説明

磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法及び製造装置

【課題】 保磁力が低下する原因となる配向の乱れや原料となる微粉末の飛散を生じることなく磁気異方性希土類焼結磁石を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 秤量・充填部41及び高密度化部42において、磁気異方性希土類焼結磁石の原料となる微粉末を所定の密度になるように充填容器に充填し、磁界配向部43においてパルス磁界により微粉末を配向させた後、微粉末をプレスすることなく焼結炉44において焼結する。従来の方法では微粉末をプレスしていたため、磁場により生じた微粒子の配向が、プレス工程及びプレス工程に必要となる消磁工程より乱れていた。本発明の方法ではこのような配向の乱れは生じない。また、微粉末をプレスすることがないことから、微粒子の飛散を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能の希土類磁石の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類・鉄・ホウ素系焼結磁石(以下「RFeB磁石」という)は、それまでの永久磁石材料の特性をはるかに凌駕するばかりでなく、ネオジム(希土類元素の一種)、鉄及びボロンなど資源的に豊富な原料を用いるため廉価であり、1982年に出現して以来理想的な永久磁石材料として着実に市場を拡大しつつある。主な用途はコンピューターHDD(ハード・ディスク・ドライブ)磁気ヘッド駆動用モーターVCM(ボイスコイルモーター)、高級スピーカー、ヘッドホン、電動補助型自転車、ゴルフカート、永久磁石式磁気共鳴診断装置(MRI)などである。さらに、ハイブリッド・カー(電気自動車)駆動用モーターや省エネルギー・低騒音型大型家電製品(クーラーや冷蔵庫)、産業用モーターにおいても実用化が進められている。
【0003】
RFeB磁石は高い磁気特性を有するが、温度特性が悪いという欠点を有する。特に保磁力の温度特性は重要である。RFeB磁石は出現以来広く用いられるようになったが、最も用いられている分野はコンピューターHDD用VCM及びMRIであった。これらはいずれも安定した室温で用いられる。
【0004】
家電や産業用モーターに使用される場合、コイル電流に起因する温度上昇を避けることはできない。また、モーター電機子から逆磁界が作用するため、温度が上昇して保磁力が小さくなると永久磁石に不可逆減磁が生じる。不可逆減磁を防ぐためには予め保磁力を高くしておくしかない。
【0005】
RFeB磁石は1982年に本願発明者らによって見出された(特許文献1)。このRFeB磁石は、正方晶の結晶構造の、磁気異方性を有するR2Fe14B金属間化合物を主相とする。高い磁気特性を得るためには磁気異方性の特徴を生かすことが必要であり、焼結法以外にも鋳造・熱間加工・時効処理の方法(特許第2,561,704号)や急冷合金をダイ・アップセット加工する方法(特許第4,792,367号)が提案されている。しかしこれらの方法は、磁気特性および生産性の両面において焼結法に劣る。焼結法は、永久磁石に必要とされる緻密で均質な微細組織を得るための最良の方法である。
【0006】
[焼結工程]
RFeB焼結磁石は、組成配合・溶解・鋳造・粉砕・磁界中圧縮成型・焼結・熱処理の工程を経て製造される。
【0007】
[組成]
RFeB磁石が見出された後、その保磁力など特性改善のため、添加元素(特許第1606420号等)・熱処理(特許第1818977号等)・結晶粒径コントロール(特許第1662257号等)などの効果が明らかにされてきたが、保磁力の向上に最も効果的なのは、重希土類元素(Dy, Tb)の添加である(特許第1802487号)。重希土類元素を多量に用いれば保磁力は確実に増加するが、飽和磁化が低下して最大エネルギー積が低下する。また、Dy, Tbは資源に限りがあり、高価であるため、将来に需要が見込まれる電気自動車や産業用・家庭用モーターをまかなうことは不可能である。
【0008】
[溶解]
焼結磁石には緻密で均質な微細組織が要求される。当初は合金溶湯を鋳造し、微粉砕する方法が一般的であった(例えば特許第1431617号)。合金溶湯をストリップキャスト法で急冷すればアルファ鉄の出現が抑えられて、非磁性の希土類元素の量を少なくすることで高いエネルギー積が得られる(特許第2665590号、特開2002-208509等)。
【0009】
[還元拡散法]
希土類酸化物粉末と鉄粉、フェロボロン粉末等を金属Caと混合加熱して、RFeB合金粉末を直接に得る方法がある。
【0010】
[粉砕]
RFeB合金は水素を吸蔵させると合金内にマイクロクラックが生じ、粉砕が容易になる(特許第1674022号)。微粉砕には、シャープな粒度分布の粉末が得られることから、窒素などの不活性ガスを利用するジェットミル粉砕が主流である(特許第1883860号等)。
【0011】
[成形]
磁界中で粉末を圧縮成形して磁気異方性焼結磁石を得る製造方法は、フェライト磁石の発明に端を発し(特公昭29-885号, 米国特許第2,762,778号)、その後RCo磁石やRFeB磁石に応用された(米国特許第3,684,593号等、特許第1431617号)。
微粉末はRFeB正方晶結晶構造のc軸を一方向に揃えて成形される。金型プレス法が一般的であるが、さらに高い配向度と高いエネルギー積を得る方法としてCIP法(特許第3383448号)やRIP法(特許第2030923号等)がある。
【0012】
[金型プレス法]
磁気異方性永久磁石の製法に磁界中圧縮成型・焼結の手法が用いられたのは、ウェント等によって1951年にフェライト磁石が発明(特公昭35-8281号, 米国特許第2,762,777号)された同じ年に、ゴルター等によって磁気異方性焼結フェライト磁石が発明された(特公昭29-885号, 米国特許2,762,778号)。その後、金型プレス法における欠点を克服するために数多くの改良がなされてきた。
【0013】
[潤滑剤の添加]
金型成型時の微粉末の配向を高めるため、粉末と粉末、粉末と金型の摩擦を軽減するために潤滑剤を添加する方法がある(特許第2545603号、第3459477号等)。
【0014】
[湿式磁場プレス]
微粉末の酸化を防ぎながら高い配向性を達成するために鉱物油、合成油又は植物油と微粉末の混錬物を金型内に高圧注入し、磁界中で湿式圧縮成型する方法がある(特許第2731337号等)。この場合、スラリーを加圧注入、加圧充填を行うと高い焼結密度と高い磁気特性が得られるという報告がある(特許第2859517号)
【0015】
[CIP]
金型成型法では一方向からの加圧しか採用できず、それが配向を乱す原因である。あらゆる方向から等方的に圧力を加えることができれば、配向の乱れが小さくなる。微粉末をゴム容器に入れて外部から磁界をかけ、冷間静水圧プレス(CIP)を施す方法(特許第3383448号等)がある。
【0016】
[RIP]
冷間静水圧プレスと同等の効果を得る方法として、本発明者らは先に金型プレス機内にゴム型を設置して等方的圧力を加える方法としてRIP(Rubber Isostatic Pressing)法を提案した(特許第2030923号)。この方法では自動化が容易なため、CIPよりもはるかに量産に向いている。
【0017】
[MIM]
多量のバインダーと微粉末を混練して温度を上げ粘性を低くしたものを金型内に射出成形する方法が提案されている(特許第3078633号)。
【0018】
[AT]
凝集性のある微粉末を金型プレス等のダイ・キャビティに充填する方法として空気タッピング(エア・タッピング、Air Tapping、AT)法が提案された(特開平9-78103号、特開平9-169301号、特開平9-225693号)。空気タッピングとは、粉末の供給ホッパーからキャビティに向かって高速の空気気流が流れ、戻るときはそれよりも低速であることを特徴とする。空気タッピング法を用いて、予めバインダーを混合した粉末をキャビティ内に充填し、加熱等の手段を用いて固化し、ニアネットシェイプの成形体を得る方法が提案されている(特開2000-96104)。
【0019】
[パルス磁界]
粉末の方向を揃えるために外部から磁界を加える方法が採用される。RFeB磁石の場合、正方晶構造のc軸方向が容易磁化軸に相当し、磁界を加えると粉末は一方向に配向する。通常の金型プレスの場合は電磁石による静磁界が加えられ、最大15 kOeの程度である。しかし空心コイルを用いたパルス磁界では15〜55 kOeの強い磁界をかけることができて、実際に高い磁界を加えた方が磁気特性は向上する(特許第3307418号)。
【0020】
[クローズドシステム]
粉末が酸化するのを避けるために粉砕工程、成形工程を不活性雰囲気下で行うことが提案されている(特開平6-108104)。
【0021】
【特許文献1】特許第1431617号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
[焼結法の効果]
粉末冶金(焼結)法では、緻密で均質な微細組織が得られる。希土類コバルト磁石やR-Fe-B磁石において、それぞれの材質の特質を生かし、高性能の永久磁石を得るには粉末冶金法にまさる方法はない。
【0023】
[磁界中プレス成形]
磁気異方性焼結磁石の製造方法に磁界中圧縮成形・焼結の手法が用いられたのは、1951年にウェント等によってフェライト磁石が発明(特公昭35-8281号, 米国特許2,762,777号)された直後に、ゴルター等によって磁気異方性焼結フェライト磁石が出現したのが最初である(特公昭29-885号, 米国特許2,762,778号)。圧縮成形する目的は、圧縮によって液体状のバインダー成分を搾り出すこと、配向した粒子を固定するためであるとされている。また、圧縮成形は所望の形状を得るために好ましいとされている。圧縮成形しないでそのまま磁界中で容器と共に加熱した例があるが、圧縮成形した例に比べて、密度が低く、磁気特性も低い。
その後磁界中圧縮成形・焼結の手法はRCo焼結磁石(米国特許第3,684,593等)及びRFeB焼結磁石(特許第1431617号)に引き継がれた。磁界を加えることは粒子を配向するために必須の工程であるが、圧縮の効果については特に深い考察は行われて来なかった。
金型プレスでは直角磁場方式と平行磁場方式がある。x-, y-, z-三軸で考える。平行磁場方式ではz-軸方向に磁場が加えられ、同時にz-軸方向に加圧される。磁場によってz-軸方向に配列された微粒子は、同じくz-軸方向から加圧されて、摩擦によってx-軸方向、y-軸方向に傾き、配列が乱れる。一方、直角磁場方式では、x-軸方向に磁場がかけられて配列し、z-軸方向から加圧される。同じく摩擦によってx-軸方向、y-軸方向に傾くが、y-軸方向に傾く場合、粉は回転するだけで、配列そのものに影響は小さい。すなわち、理想的な配列に対して、平行磁場方式では二方向に配列が乱れるが、直角磁場方式では一方向にしか配列が乱れず、直角磁場方式の方が特性は高い。
【0024】
[金型プレスが選択される理由]
金型プレスが用いられる理由のひとつは、ほとんど最終形状・寸法に近いもの(ネットシェイプ)が得られ、歩留まりがよく自動化が可能だからである。特にネットシェイプと歩留まりの観点からは金型プレス法は量産に適した方法として、広く採用されてきた。
【0025】
[CIP]
予め微粉末をゴム容器に入れて密封し、外部から磁界をかけた後、CIP(Cold Isostatic Pressing:冷間静水圧プレス)を施す方法がある(特許第3383448号等)。金型プレスのような粒子の配向を乱す一方向からの加圧ではなく、等方的に圧力が加えられるため、配向の乱れは少ない。パルス磁界による高い磁界を加えて粉末を配向することができる。高い圧力を加えることができて、堅牢な圧粉体を得ることができる。しかし、ハンドリングのための消磁工程は必要である。所望形状の圧粉体を得ることがでないために歩留まりが悪く、加工工程に手間がかかる。また、手作業が避けられないため、量産に向かない。
【0026】
[RIP]
CIPと同等の効果を得る方法として、本願発明者らは先にRIP(Rubber Isostatic Pressing)法を提案した(特許第2030923号等)。RIPでは、微粉末をゴム型に入れて、パルス磁界をかけ、ゴム型全体を金型プレス機で加圧する。CIP方式と同じく等方的に圧力が加えられ、かつパルス磁界を用いることができるので、金型プレス方式よりも特性は高い。この方法ではゴム型充填・パルス磁界印加・圧縮成形・消磁の工程を連続して行う自動化が可能なため、量産に向いている。
フローティング・ダイ方式であるため、金型プレス機のような精密なダイセットを必要としないこと、電磁石のためのコイルや磁気回路を必要としないことから、RIP装置の容積は同レベルの金型プレス機の数分の1で済む。小型であるため、グローブボックス形式の雰囲気密閉化が可能である。大きな圧力を加えることができるため、バインダーを用いなくても堅牢な圧粉体を得ることができる。
しかし、この磁石の微粉末は金属間化合物合金塊を粉砕したもので、均一な球形粉ではなく、さまざまな形状の破面を有しており、CIPにせよRIPにせよ、大きな力が加わる場合に粉同士の摩擦による配向の乱れを除去するのは困難であった。また、ゴム型を使用するため圧粉体取り出しの工程に手間がかかり、焼結炉搬送までの工程の自動化が困難であった。
【0027】
[MIM]
MIM(Metal Injection Molding:金属射出成形)は、合金粉末と多量のバインダー(体積比で40〜50%)からなる混練物の温度を高めて粘性を低くしたものを、金型内に射出成形して成形体を得、炉に入れて徐々に温度を上げながら脱バインダー処理を行うものである。磁気異方性磁石の場合には、予め金型の外から静磁界が加える。バインダーとしてパラフィン系ワックスを用いる方法(特開昭64-28302)、寒天やメチルセルロースを用いる方法(特許第3078633号等)が知られている。ネットシェイプ性は実現されているが、報告されている磁気特性はかなり低い。バインダーが蒸発し、かつバインダー成分と希土類元素が反応しないような低温域で、長時間の脱バインダー処理工程を必要とするため、時間がかかり、生産効率が非常に悪い。
MIM法では高圧注入による充填方式であり、圧縮工程はない。多量のバインダーを用いるため、残留炭素等の影響で特性が低下する。ネットシェイプの観点からはすぐれているが、磁気特性は低い。
【0028】
[磁界中プレス工程の詳細]
長い歴史の中で、金型プレス法は効率的な作業のために自動化が図られてきた。その工程はおおよそ次の通りである。
・微粉末がフィーダーを通して金型内に供給される。
・上パンチを下ろしてキャビティを封じる。
・磁界が加えられる。
・磁界を加えながら上パンチと下パンチで加圧する。
・逆磁界または交番磁界をかけて圧粉体を消磁する。
・上パンチが上がる。
・下パンチが上がり(またはダイスが下がり)、圧粉体が金型上に押し出される。
・ロボット・アームが圧粉体をコンベアに運ぶ。
・圧粉体が一箇所に集められる。
・焼結台版上に並べられる。
この際、衝突や溶着を避けるために間隔をおいて配置される。作業状況により圧粉体が数日間保管されることがある。
粉末冶金法で用いられる金型プレスは精密機械である。単個(一個)取りのプレスであればパンチ・ダイスの位置合わせは比較的容易であるが、多数個取りの場合は複雑である。磁石は円板・矩形・穴あき円板・弓形などさまざまな形状・寸法が要求され、その度に煩雑な金型取替え作業が必要となる。
【0029】
[磁界中圧縮成形の目的と効果]
圧縮成形の役割について、例えば"Rare-earth Iron Permanent Magnet" edited J.M.D.Coey, CLARENDON PRESS, OXFORD, 1996, pp340-341には「The pressing load is sufficient to make compacts having enough strength to be handled but without significant misorientation of the crystallites.(加圧力は粒子の配列に重要な乱れを起こすことなくハンドリングのための充分な強度をもった圧粉体を作るのに充分な程度である)」と記載されている。
またJ.Ormerod "Powder Metallurgy of rare earth permanent magnets" Powder Metallurgy 1989, Vol.32, No.4, p247では「The pressing pressure should be sufficient to give the powder compact enough mechanical strength to withstand handling, but not high enough to cause particle misorientation.(加圧力は圧粉体にハンドリングに耐える充分な機械的強度を与える程度であるが、粒子の配向の乱れを起こすほど高くない程度でなければならない)」と記載がある。
いずれの文献においても、大きな圧力で加圧すれば配向が乱れることを認識しながら、ハンドリングのために圧粉体に充分な強度を持たせるために強く圧縮することが必要であると認識されている。
【0030】
[希土類磁石に固有の問題]
希土類磁石は、化学的に活性で酸化し易い希土類元素を約30重量パーセント含む。希土類焼結磁石製造工程では、化学的に活性な希土類元素を大量に含み、平均粒度が3ミクロンくらいの微粉末を取り扱う工程が存在する。
この微粉末のひとつひとつを磁界中で一定方向に配向する必要があるため、一般粉末冶金学で用いられるような、予め造粒して粉末の流動性を改善する手段を用いることができない。微粉末は嵩が大きく、また粉末ひとつひとつが磁石の性質を有しているため、金型キャビティ内に粉末を供給してもブリッジを形成し、均等充填がむずかしい。
【0031】
[配向を上げるために]
金型成形時の微粉末の配向を高めるため、潤滑剤を添加する方法が提案されている(特許第3459477号、特開平8-167515等)。潤滑剤は、微粉末の摩擦を小さくする効果があり、磁界をかけながら圧縮するときの配向度を向上する。しかし、充分な潤滑効果を得る目的で多量の潤滑剤を加えると、脱脂のために長時間必要とする。
ある種の液体潤滑剤(例えば特開2000-306753号)は揮発性にすぐれていて、焼結体中にほとんど残存しないとされる。しかし配向性を向上させる目的で潤滑剤を多量に添加すると、金型プレス後の圧粉体強度が弱くなり、ハンドリングの問題を生じる。
金型プレス機では電磁石によって静磁界が加えられる。電磁石による静磁界は、鉄心による磁束の飽和があるため、せいぜい10〜15Oe(1〜1.5T)程度に留まる。磁界をかけたまま加圧していくと、粉同士の摩擦力のほうが大きくなって、粉が回転し、配向が乱れる。
パルス磁界による配向方法が提案されている(特許第3307418号)。パルス磁界では1.5〜5.5Teslaの磁界をかけることができて、Br(残留磁束密度)が向上する効果が確認されている。しかし、この発明のように金型プレス機内でパルス磁界を加えると、磁界をかける度に渦電流損やヒステリシス損が発生して金型が発熱する。また、金属製の金型に瞬間的な衝撃が加わり、精密機械であるプレス機の寿命を短くするため、実用的でない。
【0032】
[圧粉体強度を上げるために]
金型プレス法の作業性を向上させるためにバインダーや潤滑剤を添加したり、湿式成形する方法が提案されているが、いずれも強い圧力で圧縮することが前提となっており、これら成分は圧粉体内部に強く閉じ込められて、焼結前段階の脱脂工程において容易に除去されない。低い温度で長時間加熱することで脱脂が完全に行われることがあるが、生産性は著しく低下する。成分が残存するまま高温で過熱すると、炭素などの不純物が構成元素と反応して特性が低下し、耐食性が悪くなる。
【0033】
[湿式成形法]
微粉末の酸化を防ぎながら高い配向性を達成するために鉱物油・合成油と微粉末の混合物を磁界中で湿式圧縮成形する方法が提案されている(特許第2859517号等)。ジェットミルで微粉砕した粉末を鉱物油あるいは合成油中に集積し、混合した後、金型キャビティ内に加圧注入・加圧充填する。湿式成形はSrフェライト磁石の製法技術の応用であるが、フェライト磁石では水を用いるのに対して希土類磁石では水を用いることができず、溶媒や油を用いる。しかし油中には炭素など不純物となる成分を多く含み、焼結段階で抜けにくい。容易に蒸発して残留しない油が研究されているが、固く圧縮した圧粉体内に閉じ込められた炭素を取り除くのは困難である。油が蒸発して、希土類と反応しない温度で脱脂する作業が必要であるが、そのためには比較的低温で長時間保持しなければならず、量産効率が著しく悪くなる。脱脂が十分に行われないと、高い温度で希土類元素と容易に反応して磁気特性を劣化させるとともに耐食性を悪くする原因となる。
【0034】
[無酸素工程]
金型プレス法では、微粉は大気中に晒される。微粉末を作成後、磁界中プレスから焼結炉への搬入までを不活性ガス雰囲気中で行うとする提案がある(特開平6-108104)。しかし実際には金型周辺に飛び散った微粉を掃除したり、頻繁に金型を取替えることが不可欠である。飛び散った微粉をそのままにしておくと、開放するときに非常に危険である。磁石微粉は嵩が大きくブリッジを作り易いために定量供給がうまくいかず、定期的に圧粉体重量を測定してフィードバックする必要がある。一般焼結品のように多量のバインダーと高圧を用いて成形して堅牢な圧粉体を作成するようなことは、希土類磁石ではできない。したがって、圧粉体は脆くこわれやすい。ところが金型プレス機は大型であるため、グローブボックスのように人間の手を差し入れて作業することはできない。すなわち、金型プレス機を含む工程全体を不活性雰囲気中に置くというアイデアは、現実的でない。
【0035】
[消磁]
金型プレス後の圧粉体は搬送され、焼結台版に並べられる。磁界中プレスされた圧粉体は、小さな磁石の集合体であり、圧粉体にも磁石の性質がある。そのため、圧粉体同士の吸引反発力で衝突し、欠け・割れなどを生じる。したがって、予め圧粉体を消磁する方法が採用されている。実際には、金型プレス中でもっとも圧縮した状態で、逆向きの磁界または交番減衰磁界を加えることによって行われる。圧縮した状態では粒子は動けなくなっているから、逆磁界や交番磁界を加えても粒子の配向が乱れることはないとされている。
【0036】
[微粉末を用いない理由]
ダイス・パンチのクリアランスを如何に小さくしようと、3μmの微粉を閉じ込めるのは不可能であり、微粉末を圧縮するたびにはじき出された微粉末が金型周辺に飛び交うことになる。それらは、発火・爆発の危険性をもつ。自動集塵機で集めることは可能だが、定期的に掃除が必要である。
現実のRFeB焼結磁石の結晶粒径は、レーザー式粉末粒度分布測定装置により測定される粒径の中央値であるD50が5〜10μmくらいであるとされる。D50の測定値は顕微鏡による実測値の大きさに近いことが知られている。R2Fe14B金属間化合物の単磁区粒子径はさらに小さい(0.2〜0.5μm)。従って、焼結磁石の場合においても、より小さな結晶粒子径の方が高い保磁力を期待できる。ところが実際には、特開昭59-163802号第3図から明らかなように、粒子径が小さくなると急激に保磁力が低下する。これは、微粉を取り扱う従来工程において酸化が避けられないことを示している。
化学的に活性な希土類元素を含むRFeB合金微粉は、非常に酸化し易く、大気中に放置すると発火することがある。粉末粒径が小さいほど発火の危険性は大きくなる。発火しないまでも容易に酸化し、焼結磁石において非磁性の酸化物として存在し、特性低下の原因となる。しかし従来法では、成形プロセスと、成形体を焼結炉に搬入するプロセスで大気に晒すことが避けられない。
現実の微粉砕粉末の粒径はD50で3〜5μm程度であり、これより細かいと、たとえ成形体であっても容易に酸化が起きる。微粉末に予め油や液体潤滑剤を添加し、酸化防止の相乗効果を持たせようとする試みがあるが、潤滑剤などの多量の添加は圧粉体強度を弱くし、また炭素などを残留させて磁気特性を低下させる。すなわち、3μm以下の微粉を、従来の金型プレス法で事実上取り扱うことはできない。
粉砕・成形・焼結炉搬入プロセスを窒素などの不活性ガス雰囲気中で一貫処理する方法が提案されている(特開平6-108104)。しかし実際には従来の金型プレス方式では、量産性の観点からプレス機は大型にならざるを得ず、余分な微粉を掃除したり、製品品番ごとに金型を取り替える必要があって、大型金型プレス機全体を不活性雰囲気に覆うのは現実的でない。
【0037】
[金型プレス法の限界]
ネットシェイプと歩留まりの観点からは金型プレス法がすぐれている。磁気特性を犠牲にしながらも、ネットシェイプ性から金型プレス法がもっとも量産性のすぐれたものと判断されている。効率面から大型のプレスが用いられるが、電磁石の磁界の条件からプレス機の大きさや形状に制限がある。パルス磁界は使えない。高い配向を狙うためには潤滑剤が必要だが、潤滑剤によっては残留炭素のために特性が劣化したり、圧粉体強度が低下して歩留まりが悪くなる。一方向加圧のために配向した粒子が乱れる。また、消磁工程で配向が乱れる。大型プレスを雰囲気中に設置して完全自動化を実現するにはさまざまな制約がある。
RFeB合金は金属間化合物で構成されており、延性・展性の性質はほとんどなく、硬く脆い。したがって、金型を磨耗し、寿命を短くする。また、造粒粉を用いることができないので流動性の悪い微粉末をそのまま用いなければならないことや、圧縮成形時に外部から磁界を加える必要があることから、プレスサイクルは必然的に遅くならざるを得ない。それでもなおプレス工程を効率よくするため、プレス機を大型にして一度に多数個を圧縮成形する方法が一般的である。しかし、電磁石で一定強度の磁界を与える必要があるため、金型内の磁界の均一性や電源装置の大きさ、磁界が周囲の作業環境に与える影響などの理由から、プレス機を無制限に大きくすることはできず、数百トン程度に制限される。
【0038】
[本発明の目的]
当初は、大きな鋳造インゴットを粉砕していた。鋳造法では冷却速度が遅いために局所的にα-鉄が析出し易く、保磁力が大きく低下する原因となる。α-鉄の析出を抑えるためにはR2Fe14B組成比よりもに多量の希土類元素を配合せねばならず、希土類元素は合金の飽和磁化を下げて最大エネルギー積を低下させる。急冷法(ストリップ・キャスト法)ではα-鉄の析出を抑えることができて、希土類量の配合を少なくできるため、高エネルギー積が得られる(特開2002-208509等)。但しこの場合においても従来の成形法を採用する限り、成形時の配向度の低下を抑えることはできない。
粉末を取り扱う工程について詳述する。粗粉砕は、この合金の水素吸蔵性を利用して行われる。インゴット等合金を水素中に放置すれば、合金にマイクロクラックが入る。次いで機械的粉砕によって粒度が整えられる。この段階では、数十から数百μmの大きさである。水素を吸蔵したままでは発火し易いので、脱水素のための熱処理が行われる場合がある。
微粉砕にはボールミル・アトライター・振動ミル・ジェットミルなどが利用される。中でも、超微粉末を取り除いてシャープな粒度分布の微粉末を得ることができるジェットミルが広く用いられる。ジェットミルでは、不活性の窒素ガスの高速気流中で粉砕を行うが、金属粉末の安定性を増すために気流中に故意に少量の酸素(大気)を混入して、粒子表面に酸化皮膜を形成することがある。このような粉末は比較的安定である。細かくなりすぎた超微粉は高速気流に運ばれて、粉砕機外(集塵機)に排出される。
かつて微粉砕中の酸化を避けるために有機溶媒中でのボールミルやアトライター粉砕が実施されていた時期があった。超微粉が混入したり、有機溶媒中の炭素成分が焼結磁石中に残存して特性や耐食性を低下させる。現在ではジェットミル粉砕が主流である。ジェットミル粉砕ではシャープな粒度分布の微粉末が得られるため、磁気特性の面でもジェットミル粉砕法がすぐれている。
以上は主にRFeB磁石を中心に述べたが、もう一方の希土類磁石であるサマリウム・コバルト磁石(1-5型、2-17型)においてもまったく同じ状況であり、本発明の製造方法及び製造装置はサマリウム・コバルト磁石にも適用される。
金型プレス法・CIP・RIPいずれの方法においても、強く圧縮することによって堅牢な圧粉体を作ることを目的とする。ひとつはハンドリングを容易にすること、もうひとつは充分な焼結密度を得ることである。ところが強く圧縮することは、配向の乱れを生じる原因となる。
本発明は、さまざまな問題点や矛盾点を包含する従来の金型プレス工程を含まない、磁気異方性希土類焼結磁石のまったく新しい製造方法を提供する。
初期のRFeB焼結磁石製品の磁気特性レベルは、高エネルギー積材で最大エネルギー積((BH)max)= 35MGOe・保磁力(iHc)= 12kOeクラス、高保磁力材で(BH)max = 30MGOe・保磁力 = 17kOeクラスであった。高エネルギー積材は温度など環境の影響を比較的受けないMRI装置やスピーカーなどに、高保磁力材は温度上昇やコイルからの逆磁界を受けるモーターなどに主に用いられてきた。本発明は、高い最大エネルギー積を保持したまま、高い保磁力を有するRFeB焼結磁石を提供することを目的とする。
【0039】
[高保磁力を得るために]
RFeB磁石やSmCo5磁石は単磁区微粒子型磁石で、単磁区微粒子の大きさのときに最大の保磁力が得られる。NdFeB磁石の場合には単磁区粒子径の大きさは0.2〜0.3μm程度である。この微粒子が磁界によって配向され、粒成長を起こすことなく焼結された場合にのみ、緻密で均一な微細組織が形成される。しかし現行の量産方式、特に金型プレスを用いる方法では、得られた焼結磁石の結晶粒径の大きさは5〜10μm程度であり、理想的な大きさよりも一桁大きい。このときに用いられる粉末の粒度もD50で5〜10μmの程度である。これは金型プレスの工程上の制約によるものであると考えられる。すなわち現行の製造プロセスでは金型プレスから焼結炉搬入までの工程において大気中に晒されることが避けられない。金型プレスの圧縮時に金型クリアランスから微粉が飛び出し、微粉末は金型プレスに磁界が加えられるたびに磁界に引き寄せられてダイセット周辺を飛び交うことになる。そのような状態を避けるために予め大量のバインダーを添加して強く加圧することで堅牢な圧粉体を作ろうとすると、圧粉体中に強く封じ込められたバインダー成分が焼結時に磁石成分と反応して特性が低下したり、強く加圧することで粉末の配向が乱れることになる。
したがって従来の金型プレス法では、理想的な単磁区微粒子型焼結磁石を得ることが不可能なのである。
【課題を解決するための手段】
【0040】
上記課題を解決するために成された本発明に係る磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法の第1の態様は、
一部に脱気用細孔又は溝を設けた充填容器に合金微粉末を高密度充填した状態で磁界中配向した後、当該充填容器のまま微粉末を焼結することを特徴とする。
【0041】
本発明に係る磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法の第2の態様は、
一部に脱気用細孔又は溝を設けた充填容器に合金微粉末を高密度充填した状態で磁界中配向した後、当該充填容器のまま微粉末を保形するまで予備焼結し、その後焼結することを特徴とする。
【0042】
第2の態様の製造方法において、予備焼結の温度は500℃から焼結温度よりも10℃低い温度までの間であることが望ましい。また、予備焼結後に充填容器の一部又は全部を交換することができる。
【0043】
本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法において、微粉末の充填から焼結までを無酸素又は不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
【0044】
本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法において、磁気異方性希土類焼結磁石は希土類鉄ホウ素磁石又は希土類コバルト磁石とすることができる。
【0045】
本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法において、充填容器は単個又は多数個取りとすることができる。充填容器はその一部又は全部を非磁性材とすることができる。あるいは、充填容器はその一部を強磁性材とすることができる。この強磁性材は、充填容器の磁極両端部に強磁性体を配置したものとすることができる。また、磁界中配向後の充填容器中の微粉末は均一充填されていることが望ましい。更に、充填容器はネットシェイプとすることができる。
【0046】
本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法では、合金微粉末の平均粒径は5μm以下とすることができる。この平均粒径は2μm以下とすることができ、また、1μm以下とすることができる。ここで、平均粒径には、レーザー式粉末粒度分布測定装置により測定される粒径の中央値(D50)を用いることができる。
【0047】
充填密度が真密度に対して40パーセントから55パーセントの間で微粉末を充填容器に充填することが望ましい。また、機械タッピング法又はエアー・タッピング法を用いて微粉末を充填容器に強制充填することができる。
【0048】
磁界はパルス磁界とすることができる。このパルス磁界の強度は3テスラ以上であることが望ましい。また、パルス磁界は一周期以上の交番磁界とすることができる。
【0049】
溶湯急冷法により得られた合金を微粉末に用いることができる。
【0050】
潤滑剤を添加混合した微粉末を充填容器に充填することができる。この潤滑剤は液体潤滑剤とすることができる。この液体潤滑剤には脂肪酸エステル又は解重合ポリマーを主成分とするものを用いることができる。
【0051】
本発明に係る磁気異方性希土類焼結磁石の製造装置の第1の態様のものは、
a)合金を微粉砕した微粉末を充填容器に高密度充填する微粉末充填手段と、
b)微粉末を磁界中配向する磁界中配向手段と、
c)当該充填容器のまま微粉末を焼結する焼結手段と、
d)充填容器を微粉末供給手段、磁界中配向手段、焼結手段の順に搬送する搬送手段と、
e)微粉末充填手段、磁界中配向手段、焼結手段及び搬送手段を収容する容器と、
f)前記容器の内部を無酸素又は不活性ガス雰囲気にする雰囲気調整手段と、
を備えることを特徴とする。
【0052】
本発明に係る磁気異方性希土類焼結磁石の製造装置の第2の態様のものは、
a)合金を微粉砕した微粉末を充填容器に高密度充填する微粉末充填手段と、
b)微粉末を磁界中配向する磁界中配向手段と、
c)当該充填容器のまま微粉末を保形するまで予備焼結する予備焼結手段と、
d)予備焼結した微粉末を焼結する焼結手段と、
e)充填容器を微粉末供給手段、磁界中配向手段、予備焼結手段、焼結手段の順に搬送する搬送手段と、
f)微粉末充填手段、磁界中配向手段、予備焼結手段、焼結手段及び搬送手段を収容する容器と、
g)前記容器の内部を無酸素又は不活性ガス雰囲気にする雰囲気調整手段と、
を備えることを特徴とする。
【0053】
本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造装置は、前記容器を収容する外部容器を備えることができる。
【発明の実施の形態及び効果】
【0054】
本発明によれば、磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法において、目的とする寸法、形状より予め定められた充填容器中に微粉末を充填し、外部から磁界を加えて粉末を配向した後、そのまま焼結する。
【0055】
本発明の製造方法は、RCo(希土類コバルト)磁石やRFeB(希土類・鉄・ホウ素磁石)の製造に適用される。
【0056】
本発明によれば、微粉末を充填容器に閉じ込めた後、磁界を加え、そのまま焼結工程に移行する。微粉が飛び交うことはなく、希土類磁石の微粉であっても安全に取り扱うことができる。
【0057】
本発明によれば、微粉末充填、磁界の印加、焼結炉への搬入までのプロセスの一切が無酸素又は不活性ガス雰囲気中で行われる。希土類磁石は酸素など不純物の影響を受ける。RFeB磁石にせよ、1-5型SmCo磁石にせよ、予め酸化される希土類量を見込んで、その化学量論組成よりも希土類リッチ側に組成を選択することが必要とされる。しかしその分、非磁性相が多くなって、特性が低下する。本発明によるプロセスをNdFeB磁石、SmCo磁石の希土類磁石に適用すると、微粉末の状態で大気中の酸素に触れる機会がないため、焼結体の酸素を低減できる。この場合、酸化される希土類量を予め見込む必要がないため、希土類(Nd, Sm)量を極限まで下げることができて、高い磁気特性を得ることができる。同時に圧縮プロセスがないため高配向が維持されて、高Br・高エネルギー積が実現される。
【0058】
本発明における充填容器には脱気用の細孔又は溝が設けられる。たとえ窒素などの不活性ガスを用いて微粉砕したところで、微粉末には水素や窒素、水分などの吸着ガス成分が必ず存在する。それらは焼結時の温度上昇時に蒸発するが、充填容器を密閉状態にすると高温において反応性が高まり、磁石成分と反応する。脱気用の細孔又は溝はひとつの充填容器に何個あってもよいが、脱気の効果を高めるには複数個あるのが好ましい。
【0059】
金型プレス法において、ダイスとパンチのクリアランスを如何に小さくしようと、3μmの微粉末を封じ込めることは不可能である。特開平6-108104には粉砕、成形、焼結炉搬入までのプロセスを窒素などの不活性ガス雰囲気中で一貫処理する方法が提案されているが、金型プレスより排出された微粉を閉ざされた空間に封じ込めるのはきわめて危険である。現実の金型プレスは量産効率の観点から大型にならざるを得ず、製品品番ごとに金型を取り替える必要があり、その都度、排出された微粉末を掃除しなければならない。微粉末が浮遊する状態で大気に曝すと火災・爆発の危険性がある。したがって、大型のプレス機全体を雰囲気中に封じ込める方法は現実的でない。
【0060】
目的とする寸法、形状より予め定められた充填容器中に微粉末を充填し、外部から磁界を加えて粉末を配向した後、そのまま予備焼結することができる。
【0061】
磁石合金微粉末は充填容器内に高密度充填される。高密度充填の程度は従来の金型プレス法やCIP法、RIP法における充填の程度よりも高く、従来の金型プレス法やCIP法、RIP法における圧縮成形体の充填の程度よりも低い。従来法では圧粉体ハンドリングのために堅牢な圧粉体強度が必要であったが、本発明において圧粉体ハンドリング工程が存在しないため、圧縮する必要がない。
【0062】
充填容器内に高密度充填された粉末は容器内に均一に充填されて、焼結体に充分な密度が得られる程度であればよい。具体的にはパルス磁界配向後に粉末の偏りが生じない程度でよい。このような状態は、焼結後に焼結体断面に微細な空孔の有無によって確かめることができ、空孔のほとんど存在しない状態がよい。
【0063】
本発明に用いる充填容器の一部に脱気用細孔又は溝を設けるのは、焼結加熱時に粉末から蒸発するガス成分が充填容器中に留まるのを避けるためである。本発明の原料粉末は金属間化合物を主相とするため、水素や水分などの吸着ガスを避けることができない。容器を密閉するとガス成分が膨張するおそれがある。また、本発明において配向を高めるために液体潤滑剤を加えることが好ましい。液体潤滑剤成分は高温において磁石成分と反応するおそれがある。本発明に用いる充填容器の一部に脱気用細孔又は溝を設けるのは、これらガス成分が容器中に留まることを防止するためである。
細孔又は溝の大きさは、容器中の粉末が磁界パルスなどの衝撃などによって容器外に飛び出すことのない程度に小さな方が望ましい。
【0064】
本発明の希土類磁石は、RFeB磁石が好ましい。
RFeB磁石は、原子百分比で、R(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも一種)2〜30%、B2〜28%及び残部実質的にFeからなる。
磁石の温度特性や耐食性の改善、微粉末の安定性改善のためにFeの50%未満をCoに置換してもよい。
保磁力の改善、焼結性やその他製造性の改善のために、Feの一部をTi, Ni, Bi, V, Nb, Ta, Cr, Mo, W, Mn, Al, Sb, Ge, Sn, Zr, Hr, Gaなどに置換してもよい。これらの添加元素を複合添加してもよいが、いずれの場合にも総量で6原子%以下であることが好ましい。特に、V, Moが好ましい。
さらに、R1(Dy, Tb, Gd, Ho, Er, Tm, Ybの一種以上)とR2(Nd/Prの合計が80%以上で残りがR1以外のYを含む希土類元素の一種以上)の和をRとしたとき、R1 12〜20%、B 4〜20%、残部Feからなる組成は、減磁曲線の高い角型性と高い保磁力を得ることができる好ましい組成範囲である。
RFeB磁石の場合、焼結は950〜1200℃の間で行われる。
【0065】
本発明の希土類磁石はコバルト磁石(RCo磁石)にも適用することができる。
RCo磁石のうち、1-5型磁石の組成範囲は、RTx(RはSm又はSmとLa, Ce, Pr, Nd, Y, Gdの1種又は2種以上の組み合わせ、TはCo又はCoとMn, Fe, Cu, Niのうち1種又は2種以上の組み合わせ、3.6<x<7.5)で示され、その焼結温度は1050〜1200℃である。
2-17型RCo磁石の組成範囲は、R(但し、RはSm又はSmを50重量%以上含む2種以上の希土類元素)20〜30重量%、Fe 10〜45重量%、Cu 1〜10重量%、Zr, Nb, Hf, Vの1種以上 0.5〜5重量%、残部 Co及び不可避的不純物であり、焼結温度は1050〜1250℃である。
1-5型の場合も2-17型の場合も焼結時に900℃以下で熱処理を施すことによって保磁力を高めることができる。
【0066】
磁気特性の高い磁石を得るためには、焼結密度を高くすると共に、上記のように粒成長を起こすことなく焼結することにより保磁力を高くすることが望ましい。焼結密度を十分に高くすることができ、且つ粒成長を起こすことがない焼結温度として最適焼結温度を定義することができる。最適焼結温度は、磁石の組成及び粉末粒度、焼結時間等により異なる。
【0067】
本発明において予備焼結は、粉末の一部が結合して形状が保存できる状態になるまで行う。そのためには、予備焼結の温度は500℃以上とするとよい。一方、容器の寿命を考慮し、また、容器に詰めて焼成する品物と容器との焼き付けを防止するためには、予備焼結の温度は最適焼結温度より10℃低い温度以下とするとよい。最適焼結温度では充填した粉末の反応性が高くなっているために、容器への焼き付けが強くなる傾向があるからである。
【0068】
RFeB磁石やRCo5型磁石では、金属間化合物の平衡組成(R2Fe14BやRCo5)よりも多目の希土類元素が含有される。それらは他の構成元素との間に低融点の共晶組成を通じて液相焼結を促進する。すなわち、液相の存在によって粉末の結合が起き、その後に収縮段階に移る。予め充填容器の中で予備焼結させると、目的の形状が保存される。その予備焼結体を充填容器から取り出し、他の焼結台板などを用いて本来の焼結を行うことができる。
【0069】
予備焼結を終えた段階では微粉末が酸化する恐れが無いことから大気中に取り出すことが可能である。このとき、予備焼結体を充填容器から焼結台板等に移し変えて焼結することも可能である。円筒やリング形状の充填容器に粉末を充填して焼結すると、内径部分が収縮して亀裂が生じる。そのような場合には予備焼結後、充填容器より焼結容器に移し替えることが必要である。また、充填容器の寿命の観点からも移し変える方が好ましい。
【0070】
最も簡単な充填容器は、1個の容器から1個の磁石を得る「単個取り」のものである。しかし生産性を考慮すると、1個の充填容器から複数個の磁石を得る「多数個取り」の充填容器を用いることが効率的である。
従来の金型プレス法において生産効率の面から多数個取りを採用しているが、金型強度の観点からプレス機が大型にならざるを得ない。本発明による多数個取りでは隣との間に薄いスペーサーがあればよい。
【0071】
充填容器内に充填された微粉末を配向するために外部から磁界が加えられる。充填容器の全部が非磁性であれば、外部磁界は磁性体である磁石粉末に有効に働くため好ましい。
【0072】
外部磁界を加えた後において、充填容器内の粉末は可動状態にある。磁化されたひとつひとつの粉末の磁気モーメントや充填容器内の粉末全体が形成する磁界によって、粉末の配向が乱れることがある。充填容器の両端部又は側面の一部に強磁性体を配置し磁束の流れを変えることによって、磁界印加後の粉末の乱れを避けることができる。
【0073】
充填容器側面に非磁性材を用いた場合は、磁界印加後の粉末の配向乱れを防ぐために充填容器の両端部に強磁性材を配置することは有効である。充填容器内の粉末全体によって構成される反磁界が小さくなり、磁束の流れを変えて、粉末に及ぼす磁界の影響を小さくできる。
【0074】
充填容器中の粉末は、充填容器の形状を保存して焼結される。したがって、予め焼結による収縮率が求められていれば、逆算することによって目的とする寸法形状の焼結体を得ることができる。
【0075】
市販されている実際のネオジム磁石焼結体の結晶粒径の大きさは5〜10μmであり、焼結前の微粉末の粒径はD50で3〜5μmである。ここでD50とは、レーザー式粒度分布測定器等で測定された、粒度分布の中央値を示す。かつて用いられていた空気透過式粒度分布測定器(フィッシャー社製サブ・シーヴ・サイザー、F.S.S.S.)による測定値が3μmである微粒子の粒径は、D50では4〜5μmと表示される。凝集性が高く化学的に活性な希土類合金粉末の測定には、F.S.S.S.法はふさわしい方法でない。
希土類元素を重量で30パーセント以上含む希土類磁石合金組成では、従来の金型プレス法ではD50が5μm(F.S.S.S.で3μm)以下の微粉末を取り扱うことは困難であった。
本発明において微粉末は無酸素または窒素などの不活性雰囲気中で充填容器内に充填され、磁界によって配向され、焼結炉に搬入されるため空気に触れる工程がなく、たとえ微粉末であっても取扱上なんら危険性はない。
【0076】
希土類元素を30重量パーセント以上含む希土類磁石合金組成では、従来の金型プレス法ではD50が2μm以下の微粉末を取り扱うことは不可能であった。
RFeB磁石は単磁区微粒子型であり、その単磁区粒子の大きさは約0.2〜0.3ミクロンとされる。ところが実際のRFeB焼結磁石の結晶粒子径は5〜10μm程度であり、焼結前微粉末の粒径はD50において4〜5μm程度のものが使用されていた。もしも結晶粒子径が単磁区粒子の大きさになれば、大きな保磁力が得られる。しかしそれを実現するためには、もっと小さな微粉末を用いなければならない。化学的に活性な希土類元素を多量に含むRFeB磁石合金微粉末を取り扱う上で、従来の金型プレス、CIPやRIPによる製造プロセスでは大気中に含まれる酸素や水分の影響を避けて通るのは不可能である。2μmほどの小さな粒径のRFeB合金粉末を大気中に晒せば、発火、爆発の可能性が高くなり、安定生産できない。もしも仮に発火せずに済んだとして、微粉末は表面積が大きいために酸素量が増加し、磁気特性は低下する。酸化防止を避けるためにバインダーや潤滑剤、湿式プレスに用いられるような化学物質を併用すれば、微粉末の表面積が大きいために化学物質の成分が粉末成分と反応したり、焼結工程前の脱脂工程で著しく長い時間を必要として、生産性が悪くなると共に磁気特性が低下する。従来法ではこれらの影響を避けることができないため、このような微粉末を取り扱うことはできなかった。
本発明によりD50の値が2μm以下のRFeB合金粉末を用いて焼結磁石を得ると、高配向でエネルギー積が高く、かつ保磁力の高いネオジム焼結磁石が得られる。
【0077】
例えば、市販されるもっとも保磁力の高い材料クラス((BH)max=32MGOe(255kJ/m3), iHc=30kOe(2387kA/m))では、重量で10パーセントほどのDy,Tbなどの重希土類元素を、Ndに置換して用いていることが知られている。DyやTbを添加すれば、R2Fe14B金属間化合物の異方性エネルギーを高めて磁石の保磁力を増加させる効果がある。DyやTbなど重希土類元素の地殻存在量はNdに比べて僅少であり、価格は高価であり、また重希土類元素を多量に添加すると飽和磁化が低下する。したがって、DyやTbなどで電気自動車やハイブリッドカー、家電用・産業用モーターの需要を賄うことはできない。
本発明によれば、僅少で高価なDyやTbをまったく用いないか、用いたとしても僅かな量で、従来製品と同等以上の高い保磁力を得ることができる。
【0078】
本発明の特徴のひとつは、金型プレスやCIP、RIPのように大きな圧力で加圧成形する必要がないことである。充填容器内で配向された粉末は、さらに圧力を加えられることによって配向を乱すような力がかかることがなく、高い配向が維持されたままに焼結される。高い配向度によって、高い残留磁束密度(Br)と高い最大エネルギー積((BH)max)が実現される。
【0079】
従来法ではD50の値が1μm以下の希土類含有磁石粉末を取り扱う手段がない。特開平6-108104号公報には粉砕処理手段、成形処理手段および焼結処理手段の間をすべて不活性雰囲気下で処理する希土類磁石の製造装置が提案されている。
この方法によれば、微粉末は金型プレス機で成形され、圧粉体は搬送路を介して焼結炉入り口に達する。しかし金型プレス法では金型のクリアランスから洩れる微粉末の清掃や品番変更の際の金型交換など微粉末が大気に晒される機会を避けることができない。従来の金型プレスを用いる方法であれば、例えば特開2002-208509に記載されているように、粒径が1μm以下の微粉末を取り除かなければならなかった。
本発明によれば微粉末作成後焼結までのプロセスを完全な無酸素または不活性雰囲気中で処理することができて、D50の値が1μm以下の希土類含有磁石粉末を安全に取り扱うことができて、高い保磁力を有する磁石を得ることができる。
【0080】
RFeB磁石は単磁区微粒子型であって、単磁区粒子径が約0.2〜0.3μmであることから、焼結体結晶粒径もそれに近いことが好ましい。そのためには粉末粒径が0.5μm以下であることが必要である。従来法ではD50の値が0.5μm以下の希土類含有磁石粉末を取り扱う手段が全く存在しなかった。本発明によれば微粉末作成後焼結までのプロセスを完全な無酸素または不活性雰囲気中で処理することができて、D50の値が0.5μm以下の希土類含有磁石粉末を安全に取り扱うことができる。
【0081】
磁石合金粉末は、配合組成を溶解炉で溶解した鋳造インゴット、または急冷法(ストリップキャスト法)で得た鋳片を粉砕して得られる。数ミクロンの微粉末を得るには、一般に粗粉砕と微粉砕を分けることが多い。粗粉砕は機械的粉砕する方法と水素中において水素を吸蔵させて粉砕する方法(水素粉砕法)があり、水素粉砕法が生産性にすぐれている為に多く用いられている。希土類酸化物と鉄粉、フェロボロン粉を混合攪拌して加熱し、直接にRFeB金属間化合物の粉末を得る方法(還元拡散法)などもある。微粉砕方法としてボールミルやアトライターによる方法、窒素などの気流を用いて粉砕するジェットミル粉砕法などが一般的である。本発明では数ミクロン以下の微粉末を用いることを特徴とするが、微粉末を得る方法に制限はなく、上述以外の方法であってもよい。
但し、粉末が小さすぎると超常磁性(スーパーパラ)の性質を示すようになるので、このような超微粉を避けるために分級手段の付属した粉砕方法は好ましい方法である。
【0082】
本発明における充填容器中粉末の充填密度は、真密度に対して40パーセントから55パーセントの間が好ましい。
従来法(金型プレス法、CIP、RIP)では、後工程に繋がるハンドリングのために堅牢な圧粉体を必要とした。そのため、充分な磁気特性を得るために必要な焼結密度を達成する以上の強い加圧力を必要とした。
すなわち、従来法における圧粉体密度はハンドリングのための圧粉体強度の観点より求められていたものであって、磁気特性のために必要な焼結密度を得るためには、従来法よりも小さな充填密度でよいということが分かった。
本発明では圧粉体のハンドリング工程が存在しないため、従来法のような圧粉体強度を考慮する必要がない。
【0083】
粉末充填には機械タッピング法又はエアー・タッピング法(特開2000-96104)を用いることが好ましい。ミクロン単位の磁石粉末は凝集しやすく、容器に充填する際に容易にブリッジを形成して均一充填が難しい。機械タッピング法やエアー・タッピング法を用いれば、粉末フィーダー内の粉末に周期的な機械的衝撃又はエアー衝撃を加えることによって粉末を容器内に定量均一充填できる。
特開2000-96104号公報には、予めバインダー等を添加した粉末をエアー・タッピング法によって型内に充填し、加熱などの方法でバインダーを固化し粉末を結合させて成形体を得て、その後焼結する方法が記載されている。しかしこの発明は磁石に関する方法でなく、磁界による配向がなく、充填容器のまま焼結(または予備焼結)する発想がない。本発明において粉末成形体を得るためのバインダーを用いることはなく、ハンドリングする必要もない。
【0084】
粉末の配向に用いる外部磁界発生源はパルス磁界が好ましい。パルス磁界は空心コイル内に充填容器を置いて加えられる。金型プレス法で用いられる電磁石による静磁界方式では高々1.5T(15 kOe)であるのに対し、パルス磁界方式では高い磁界強度を与えることができる。本発明におけるパルス磁界の大きさは3T以上が好ましく、5T以上はさらに好ましい。また、粉末を配向するためのパルス磁界は直流パルスを一回だけよりも、予め交番減衰式の波形磁界を加え、その後直流パルス磁界を加えるような方法が好ましい。
特許第3307418号にはRFeB磁石の製造において15〜50 kOeの磁界を与え、磁気特性の向上が確認されている。しかし従来の金型プレス法においてパルス磁界を併用したものである。金型プレスにパルス磁界を加えると、金型中に渦電流損失やヒステリシス損失が発生して連続使用できない。また、パルス磁界による衝撃力が金型に加わるため、金型が破損することがある。
本発明における磁界は、強い磁界であることが必要であるが、パルス磁界以外に超伝導式コイルなどによって強い磁界を得ることができるのであれば、それでもよい。
従来法では磁界中成形後に脱磁工程を必要とする。脱磁しなければハンドリングの際に圧粉体同士が衝突して圧粉体にカケ等が生じる。脱磁は、逆磁界または減衰交番磁界を加えることによってなされるが、逆磁界や減衰交番磁界は一旦配向した粉末の向きを乱す。本発明によれば脱磁工程を必要としないため、配向が乱れることはない。
【0085】
すぐれた磁気特性を有する希土類焼結磁石は、緻密で均質な微細組織を必要とする。そのような焼結体を得るため、微細で緻密な合金インゴットを得る方法としてストリップキャスト法が提案された(特許第2665590等)。しかし特許第2665590号においてストリップキャスト鋳片の平均結晶粒径は3〜20μmとされている。本発明の焼結磁石ではさらに小さな結晶粒径を必要とするため、ストリップキャスト合金の平均結晶粒径3μm以下が好ましく、さらに好ましくは1μm以下である。
【0086】
本発明において、微粉末の取り出しより焼結炉への搬入までの工程の一切が、無酸素又は不活性雰囲気中で行われる。ホッパーに置かれた微粉末は機械的タッピングやエアー・タッピングのような高密度充填手段を通じて無酸素又は不活性ガス雰囲気中に設置された充填容器中に充填され、蓋をされて、磁界中配向手段を設けた場所に移動する。パルス磁界等の磁界中配向手段によって粉末が配向した充填容器は、そのまま焼結炉入り口に搬送される。
【0087】
予め液体潤滑剤を添加した微粉末を充填容器に充填することは、磁界中配向を容易にして配向度を高めるため、好ましい方法である。
一般に固体潤滑剤は蒸気圧が低く沸点は高いが、液体潤滑剤は蒸気圧が高く沸点は低い。微粉末全体に行き渡り易いこと、抜け易いことを考慮すると、液体潤滑剤がよい。
【0088】
液体潤滑剤としてカプロン酸メチルやカプリル酸メチルを飽和脂肪酸と共に用いることが知られている(特開2000-109903)。しかし金型プレス法にこれらの潤滑剤を用いる場合は重量比で0.005〜0.5%のごく少量しか用いることができない。これらは揮発性がよく、焼結体に残存しないことを特徴とするが、金型プレスで強く圧縮成形した圧粉体を焼結する際には、圧粉体内部に閉じ込められた潤滑剤成分までも除去することが困難であり、高温で潤滑剤成分と磁石成分が反応して磁気特性を低下させるおそれがあった。
本発明において充填容器内の粉末は圧縮されておらず、潤滑剤成分がガス化して容易に除去される。したがって本発明の液体潤滑剤の量は多い方が好ましい。しかし多すぎる場合には高密度充填されないおそれがある。好ましい液体潤滑剤の添加量は0.5〜1%である。
本発明の液体潤滑剤は潤滑性があって揮発し易いものであればよく、オクチル酸メチル、デカン酸メチル、カプリル酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチル酸メチル、ステアリン酸メチルなどを用いることができる。
【0089】
[本発明の効果]
本発明は、RFeB磁石やRCo磁石など希土類磁石の磁気異方性焼結磁石の製造方法において、従来法の問題点や矛盾点を解決する方法として見出された。すなわち本発明によれば金型プレス等の大掛かりな成形装置を必要とせず、ハンドリングのための堅牢な圧粉体を作る必要もないので配向の乱れがなく、充填容器形状に沿ったネットシェイプ形状の磁気異方性焼結磁石が得られる。空心コイルによって強いパルス磁界を与えることができ、圧粉体を脱磁する工程がないので高い配向を有したままの焼結体を得ることができる。また、希土類元素を含む化学的に活性な微粉末を大気に触れることなく処理できるので、粒度の小さな粉末を取り扱うことができ、TbやDyを用いなくとも高い保磁力の希土類磁石が得られる。
【実施例】
【0090】
[充填容器]
充填容器は焼結温度(〜1100℃)の高温に耐える材質が望ましい。予め充填粉末を昇温していく過程において粒子の結合が起きて保形できる(予備焼結)状態で、充填容器の一部または全部を別の容器に移し替えることができる。予備焼結の温度は500℃から焼結温度よりも10℃低い温度までの間が望ましいため、予備焼結時に用いる充填容器はこの温度に耐える材質であればよい。
充填容器の材質には鉄、鉄合金、ステンレス、パーマロイ、耐熱合金、フェライトやアルミナなどのセラミックスなどが用いられる。パルス磁界を加えた後の粒子の再配列を防ぐ目的で、充填容器の両端や側面に鉄系の磁性体を用いることができる。予備焼結と焼結工程を別々に行う場合は、焼結工程に用いられる台板は、従来から用いられる耐熱合金や酸化物等を用いることができる。
【0091】
[容器内壁コーティング]
焼結時の焼結体と容器の融着を避けるために、予め充填容器の内側にBN(ボロンナイトライド)等の離形剤を塗布することも有効である。容器の内壁にBNを塗布したり、MoやWのような高融点金属等を溶射法により吹き付けてこれらの膜を内壁に形成することにより、焼結時に焼結体が容器内部に付着したり、その付着のために焼結体が変形したり割れたりするのを防止することは、良質の焼結磁石を生産するのに有効である。
【0092】
[充填方法]
本発明において、充填方法は重要である。造粒できない永久磁石合金微粉末は磁石の性質を有するため凝集し易く、ブリッジを形成して、容器内に定量充填するのが困難である。本発明で用いられる強制充填は、例えば機械的タッピング法や、本件発明者によるエアー・タッピング法(特開2000-96104)が用いられる。湿式成型やMIMに用いられる高圧充填方法も用いることができる。
【0093】
[充填密度]
充填密度は合金の真密度の40パーセントから55パーセントの高密度充填が好ましい範囲である。40パーセント以下であると、均一な充填が得られないため均質な焼結体が得られない。部分的にポーラスになったり変形したりするのを避けるため、充填密度は40パーセント以上が必要である。55パーセントを超えると、本発明による強制充填の範囲を超え、従来の圧縮成型法が必要となる。また、充填後に磁界を加えるため、55パーセント以上の充填率では充分な配向が得られない。本発明の目的のひとつは、圧縮による配向の乱れを取り除くことである。RFeB磁石粉末の場合、充分に配向して充分な焼結密度が得られる、より好ましい充填密度の範囲は44〜53%である。
【0094】
充填容器は図1に示すような、個々の形状に応じた単個取り容器を用いる。効率を上げるために図2に示すような多数個取りの容器を用いることができる。各キャビティーの仕切りは、着脱可能な薄い仕切り(例えば図2(3)の仕切り21)でよい。微粉末を用いる本発明における焼結過程において、容器境界の表面近くの粒子が結合し、所望の形状が保存され、しかる後に昇温とともに収縮が進む。したがって、予め収縮率から逆算した所定形状の充填容器を用意し、所定の強制充填を行えば、均質で所定形状の焼結体を得ることができる。
【0095】
図1(3)又は(4)の充填容器により製造される穴あき円筒型磁石は、従来の金型プレス法で平行磁界を加えた場合のみ可能であった。しかし平行磁界タイプでは磁気特性が低く、直角プレス並みかそれ以上の磁気特性が望まれていた。ゴム容器の中心に金属性の棒を設置し、パルス磁界を加えた後CIPまたはRIPで圧縮する方法が試みられたが、ネットシェイプ性が悪く、量産効率が低い。本発明による製造方法では、微粉末を充填容器に入れてパルス配向後、そのまま焼結すればよい。内径部分で収縮が起きるので、予備焼結段階で保形された状態で図1(3)又は(4)の充填容器から取り出し、別の焼結用容器に移し変えればよい。
【0096】
最終形状に近い形状(ネットシェイプ)の充填容器を多数用意すればよいが、容器を繰り返し用いて容器の寿命を長くするためには予備焼結が終わった段階で容器を移し変えるのがよい。この場合、粉末の充填から予備焼結までを充填容器で、その後の焼結は別の容器もしくは従来法の焼結台板上に置くことができる。この場合、予備焼結温度はRFeB磁石のキュリー温度(〜310℃)よりも高いので、もはや磁性を帯びておらず、焼結台板上への配置には神経を使う必要がない。
【0097】
図1(2)には大型ブロックの例を示す。従来の金型プレス法ではプレス圧の限界や均一磁界領域の限界によって困難であった大きさのものが、本発明によれば容易にできる。
図2(3)には薄い仕切りで区切られた充填容器を示す。この容器で多数個取りが可能である。
図2(4)にはモーターなどで用いられるセグメント磁石の場合を示す。従来の金型プレス法が苦手とする形状についても、本発明では容易にできる。仕切りの部分は図2(3)のようにしてもよい。
【0098】
[蓋]
図1又は図2に挙げるような充填容器に微粉末を充填し、図3に挙げるような蓋を用いて簡易に封じる。蓋の目的は粉末の飛散を防ぐためであって、密閉することではない。蓋には、通常、端面または側面に潤滑剤が蒸発するための脱気孔が一個または複数個設けられている。蓋は、軽く圧入する方式がよい。クローズドシステムで行うことができるので、容器が酸素などの影響を受けて劣化することはない。酸素の影響を遮断することができるので、従来の希土類磁石のように希土類元素リッチの組成を選択する必要がなく、そのため希土類元素と容器成分との反応を最低限に抑えることができる。
脱気孔の大きさは直径数mmまたは1mm以下がよい。脱気の様子を見ながら脱気孔の大きさ及び数を調整すればよい。
容器及び蓋は繰り返し使用することが可能である。蓋は軽く圧入できるものがよい。蓋を固定することが目的であるから、ネジ止めやビス止めでもよい。焼結後の取り外しが容易なように、蓋の一部に取り外し用取っ手等を設けるのもよい。
【0099】
[希土類磁石]
本発明は、R(Rは、Yを含む希土類元素の少なくとも1種。)および遷移元素を含有する希土類磁石の製造方法に適用される。
希土類磁石の組成は特に限定されず、希土類元素および遷移元素を含むものであればよいが、本発明は特に、RFeB系焼結磁石(Feの一部はCoで置換可能である。)、またはRCo系焼結磁石の製造に適する。
RFeB系希土類磁石の組成は、通常、Rを27〜38重量%、Fe51〜72重量%、B0.5〜4.5重量%含有することが好ましい。R含有量が少なすぎると鉄に富む相が析出して高保磁力が得られなくなり、R含有量が多すぎると残留磁束密度が低下する。
希土類元素Rとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Tm、Yb、Lu等を挙げることができ、特に、Ndおよび/またはPrを含むことが好ましい。さらにRの一部を重希土類元素のジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)で置換すると、高い保磁力が得られる。しかし重希土類元素の置換が多くなりすぎると残留磁束密度が低下するので、重希土類元素の置換量は6重量%以下が好ましい範囲である。B含有量が少なすぎると高保磁力が得られず、B含有量が多すぎると高残留磁束密度が得られない。なお、Feの一部をCoで置換する場合は、置換量が多くなると保磁力が低下するので、Co量は30重量%以下が好ましい範囲である。さらに、保磁力や焼結性を改善するために、Al、Cu、Nb、Cr、Mn、Mg、Si、C、Sn、W、V、Zr、Ti、Mo、Gaなどの元素を添加してもよいが、添加量の総量が5重量%を超えると残留磁束密度が低下してくるため、好ましくない。
磁石合金中には、これら元素の他、製造上の不可避的不純物あるいは微量添加物として、例えば炭素や酸素が含有されていてもよい。
このような組成を有する磁石合金は、実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有する。また、通常、体積比で0.1〜10%程度の非磁性相を含むものである。
磁石粉末の製造方法は特に限定されないが、通常、母合金インゴットを鋳造し、これを粉砕して製造するか、還元拡散法によって得られた合金粉末を粉砕して製造する。
RCo系の希土類磁石は、Rと、Fe、Ni、MnおよびCrから選ばれる1種以上の金属と、Coとを含有する。この場合、好ましくは前記に加えさらにCuまたは、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVから選ばれる1種以上の金属を含有し、特に好ましくは前記に加えさらにCuと、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVから選ばれる1種以上の金属とを含有する。これらのうち特に、SmとCoとの金属間化合物、好ましくはSmCo5またはSm2Co17金属間化合物を主相とし、この主相が実質的に六方晶系または菱面晶系の結晶構造を有するものが好ましい。具体的組成は、製造方法や要求される磁気特性等に応じて適宜選択すればよいが、例えば下記の組成が好ましい。
R:20〜30重量%、特に22〜28重量%、Fe、Ni、MnおよびCrの1種以上:1〜35重量%、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVの1種以上:0〜6重量%、特に0.5〜4重量%、Cu:0〜10重量%、特に1〜10重量%、Co:残部。
前記希土類元素の具体例としては、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nb、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を挙げることができ、特に、Smおよび/またはCeを含むことが好ましい。
また、Fe、Ni、MnおよびCrの1種以上としては、Feが好ましく、特に、Feを含み必要に応じNi、MnおよびCrの1種以上を含むことが好ましい。
また、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVの1種以上としてはZrが好ましく、特に、Zrを含み必要に応じNb、Ta、Hf、TiおよびVの1種以上を含むことが好ましい。
また、必要に応じて前記元素の他、Si、Mo、Ca、O、C等の他の元素の1種以上を全体の3重量%程度以下添加してもよい。なお、これらは不純物として全体の3重量%程度以下含まれていてもよい。
R-Co系磁石粉末の製造方法は、特に限定されない。
【0100】
[ストリップキャスト]
ストリップキャスト法(特許第2665590号等)で作成されたRFeB合金では急冷方式のため磁気特性に悪い影響を与えるαFeの析出がほとんどない。それを防ぐために希土類リッチ側の組成が選択され、過剰の希土類元素は非磁性となって磁気特性低下の原因となっていた。ストリップキャスト法で作られた合金は希土類量を最低限に抑えることができて、それがRFeB磁石の高特性を実現していた。しかし希土類元素が少ない状態で大気に晒す工程が必須である金型プレスでは、自ずから限界があった。本発明の製造方法では微粉末を大気に晒す工程が存在せず、希土類量を最低限に抑えたままで高い磁気特性が得られる。本発明において、特に粉末粒径を小さくするときは、ストリップキャスト合金の製造において、柱状晶結晶の組織(Nd-rich相の間隔)を微細にするように、凝固速度や凝固後の冷却速度を調整することが好ましい。
【0101】
[粉末粒径]
磁石微粉末の平均粒子径は、RFeB磁石の場合、0.5〜5μm がよい。従来法では微粉末または圧粉体を大気に晒す工程を避けることができないため、3μm以下の微粉末を用いることができなかった。本発明によれば微粉末が大気に晒されることがないから、2μm以下の粉末を用いることができる。RFeB型磁石の単磁区粒子径の大きさは0.2〜0.3μmであるため、高い保磁力を得るためには、焼結体の結晶粒径もその程度であることが望ましい。それを実現するためには、微粉末の粒径も微細な方が望ましい。
微粉末の粒径は、かつてはFisher社のサブ・シーブ・サイザー(sub-sieve-sizer : F.S.S.S.)で測定された数値が用いられていた(例えば特開昭59−163802)。しかし現在ではレーザー式粒度分布測定装置が一般的となり、粒度分布の中央値を示すR50の値で定義される。F.S.S.S.値で、例えば3μmと表示された粉末は、D50において5〜6μmと表示され、測定値に1.5から2倍の違いがあることが分かっている。したがって本発明でいう3μmは、従来のF.S.S.S.測定値の3μmとは異なる粒径を指す。
本発明における好ましい結晶粒径の大きさは、D50において、RFeB磁石の場合、5μm以下である。大きな保磁力を得るために好ましい大きさは3μm以下である。本発明のプロセスが完全なクローズドシステムで行われることから、好ましい大きさは2μm以下である。さらにRFeB金属間化合物の単磁区粒子径の大きさの結晶粒径を得るために最適な大きさは1μm以下である。
RCo磁石の場合、好ましい粉末粒径の大きさは、1-5型、2-17型のいずれの場合も1〜5μmである。
【0102】
[潤滑剤]
本発明において潤滑剤は有効である。焼結後に充分な密度を得るためには充填容器内に微粉末を強制充填する必要がある。微粉末のかさ密度が小さく、かつ微粉がブリッジを形成するため、自由落下による充填だけでは所定の目的を果たすことができない。この場合、配向の際の粉同士の摩擦が存在し、配向を妨げることがある。従来法では、潤滑剤の添加は圧粉体の強度を低下させるため、使用量を最低限にしなければならなかった。本発明においてはハンドリングの工程が存在しないため、配向に充分な潤滑剤を使用することができる。
希土類磁石に用いられる潤滑剤には固体潤滑剤と液体潤滑剤がある。固体潤滑剤にはステアリン酸亜鉛・ステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸系潤滑剤がよく知られており、充分な潤滑効果があるため広く用いられている。しかし固体潤滑剤では脱脂工程で充分に抜けず、炭素が残留し易いため特性が劣化する。近年、ほう酸エステルやカプロン酸メチル、カプリン酸メチルなどの液体潤滑剤が応用されている。液体潤滑剤の場合は蒸気圧が高く、沸点が低いため脱脂工程で容易に蒸発し、炭素があまり残存しないことが知られている。本発明におけるプロセスでは密閉容器内に粉末と潤滑剤が混在するが、容器に設けられた小さな脱気孔より蒸発するものが望ましく、液体潤滑剤が良い。焼結前の脱脂工程では真空または減圧状態で昇温されるため、蒸気圧が高く、沸点の低い、液体潤滑剤が望ましい。
液体潤滑剤には、脂肪酸エステル系潤滑剤(ラウリン酸エステル系潤滑剤、オレイン酸エステル系潤滑剤、カプロン酸メチル、カプリン酸メチル、オクチル酸メチル、デカン酸メチル、カプリル酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル)等、蒸気圧が高く沸点の低い潤滑剤がよい。
潤滑剤の添加の目的は配向時の粉同士の摩擦を低減するためであり、本発明において圧粉体の強度を必要としないため、充分な潤滑効果が得られる量を添加すればよい。添加方法は微粉と所定量の潤滑剤をロッキング・ミキサー等で混合すればよい。
【0103】
[パルス磁界]
充填容器につめられた粉末は所要の磁界を受けて配向する。本発明では、金型プレス法やCIP, RIP法の場合に必要なハンドリングのための消磁工程は不要である。
磁界は強い方が好ましい。金型プレスで用いられる電磁石方式では、金型の材質の飽和磁化以上の磁界を得ることができず、せいぜい1.5テスラが限度である。金型プレスに強いパルス磁界を適用する提案もあるが、ヒステリシス損失・渦電流損失による温度上昇や、精密なプレス機に衝撃的な力が加わり金型の寿命を短くするので実際的でない。本発明におけるパルス磁界は、粉末を充填した充填容器を連続装置内に配置した空心コイルによって与える。
空心コイルでは通常3テスラ以上の磁界が得られる。配向のための磁界は強いほうが好ましい。しかし現実には電源の大きさやコイルの強度、連続使用の頻度によって強さには限界がある。これらを考慮した好ましい磁界強度は5テスラ以上である。従来例では、金型プレス機に設置されたコイルによってパルス磁界を与える方法が提案されてきた。しかし金型プレスでは、温度上昇や衝撃力があるため、連続使用できない。本発明によるパルス磁界は空心コイルタイプである。また、金型プレスの場合には金型の存在によってコイル径に限界がある。本発明における空心コイルは、充填容器が入る程度の大きさでよいため、小径でよい。空心コイルの場合は同じアンペア・ターンの場合、内径が小さいほど磁界強度が大きくなるため、本発明における空心コイルの場合は電源やコイルに負担がかからないため、現実的である。
パルス磁界によって配向された充填容器内の微粉末は、消磁しないでそのまま図5の焼結前工程である脱脂工程へ搬送される。本発明によるプロセスは、酸素に接する機会のないクローズドシステムであるため、焼結炉は連続処理炉であることが望ましい。しかし密閉容器を不活性ガスで充満させた搬送チャンバーに入れ、焼結炉前室に設けた雰囲気チャンバーの中で充填容器を焼結台板上に配置することも可能である。
【0104】
[焼結前]
焼結前室において、真空または不活性ガス減圧雰囲気下で昇温される。潤滑剤を用いた場合は、この段階で脱脂される。従来の金型プレスやCIP, RIPを用いて強く圧縮された圧粉体の場合は、圧粉体内部に閉じ込められた潤滑剤成分が容易に脱却できないが、本発明において圧縮工程のない充填粉末の場合には、充填剤成分は充填容器に設けられた脱ガス用脱気孔を通じて容易に蒸発する。
【0105】
リングなどの場合は、充填容器のまま焼結すると、焼結時の内径部分の収縮によって割れるおそれがある。そのような場合は、500℃から1000℃で予備焼結し、粒子同士が軽く結合して収縮の始まらないうちに充填容器から取り出し、容器を交換すればよい。500℃よりも低い温度では粒子の結合が起きず、1000℃以上の温度では収縮が始まって割れを生じる。このような割れが生じる場合、焼結温度が1010℃(焼結温度よりも10℃低い温度が1000℃)を超えても、予備焼結の上限の温度は1000℃とする。粒子の結合と収縮を避けるために、より好ましい温度範囲は600〜800℃である。
【0106】
焼結温度は、RFeB磁石の場合は還元性または非酸化性雰囲気の中で900℃から1200℃の範囲が好ましい。より高い磁気特性を得るために、1000℃から1150℃の範囲はさらに好ましい。
2-17型RCo磁石の場合、1,100 〜1,250 ℃で燒結し、続いて燒結温度よりも0〜50℃低い温度で溶体化する。燒結、溶体化に要する時間は、0.5〜5時間が適当である。最後に時効処理として、通常初段時効を 700〜 950℃で一定時間保持し、その後、連続冷却または多段時効を行う。上記の各工程は、R2Co17系合金が酸化されると特性の劣化が著しいので、これを防止するため真空中または非酸化性の雰囲気下で行われる。
1-5型RCo磁石の場合、希土類リッチ側の組成合金をF.S.S.S.の粒度が3μmくらい(D50で5μmくらい)に粉砕した粉を充填容器に詰めて焼結する。焼結温度は1100℃〜1250℃くらいである。800℃付近から急冷することが必要である。
【0107】
[製造装置]
本実施例の製造装置について、図4及び図5を用いて説明する。
図4に示すように、全体の装置(以下システムという)は隔壁40によって囲まれており、隔壁40で囲まれた領域はArガスやN2ガス等の不活性ガスで満たされている。システムは、図4に示すように、粉末秤量・充填部41、タッピングによる高密度化部42、磁界配向部43を経て焼結炉44に継がれている。これら各工程の間はコンベア45によって連結されており、容器46および容器に詰められた粉末が間歇的に、コンベア45によって運ばれ、各ステージで所定の処理が行われる。
秤量・充填部41においては、加振器の付いたホッパ47より容器46に一定量の粉末が供給される。このステージにおいては、粉末充填密度は自然充填密度に近いのでかさ密度が小さく、所定量の粉末を容器46に保持するために、容器46の上部にガイド48が取り付けられている。
次の高密度化部42において、容器上部の粉末上面に蓋49がかぶせられ、図4に示すように、プレスシリンダー50の押棒51により蓋49を押さえながら、容器下部のタッピング装置52を駆動して、粉末の高密度化が行われる。タッピング装置は容器内の粉末に下向きの加速度を断続的に与える(タンピング)加振器である。タンピングにより容器46内の粉末は容器上端(ガイド下端)より下方まで押し下げられ、蓋49が容器上面に装着される。その後、タッピング時のホルダー53とガイド48が容器46から取りはずされ、蓋付き容器に粉末が高密度に充填された状態で、磁界配向ステージに、コンベアによって粉末と容器46が搬送される。
磁界配向部43では、粉末が充填された容器46が所定の方向に向けられ、所定の位置(コイルの中央部)に設置されて、隔壁40外に設置されているコイル54にパルス大電流が流される。これにより発生するパルス磁界により容器内の粉末が所定の方向に配向される。粉末配向後、粉末が充填された容器46は搬送されて、焼結炉に入っていく。
【0108】
本システムの特長は、粉末が容器に入れて運ばれるので粉末のハンドリング(受け渡しや搬送)が容易で、自動化のために複雑な動きをするロボットやマニュアルオペレーション(人手)が必要でないこと、金型プレスなどで使われている総圧10t〜200tというような巨大なプレス装置が不要であることなどのために、図4に強調して示したように、システム全体を隔壁40によって完全に囲うことが容易にできることである。本発明においてめざしている工程では、粉末粒径は究極的にはD50=1μm、2μmになるので、安全性はきわめて重要な因子である。隔壁に少しでも穴が開いたり、亀裂が入ったりすると、システム全体が大爆発することも考えられるからである。その意味で、本発明のシステムでは、図5に示したように、図4に示した隔壁40の外側に外側隔壁55を設置して、二重の安全対策を取ることができる。このとき、外側と内側の隔壁の間にも不活性ガスを満たしておく。このようにして、各ステージにおいて、充填、タッピング、磁界配向の工程中に隔壁が破れるようなことがあっても、外側隔壁が空気の侵入を防いでくれるので、粉末の燃焼や爆発の心配がない。このようなシステムはフェイルセーフシステムであるということができる。
【0109】
次に、本実施例において行った実験について説明する。
[実験1]
Nd=31.5重量%、B=0.97重量%、Co=0.92重量%、Cu=0.10重量%、Al=0.26重量%、残部 Fe、の合金をストリップキャスト法で作製した。この合金を5〜10mmのフレーク状に砕いた後、水素解砕とジェットミルにより、D50=4.9μmの微粉末を得た。粉砕工程において酸素濃度は0.1%以下として、微粉末中に含まれる酸素量を極力低く抑えるようにした。ジェットミル粉砕後、液体潤滑剤であるカプロン酸メチルを粉末に対して0.2重量%添加し、ミキサーで撹拌混合した。
この粉末を内径10mm、外径12mm、長さ30mmのステンレスパイプに、粉末充填密度が3.0、3.2、3.4、3.6、3.8、4.0 g/cm3 になるように充填して、パイプの両端にステンレス製の蓋を取り付けた。このステンレスパイプに詰めたNdFeB磁石粉末に、パイプの軸に平行な方向にパルス磁界を印加した。パルス磁界の強さのピーク値は8Tで、交番的に方向を変えながら減衰していく交番減衰磁界(以下ACパルスという)と、ピーク値8Tに達した後、磁界方向を変えないで減衰していくパルス磁界(以下DCパルスという)の2種類のパルス磁界を使用した。本実施例ではAC、DC、DCの順に、いずれもピーク値8Tのパルス磁界をステンレスパイプに充填した磁石粉末に印加した。磁界印加の後、磁石粉末が充填されたステンレスパイプを焼結炉に入れ、1050℃で1時間焼結した。この実験で、ステンレスパイプへの粉末の充填、パルス磁界配向、焼結炉への装入、途中の全ての搬送は、全て不活性ガス中で行い、磁石粉末を一切空気にさらさないで粉砕から焼結までを実施した。焼結後、焼結体をステンレスパイプから取り出すと、ステンレスパイプへの粉末充填密度が3.0g/cm3、3.2g/cm3のものについては焼結体中に巣のような空洞が多くできていたが、充填密度が3.4g/cm3については蓋に接するごく一部を除いて空洞が生成されておらず、3.6g/cm3以上については空洞はきわめて少ないか全く生成されておらず、高密度焼結体が形成されていることを確認した。焼結体を直径7mm、高さ7mmの円柱に加工して、最大磁界8Tのパルス磁界を印加して、磁気測定を行った。パルス磁界印加による磁気測定から8Tにおける磁化の値に対する残留磁化の比を求め、焼結体中の配向度を測定した。その結果、充填密度=3.6g/cm3により作製した焼結体の配向度は97.0%、3.8g/cm3については96.0%の配向度であった。比較のために従来法としての金型磁界中成形法により作製した焼結体の配向度は95.6%であった。
【0110】
[実験2]
実験1と同じ粉末を使って、粉末充填容器の材質(飽和磁化Js)による焼結体の形状と密度の差を調べた。容器キャビティー(粉末が充填される空間)の大きさは直径25mm、厚さ7mmの扁平な円柱状とし、容器材質は鉄(Js=2.15T)、パーマロイ(Js=1.4T、1.35T、0.73T、0.65T、0.50T)および非磁性ステンレスのものを作製した。これら容器壁の厚さは全て1mmとした。
粉末をこれらのキャビティーに充填密度3.8g/cm3になるように詰め、実験1と同じAC→DC→DC(ピーク磁界はいずれも8T)の磁界を容器ごと粉末に印加してこの粉末を配向し、その後、この粉末を焼結した。実験2でも実験1と同様、粉末は全工程において空気に触れないようにして焼結体を得た。焼結条件も実験1と同じである。焼結後、容器から焼結体を取り出した。その結果、焼結体の形状が容器材質によって大きく変わることが分かった。Jsが最大である鉄製容器により作製した焼結体には中央部に3mm程度の大きい穴があり、この穴の周りから直径0.5mm程度の柱状体がとれてきて、穴がさらに大きくなった。容器材質として、Jsが1.35T以上のパーマロイを使用した場合も、鉄製容器ほどではないが同様な傾向が見られた。また、ステンレス容器についても、焼結体中央部の直径3〜5mm程度の部分が焼結不良で焼結密度が低いことが分かった(この部分に水が浸み込む現象が見られた)。そして、欠陥がなく、形状が良好であったのは、Js=0.5〜0.73Tのパーマロイ製容器を使って作製した焼結体であった。中でもJs=0.73Tのパーマロイ製容器により作製した焼結体は欠陥が全くなく、形状も最良であった。このことから本発明に使用する粉末充填容器に使用する材料は、Jsが大きすぎもせず、小さすぎもせず、Js=0.3〜1T、好ましくはJs=0.5〜0.8Tが最適であることが分かった。この最適Jsの値は粉末充填密度と粉末の磁化にも関係しており、容器材のJsが(粉末の磁化)×(粉末の百分率で表した充填密度)の値に近いときに最良の焼結体が得られることが分かった。このような容器材質による焼結体形状の差は、キャビティー形状、したがって焼結後の焼結体形状が扁平なときに顕著に現れることが判明した。
【0111】
[実験3]
実験1と同じストリップキャスト合金を水素解砕して、ジェットミル条件を変化させて粒径の異なる粉末を作製した。それらはD50=3.68μm、4.93μm、9.34μmの3種類である。これらの粉末について実験2と同じ形状で、Js=0.73Tのパーマロイ製容器を作製し、充填密度3.8g/cm3で上記3種類の粉末を充填し、焼結した。この場合も、粉砕から焼結までの全工程において、粉末が空気に触れることがないように、高純度のArガス中で作業が行われた。比較のために、従来法の金型プレスによる焼結体作製も行った。従来法の場合についても、粉末や圧縮体が焼結前に空気に触れないように、不活性ガス中で全ての作業を行った。焼結温度は、本実施例においても、従来法の金型プレス法を使用する場合でも、D50=3.68μmについては1030℃、D50=4.93μmについては1050℃、D50=9.34μmについては1110℃とした。これらの温度において異常粒成長が抑制された最適の焼結体が得られた。いずれの焼結体についても焼結後500℃で1時間熱処理された。実験1で述べたパルス磁化測定により、保磁力を測定した結果および焼結体中の酸素量分析結果を表1に示す。比較のために、従来法の金型プレスにより作製した焼結体の保磁力および焼結体中酸素量を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0112】
表1と表2を比較すると、粉末粒径が小さい粉末を使用したとき、本発明の方法は従来法に比べて大きい保磁力が得られることが分かる。これは、それぞれの表に示すように、工程中に粉末が酸化される程度が、本発明の方法により低減されることによっている。なお、比較例の実験中に次のような事故があったことを注意しなければならない。それは、D50=3.68μmの粉末についての比較例の実験中にグローブボックスのわずかな空気漏れのために粉末が加熱されて燃えだしたことである。一般に従来法の金型プレス法によるNdFeB磁石の生産では、圧粉後、圧粉体を金型から取り出すときに金型壁の圧粉体との摩擦により熱が発生したり、プレス機自体、または圧粉体取出し、配置、箱詰作業ロボットの誤作動や頻繁に発生する種々のトラブルのために、外部から酸素が系内に侵入しやすく、全システムがAr雰囲気において動作するように設計されていても、焼結後の焼結体酸素量は増加しやすい。酸素の混入量がある限界を越えると粉末が加熱されて、燃えたり爆発に至る事故が発生することもある。これに対して、本発明の方法は、酸素の系内への侵入をきわめて低く抑えることができるとともに、この状態が安定しているので、粉末粒径が小さくても、焼結後の焼結体中の酸素量をきわめて低くでき、安定して低酸素焼結体を生産できる。表1と表2の差は数少ない実施例の比較であるが、生産量が多い大量生産においては、本発明の効果は表1と表2の差よりさらに大きくなることが予想される。
本実施例により、D50=3.68μmの粉末によりかなり高い保磁力が得られたが、本発明の方法では、さらにD50が小さい粉末を使用することも可能であり、本発明の方法がDyやTbのような高価な希土類元素の添加なしでも高保磁力化が可能であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法の実施に用いる単個取りの充填容器の例を示す斜視図。
【図2】本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法の実施に用いる多数個取りの充填容器の例を示す斜視図。
【図3】本実施例の充填容器に用いる蓋の例を示す斜視図。
【図4】本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造装置の一例を示す概略構成図。
【図5】本発明の磁気異方性希土類焼結磁石の製造装置の一例を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0114】
40…隔壁
41…秤量・充填部
42…高密度化部
43…磁界配向部
44…焼結炉
45…コンベア
46…容器
47…ホッパ
48…ガイド
49…蓋
50…プレスシリンダー
51…押棒
52…タッピング装置
53…ホルダー
54…コイル
55…外側隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部に脱気用細孔又は溝を設けた充填容器に合金微粉末を高密度充填した状態で磁界中配向した後、当該充填容器のまま微粉末を焼結することを特徴とする磁気異方性希土類焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−16849(P2009−16849A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193232(P2008−193232)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【分割の表示】特願2004−195935(P2004−195935)の分割
【原出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(591044544)インターメタリックス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】