説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録再生装置

【課題】記録密度の増加に伴い、技術的困難に直面している磁気記録装置において、従来と同等以上の記録再生特性を確保しつつ、記録密度を大幅に増加させた磁気記録媒体を効率よく生産する技術を提供すること。
【解決手段】非磁性基板の少なくとも一方の表面に、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法である。この製造方法は、磁気記録パターンの形成を、磁性層とオゾンとの反応により磁性層の磁気特性を部分的に非磁性化等により磁気特性を低下させ、その低下させた領域により磁性層を分離する方法である。
磁性層としてはグラニュラ構造の磁性層の上に非グラニュラ構造の磁性層を形成した2層構造とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体の製造方法、及び磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大されその重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特にMRヘッド、およびPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇はさらに激しさを増し、近年ではさらにGMRヘッド、TMRヘッドなども導入され、1年に約100%ものペースで増加を続けている。これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されており、そのために磁性層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0003】
最新の磁気記録装置においてはトラック密度110kTPIにも達している。しかし、トラック密度を上げていくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じやすくなる。このことはそのままBit Error rateの低下につながるため記録密度の向上に対して障害となっている。
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかし、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0004】
また、トラック間距離が近づくために、磁気記録装置は極めて高精度のトラックサーボ技術を要求されると同時に、記録を幅広く実行し、再生は隣接トラックからの影響をできるだけ排除するために記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。この方法ではトラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難であり、そのために十分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術を以下にディスクリートトラック法、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と呼ぶ。
【0005】
ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板に磁気記録媒体を形成して、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成されており、その表面に保護膜を形成したものである。この磁気記録媒体では、凸部領域に周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。
【0006】
この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
ディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法と、あらかじめ基板表面に直接、あるいはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法とがある(例えば、特許文献2,特許文献3参照。)。このうち、前者の方法は、しばしば磁気層加工型とよばれる。一方で、後者はしばしばエンボス加工型とよばれる。
【0007】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、あらかじめ形成した磁性層に窒素イオンや酸素イオンを注入し、または、レーザを照射することにより形成する方法が開示されている(特許文献4参照。)。
さらに特許文献5には、磁性層をイオンミリング加工するためのマスクに炭素を用いることが記載されている。また特許文献6には、基板上にFe,Co,Niのいずれかの元素を含む強磁性体層を形成し、強磁性体層表面を選択的にマスクし、露出部をハロゲンを含む反応ガスに曝し、化学反応により該露出部およびその下層を、化学的に磁性を変質させ、非強磁性体領域とすることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−31849号公報
【特許文献6】特開2002−359138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁性層に、部分的に酸素イオン等を注入したりレーザを照射した場合、その箇所がダメージを受けて表面に凹凸が形成する場合があった。また、磁性層へのイオン注入やレーザ照射は処理効率が低く、これが磁気記録媒体の生産性を低下させていた。また磁性層の磁性特性をハロゲン化により変質されることは、その周辺の層へのダメージが大きく、採用することが困難であった。
本発明は、記録密度の増加に伴い、技術的困難に直面している磁気記録装置において、従来と同等以上の記録再生特性を確保しつつ、記録密度を大幅に増加させた磁気記録媒体を効率よく生産する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意努力研究した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は以下に関する。
(1)非磁性基板の少なくとも一方の表面に、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、該製造方法は、磁気記録パターンの形成を、磁性層とオゾンとの反応により磁性層の磁気特性を部分的に変化させることにより行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(2)非磁性基板に磁性層を形成する工程、該磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、マスクが除去された磁性層の箇所をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0010】
(3)非磁性基板に磁性層を形成する工程、該磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、マスク層の除去により露出した磁性層の表層部を除去する工程、表層部が除去された磁性層の箇所をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(4)オゾンと反応させる磁性層が、磁性粒子の周囲を酸化物が覆ったグラニュラ構造の磁性層であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5)非磁性基板にグラニュラ構造の磁性層を形成する工程、該磁性層の上に非グラニュラ構造の磁性層を形成する工程、非グラニュラ構造の磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層が除去された箇所のグラニュラ構造の磁性層をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0011】
(6)非磁性基板にグラニュラ構造の磁性層を形成する工程、該磁性層の上に非グラニュラ構造の磁性層を形成する工程、非グラニュラ構造の磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層が除去された箇所のグラニュラ構造の磁性層の表層部を除去する工程、表層部が除去されたグラニュラ構造の磁性層の箇所をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(7)磁性層の表層部の除去深さが、0.1nm〜15nmの範囲内であることを特徴とする上記(3)または(6)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0012】
(8)オゾンと磁性層との反応が、オゾンガスと磁性層との反応、または、オゾンガスを含む液体と磁性層との反応であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(9)オゾンと反応させる磁性層の表面を、あらかじめ、フッ素系ガスに暴露することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(10)磁性層を除去した箇所に非磁性材料を埋め込む工程を有することを特徴とする上記(3)〜(9)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(11)マスク層が炭素であることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(12)炭素マスク層の膜厚が、5nm〜40nmの範囲内であることを特徴とする上記(11に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0013】
(13)レジスト層へのパターン形成を、スタンプを用いた転写により行うことを特徴とする上記(1)〜(12)のいずれに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(14)オゾンで暴露する工程に続くレジスト層およびマスク層を除去する工程の後、不活性ガスで磁性層の表層をエッチングする工程を有することを特徴とする上記(2)〜(13)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
(15)上記(1)〜(14)のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造した磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁性層を非磁性基板上に成膜したのちに磁気記録パターンを形成する磁気記録媒体において、ヘッド浮上の安定性を確保でき、優れた磁気記録パターンの分離性能を有し、隣接パターン間の信号干渉の影響を受けず、高記録密度特性に優れた磁気記録媒体を高い生産効率で供することができる。
本発明では、磁気記録パターンを形成するためのマスク層にレジストおよび炭素膜を使用し、またこのマスク層のパターン化に、SiO2系レジストおよびO2ガスを用いたドライエッチング技術、特に、反応性イオンエッチングまたは反応性イオンミリングを使用することにより、垂直に切り立った精度の高いマスク層を形成することが可能となる。
【0015】
このマスク層を用いてオゾンとの反応により磁性層をパターン化すると、磁性層のパターンがシャープになり、フリンジ特性(本トラック書き込み後、隣接トラックを、例えば1000回書き込み、本トラックの読み出し出力が初期出力に対して低下しない特性)の優れた磁気記録媒体を提供することができる。
また、本発明の磁気記録再生装置は、本発明の磁気記録媒体を使用しているので、ヘッドの浮上特性に優れており、磁気記録パターン分離性能に優れ、隣接パターン間の信号干渉の影響を受けないので、高記録密度特性に優れた磁気記録再生装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であり、この磁気的分離を磁性層とオゾンとの反応により磁性層の磁気特性を部分的に変化させることにより行うものである。具体的にはオゾンとの反応により部分的に磁性層の磁気特性を非磁性化する等により低下させた領域を形成し、その領域により磁性層を磁気的に分離する方法である。
本発明の磁気記録媒体の製造方法を、ディスクリート型磁気記録媒体を例にしてさらに具体的に説明する。
磁気記録媒体は、一般に非磁性基板の表面に軟磁性層および中間層、磁気的パターンが形成された磁性領域および非磁性領域と保護膜層が形成されており、さらに最表面には潤滑膜が形成された構造を有している。そして記録トラック領域である磁性領域が非磁性領域により分離された構造を有する。
図1は本発明の製造方法で得られた磁気記録媒体の一実施形態であるが、図には基板と磁性層のみを示す。
図1において、1は非磁性基板、2はその上に形成された磁性層である。磁性層2には所定の箇所にその表層部が除去されて凹部22が形成されている。dは凹部の深さである。凹部の下部は非磁性化等により磁気特性が低下した領域21である。この磁気特性低下領域21と凹部22により、磁性層2が分離される。
【0017】
次に図1の磁気記録媒体の製造方法を説明する。その工程図を図3に示す。
図3に示すように、製造工程は非磁性基板1に、少なくとも磁性層2を形成する工程A、磁性層2の上に炭素マスク層3を形成する工程B、炭素マスク層3の上にレジスト層4を形成する工程C、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターン(記録トラックを分離するため、記録トラックに対応してレジスト層に凹部を形成したものを本発明ではネガパターンという)を、スタンプ5を用いて転写することにより形成する工程D(工程Dにおける矢印はスタンプ5の動きを示す。)、レジスト層4、炭素マスク層3の磁気記録パターンのネガパターンに対応する部分を除去する工程E、炭素マスク3が除去されて露出した磁性層2の表層部を除去する工程及び表層部が除去された磁性層にオゾンを暴露する工程F、レジスト4および炭素マスク層3を除去する工程Gを、この順に有するものである。
【0018】
また本発明は上記の工程に加えて、磁性層の磁気記録パターンのネガパターンに対応する部分にオゾンを暴露する工程の前に、その表面を、あらかじめフッ素系ガスに暴露するのが好ましい。さらに、レジストおよび炭素マスク層を除去する工程の後に、磁性層の表層部をわずかに除去する工程H、その上に保護膜層9を形成する工程Iを設けるのが好ましい。
図2は本発明の別の実施形態の磁気記録媒体を示すもので、図1における工程Fにおいて、表層部の除去工程を行わずにオゾンを暴露し、磁気特性低下領域21を形成したものである。
以下、磁気記録媒体の製造方法を工程の順番に詳細に説明する。
【0019】
本発明の製造方法で使用する非磁性基板1としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。中でもAl合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板またはシリコン基板を用いることが好ましい。またこれら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下、さらには0.5nm以下であることが好ましく、中でも0.1nm以下であることが好ましい。
【0020】
上記のような非磁性基板の表面に形成する磁性層は、面内磁性層でも垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。これら磁性層は主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。
例えば、面内磁気記録媒体用の磁性層としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層からなる積層構造が利用できる。
垂直磁気記録媒体用の磁性層としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる裏打ち層と、Pt、Pd、NiCr、NiFeCrなどの配向制御膜と、必要によりRu等の中間膜、及び60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金からなるグラニュラ構造の磁性層を積層したものを利用することがきる。
【0021】
本発明では、磁性層として特に、グラニュラ構造の磁性層を用いるのが、オゾンとの反応性を高める上で好ましい。グラニュラ構造の磁性層とは、磁性粒子の周囲を酸化物が覆った構造を有する磁性層である。酸化物には上記のSiO2の他 Ti酸化物、W酸化物、Cr酸化物、Co酸化物、Ta酸化物、Ru酸化物などが用いられる。
磁性層の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とする。磁性層は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層の膜厚は再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
通常、磁性層はスパッタ法により薄膜として形成する。
【0022】
本発明では、磁性層の表面に炭素マスク層を形成する。炭素は、酸素ガスを用いたドライエッチング(反応性イオンエッチングまたは反応性イオンミリング)が容易であるため、図3の工程Gにおいて、残留物を減らし、磁気記録媒体表面の汚染を減少させることができる。炭素膜はスパッタリング法、またはCVD法により成膜することができるが、CVD法を用いた方がより緻密性の高い炭素膜を成膜することができる。
炭素マスク層の膜厚は5nm〜40nmの範囲内とするのが好ましく、より好ましくは10nm〜30nmの範囲内とする。炭素マスク層の膜厚が5nmより薄いと、マスク層のエッジ部分がだれて磁気記録パターンの形成特性が悪化する。また、レジスト層、マスク層を透過したイオンが磁性層に侵入して、磁性層の磁気特性を悪化させる。一方、炭素マスク層が40nmより厚くなると、炭素マスク層のエッチング時間が長くなり生産性が低下する。また、炭素マスク層をエッチングする際の残渣が磁性層表面に残留しやすくなる。
【0023】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、炭素マスク層の上に、レジスト層を形成し、このレジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する。レジスト層にネガパターンを形成する方法は、通常のフォトリソグラフィー技術を用いることができるが、レジスト層にスタンプを用いて、磁気記録パターンのネガパターンを転写する方法を用いるのが作業効率の点から好ましい。
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、図3の工程Dで示した、レジスト層4に磁気記録パターンのネガパターン形成後の、レジスト層4の凹部の厚さ8を、0〜20nmの範囲内とするのが好ましい。レジスト層4の凹部の厚さ8をこの範囲とすることにより、図3の工程Eで示した炭素マスク層3および磁性層のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層のミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。
【0024】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、図3の工程Cのレジスト層4に用いる材料を、放射線照射により硬化性を有する材料とし、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、または、パターン転写工程の後に、レジスト層4に放射線を照射するのが好ましい。このような製造方法を用いることにより、レジスト層4に、スタンプ5の形状を精度良く転写することが可能となり、図3の工程Eで示したマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを無くし、マスク層のミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。本発明で用いる放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0025】
本発明では、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、レジスト層の流動性が高い状態で、レジスト層にスタンプを押圧し、その押圧した状態で、レジスト層に放射線を照射することによりレジスト層を硬化させ、その後、スタンプをレジスト層から離すことにより、スタンプの形状を精度良く、レジスト層に転写することが可能となる。レジスト層にスタンプを押圧した状態で、レジスト層に放射線を照射する方法としては、スタンプの反対側、すなわち基板側から放射線を照射する方法、スタンプの材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ側から放射線を照射する方法、スタンプの側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ材料または基板からの熱伝導により放射線を照射する方法を用いることができる。この中で特に、レジスト材としてノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ材料として紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いるのが好ましい。
【0026】
本発明では、レジスト材として、特に、SiO2系レジストを用いるのが好ましい。SiO2系レジストは酸素ガスを用いたドライエッチングに対して耐性が高く、よって炭素マスク層にイオンミリングを用いて磁気記録パターンのネガパターンを形成するに際して像のぼけを低減することができる。すなわち、炭素マスク層は酸素ガスを用いたドライエッチングによって容易に加工が可能であり、一方で、SiO2系レジストは酸素ガスを用いたドライエッチングに対して耐性が高いため、ドライエッチングにより炭素マスク層を垂直に切り立った形状に加工することが可能となり、シャープな形状の磁気記録パターンを製造することができる。
【0027】
炭素マスクを除去し、またその前にネガパターン形成後凹部にレジストが残っている場合(図3の工程Dに示す符号8)、そのレジストを除去する(工程E)。炭素マスク及びレジストの除去には反応性イオンエッチング、イオンミリングなどのドライエッチングの手法が用いられる。
本発明は、磁性層で炭素マスク及びレジストに覆われていない箇所に真空中でオゾンガスを暴露するか、もしくは純水にオゾンガスを溶存させたものに反応させるが、その工程の前に、該箇所の表層部(図3の工程Fのd)を0.1nm〜15nmの範囲内で除去する工程を設けるのが好ましい。磁性層の表層部は、その上に積層した炭素マスク層や、大気の影響によって変質している場合があり、そのような変質層があると、磁性層のオゾンに対する反応が効果的に作用しない場合があるからである。磁性層の除去は、例えば炭素マスク層をイオンミリング、または、反応性イオンエッチングなどでドライエッチングした後に、引き続き、磁性層をイオンミリングにてドライエッチングする。このような方法を採用することにより、残された磁性層のエッジ部を垂直に形成することが可能となる。これは、磁性層の上の炭素マスク層が垂直に切り立った形状であるため、その下の磁性層も同様の形状となるからである。
【0028】
本発明では、このような製造方法を採用することにより、フリンジ特性の優れた磁性層を形成することができる。
本発明では、前述のように、炭素マスクの反応性イオンエッチングを、酸素ガスを用いて行うのが好ましい。また、磁性層のイオンミリングを、アルゴン、窒素等の不活性ガスを用いて行うことが好ましい。すなわち、炭素マスク層のミリングイオンと磁性層のミリングイオンとを、それぞれ最適なものに変えるのが好ましい。
本発明では、磁性層で炭素マスク及びレジストに覆われていない箇所をオゾンで処理する前に、その表面をフッ素系ガスに暴露するのが好ましい。このような処理を行うことにより、磁性層表面の反応性を高め、オゾンと磁性材料との反応をより効率的に実現することが可能となる。
【0029】
本発明は、磁性層で炭素マスク及びレジストに覆われていない箇所をオゾンガスもしくはオゾンを溶存する液体にさらし反応させることを特徴とする。オゾンを溶存させる液体としては純水を用いるのが好ましい。磁性層で、オゾンにさらされた箇所は磁気特性が変化し、これにより磁性層に磁気記録パターンを形成することができる。オゾンは酸化性が高いため、オゾンガスもしくはオゾン溶存純水にさらされた磁性層は酸化し、その磁気特性が変化するためと考えられる。本発明の方法を用いることにより、磁性層の磁気特性の改変を効率よく行いことが可能となる。すなわち、従来行われていたイオン注入やレーザ照射に比べ、本発明の方法は広い面積を高い反応性で処理することが可能であるため、製造工程の処理時間を短縮することが可能となる。
【0030】
本発明の、磁性層のオゾンガスによる暴露は、反応圧力は0.1Pa〜5Paの範囲内で行うのが好ましく、また反応時間は5秒〜60秒の範囲内とするのが好ましい。反応時の基板温度(磁性層の温度)は25℃〜300℃の範囲内とするのが好ましい。また、本発明のオゾン溶存純水のオゾン濃度は、0.01〜10ppm さらに好ましくは0.1〜10ppmとすることが望ましい。0.01ppm未満では効果が確認されず、また10ppmを超えるオゾンを溶存させると配管などの腐食などの観点から生産上好ましくない。
本発明でオゾンガスもしくはオゾン溶存純水に暴露する磁性層として、グラニュラ構造の磁性層を用いるのが好ましい。グラニュラ構造の磁性層とは、磁性粒子の周囲を酸化物が覆った構造を有する磁性層であり、磁性結晶が非磁性相で分離されているため、磁性粒間の磁気的相互作用が微弱であり、かつ、磁性結晶粒が微細であるので極めて低ノイズの磁性層を形成できる特徴を有する。このような磁性層をオゾンガスもしくはオゾン溶存純水に暴露した場合、粒界に存在する酸化物層を、選択的にフッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチング装置などでの処理によりエッチングでき、磁性層中のCoなどの金属とオゾンとの酸化反応が促進でき、より効率よく磁性層の磁気特性を変化させることができる。
【0031】
本発明の磁気記録媒体の製造方法において、別の実施形態として磁性層をグラニュラ構造と非グラニュラ構造の2層構造とすることができる。これを図4と図5に示す。図4の磁気記録媒体は 基板1の上にグラニュラ構造の磁性層2−1、その上に、非グラニュラ構造の磁性層2−2を含む構造とし、非グラニュラ構造の磁性層でネガパターンに対応する部分22を除去する工程の後、グラニュラ構造の磁性層でマスクに覆われていない箇所にオゾンガスもしくはオゾン溶存純水を暴露する工程を設けて製造したものである。このような製造方法を採用することにより、より効率よく磁性層の磁気特性を変化させることができる。
グラニュラ構造の磁性層の厚さは5〜10nmが好ましく、非グラニュラ構造の磁性層の厚さは2〜7nmが好ましい。
【0032】
図5はさらに別の実施形態を示すもので、非グラニュラ構造の磁性層でネガパターンに対応する部分22を除去する工程の後、さらにグラニュラ構造の磁性層の表層部を除去したものである。除去の深さ(d)は0.1〜15nmが好ましい。図4、5に示す磁気記録媒体の製造方法において、その他の製造条件は図2の場合と同様である。
本発明では、磁性層の凹部(図1の22、図4、5の 23)に非磁性材料を埋め込むことができる。このような方法を用いることにより、磁気記録媒体の表面平滑度をより高めることができる。この際の非磁性材料としては、SiO2系のSOGを用いるのが作業の簡便性から好ましい。
また本発明では、磁性層の凹部が15nm以下の場合は、該箇所に非磁性材料を埋め込まないことも可能である。凹部がこの程度の範囲の場合は、その表面を直接炭素保護膜で覆うことにより、磁気ヘッドをクラッシュさせることなく、磁気記録媒体表面に浮上させることが可能である。
【0033】
本発明の製造方法に係わる磁気記録媒体は、記録密度を高めるため、磁気的パターンを有する磁性層の磁性部幅Wは200nm以下、非磁性部幅Lは100nm以下とすることが好ましい。従ってトラックピッチP(=W+L)は300nm以下の範囲で、記録密度を高めるためにはできるだけ狭くする。
本発明の、磁気的に分離した磁気記録パターンとは、磁性層が磁気記録媒体の表面側から見て分離されていれば、磁性層の底部において分離されていなくとも、本発明の目的を達成することが可能であり、本発明の、磁気的に分離した磁気記録パターンの概念に含まれる。さらに、本発明の磁気記録パターンとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置されたものや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたものや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。
【0034】
この中で本発明は、磁気的に分離した磁気記録パターンが、磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆる、ディスクリート型磁気記録媒体に適用するのが、その製造における簡便性から好ましい。
本発明では、磁性層を部分的にオゾンガスに暴露した後、磁性層の上に設けられているレジスト層および炭素マスク層を除去する工程を設ける。本発明の、レジスト層およびマスク層の除去に際しては、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリングなどの手法を用いるのが好ましい。
【0035】
本発明では、磁性層の表面でオゾンガスにさらされた最表面層を除去する目的でArなどの不活性ガスでその表層部を1〜2nmの範囲内でエッチングする工程を設けるのが好ましい。この領域においては磁性層の表面が粗面化している場合があるからである。
本発明では、レジスト層および炭素マスク層を除去した後の磁性層(磁性領域および非磁性材料を埋め込んだ領域、または非磁性材料を埋め込まない凹部の領域。)の表面に保護膜層9を形成する。保護膜層としては、炭素(C)、水素化炭素(HxC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO2、Zr23、TiNなど、通常用いられる保護膜層材料を用いることができる。また、保護膜層が2層以上の層から構成されていてもよい。
【0036】
保護膜層9の膜厚は10nm以下とする必要がある。保護膜層の膜厚が10nmを越えるとヘッドと磁性層との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなるからである。通常、保護膜層はスパッタ法もしくはCVD法により形成される。
保護膜の上には潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、通常1〜4nmの厚さで潤滑層を形成する。
【0037】
次に、本発明の磁気記録再生装置の構成を図6に示す。本発明の磁気記録再生装置は、上述の本発明の磁気記録媒体30と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部11と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド27と、磁気ヘッド27を磁気記録媒体30に対して相対運動させるヘッド駆動部28と、磁気ヘッド27への信号入力と磁気ヘッド27からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系29とを具備したものである。これらを組み合わせることにより記録密度の高い磁気記録装置を構成することが可能となる。磁気記録媒体の記録トラックを磁気的に不連続に加工したことによって、従来はトラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより十分な再生出力と高いSNRを得ることができるようになる。
【0038】
さらに上述の磁気ヘッドの再生部をGMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても十分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録装置を実現することができる。またこの磁気ヘッドの浮上量を0.005μm〜0.020μmと従来より低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録装置を提供することができる。また、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なSNRが得られる。
【実施例】
【0039】
(試験例)
初めにオゾン処理前後の磁化量変化を見るための試験例を示す。
(試験例1〜22、比較試験例1〜7)
HD用ガラス基板をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10-5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板はLi2Si25、Al23−K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)は2オングストロームである。
該ガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として60Fe30Co10B、中間層としてRu、グラニュラ構造の磁性層として70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金の順に薄膜を積層した。それぞれの層の膜厚は、60Fe30Co10B軟磁性層は60nm、Ru中間層は10nm、磁性層は15nmとした。
この表面を、試験例1〜8、試験例12〜19、比較試験例1、2、比較試験例4〜6については、ICPを用いて処理し、磁性層の表面を約3nm除去した。ICPによる処理条件は、CF4ガスを10sccm、圧力0.1Pa、加速電圧300V、投入電力200W、基板バイアス20W、エッチング時間を45秒とした。試験例9〜11、試験例20〜22、比較試験例3、7については磁性層のICPによる処理を行わなかった。また、比較試験例1〜3はアルゴン(Ar)雰囲気下とした。
【0040】
その後、磁性層の表面に、試験例1〜11についてはオゾンガスを照射し、試験例12〜22についてはオゾン水をスピンリンスした。オゾンガスの照射は、真空チャンバ中で、5×105Paの条件下で行った。また、オゾン水によるスピンリンスは、基板の表面に1リットル/分の流量でオゾンを含む純水をシャワーし、その後、基板を回転させて振り切り乾燥させた。なお、試験例12〜16、試験例19〜22については、オゾン水のシャワーに際して、オゾン水に超音波を印加した。超音波印加は、カイジョー製超音波発生器を用いて950kHz,500Wで行った。比較試験例4〜7はオゾン処理をしなかった。処理条件、処理後の磁化量の変化を表1、2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
(実施例1)
HD用ガラス基板をセットした真空チャンバをあらかじめ1.0×10-5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板はLi2Si25、Al23−K2O、Al23−K2O、MgO−P25、Sb23−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスを材質とし、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)は2オングストロームである。
該ガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として60Fe30Co10B、中間層としてRu、グラニュラ構造の磁性層として70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金、P−CVD法を用いて炭素マスク層の順に薄膜を積層した。それぞれの層の膜厚は、60Fe30Co10B軟磁性層は60nm、Ru中間層は10nm、磁性層は15nm、炭素マスク層は30nmとした。その上に、SiO2レジストをスピンコート法により塗布した。膜厚は100nmとした。
【0044】
その上に、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用いて、スタンプを1MPa(約8.8kgf/cm2)の圧力で、レジスト層に押圧した。その後、スタンプをレジスト層から分離し、レジスト層に磁気記録パターンを転写した。レジスト層に転写した磁気記録パターンは、レジストの凸部が幅120nmの円周状、レジストの凹部が幅60nmの円周状であり、レジスト層の層厚は80nm、レジスト層の凹部(底部)の厚さは約5nmであった。また、レジスト層凹部の基板面に対する角度は、ほぼ90度であった。
先ず、凹部に残っていたレジスト層をCF4を用い、0.5Pa・40sccmでプラズマ電力200w、バイアス20w、エッチング時間10秒で除去した。
その後、レジスト層の凹部の箇所について、炭素マスク層をドライエッチングで、磁性層の表層部をイオンエッチングで除去した。ドライエッチング条件は、炭素マスク層についてはO2ガスを40sccm、圧力0.3Pa,高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時30秒とした。
【0045】
また、磁性層は、N2ガスを10sccm、圧力0.1Pa、加速電圧300Vでエッチング時間を5秒とした。磁性層の凹部の深さ(図1のd)は約1nmであった。
その後、磁性層で炭素マスク層に覆われていない箇所をオゾンガスに暴露した。オゾンガスの暴露は、チャンバ内にオゾンガスを40sccmで流し、1Pa、10秒、基板温度150℃の条件にて行った。
その後、磁気記録媒体表面の炭素マスク層およびレジスト層をドライエッチングにより除去した。その後、イオンミリング装置にてAr 10sccm,0.5Pa、5秒の条件にて磁性層の表面を約1〜2nmの範囲でエッチングし、CVD法によりカーボン保護膜5nmを成膜し、最後にフッ素系潤滑膜2nmを塗布し、磁気記録媒体の製造を完了した。
【0046】
製造した磁気記録媒体について、スピンスタンドを用いて電磁変換特性の評価を実施した。このとき評価用のヘッドには、記録には垂直記録ヘッド、読み込みにはTuMRヘッドを用いた。電磁変換特性として、750kFCIの信号を記録したときのSNR値および3T−squashを測定した。その結果、3T−squashは90%であり、電磁変換特性に優れた磁気記録媒体であった。
【0047】
(実施例2)
磁性層として基板上にグラニュラ構造のCo10Cr20Pt8(SiO2) を10nm、その上に非グラニュラ構造のCo14Cr14Pt4bを5nm積層した。グラニュラ構造の表層部の除去深さは5.5nmとした。他の条件は実施例1と同様にした。実施例1同様電磁変換特性の評価を実施したところ、3T−squashは92%であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、磁気記録パターンを形成する磁気記録媒体において、ヘッド浮上の安定性を確保でき、優れた磁気記録パターンの分離性能を有し、隣接パターン間の信号干渉の影響を受けず、高記録密度特性に優れた磁気記録媒体を高い効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明による磁気記録媒体の基板と磁性層の一実施形態の断面構造を示す図である。
【図2】本発明による磁気記録媒体の基板と磁性層の他の実施形態の断面構造を示す図である。
【図3】本発明の磁気記録媒体の製造方法における製造工程の一例を示す図である。
【図4】本発明による磁気記録媒体の基板と磁性層の他の実施形態を示す断面構造図である。
【図5】本発明による磁気記録媒体の基板と磁性層のさらに他の実施形態を示す断面構造図である。
【図6】本発明の磁気記再生装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
W 磁気パターンにおける磁性部幅
L 磁気パターンにおける非磁性部幅
1 非磁性基板
2 磁性層
21 非磁性領域
2−1 グラニュラ構造の磁性層
2−2 非グラニュラ構造の磁性層
22、23 凹部
3 炭素マスク層
4 レジスト層
5 スタンプ
6 イオンミリング
7 磁性層で部分的に除去した箇所
8 レジスト層の凹部の厚さ
9 保護膜
d 磁性層の除去した深さ
11 媒体駆動部
27 磁気ヘッド
28 ヘッド駆動部
29 記録再生信号系
30 磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板の少なくとも一方の表面に、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の製造方法であって、該製造方法は、磁気記録パターンの形成を、磁性層とオゾンとの反応により磁性層の磁気特性を部分的に変化させることにより行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
非磁性基板に磁性層を形成する工程、該磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、マスクが除去された磁性層の箇所をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
非磁性基板に磁性層を形成する工程、該磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、マスク層の除去により露出した磁性層の表層部を除去する工程、表層部が除去された磁性層の箇所をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
オゾンと反応させる磁性層が、磁性粒子の周囲を酸化物が覆ったグラニュラ構造の磁性層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
非磁性基板にグラニュラ構造の磁性層を形成する工程、該磁性層の上に非グラニュラ構造の磁性層を形成する工程、非グラニュラ構造の磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層が除去された箇所のグラニュラ構造の磁性層をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
非磁性基板にグラニュラ構造の磁性層を形成する工程、該磁性層の上に非グラニュラ構造の磁性層を形成する工程、非グラニュラ構造の磁性層の上にマスク層を形成する工程、マスク層の上にレジスト層を形成する工程、レジスト層に磁気記録パターンのネガパターンを形成する工程、マスク層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層でネガパターンに対応する部分を除去する工程、非グラニュラ構造の磁性層が除去された箇所のグラニュラ構造の磁性層の表層部を除去する工程、表層部が除去されたグラニュラ構造の磁性層の箇所をオゾンで暴露する工程、レジスト層およびマスク層を除去する工程を、この順で有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
磁性層の表層部の除去深さが、0.1nm〜15nmの範囲内であることを特徴とする請求項3または6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
オゾンと磁性層との反応が、オゾンガスと磁性層との反応、または、オゾンガスを含む液体と磁性層との反応であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
オゾンと反応させる磁性層の表面を、あらかじめ、フッ素系ガスに暴露することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
磁性層を除去した箇所に非磁性材料を埋め込む工程を有することを特徴とする請求項3〜9のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
マスク層が炭素であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
炭素マスク層の膜厚が、5nm〜40nmの範囲内であることを特徴とする請求項11に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
レジスト層へのパターン形成を、スタンプを用いた転写により行うことを特徴とする請求項2〜12のいずれに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
オゾンで暴露する工程に続くレジスト層およびマスク層を除去する工程の後、不活性ガスで磁性層の表層をエッチングする工程を有することを特徴とする請求項2〜13のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造した磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、磁気ヘッドへの信号入力と磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−157983(P2009−157983A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333492(P2007−333492)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】