説明

磁気検出素子及びその製造方法

【課題】 特に、表面改質処理を行うとともに、固定磁性層の層構造を改良して、抵抗変化率(ΔR/R)の向上とともに、再生出力を向上させることが可能な磁気検出素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 Ru等で形成された非磁性中間層4bの表面4b1に、プラズマ処理を行い、前記表面4b1を活性化させる第1処理と、酸素を含む雰囲気に曝す第2処理を施し、また第2固定磁性層4cを非磁性材料層側磁性層4c1と非磁性中間層側磁性層4c2の2層構造とし、前記非磁性材料層側磁性層4c1をCoで、前記非磁性中間層側磁性層4c2をCoFe合金で形成するとともに、前記第2固定磁性層4cに占める前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比を16%〜50%とすることで、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を適切に大きくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成され、外部磁界による磁化方向が変動するフリー磁性層と、を有してなる積層膜を有する磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、固定磁性層(ピン層)、非磁性材料層、およびフリー磁性層を有する磁気検出素子において、抵抗変化率(ΔR/R)を増大させることができるとともに、固定磁性層とフリー磁性層間に働くカップリング結合磁界Hinを小さくできる前記磁気検出素子の製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1では、ある特定の界面に酸素を吸着させる表面改質工程を施している。似たような技術として特許文献2や特許文献3がある。
【特許文献1】特開2005―38479号公報
【特許文献2】特開2003−8106号公報
【特許文献3】特開2002―124718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで抵抗変化率(ΔR/R)の向上とともに、再生出力を向上させることも必要である。
【0005】
しかし特許文献1には、上記した表面改質工程以外、前記再生出力を向上させるための工夫は何らなされていない。特許文献2および特許文献3についても同様である。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、表面改質処理を行うとともに、固定磁性層の層構造を改良して、抵抗変化率(ΔR/R)の向上とともに、再生出力を向上させることが可能な磁気検出素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成され、外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層、を有してなる積層膜を有する磁気検出素子において、
前記固定磁性層と非磁性材料層との界面と平行な面方向であって、前記積層膜の少なくとも一箇所以上の所定面には、プラズマ処理を行って前記所定面を活性化させる第1処理と、酸素を含む雰囲気に曝す第2処理と、が施されており、
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と、第2固定磁性層と、前記第1固定磁性層と第2固定磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有し、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接する側に設けられており、
前記第2固定磁性層は、前記非磁性中間層と接する非磁性中間層側磁性層と、前記非磁性材料層と接する非磁性材料層側磁性層とを有し、
前記非磁性材料層側磁性層は、非磁性中間層側磁性層より比抵抗が低い磁性材料で形成され、
前記非磁性中間層側磁性層の膜厚をXÅ、前記非磁性材料層側磁性層の膜厚を、YÅとしたとき、{X/(X+Y)}×100(%)が、16%以上で50%以下であることを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、前記固定磁性層と非磁性材料層との界面と平行な面方向であって、前記積層膜の少なくとも一箇所以上の所定面に対し、上記した第1処理および第2処理を施している。前記第1処理及び第2処理を施すことで、界面平坦性及び結晶性を向上させることができる。さらに本発明では、前記第2固定磁性層を、前記非磁性中間層と接する非磁性中間層側磁性層と、前記非磁性材料層と接する非磁性材料層側磁性層とを有して形成し、前記非磁性中間層側磁性層および非磁性材料層側磁性層の材質、および膜厚比を適正化している。以上により本発明では、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を従来に比べて適切に向上させることができる。
【0009】
また本発明では、前記非磁性材料層の下に設けられる前記第2固定磁性層、あるいはフリー磁性層、または前記フリー磁性層が、第1フリー磁性層と、第2フリー磁性層と、前記第1フリー磁性層と第2フリー磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有し、前記第2フリー磁性層が前記非磁性材料層と接する側に設けられる構造のときは前記第2フリー磁性層、のいずれかの下側に設けられる層の所定面に前記第1処理及び第2処理が施されることが好ましい。これにより、前記第2固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層、あるいは前記フリー磁性層が積層フェリ構造のときは前記第2フリー磁性層の界面平坦性及び結晶性を向上させることができる。これにより、より適切に前記抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができる。
【0010】
また本発明では、下から、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層の順に積層されていることが好ましく、かかる場合、前記所定面は、前記固定磁性層を構成する前記非磁性中間層の表面であることが好ましい。また、前記非磁性中間層は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのいずれか1種または2種以上の元素で形成されていることが好ましい。前記非磁性中間層上に適切に酸素を吸着させることができるとともに、前記非磁性中間層上に形成される前記第2固定磁性層は、適切に酸素を取り込みながら成膜していき、このとき酸素濃度は前記第2固定磁性層の下面から上面にかけて徐々に減るような勾配を有する。従来、前記非磁性中間層と第2固定磁性層との界面での伝導電子(例えばアップスピン)の反射は小さかったが、上記のように第2固定磁性層に取り込まれる酸素に濃度勾配がつくことで、前記界面での伝導電子の反射が大きくなり、アップスピンを持つ伝導電子の平均自由行程長をより適切に大きくでき、この結果、抵抗変化率(ΔR/R)の向上を適切に図ることができる。
【0011】
本発明では、前記非磁性中間層側磁性層は、Co、Fe、Niのうち2種以上の元素を有する磁性材料で形成されることが好ましい。前記非磁性中間層側磁性層はCoFe合金で形成されることがより好ましい。また、前記非磁性材料層側磁性層は、Coで形成されることが好ましい。本発明における好ましい一例は、非磁性中間層側磁性層がCoFe合金で形成され、前記非磁性材料層側磁性層がCoで形成される構造である。前記CoFe合金は、Coに比べて比較的酸化しやすい(すなわちCoはCoFe合金に比べて酸化しにくい)。これにより、上記した酸素勾配が前記第2固定磁性層中に形成されやすく、前記抵抗変化率(ΔR/R)を効果的に向上させることができる。また、前記第2固定磁性層をCoFe合金/Coの積層構造とし、上記した膜厚比の範囲内とすることで、前記抵抗変化率(ΔR/R)とともに抵抗変化量(ΔRs)及び抵抗最小値(minRs)を大きくでき、この結果、前記抵抗変化率(ΔR/R)及び再生出力の双方を適切に向上させることが可能である。なお、抵抗変化量(ΔRs)、抵抗最小値(minRs)及び前記抵抗変化率(ΔR/R)の間には、ΔRs/minRs=ΔR/Rの関係が成り立っている。
【0012】
また本発明では、前記第2固定磁性層の膜厚は15Å以上で30Å以下の範囲内で形成されることが好ましい。
【0013】
本発明は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成され、外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層、を有してなる積層膜を有する磁気検出素子の製造方法において、
前記固定磁性層と非磁性材料層との界面と平行な面方向であって、前記積層膜の少なくとも一箇所以上の所定面に純Ar雰囲気中でプラズマ処理を行って前記所定面を活性化させる第1処理と、前記第1処理の終了直後に、酸素雰囲気中あるいは酸素と不活性ガスによる混合ガス雰囲気中で、前記活性化させた前記所定面に酸素を吸着させる第2処理と、を施し、
前記固定磁性層を、第1固定磁性層と、第2固定磁性層と、前記第1固定磁性層と第2固定磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有して形成し、前記第2固定磁性層を前記非磁性材料層と接する側に設けており、
前記第2固定磁性層を、前記非磁性中間層と接する非磁性中間層側磁性層と、前記非磁性材料層と接する非磁性材料層側磁性層とを有して形成し、
前記非磁性材料層側磁性層を、非磁性中間層側磁性層より比抵抗が低い磁性材料で形成し、
前記非磁性中間層側磁性層の膜厚をXÅ、前記非磁性材料層側磁性層の膜厚を、YÅとしたとき、{X/(X+Y)}×100(%)を、16%以上で50%以下にすることを特徴とするものである。
【0014】
上記構成によれば、酸素を含まない純Arガス雰囲気中でプラズマ処理を行うので、プラズマによる反応生成物が生じず、チャンバー内の雰囲気が安定するとともに、ターゲットやチャンバー内がプラズマ反応生成物で汚染される虞もない。よって、第2処理に基づく酸素吸着によるサーファクタント(Surfactant)効果を十分に発揮できる。また、上記のように、第2固定磁性層を構成する非磁性材料層側磁性層と非磁性中間層側磁性層の材質、及び膜厚比を適正化する。以上により、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を従来に比べて向上させることが可能な磁気検出素子を容易に製造することができる。
【0015】
本発明では、下から、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層の順に積層し、前記非磁性中間層の表面を前記所定面として、前記第1処理および第2処理を施すことが好ましい。またかかる場合、前記非磁性中間層を、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのいずれか1種または2種以上の元素で形成することが好ましい。酸素によるサーファクタント効果は、ある所定面に酸素を一度吸着させれば、前記所定面上に何層か積層されても、ある程度、維持できることがわかっているが、第2固定磁性層の直下に相当する前記非磁性中間層の表面に上記した第1処理及び第2処理を施すことで、前記第2固定磁性層およびその上に形成される非磁性材料層、フリー磁性層に適切に前記サーファクタント効果を及ぼすこができ、前記抵抗変化率(ΔR/R)の向上をより適切に図ることが可能になる。
【0016】
また本発明では、前記非磁性中間層側磁性層を、Co、Fe、Niのうち2種以上の元素を有する磁性材料で形成することが好ましい。前記非磁性中間層側磁性層をCoFe合金で形成することがより好ましい。また前記非磁性材料層側磁性層を、Coで形成することが好ましい。これにより、前記抵抗変化率(ΔR/R)と前記再生出力の双方を効果的に向上させることが可能になる。
【0017】
また本発明では、前記第2固定磁性層の膜厚を15Å以上で30Å以下の範囲内で形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、磁気検出素子を構成する積層膜の少なくとも一箇所以上の所定面に、プラズマ処理を行って前記所定面を活性化させる第1処理と、酸素を含む雰囲気に曝す第2処理と、を施す。さらに前記固定磁性層を、第1固定磁性層と、前記非磁性材料層と接する第2固定磁性層と、前記第1固定磁性層と第2固定磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有して形成し、前記非磁性材料層側磁性層を、非磁性中間層側磁性層より比抵抗が低い磁性材料で形成するとともに前記非磁性中間層側磁性層の膜厚をXÅ、前記非磁性材料層側磁性層の膜厚を、YÅとしたとき、{X/(X+Y)}×100(%)が、16%以上で50%以下となるように調整する。
【0019】
上記により界面平坦性及び結晶性を向上させることができ、抵抗変化率(ΔR/R)を向上させることができるとともに、最小抵抗値minRs及び抵抗変化量ΔRsを大きくでき再生出力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明の実施形態のシングルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜を示す模式図である。
【0021】
シングスピンバルブ型薄膜素子は、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。なお、図中においてX方向は、トラック幅方向、Y方向は、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向(ハイト方向)、Z方向は、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向及び前記シングルスピンバルブ型薄膜素子の各層の積層方向、である。
【0022】
図1の最も下に形成されているのはTa,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち1種または2種以上の元素などの非磁性材料で形成された下地層1である。この下地層1の上に、シード層2が設けられる。前記シード層2は、NiFeCrまたはCrによって形成される。前記シード層2をNiFeCrによって形成すると、前記シード層2は、面心立方(fcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものになる。また、前記シード層2をCrによって形成すると、前記シード層2は、体心立方(bcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{110}面として表される等価な結晶面が優先配向しているものになる。
【0023】
なお、下地層1は非晶質に近い構造を有するが、この下地層1は形成されなくともよい。
【0024】
前記シード層2の上に形成された反強磁性層3は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。
【0025】
これら白金族元素を用いたX−Mn合金は、耐食性に優れ、またブロッキング温度も高く、さらに交換結合磁界(Hex)を大きくできるなど反強磁性材料として優れた特性を有している。
【0026】
また前記反強磁性層3は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されてもよい。
【0027】
前記反強磁性層3の元素Xあるいは元素X+X′の原子%を15(原子%)以上で60(原子%)以下に設定することが好ましい。より好ましくは20(原子%)以上で56.5(原子%)以下である。
【0028】
固定磁性層4は、第1固定磁性層4a、非磁性中間層4b、第2固定磁性層4cからなる多層膜構造で形成される。前記反強磁性層3との界面での交換結合磁界及び非磁性中間層4bを介した反強磁性的交換結合磁界(RKKY的相互作用)により前記第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cの磁化方向は互いに反平行状態にされる。これは、いわゆる積層フェリ構造と呼ばれ、この構成により前記固定磁性層4の磁化を安定した状態にでき、また前記固定磁性層4と反強磁性層3との界面で発生する交換結合磁界を見かけ上大きくすることができる。
【0029】
なお前記第1固定磁性層4aは例えば12〜24Å程度で形成され、非磁性中間層4bは8Å〜10Å程度で形成される。前記第2固定磁性層4cは後で説明する。
【0030】
前記第1固定磁性層4aはCoFe、NiFe,CoFeNiなどの強磁性材料で形成されている。また非磁性中間層4bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuなどの非磁性導電材料で形成される。
【0031】
第2固定磁性層4cは、非磁性材料層5に接する非磁性材料層側磁性層4c1と非磁性中間層側磁性層4c2の2層構造として成膜される。前記非磁性材料層側磁性層4c1は、前記非磁性中間層側磁性層4c2よりも比抵抗の小さい磁性材料で形成される。また前記非磁性材料側磁性層4c1は前記非磁性中間層側磁性層4c2に比べて酸化されにくい材質であることが好ましい。
【0032】
前記非磁性中間層側磁性層4c2は、Co、Fe、Niのうち2種以上の元素を有する磁性合金で形成されることが好ましい。特に前記RKKY的相互作用を大きくするには、前記第1固定磁性層4a及び非磁性中間層側磁性層4c2は、ともにCoFe合金で形成されることが好ましい。第1固定磁性層4aがCoFe合金で形成されるときCoの組成比は20at%〜90at%の範囲内で残りの組成比がFeの組成比であり、前記非磁性中間層側磁性層4c2がCoFe合金で形成されるときCoの組成比は20at%〜90at%の範囲内で残りの組成比がFeの組成比であることが好ましい。
【0033】
前記非磁性材料層側磁性層4c1は、磁性合金であっても磁性元素単体であってもどちらでもよいが、磁性元素単体であるほうが適切に前記非磁性中間層側磁性層4c2よりも比抵抗を小さくできる。前記非磁性材料層側磁性層4c1は、Ni、Fe、Coのいずれか1種の元素により形成されることが好ましい。また前記非磁性材料層側磁性層4c1はCoで形成されることが、抵抗変化率(ΔR/R)及び再生出力の向上を図る上でより好ましい。
【0034】
前記固定磁性層4の上に形成された非磁性材料層5は、Cu、Au、またはAgで形成されている。Cu、Au、またはAgで形成された非磁性材料層5は、面心立方(fcc)構造を有し、膜面と平行な方向に{111}面として表される等価な結晶面が優先配向している。
【0035】
前記非磁性材料層5上にはフリー磁性層6が形成されている。前記フリー磁性層6は、NiFe合金やCoFe合金等の磁性材料で形成される軟磁性層6bと、前記軟磁性層6bと前記非磁性材料層5との間にCoやCoFeなどからなる拡散防止層6aとで構成される。前記フリー磁性層6の膜厚は20Å〜60Åである。また、フリー磁性層6は、複数の磁性層が非磁性中間層を介して積層された積層フェリ構造であってもよい。また前記フリー磁性層6のトラック幅方向(図示X方向)の幅寸法でトラック幅Twが決められる。
【0036】
符号10はTa等の保護層である。
前記フリー磁性層6はトラック幅方向(図示X方向)と平行な方向に磁化されている。
【0037】
一方、固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4a及び第2固定磁性層4cはハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に磁化されている。前記固定磁性層4は積層フェリ構造であるため、第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cはそれぞれ反平行に磁化されている。前記固定磁性層4は磁化が固定されている(外部磁界によって磁化変動しない)が、前記フリー磁性層6の磁化は外部磁界により変動する。
【0038】
図1の実施形態における特徴的部分は、まず前記非磁性中間層4bの表面4b1に対する表面改質処理にある。製造工程図である図7〜図8も参照しながら説明する。図7に示すように、前記下地層1上に、シード層2、反強磁性層3、第1固定磁性層4a、非磁性中間層4bまでを成膜する。例えば前記非磁性中間層4bをRuで形成する。Ruからなる前記非磁性中間層4bを成膜した後、純Arガスを真空チャンバー内に導入し、スパッタが起こらない程度に低エネルギーのプラズマを前記非磁性中間層4bの表面4b1に生じさせる。プラズマ粒子は前記非磁性中間層4bの表面4b1に衝突して前記表面4b1に存在するRu原子を活性化し、前記表面4b1でRu原子の再配列が促進される。これにより前記非磁性中間層4bの表面4b1の表面粗さが低減される。
【0039】
プラズマ処理後は、直ちに、同真空チャンバー内に、純Arガスに加えて微量の酸素を流入する。すると、上述のプラズマ処理により、前記表面4b1が活性化されているため、例えば純Arガスと酸素による混合ガス雰囲気中で前記表面4b1に酸素が吸着される(図8を参照)。前記表面4b1に吸着された酸素はサーファクタント(Surfactant)として機能する。
【0040】
このように前記非磁性中間層4bの表面4b1には、プラズマ処理により前記表面4b1を活性化させる第1処理と、酸素を含む雰囲気中に曝す第2処理とからなる表面改質処理が施されている。なお、図1では、前記非磁性中間層4bの表面4b1の箇所(前記非磁性中間層4bと非磁性中間層側磁性層4b2との界面)を太い線で示し、これは前記表面4b1に対し上記した表面改質処理がなされたことを模式図的に示している。
【0041】
前記非磁性中間層4bの表面4b1に前記表面改質処理を施すことで、サーファクタント効果が適切に発揮され、前記非磁性中間層4b上に積層される第2固定磁性層4c、非磁性中間層5及びフリー磁性層6の界面平坦性及び結晶性が向上する。また、前記第2固定磁性層4cは図1に示すように非磁性材料層側磁性層4c1と、非磁性中間層側磁性層4c2の2層構造で形成され、前記非磁性材料層側磁性層4c1は、前記非磁性中間層側4c2よりも比抵抗の小さい磁性材料で形成される。さらに前記非磁性材料層側磁性層4c1は、前記非磁性中間層側4c2よりも酸化されにくい材質で形成されることが好ましい。具体的には前記非磁性材料層側磁性層4c1はCoで、前記非磁性中間層側磁性層4c2はCoFe合金で形成される。これにより、前記第2固定磁性層4c内では、微量に取り込まれた酸素の濃度が前記第2固定磁性層4cの下面から上面に向かうにしたがって徐々に小さくなる勾配を有する。これらの原因により、アップスピンを持つ伝導電子は、前記第2固定磁性層4cと非磁性中間層4bとの界面で反射しやすくなり、平均自由工程は長くなる。この結果、抵抗変化率(ΔR/R)の向上を適切に図ることができる。
【0042】
さらに図1に示す実施の形態では、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚をX(Å)、前記非磁性材料層側磁性層4c1の膜厚をY(Å)としたとき、第2固定磁性層4cに占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比{X/(X+Y)}×100(%)は16%〜50%の範囲内に規制されている。前記非磁性材料層側磁性層4c1は非磁性中間層側磁性層4c2よりも比抵抗が低いため、前記非磁性材料層側磁性層4c1の膜厚比を大きくすると、アップスピンの平均自由工程が長くなるので、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできるが、抵抗変化量(ΔRs)や最小抵抗値(minRs)が小さくなってしまう。なおΔRs/minRs=ΔR/Rの関係が成り立っている。上記したΔRs及びminRsが小さくなると再生出力が低下するので、前記非磁性材料層側磁性層4c1の膜厚比があまり大きすぎる(非磁性中間層側磁性層の膜厚比が小さすぎる)のはよくない。上記のように、第2固定磁性層4cに占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比を16%〜50%の範囲内で調整することで、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできるとともに、ΔRs及びminRsも大きくでき、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を適切に大きくすることが可能になる。前記第2固定磁性層4cに占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比{X/(X+Y)}×100(%)は18.2%〜45.5%の範囲内であることが、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を適切に大きくできて好ましい。
【0043】
前記非磁性中間層4bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのいずれか1種または2種以上の元素で形成されていることが好ましい。このうち、前記非磁性中間層4bは、Ru、Rh、Ir、Cr、Reのいずれか1種または2種以上の元素で形成されることが好ましい。これら元素は酸化されにくい特性を有するため、酸素フロー時間を長くする等して酸素供給量を多くしても前記非磁性中間層4bの表面4b1に酸化層が生じることがない。したがって前記表面4b1に十分な量の酸素を吸着させることができる。
【0044】
前記第2固定磁性層4cの膜厚は、15Å以上で30Å以下であることが好ましい。上記したように、前記第1固定磁性層4aは例えば12〜24Å程度で形成されるため、前記第2固定磁性層4cの膜厚が15Åより小さくなると、第2固定磁性層4cと第1固定磁性層4aとの膜厚差が大きくなり、前記第2固定磁性層4cと第1固定磁性層4aとの間で生じるRKKY的相互作用が小さくなり適切に前記第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cを磁化固定できず好ましくない。また図1に示す積層膜を有するシングルスピンバルブ型薄膜素子がCIP(current in the plane)型である場合、前記第2固定磁性層4cの膜厚が厚くなりすぎると、ΔRs及びminRsが小さくなり、再生出力が低下するので、前記第2固定磁性層4cは30Å以下の膜厚であることが好ましい。なおCIP型とは、図1に示す積層膜に対して膜面と平行な方向に電流が流されるものである。一方、前記積層膜の各層の膜面に対し垂直方向に電流が流されるタイプをCPP(current perpendicular to the plane)型と呼ぶ。
【0045】
また磁気モーメントについて考察してみると、第1固定磁性層4aの磁気モーメント(飽和磁化Ms×膜厚t)と、第2固定磁性層4cの磁気モーメント(飽和磁化Ms×膜厚t)は、第2固定磁性層4cの磁気モーメント≧第1固定磁性層4aの磁気モーメントであることが好ましい。ただし、第2固定磁性層4cの磁気モーメント−第1固定磁性層4aの磁気モーメントが大きくなると、一方向性交換バイアス磁界Hex*が小さくなり好ましくない。一方向交換バイアス磁界には、前記固定磁性層と反強磁性層間で発生する交換結合磁界のほか、前記固定磁性層は積層フェリ構造であるため、RKKY相互交換作用における結合磁界などを含む磁界の大きさである。また、第1固定磁性層4aの磁気モーメントがあまり大きくなりすぎると反強磁性層3との間で生じる交換結合磁界が小さくなってしまい好ましくない。
【0046】
ところで、酸素によるサーファクタント効果は、第2固定磁性層4c、非磁性材料層5及びフリー磁性層6に適切に及ぼされることが好ましく、このため、図1の積層膜の構造の場合、前記第2固定磁性層4cの直下にある非磁性中間層4bの表面4bに上記した表面改質処理を施すことが好ましいが、前記サーファクタント効果は、任意に設定したある所定面に一度酸素を吸着させれば、前記所定面上に何層か積層されても、ある程度持続できることがわかっている。このため前記非磁性中間層4bの表面4bよりも下側にある層間の界面、あるいは層内にける所定面に対し前記表面改質処理を施しても前記サーファクタント効果を期待できると考えられる。
【0047】
図6に示す実施の形態では、前記非磁性中間層4bの表面4b1に前記表面改質処理は施されていない。図6では、前記非磁性中間層4bの層内であって、固定磁性層4と反強磁性層3との界面と平行な面方向(図示X―Y平面と平行な面方向)に形成される符号Aの所定面に前記表面改質処理が施されている。前記非磁性中間層4bを途中まで成膜し、そのときの非磁性中間層4bの表面に対し前記表面改質処理を施し、さらに前記表面改質処理がされた前記表面上に残りの非磁性中間層4bを成膜すれば、前記非磁性中間層4b内に表面改質処理がされた面Aを形成できる。あるいは、図6のように、前記第1固定磁性層4aの表面4a1や、反強磁性層3の表面3aに前記表面改質処理を施してもよい。なお酸化されやすい表面に前記表面改質処理を施してもサーファクタント効果をさほど期待できないため、例えば第1固定磁性層4aがCoFe合金等、比較的酸化されやすい材質で形成される場合は、前記第1固定磁性層4aの表面4a1に前記表面改質処理を施さないほうがよいと考えられる。
【0048】
図2に示す実施の形態のスピンバルブ型薄膜素子の積層膜は、下から下地層1、シード層2、反強磁性層3、固定磁性層4、非磁性材料層5、フリー磁性層6、非磁性材料層7、固定磁性層8、反強磁性層9及び保護層10の順で積層されている。前記下地層1から前記非磁性材料層5までは図1と同じ積層構造で形成されている。図2に示すフリー磁性層6は3層構造であり、軟磁性層6aの上下に拡散防止層6a,6cが形成されている。フリー磁性層6よりも上側にある前記固定磁性層8は、第1固定磁性層8a、非磁性中間層8b及び第2固定磁性層8cで形成された積層フェリ構造である。前記第2固定磁性層8cはさらに非磁性材料層側磁性層8c1と非磁性中間層側磁性層8c2の2層構造で形成されている。前記非磁性材料層側磁性層8c1は例えばCoで形成され、非磁性中間層側磁性層8c2は例えばCoFe合金で形成される。
【0049】
図2に示す実施の形態では、前記表面改質処理は、フリー磁性層6の下側にある前記固定磁性層4の非磁性中間層4bの表面4b1に施されている。前記非磁性中間層4bの表面4b1に前記表面改質処理を施すことで、サーファクタント効果が適切に発揮され、前記非磁性中間層4b上に積層される第2固定磁性層4c、非磁性中間層5、フリー磁性層6、非磁性材料層7及び固定磁性層8の界面平坦性及び結晶性が向上する。また前記第2固定磁性層4c内では、微量に取り込まれた酸素の濃度が前記第2固定磁性層4cの下面から上面に向かうにしたがって徐々に小さくなる勾配を有する。これらの原因により、アップスピンを持つ伝導電子の平均自由工程は長くなり、抵抗変化率(ΔR/R)の向上を適切に図ることができる。
【0050】
さらに図2に示す実施の形態では、前記非磁性中間層側磁性層4c2,8c2の膜厚をX(Å)、前記非磁性材料層側磁性層4c1,8c1の膜厚をY(Å)としたとき、第2固定磁性層4c,8cに占める非磁性中間層側磁性層4c2,8c2の膜厚比{X/(X+Y)}×100(%)は16%〜50%の範囲内に規制されている。前記非磁性材料層側磁性層4c1,8c1は非磁性中間層側磁性層4c2,8c2よりも比抵抗が低いため、前記非磁性材料層側磁性層4c1,8c1の膜厚比を大きくすると、アップスピンの平均自由工程が長くなるので、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできるが、抵抗変化量(ΔRs)や最小抵抗値(minRs)が小さくなってしまう。よって上記のように、第2固定磁性層4c,8cに占める非磁性中間層側磁性層4c2,8c2の膜厚比を16%〜50%の範囲内で調整することで、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできるとともに、ΔRs及びminRsも大きくでき、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を適切に大きくすることが可能になる。前記第2固定磁性層4c,8cに占める非磁性中間層側磁性層4c2,8c2の膜厚比{X/(X+Y)}×100(%)は18.2%〜45.5%の範囲内であることが、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を適切に大きくできて好ましい。なお前記第2固定磁性層4c,8cに占める非磁性中間層側磁性層4c2,8c2の膜厚比が16%〜50%の範囲内であれば、前記第2固定磁性層4cに占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比と前記第2固定磁性層8cに占める非磁性中間層側磁性層8c2の膜厚比とが同じである必要はない。当然、第2固定磁性層4cと第2固定磁性層8cの膜厚が同じである必要もない。
【0051】
図2に示すスピンバルブ型薄膜素子はデュアルスピンバルブ型薄膜素子と呼ばれる構造である。図2に示す実施の形態では、表面改質処理された非磁性中間層4bの表面4b1から、フリー磁性層6よりも上側に形成された前記固体磁性層8の第2固定磁性層8cまでの距離が長いため、前記第2固定磁性層8cに対するサーファクタント効果は、フリー磁性層6よりも下側に形成された固定磁性層4の第2固定磁性層4cに比べて小さいと思われる。したがって前記第2固定磁性層8cに対するサーファクタント効果を向上させるために、前記表面改質処理を、例えば非磁性材料層7の表面7aやフリー磁性層6の拡散防止層6cの表面6c1等に施すことが好ましい。
【0052】
ただし非磁性材料層5,7の上下面は、大きな抵抗変化率(ΔR/R)を得るためにかなりデリケートに形成され、前記非磁性材料層5,7の上下面に不純物が入ると、それだけで抵抗変化率(ΔR/R)が低下しやすい。このため、できる限り前記非磁性材料層5,7の上下面に前記表面改質処理を施さず、他の部位に前記表面改質処理を施すことが好ましい。
【0053】
また前記表面改質処理は、できる限り酸化されにくい表面に対し行ったほうがよく、このためRu等で形成される非磁性中間層4bの表面4b1に対し前記表面改質処理を施すことが好ましい。そして前記非磁性中間層4bが第2固定磁性層4cよりも下側に存在する実施形態は、下から固定磁性層、非磁性材料層及びフリー磁性層の順に積層した図1の形態であり、図1の形態がもっとも酸素によるサーファクタント効果を得やすい形態であると思われる。
【0054】
なお、下からフリー磁性層、非磁性材料層及び固定磁性層の順で積層されている積層膜の構成であっても当然よい。積層膜の構造がいずれにせよ、非磁性材料層の下に設けられる前記第2固定磁性層、あるいはフリー磁性層、または前記フリー磁性層が、第1フリー磁性層と、第2フリー磁性層と、前記第1フリー磁性層と第2フリー磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有し、前記第2フリー磁性層が前記非磁性材料層と接する側に設けられる構造(積層フェリ構造)のときは前記第2フリー磁性層、のいずれかの下側に設けられる層の所定面に前記表面改質処理が施されることが、前記第2固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層、及びフリー磁性層が積層フェリ構造のときは第2フリー磁性層の界面平坦性及び結晶性を適切に向上させることができ好ましい。
【0055】
図3は図1に示す積層膜を有するシングルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドを記録媒体との対向面側から見た部分断面図であり、前記シングルスピンバルブ型薄膜素子はCIP型である。
【0056】
符号20は、磁性材料製の下部シールド層20であり、前記下部シールド層20上にAl等の絶縁材料で形成された下部ギャップ層21が形成されている。前記下部ギャップ層21上には、図1に示す積層膜と同じ構造の積層膜T1が形成されている。
【0057】
前記積層膜T1は、下から、下地層1、シード層2、反強磁性層3、固定磁性層4、非磁性材料層5、フリー磁性層6及び保護層10の順で積層されている。前記積層膜T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側端面に例えばCr、W、W−Ti合金、Fe−Cr合金などで形成されるバイアス下地層22が形成され、前記バイアス下地層22上に、ハードバイアス層23及び電極層24が積層されれている。前記ハードバイアス層23は例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金やCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金などで形成される。また前記電極層24は、Cr,W,Au,Rh,α―Ta等の導電性材料により形成される。なお、前記スピンバルブ型薄膜素子は、前記積層膜T1、バイアス下地層22、ハードバイアス層23及び前記電極層24で構成される。
【0058】
図3に示すように、前記積層膜T1上から電極層24上にかけてAl等の絶縁材料で形成された上部ギャップ層25が形成され、前記上部ギャップ層25上には磁性材料で形成された上部シールド層26が形成されている。
【0059】
図3の実施の形態では、前記ハードバイアス層23からの縦バイアス磁界によってフリー磁性層6の磁化はトラック幅方向(図示X方向)に揃えられる。そして記録媒体からの信号磁界(外部磁界)に対し、フリー磁性層6の磁化が感度良く変動する。一方、固定磁性層4の磁化は、ハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に固定されている。
【0060】
フリー磁性層6の磁化方向の変動と、固定磁性層4の固定磁化方向(特に第2固定磁性層4cの固定磁化方向)との関係で電気抵抗が変化し、この電気抵抗値の変化に基づく電圧変化または電流変化により、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0061】
図4は図3とは別の構成のCIP型のシングルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドを記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0062】
図4では図3と違って積層膜T2に反強磁性層2が設けられていない。図4は、固定磁性層自体の一軸異方性によって固定磁性層4の磁化が固定される、いわゆる自己固定式の磁気検出素子である。
【0063】
図4では、前記固定磁性層4の下側に、例えば、Pt,Au,Pd,Ag,Ir、Rh、Ru,Re,Mo,Wなどの単体元素、あるいはこれらの元素のうち2種以上からなる合金、または、R―Mn(ただし元素Rは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Os,Ni,Feのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で形成された磁歪増強層30が5Å以上50Å以下程度の膜厚で形成される。
【0064】
固定磁性層4の磁歪定数λsを大きくすることによって磁気弾性エネルギーを大きくし、これによって、固定磁性層4の一軸異方性を大きくするものである。固定磁性層4の一軸異方性が大きくなると、固定磁性層4の磁化は一定の方向に強固に固定され、スピンバルブ型薄膜素子の出力が大きくなりかつ出力の安定性や対称性も向上する。
【0065】
図4に示されるスピンバルブ型薄膜素子では、固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4aの前記非磁性材料層5側と反対側の面には非磁性金属製の磁歪増強層30が接して設けられている。これによって、第1固定磁性層4aの特に下面側の結晶構造に歪みを生じさせて第1固定磁性層4aの磁歪定数λsを大きくさせている。これによって前記固定磁性層4の一軸異方性は大きくなり、反強磁性層3が形成されなくても前記固定磁性層4をハイト方向(図示Y方向)と平行な方向に強固に固定できる。
【0066】
なお図4においてスピンバルブ型薄膜素子は、前記積層膜T2(前記磁歪増強層を含む)、バイアス下地層22、ハードバイアス層23及び前記電極層24で構成される。
【0067】
図3,図4では特にシングルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドについて説明したが、図3及び図4に示す構造は、図2に示す積層膜を有するデュアルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドにも適用できる。
【0068】
図5は図1に示す積層膜を有するシングルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドを記録媒体との対向面側から見た部分断面図であり、前記シングルスピンバルブ型薄膜素子はCPP型である。
【0069】
図5では、図3と異なり、前記積層膜T1と下部シールド層20の間、及び前記積層膜T1と上部シールド層26の間には絶縁材料製のギャップ層は形成されていない。前記下部シールド層20及び上部シールド層26が電極として機能し、前記積層膜T1には、各層の膜面と垂直方向(図示Z方向と平行な方向)に電流が流される。
【0070】
図5では前記積層膜T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側には、下から絶縁層40、ハードバイアス層23及び絶縁層41の順に積層された積層構造が形成されている。前記絶縁層40,41は電流が前記積層膜T1の両側に分流するのを抑制するための層である。
【0071】
図5に示すCPP型のスピンバルブ型薄膜素子の積層膜T1の構成は図4で説明した自己固定式の積層膜T2の構造であってもよいし、図2に示すデュアルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜の構造にも適用できる。なお図5におけるスピンバルブ型薄膜素子は、積層膜T1、絶縁層40,41,ハードバイアス層23,下部シールド層20,及び上部シールド層26で構成される。
【0072】
図1に示すシングルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜の製造方法について以下に説明する。図7及び図9は、製造工程中の前記シングルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜を記録媒体との対向面側から見た断面図であり、図8は、酸素が非磁性中間層の表面に吸着する様子を示す模式図である。
【0073】
図7に示すように、下地層1,シード層2,反強磁性層3,固定磁性層4を構成する第1固定磁性層4a及び非磁性中間層4bをそれぞれスパッタ法にて成膜する。各層の材質については既に述べたのでそちらを参照されたい。スパッタ法にはDCマグネトロンスパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、ロングスロースパッタ法、コリメーションスパッタ法等を使用できる。図7に示す各層を真空チャンバー内で順番に積層する。
【0074】
図7では、前記非磁性中間層4bをRu、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのいずれか1種または2種以上の元素で形成することが好ましい。より好ましくは、前記非磁性中間層4bを酸化されにくいRu、Rh、Ir、Cr、Reで形成することである。以下では、前記非磁性中間層4bをRuで形成したとして説明する。
【0075】
前記非磁性中間層4bまで成膜したら、同真空チャンバー内に純Arガスを導入し、スパッタが起こらない程度に低エネルギーのプラズマを前記非磁性中間層4bの表面4b1に形成する。すると、プラズマ粒子が前記表面4b1に衝突し、前記表面4b1に存在するRu原子を活性化し、前記表面4b1で原子再配列が促進される(表面改質処理における第1処理)。これにより前記表面4b1の表面粗さが低減される。プラズマ処理時の条件は、例えば、高周波電力を30〜120W、Arガス圧を0.13〜3.99Pa、処理時間を30〜180秒とする。
【0076】
プラズマ処理後、直ちに、同真空チャンバー内に、純Arガスに加えて微量の酸素を流入する。前記プラズマ処理により前記非磁性中間層4bの表面4b1が活性化されているため、純Arガスと酸素による混合ガス雰囲気中で前記表面4b1に酸素が吸着される(表面改質処理における第2処理。図8を参照)。Ru等、酸化されにくい材質で前記非磁性中間層4bを形成することにより、酸素フロー時間等を長くして酸素供給量を多くしても前記非磁性中間層4bの表面4b1に酸化層が生じることなく、前記表面4b1に十分な量の酸素を吸着させることができる。また前記純Arガス(不活性ガス)は酸素の希釈剤として用いたもので、前記純Arガス自体が酸素吸着に対して関与しない。よって純Arガスを用いずに酸素のみを真空チャンバー内に流入し、酸素雰囲気中で前記非磁性中間層4bの表面4b1に酸素を吸着させてもよい。酸素フロー時の条件は、例えば、酸素ガス圧を0.266×10―3〜6.65×10―3Pa,酸素フロー時間を30〜180秒とする。
【0077】
次に、図9に示す工程では、同真空チャンバー内に、純Arガスを導入し、非磁性中間層側磁性層4c2をスパッタ法により成膜する。前記非磁性中間層側磁性層4c2をX(Å)の膜厚で形成する。前記非磁性中間層側磁性層4c2を次に成膜される非磁性材料層側磁性層4c1より比抵抗の高い磁性材料で形成する。前記非磁性中間層側磁性層4c2をCo、Fe、Niのうち2種以上の元素を有する磁性材料で形成することが好ましい。また前記非磁性中間層側磁性層4c2をCoFe合金で形成することがより好ましい。また、前記第1固定磁性層4aもCoFe合金で形成することで、前記第1固定磁性層4aと第2固定磁性層4cとの間に生じるRKKY的相互作用を大きくできる。
【0078】
続いて、同真空チャンバー内に純Arガスを導入した状態にて、前記非磁性中間層側磁性層4c2の上に非磁性材料層側磁性層4c1をスパッタ法により成膜する。前記非磁性材料層側磁性層4c1をY(Å)の膜厚で形成する。前記非磁性材料層側磁性層4c1を前記非磁性中間層側磁性層4c2より比抵抗の低い磁性材料で形成する。好ましくは前記非磁性材料層側磁性層4c1をCoで形成する。このとき、前記第2固定磁性層4cに占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比{X/(X+Y)}×100(%)が16%〜50%の範囲内になるように、また、前記第2固定磁性層4cの膜厚(X+Y)が15Å〜30Åの範囲内となるように、前記非磁性中間層側磁性層4c2及び非磁性材料層側磁性層4c1の膜厚X,Yをそれぞれ制御する。
【0079】
前記非磁性中間層4bの表面4b1に酸素を吸着させることで、サーファクタント効果が適切に発揮され、前記非磁性中間層4b上に積層される第2固定磁性層4cの界面平坦性及び結晶性が向上する。また前記非磁性材料層側磁性層4c1を、前記非磁性中間層側磁性層4c2よりも比抵抗の小さい磁性材料で形成し、さらに前記非磁性材料層側磁性層4c1を、前記非磁性中間層側4c2よりも酸化されにくい材質で形成することで、前記第2固定磁性層4c内では、微量に取り込まれた酸素の濃度が前記第2固定磁性層4cの下面から上面に向かうにしたがって徐々に小さくなる勾配を有する。
【0080】
図9の工程後、前記第2固定磁性層4c上に、非磁性材料層5、フリー磁性層6及び保護層10をスパッタ法により成膜するが、前記第2固定磁性層4cの界面平坦性及び結晶性が向上したことで、前記非磁性材料層5及びフリー磁性層6の界面平坦性及び結晶性も適切に向上し、このように前記サーファクタント効果が前記第2固定磁性層4c、非磁性材料層5及びフリー磁性層6に適切に及ぶ。
【0081】
前記第2固定磁性層4c、非磁性材料層5及びフリー磁性層6の界面平坦性及び結晶性が向上したことで、アップスピンを持つ伝導電子の平均自由工程は長くなり、この結果、抵抗変化率(ΔR/R)の向上を適切に図ることができる。
【0082】
また図9で説明したように、前記第2固定磁性層4cに占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比{X/(X+Y)}×100(%)を16%〜50%の範囲内に規制することで、抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできるとともに、ΔRs及びminRsも大きくでき、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方を適切に大きくすることが可能になる。前記第2固定磁性層4cに占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比{X/(X+Y)}×100(%)を18.2%〜45.5%の範囲内に調整することが、抵抗変化率(ΔR/R)と再生出力の双方をより適切に大きくできて好ましい。
【0083】
このように本実施形態では、前記非磁性中間層4bの表面4b1に対し、プラズマ処理を行って前記表面4b1を活性化させる第1処理と、前記第1処理終了後に、前記表面4b1に酸素を吸着させる第2処理と、からなる表面改質処理を行うこと、及び第2固定磁性層4cを非磁性材料層側磁性層4c1と非磁性中間層側磁性層4c2の少なくとも2層構造とし、前記非磁性材料層側磁性層4c1と非磁性中間層側磁性層4c2の材質及び膜厚を適切に制御することで、簡単且つ適切に抵抗変化率(ΔR/R)及び再生出力の大きい磁気検出素子を製造することができる。
【0084】
前記第2固定磁性層4cを3層以上の積層構造で形成してもよい。かかる場合、例えば、非磁性中間層側磁性層4c2,中間磁性層、非磁性材料層側磁性層4c1の順に比抵抗が小さくなる磁性材料で各層を形成する。
【実施例】
【0085】
図1に示すシングルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜を製造した。
前記積層構造は、下地層1;Ta/シード層2;{Ni0.8Fe0.240at%Cr60at%(42)/反強磁性層3;IrMn(55)/固定磁性層4[第1固定磁性層4a;Fe70at%Co30at%(14)/非磁性中間層4b;Ru(8.7)/非磁性中間層側磁性層4c2;Fe90at%Co10at%(X)/非磁性材料層側磁性層4c1;Co(22―X)]/非磁性材料層5;Cu(19)/フリー磁性層6[Co90at%Fe10at%(10)/NiFe(32)]/保護層10;Ta(30)であった。なお括弧内の数値は膜厚を示し単位はÅである。そして、前記積層膜のトラック幅方向の両側にハードバイアス層と電極層とが形成される図3と同様のCIP型スピンバルブ型薄膜素子を製造した。
【0086】
前記CIP型スピンバルブ型薄膜素子の層構造は同じで、前記非磁性中間層4bの表面4b1に対し、表面改質処理を行ったもの(実施例)と、前記表面改質処理を行わなかったもの(比較例)をそれぞれ製造した。表面改質処理の条件は以下のとおりであった。
【0087】
<Arプラズマ処理(第1処理)>
高周波電力:100W
Arガス圧:2.66Pa
処理時間:120秒
【0088】
<酸素フロー処理(第2処理)>
酸素ガス圧::1.43×10−3Pa
処理時間:60秒
【0089】
また、実施例のCIP型スピンバルブ型薄膜素子及び比較例のCIP型スピンバルブ型薄膜素子のそれぞれ第2固定磁性層4cをハイト方向(図示Y方向)に磁化固定し、第1固定磁性層4aをハイト方向と逆方向(図示Y方向と逆方向)に磁化固定しており、トラック幅方向に磁化が揃えられたフリー磁性層6に対し、ハイト方向に向けて外部磁界を与え、この外部磁界を徐々に強くしていったときの前記スピンバルブ型薄膜素子の抵抗最小値minRs、及び抵抗変化量ΔRsを測定した。抵抗値は、前記フリー磁性層6の磁化が第2固定磁性層4cの磁化と同じ方向であるハイト方向に向いたときもっとも小さくなる(minRsの測定)。また、もっとも高い抵抗値から前記minRsを引くことで、抵抗変化量ΔRsを求めることができる。また抵抗変化率(ΔR/R)=ΔRs/minRsの関係が成り立っているので、前記minRs及びΔRsを求めることで、前記抵抗変化率(ΔR/R)を求めることができる。
【0090】
実験では、実施例のCIP型スピンバルブ型薄膜素子及び比較例のCIP型スピンバルブ型薄膜素子のそれぞれにおいて、前記第2固定磁性層4cの膜厚を22Åに固定し、その中で非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚Xを種々変化させたときの、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚X(絶対値)及び膜厚比と抵抗最小値minRsとの関係、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚(絶対値)及び膜厚比と抵抗変化量ΔRsとの関係、及び前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚(絶対値)及び膜厚比と抵抗変化率(ΔR/R)との関係について調べた。その実験結果を図10ないし図12に示す。なお前記膜厚比は、小数点第2位を四捨五入した値である。
【0091】
図10に示すように、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなるほど、minRsは大きくなることがわかった。この傾向は実施例及び比較例の双方において同じで、ただし実施例のほうが比較例に比べてminRsの値が大きくなった。非磁性中間層側磁性層4c2はCoFe合金で形成され、非磁性材料層側磁性層4c1はCoで形成され、前記非磁性中間層側磁性層4c2ほうが非磁性材料層側磁性層4c1より比抵抗が大きいから、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなることで、minRsは大きくなると考えられる。
【0092】
次に、図11に示すように、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなるにつれて、ΔRsは大きくなることがわかった。また実施例のほうが比較例よりΔRsが大きくなることがわかった。
【0093】
しかし図11に示すように、実施例と比較例とでは、やや前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比に対するΔRsの増減の傾向が異なることがわかった。比較例では、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなることで、前記ΔRsはゆるやかに直線的に大きくなっていることがわかった。
【0094】
一方、実施例の場合、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなると、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比がほぼ55%(膜厚は、ほぼ12Å)となったところで、ΔRsが最大となり、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚が12Åより大きくなると、徐々に前記ΔRsが低下する傾向が見られた。このように実施例の場合、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなると、ΔRsは一旦大きくなるが、途中から前記ΔRsは徐々に小さくなることがわかった。
【0095】
したがって、ΔRs/minRsで求めることができる抵抗変化率(ΔR/R)も、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなると、一旦大きくなるが、途中から徐々に小さくなる傾向を示す(図12)。図12に示すように、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が27.3%(膜厚はほぼ6Å)のときに、抵抗変化率(ΔR/R)が最大となることがわかった。
【0096】
図12に示すように、比較例の場合、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比が大きくなるほど、前記抵抗変化率(ΔR/R)は徐々に直線的に小さくなっていく。このように比較例の場合、抵抗変化率(ΔR/R)と、minRs及びΔRsとが完全な(きれいな)トレードオフの関係にあり、すなわち抵抗変化率(ΔR/R)がもっとも高くなる非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比を選択すると(すなわち非磁性中間層側磁性層の膜厚は0Å)、逆にminΔRs及びΔRsがもっとも小さくなる傾向にあり、抵抗変化率(ΔR/R)、minΔRs及びΔRsのすべてを適切に大きく設定することができなかった。
【0097】
これに対し実施例では、図12に示すように、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比を16%〜50%の範囲内に設定すると、前記抵抗変化率(ΔR/R)を大きくできるとともに、minΔRs及びΔRsも大きくできることがわかった。また、前記非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比を18.2%〜45.5%の範囲内に設定すると、前記抵抗変化率(ΔR/R)及びminΔRs及びΔRsをより適切に大きくできることがわかった。
【0098】
以上により、本実施の形態では、第2固定磁性層4c中に占める非磁性中間層側磁性層4c2の膜厚比を16%〜50%の範囲内に設定し、より好ましい膜厚比を18.2%〜45.5%の範囲内にした。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施形態のシングルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜を示す模式図、
【図2】本発明の実施形態のデュアルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜を示す模式図、
【図3】図1に示す積層膜を有するCIP型シングルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドを記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図4】図3とは別の構成のCIP型シングルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドを記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図5】図1に示す積層膜を有するCPP型シングルスピンバルブ型薄膜素子を備えた再生ヘッドを記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図6】図1に示す積層膜の一部のみを示し、特に図1とは異なる表面改質処理の箇所を説明するための模式図、
【図7】製造工程中の図1に示すシングルスピンバルブ型薄膜素子の積層膜を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図8】酸素が非磁性中間層の表面に吸着する様子を示す模式図、
【図9】図7の次に行われる工程図(部分断面図)、
【図10】実施例(非磁性中間層表面に対し表面改質処理を施したもの)のCIP型スピンバルブ型薄膜素子及び比較例のCIP型スピンバルブ型薄膜素子(非磁性中間層表面に対し表面改質処理を施していないもの)のそれぞれにおいて、第2固定磁性層の膜厚を22Åに固定し、その中で非磁性中間層側磁性層の膜厚Xを種々変化させたときの、前記非磁性中間層側磁性層の膜厚X(絶対値)及び膜厚比と抵抗最小値minRsとの関係を示すグラフ、
【図11】実施例(非磁性中間層表面に対し表面改質処理を施したもの)のCIP型スピンバルブ型薄膜素子及び比較例のCIP型スピンバルブ型薄膜素子(非磁性中間層表面に対し表面改質処理を施していないもの)のそれぞれにおいて、第2固定磁性層の膜厚を22Åに固定し、その中で非磁性中間層側磁性層の膜厚Xを種々変化させたときの、前記非磁性中間層側磁性層の膜厚X(絶対値)及び膜厚比と抵抗変化量ΔRsとの関係を示すグラフ、
【図12】実施例(非磁性中間層表面に対し表面改質処理を施したもの)のCIP型スピンバルブ型薄膜素子及び比較例のCIP型スピンバルブ型薄膜素子(非磁性中間層表面に対し表面改質処理を施していないもの)のそれぞれにおいて、第2固定磁性層の膜厚を22Åに固定し、その中で非磁性中間層側磁性層の膜厚Xを種々変化させたときの、前記非磁性中間層側磁性層の膜厚X(絶対値)及び膜厚比と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0100】
1 下地層
2 シード層
3、9 反強磁性層
4、8 固定磁性層
4a、8a 第1固定磁性層
4b、8b 非磁性中間層
4c、8c 第2固定磁性層
4c1、8c1 非磁性材料層側磁性層
4c2、8c2 非磁性中間層側磁性層
5、7 非磁性材料層
6 フリー磁性層
10 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成され、外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層、を有してなる積層膜を有する磁気検出素子において、
前記固定磁性層と非磁性材料層との界面と平行な面方向であって、前記積層膜の少なくとも一箇所以上の所定面には、プラズマ処理を行って前記所定面を活性化させる第1処理と、酸素を含む雰囲気に曝す第2処理と、が施されており、
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と、第2固定磁性層と、前記第1固定磁性層と第2固定磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有し、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接する側に設けられており、
前記第2固定磁性層は、前記非磁性中間層と接する非磁性中間層側磁性層と、前記非磁性材料層と接する非磁性材料層側磁性層とを有し、
前記非磁性材料層側磁性層は、非磁性中間層側磁性層より比抵抗が低い磁性材料で形成され、
前記非磁性中間層側磁性層の膜厚をXÅ、前記非磁性材料層側磁性層の膜厚を、YÅとしたとき、{X/(X+Y)}×100(%)が、16%以上で50%以下であることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項2】
前記非磁性材料層の下に設けられる前記第2固定磁性層、あるいはフリー磁性層、または前記フリー磁性層が、第1フリー磁性層と、第2フリー磁性層と、前記第1フリー磁性層と第2フリー磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有し、前記第2フリー磁性層が前記非磁性材料層と接する側に設けられる構造のときは前記第2フリー磁性層、のいずれかの下側に設けられる層の所定面に前記第1処理及び第2処理が施される請求項1記載の磁気検出素子。
【請求項3】
下から、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層の順に積層されている請求項1または2に記載の磁気検出素子。
【請求項4】
前記所定面は、前記固定磁性層を構成する前記非磁性中間層の表面である請求項3記載の磁気検出素子。
【請求項5】
前記非磁性中間層は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのいずれか1種または2種以上の元素で形成されている請求項4記載の磁気検出素子。
【請求項6】
前記非磁性中間層側磁性層は、Co、Fe、Niのうち2種以上の元素を有する磁性材料で形成される請求項1ないし5のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項7】
前記非磁性中間層側磁性層はCoFe合金で形成される請求項6記載の磁気検出素子。
【請求項8】
前記非磁性材料層側磁性層は、Coで形成される請求項1ないし7のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項9】
前記第2固定磁性層の膜厚は15Å以上で30Å以下の範囲内で形成される請求項1ないし8のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項10】
磁化方向が固定される固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性材料層を介して形成され、外部磁界により磁化方向が変動するフリー磁性層、を有してなる積層膜を有する磁気検出素子の製造方法において、
前記固定磁性層と非磁性材料層との界面と平行な面方向であって、前記積層膜の少なくとも一箇所以上の所定面に純Ar雰囲気中でプラズマ処理を行って前記所定面を活性化させる第1処理と、前記第1処理の終了直後に、酸素雰囲気中あるいは酸素と不活性ガスによる混合ガス雰囲気中で、前記活性化させた前記所定面に酸素を吸着させる第2処理と、を施し、
前記固定磁性層を、第1固定磁性層と、第2固定磁性層と、前記第1固定磁性層と第2固定磁性層との間に形成される非磁性中間層とを有して形成し、前記第2固定磁性層を前記非磁性材料層と接する側に設けており、
前記第2固定磁性層を、前記非磁性中間層と接する非磁性中間層側磁性層と、前記非磁性材料層と接する非磁性材料層側磁性層とを有して形成し、
前記非磁性材料層側磁性層を、非磁性中間層側磁性層より比抵抗が低い磁性材料で形成し、
前記非磁性中間層側磁性層の膜厚をXÅ、前記非磁性材料層側磁性層の膜厚を、YÅとしたとき、{X/(X+Y)}×100(%)を、16%以上で50%以下にすることを特徴とする磁気検出素子の製造方法。
【請求項11】
下から、固定磁性層、非磁性材料層、フリー磁性層の順に積層し、前記非磁性中間層の表面を前記所定面として、前記第1処理および第2処理を施す請求項10記載の磁気検出素子の製造方法。
【請求項12】
前記非磁性中間層を、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのいずれか1種または2種以上の元素で形成する請求項11記載の磁気検出素子の製造方法。
【請求項13】
前記非磁性中間層側磁性層を、Co、Fe、Niのうち2種以上の元素を有する磁性材料で形成する請求項10ないし12のいずれかに記載の磁気検出素子の製造方法。
【請求項14】
前記非磁性中間層側磁性層をCoFe合金で形成する請求項13記載の磁気検出素子の製造方法。
【請求項15】
前記非磁性材料層側磁性層を、Coで形成する請求項10ないし14のいずれかに記載の磁気検出素子の製造方法。
【請求項16】
前記第2固定磁性層の膜厚を15Å以上で30Å以下の範囲内で形成する請求項10ないし15のいずれかに記載の磁気検出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−310701(P2006−310701A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134345(P2005−134345)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】