気センサー100aを備える薄膜磁気記録再生ヘッド100A及び動作を説明するための模式図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面構成を説明するための概略図である。
【図3】第一電極層4及び磁化固定層7の対向領域の拡大図である。
【図4】磁気センサー100cを備える薄膜磁気記録再生ヘッド100B及び動作を説明するための模式図である。
【図5】従来の磁気センサー50の模式図である。
【図6】図5に示す磁気センサー50の領域60の拡大図である。
【符号の説明】
【0088】
1…下部第一磁気シールド層、2…下部第二磁気シールド層、4…第一電極、5…非磁性導電層、6…磁化自由層、7…磁化固定層、8…反強磁性層、9…第二電極層、11…上部第一磁気シールド層、12…上部第二磁気シールド層、13…第三電気絶縁層、14…第四電気絶縁層、15…永久磁石、20…磁気記録媒体、20a…記録面、20b…記録層、20c…裏打ち層、21…第一電気絶縁層、22…第二電気絶縁層、30…リターンヨーク、31…薄膜コイル、32…コンタクト部、33…主磁極、100A,100B…薄膜磁気記録再生ヘッド、100a,100c…磁気センサー、100b…記録部、I…検出電流方向、Sp…スピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性導電層と、
前記非磁性導電層の第一の部分上に設けられた磁化自由層と、
前記非磁性導電層の前記第一の部分とは異なる第二の部分上に設けられた磁化固定層と、
前記非磁性導電層及び前記磁化自由層を間に挟んで対向する上部第一磁気シールド層及び下部第一磁気シールド層と、
前記非磁性導電層及び前記磁化固定層を間に挟んで対向する上部第二磁気シールド層及び下部第二磁気シールド層と、
前記下部第二磁気シールド層と前記非磁性導電層との間に設けられた第一電気絶縁層と、
前記下部第二磁気シールド層と前記非磁性導電層とを電気的に接続する第一電極層と、を備え、
前記非磁性導電層を間に介して、前記磁化固定層と前記第一電極層とが互いに対向している磁気センサー。
【請求項2】
前記第一電極層は、前記磁化固定層のうちの前記磁化自由層側の部分と対向している請求項1に記載の磁気センサー。
【請求項3】
前記非磁性導電層及び前記第一電極層は同一の材料から形成されており、
前記非磁性導電層の厚みと前記第一電極層の厚みとの和が、前記磁化固定層から前記磁化自由層までの距離よりも大きい請求項1又は2に記載の磁気センサー。
【請求項4】
前記下部第一磁気シールド層は前記下部第二磁気シールド層よりも前記非磁性導電層に近く配置されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項5】
前記下部第一磁気シールド層と前記下部第二磁気シールド層とは接触しており、
前記下部第一磁気シールド層と前記非磁性導電層との間に第二電気絶縁層を更に備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項6】
前記下部第一磁気シールド層と前記下部第二磁気シールド層とは互いに独立して設けられている請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項7】
前記磁化自由層にバイアス磁界を印加する永久磁石を更に備える請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項8】
前記磁化固定層の磁化方向は、
前記磁化固定層上に設けられた反強磁性層、及び前記磁化固定層の形状異方性のうち少なくとも一つによって固定されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項9】
前記磁化固定層の保磁力は、前記磁化自由層の保磁力よりも大きい請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項10】
前記磁化自由層は、前記非磁性導電層の磁束が進入する側に配置され、
前記磁化固定層は、前記非磁性導電層の磁束が進入する側の反対側に配置されている請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項11】
前記磁化自由層の材料は、B、V、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の元素を1以上含む合金、又は、前記群から選択される1以上の元素及びB、C、及びNからなる群から選択される1以上の元素を含む合金である請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項12】
前記磁化固定層の材料は、B、V、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の元素を1以上含む合金、又は、前記群から選択される1以上の元素及びB、C、及びNからなる群から選択される1以上の元素を含む合金である請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項13】
前記非磁性導電層の材料は、B、C、Mg、Al、Ag、及びCuからなる群から選択される一つ以上の元素を含む材料である請求項1〜12のいずれか1項に記載の磁気センサー。
【請求項14】
前記非磁性導電層の材料は、Si又はZnOを含む半導体化合物である請求項1〜12のいずれか1項に記載の磁気センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−20826(P2010−20826A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179471(P2008−179471)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】