説明

磁気ディスク用基板及びその製造方法

【課題】基板品質を損なうことなく、研磨加工後にランダムに基板が上下研磨定盤に貼り付くことを防止できる磁気ディスク用基板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の磁気ディスク用基板は、一対の主表面と、端面と、前記主表面と前記端面との間に設けられた面取り面と、を備えた磁気ディスク用基板であって、一方の主表面と前記一方の主表面側の面取り面との境界点から、前記一方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離aと、他方の主表面と前記他方の主表面側の面取り面との境界点から、前記他方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離bとがa/b>1.6を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ装置(HDD装置)などの磁気ディスク装置に用いられる磁気ディスク用基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ハードディスクドライブ装置には、円盤状の基板の主表面に磁性層を形成した磁気ディスクが広く用いられている。ハードディスクドライブの大容量化に伴い、記録媒体が垂直磁気記録方式に移行した。これに伴い、磁気ディスク用基板に求められる品質として、低粗さ、低うねり、低欠陥、端部形状の平坦化などが挙げられる。これらの品質項目に関して、基本的には主表面の研磨工程及びその後の洗浄工程での調整で対応することが可能である。特に、低粗さ及び低うねりに関しては、最終研磨工程の占める割合が高い。例えば、最終研磨工程において、研磨砥粒の微細化や研磨パッドの硬質化、及び平坦化によって、低粗さ及び低うねりを達成することができる。
【0003】
主表面の研磨工程においては、例えば、図3に示す遊星歯車機構を用いた研磨装置を用いて行う(特許文献1)。図3は、磁気ディスク用基板の製造方法で用いる研磨装置の概略構成を示す図である。この遊星歯車機構は、図3に示すように、上下一対の研磨定盤1,2を有している。これらの研磨定盤1,2は平板状に形成されている。これらの研磨定盤1,2の表面には、研磨材を供給するための複数の溝3が格子状に形成されている。また、研磨定盤1,2の表面には、軟質ポリシャ(スウェード)の研磨パッドが貼り付けられる。
【0004】
この両面研磨装置においては、各研磨定盤1,2間に基板4を保持する円板状のキャリア5を設置し、上下研磨定盤1,2で圧力を負荷してキャリア5を挟み込み、上研磨定盤2と下研磨定盤1を逆回転させ、研磨材を供給しながら基板4の両主表面を研磨する。この遊星歯車機構においては、下研磨定盤1の中心部に設けられた太陽歯車6と、この下研磨定盤1の外周に設けられた内歯車7と、の間にキャリア5が配設される。このとき、キャリア5の外周に設けられた歯部8が、太陽歯車6及び内歯車7と噛合する。したがって、上研磨定盤2と下研磨定盤1を逆回転させることにより、キャリア5が自転しながら公転する。なお、基板4は、キャリア5の穴部5a内で保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−90452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、その一方で上記研磨副資材(研磨パッドや研磨砥粒など)の組み合わせによる基板主表面の平滑化が進むことによって、図4(a)に示すように、両面研磨後において基板4が上研磨定盤側の研磨パッド9a及び下研磨定盤側の研磨パッド9bにランダムに貼り付いてしまう問題が顕在化している。これにより、両面研磨加工後の基板アンロード(基板取り外し)作業において、作業性が低下したり、基板アンロード作業中に基板に傷を付ける要因となっている。
【0007】
このような課題に対して、従来では、図5に示すように、一方の研磨パッド9aに溝9cを設けることにより、基板4と研磨パッド9aとの間に隙間を形成し、この隙間に空気が入り込むことを利用して基板4を一方の研磨パッド9aから剥がし易くすることが考えられている。しかしながら、このように研磨パッド9aに溝9cを設けることにより、研磨パッド9aに段差が生じ、研磨加工後に基板のうねり(マイクロウェービネス)が悪化したり、基板4により研磨パッド9aが研磨定盤から剥がれてしまうことがある。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、基板品質を損なうことなく、研磨加工後にランダムに基板が上下研磨定盤に貼り付くことを防止できる磁気ディスク用基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁気ディスク用基板は、一対の主表面と、端面と、前記主表面と前記端面との間に設けられた面取り面と、を備えた磁気ディスク用基板であって、一方の主表面と前記一方の主表面側の面取り面との境界点から、前記一方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離aと、他方の主表面と前記他方の主表面側の面取り面との境界点から、前記他方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離bとがa/b>1.6を満足することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、研磨加工後に定盤を外した際に、両主表面で基板と研磨パッドとの間で空気の入り込み量が異なる。この結果、面取り長が長い(距離a)主表面の方が、面取り長が短い(距離b)主表面よりも基板と研磨パッドとの間の吸着力が低くなり、研磨パッドから基板が剥がれ易くなる。これにより、研磨加工後にランダムに基板が上下研磨定盤に貼り付くことを防止できる。
【0011】
本発明の磁気ディスク用基板においては、前記磁気ディスク用基板がガラス基板であることが好ましい。
【0012】
本発明の磁気ディスク用基板の製造方法は、一対の定盤の間に挟持され、複数のディスク状基板の主表面の向きを揃えて保持した状態で、自転しながら公転するキャリアを備えた研磨装置で前記ディスク状基板を研磨加工する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、一方の主表面の面取り長が長いので、基板を一方の研磨定盤側に統一して貼り付けることができる。このため、作業性が低下したり、基板アンロード作業中に基板に傷を付けることもない。さらに、研磨パッドには溝などを設ける必要がないので、研磨パッドに段差が生じ、研磨加工後に基板の品質を損なうことがない。例えば、基板のうねり(マイクロウェービネス)が悪化することがない。
【0014】
本発明の磁気ディスクの製造方法は、本発明の磁気ディスク用基板の少なくとも一方の主表面に、少なくとも磁気記録層を形成することを特徴とする。
【0015】
磁気ディスクの記録密度は年々増加しており、片面で100GB以上の磁気ディスクも開発されている。現在、磁気ディスクは、両面合わせて必要とする記録密度を満足しているが、このように記録密度が増加していくと、記録密度をあまり必要としない電子機器では、片面だけで必要とする記録密度を満足することになる。このように片面で必要とする記録密度を満足すると、HDD装置側でも1枚の磁気ディスクに対して磁気ヘッドを1本とするなど部品点数を減らすことができるためコスト的にも有利となり、かつ薄型化を実現することができる。したがって、片面のみに磁性層を設けた磁気ディスクはこれからニーズが高まることが予想される。そして、このような片面のみに磁性層を設けた磁気ディスク用の基板、すなわち、一方の主面のみを磁気記録に使用する主面とする基板も求められている。
【0016】
本発明の磁気ディスク用基板においては、従来同様に両主表面に磁性層を設けた磁気ディスクとすることが可能であるが、このような現状に鑑み、片面のみに磁性層を形成させることを考慮すると、磁性層を形成させる主表面のみを最終研磨することによりコストを下げることも可能となる。しかしながら、片面のみを研磨して磁気ディスク用基板とすると、磁性層等を形成する際にどちらの主表面が研磨した面であるかが分からなくなることがある。このような問題に対し、本発明では両主表面において、面取り長が異なるため、あらかじめ一方の主表面(例えば、距離a側の主表面)のみを研磨するというように対応付けていることにより、簡単に両主表面を区別することが可能となる。
【0017】
本発明の磁気ディスクは、本発明の磁気ディスクの製造方法により製造されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の磁気ディスク用基板は、一対の主表面と、端面と、前記主表面と前記端面との間に設けられた面取り面と、を備え、一方の主表面と前記一方の主表面側の面取り面との境界点から、前記一方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離aと、他方の主表面と前記他方の主表面側の面取り面との境界点から、前記他方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離bとがa/b>1.6を満足するので、基板品質を損なうことなく、研磨加工後にランダムに基板が上下研磨定盤に貼り付くことを防止できる。また、特に片面のみに磁性層を形成することを考慮したような場合において、両主表面の識別を行うことが容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気ディスク用基板の一部を示す図である。
【図2】(a),(b)は、本発明の実施の形態に係る磁気ディスク用基板の製造方法を説明するための図である。
【図3】磁気ディスク用基板の製造方法に用いる研磨装置を示す図である。
【図4】(a),(b)は、従来の磁気ディスク用基板の製造方法を説明するための図である。
【図5】従来の磁気ディスク用基板の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気ディスク用基板の一部を示す図である。
図1に示す磁気ディスク用基板は、一対の主表面11,12と、端面13と、主表面11,12と端面との間に設けられた面取り面14a,14bと、を備えている。面取り面14aは、主表面(上面)11と端面13との間の面取り面であり、面取り面14bは、主表面(下面)12と端面13との間の面取り面である。ここでは、主表面11における端面13の延長線から面取り面14aの端部Xまでの距離をaとし、主表面12における端面13の延長線から面取り面14bの端部Yまでの距離をbとしている。この距離aと距離bとが異なっている、すなわち、両主表面11,12において面取り長が異なっている。そして、本発明に係る磁気ディスク用基板は、a/bの比が1.6を超える、すなわちa/b>1.6を満足することを特徴としている。
【0021】
図1に示す磁気ディスク用基板に対しては、両主表面11,12に磁性層等を設けて磁気ディスクとすることも可能であるが、上述したように片面のみに磁性層等を設けて磁気ディスクとする場合には、より広い主表面をもつ主表面12側に磁性層等を形成させることが好ましい。図1に示す磁気ディスク用基板の主表面12には、磁性層を設けて磁気記録面として使用するため、出来る限り広い領域を磁気記録領域とすることが望ましい。このような観点から距離bは、できるだけ短いことが望ましい。例えば、距離bは、0.22cm以下であることが望ましい。一方、磁気ディスク用基板の主表面11には、磁性層を設けないので、距離aについては、a/b>1.6を満足する条件下において長くすることも可能である。
【0022】
このように磁気ディスク用基板の両主表面でa/b>1.6を満足するように面取り長を変えることにより、研磨加工後に定盤を外した際に、両主表面で基板と研磨パッドとの間で空気の入り込み量が異なる。すなわち、面取り長が長い(距離a)主表面の方が、面取り長が短い(距離b)主表面よりも研磨パッドとの間の接地面積が小さくなる。このため、面取り長が長い(距離a)主表面の方が、面取り長が短い(距離b)主表面よりも基板と研磨パッドとの間での空気の入り込み量が多くなる。この結果、面取り長が長い(距離a)主表面の方が、面取り長が短い(距離b)主表面よりも基板と研磨パッドとの間の吸着力が低くなり、研磨パッドから基板が剥がれ易くなる。
【0023】
これにより、図2(a)に示すように、研磨加工後にランダムに基板22が上下研磨定盤に貼り付くことを防止でき、どちらか一方の定盤面に基板を統一して貼り付けることが可能となる(図2(a)の場合では、図2(b)に示すように、上側の主表面の面取り長が長いので、基板22を下研磨定盤側に統一して貼り付けることができる)。このため、作業性が低下したり、基板アンロード作業中に基板に傷を付けるもない。さらに、研磨パッド21a,21bには溝などを設けていないので、研磨パッドに段差が生じ、研磨加工後に基板の品質を損なうことがない。例えば、基板のうねり(マイクロウェービネス)が悪化することがない。
【0024】
さらに、磁気ディスク用基板の両主表面で面取り長を変えているので、片面のみに磁性層を設ける磁気ディスク用の基板として用いる際に、磁気記録面として使用する主表面を容易に識別することが可能であり、磁気記録面として使用する主表面を統一して同じ方向に向けて設置・収納することが可能である。
【0025】
磁気ディスク用基板の材料としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦性及び基板強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を提供することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好ましく用いることができる。また、ガラス基板に限らず、本発明の効果は磁気ディスク基板種によらず発揮できることから、その他の磁気ディスク基板(アルミニウム基板など)への適用を排除するものではない。
【0026】
磁気ディスク用基板の製造工程は、素材加工工程及び第1研削工程;端部形状工程(穴部を形成するコアリング工程、端部(外周端部及び/又は内周端部)に面取り面を形成するチャンファリング工程(面取り面形成工程));端面研磨工程(外周端部及び内周端部);第2研削工程;主表面研磨工程(第1及び第2研磨工程);化学強化工程などの工程を含む。
【0027】
以下に、磁気ディスク用基板の製造工程の各工程について説明する。ここでは、磁気ディスク用基板がガラス基板である場合について説明する。
(1)素材加工工程及び第1研削工程
まず、素材加工工程においては、ガラス基板となるガラス基材(ブランクス)は、例えば溶融ガラスを材料として、プレス法やフロート法、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法など、公知の製造方法を用いて製造することができる。これらの方法うち、プレス法を用いれば、板状ガラスを廉価に製造することができる。
【0028】
第1研削工程においては、板状ガラスの両主表面を研削加工し、ディスク状のガラス基材とする。この研削加工は、遊星歯車機構を利用した両面研削装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行うことができる。具体的には、板状ガラスの両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液を板状ガラスの主表面上に供給し、これらを相対的に移動させて研削加工を行う。この研削加工により、平坦な主表面を有するガラス基板を得ることができる。
【0029】
(2)端部形状工程(穴部を形成するコアリング工程、端部(外周端部及び内周端部)に面取り面を形成するチャンファリング工程(面取り面形成工程))
コアリング工程においては、例えば、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、このガラス基板の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板とする。チャンファリング工程においては、内周端面及び外周端面をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施す。
【0030】
(3)第2研削工程
第2研削工程においては、得られたガラス基板の両主表面について、第1研削工程と同様に、第2研削加工を行う。この第2研削工程を行うことにより、前工程において主表面に形成された微細な凹凸形状/表面ダメージ・傷などを除去し、かつ第1研削よりもさらに表面粗さを低減することで、後続の主表面に対する研磨工程を短時間で完了させることができるようになる。
【0031】
(4)端面研磨工程
端面研磨工程においては、ガラス基板の外周端面及び内周端面について、ブラシ研磨方法により、鏡面研磨を行う。このとき、研磨砥粒としては、例えば、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いることができる。この端面研磨工程により、ガラス基板の端面での汚染・ダメージ・傷の除去を行うことで、ナトリウムやカリウムのようなコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止できる状態になる。
【0032】
(5)主表面研磨工程(第1研磨工程)
主表面研磨工程として、まず第1研磨工程を施す。主表面研磨加工においては、例えば、図3に示す遊星歯車機構を用いた研磨装置を用いて行う。第1研磨工程は、前述のラッピング工程で主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とする工程である。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、主表面の研磨を行う。研磨剤としては、酸化セリウム砥粒を用いることができる。
【0033】
(6)主表面研磨工程(最終研磨工程)
次に、最終研磨工程として、第2研磨工程を施す。第2研磨工程は、両主表面のうち記録面となる面のみ(片面または両主表面)を鏡面状に仕上げることを目的とする工程である。この第2研磨工程においても、上記と同様にして遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、主表面の鏡面研磨を行う。スラリーとしては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒やコロイダルシリカなどを用いることがきる。
【0034】
(7)化学強化工程
化学強化工程においては、前述のラッピング工程及び研磨工程を終えたガラス基板に化学強化を施す。化学強化に用いる化学強化液としては、例えば、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)の混合溶液などを用いることができる。化学強化においては、化学強化液を300℃〜400℃に加熱し、洗浄済みのガラス基板を200℃〜300℃に予熱し、化学強化溶液中に3時間〜4時間浸漬することによって行う。この浸漬の際には、ガラス基板の表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラス基板が端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
【0035】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化溶液中の相対的にイオン半径の大きなナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。
【0036】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例1)
まず、溶融させたアルミノシリケートガラスを上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスによりディスク形状に成型し、アモルファスの板状ガラス素材(ブランクス)を得た。この時点でブランクスの直径は66mmであった。次に、このブランクスの両主表面を第1ラッピング加工した後、円筒状のコアドリルを用いて、このガラス基板の中心部に穴部を形成して円環状のガラス基板に加工(コアリング)した。そして端部(外周端部及び内周端部)に面取り面を形成するチャンファリング加工(面取り面形成工程))を施して、直径2.5インチのガラス基板とした。このとき、上側の主表面の面取り長を下側の主表面の面取り長よりも長くするようにしてチャンファリング加工を行った。このとき、一方の主表面と前記一方の主表面側の面取り面との境界点から、前記一方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離aと、他方の主表面と前記他方の主表面側の面取り面との境界点から、前記他方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離bとの比a/bは1.6とした。
【0037】
次いで、このガラス基板に第2ラッピング加工を行った。次いで、ガラス基板の外周端部について、ブラシ研磨方法により、鏡面研磨を行った。このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。次いで、主表面研磨工程として、ガラス基板の両主表面に対して第1研磨工程を施した。第1研磨工程においては、研磨装置として、図3に示す両面研磨装置を使用した。この研磨装置における研磨パッドとしては、ウレタンパッドを用いた。また、研磨剤としては、セリウム研磨剤を用いた。また、研磨条件としては、加工面圧を130g/cmとし、加工回転数を22rpmとした。
【0038】
第1研磨工程後、第1研磨工程で使用したものと同じ両面研磨装置を用い、研磨パッドをスウェードパッドに、研磨剤を、コロイダルシリカ(平均粒径0.8μm)を分散したRO水に変えて第2研磨工程を行った。この研磨加工においては、ガラス基板100枚を、面取り長が長い主表面を上研磨定盤側に設置して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、上研磨定盤への基板貼付枚数は0枚であった。研磨加工後のガラス基板をポリテック社製 Thotを用いてマイクロウェービネスを測定したところ1.3Åであり、良好であった。
【0039】
(実施例2)
a/bを2にすること以外は実施例1と同様にしてガラス基板に第1研磨工程、第2研磨工程を行った。この研磨加工においては、ガラス基板100枚を、面取り長が長い主表面を上研磨定盤側に設置して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、上研磨定盤への基板貼付枚数は0枚であった。研磨加工後のガラス基板を実施例1と同様にしてマイクロウェービネスを測定したところ1.1Åであり、良好であった。
【0040】
(実施例3)
a/bを1.6にすること以外は実施例1と同様にしてガラス基板に第1研磨工程、第2研磨工程を行った。この研磨加工においては、ガラス基板100枚を、面取り長が長い主表面を下研磨定盤側に設置して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、下研磨定盤への基板貼付枚数は0枚であった。研磨加工後のガラス基板を実施例1と同様にしてマイクロウェービネスを測定したところ1.2Åであり、良好であった。
【0041】
(実施例4)
a/bを2にすること以外は実施例1と同様にしてガラス基板に第1研磨工程、第2研磨工程を行った。この研磨加工においては、ガラス基板100枚を、面取り長が長い主表面を下研磨定盤側に設置して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、下研磨定盤への基板貼付枚数は0枚であった。研磨加工後のガラス基板を実施例1と同様にしてマイクロウェービネスを測定したところ1.3Åであり、良好であった。
【0042】
(比較例1)
a/bを1.3にすること以外は実施例1と同様にしてガラス基板に第1研磨工程、第2研磨工程を行った。この研磨加工においては、ガラス基板100枚を、面取り長が長い主表面を上研磨定盤側に設置して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、上研磨定盤への基板貼付枚数は13枚であった。研磨加工後のガラス基板を実施例1と同様にしてマイクロウェービネスを測定したところ1.2Åであり、良好であった。
【0043】
(比較例2)
a/bを1.3にすること以外は実施例1と同様にしてガラス基板に第1研磨工程、第2研磨工程を行った。この研磨加工においては、ガラス基板100枚を、面取り長が長い主表面を下研磨定盤側に設置して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、下研磨定盤への基板貼付枚数は24枚であった。研磨加工後のガラス基板を実施例1と同様にしてマイクロウェービネスを測定したところ1.3Åであり、良好であった。
【0044】
(比較例3)
図4(b)に示すように、両主表面で面取り長を同じにする(a/bを1にする)こと以外は実施例1と同様にしてガラス基板に第1研磨工程、第2研磨工程を行った。この研磨加工は、ガラス基板100枚に対して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、下研磨定盤への基板貼付枚数は55枚であった。研磨加工後のガラス基板を実施例1と同様にしてマイクロウェービネスを測定したところ1.1Åであり、良好であった。
【0045】
(比較例4)
図5に示すように、両主表面で面取り長を同じにし(a/bを1にする)、上研磨定盤側の研磨パッドに溝を設けること以外は実施例1と同様にしてガラス基板に第1研磨工程、第2研磨工程を行った。この研磨加工は、ガラス基板100枚に対して行った。研磨加工終了後に研磨定盤を外したところ、下研磨定盤への基板貼付枚数は0枚であった。研磨加工後のガラス基板を実施例1と同様にしてマイクロウェービネスを測定したところ2.3Åであり悪かった。
【0046】
上記実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4の結果を下記表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から分かるように、実施例1〜実施例4においては、磁気ディスク用基板の両主表面でa/b>1.6を満足するように面取り長を変えているので、基板を一方の研磨定盤側に統一して貼り付けることができる。このため、作業性が低下したり、基板アンロード作業中に基板に傷を付けるもない。さらに、研磨パッドには溝などを設けていないので、研磨パッドの段差に起因するマイクロウェービネスの悪化が生じない。比較例1〜比較例3においては、磁気ディスク用基板の両主表面でa/b>1.6を満足していないので、研磨加工後にランダムに基板が上下研磨定盤に貼り付いていた。また、比較例4については、一方の研磨定盤の研磨パッドに溝を設けたので、基板を一方の研磨定盤側に統一して貼り付けることができる。しかしながら、研磨パッドの段差に起因するマイクロウェービネスが悪化した。
【0049】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、適宜変更して実施することができる。上記実施の形態における数値、材質、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、パーソナルコンピュータ、携帯用音楽機器など、各種HDDの搭載機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
11,12 主表面
13 端面
14a,14b 面取り面
21a,21b 研磨パッド
22 磁気ディスク用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主表面と、端面と、前記主表面と前記端面との間に設けられた面取り面と、を備えた磁気ディスク用基板であって、
前記一方の主表面と前記一方の主表面側の面取り面との境界点から、前記一方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離aと、前記他方の主表面と前記他方の主表面側の面取り面との境界点から、前記他方の主表面と前記端面の延長線との交点までの距離bとが、a/b>1.6を満足することを特徴とする磁気ディスク用基板。
【請求項2】
前記磁気ディスク用基板がガラス基板であることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用基板。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気ディスク用基板の製造方法であって、
一対の定盤の間に挟持され、複数のディスク状基板の主表面の向きを揃えて保持した状態で、自転しながら公転するキャリアを備えた研磨装置で前記ディスク状基板を研磨加工する工程を含むことを特徴とする磁気ディスク用基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の磁気ディスク用基板の少なくとも一方の主表面に、少なくとも磁気記録層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の磁気ディスクの製造方法により製造されてなることを特徴とする磁気ディスク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−257562(P2010−257562A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293759(P2009−293759)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】