説明

磁気変速機組立体

【課題】モーター又は発電機との一体化に適合した磁気変速機組立体を提供する。
【解決手段】本磁気変速機組立体は回転子と固定子と磁気伝導要素とを備える。該回転子と該固定子は同軸で一方が他方をスリーブ状に覆い、それぞれR個の極対とST1個の極対を有する。該磁気伝導要素は該回転子と該固定子の間に配置され複数の透磁性領域を有する。該磁気伝導要素が駆動された時、該磁気伝導要素は選択的にPN1又はPN2個の透磁性領域が該回転子及び該固定子に対応するのを可能にする。該回転子及び該固定子に対応する該透磁性領域は、該R個の極対とST1個の極対の磁界と相互作用して所定の可変速度比を生成する。この磁気変速機組立体はモーターに組み込むことが出来、駆動動力密度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機組立体、特に、磁気変速機組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
変速装置は動力伝達及び伝動に使用できるだけでなく、動力源の回転を加速又は減速する機能も有している。従来の自動車エンジンに適用される変速装置には機械式変速機と液圧式変速機とがある。磁気変速装置は電気自動車又はハイブリッド自動車に適用される。
【0003】
可変速モーター技術に関しては、特許文献1を参照すると、モーターからの動力出力は機械式変速機組立体を介して伝達され、トルク変換及び伝動が実現されると記載されている。
【0004】
また、特許文献2及び特許文献3は、誘導電動機の固定子の極数を変えることで可変速伝動を実現する方法を開示する。
【0005】
磁気変速装置に関する技術については、非特許文献1を参照されたい。
【0006】
機械式変速装置は高いノイズレベルと重い重量という欠点を有している。通常の磁気変速装置は低減された震動とノイズレベルを有しているが、これも重量は低減できない。また、電気自動車に適用された場合、電気モーターは様々な出力トルクと走行速度との要件を満たす必要があるだけでなく、高性能動作の要件を満たす必要がある。従って、モーターは変速装置と通常組み合される。このような組合せでは、モーターと変速装置との全重量が重いので、モーターと変速装置との全体駆動動力密度を向上させるのはかなり困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3980937号明細書
【特許文献2】米国特許第5825111号明細書
【特許文献3】米国特許第7598648号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K. Atallah and D. Howe, "A Novel High-Performance Magnetic Gear", IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 37, No. 4, July, 2001
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題に鑑みて、磁気変速機組立体を開示する。この磁気変速機組立体はモーター(例えば、電気モーター)又は発電機に容易に組み込まれて軽量設計を実現できる。一体になったモーターは駆動動力密度を向上させる。
【0010】
1つの実施形態によれば、磁気変速機組立体は回転子と固定子と磁気伝導要素(透磁性要素とも称す)とを備える。該回転子は該固定子と同軸で該固定子によりスリーブ状に覆われる。該回転子は複数の極とR個の極対を有する。該固定子は複数の極とST1個の極対を有する。該磁気伝導要素は該回転子と該固定子の間に配置され、複数の透磁性領域を有する。該磁気伝導要素が駆動された時、該磁気伝導要素は選択的にPN1又はPN2個の透磁性領域を該回転子及び該固定子に対応させ、PN1−3≦R+ST1≦PN1+3またはPN2−3≦R+ST1≦PN2+3を満たす。
【0011】
前記磁気伝導要素の1つの実施形態によれば、磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備える。該第1リングと該第2リングは軸方向に接続される。該第1リングはPN1個の透磁性ブロックを有する。該第2リングはPN2個の透磁性ブロックを有する。該磁気伝導要素が軸方向に駆動された時、該磁気伝導要素は選択的に該第1リング又は該第2リングが前記回転子と前記固定子の間の位置に移動するのを可能にする。
【0012】
前記磁気伝導要素の第2の実施形態によれば、磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備える。該第1リングは該第2リングの半径方向外側に配置され、該第1リングと該第2リングは前記固定子と前記回転子の間に配置される。該磁気伝導要素が駆動された時、該第1リングと該第2リングは第1位置と第2位置の間を相対的に移動する。該第1リングと該第2リングが該第1位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN1個の透磁性領域を有する。該第1リングと該第2リングが該第2位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN2個の透磁性領域を有する。
【0013】
別の実施形態によれば、前記固定子は複数の誘導コイルと極数変調回路とを備える。該各誘導コイルは通電されると極を形成し、該極数変調回路は前記複数の誘導コイルを選択的にST1個の極対とST2個の極対に切り替える。ここで、PN2−3≦R+ST2≦PN2+3を満たす。
【0014】
更に別の実施形態によれば、磁気変速機組立体は回転子と固定子と磁気伝導要素とを備える。該固定子は複数の極を有し、該複数の極はR個の極対を有する。該固定子は該回転子と同軸で該回転子をスリーブ状に覆い、複数の極を有する。該固定子の該複数の極はST1個の極対を有する。該磁気伝導要素は該回転子と該固定子の間に配置され、PN1個の透磁性領域を有する。該PN1個の透磁性領域は該回転子及び該固定子に対応する。PN1−3≦R+ST1≦PN1+3を満たす。
【0015】
上記のように、該磁気伝導要素は該固定子と該回転子の間に配置され、該透磁性領域の数を選択的に変える(従って、磁気ギャップの数も変える)ことが出来る。従って、この磁気変速機組立体は、固定子と回転子の間で様々な可変速度比(固定子の回転速度と回転子の回転速度との比)を生成することが出来る。また、別の実施形態では、固定子が可変極対を有するように設計して、透磁性要素と回転子を組み合わせることでも、様々な可変速度比を実現できる。透磁性要素、固定子、回転子はそれぞれ中空環状形であるので、磁気変速機組立体全体は体積と重量が小さく、容易に電気モーターに組み込むことが出来る。その結果、一体になったモーターの駆動動力密度(W/Kg又はW/m3)は増加する。
【0016】
本発明のこれら及び他の態様は、添付の図面と好適な実施形態の下記の説明から明らかになるであろう。しかし、それらの変形と変更を本発明の新規の着想の思想と範囲を逸脱することなく行える可能性がある。
本発明は、下記の詳細な説明からより完全に理解されるであろう。下記の説明は例示だけのためであり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る磁気変速機組立体の第1実施形態の3次元概略構造図である。
【図2】本発明に係る磁気変速機組立体の第1実施形態の3次元概略展開図である。
【図3】本発明に係る磁気変速機組立体の第1実施形態の固定子の極対を例示する概略図である。
【図4A】本発明に係る磁気変速機組立体の第1実施形態の磁気伝導要素の断面図である。
【図4B】図4Aの磁気伝導要素の第1実施形態の部分拡大断面図である。
【図4C】図4Aの磁気伝導要素の第1実施形態の別の部分拡大断面図である。
【図5A】本発明に係る磁気変速機組立体の固定子の別の実施形態の概略巻線図である。
【図5B】図5Aの固定子の実施形態の動作を例示する概略図である。
【図6】図5Aと図5Bの間の極対の切替えを例示する概略図である。
【図7A】本発明に係る磁気変速機組立体の磁気伝導要素の第2実施形態の概略図である。
【図7B】本発明に係る磁気変速機組立体の磁気伝導要素の第2実施形態の概略図である。
【図7C】本発明に係る磁気変速機組立体の磁気伝導要素の第2実施形態の概略図である。
【図8】本発明に係る磁気変速機組立体の磁気伝導要素の第3実施形態の概略図である。
【図9】本発明に係る磁気変速機組立体の第2実施形態の3次元概略展開図である。
【図10A】本発明に係る磁気変速機組立体の磁気伝導要素の第4実施形態の概略図である。
【図10B】図10Aの10B−10B線に沿った部分断面図である。
【図10C】図10Bの概略状態図である。
【図11A】本発明に係る磁気変速機組立体の磁気伝導要素の第4実施形態の概略図である。
【図11B】図11Aの11B−11B線に沿った部分断面図である。
【図11C】図11Bの概略状態図である。
【図11D】図11Bの別の概略状態図である。
【図12】本発明を適用した分相モーターの概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1と図2は本発明の1つの実施形態に係る3次元概略構造図と3次元展開図である。図から分かるように、磁気変速機組立体は、回転子20、固定子30、及び磁気伝導要素40(磁気変速機要素とも称す)を備える。この磁気変速機組立体はモーター(例えば、電気モーター)又は発電機との一体化に適している。例えば、磁気変速機組立体を電気自動車の電気モーターと一体化し、モーター駆動部が電気を磁気変速機組立体に出力すると、磁気変速機組立体は回転動力を回転子において生成し、同時に該モーター駆動部は磁気変速機組立体の可変速度比を適切に制御して、該磁気変速機組立体が様々な大きさの動力(動力=出力トルク×回転速度)を出力できる。磁気変速機組立体はモーターと変速装置の両方の機能を有するので、全体積及び重量が小さく、高い駆動動力密度を得ることが出来る。ここで、駆動動力密度は、これらに限定されないが出力動力/体積または出力動力/重量(即ち、出力トルク×回転速度/体積または出力トルク×回転速度/重量)であってよい。また、磁気変速機組立体がモーターに適用された場合、回転子20は回転動力を受け取り、その結果、固定子30のコイル(後述する)は、磁界を切ることで生成された電力を出力することが出来る。この電力は整流・電圧調整回路に送られ出力される。磁気変速機組立体は可変速度比を生成するよう制御されるので、入力回転動力が大きく変化するか、又はシステム変換効率を向上させようとする時、制御器を使用して磁気変速機組立体の可変速度比を調整してよい。
【0019】
図1及び図2を参照すると、固定子30は固定磁石又は誘導磁石(又は電磁石と称す)であってよい。本実施形態では、誘導磁石を例にとる。複数のバンプ32a、32bが固定子30の内側に環状に配置されている。誘導コイル(後述する)はバンプ32a、32bの周りに巻かれ、通電されると極を形成する。図に示した実施形態では、固定子30は48個のバンプ32a、32bを有し、各バンプ32a、32bは通電されると1つの極対を形成する。本実施形態では、12個の極対をそれぞれ有する4相が存在する。図3は本発明の1つの実施形態に係る固定子30の極対を例示する概略図である。図から分かるように、隣接する極は互いに反対の極性(磁北極Nと磁南極S)を有する。反対の極性を有する2つの隣接する極は極対を形成する(図に示すように、例えばS1とN1は1つの極対を形成する)。図から分かるように、合計12個の極対が存在するが、単に実施例であり、本発明はこれに限定されない。極対の数をST1で表す。
【0020】
回転子20は固定磁石又は誘導磁石であってよい。本実施形態では、固定磁石を例にとって回転子20を説明する。回転子20は複数の極とR個の極対とを有する。本実施形態では、回転子20は、例えば20個の極対を有する。固定子30と回転子20は同軸(スリーブ状で同軸)上に配置され、本実施形態では、回転子20は固定子30の半径方向内側に配置されているが、本発明はこれに限定されない。本発明の目的は固定子30を回転子20の半径方向内側に配置しても達成される。また、回転子20の極の方向(磁力線)は固定子30の極の方向(磁力線)と同じである。
【0021】
透磁性要素40は積層鋼であってよく、その材料は軟磁性複合材料(SMC)であり、渦電流と鉄損が低減される。
【0022】
図1及び図2を参照すると、磁気伝導要素40は第1リング42(第1スリーブとも称す)と第2リング44(第2スリーブとも称す)とを備える。第1リング42は第2リング44の半径方向外側に配置され、第1リング42と第2リング44は固定子30と回転子20との間に配置されている。第1リング42と第2リング44は互いに接触しているか、又は間隔で分離されている(後者を図に示す)。第1リング42は複数の透磁性ブロック420、422(磁気伝導ブロックとも称す)を有する。第2リング44も複数の透磁性ブロック440、442を有する。第1リング42が第2リング44の半径方向外側に位置する時、透磁性ブロック420、422、440、442は複数の透磁性領域(後述する)を形成する。第1リング42及び/又は第2リング44が駆動されると、第1リング42と第2リング44は第1位置と第2位置との間を相対的に移動(相対的に回転)する。この時、透磁性領域の数がこれに応じて変化する。これについて下記に説明する。
【0023】
図4Aは図2の第1リング42が第2リング44の半径方向外側にスリーブ状に配置された場合の本発明に係る磁気伝導要素の第1実施形態の軸方向に垂直な平面に沿った断面図である。第1リング42と第2リング44の相対的回転の説明を容易にするために、図4Aの円弧セグメント429、449が図4Bに拡大されている。円弧セグメント429、449は角度45°に対する。第1リング42と第2リング44は合計8個の円弧セグメント429、449を有する。図4Bは第1リング42と第2リング44が該第1位置に位置する時の部分拡大断面図である。図4Cは第1リング42と第2リング44が該第2位置に位置する時の部分拡大断面図である。
【0024】
図4Bから分かるように、第1リング42の透磁性ブロック420と、第2リング44の透磁性ブロック440は接続状態(又はオーバーラップ)にあり、透磁性領域46aを形成する。同様に、第1リング42の透磁性ブロック422と、第2リング44の透磁性ブロック442は接続状態にあり、透磁性領域46bを形成する。3つの磁気ギャップ48a、48b、48cが透磁性領域46aと46bの間に形成されている。第1リング42と第2リング44は8個の等円弧セグメント429、449を有するので、第1リング42と第2リング44は合計24個の磁気ギャップ48a、48b、48cを有する(3×8=24、即ち、24個の透磁性領域46a、46bを有する)。
【0025】
図4Cを参照すると、第1リング42と第2リング44が第2位置に位置する時の部分拡大断面図が示されている。第1リング42の透磁性ブロック420と、第2リング44の透磁性ブロック440は接続状態にあり、透磁性領域46aを形成する。同様に、第1リング42の透磁性ブロック422と、第2リング44の透磁性ブロック442は接続状態にあり、透磁性領域46bを形成する。図から分かるように、円弧セグメント429、449は4つの磁気ギャップ48a、48b、48c、48dを有し、また、4つの透磁性領域46a、46bを有する。従って、第1リング42と第2リング44は合計32(4×8=32)個の磁気ギャップ48a、48b、48c、48dを有する。
【0026】
透磁性ブロック420と440の間の接続状態は、接触状態ではなく両者間の距離が近いことを指す。距離が近いことは、透磁性ブロック420と440は接触せず、半径方向において互いにオーバーラップしているか、又は透磁性ブロック420と440は接触せず、半径方向又は円周方向において間隔で分離されていることを意味する。言い換えると、透磁性ブロック420、440が接触していない場合、透磁性ブロック420と440の間に2つの距離が存在する。1つは半径方向距離であり、もう1つは円周方向距離である。半径方向距離に関しては、半径方向距離が5mm未満であれば、単一の透磁性領域46aが形成されうることが実験により分かっている。明らかに、この距離は固定子30の磁力線の強度にも関係する。磁力線の強度が大きいほど、距離は大きくなる。即ち、半径方向距離はモーターのサイズ及び磁力線の強度に応じて変わりうる。
【0027】
円周方向距離(円弧長さ)は透磁性ブロック420、440の境界間の円の中心(固定子の中心)での角度、例えば、図4Bに示すように透磁性ブロック420の左側縁と透磁性ブロック440の右側縁の間の角度で表される。角度又は円弧長さを更に定義するために、透磁性ブロック420の左側縁と透磁性ブロック440の右側縁の間の距離により形成された間隔を空気スロットと定義する。磁気変速機組立体が動作する時、各磁気ギャップ48a、48b、48c(図4B)は極(以下、空気ギャップ極と称す)を生成し、透磁性ブロック420、440が空気スロットを有する時、該空気スロットも極(以下、空気スロット極と称す)を有する。この場合、透磁性ブロック420、440が透磁性領域46aを形成するのを可能にするために、空気スロット極の磁気強度は空気ギャップ極の磁気強度の20%より小さいのが好ましい。そして、空気スロット極の磁気強度から導かれる円弧長さ又は角度が好適な円周方向距離である。
【0028】
透磁性ブロック420、422、440、442の材料は任意の透磁性材料、例えば鉄系材料又は軟鉄であってよい。第1リング42と第2リング44の相対的回転は機械的又は電磁的方法で駆動されてよい。この駆動方法では、第1リング42と第2リング44の相対位置が第1位置と第2位置の間を移動できる限り、第1リング42又は第2リング44を単独に駆動しても、或いは第1リング42と第2リング44を同時に駆動してもよい。
【0029】
図4B及び図4Cの例示から分かるように、磁気伝導要素40が駆動されると、第1リング42と第2リング44は第1位置(図4Bの位置)と第2位置(図4Cの位置)の間を相対移動し、第1リング42と第2リング44が該第1位置に位置する時、磁気伝導要素40は24(以下、PN1)個の透磁性領域46a、46bを有し、第1リング42と第2リング44が該第2位置に位置する時、磁気伝導要素40は32(以下、PN2)個の透磁性領域46a、46bを有する。
【0030】
磁気伝導要素40の第1リング42と第2リング44を相対移動可能に設計することで、磁気伝導要素40は選択的にPN1又はPN2個の透磁性領域46a、46bが回転子20及び固定子30に対応するのを可能にすることが出来る。PN1又はPN2個の透磁性領域46a、46bを回転子20の磁界及び固定子30の磁界と組み合わせることで、加速又は減速(変速機)効果を生成できる。加速比又は減速比は下記の式(1)によって与えられる。
【0031】
【数1】

【0032】
この式において、Gは可変速度比(即ち、加速又は減速比)、m及びkは高調波の階数であり、pは回転子20の極対の数であり、nは透磁性領域46a、46bの数(鋼片の数)である。基本波の場合、m=−k=1であり、本実施形態では、回転子20の極対の数は20である。第1リング42と第2リング44が第1位置に位置する場合を例にとると、透磁性領域の数は24である。この数を上記の式に代入することで、G=(1×20)/(1×24−1×20)=5が得られる。即ち、固定子の回転速度と回転子の回転速度との比は5:1である。第1リング42と第2リング44が第2位置に位置する場合を例にとると、透磁性領域の数は32である。この数を上記の式に代入することで、G=(1×20)/(1×32−1×20)=1.6が得られる。即ち、固定子の回転速度と回転子の回転速度との比は1.6:1である。
【0033】
上記から分かるように、磁気伝導要素40、固定子30、及び回転子20の適切な構成と設計により、磁気変速機組立体が変速機効果を有するのを可能にすることが出来る。
【0034】
また、可変速度比の安定性を更に改善するために、固定子30の極対の数ST1、回転子20の極対の数R、及び磁気伝導要素40の透磁性領域46a、46bの数PN1及びPN2を下記の関係に維持した場合、安定な可変速度比と駆動力が得られる。
PN1-3 ≦ R+ST1 ≦ PN1+3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(2)
PN2-3 ≦ R+ST1 ≦ PN2+3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(3)
【0035】
この実施形態を例にとると、磁気伝導要素40が該第2位置に位置する時、式(3)、PN2-3 ≦ R+ST1 ≦ PN2+3を満たし、磁気伝導要素40が該第1位置に位置する時、式(2)、PN1-3 ≦ R+ST1 ≦ PN1+3を満たさないが、変速機要件は満たされうる。本実施形態では、式(2)と(3)を同時に満たしたい場合、磁気伝導要素40の透磁性ブロック420、422、440、442の設計を式(2)を満たすよう変更してもよい。例えば、ST1が12で、PN1とPN2がそれぞれ35と29である場合、上記の式(2)と(3)を同時に満たすことが出来る。
【0036】
本実施形態では、磁気伝導要素40の設計を変更せずに式(2)と(3)を同時に満たしたい(しかし、後述するように式(3)は若干変更が必要である)場合、図5A及び図5Bの固定子30の実施形態を使用できる。図5Aは本発明に係る磁気変速機組立体の固定子30の別の実施形態の概略巻線図であり、図5Bは図5Aの固定子30の実施形態の動作を例示する概略図である。
【0037】
図から分かるように、固定子30の別の実施形態は複数の誘導コイル34a、34b、34c、34dと極数変調回路36とを備える。誘導コイル34a、34b、34c、34dはバンプ32a、32bの周りに巻かれている。図5A及び図5Bは3つの極対(N1、N2、N3、S1、S2、S3)の誘導コイル34a、34b、34c、34dだけを示しているが、固定子30だけがコイル34a、34b、34c、34dを備えることは意図されていない。極数変調回路36は2つのスイッチ360、362を備える。スイッチ360、362が図5Aに示す状態にあり電源に接続されている場合、誘導コイル34a、34b、34c、34dにより形成される極は図3に示す極性を示す。即ち、固定子30は合計12個の極対を有する。スイッチ360、362が図5Bに示す状態にあり電源に接続されている場合、元はN1、S3を形成していた誘導コイル34c、34dは、逆に接続された電源によって反対の極を形成する(即ち、N1は磁南極に変わり、S3は磁北極に変わる)。図6は図5Aと図5Bの間の極対の切替えを例示する概略図である。
【0038】
図から分かるように、破線ブロックは、スイッチ360、362が図5Bに示す状態にある時に形成される極の極性の概略図を表す。図において、N1、N4、N7、N10は図5Aにおける磁北極であり、S3、S6、S9、S12は図5Aにおける磁南極である。この時、固定子30は合計12(以下、ST1)個の極対(即ち、N1、S1、N2、S3・・・N12、S12)を有する。しかし、図5Bにおいて、スイッチ360、362と回路との巧みな設計によって、N1、N4、N7、N10は通電後、磁南極に変わり、S3、S6、S9、S12は磁北極に変わり、その他の極は変化しない。従って、固定子30は合計4(以下、ST2)個の極対(破線ブロックN1’、S1’、N2’、S2’、N3’、S3’、N4’、S4’で示す)を有する。言い換えると、誘導コイル34a、34b、34c、34dがST1個の極対に切り替わると、隣接する誘導コイル34a、34b、34c、34dは互いに反対の磁気極性を有し、誘導コイル34a、34b、34c、34dがST2個の極対に切り替わると、誘導コイル34a、34b、34c、34dは複数のコイル群35a、35bにグループ分けされ、隣接するコイル群35a、35bは互いに反対の極性を有する。本実施形態では、各コイル群35a、35bは3つの順次隣接する誘導コイル34a、34b、34c、34dを含む。ここで、用語「順次隣接する」は「接続された」を意味し、図5Bにおいて、例えばS1、N1、S2は順次隣接する誘導コイル34a、34b、34c、34dに属する。
【0039】
上記に基づくと、固定子30は極数変調回路36により誘導コイル34a、34b、34c、34dを12(ST1)極対と4(ST2)極対に選択的に切り替えることが出来る。図5Aの固定子30の実施形態を磁気伝導要素40の透磁性領域の数の切替えと一体化した後、可変速度比(固定子の回転速度と回転子の回転速度との比)を下記の表に示すように得ることが出来、上記の式(2)と下記の式(4)を満たすことが出来る。
PN2-3 ≦ R+ST2 ≦ PN2+3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(4)
【0040】
【表1】

【0041】
極数変調回路36は例として図5Aの実施形態をとるが、本発明はこれに限定されない。適切な回路及びスイッチ設計により、固定子30の極対の数を異なる比で増加又は減少させてもよい。また、固定子30はより複雑で多様な設計、例えば巻きチャートを使用して極対のより多様な要件を満たすよう巻かれてもよい。巻き態様はこれらに限定されないがLucas, Retzbach and Kuhfuss (LRK) 巻き、分布LRK(D−LRK)巻き、又はABC巻きであってよい。下記に詳述する。
【0042】
図4Aの磁気伝導要素40の他の実施形態に関して、図7A、図7B、及び図8を参照する。図7A、図7B、及び図7Cの磁気伝導要素50(第2実施形態)は図4Bのものと類似している。図から分かるように、磁気伝導要素50は第1リング52、第2リング54、第3リング56、及び第4リング58を備える。第1リング52、第2リング54、第3リング56、及び第4リング58は半径方向に互いにオーバーラップし、それぞれ透磁性ブロック53、55、57、59(第1、第2、第3、及び第4透磁性ブロックとも称す)を有する。磁気伝導要素50が図7Aの位置(第1位置)に位置する時、透磁性ブロック53、55、57、59は接続関係にあるので、円弧セグメントは2つの透磁性領域51a、51bと2つの磁気ギャップ(円周方向に透磁性領域により隔てられたギャップ)を有する。磁気伝導要素50が図7Bの位置(第2位置)に位置する時、透磁性ブロック53、55、57、59は互いに分離しているので、円弧セグメントは4つの透磁性領域51a、51b、51c、51dと4つの磁気ギャップを有する。また、磁気伝導要素50が図7Cの位置(第3位置)に位置する時、透磁性ブロック53、55、57、59は半径方向に互いに完全に重なり、磁気伝導要素50は2つの透磁性領域51a、51bと2つの磁気ギャップを有する。磁気伝導要素50が図7Aの位置と図7Cの位置に位置する時、同じ数の透磁性領域51a、51bが得られるが、磁束は異なり、従って、伝達されるトルクはそれに応じて異なる。従って、磁気伝導要素50を適切に設計・制御して可変速度比を変化させ、伝達されるトルクを変化させることが出来る。
【0043】
図4Aと図7Aの磁気伝導要素40、50は複数の環状(円柱形)の半径方向に互いにオーバーラップする透磁性リング(即ち、第1リング42、52等)を採用し、透磁性リングの数は実際の設計要件に依って変わる、即ち、3つ又は5つの透磁性リングが結合されてよいが、本発明はこれに限定されない。透磁性リング内の透磁性ブロックのサイズ、配列、及び数は、様々な数の磁気ギャップを生成して要求された可変速度比を実現するように、適切に設計されてよい。
【0044】
図8は本発明に係る磁気変速機組立体の磁気伝導要素の第3実施形態の概略図である。透磁性要素60(磁気伝導要素とも称す)は第1リング62と第2リング64を備える。第1リング62と第2リング64は軸方向に接続されている。透磁性要素60は固定子30と回転子20の間に配置されている。第1リング62と第2リング64は固定子30と回転子20の間のギャップ内へ軸方向に移動可能であり、一度に第1リング62と第2リング64のうち1つだけが固定子30と回転子20の間に挟まれる。要するに、透磁性要素60は軸方向に駆動され、透磁性要素60は選択的に第1リング62又は第2リング64が回転子20と固定子30の間の位置へ移動するのを可能にする。このように、挟まれた第1リング62又は第2リング64は固定子30及び回転子20の磁界と相互作用し特定の可変速度比を生成する。第1リング62の透磁性ブロック63の数(例えば、PN1透磁性ブロック)は、第2リング64の透磁性ブロック65の数(例えば、PN2透磁性ブロック)と異なる。図8の実施形態において、第1リング62の透磁性ブロック63の数は32であり、第2リング64の透磁性ブロック65の数は24である。即ち、透磁性要素60は図1の実施形態の透磁性要素40を置き換えるのに適している。本実施形態の透磁性ブロック63、65は図4B及び図4Cの透磁性領域46a、46bと等価である。
【0045】
上記のように、第1リング62と第2リング64は軸方向に接続されている。図8を再び参照すると、第1リング62と第2リング64は軸方向に電気絶縁要素66aを介して接続されている。また、2つの電気絶縁要素66b、66cは第1リング62と第2リング64の外側にそれぞれ接続され、第2リング64の透磁性ブロック65と第1リング62の透磁性ブロック63を固定する。
【0046】
また、図9を参照されたい。図9は本発明に係る磁気変速機組立体の第2実施形態の3次元概略展開図である。図から分かるように、磁気変速機組立体は回転子20と固定子30と透磁性要素70とを備える。回転子20は複数の極を有し、回転子20の極はR個の極対を有する。固定子30は回転子20と同軸でこれをスリーブ状に覆い、複数の極を有する。固定子30の極はST1個の極対を有する。透磁性要素70は回転子20と固定子30の間に配置され、PN1個の透磁性領域72を有する。PN1個の透磁性領域72は回転子と固定子とに対応する。PN1-3 ≦ R+ST1 ≦ PN1+3。従って、Rが20、PN1が32、ST1が12である場合、前記式(1)から加速比又は減速比は1.6:1になる。
【0047】
次に、透磁性領域72の両端は、図9に示すように2つの電気絶縁要素74a、74bによって固定されている。電気絶縁要素74a、74bの配置により、回転子20と固定子30の磁界を切る透磁性領域72により生成された誘導電流は、各透磁性領域72内に隔離される。
【0048】
図9の実施形態によれば、透磁性要素70、固定子30、及び回転子20はそれぞれ中空環状形であるので、磁気変速機組立体全体は小さな体積と重量を有し、電気モーターに容易に組み込むことが出来る。その結果、一体型モーターの駆動動力密度(W/Kg又はW/m3)は増加する。
【0049】
上記の実施形態によれば、透磁性要素40、50、60の異なる実施形態により磁気変速機組立体は様々な可変速度比に切り替わることが出来る。切り替えられる透磁性要素40、50、60の透磁性領域46a、46b、51a、51b、51c、51dの数が式(2)及び式(3)を満たせない場合、図5Aの固定子30の実施形態を採用してもよく(式(2)及び式(4)を満たす)、これにより様々な可変速度比における安定性が改善できる。
【0050】
また、上記の式(2)、(3)及び(4)は固定子30の基本波に基づく関係式であり、これらの関係式における固定子30の極対の数が、高次パーミアンス高調波を使用して設計された場合、下記の関係式が得られる。
PN1-3 ≦ R+ST1' ≦ PN1+3 式(5)
PN2-3 ≦ R+ST1' ≦ PN2+3 式(6)
PN2-3 ≦ R+ST2' ≦ PN2+3 式(7)
【0051】
これらの式において、ST1’とST2’は固定子30の高次パーミアンス高調波の極対の数である。例えば、固定子30の基本波の極対の数が4であれば、第3パーミアンス高調波の極対の数は12である。従って、回転子20の極対の数R及び透磁性要素40の透磁性領域46a、46bの数PN1、PN2を設計する時、より広い選択範囲が得られる。
【0052】
また、上記の関係式において、固定子が生成する磁界は、回転子の極対の数R及び透磁性要素40の透磁性領域46a、46bと同期するか又は同期しないよう設計されてよい。明らかに同期と非同期との切替えは、固定子30の極対の数及び/又は透磁性要素40を制御することで実現される。
【0053】
図10A、図10B、及び図10Cは本発明に係る磁気変速機組立体の透磁性要素の第4実施形態の概略図と、図10Aの10B−10B線に沿った部分断面図と、その動作を例示する概略図とである。
【0054】
図から分かるように、透磁性要素80は第1リング82と第2リング84を備える。第1リング82は環状に配置された複数の平行縞のある透磁性ブロック820(第1透磁性ブロックとも称す)を有する。第2リング84も環状に配置された複数の平行縞のある透磁性ブロック840(第2透磁性ブロックとも称す)を有する。第1リング82の透磁性ブロック820と第2リング84の透磁性ブロック840は交互に円周方向に配列され、固定子30と回転子20の間に挟まれている(図1参照)。即ち、第1リング82の透磁性ブロック820と第2リング84の透磁性ブロック840は図10Bから分かるように同一又は近接した半径方向位置に位置している。
【0055】
図10Bは図10Aの10B−10B線に沿った部分断面図であり、図4Bと図2及び図4Aとの断面関係に類似している。即ち、図10Bは図10Aの円弧セグメントの一部の断面図を示す。
【0056】
図10Bは第1位置での透磁性要素80の第1リング82及び第2リング84の状態を示す。第1位置では、透磁性ブロック820、840は互いにある距離だけ離れており、透磁性ブロック820、840はそれぞれ透磁性領域を形成する。図に示すように、この距離は等距離であるが、本発明はこれに限定されない。空気ギャップが各2つの透磁性ブロック820、840間に形成され隣接する透磁性ブロック820、840が透磁性領域の機能を構成していない限り、透磁性ブロック820、840間の距離は等距離でなくてもよい。
【0057】
図10Cは第2位置における透磁性要素80の第1リング82と第2リング84との状態を示す。第2位置では、2つの隣り合う透磁性ブロック820、840は隣接し、2つの隣接する透磁性ブロック820、840毎に1つの透磁性領域を形成する。ここで、「隣接する」は、2つの透磁性ブロック820、840間の距離が隣接する透磁性ブロック820、840が単一の透磁性領域を形成するのを可能にするのに十分小さいことを意味する。
【0058】
図10B及び図10Cから分かるように、図10Bにおける形成された透磁性領域の数は図10Cにおける形成された透磁性領域の数の2倍である。従って、透磁性要素80をその透磁性領域の数を変えるよう制御することが出来る。
【0059】
透磁性要素80をその透磁性領域の数を変えるよう制御するための駆動要素88(図10A参照)として、電気モーター又は空気弁を使用してもよい。駆動要素88は図1、図7A、図8、及び図11Aの実施形態に適用してもよい。明らかに駆動要素88を固定型に変え、手動切換えで制御してもよい。
【0060】
図11A、図11B、及び図11Cは本発明に係る磁気変速機組立体の透磁性要素の第4実施形態の概略図と、図11Aの11B−11B線に沿った部分断面図と、その動作を例示する概略図とである。これらの図は 図10A、図10B、及び図10Cと類似であるので、詳細の説明を省略する。
【0061】
図から分かるように、透磁性要素80の第4実施形態は、第1リング92と第2リング94と第3リング96とを備える。第1リング92、第2リング94、及び第3リング96はそれぞれ複数の透磁性ブロック920、940、及び960(第1、第2、及び第3透磁性ブロックとも称す)を有する。第1透磁性ブロック920、第2透磁性ブロック940、及び第3透磁性ブロック960は順次円周方向に配列され、固定子30と回転子20の間に挟まれている。透磁性ブロック920、940、960は同一又は近接した半径方向位置に配置されている(即ち、円の中心からほぼ等距離離れている)。従って、第1リング92、第2リング94、及び第3リング96が図11Bの第1位置に位置する時、透磁性ブロック920、940、960はそれぞれ独立した透磁性領域を形成し、透磁性要素90はPN1個の透磁性領域を有する。第1リング92、第2リング94、及び第3リング96が図11Cの第2位置に位置する時、3つの隣り合う透磁性ブロック920、940、960は隣接し1つの透磁性領域を形成するので、透磁性要素90はPN2個の透磁性領域を有する。従って、第1位置において透磁性要素90により形成された透磁性領域の数PN1は第2位置において形成された透磁性領域の数PN2の3倍である。
【0062】
図11Dは第3位置における第1リング92、第2リング94、及び第3リング96の概略図である。図から分かるように、第3リング96の透磁性ブロック960と第2リング94の透磁性ブロック940は隣接し、第1リング92の透磁性ブロック920は第2、第3透磁性ブロック940、960に隣接(或いは近接又は接触していない)していない。従って、隣接する透磁性ブロック940、960は1つの透磁性領域を形成し、第1透磁性ブロック920は独立して透磁性領域を形成するので、透磁性要素90はPN3個の透磁性領域を有する。従って、図11Dにおいて形成された透磁性領域の数PN3は図11Cにおいて形成された透磁性領域の数PN2の2倍である。ここで、PN3は下記の式(8)を満たす。
PN3-3 ≦ R+ST1 ≦ PN3+3 式(8)
【0063】
また、動力伝達の目的は、第1リング92、第2リング94、及び第3リング96の相対位置を非等距離に配置して透磁性領域が占める円弧長さと磁気ギャップが占める円弧長さが同じでなくすることで達成できる。ただし、伝達されるトルクは変わる。
【0064】
上記の式(1)におけるmとkの関係に関して、m=−k=1に加えてm=k=1も採用してよい。この場合、固定子30の極対の数ST1と、回転子20の極対の数Rと、透磁性要素40の透磁性領域46a、46bの数PN1及びPN2との関係式を調整する必要がある。回転子20の極対の数Rが固定子30の極対の数ST1より大きい場合、関係式は下記のとおりである。
R-3 ≦ PN1+ST1 ≦ R+3 式(9)
R-3 ≦ PN2+ST1 ≦ R+3 式(10)
R-3 ≦ PN3+ST1 ≦ R+3 式(11)
PN3-3 ≦ R+ST1 ≦ PN3+3、又はR-3 ≦ PN3+ST1 ≦ R+3、又はST1-3 ≦ PN3+R ≦ ST1+3。
【0065】
回転子20の極対の数Rが固定子30の極対の数ST1より小さい場合、関係式は下記のとおりである。
ST1-3 ≦ PN1+R ≦ ST1+3 式(12)
ST1-3 ≦ PN2+R ≦ ST1+3 式(13)
ST1-3 ≦ PN3+R ≦ ST1+3 式(14)
【0066】
上記の式(9)〜(14)における固定子の極対の数ST1及びST2は高次パーミアンス高調波の極対の数ST1’又はST2’を置き換えてもよい(即ち、式(5)〜(7)におけるST1、ST2をST1’、ST2’で置き換える)。
【0067】
最後に、本発明に係る磁気変速機組立体の分相又は電磁可変速モーターへの適用を下記に説明する。分相モーターにより得られる可変速度比は1より大きく、電磁可変速モーターにより得られる可変速度比は1より大きいか又は小さい。
【0068】
図12を参照すると、図から分かるように、固定子30は回転子20の半径方向内側に配置され、透磁性要素99は固定子30と回転子20の間に配置されている。固定子30は巻きアーム300を有し、図から分かるように、固定子30は合計12個の巻きアーム300を有する。従来の分相又は電磁可変速モーターを使用する場合、下記の表に示すような巻きチャート(又は分相巻きチャートと称す)を参照する必要がある。しかし、この巻きチャートは本発明の範囲を限定するよう意図されていない。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
巻きチャートを本発明に係る透磁性要素99を有しない構造(図12から透磁性要素99を取り除いた構造)に適用した場合、固定子30の巻きアーム300が必要とする巻き態様と可変速度比とが得られる。この表に示すA、B、Cはそれぞれ第1相巻き態様、第2相巻き態様、第3相巻き態様を表し、a、b、cはそれぞれ第1相と逆の巻き態様、第2相と逆の巻き態様、第3相と逆の巻き態様を表す。透磁性要素99を使用しない構造では、回転子の磁極の数が4で、固定子30の巻きアーム300の数が9でありかつ、ABaCAcBCb巻き態様が使用される場合、減速比2:1が得られる。
【0072】
ここで、ABaCAcBCbの各文字は巻きアーム300の巻き態様を表し、固定子30の巻きアームに応じて時計回り又は反時計回りに構成されている。ABaCAcBCb巻き態様を例にとると、第1巻きアーム300は第1相巻き態様(A)を採用し、第2巻きアーム300は第2相巻き態様を、第3巻きアーム300は第1相と逆の巻き態様(a)を、第4巻きアーム300は第3相巻き態様(C)を採用し、・・・。第1、第2、第3、第4巻きアーム300は固定子30に時計回りに順に隣接している。
【0073】
図12の適用を再び参照すると、固定子30は12の巻きアーム300を有する。各巻きアーム300は独立にコイルが巻かれ、隣接する巻きアーム300は異なる相のコイルが巻かれている場合、固定子30は12の磁極を有する。即ち、固定子30の極対の数ST1は6である(磁極の数は極対の数の2倍である)。回転子20の極対の数Rは10である(即ち、磁極の数は20)。透磁性要素99の透磁性領域の数PN1は8である。従って、透磁性要素99と固定子30の間のギャップ990内の固定子側極対の数R2は2であることが下記の式(15)から分かる。従って、固定子側磁極の数は4である。
R2 = |R-PN1| 式(15)
【0074】
次に、固定子側磁極の数は4で、固定子の巻きアーム300の磁極の数は12であることを使って該巻きチャートを調べると、巻き態様はAcBaCbAcBaCbであることが得られる。従って、透磁性要素99と固定子30の間で減速比2:1が得られる。また、回転子20と透磁性要素99の間で減速比は5(R/R2=10/2=5)である。従って、図12の分相モーターの総減速比は10:1(=2:1×5:1)になる。
【0075】
また、固定子30の隣接する2つの巻きアーム300を同じ相のコイルが巻かれた1つの巻きアームと考えると、固定子30は6つの磁極を有し、可変性が増加する。
【0076】
また、透磁性要素99がその透磁性領域の数が6(PN2)に変わるよう駆動されると、固定子側極対の数は4(式(15)から)であり、従って、巻きチャートを使用すると、磁極の数は8であり、異なる減速比が生成される。
【0077】
また、固定子側極対の数を計算するための式(15)を下記の式(16)に変えてもよい。
R2 = R+PN1 式(16)
【0078】
モーターの固定子のコイルは、同期モーターのようにAC電流で駆動(又は作動)されても、或いはブラシレスACモーターのようにパルス幅変調(PWM)により生成された矩形波又は正弦波により駆動されてもよい。
【0079】
上記に基づくと、上記実施形態の磁気変速機組立体は電気モーター又は発電機の固定子及び回転子の構成を含み、変速機構造の構成を有し、電気モーターのモーター駆動部又は発電機の電気生成回路(例えば、整流、電圧調整など)と容易に一体化されて可変速電気モーター又は可変速発電機を形成する。この一体型可変速電気モーターは回転動力を生成する機能と可変速伝動機能の両方を有しているが、その体積と重量は電気モーターの元の体積と重量とほぼ同じであるので、高い駆動動力密度が実現される。一方、磁気変速機組立体は電磁伝動を採用して、振動とノイズレベルを低減する。また、電気自動車に適用した場合、可変速電気モーターは高性能動作を維持しながら様々なトルク及び走行速度の要件を満たすことが出来る。
【0080】
本発明の代表的な実施形態の上記説明は例示の目的のためだけに提供され、網羅的であることを、また本発明を開示した特定の形態に限定するように意図されていない。上記開示から多くの変更と変形が可能である。
【0081】
当業者が本開示と実施形態を利用できるように本発明の原理とその実際の適用とを説明するために、上記実施形態を選択し説明したが、特定の用途に適切な様々な変形が想到できる。本発明に関係しその思想と範囲に入る他の実施形態が当業者に明らかとなるであろう。従って、本発明の範囲は、上記の説明及び開示した代表的な実施形態ではなく、添付の請求項によって定義される。
【符号の説明】
【0082】
20 回転子
30 固定子
40 磁気伝導要素
42 第1リング
44 第2リング
46a、46b 透磁性領域
420、422、440、442、820、840 透磁性ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の極を有する回転子と、
複数の極を有し該回転子と同軸で該回転子をスリーブ状に覆う固定子と、
該回転子と該固定子の間に配置され複数の透磁性領域を有する磁気伝導要素と
を備え、
該回転子の該複数の極はR個の極対を有し、該固定子の該複数の極はST1個の極対を有し、
該磁気伝導要素が駆動された時、該磁気伝導要素は選択的にPN1又はPN2個の透磁性領域が該回転子及び該固定子に対応するのを可能にし、R−3≦PN1+ST1≦R+3またはST1−3≦PN1+R≦ST1+3を満たす、磁気変速機組立体。
【請求項2】
PN2−3≦R+ST1≦PN2+3、又はR−3≦PN2+ST1≦R+3、又はST1−3≦PN2+R≦ST1+3を満たす請求項1に記載の磁気変速機組立体。
【請求項3】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備え、該第1リングと該第2リングは軸方向に接続され、該第1リングはPN1個の透磁性ブロックを有し、該第2リングはPN2個の透磁性ブロックを有し、該磁気伝導要素が軸方向に駆動された時、該磁気伝導要素は選択的に該第1リング又は該第2リングが前記回転子と前記固定子の間の位置に移動するのを可能にする請求項1に記載の磁気変速機組立体。
【請求項4】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備え、該第1リングは該第2リングの半径方向外側に配置され、該第1リングと該第2リングは前記固定子と前記回転子の間に配置され、該磁気伝導要素が駆動された時、該第1リングと該第2リングは第1位置と第2位置の間を相対的に移動し、該第1リングと該第2リングが該第1位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN1個の透磁性領域を有し、該第1リングと該第2リングが該第2位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN2個の透磁性領域を有する請求項1に記載の磁気変速機組立体。
【請求項5】
前記第1リングは複数の第1透磁性ブロックを有し、前記第2リングは複数の第2透磁性ブロックを有し、該第1リングと該第2リングが前記第1位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックとのうち各隣接する2つは、前記PN1個の透磁性領域の1つを形成し、該第1リングと該第2リングが前記第2位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックはそれぞれ、前記PN2個の透磁性領域の1つを形成する請求項4に記載の磁気変速機組立体。
【請求項6】
前記固定子は複数の誘導コイルを備え、該各誘導コイルは通電されると極を形成する請求項1に記載の磁気変速機組立体。
【請求項7】
前記固定子は極数変調回路を更に備え、該極数変調回路は前記複数の誘導コイルを選択的にST1個の極対とST2個の極対に切り替える請求項6に記載の磁気変速機組立体。
【請求項8】
前記固定子は環状に配置された複数のバンプを更に備え、前記複数の誘導コイルは該バンプの周りに巻かれ、該複数の誘導コイルが前記ST1個の極対に切り替わると、隣接する誘導コイルは互いに反対の極性を有し、該複数の誘導コイルが前記ST2個の極対に切り替わると、該複数の誘導コイルは複数のコイル群にグループ分けされ、隣接するコイル群は互いに反対の極性を有する請求項7に記載の磁気変速機組立体。
【請求項9】
PN2−3≦R+ST2≦PN2+3を満たす請求項8に記載の磁気変速機組立体。
【請求項10】
前記各コイル群は3つの順に隣接する誘導コイルからなる請求項8に記載の磁気変速機組立体。
【請求項11】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備え、該第1リングと該第2リングは軸方向に接続され、該第1リングはPN1個の透磁性ブロックを有し、該第2リングはPN2個の透磁性ブロックを有し、該磁気伝導要素が軸方向に駆動された時、該磁気伝導要素は選択的に該第1リング又は該第2リングが前記回転子と前記固定子の間の位置に移動するのを可能にする請求項8に記載の磁気変速機組立体。
【請求項12】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備え、該第1リングと該第2リングは半径方向に接触し前記固定子と前記回転子の間に挟まれ、該磁気伝導要素が駆動された時、該第1リングと該第2リングは第1位置と第2位置の間を相対的に移動し、該第1リングと該第2リングが該第1位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN1個の透磁性領域を有し、該第1リングと該第2リングが該第2位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN2個の透磁性領域を有する請求項8に記載の磁気変速機組立体。
【請求項13】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備え、該第1リングは環状に配置された複数の第1透磁性ブロックを有し、該第2リングは環状に配置された複数の第2透磁性ブロックを有し、該第1透磁性ブロックと該第2透磁性ブロックは交互に円周方向に配列され、前記固定子と前記回転子の間に挟まれ、該磁気伝導要素が駆動された時、該第1リングと該第2リングは第1位置と第2位置の間を相対的に移動し、該第1リングと該第2リングが該第1位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックとのうち各隣接する2つは、前記PN1個の透磁性領域の1つを形成し、該第1リングと該第2リングが該第2位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックはそれぞれ、前記PN2個の透磁性領域の1つを形成する請求項1に記載の磁気変速機組立体。
【請求項14】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングと第3リングとを備え、該第1リングは環状に配置された複数の第1透磁性ブロックを有し、該第2リングは環状に配置された複数の第2透磁性ブロックを有し、該第3リングは環状に配置された複数の第3透磁性ブロックを有し、該第1透磁性ブロックと該第2透磁性ブロックと該第3透磁性ブロックは交互に円周方向に配列され、前記固定子と前記回転子の間に挟まれ、該磁気伝導要素が駆動された時、該第1リングと該第2リングと該第3リングは第1位置と第2位置と第3位置の間を相対的に移動し、該第1リングと該第2リングと該第3リングが該第1位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックと該複数の第3透磁性ブロックとのうち各隣接する3つは、前記PN1個の透磁性領域の1つを形成し、該第1リングと該第2リングと該第3リングが該第2位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックと該複数の第3透磁性ブロックはそれぞれ、前記PN2個の透磁性領域の1つを形成し、該第1リングと該第2リングと該第3リングが該第3位置に位置する時、該複数の第2透磁性ブロックと該複数の第3透磁性ブロックとのうち各隣接する2つは、PN3個の透磁性領域の1つを形成し、該複数の第1透磁性ブロックはそれぞれ、該PN3個の透磁性領域の1つを形成し、PN3−3≦R+ST1≦PN3+3、又はR−3≦PN3+ST1≦R+3、又はST1−3≦PN3+R≦ST1+3を満たす請求項1に記載の磁気変速機組立体。
【請求項15】
前記磁気伝導要素の材料は軟磁性複合材料(SMC)である請求項1に記載の磁気変速機組立体。
【請求項16】
複数の極を有する回転子と、
複数の極を有し該回転子と同軸で該回転子をスリーブ状に覆う固定子と、
該回転子と該固定子の間に配置され複数の透磁性領域を有する磁気伝導要素と
を備え、
該回転子の該複数の極はR個の極対を有し、該固定子の該複数の極はST1個の極対とST1’個の高次パーミアンス高調波の極対とを有し、
該磁気伝導要素が駆動された時、該磁気伝導要素は選択的にPN1又はPN2個の透磁性領域が該回転子及び該固定子に対応するのを可能にし、PN1−3≦R+ST1’≦PN1+3、又はR−3≦PN1+ST1’≦R+3、又はST1’−3≦PN1+R≦ST1’+3を満たす、磁気変速機組立体。
【請求項17】
PN2−3≦R+ST1’≦PN2+3、又はR−3≦PN2+ST1’≦R+3、又はST1’−3≦PN2+R≦ST1’+3を満たす請求項16に記載の磁気変速機組立体。
【請求項18】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備え、該第1リングと該第2リングは軸方向に接続され、該第1リングはPN1個の透磁性ブロックを有し、該第2リングはPN2個の透磁性ブロックを有し、該磁気伝導要素が軸方向に駆動された時、該磁気伝導要素は選択的に該第1リング又は該第2リングが前記回転子と前記固定子の間の位置に移動するのを可能にする請求項16に記載の磁気変速機組立体。
【請求項19】
前記磁気伝導要素は第1リングと第2リングとを備え、該第1リングは該第2リングの半径方向外側に配置され、該第1リングと該第2リングは前記固定子と前記回転子の間に配置され、該磁気伝導要素が駆動された時、該第1リングと該第2リングは第1位置と第2位置の間を相対的に移動し、該第1リングと該第2リングが該第1位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN1個の透磁性領域を有し、該第1リングと該第2リングが該第2位置に位置する時、該磁気伝導要素はPN2個の透磁性領域を有する請求項16に記載の磁気変速機組立体。
【請求項20】
前記第1リングは複数の第1透磁性ブロックを有し、前記第2リングは複数の第2透磁性ブロックを有し、該第1リングと該第2リングが前記第1位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックとのうち各隣接する2つは、前記PN1個の透磁性領域の1つを形成し、該第1リングと該第2リングが前記第2位置に位置する時、該複数の第1透磁性ブロックと該複数の第2透磁性ブロックはそれぞれ、前記PN2個の透磁性領域の1つを形成する請求項19に記載の磁気変速機組立体。
【請求項21】
複数の極を有する回転子と、
複数の極を有し該回転子と同軸で該回転子をスリーブ状に覆う固定子と、
該回転子と該固定子の間に配置されPN1個の透磁性ブロックを有する磁気伝導要素と
を備え、
該回転子の該複数の極はR個の極対を有し、該固定子の該複数の極はST1個の極対を有し、
該透磁性ブロックは該回転子及び該固定子に対応し、R2個の固定子側極対を形成し、R2=|R−PN1|またはR2=R+PN1が成立し、R2とST1は分相巻きチャートを満たす、分相モーター。
【請求項22】
複数の極を有する回転子と、
複数の極を有し該回転子と同軸で該回転子をスリーブ状に覆う固定子と、
該回転子と該固定子の間に配置されPN1個の透磁性領域を有する磁気伝導要素と
を備え、
該回転子の該複数の極はR個の極対を有し、該固定子の該複数の極はST1個の極対を有し、
該PN1個の透磁性領域は該回転子及び該固定子に対応し、R−3≦PN1+ST1≦R+3、又はST1−3≦PN1+R≦ST1+3を満たす、磁気変速機組立体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図11D】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−182638(P2011−182638A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−43943(P2011−43943)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】