説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板、および磁気ディスク

【課題】本発明は、テクスチャ加工におけるネガティブモジュレーションの発生を防止すると共に、磁性結晶粒子の配向性を高め、磁気ディスクの高記録密度化を図ることを目的とする。
【解決手段】 上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の代表的な構成は、円盤状の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、回転するガラス基板1に対して研磨テープ12を半径方向に相対的に反復移動させることにより円周方向に対して所定の角度で交差する軌跡からなる第1テクスチャ20を形成する工程と、円周方向に対して第1テクスチャ20とは異なる角度で交差する軌跡からなる第2テクスチャ21を形成する工程とを、この順に含み、第1テクスチャ20の円周方向に対する交差角度αは、第2テクスチャの円周方向に対する交差角度βよりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、磁気ディスク用ガラス基板、および磁気ディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化技術の高度化に伴い、情報記録技術、特に磁気記録技術は著しく進歩している。磁気記録媒体のひとつであるHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気記録媒体用基板としては、アルミニウム基板が広く用いられてきた。しかし磁気ディスクの小型化、薄板化、および高記録密度化に伴い、アルミニウム基板に比べ基板表面の平坦性および基板強度に優れたガラス基板に徐々に置き換わりつつある。特に携帯電話やデジタルカメラ、携帯型音楽再生機などにも搭載される要請があり、磁気ディスクには一層の小型化、高記録密度化が求められている。
【0003】
また、テープ研磨によるテクスチャ加工は、従来のCSS(Contact Start Stop)方式での磁気ヘッドの吸着性能、および磁気ディスクの記録密度を制御する技術として、アルミニウム基板を用いた磁気ディスクにおいて広く採用されてきた。CSS方式は、磁気ディスクの非回転時に磁気ディスク上に設けたCSSゾーンに磁気ヘッドを接触させて待機させる方式である。CSSは待機中の磁気ヘッドの吸着を防止するためにある程度の表面粗さとする必要があった。
【0004】
上記のような状況において、特許文献1(特開平4−238116号公報)には、磁気ディスク円周方向からテクスチャ痕がなす角度を5°〜30°とする、いわゆるクロステクスチャの構成が記載されている。特許文献1では、上記構成により、電磁気変換特性を劣化させずに良好なCSS特性を得られるとしている。また特許文献2(特開平4−349218号公報)には円周方向へ向いた円形テクスチャ痕と2°〜40°の円周方向からずらした交差テクスチャ(クロステクスチャ)を組み合わせることにより、良好な電磁気変換特性とCSS方式による磁気ヘッドの吸着防止を両立できるとしている。
【特許文献1】特開平4−238116号公報
【特許文献2】特開平4−349218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし昨今は、磁気ディスクの主表面を有効利用するために、従来のCSS方式に代えて、LUL(Load UnLoad)方式が用いられるようになってきた。LUL方式は、磁気ディスクの外部に設けたランプ(傾斜部)に磁気ヘッドを退避させる方式である。上記のようにCSS方式はある程度の表面粗さが必要であるため、平滑化を推進することが困難であったが、LUL方式を採用したことにより磁気ディスク全面を記録領域として利用可能となると共に、その表面にあえて凹凸形状を設ける必要がなく、磁気ディスク表面を極めて平滑化することが可能となった。
【0006】
また、磁気記録技術の高密度化に伴い、磁気ヘッドの方も薄膜ヘッドから、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)、大型磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)へと推移してきている。しかしGMRヘッドは感度が高く、また高記録密度化もあいまって、ヘッドと基板が離れていては隣接する記録ビットの情報を拾ってしまうために、磁気ヘッドの浮上量を低く抑える必要がある。
【0007】
これらの事情から、磁気ヘッドの低浮上量化が求められており、磁気ヘッドの基板からの浮上量が8nm程度にまで狭くなってきている。磁気ヘッドを低浮上量化した場合、ヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を引き起こす場合がある。ヘッドクラッシュ障害は、磁気ヘッドが磁気ディスクの凸部に衝突して損傷する障害である。サーマルアスペリティ障害とは、磁気ディスク面上の微小な凸形状あるいは凹形状上を磁気ヘッドが浮上飛行しながら通過するときに、空気の断熱圧縮または接触により磁気抵抗効果型素子が加熱されることにより、読み出しエラーを生じる障害である。したがって磁気抵抗型素子を搭載した磁気ヘッドに対しては、磁気ディスク表面の平滑化、平坦化と共に、異常な凹凸形状を持たないような極めて高度な均一化が求められる。
【0008】
ここで、LUL方式ではあえて凹凸形状は必要ではないが、Co合金系の磁性層を採用する場合、基板の表面形状によって磁性結晶粒子の配向性を制御することが可能である。すなわち磁性結晶粒子は基板表面に対して法線方向に並びやすいため、円周方向(トラック方向)に溝を形成することにより、粒子の軸方向を円周方向に集中させることができる。そのため、LUL方式においてもテクスチャを形成することには意義がある。
【0009】
ところが、テクスチャと同様に、ガラス基板上にスクラッチ(凹形状欠陥)がある場合にも、同様の磁性結晶粒子の配向に影響を与える。そして磁気ディスクの高記録密度化に伴って記録ビット長が短くなっているため、スクラッチの影響で磁性結晶粒子の配向に狂いが生じると出力が規定値以下に低下し、記録ビットが欠損してしまうようになってきている。このことは、高記録密度のHDDを製品化する上で大きな障害となっている。さらに、テクスチャ加工はガラス基板を回転させながら円周方向に研磨するものであり、円周方向のスクラッチを発生しやすい。このためテクスチャ加工は、読み書き方向に連続した信号エラー(ネガティブモジュレーション:Negative Modulation)を発生しやすいという問題がある。
【0010】
上述の特許文献1、特許文献2に開示された従来技術は、クロステクスチャによるCSS方式でのヘッド吸着防止、および異常に高い凸形状の除去による磁気ヘッドの耐久性を主たる課題とし、電磁気変換特性の劣化を最小限に抑える目的で構成されたものである。これは、LUL方式における磁気ヘッドの低浮上量領域で要求される磁気ディスクの上のスクラッチ発生防止については何ら考慮されていない。
【0011】
そこで本発明は、テクスチャ加工におけるネガティブモジュレーションの発生を防止すると共に、磁性結晶粒子の配向性を高め、磁気ディスクの高記録密度化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の代表的な構成は、円盤状の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、回転する基板に対して研磨ヘッドを半径方向に相対的に反復移動させることにより円周方向に対して所定の角度で交差する軌跡からなる第1テクスチャを形成する工程と、円周方向に対して第1テクスチャとは異なる角度で交差する軌跡からなる第2テクスチャを形成する工程とを、この順に含み、第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は、第2テクスチャの円周方向に対する交差角度よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、交差角度の大きな第1テクスチャを形成する工程はランダムな方向の軌跡を描くことから深いスクラッチを防止することができる。仮にスクラッチを発生させたとしても円周方向に対して傾いていることから、ネガティブモジュレーションを最小限に抑えることができる。さらにランダムな方向の軌跡を描くことにより、マイクロウェービネスを低くすることができ、磁気ヘッドの低浮上量化の向上、安定性も確保することができる。
【0014】
そして交差角度の小さな第2テクスチャを形成する工程では、すでに凸形状異物が除去されていることからスクラッチの発生が抑えられ、また円周方向に近い角度であることから円周方向の表面粗さが小さくなり、低浮上量領域におけるクラッシュ障害およびサーマルアスペリティの防止を達成することができる。
【0015】
第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°以上であって、第2テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°より小さいことが好ましい。さらには、第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.2°以上であることが好ましい。かかる範囲とすることにより、円周方向のスクラッチの防止と、高記録密度化の両立を図ることができる。
【0016】
本発明にかかる磁気ディスクの製造方法の代表的な構成は、上記の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られた磁気ディスク用ガラス基板の表面に、少なくともCo合金系の磁性層を形成することを特徴とする。磁性層をCo合金系とすることにより、ガラス基板上のテクスチャによって磁性結晶粒子の配向性を制御することができる。ここで、特に第2テクスチャの円周方向に対する交差角度が小さいことから、円周方向の配向性を高めることができ、磁気ディスクの高記録密度化を図ることができる。
【0017】
本発明にかかる磁気ディスク用ガラス基板の代表的な構成は、円盤状の磁気ディスク用ガラス基板において、円周方向に対して所定の角度で交差する軌跡からなる第1テクスチャと、円周方向に対して第1テクスチャとは異なる角度で交差する軌跡からなる第2テクスチャとを有し、第1テクスチャの上に第2テクスチャが施されており、かつ、第1テクスチャの円周方向に対する交差角度が第2テクスチャの円周方向に対する交差角度よりも大きいことを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる磁気ディスクの代表的な構成は、上記磁気ディスク用ガラス基板の上に、少なくともCo合金系の磁性層を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、テクスチャ加工におけるネガティブモジュレーションの発生を防止すると共に、磁性結晶粒子の配向性を高め、磁気ディスクの高記録密度化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスクの製造方法の実施形態について、図を用いて説明する。図1はテープ研磨装置およびテクスチャの状態を説明する図、図2は検査装置で観察したテクスチャ形状を説明する図、図3は円周方向とテクスチャの交差角度を変えて評価した結果を説明する図である。なお、以下の実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0021】
図1に示すのは、テープ研磨装置の要部説明図である。図においてガラス基板1は円盤状の磁気ディスク用ガラス基板であって、スピンドル10に支持されており、所定の速度で回転駆動される。スラリーノズル11からは研磨材を含む研磨液が吐出され、研磨テープ12とローラ13とからなる研磨ヘッドに供給される。研磨テープ12はローラ13に巻き付けられており、ローラ13は研磨テープ12をガラス基板1の両主表面に押圧する。研磨テープ12はガラス基板1との接触部位においてガラス基板1の回転方向と逆方向に巻き取られ、常に新しい面がガラス基板1に接触する。これによりガラス基板1の主表面は摺擦研磨され、円周状のテクスチャが形成される。
【0022】
また、スピンドル10と研磨テープ12とをローラ13の軸方向(ガラス基板の半径方向)に相対的に揺動可能とすることにより、円周方向に対して所定の角度を有するクロステクスチャや螺旋状テクスチャを形成する。このときガラス基板1の回転速度(スピンドル10の回転速度)と、スピンドル10と研磨テープ12との相対的な揺動の周期を調節することで、テクスチャの軌跡(円周方向に対する交差角度)を調節することができる。
【0023】
研磨テープ12の材質および形状については特に限定されるものではなく、例えば植毛テープ、織布テープ、不織布テープなどが挙げられる。テープ繊維の材料としては、たとえばポリエステル、ナイロン等のプラスチック繊維が挙げられる。研磨液に含まれる研磨材は、例えば、ダイヤモンド砥粒、アルミナ、酸化セリウム、コロイダルシリカ等のガラス基板の研磨に使用される砥粒であれば特に限定されず、またこれらの混合であってもよい。
【0024】
ここで本実施形態においては、円周方向に対するテクスチャの軌跡の交差角度が異なる2種類のテクスチャを形成する。すなわち、まず交差角度αが大きい第1テクスチャ20を形成し、次に交差角度βが小さい第2テクスチャ21を形成する。
【0025】
図2は、光学反射式微細欠陥検査装置MicroMax(VISION PSYTEC社)によって観察したテクスチャ形状である。図2(a)は、本実施形態にかかるテクスチャを施した例、図2(b)は比較例1として交差角度が大きいテクスチャのみを施した例、図2(c)は比較例2として交差角度が小さいテクスチャのみを施した例を示している。MicroMaxは反射光を映像化する評価装置であり、白く写る部分が深い凹形状を持つテクスチャのスクラッチを表している。図2(c)を参照すれば交差角度が小さいテクスチャは多数の連続した深いスクラッチが形成され、図2(b)を参照すれば交差角度が大きいテクスチャは深いスクラッチがほとんど形成されていないことがわかる。そして図2(a)を参照すれば、交差角度が大きいテクスチャの後に交差角度の小さいテクスチャを施した場合は、連続した大きなものは形成されないことがわかる。
【0026】
これは、発明者の考察によれば、ガラス基板をテープ研磨するに際し、はじめはガラス基板上に凸形状異物が存在した場合、テープ研磨によって凸形状異物が除去されて、コンタミ(かけら)として浮遊する。このとき交差角度が小さい場合には浮遊するコンタミがガラス基板1と研磨テープ12との間に挟まって逃げ場がなく、ガラス基板1上にスクラッチを形成してしまうものと考えられる。このスクラッチは円周方向、すなわち読み書き方向(トラック方向)に連続した信号エラー(ネガティブモジュレーション)を発生させてしまう。ネガティブモジュレーション(Negative Modulation)は、高周波信号(例えば300kfci)をトラック1周に書き込んだときに、平均出力から所定以下となる出力の記録ビットが所定数以上連続した場合にカウントされる信号エラーである。
【0027】
しかし交差角度が大きい場合にはランダムな方向の軌跡を描くことから、コンタミはガラス基板1と研磨テープとの間から早期に脱落するため、ガラス基板1に深いスクラッチを形成しないと考えられる。仮にスクラッチを発生させたとしても円周方向に対して傾いていることから、読み書き方向に連続した信号エラーを最小限に抑えることができる。
【0028】
さらにランダムな方向の軌跡を描くことにより、マイクロウェービネスを低くすることができ、磁気ヘッドの低浮上量化の向上、安定性も確保することができる。マイクロウェービネスとは周期をもったうねりを高さで表す量であり、算術平均粗さ(Ra)や2乗平均粗さ(Rq)を単位として表記される。本実施形態においてマイクロウェービネスは、基板表面を非接触レーザー干渉法によって測定したとき、微小うねりの周期が2μm〜4mmであって、次に示す関係式によって求められる微小うねりの平均高さ(平均値)Ra′が、0.4nm以下であることが好ましい。
【数1】

【0029】
そして交差角度の小さな第2テクスチャを形成する工程では、すでに凸形状異物が除去されていることからスクラッチの発生が抑えられる。また円周方向に近い角度であることから円周方向の表面粗さが小さくなり、低浮上量領域におけるクラッシュ障害およびサーマルアスペリティの防止を達成することができる。さらに交差角度が小さいことから、円周方向の磁性結晶粒子の配向性を高めることができ、磁気ディスクの高記録密度化を図ることができる。
【0030】
また後述するように、第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°以上であって、第2テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°より小さいことが好ましい。さらには、第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.2°以上であることが好ましい。
【0031】
[実施例]
以下に、本発明を適用した磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスクの製造方法について実施例を説明する。この磁気ディスク用ガラス基板および磁気ディスクは、0.85インチ型ディスク(内径6mm、外径21.6mm、板厚0.381mm)、1.0インチ型ディスク(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)、1.8インチ型磁気ディスク(内径12mm、外径48mm、板厚0.508mm)などの所定の形状を有する磁気ディスクとして製造される。また、2.5インチ型ディスクや3.5インチ型ディスクとして製造してもよい。
【0032】
(1)形状加工工程および第1ラッピング工程
まず、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラスを得た。なお、アルミノシリケートガラスはSiOからなる網目状のガラス骨格と、修飾イオンとしてアルミニウムを含む構造を有し、アルカリ金属元素を含むガラスである。ダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスから研削砥石で切り出して円盤状の磁気ディスク用ガラス基板を得てもよい。なお、アルミノシリケートガラスとしては、SiO:58〜75重量%、Al:5〜23重量%、LiO:3〜10重量%、NaO:4〜13重量%を主成分として含有する化学強化ガラスを使用した。
【0033】
次に、この板状ガラスの両主表面をラッピング加工し、ディスク状のガラス母材とした。ラッピング加工は、板状ガラスの主表面にラップ定盤を押圧し、荒削りする研削加工である。
【0034】
(2)切り出し工程(コアリング、フォーミング)
次に、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて中心部に内孔を形成した(コアリング)。そして内周端面および外周端面をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(フォーミング)。
【0035】
(3)端面研磨工程
次に、ガラス基板の端面について、ブラシ研磨方法により、鏡面研磨を行った。この端面研磨工程により、ガラス基板の端面は、パーティクル等の発塵を防止できる鏡面状態に加工された。
【0036】
(4)第2ラッピング工程
次に、得られたガラス基板の両主表面について、第1ラッピング工程と同様に、第2ラッピング加工を行った。この第2ラッピング工程を行うことにより、前工程である切り出し工程や端面研磨工程において主表面に形成された微細な凹凸形状を予め除去しておくことができ、後続の主表面に対する研磨工程を短時間で完了させることができるようになる。
【0037】
第2ラッピング工程では、砥粒の粒度として#1000を選択し、主表面の平坦度を3μm、表面粗さRmaxが2μm程度、算術平均粗さRaを0.2μm程度とした(RmaxおよびRaは日本工業規格(JIS)B0601に従う)。なお、Rmax、Raは原子間力顕微鏡(AFM)(デジタルインスツルメンツ社製ナノスコープ)にて測定した。平坦度は平坦度測定装置で測定したもので、基板表面の最も高い部分と、最も低い部分との上下方向(表面に垂直な方向)の距離(高低差)である。
【0038】
(5)主表面の第1研磨工程
主表面の研磨工程として、まず第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は次工程である第2研磨工程(鏡面研磨工程)に先立って予め主表面を研磨し、前述のラッピング工程において主表面に残留したキズや歪みを除去することを主たる目的とするものである。
【0039】
この第1研磨工程においては、一度に100枚から200枚のガラス基板を研磨可能な両面研磨装置によって研磨した。この両面研磨装置は、上記多数枚のガラス基板を研磨布を介して上方定盤および下方定盤によって挟持し、遊星歯車機構によって相対的に移動させることにより研磨を行う。第1研磨工程における研磨布としては、硬質樹脂ポリッシャを用いた。研磨材としては酸化セリウム砥粒を用い、粒径の最大値が3.5μm、平均値が1.1μm、D50値が1.1μmのものを水に混入させて用いた。
【0040】
この第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。
【0041】
(6)主表面の第2研磨工程
次に主表面の研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。この第2研磨工程においては、第1研磨工程と同様の両面研磨装置により、研磨布として軟質発泡樹脂ポリッシャ、具体的には発泡ポリウレタンを用いて、主表面の鏡面研磨を行った。
【0042】
研磨材としてはグレイン径が40nmのコロイド状シリカ砥粒を準備し、水と、全解離性の無機酸として硫酸、緩衝作用のある薬液として、有機酸である酒石酸加えて研磨液を作製した。研磨液中のシリカの含有量は5〜40重量%とすることが好ましい。本実施例では10重量%とした。研磨液中の残部は超純水である。
【0043】
(7)鏡面研磨処理後の洗浄工程
第2研磨工程を終えたガラス基板を、濃度3〜5wt%のNaOH水溶液に浸漬してアルカリ洗浄を行った。尚、洗浄は超音波を印加して行った。さらに、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。なお、各洗浄槽には、超音波を印加した。
【0044】
(8)化学強化工程
次に、前述のラッピング工程および研磨工程を終えたガラス基板に、化学強化を施した。化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を375℃に加熱しておくとともに、洗浄済みのガラス基板を300℃に予熱し、化学強化溶液中に約3時間浸漬することによって行った。この浸漬の際には、ガラス基板の表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラス基板が端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行った。
【0045】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオンおよびナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。ガラス基板の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、約100μmから200μmであった。
【0046】
化学強化処理を終えたガラス基板を、20℃の水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。そして、急冷を終えたガラス基板を、約40℃に加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えたガラス基板を純水、IPA(イソプロピルアルコール)の各洗浄槽に順次浸漬して洗浄した。
【0047】
(9)テープ研磨工程
次に、上記(8)によって洗浄されたガラス基板に対して、上記説明したテープ研磨装置(図1参照)を用いて、テープ研磨を行った。このとき、図3(a)に示すように、円周方向とテクスチャの交差角度を様々に変えて、実施例1〜7と比較例1〜4の構成で実験を行った。実施例1〜7は第1テクスチャの円周方向に対する交差角度を0.1°以上、第2テクスチャの円周方向に対する交差角度を0.1°より小さい範囲としている。比較例1は第1テクスチャのみを施したもの(図2(b)参照)、比較例2は第2テクスチャのみを施したもの(図2(c)参照)、比較例3は第1テクスチャの交差角度が第2テクスチャより小さいもの、比較例4は第1テクスチャと第2テクスチャが共に交差角度が小さいものである。なお図中の交差角度の数値は、2.5インチ型ディスクの半径22mmの位置で測定した角度である。
【0048】
テープ研磨が終了した後、各実施例および比較例においてガラス基板の表面は清浄な鏡面状態であった。表面には、磁気ヘッドの浮上を妨げる異物や、サーマルアスペリティ障害の原因となる異物は存在しなかった。すなわち、平坦、かつ、平滑な、高剛性の磁気ディスク用ガラス基板を得た。
【0049】
以上のように製造された磁気ディスク用のガラス基板を用いて長手磁気記録方式の磁気ディスクを製造した。
【0050】
(11)磁気ディスク製造工程
上述した工程を経て得られた磁気ディスク用ガラス基板に対し、インライン型スパッタリング装置にて、CrTi層、CoW下地層、CoPtCrB磁性層、水素化カーボン保護層を成膜し、ディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を形成して磁気ディスクを作製した。なお、本構成は面内磁気ディスクの構成の一例であるが、垂直磁気ディスクとして磁性層等を構成してもよい。
【0051】
[評価]
上記製造方法によって得られた各実施例、比較例の構成の磁気ディスクについて、記録再生試験を行った。そして図3(a)に示すように、磁気異方性係数であるOR(Mrt)=Mrt(円周方向)/Mrt(半径方向)、スクラッチ発生率、ネガティブモジュレーションのカウント回数について、評価を行った。
【0052】
まず、図3(a)を参照すれば、第2テクスチャの交差角度の大きい比較例3、および第2テクスチャを施さなかった比較例1(すなわち交差角度の大きい第1テクスチャのままの状態)は、ORの値が低くなっている。一方、その他の実施例および比較例では第2テクスチャは0.01°に一定であるが、図3(b)からわかるように、いずれも同様に高いORの値を示している。図3(b)は、第1テクスチャの交差角度に対するORの値を視覚化したグラフである。このことから、テクスチャ最終工程としての第2テクスチャは、交差角度が小さいことが好ましいことがわかる。そして実験結果より、第2テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°より小さいことが好ましいことがわかる。
【0053】
図3(b)は、第1テクスチャの交差角度に対するスクラッチ発生率とネガティブモジュレーションを視覚化したグラフである。図からわかるように、第1テクスチャの交差角度を大きくするほど、スクラッチ発生率もネガティブモジュレーションのカウント回数も大幅に減少することがわかる。そして実験結果より、第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°以上、さらには0.2°以上であることが好ましいことがわかる。
【0054】
上記説明した如く、本発明によれば、円周方向に対して交差角度の大きな第1テクスチャと、交差角度の小さな第2テクスチャをこの順に形成したことにより、円周方向の深いスクラッチを防止してネガティブモジュレーションを最小限に抑えつつ、磁性結晶粒子の配向性を高めて磁気ディスクの高記録密度化を図ることができる。さらにマイクロウェービネスを低くし、かつ表面粗さを小さくすることができ、磁気ヘッドの低浮上量化および安定性の向上、低浮上量領域におけるクラッシュ障害およびサーマルアスペリティの防止を達成することができる。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、および磁気ディスクとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】テープ研磨装置およびテクスチャの状態を説明する図である。
【図2】検査装置で観察したテクスチャ形状を説明する図である。
【図3】円周方向とテクスチャの交差角度を変えて評価した結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
1 …ガラス基板
10 …スピンドル
11 …スラリーノズル
12 …研磨テープ
13 …ローラ
20 …第1テクスチャ
21 …第2テクスチャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、
回転する基板に対して研磨ヘッドを半径方向に相対的に反復移動させることにより円周方向に対して所定の角度で交差する軌跡からなる第1テクスチャを形成する工程と、
円周方向に対して前記第1テクスチャとは異なる角度で交差する軌跡からなる第2テクスチャを形成する工程とを、この順に含み、
前記第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は、前記第2テクスチャの円周方向に対する交差角度よりも大きいことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°以上であって、前記第2テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.1°より小さいことを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1テクスチャの円周方向に対する交差角度は0.2°以上であることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により得られた磁気ディスク用ガラス基板の表面に、少なくともCo合金系の磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
円盤状の磁気ディスク用ガラス基板において、
円周方向に対して所定の角度で交差する軌跡からなる第1テクスチャと、
円周方向に対して前記第1テクスチャとは異なる角度で交差する軌跡からなる第2テクスチャとを有し、
前記第1テクスチャの上に第2テクスチャが施されており、かつ、前記第1テクスチャの円周方向に対する交差角度が前記第2テクスチャの円周方向に対する交差角度よりも大きいことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項6】
請求項5記載の磁気ディスク用ガラス基板の上に、少なくともCo合金系の磁性層を備えていることを特徴とする磁気ディスク。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−90907(P2008−90907A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269722(P2006−269722)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】