説明

磁気印刷方法

【課題】微細な線画パターンの表示部を印刷層に鮮明に且つ立体的に形成せしめることの出来る実用的な磁気印刷方法を提供すること。
【解決手段】フィルム状乃至はシート状の被印刷物の被印刷面に対して、偏光性を有する磁性体顔料を含むインキを用いて印刷する一方、かかる被印刷物に対して磁石を配置して、かかる磁石の作用にて被印刷物の被印刷面に形成された印刷層中の磁性体顔料を配向させることにより、印刷層に所望の表示部を立体的に形成せしめるに際して、磁石として、一方の面側がN極、他方の面側がS極となるように着磁されてなる両面2極型のシート状磁石を用い、それから切り出されてなる形態の文字、図形、記号等の表示パターンが、前記被印刷物に対向位置するように配置されて、表示パターンに対応した表示部が印刷層に現出されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気印刷方法に係り、特に、所定の磁性体を含むインキを用いて印刷して得られる被印刷物の印刷層に、磁石の作用によって、所望の表示部を立体的に且つ鮮明に有利に形成せしめ得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗料中に含有せしめた粉末状の磁性材料を、磁石による磁力乃至は磁界によって配向させて、光の透過量に濃淡を生じさせることにより、塗膜中に立体感と深み感のある模様を形成することからなる、塗膜の模様付け手法が、種々検討されて来ている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、非磁性材料により構成された被塗物の裏面に磁石を取り付けた後に、粉末状磁性材料を含有するベース塗料を、被塗物の表面に塗布し、そして所定の時間が経過した後に、磁石を被塗物から取り外し、次いで、そのベース塗料上にクリア塗料を塗布した後に、それらベース塗料及びクリア塗料を乾燥させることからなる模様塗膜の形成方法が明らかにされており、また特許文献2においては、被塗装品の表面上に、多数の微細なフレーク状の磁性体を含む塗料を塗装して、模様を形成する方法であって、かかる被塗装品の表面に所定の模様又はパターンに従って磁場を予め形成する一方、揮発性の溶媒によって液状化した透明な塗料中に多数の微細なフレーク状の磁性体を略均一状に混在せしめた塗料を、前記磁場中に塗布することを特徴とする磁気塗装方法が、明らかにされている。
【0004】
さらに、そのような磁気を用いた模様塗膜の形成に際して用いられる塗料や顔料についても、種々なる提案がなされて来ている(特許文献3、4等参照)。
【0005】
しかしながら、そのような模様塗膜の形成に際しては、目的とする模様に対応した磁界(磁力線)が形成され得るように、そのような模様に対応したパターンを有する磁石を用いて、それを被塗装物の一方の面側に配置する必要があるところ、目的とする模様を現出させるべく、固形の磁石をパターン化する場合においては、フェライト磁石等の削出しによって、目的とする形状に加工する方法の他、磁石焼結時に成形用の型を独自に作製する方法や、電磁石を使用する方法等が考えられるのであるが、その何れの方法においても、目的とするパターンの形成には、著しい手間と費用がかかり、パターン作製の自由度も必然的に低くなることに加えて、比較的に微細なパターン、特に、文字や図形、記号等の小さな表示部の形成は、極めて困難なものであった。
【0006】
また、そのような磁石の一つとして、可撓性のあるマグネットラバーやマグネットシートの使用も明らかにされてはいる(特許文献5参照)ものの、そのようなシート状の磁石は、何れも、強い磁着力を確保するために、一般に、多極の縞状磁極が着磁されてなる片面多極着磁形態乃至は両面多極着磁形態とされているところから、そのようなシート状磁石を用いると、その多極の縞状磁極に対応して生じる磁界に対応した縞状模様が発現されるようになるのであって、そのため、仮に、そのようなシート状磁石を切り出して得られる表示パターンを用いたところで、それによって現出される模様形状の境界や直線形態等は明確とならず、特に、文字、図形、記号等の表示パターンに対応した表示部を、鮮明に現出させることは、極めて困難であった。
【0007】
このため、従来の磁気塗装技術に従って、塗装により形成される塗膜において大きな模様の立体的な現出が可能とされても、その磁気塗装技術をそのまま適用して、印刷物の印刷層において、文字、図形、記号等の小さな表示部を磁石の作用によって実用的な程度において明確に現出させることは望むべくもなかったのであり、そこに磁気印刷法を実用化する上において大きな問題があったのである。
【0008】
【特許文献1】特開平5−345165号公報
【特許文献2】特開平5−228428号公報
【特許文献3】特開2002−363440号公報
【特許文献4】特開2003−176452号公報
【特許文献5】特開2006−281011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、微細な線画パターンの表示部を、印刷層に鮮明に且つ立体的に形成せしめることの出来る、実用的な磁気印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、上記した課題又は明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいても採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて認識されるものであることが、理解されるべきである。
【0011】
(1) フィルム状乃至はシート状の被印刷物の被印刷面に対して、偏光性を有する磁性体顔料を含むインキを用いて印刷する一方、該被印刷物に対して磁石を配置して、かかる磁石の作用にて該被印刷物の被印刷面に形成された印刷層中の前記磁性体顔料を配向させることにより、該印刷層に所望の表示部を立体的に形成せしめるに際して、前記磁石として、一方の面側がN極、他方の面側がS極となるように着磁されてなる両面2極型のシート状磁石を用い、それから切り出されてなる形態の文字、図形、記号等の表示パターンが、前記被印刷物に対向位置するように配置されて、該表示パターンに対応した前記表示部が、前記印刷層に現出されるようにしたことを特徴とする磁気印刷方法。
【0012】
(2) 前記被印刷物の印刷が、スクリーン印刷にて行なわれることを特徴とする上記態様(1)に記載の磁気印刷方法。
【0013】
(3) 前記インキが紫外線硬化型インキであり、前記表示パターンに対応した表示部が形成された後、前記印刷層が紫外線照射により硬化せしめられることを特徴とする上記態様(1)又は(2)に記載の磁気印刷方法。
【0014】
(4) 前記インキが蒸発乾燥型インキであり、前記表示パターンの配設によって該表示パターンに対応した表示部が形成された状態において、前記印刷層が乾燥せしめられることを特徴とする上記態様(1)又は(2)に記載の磁気印刷方法。
【0015】
(5) 前記表示パターンが、前記シート状磁石をカッティングマシーンにてカッティングすることにより形成されることを特徴とする上記態様(1)乃至(4)の何れか一つに記載の磁気印刷方法。
【0016】
(6) 前記表示パターンが、着磁前のシート状磁石から該表示パターンを与える形状に切り出された切断物に対して、両面2極型となるように着磁操作が施されることによって、形成されたものであることを特徴とする上記態様(1)乃至(5)の何れか一つに記載の磁気印刷方法。
【0017】
(7) 前記表示パターンの複数が支持シートに貼り付けられて保持され、そして該表示パターンを貼り付けた支持シートが、前記被印刷物に対向位置するように配置されることを特徴とする上記態様(1)乃至(6)の何れか一つに記載の磁気印刷方法。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に従う磁気印刷方法にあっては、一方の面側がS極、他方の面側がN極となるように着磁されてなる両面2極型のシート状磁石から切り出されてなる形態の文字、図形、記号等の表示パターンを用いて、それを被印刷物の被印刷面に形成された印刷層に対して対向位置せしめ、そして、そのような表示パターン(磁石)から生じる磁界によって、印刷層中の磁性体顔料を配向させるようにすることにより、かかる印刷層に、前記表示パターンに対応した目的とする表示部が、立体的に形成されることとなると共に、そのような表示パターンが両面2極型のシート状磁石にて構成されていることにより、その被印刷物に対する対向面の全面がS極又はN極からなる単一極として磁界が形成されることとなるために、表示パターンの周縁部において連続した磁界が形成され、以て、印刷層中における磁性体顔料の配向が乱されることがないところから、実用上において充分に満足し得る鮮明な線画パターンにて、目的とする表示部が現出せしめられ得ることとなるのである。
【0019】
しかも、かかる本発明において磁石として用いられる、両面2極型のシート状磁石は、可撓性で、切断の容易な、比較的薄い厚さのシートとして提供されるものであるところから、その切断操作によって、目的とする形状の表示パターンが自由に切り出され得るのであり、以て、パターン作製の自由度が著しく高められ得ることとなった他、微細な文字、図形、記号等の表示パターンにあっても、切断可能な限度において、それを容易に切り出すことが可能となり、パターン作製のコストにおいても、著しく低減せしめ得ると共に、そのような微細な表示パターンを用いても、それによって実現される線画パターンを、鮮明に且つ容易に再現することが出来ることとなり、以て、ここに実用的に有用な磁気印刷手法が実現され得たのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ところで、かくの如き本発明に従う磁気印刷方法は、例えば、図1に示される如き流れに従って、実施されることとなる。
【0021】
先ず、そこにおいて、被印刷物としては、従来から印刷用として通常に用いられているフィルム状乃至はシート状の素材がそのまま用いられ得、具体的には、ポリエステル、アクリル、ポリカーボネート、ABS、ポリオレフィン、ポリアミド等のプラスチック材質のフィルムやシートを適宜に用いることが出来るのである。また、被印刷物は、一般に、その裏面側に印刷層が形成され、表面側から印刷層(表示部)を見ることとなるところから、透明なものであることが望ましいものではあるが、その表面側に印刷層が形成される場合にあっては、不透明なものであっても、何等差支えない。なお、そのような被印刷物の厚さも、公知の範囲内において、用途に応じて、適宜に選定されることとなる。
【0022】
また、かかる被印刷物の被印刷面を印刷するために用いられる、偏光性を有する磁性体顔料を含むインキにあっても、従来から公知のものが適宜に選択使用され、例えば、通常の透明な印刷用インキに対して、所定の磁性体顔料を均一に配合せしめてなるものを用いることが出来る。ここで、偏光性を有する磁性体顔料としては、先の特許文献にも明らかにされている如き公知の各種のものが適宜に採用され、一般に、微細なフレーク状、特に薄板状の磁性体が、好ましく用いられることとなる。また、その材質は、鉄、ニッケル、コバルト又はそれらの合金等の強磁性体の他、ビスマス、アンチモン、銅、亜鉛等の半磁性体であっても何等差支えなく、更には、酸化鉄等の金属酸化物の粉末も有効に用いられ得る他、それら磁性材料にてフレーク状の粒子を被覆したもの、或いはそれら磁性材料に、メッキを施したものや、塗料で着色したもの等も、使用可能である。なお、そのような磁性体顔料は、一般に、長手方向の大きさが0.5〜100μm程度、平均厚みが30〜500nm程度の大きさのものである。
【0023】
さらに、そのような偏光性を有する磁性体顔料は、通常の透明な印刷用インキ、好ましくは紫外線(UV)硬化型インキや蒸発乾燥型インキに、均一に分散含有せしめられることとなるのであるが、その配合量としては、一般に、インキ中の樹脂重量の1/3〜2/3程度の割合とされることとなる。その配合量が、インキ中の樹脂重量に対して1/3よりも少なくなると、隠蔽性が乏しくなり、下地色の影響を大きく受けるようになるからであり、また樹脂重量の2/3よりも多くなると、後述するシート状磁石を用いた配向に基づくところの濃淡効果が低下し、ひいては表示部の明確性乃至は視認性において、充分な効果を発揮することが困難となる恐れがある。
【0024】
そして、前記したフィルム状乃至はシート状の被印刷物の一方の面である被印刷面に対して、上記した磁性体顔料を含むインキを用いて、公知の印刷手法に従って、所定の印刷が施されることとなるのであるが、その際、印刷手法としては、スクリーン印刷が有利に採用され、また被印刷物の被印刷面は、目的とする表示部が現出される領域を少なくとも含む所定領域において、或いはその全領域において、ベタ印刷されて、所定の印刷層が形成されるのである。
【0025】
一方、本発明において用いられるシート状磁石は、ゴム、プラスチック等に所定の磁性体を分散させて、シート状に形成したものであって、一般的には、ゴム磁石、プラスチック磁石等の可撓性磁石、所謂ボンド磁石と称されるものであるが、特に、本発明にあっては、そのようなボンド磁石の中でも、一方の面側がN極、他方の面側がS極となるように着磁されてなる両面2極型のシート状磁石にて構成される、文字、図形、記号等の表示パターンを用いるところに、大きな特徴を有しているのである。
【0026】
すなわち、かかる表示パターンは、具体的には、一方の面側がN極、他方の面側がS極となるように着磁されてなる両面2極型のシート状磁石から、適当な切断手段を用いて、目的とする大きさの文字や図形、記号等の所望形状のものを切り出すことにより、容易に得ることが出来る他、着磁前のシート状磁石を用い、それから目的とする表示パターンを与える形状のものを切り出した後、更にその切出し物に対して、上述の如き両面2極型となるように着磁操作を施すようにすることによって、形成することも可能である。
【0027】
このように、表示パターンの形成は、シート状磁石からの切出しによって行なわれるものであるところから、その作製作業が極めて容易となることに加えて、そのようなパターン作製の自由度が著しく高められ、以て、そのようなパターン形成コストを有利に低減せしめ得ることとなったのである。特に、シート状磁石の切出しは、手作業にて行ない得ることは勿論、適当な切断装置、例えば公知のカッティングマシーンを用いたカッティング操作により、機械的に、また自動的に行ない得るものであるが、特に、そのようなカッティングマシーンのカッティング操作をソフトウェアによって自動化することも可能であり、それによって、目的とする表示パターンが、正確に且つ生産性良く得ることが可能となるのである。
【0028】
なお、そのようなシート状磁石の厚さとしては、その磁石としての作用(磁気力の強さ)等を考慮しつつ、所望の形状の表示パターンを切断手段にて容易に切り出し得る厚さが選定されることとなるが、一般に、10mm程度以下、好ましくは5mm程度以下の厚さのシート状磁石が用いられることとなる。また、その下限の厚さにあっても、充分な磁気力を作用せしめ得るように、一般に、0.1mm程度以上、好ましくは0.3mm以上の厚さのものが用いられることとなる。このような厚さのシート状磁石は、種々市販されており、それら市販品の中から、適宜に選択することが可能であるが、最終的には、両面2極型のシート状磁石となるように、着磁操作が施される必要がある。
【0029】
次いで、かくして得られた表示パターンは、前記した被印刷物に対して対向位置するように配置せしめられて、かかる表示パターン(磁石)の磁力が、被印刷物上に形成される印刷層に対して作用せしめられ、以て、目的とする表示パターンに対応した表示部が印刷層に現出せしめられることとなるのであって、その一例が、図2に示されている。そこでは、表示パターン2が、シート状の被印刷物4の下面(表面)側に相対的に重ね合わされて、当接するように対向配置せしめられるようになっており、またシート状の被印刷物4の被印刷面となる上面(裏面)側には、所定厚さにおいて、前記した本発明に従う印刷層6が形成されている。なお、この印刷層6は、未だ乾燥乃至は硬化させられておらず、そのために、印刷層6を与えるインキ中に含有せしめられた偏光性を有する磁性体顔料8が、そのような印刷層6中において動き得る状態となっている。
【0030】
従って、そのような未だ乾燥乃至は硬化させられていない印刷層6に対して、表示パターン2の磁力を作用させると、図3に概念図として示されるように、印刷層6中の磁性体顔料8が、表示パターン2から生じる磁力線乃至は磁束の方向に配列せしめられて、配向され、そしてその状態において、印刷層6が乾燥乃至は硬化せしめられることによって、そのような磁性体顔料6の配向形態が固定され、以て、表示パターン2に対応した表示部が、印刷層6に現出されることとなるのである。
【0031】
すなわち、図3に示される如き配位形態において、磁性体顔料8が印刷層6内において固定されると、かかる図3において、被印刷物4の表面側となる下方から見たとき、磁性体顔料8が上下方向に配列している印刷層6における左右方向の中央部位では光が通り易く、一方、その左右方向の両側部位においては磁性体顔料8が傾斜して、下方から入射された光を反射するようになるところから、印刷層6の中央部位とその両側部位との間に濃淡差が惹起されることとなるのであり、これによって、対向配置された表示パターン2に沿った形態において、色調の濃淡差に基づくところの表示部が現出されることとなるのであり、以て、文字、図形、記号等の形状を有する表示パターン2に対応した形状を濃淡差にて表現してなる表示部が、形成されることとなるのである。
【0032】
また、そのような印刷層6における磁性体顔料8の配位を行なう表示パターン2は、両面2極型のシート状磁石にて構成されていることによって、シート状の被印刷物4に対向する一方の面側が、全面に亘って単一極(ここでは、N極)とされているのであって、このために、表示パターン2のエッジ部(周縁部)において、磁力線乃至は磁束が途切れることがなく、そのために、印刷層6中の磁性体顔料8の配位形態も、表示パターン2のエッジ部に沿って均一な配位形態となるところから、表示パターン2に対応して形成される濃淡差に基づくところの表示部の輪郭が、効果的に明確と為され得て、鮮明な線画パターンが、効果的に形成されるようになるのである。
【0033】
なお、このような表示パターン2の対向配置による、被印刷物4上の印刷層6における磁性体顔料8の配位のためには、印刷層6が乾燥乃至は硬化せしめられて、固化するまでの間、表示パターン2による磁力の作用下に保持せしめる必要があるが、そのような表示パターン2の対向配置は、シート状被印刷物4に対する印刷層6形成のための印刷操作に先立って、或いはその途中において行なうことが出来る他、そのような印刷の後において行なうことも可能である。
【0034】
例えば、印刷層6を形成するために、紫外線(UV)硬化型インキが用いられる場合にあっては、表示パターン2が被印刷物4に対向配置されて、かかる被印刷物4上に形成した印刷層6中の磁性体顔料8が配向せしめられ、そしてこの表示パターン2に対応した表示部が形成された後に、印刷層6が、紫外線(UV)照射によって硬化せしめられて、目的とする表示部が完成させられることとなるのである。このような紫外線硬化型インキの使用は、その硬化までに充分な作業時間を採ることが出来るために、表示パターン2による磁性体顔料8の配向作業を有利に進行させる上において利点を有する。
【0035】
また、印刷層6の形成のために、蒸発乾燥型(溶剤型)インキが用いられる場合にあっては、表示パターン2の配設によって、シート状の被印刷物4上に形成された印刷層6中の磁性体顔料8が配向せしめられて、かかる表示パターン2に対応した表示部が形成された状態において、印刷層6を加熱等によって乾燥せしめることにより、その形成された表示部を固定して、それが完成せしめられるのである。そして、表示パターン2は、そのような印刷層6の乾燥による固化が終了した後、取り外されることとなるのである。
【0036】
かくして得られた印刷製品にあっては、その印刷層6における磁性体顔料8の配向によって、表示パターン2に対応した、目的とする表示部が、明確な輪郭を有する鮮明な線画パターンにおいて、またシート状磁石から切り出され得る可及的に小さな大きさ乃至は形状において、効果的に現出されることとなるのであるが、また、そのような印刷製品においては、そのシート状被印刷物4が透明である場合にあっては、その印刷層6の上に、更に、黒色乃至は濃色の押え印刷層が設けられ、これによって、表示部のより一層の立体感や鮮明な表示を得ることが出来ることとなる。
【0037】
ところで、上述した本発明に従う磁気印刷方法の一つの具体例が、図4〜図6に示されている。
【0038】
それらの図において、先ず、図6に示される印刷製品を得るべく、0.4mmの厚さを有する両面2極型のシート状磁石(名古屋磁石株式会社製異方性マグネットシート・タイプE)から、図4(a)に示される如き、「M−COLOR」からなる文字パターン(文字数:7)10と、図4(b)に示される如き、長円形状の図形パターン12が、それぞれ切り出された。なお、それら文字パターン10や図形パターン12の切出しのための切断装置としては、ソフトウェアによって自動的に目的とするパターンのカッティングが可能なカッティングマシーンである、株式会社ミマキエンジニエアリング製カッティングプロッター(CF2シリーズ)が用いられた。
【0039】
また、かかる文字パターン10と図形パターン12とは、図4(c)に示される如く、図形パターン12が下方に位置するようにして組み合わされ、目的とする表示部を与える組合せパターン14が構成された。なお、ここでは、文字パターン10の配置及びそれと図形パターン12との間の固定を行なうために、それらパターン間に両面テープ16が介在せしめられて、取扱いの容易な一体的なパターンとして、構成されている。
【0040】
一方、印刷インキとしては、市販のUVインキに対して、偏光性磁性体顔料(独国:エカルト社製STAPA TA Ferricon 200)を配合して、均一に分散せしめたものが用いられ、これを、透明なポリエステルフィルムの片面に、スクリーン印刷によりベタ印刷することによって、図5に示される如き、ポリエステルフィルム18上に所定厚さのベタ印刷層20が形成されてなる印刷未硬化物22が形成された。
【0041】
そして、図5に示されているように、かかる印刷未硬化物22に対して、その下面側に、先に作製された組合せパターン14を相互に対向位置するように配置せしめて、かかる組合せパターン14の磁力を印刷未硬化物22上のベタ印刷層20に作用させることにより、そのようなベタ印刷層20中の磁性体顔料の配向を行なった。なお、ここでは、組合せパターン14の磁力を有効に印刷未硬化物22に作用せしめ得るように、印刷未硬化物22と組合せパターン14とが密接するように重ね合わせて配置された。また、組合せパターン14における文字パターン10は、図示の如く、鏡文字とされて、ポリエステルフィルム18の裏面側に形成されるベタ印刷層20に対して、その磁力の作用が及ぼされるようになっており、これによって、ポリエステルフィルム18のベタ印刷層20が形成されていない側(表面側)から見たとき、正しい文字形態及び配列となるようになっている。
【0042】
次いで、上述の如く配置された組合せパターン14にて作用せしめられる磁力によって、印刷未硬化物22のベタ印刷層20における磁性体顔料が配向させられた後、そのような組合せパターン14を取り外し、その後、直ちに、UV照射を行なって、ベタ印刷層20の硬化を行なった。これにより、磁性体顔料の配向状態を固定し、立体効果の得られたパターンがそのまま保存されるようにすることによって、目的とする印刷製品が完成せしめられたのである。なお、ここでは、ベタ印刷層20の上に、更に黒色の押え印刷が施され、以て、現出された表示パターンが強調されるようになっている。かくして、図6に示される如き、立体感があり且つ鮮明な線画パターンを与える表示部を有する印刷製品が、完成されたのである。
【0043】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述して来たが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0044】
例えば、上記の実施形態においては、被印刷物4(ポリエステルフィルム18)の裏面側に、印刷層6(ベタ印刷層20)が形成されて、そのような印刷層の設けられていない側が表面側となるように、表示パターン2(特に、文字パターン10)の配置形態が考慮されているが、そのような印刷層6を、被印刷物4(ポリエステルフィルム18)の表面側に設けてなる形態とすることも可能であり、用途に応じて、目的とする印刷層の配設形態が、適宜に選択されることとなる。
【0045】
また、シート状磁石から切り出される表示パターン2にあっても、図4に示される如きポジ型の文字パターン10や図形パターン12の他、図7に示される如きネガ型の文字パターン24や図形パターン26を用いることも可能である。それらネガ型の文字パターン24や図形パターン26は、シート状磁石28に対して、文字、図形、記号等の表示パターン対応部分を打ち抜いた後、その打ち抜かれたシート状磁石28を、例えば、その縦横の切断線30a,30bをもって切り離すことによって得られる所定形状(ここでは、長方形状)のシート状のものである。
【0046】
さらに、表示パターン2の構成にあっても、図4に示される如きポジ型のパターン(10,12)を単独で或いは組み合わせて、それらの積層形態において用いる場合の他、ネガ形態のパターン(24,26)を組み合わせて用いることも可能であり、更には、ポジ型のパターンとネガ型のパターンとを組み合わせて用いることが可能であり、例えば、図8に示されるように、ネガ型の図形パターン26に設けた長孔26a内に、文字パターン10を配置せしめてなる形態において、構成することも可能である。
【0047】
更にまた、意匠性を高める等の目的より、インキや被印刷物4(ポリエステルフィルム18)は、着色されていても、何等差支えないが、特に、インキにあっては、磁性体顔料を除くインキのベース部分としては、透明なものが好適に用いられることとなる。
【0048】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変形、修正、改良等を加えた態様において、実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に従う磁気印刷方法の一例を示す工程図である。
【図2】図1に示される工程図における被印刷物と表示パターンの対向配置の形態を示す断面説明図である。
【図3】図1に示される工程図における印刷層中の磁性体顔料の配向形態を断面で示す概念図である。
【図4】本発明の一具体例において用いられる表示パターンを示すものであって、(a)は、文字パターンの平面形態説明図、(b)は、図形パターンの平面形態説明図、(c)は、文字パターンと図形パターンとを組み合わせ、積層してなる構造の組合せパターンの平面形態説明図である。
【図5】図4(c)に示される組合せパターンを用いて、それを印刷未硬化物に対して配置せしめる形態を示す説明図である。
【図6】図5に示される配置形態において得られた印刷製品の正面形態(平面形態)を示す写真である。
【図7】表示パターンの他の一つの切出し形態を示す平面説明図である。
【図8】表示パターンの更に別の組合せ形態を示す平面説明図である。
【符号の説明】
【0050】
2 表示パターン 4 シート状被印刷物
6 印刷層 8 磁性体顔料
10,24 文字パターン 12,26 図形パターン
14 組合せパターン 16 両面テープ
18 ポリエステルフィルム 20 ベタ印刷層 22 印刷未硬化物 26a 長孔
28 シート状磁石 30a,30b 切断線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状乃至はシート状の被印刷物の被印刷面に対して、偏光性を有する磁性体顔料を含むインキを用いて印刷する一方、該被印刷物に対して磁石を配置して、かかる磁石の作用にて該被印刷物の被印刷面に形成された印刷層中の前記磁性体顔料を配向させることにより、該印刷層に所望の表示部を立体的に形成せしめるに際して、
前記磁石として、一方の面側がN極、他方の面側がS極となるように着磁されてなる両面2極型のシート状磁石を用い、それから切り出されてなる形態の文字、図形、記号等の表示パターンが、前記被印刷物に対向位置するように配置されて、該表示パターンに対応した前記表示部が、前記印刷層に現出されるようにしたことを特徴とする磁気印刷方法。
【請求項2】
前記被印刷物の印刷が、スクリーン印刷にて行なわれることを特徴とする請求項1に記載の磁気印刷方法。
【請求項3】
前記インキが紫外線硬化型インキであり、前記表示パターンに対応した表示部が形成された後、前記印刷層が紫外線照射により硬化せしめられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気印刷方法。
【請求項4】
前記インキが蒸発乾燥型インキであり、前記表示パターンの配設によって該表示パターンに対応した表示部が形成された状態において、前記印刷層が乾燥せしめられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気印刷方法。
【請求項5】
前記表示パターンが、前記シート状磁石をカッティングマシーンにてカッティングすることにより形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の磁気印刷方法。
【請求項6】
前記表示パターンが、着磁前のシート状磁石から該表示パターンを与える形状に切り出された切断物に対して、両面2極型となるように着磁操作が施されることによって、形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の磁気印刷方法。
【請求項7】
前記表示パターンの複数が支持シートに貼り付けられて保持され、そして該表示パターンを貼り付けた支持シートが、前記被印刷物に対向位置するように配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の磁気印刷方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−90624(P2009−90624A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266397(P2007−266397)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(592162564)株式会社ミノグループ (11)
【Fターム(参考)】