説明

磁気パターン検出装置

【課題】簡素な構成で各種の媒体から磁気パターンの有無や種別を確実に検出することのできる磁気パターン検出装置を提供すること。
【解決手段】媒体1から磁気パターンを検出する磁気パターン検出装置100において、残留磁束密度および透磁率が異なる複数種類の磁気パターンの媒体1における磁気パターン毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するための共通のセンサ部20を有している。かかるセンサ部20は、媒体1に磁界を印加する磁界印加部30と、磁界を印加した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出する磁束検出部40とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、有価証券などの媒体から磁気を検知して真偽判別や種類の判別を行なう磁気パターン検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、銀行券、有価証券などの貴重印刷物の偽造を判別する技術が必要とされており、印刷物の真偽をチェックする各種の技術が提案されている。その1つとして、磁気インクで紙に所定の磁気パターンを形成し、かかる磁気パターンが形成された媒体から磁気パターンの有無や形成位置を検知する技術が採用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このような識別方法は、概ね、3つの方法に分類できる。まず、第1の方法は、媒体(磁気インキ)の透磁率の違いを利用して差動トランス型センサにより磁気インクの有無や形成位置を検出する方法である。第2の方法は、磁気インクを磁化した後、その漏れ磁束をMRセンサ、MIセンサ、磁気ヘッドにより計測する方法であり、かかる方法では、磁気インクの残留磁束密度を測定する。第3の方法は、磁気インクをマグネットで磁化する際、マグネットの磁束の変化をMRセンサにより測定する方法であり、かかる方法では、磁気インクの透磁率を測定している。
【特許文献1】特許第3799448号公報
【特許文献2】特許第3814692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、紙幣などにおいては、国毎あるいは紙幣毎に使用する磁気インクの種類が異なる場合があり、かかる場合、以下の理由から、1つの装置で全ての紙幣を識別するのが困難である。磁気インクは概ね、ハード材を含む磁気インキと、ソフト材を含む磁気インキとに大別される。ここで、ハード材とは、マグネットに用いる磁性材料のように、外部より磁界を印加すると、ヒステリシスが大きくて残留磁束密度が高く、容易に磁化される磁性材料である。これに対して、ソフト材とは、モータや磁気ヘッドのコア材のように、ヒステリシスが小さくて残留磁束密度が低く、容易に磁化されない磁性材料である。従って、前記の第1の方法や第3の方法では、不得意側の磁気種でも、極めて低レベルの出力しか得ることはできないので、磁気インクの種別を判定することが困難である。また、得意のハード材の磁気インクでも濃淡によって出力レベルが違うので、薄い磁気インクでは出力は小さく、その部分ではソフト材なのかハード材なのかが不明である。それ故、紙幣の真偽や種類をより高い精度で識別するには、磁気インクがハード材およびソフト材のいずれを含むかを判定した後、それに適した方法で識別する必要があるので、1つの装置で全ての紙幣を識別するのが困難である。なお、特許文献1、2に記載の装置でも、残留磁束密度が異なる複数種類の磁気パターンの検出を行なっているが、かかる装置でも、実質的には、磁気インクの残留磁束密度を測定しているだけである。
【0005】
そこで、紙幣の搬送経路の上流側に透磁率を測定するタイプの検出装置を配置し、紙幣の搬送経路の下流側に残留磁束密度を測定するタイプの検出装置を配置することが考えられるが、かかる構成の場合、2つの検出装置の各々の誤差が判定に影響を及ぼすため、正確な識別が困難となる。また、2つの検出装置を設けた場合、それだけでもコストが増大する上に、機構的に安定した走行部分を2個所に必要になるため、複雑な機構が必要となり、その分、コストが増大し、実用的でない。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、簡素な構成で各種の媒体から磁気パターンの有無や磁気インクの種別を確実に検出することのできる磁気パターン検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、媒体から磁気パターンを検出する磁気パターン検出装置であって、残留磁束密度および透磁率が異なる複数種類の磁気パターンの前記媒体における磁気パターン毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するための共通のセンサ部と、前記センサ部から出力される信号から、残留磁束密度レベルに対応する第1信号および透磁率レベルに対応する第2信号を抽出する信号処理部と、を有していることを特徴とする。
【0008】
本発明では、残留磁束密度および透磁率が異なる複数種類の磁気パターンの媒体における磁気パターン毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するため、磁気パターンの種類を確実に識別することができ、磁気パターンの種別を検出することもできる。また、2つの検出を行なうためのセンサ部が共通であるため、残留磁束密度レベルの測定と、透磁率レベルの測定との間に時間差が発生しないので、信号処理部は、簡素な構成で高い精度の検出を行なうことができる。また、センサ部と媒体とを移動させながら計測する場合でも、搬送機構を簡素化することができる。
【0009】
本発明において、前記センサ部と前記媒体とを相対移動させる搬送手段を有することが好ましい。このように構成すると、前記媒体からの磁気パターンの検出を連続して行なうことができる。この場合、前記信号処理部は、前記第1信号、前記第2信号、および前記媒体と前記センサ部との相対位置情報に基づいて、前記媒体における前記複数種類の磁気パターンの有無および形成位置を検出することが好ましい。このように構成すると、前記センサ部と前記媒体とを相対移動させながら媒体から磁気パターンの有無を検出すれば、その移動方向における形成位置を検出することができる。
【0010】
本発明において、前記センサ部は、前記媒体に磁界を印加する磁界印加部と、前記磁界を印加した後の前記媒体にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出する磁束検出部とを備えている構成を採用することができ、磁気パターン検出装置の小型化を図ることができる。
【0011】
本発明において、前記磁束検出部は、センサコア、該センサコアに巻回されたバイアス磁界発生用励磁コイル、および前記コア体に巻回された検出コイルを備えた磁気センサ素子を有している構成を採用することができる。
【0012】
本発明において、前記磁気センサ素子は、前記センサコアに前記バイアス磁界発生用励磁コイルとは逆方向に巻回された差動用磁界発生用励磁コイルを備えていることが好ましい。このように構成すると、磁気的な差動におり、環境に起因する測定誤差を解消することができる。
【0013】
本発明において、前記バイアス磁界発生用励磁コイルは交番磁界を発生させることが好ましい。この場合、前記信号処理部は、前記磁気センサ素子から出力される信号のピーク値とボトム値とを加算して前記磁気パターンの残留磁束密度レベルに対応する前記第1信号を抽出する加算回路と、前記ピーク値と前記ボトム値とを減算して前記磁気パターンの透磁率レベルに対応する第2信号を抽出する減算回路とを備えている構成を採用することができる。
【0014】
本発明において、前記センサコアは、前記検出コイルが巻回された胴部と、該胴部から前記媒体が位置する側に突出した突部とを備え、前記突部に前記バイアス磁界発生用励磁コイルが巻回されていることが好ましい。このように構成すると、媒体に向けてバイアス磁界を効率よく発生させることができる。また、バイアス磁界発生用励磁コイルを媒体に接近させることができる。それ故、感度を向上することができる。
【0015】
本発明において、前記突部の断面積は前記胴部の断面積に比して小さいことが好ましい。このように構成すると、磁気効率を高めることができるので、センサ感度を向上することができる。
【0016】
本発明において、前記センサコアは、薄板状であることが好ましい。このように構成すると、媒体上の狭い範囲を検出対象とすることができるので、微細な磁気パターンに十分、対応することができる。また、センサコアを飽和させる場合、断面積を小さければ、消費電流を低減することができる。
【0017】
本発明において、前記磁気センサ素子は、その両面が非磁性部材により覆われていることが好ましい。このように構成すると、磁気センサ素子を薄く構成した場合でも、媒体との摺動による摩耗を低減することができるなど、磁気センサ素子を補強することができる。
【0018】
本発明を適用した磁気パターン検出装置は、前記媒体として、前記複数種類の磁気パターンのうちのいずれか一つが形成された第1媒体、および前記複数種類の磁気パターンが形成された第2媒体のうちの少なくとも一方について磁気パターンの識別を行なうために用いられる。
【0019】
本発明において、前記磁気パターンは、例えば、鋼やハードフェライトなどのハード材(硬磁性材料)を含む磁気インキ、または/および珪素鋼やソフトフェライトなどのソフト材(軟磁性材料)を含む磁気インキを用いて印刷されてなる。本発明によれば、セキュリティの観点から媒体に形成される磁気パターンが複雑化した場合でも、1台の磁気パターン検出装置で対応することができる。
【0020】
本発明において、前記センサ部は、前記媒体の搬送方向と交差する方向に複数配置されていることが好ましい。このように構成すると、搬送される媒体の幅方向における磁気パターンの有無を検出でき、その幅方向における形成位置を検出することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、残留磁束密度および透磁率が異なる複数種類の磁気パターンの媒体における磁気パターン毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するため、磁気パターンの種類を確実に識別することができ、磁気パターンの種別を検出することもできる。また、2つの検出を行なうためのセンサ部が共通であるため、残留磁束密度レベルの測定と、透磁率レベルの測定との間に時間差が発生しないので、信号処理部は、簡素な構成で高い精度の検出を行なうことができる。また、センサ部と媒体とを移動させながら計測する場合でも、搬送機構を簡素することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
(全体構成)
図1および図2は、本発明を適用した磁気パターン検出装置の要部を示す説明図、およびそのブロック図である。図3は、本発明を適用した磁気パターン検出装置の原理を示す説明図である。
【0024】
図1に示す磁気パターン検出装置100は、銀行券、有価証券などの媒体1から磁気を検知して真偽判別や種類の判別を行なう装置であり、ローラやガイド(図示せず)などによってシート状の媒体1を搬送する搬送装置10と、この搬送装置10による媒体搬送経路の途中位置で媒体1から磁気を検出するセンサ部20と、図2を参照して後述する信号処理部60とを有している。本形態において、ローラやガイドは、アルミニウムなどといった非磁性材料から構成されている。センサ部20は、媒体搬送経路の上方に配置されているが、媒体搬送経路の下方に配置されることもある。いずれの場合も、センサ部20は、検出面を媒体搬送経路に向けるように配置される。
【0025】
本形態において、媒体1には、残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気パターン2が形成されている。例えば、媒体1には、ハード材を含む磁気インキにより印刷された第1の磁気パターンと、ソフト材を含む磁気インキにより印刷された第2の磁気パターンとが形成されている。ここで、ハード材を含む磁気インキは、図3(b1)にヒステリシスループによって、残留磁束密度Brや透磁率μなどを示すように、磁界を印加したときの残留磁束密度Brのレベルは高いが、透磁率μは低い。これに対して、ソフト材を含む磁気インキは、図3(c1)にそのヒステリシスループを示すように、磁界を印加したときの残留磁束密度Brのレベルは低いが、透磁率μは高い。
【0026】
そこで、本形態において、センサ部20は、媒体1における磁気パターン2毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出する。但し、本形態では、かかる2種類の磁気パターン2の検出を行なうためのセンサ部20は共通である。
【0027】
このため、図2に示す信号処理部60は、センサ部20から出力される信号から、残留磁束密度レベルに対応する第1信号S1、および透磁率レベルに対応する第2信号S2を抽出し、かかる信号の抽出結果と、媒体1とセンサ部20との相対位置情報に基づいて、媒体1における複数種類の磁気パターンの有無および形成位置を検出する。より具体的には、信号処理部60は、センサ部20から出力された信号を増幅するアンプ61と、このアンプ61から出力された信号のピーク値およびボトム値を保持するピークホールド回路62およびボトムホールド回路63と、ピーク値とボトム値とを加算して第1信号S1を抽出する加算回路64と、ピーク値とボトム値とを減算して第2信号S2を抽出する減算回路65とを備えている。さらに、信号処理部60は、加算回路64および減算回路65から出力された各信号をセンサ部20と媒体1との相対位置情報に関係づけて、記録部661に予め記録されている比較パターンとの照合を行って媒体1の真偽を判定する判定部66も備えている。かかる判定部66は、マイクロコンピュータなどにより構成されており、ROMあるいはRAMなどといった記録部(図示せず)に予め記録されているプログラムに基づいて所定の処理を行い、媒体1の真偽を判定する。
【0028】
再び図1において、センサ部20は、媒体1の搬送方向と交差する方向に複数配置されており、かかる複数のセンサ部20は、個別あるいは共通のカバー28内に配置されている。センサ部20は、媒体1に磁界を印加する磁界印加部30と、磁界を印加した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出する磁束検出部40とを備えている。
【0029】
磁界印加部30は、フェライトやネオジウム磁石などの永久磁石から構成されており、カバー28の下面に保持されている。磁束検出部40は薄板状の磁気センサ素子45を備えており、媒体1の搬送方向に厚さ方向を向けて配置されている。磁気センサ素子45は、両面がセラミックなどからなる厚さ0.3mm〜1mm程度の薄板状の非磁性部材48により覆われ、この状態で、磁気シールドケース21に収納されている。磁気シールドケース21は、媒体搬送経路が位置する下方が開口しており、磁気センサ素子45は、媒体搬送経路に向けて露出した状態にある。磁気シールドケース21は、回路基板22の支持体としても利用されており、磁気シールドケース21の側面には回路基板22が配置されている。また、カバー28内には、他に複数の回路基板23、24が保持されている。回路基板22、23、24は互いに配線接続されており、かかる回路基板23、24上に、図2に示す信号処理部60が構成されている。
【0030】
(センサ部20の詳細構成)
図4(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明を適用した磁気パターン検出装置100において磁束検出部を構成する磁気センサ素子45の正面図、この磁気センサ素子45に対する励磁波形の説明図、磁気センサ素子45からの出力信号の説明図、および別の磁気センサ素子45の正面図である。図5は、本発明を適用した磁気パターン検出装置100において種類の異なる磁気パターン2が形成された媒体1から磁気パターン2の有無を検出する原理を示す説明図である。なお、図4(a)では、図面に対して垂直な方向で媒体1が移動する状態を示してある。
【0031】
図4(a)に示すように、センサ部20において、磁束検出部40に用いた磁気センサ素子45は、アモルファスあるいはパーマロイからなる薄板状のセンサコア41、このセンサコア41に巻回されたバイアス磁界発生用励磁コイル43、およびコア体に巻回された検出コイル42を備えている。さらに、磁気センサ素子45は、センサコア41にバイアス磁界発生用励磁コイル43とは逆方向に巻回された差動用磁界発生用励磁コイル44を備えている。
【0032】
図2に示すように、バイアス磁界発生用励磁コイル43と差動用磁界発生用励磁コイル44とは直列に接続され、その中点がグランド電位に保持されている。また、バイアス磁界発生用励磁コイル43および差動用磁界発生用励磁コイル44は、励磁回路50から同一位相の交番電流(図4(b)参照)が定電流で印加される。このため、図4(a)に示すように、センサコア41の周りには、バイアス磁界と、このバイアス磁界に対して逆向きの差動用磁界が形成され、検出コイル42からは、図4(c)に示す検出波形の信号が出力されることになる。ここで、図4(c)に示す検出波形は、バイアス磁界および時間に対する微分的な信号であり、かつ、差動用磁界発生用励磁コイル44によって形成された差動用磁界との磁気的な差動に基づく信号である。
【0033】
再び図4(a)において、センサコア41は、検出コイル42が巻回された胴部410と、胴部410の下端部の中央部分から媒体1が位置する下方に突出した第1突部411と、第1突部411とは反対側で胴部410の上端部の中央部分から上方に突出した第2突部412とを備えている。検出コイル42は、センサコア41の胴部410に巻回され、バイアス磁界発生用励磁コイル43は第1突部411に巻回され、差動用磁界発生用励磁コイル44は、第2突部412に巻回されている。ここで、第1突部411および第2突部412の断面積は、胴部410の断面積に比して小さい。このため、検出コイル42は、バイアス磁界発生用励磁コイル43および差動用磁界発生用励磁コイル44より断面積が大きい構成になっている。
【0034】
(検出原理)
このように構成したセンサ部20では、磁界印加部30を媒体1が通過する際、磁界印加部30から磁界が印加され、磁界が印加された後の媒体1は、磁束検出部40を通過する。それまでの間、検出コイル42からは、図3(a3)に示すように、図3(a2)に示すセンサコア41のB−Hカーブに対応する信号が出力される。従って、図2に示す加算回路64および減算回路65から出力される信号は各々、図3(a4)に示す通りである。
【0035】
ここで、フェライト粉などのハード材を含む磁気インキにより第1の磁気パターンが媒体1に形成されていると、かかる第1の磁気パターンは、図3(b1)に示すように、高レベルの残留磁束密度Brを有する。このため、図5(a1)に示すように、磁界印加部30を媒体1が通過した際、第1の磁気パターンは、磁界印加部30からの磁界により、マグネットとなる。このため、検出コイル42から出力される信号は、図3(b2)に示すように、第1の磁気パターンから直流的なバイアスを受けて、図3(b3)および図5(a2)に示す波形に変化する。すなわち、信号S0のピーク電圧およびボトム電圧が矢印A1、A2で示すように、同一の方向にシフトするとともに、ピーク電圧のシフト量とボトム電圧のシフト量が相違する。しかも、かかる信号S0は、媒体1の移動に伴って変化する。従って、図2に示す加算回路64から出力される第1信号S1は、図3(b4)に示す通りであり、磁束検出部40を媒体1の第1の磁気パターンが通過するたびに変動する。ここで、ハード材を含む磁気インクにより形成された第1の磁気パターンは、透磁率μが低いため、信号S0のピーク電圧およびボトム電圧のシフトに影響しているのは、第1の磁気パターンの残留磁束密度Brだけと見做すことができる。それ故、図2に示す減算回路65から出力される第2信号S2は、磁束検出部40を媒体1の第1の磁気パターンが通過しても変動せず、図3(b4)に示す信号と同様である。
【0036】
これに対して、軟磁性ステンレス紛などのソフト材を含む磁気インキにより第2の磁気パターンが媒体1に形成されていると、かかる第2の磁気パターンのヒステリシスループは、図3(c1)に示すように、図3(b1)に示すハード材を含む磁気インクによる第1の磁気パターンのヒステリシスカーブの内側を通り、残留磁束密度Brのレベルが低い。このため、磁界印加部30を媒体1が通過した後も、第2の磁気パターンは、残留磁束密度Brのレベルが低い。但し、第2の磁気パターンは透磁率μが高いため、磁性体として機能する。このため、検出コイル42から出力される信号は、図3(c)に示すように、第2の磁気パターンの存在によって透磁率μが高くなっている分、図3(c3)および図5(b2)に示す波形に変化する。すなわち、信号S0のピーク電圧は矢印A3で示すように高い方にシフトする一方、ボトム電圧は、矢印A4で示すように低い方にシフトする。その際、ピーク電圧のシフト量とボトム電圧のシフト量は絶対値が略等しい。しかも、かかる信号S0は、媒体1の移動に伴って変化する。従って、図2に示す減算回路65から出力される第2信号S2は、図3(c4)に示す通りであり、磁束検出部40を媒体1の第2の磁気パターンが通過するたびに変動する。ここで、ソフト材を含む磁気インクにより形成された第2の磁気パターンは、残留磁束密度Brが低いため、信号のピーク電圧およびボトム電圧のシフトに影響しているのは、第2の磁気パターンの透磁率μだけと見做すことができる。それ故、図2に示す加算回路64から出力される第1信号S1は、磁束検出部40を媒体1の第2の磁気パターンが通過しても変動せず、図3(a4)に示す信号と同様である。
【0037】
(本形態の主な効果)
図6は、本発明を適用した磁気パターン検出装置100を用いて、種類の異なる媒体1から磁気パターンを検出した結果を示す説明図である。
【0038】
以上説明したように、本形態の磁気パターン検出装置100では、加算回路64において磁気センサ素子45から出力される信号のピーク値とボトム値とを加算した第1信号S1は、磁気パターン2の残留磁束密度レベルに対応する信号であり、かかる第1信号S1を監視すれば、ハード材を含む磁気インキにより形成された第1の磁気パターンの有無および形成位置を検出することができる。また、減算回路65において磁気センサ素子45から出力される信号のピーク値とボトム値とを減算した第2信号S2は、磁気パターン2の透磁率μに対応する信号であり、かかる第2信号S2を監視すれば、ソフト材を含む磁気インキにより形成された第2の磁気パターンの有無および形成位置を検出することができる。それ故、磁界を印加したときの残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気パターンの媒体1における磁気パターン2毎の有無および形成位置を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて識別することができる。
【0039】
それ故、ハード材を含む磁気インキにより第1の磁気パターンが形成されている媒体1、およびソフト材を含む磁気インキにより第2の磁気パターンが形成されている媒体1を検査すると、図6(a)、(b)に示す結果を得ることができ、かかる信号パターンを照合すれば、磁気パターン2の有無、種別、形成位置、さらには濃淡を検出することができ、媒体1の真偽を判定することができる。また、第1の磁気パターンおよび第2の磁気パターンの双方が形成されている2つの媒体1を検査すると、図6(c)に示す結果を得ることができ、かかる信号パターンを照合すれば、磁気パターン2の有無、種別、形成位置、さらには濃淡を検出することができ、かかる媒体1についても真偽を判定することができる。
【0040】
また、本形態では、共通のセンサ部20によって、磁気パターン2毎の有無および形成位置を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するため、残留磁束密度レベルの測定と、透磁率レベルの測定との間に時間差が発生しない。それ故、センサ部20と媒体1とを移動させながら計測する場合でも、信号処理部60は、簡素な構成で高い精度の検出を行なうができる。また、搬送装置10についても、センサ部20を通過する箇所のみに走行安定性が求められるだけなので、構成の簡素化を図ることができる。
【0041】
さらに、本形態の磁気パターン検出装置100によれば、ハード材およびソフト材の双方を含む磁気インキにより磁気パターン2が形成されている媒体1や、ハード材とソフト材の中間に位置する材料を含む磁気インキにより磁気パターン2が形成されている媒体1についても、磁気パターン2の検出を行なうことができる。すなわち、磁気特性が第1の磁気パターンと第2の磁気パターンの中間に位置するような磁気パターン2については、図3(d1)に示すように、ヒステリシスループが、図3(b1)に示すハード材の磁気パターンのヒステリシスループと図3(c1)に示すソフト材の磁気パターンのヒステリシスループとの中間に位置するので、図3(d4)に示す信号パターンを得ることができ、かかる磁気パターン2についても、有無や形成位置を検出することができる。
【0042】
また、本形態において、磁気センサ素子45は、バイアス磁界発生用励磁コイル43および差動用磁界発生用励磁コイル44を備えているため、磁気的な差動におり、環境に起因する測定誤差を解消することができ、信号処理が容易である。さらに、センサコア41において、胴部410から突出する第1突部411および第2突部412にバイアス磁界発生用励磁コイル43および差動用磁界発生用励磁コイル44が巻回されている。このため、媒体1に向けてバイアス磁界を効率よく発生させることができるとともに、センサコア41を媒体1に接近させることができるので、感度を向上することができる。しかも、第1突部411および第2突部412の断面積は、胴部410の断面積に比して小さいため、高効率な磁気回路により感度が高い。
【0043】
さらに、センサコア41が薄板状であるため、媒体1上の狭い範囲を検出対象とすることができるので、微細な磁気パターンに十分、対応することができる。しかも、磁気センサ素子45は、その両面が薄板状の非磁性部材48により覆われているため、磁気センサ素子45を薄く構成した場合でも、媒体1との摺動による磨耗を防止することができるなど、磁気センサ素子45の補強を行なうことができる。また、磁気センサ素子45を製造する際、あるいは磁気センサ素子45を磁気パターン検出装置100に搭載する際の作業性を向上することができる。
【0044】
また、センサ部20と媒体1とを相対移動させながら媒体1から磁気パターン2の有無を検出するので、媒体1の搬送方向の全体にわたって磁気パターン2を効率よく検出できる。しかも、センサ部20は、媒体1の搬送方向と交差する方向に複数配置されているので、搬送される媒体1の幅方向における磁気パターン2の有無および形成位置を効率よく検出することができる。なお、センサ部20は、媒体1の搬送方向と交差する方向に複数配置するにあたっては、磁界印加部30については、磁界検出部40に1対1で対応するように幅方向で分割されている構成、および複数の磁界検出部40に対応するように幅方向に一体に延在している構成のいずれを採用してもよい。
【0045】
(その他の構成)
上記形態において用いた磁気センサ素子45において、センサコア41は、図4(a)に示すように、胴部410の上下両端の中央部分から第1突部411および第2突部412が突出し、かかる第1突部411および第2突部412にバイアス磁界発生用励磁コイル43および差動用磁界発生用励磁コイル44が形成されている構成であったが、図4(d)に示すように、胴部410の上下両端の両側に、第1突部411および第2突部412を各々挟むように計4つの第3突部413が形成されている構成を採用してもよい。このように構成すると、閉磁路になる分、透磁率の低い空気中を通る磁束が減るので、感度を向上することができる。
【0046】
また、上記形態では、媒体1とセンサ部20とを相対移動させるにあたって、媒体1の方を移動させたが、媒体1が固定でセンサ部20が移動する構成を採用してもよい。
【0047】
さらに、上記形態では、磁界印加部30に永久磁石を用いたが、電磁石を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明を適用した磁気パターン検出装置の要部を示す説明図、およびそのブロック図である。
【図2】本発明を適用した磁気パターン検出装置のブロック図である。
【図3】本発明を適用した磁気パターン検出装置の原理を示す説明図である。
【図4】(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明を適用した磁気パターン検出装置において磁束検出部を構成する磁気センサ素子の正面図、この磁気センサ素子に対する励磁波形の説明図、磁気センサ素子からの出力信号の説明図、および別の磁気センサ素子の正面図である。
【図5】本発明を適用した磁気パターン検出装置において種類の異なる磁気パターンが形成された媒体から磁気パターンの有無を検出する原理を示す説明図である。
【図6】本発明を適用した磁気パターン検出装置を用いて、種類の異なる媒体から磁気パターンを検出した結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 媒体
10 搬送装置
20 センサ部
30 磁界印加部
40 磁束検出部
41 センサコア
43 バイアス磁界発生用励磁コイル
42 検出コイル
44 差動用磁界発生用励磁コイル
45 磁気センサ素子
60 信号処理部
100 磁気パターン検出装置
410 センサコアの胴部
411、412、413 センサコアの突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体から磁気パターンを検出する磁気パターン検出装置であって、
残留磁束密度および透磁率が異なる複数種類の磁気パターンの前記媒体における磁気パターン毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するための共通のセンサ部と、
前記センサ部から出力される信号から、残留磁束密度レベルに対応する第1信号、および透磁率レベルに対応する第2信号を抽出する信号処理部と、
を有していることを特徴とする磁気パターン検出装置。
【請求項2】
前記センサ部と前記媒体とを相対移動させる搬送手段を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記第1信号、前記第2信号、および前記媒体と前記センサ部との相対位置情報に基づいて、前記媒体における前記複数種類の磁気パターンの有無および形成位置を検出することを特徴とする請求項2に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項4】
前記センサ部は、前記媒体に磁界を印加する磁界印加部と、前記磁界を印加した後の前記媒体にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出する磁束検出部とを備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項5】
前記磁束検出部は、センサコア、該センサコアに巻回されたバイアス磁界発生用励磁コイル、および前記コア体に巻回された検出コイルを備えた磁気センサ素子を有していることを特徴とする請求項4に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項6】
前記磁気センサ素子は、前記センサコアに前記バイアス磁界発生用励磁コイルとは逆方向に巻回された差動用磁界発生用励磁コイルを備えていることを特徴とする請求項5に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項7】
前記バイアス磁界発生用励磁コイルは交番磁界を発生させることを特徴とする請求項5または6に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項8】
前記信号処理部は、前記磁気センサ素子から出力される信号のピーク値とボトム値とを加算して前記磁気パターンの残留磁束密度レベルに対応する前記第1信号を抽出する加算回路と、前記ピーク値と前記ボトム値とを減算して前記磁気パターンの透磁率レベルに対応する第2信号を抽出する減算回路とを備えていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項9】
前記センサコアは、前記検出コイルが巻回された胴部と、該胴部から前記媒体が位置する側に突出した突部とを備え、
前記突部に前記バイアス磁界発生用励磁コイルが巻回されていることを特徴とする請求項5乃至8の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項10】
前記突部の断面積は前記胴部の断面積に比して小さいことを特徴とする請求項9に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項11】
前記センサコアは、薄板状であることを特徴とする請求項5乃至10の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項12】
前記磁気センサ素子は、その両面が非磁性部材により覆われていることを特徴とする請求項11に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項13】
前記磁気パターンは、ハード材を含む磁気インキまたは/およびソフト材を含む磁気インキを用いて印刷されてなることを特徴とする請求項1乃至12の何れか一項に記載の磁磁気パターン検出装置。
【請求項14】
前記センサ部は、前記媒体の搬送方向と交差する方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1乃至13の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−163336(P2009−163336A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340031(P2007−340031)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】