説明

磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムにおいても、高SNRを実現し得る磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記磁性層は、Fe16相を含む粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、結合剤とを含有し、かつ信号を記録再生するときの磁気記録媒体の走行方向と平行方向に測定した磁性層面内における面内平行角形をR1、前記走行方向と垂直方向に測定した磁性層面内における面内垂直角形をR2としたとき、前記面内平行角形R1が0.55〜0.70であり、前記面内平行角形R1に対する前記面内垂直角形R2の比(R2/R1)が0.50〜0.90である磁気記録媒体は、優れたSNRを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化鉄系磁性粉末と結合剤を含有する磁性層を有する塗布型の磁気記録媒体に関し、詳しくは、デジタルビデオテープ、コンピュータ用のバックアップテープ等の高密度記録に最適な磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤を含有する磁性層が形成された塗布型の磁気記録媒体は、アナログ方式からデジタル方式への記録再生方式の移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。特に、高記録密度用のビデオテープやコンピュータ用のバックアップテープ等においては、この要求が、年々、高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、短波長領域における出力を向上し、ノイズを低減する必要がある。ノイズは、磁性粉末の充填量で比較すると、記録ビット内に存在する粒子の個数が多くなるほど低くなるため、磁性粉末は年々微粒子化が図られており、現在では45nm程度の長軸長を有する針状の金属鉄系磁性粉末が実用化されている。さらに、短波長記録時の減磁による出力の低下を防止するために、年々、磁性粉末の高保磁力化が図られており、鉄−コバルト合金化により238.9kA/m程度の高保磁力を有する金属鉄系磁性粉末が実現されている(特許文献1〜3)。しかしながら、上記のような針状の磁性粉末を用いる磁気記録媒体においては、上記長軸長からのさらに大幅な微粒子化は困難になってきている。すなわち、針状の金属鉄系磁性粉末は、その形状を針状とすることによる形状磁気異方性に基づき高保磁力を発現している。従って、微粒子化に伴い必然的に針状比(長軸長/短軸長)が小さくなり、保磁力が低下する。この保磁力の低下は、高記録密度化する上で、致命的な問題となる。このように針状の金属鉄系磁性粉末は、微粒子化に伴って保磁力が低下するという本質的な問題があり、その微粒子化には限界がある。
【0004】
そこで、上記針状の磁性粉末とは全く異なる磁性粉末として、Fe16相を主相として含む窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体が提案されている(特許文献4)。しかしながら、この窒化鉄系磁性粉末は高い保磁力を有するものの、10m/g程度のBET比表面積を有しており、粒径が大きいため、高密度記録媒体に使用するには最適化する必要がある。
【0005】
上記観点から、本発明者は、希土類元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有し、Fe16相を含み、5〜50nmの粒径を有する粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を先に提案した(特許文献5)。この窒化鉄系磁性粉末は結晶磁気異方性を有するため、微粒子の窒化鉄系磁性粉末であっても、高保磁力と適度な飽和磁化を有し、短波長領域においても高い出力を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【特許文献1】特開平3−49026号公報
【特許文献2】特開平10−83906号公報
【特許文献3】特開平10−340805号公報
【特許文献4】特開2000−277311号公報
【特許文献5】特開2004−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、コンピュータ用データ記録システムにおいては、記録情報の再生を行う際に用いる再生ヘッドとして、従来の誘導型ヘッドに代わり、磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)が採用されてきているが、最近はさらに高感度の巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッド(GMRヘッド)や、トンネル磁気抵抗効果型磁気ヘッド(TMRヘッド)等の高感度ヘッド(以下、総称してGMRヘッド等という)の適用が検討されてきている。このようなGMRヘッド等の高感度ヘッドを使用したシステムにおいては、システムに起因するノイズの大幅な低減が可能であるので、磁気記録媒体に由来する媒体ノイズがシステムのSNR(Signal Noise Ratio)を支配することが知られている。従って、特許文献5のような窒化鉄系磁性粉末も、磁性層中の磁性粉末の分散状態等を最適化しなければ、出力を向上させても、同時にノイズも増加して、結果として高いSNRを達成することができない。このため、高感度のGMRヘッド等の特性を活かすことができる最適な塗膜設計が必要となる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムに磁性粉末として窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を適用した場合に、一定の出力を確保しながら、大幅なノイズ低減が可能であり、高SNRを実現し得る磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記磁性層は、Fe16相を含む粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、結合剤とを含有し、かつ信号を記録再生するときの磁気記録媒体の走行方向と平行方向に測定した磁性層面内における面内平行角形をR1、前記走行方向と垂直方向に測定した磁性層面内における面内垂直角形をR2としたとき、前記面内平行角形R1が0.55〜0.70であり、前記面内平行角形R1に対する前記面内垂直角形R2の比(R2/R1)が0.50〜0.90である磁気記録媒体である。
上記窒化鉄系磁性粉末は、微粒子でありながら、Fe16相を含有するため、高保磁力と適度な飽和磁化を有している。このため、高密度記録においても、高い出力を得ることができる。また、従来高いSNRを達成するため、出力の向上を目的として強磁界配向処理により磁性粉末を高度に配向させて面内平行角形を可能な限り高くすることが重要と考えられてきたが、上記のような窒化鉄系磁性粉末を用いた磁性層の面内平行方向の角形を従来の針状金属鉄系磁性粉末のそれと同じように向上しても、GMRヘッド等の高感度ヘッドが利用されるシステムにおいては出力の増加が少ないのに対し、強磁界配向処理によって窒化鉄系磁性粉末の凝集が顕著となり、それによって磁気クラスタサイズが増加し、ノイズが大幅に劣化する。このため、高面内平行角形を有する磁性層を形成しても、出力の増加分よりもノイズの増加分が格段に大きく、SNRが改善されない。これに対し、上記のように面内平行角形を抑え、面内平行角形に対する面内垂直角形の比を上記の範囲内に設定すれば、磁性層面内における窒化鉄系磁性粉末の磁化容易軸が面内平行方向以外の方向にも分散された磁性層を形成することができる。これにより、窒化鉄系磁性粉末の凝集が抑えられ、磁気クラスタサイズを低減することができ、高密度記録においても磁化反転をシャープにすることができるため、大幅にノイズを低減することができる。そして、上記のように面内平行角形を減少させても、窒化鉄系磁性粉末を用いた磁性層は高保磁力及び高充填性を有するため、GMRヘッド等の高感度ヘッドが利用されるシステムに窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を適用した場合、出力の低下は少ない。このため、優れたSNRを達成することができる。
【0009】
上記窒化鉄系磁性粉末は、希土類元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有することが好ましい。上記窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力でありながら分散性及び形状維持性に優れるため、出力をさらに向上できるとともに、ノイズをさらに低減することができる。
【0010】
上記窒化鉄系磁性粉末は、Fe16相を含む窒化鉄を主として含有する内層部分と、希土類元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を主として含有する外層部分とを有することが好ましい。上記窒化鉄系磁性粉末であれば、内層部分に高保磁力を有するFe16相を含む窒化鉄を主として有し、外層部分に形状維持性及び分散性に優れる希土類元素等を主として有するため、優れた磁気特性を有するとともに、粒度分布が良好で、分散性に優れた窒化鉄系磁性粉末が得られる。このため、さらに出力及びノイズが改善されて、SNRを向上することができる。
【0011】
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、少なくとも1層の下塗り層をさらに有し、磁性層は、300nm以下の厚さを有することが好ましい。非磁性支持体と磁性層との間に下塗り層を形成することにより薄層の磁性層を均一に形成することができる。そして、厚さが300nm以下の磁性層であれば、高密度記録においても記録時の厚み損失を低減することができる。このため、高い出力を得ることができる。
【0012】
また、本発明は、上記磁気記録媒体の製造方法であって、
前記窒化鉄系磁性粉末及び結合剤と、溶剤とを含有する磁性塗料を調製し、
前記磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布して湿潤状態の磁性塗料膜を形成し、
前記磁性塗料膜に、40〜160kA/mの弱配向磁界を印加しながら、乾燥する、製造方法である。
【0013】
窒化鉄系磁性粉末を用いた磁性層は、強い配向磁界で磁性粉末を配向させ面内平行角形を高くした場合、出力の増加は少ないのに対し、窒化鉄系磁性粉末の凝集により磁気クラスタサイズが大きくなり、ノイズが増加しやすいが、上記の弱配向磁界であれば、窒化鉄系磁性粉末の磁化容易軸が面内平行方向以外の方向にも分散した状態で磁性塗料膜が乾燥される。このため、窒化鉄系磁性粉末の凝集が抑えられ、強配向磁界で配向処理を行った場合よりも磁気クラスタサイズを小さくすることができ、ノイズを大幅に低減することができる。そして、弱配向磁界で窒化鉄系磁性粉末の配向を行い面内平行角形が抑えられても、GMRヘッド等の高感度ヘッドが利用されるシステムに窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を適用した場合、出力の低下は少ない。このため、優れたSNRを達成できる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、窒化鉄系磁性粉末を用いた磁性層を有する磁気記録媒体において、一定の出力を確保しつつ、低ノイズを達成することができ、SNRを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本実施の形態の磁気記録媒体における磁性層の設計指針と従来の磁気記録媒体における磁性層の設計指針との相違について説明すると、従来磁気記録媒体で高SNRを達成するためには、高出力を得ることが最重要視されてきた。磁気テープ等の配向性を有する磁気記録媒体において、高出力を達成するための磁性層の塗膜設計手法の1つとしては、記録再生方向における磁気成分をできるだけ多くすること、すなわち磁性粉末の充填性を向上するとともに、各磁性粉末の磁化容易軸を記録再生方向と一致させることが重要と考えられてきた。そのため、磁性粉末として針状の磁性粉末が用いられる場合、針状の磁性粉末がその磁化容易軸である長軸の方向で揃うように、磁性塗料を非磁性支持体上に塗布して形成した磁性塗料膜にできるだけ強い配向磁界を印加し、それによって磁性層面内における磁気記録媒体の走行方向と平行方向に磁性粉末を強制的に磁界配向させて、面内平行方向の角形(長手記録方式の磁気記録媒体で一般にいう、Br/Bm)ができる限り1に近づくよう、該面内平行方向の角形を高くした磁性層を形成することが求められてきた。窒化鉄系磁性粉末を用いた磁性層においても、高出力を達成するためには、同様に面内平行方向の角形を向上することが好ましいと考えられたが、窒化鉄系磁性粉末を有する磁性層が形成された磁気記録媒体をGMRヘッド等の高感度ヘッドを有するシステムに適用した場合、強磁界配向処理を行って面内平行方向の角形を向上しても、出力の増加はそれほど大きくなかったのに対し、ノイズが大幅に増加し、その結果SNRが低下することが確認された。この理由は、強磁界配向処理による窒化鉄系磁性粉末の凝集のしやすさに起因するものと考えられる。磁性粉末は、配向処理によって磁性粉末が凝集した磁気クラスタを形成する。既述したように、窒化鉄系磁性粉末は結晶磁気異方性を示すため、50nm以下の粒径を有する微粒子の磁性粉末としても優れた磁気特性を有しており、そのため高保磁力及び高充填性を有する磁性層を形成することができるが、微粒子化に伴って配向処理時に磁気凝集しやすくなる。そのため、強磁界配向処理を行うと磁気クラスタサイズが増大しやすい。この磁気クラスタは信号を記録再生するときにあたかも1つの磁性粉末のような挙動を示す。そのため、磁気クラスタのサイズが大きくなるほど、記録ビット中の見かけの磁性粉末の個数が少なくなり、かつ高密度記録領域においては磁化遷移幅が広がり、ノイズが増加する。従来使用されてきたMRヘッドはそれほど高い感度を有していないため、このような磁気クラスタによるノイズへの影響も少なかったが、GMRヘッド等はMRヘッドよりも高い感度を有するため、磁気クラスタによるノイズへの影響を無視できず、SNRを大きく劣化させることとなる。従って、GMRヘッド等の高感度ヘッドが利用されるシステムにおいては、ノイズを抑えるために窒化鉄系磁性粉末の凝集を抑え、より小さな磁気クラスタサイズを有する磁性層とすることが重要と考えられる。
【0016】
一方、GMRヘッド等は高感度を有しており、窒化鉄系磁性粉末を有する磁性層は高保磁力及び高充填性を有しているため、面内平行角形が抑えられても、高密度記録領域における出力の低下はそれほど大きくないことが期待できる。従って、面内平行角形をある程度低くしても、高密度記録領域において一定の出力を確保できると考えられる。
【0017】
上記知見に基づき、従来の高面内平行角形を追求する磁性層塗膜の設計指針とは異なる設計指針の元、一定の出力を確保しつつ、窒化鉄系磁性粉末の凝集を抑制し、より小さな磁気クラスタサイズを有する磁性層を形成する手法について検討した結果、信号を記録再生するときの磁気記録媒体の走行方向と平行方向に測定した磁性層面内における面内平行角形をR1、走行方向と垂直方向に測定した磁性層面内における面内垂直角形をR2としたとき、面内平行角形R1が0.55〜0.70であれば、出力の低下が少なく、しかも面内平行角形R1に対する面内垂直角形R2の比(R2/R1)が0.50〜0.90であれば、窒化鉄系磁性粉末の凝集が抑えられ、磁気クラスタサイズが低減された磁性層を形成することができ、それによってノイズが大幅に低減されて、高いSNRが得られることが見出された。
【0018】
すなわち、面内平行角形R1が0.55〜0.70に抑えられても、GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムに窒化鉄系磁性粉末を含有する高保磁力及び高充填性の磁性層が形成された磁気記録媒体を適用すれば、出力の大幅な低下を防止することができる。そして、面内平行角形R1に対する面内垂直角形R2の比(R2/R1)が0.50〜0.90の範囲にあれば、面内平行方向以外の方向にも窒化鉄系磁性粉末の磁化容易軸がある程度分散された磁性層とすることができる。この磁化容易軸の分布した磁性層とすることにより、配向処理時の面内平行方向の窒化鉄系磁性粉末の凝集が抑えられるため、磁気クラスタサイズを低減することができ、それによって磁化反転もシャープとなり、磁化遷移幅の狭い磁性層を形成することができる。このため、GMRヘッド等の高感度ヘッドが用いられるシステムにおいても、ノイズを大幅に低減することができる。この出力の低下を抑えることと、大幅にノイズを低減させることの両立を図ることにより、優れたSNRを達成することができる。
【0019】
本実施の形態において、面内平行角形R1が0.55未満あるいは面内平行角形R1に対する面内垂直角形R2の比(R1/R2)が0.90より大きい磁性層では、窒化鉄系磁性粉末を用いても記録再生方向における窒化鉄系磁性粉末中の信号に寄与する磁性粉末の割合が少なくなり、出力が低下する。このため、面内平行角形R1は0.55以上とする必要があり、前記比は0.90以下とする必要がある。より好ましい範囲は、面内平行角形R1が0.57以上であり、前記比が0.84以下である。一方、面内平行角形R1が0.70より大きいあるいは前記比が0.50未満の磁性層では、磁化容易軸が面内平行方向に向いた窒化鉄系磁性粉末の割合が増加し、高面内平行角形を有する磁性層を形成することができるが、面内平行角形の増加による出力の向上は少ないのに対し、窒化鉄系磁性粉末の凝集が顕著となるため、磁気クラスタサイズが増大して、ノイズが増加する。このため、面内平行角形R1は0.70以下とする必要があり、前記比は0.50以上とする必要がある。より好ましい範囲は、面内平行角形R1が0.69以下であり、前記比が0.52以上である。図1は、本実施の形態の磁気記録媒体の一例における磁性層の面内平行角形と面内垂直角形を説明する概略図である。図中、1は磁性層を、2は非磁性支持体であり、3は磁気記録媒体の記録再生時における走行方向を、4は面内平行方向を、5は面内垂直方向をそれぞれ示す。従って、この磁気記録媒体の磁性層面内における面内平行角形R1は、4の方向における残留磁束密度(Br面内平行)と飽和磁束密度(Bm面内平行)との比(Br面内平行/Bm面内平行)を意味し、面内垂直角形R2は5の方向における残留磁束密度(Br面内垂直)と飽和磁束密度(Bm面内垂直)との比(Br面内垂直/Bm面内垂直)を意味する。両角形は、例えば、試料振動型磁力計(VSM)を用いて、25℃、印加磁界1273.3kA/m、磁場掃引速度80kA/m/分の条件で磁性層を測定することにより求めることができる。
【0020】
本実施の形態において、面内平行角形と面内垂直角形とを上記範囲とすることにより形成される磁性層の磁気クラスタサイズは、50nm以下が好ましく、より好ましくは窒化鉄系磁性粉末の粒径と同サイズである。50nm以下の磁気クラスタサイズを有する磁性層であれば、GMRヘッド等の高感度ヘッドを用いて信号が再生される場合でも、ノイズを十分に低減することができる。磁気クラスタサイズは、例えば、磁性層を磁気力顕微鏡(MFM)で観察することによって得られる漏れ磁界像から求めることができる。
【0021】
次に、本実施の形態の磁気記録媒体に好適に用いることができる窒化鉄系磁性粉末、結合剤、磁性層の構成、非磁性支持体、磁気記録媒体の製造方法について説明する。
窒化鉄系磁性粉末としては、Fe16相を含む粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末が用いられる。このような窒化鉄系磁性粉末は、粒状乃至楕円体状の形状を有するが、Fe16相を含有するため優れた結晶磁気異方性を示し、微粒子の磁性粉末であっても高保磁力と適度な飽和磁化を有している。窒化鉄系磁性粉末の粒径は、5〜20nmが好ましく、5〜18nmがより好ましい。このような微粒子の窒化鉄系磁性粉末は磁性層の充填性を向上するために好ましく用いることができるが、配向処理により凝集が生じやすいため、上記角形の特性を有する磁性層を形成することが特に有効である。上記粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した窒化鉄系磁性粉末300個の粒径の平均値である。なお、粒状乃至楕円体状とは、軸比[長軸径/短軸径]の平均値が1〜2の略球状乃至略楕円体状の形状を意味し、粒径とは、球状の粉末の場合には直径を、楕円体状等の異方性を有する粉末の場合には長軸径を意味する。また、窒化鉄系磁性粉末は、形状が粒状乃至楕円体状であれば、粉末の表面に凹凸があってもよく、若干の変形を有していてもよい。
【0022】
本実施の形態の窒化鉄系磁性粉末は、鉄に対して1〜20原子%の窒素を含有することが好ましい。窒素の含有量が1原子%以上であれば、高保磁力及び高飽和磁化を示すFe16相を多く含む窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒素の含有量が20原子%以下であれば、非磁性窒化物の生成が抑えられ、飽和磁化の過度の低下を防止することができる。
【0023】
上記窒化鉄系磁性粉末は、希土類元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有することが好ましい。このような元素を含有する窒化鉄系磁性粉末は、高保磁力でありながら分散性及び形状維持性に優れるため、出力及びノイズをさらに改善することができる。希土類元素としては、具体的には、例えば、Y、Yb、Ce、Sm、Pr、La、Eu、Nd等が挙げられる。これらの中でも、Y、Sm、及びNdは還元時の粒子形状の維持効果が大きいため、好ましい。希土類元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の含有量は、鉄に対してそれぞれ0.05〜20.0原子%が好ましい。これらの元素の含有量が上記範囲であれば、窒化鉄系磁性粉末の分散性と形状維持性とをさらに向上することができる。
【0024】
本実施の形態の窒化鉄系磁性粉末としては、特に、Fe16相を主相とする窒化鉄を主として含有する内層部分と、希土類元素、Al、及びSiからなる少なくとも1種の元素を主として含有する外層部分とを有する2層構成の窒化鉄系磁性粉末が好ましい。このような窒化鉄系磁性粉末は、化学的により安定であるため、分散性に優れた磁性塗料を作製することができる。また、窒化鉄系磁性粉末は、Fe16相以外に、Fe相、FeN相、α−Fe相等の他の結晶相を含んでいてもよい。上記の2層構成の窒化鉄系磁性粉末の場合、α−Fe相等の他の結晶相は内層部分あるいは外層部分のいずれに含まれていてもよいし、内層部分と外層部分との界面に形成されていてもよい。
【0025】
窒化鉄系磁性粉末の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば特開2004−273094号公報等に記載の方法により製造することができる。具体的には、出発原料としては、鉄系酸化物または鉄系水酸化物が用いられる。鉄系酸化物、鉄系水酸化物としては、具体的には、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲーサイト等が挙げられる。出発原料の粒径は、特に限定されないが、5〜30nm程度が好ましい。粒径が小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすい。粒径が大きすぎると、還元処理が不均質となりやすく、得られる窒化鉄系磁性粉末の粒径や磁気特性の制御が困難となる。
【0026】
この出発原料には希土類元素、Al、Si等の元素を被着処理することもできるし、あらかじめこれらの元素を出発原料に添加しておくこともできる。被着処理にあたっては、例えば、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素、Al、Si等の元素を含有する塩を溶解させ、中和反応等により出発原料である粉末にこれらの元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させればよい。
【0027】
次に、上記のような出発原料を水素気流中で加熱還元処理する。還元ガスは特に限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガス等の還元性ガスを使用してもよい。還元温度は、300〜500℃が好ましい。還元温度が300℃より低いと、還元反応が十分進まなくなる。還元温度が600℃より高いと、焼結が起こりやすくなる。
【0028】
上記のような加熱還元処理後、得られる鉄系磁性粉末に窒化処理を施すことにより、Fe16相を有する窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒化処理は、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。また、アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス等をキャリアーガスとして有する混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。
【0029】
窒化処理温度は、100〜300℃が好ましい。窒化処理温度が低すぎると窒化が十分進まず、保磁力向上の効果が少ない。窒化処理温度が高すぎると窒化が過度に促進され、FeN相やFeN相等の割合が増加し、保磁力が寧ろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。窒化処理に際しては、鉄に対する窒素の含有量が1〜20原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。窒素の量が少なすぎると、Fe16相の生成量が少なくなり、保磁力向上の効果が少なくなる。また窒素の量が多すぎると、FeN相やFeN相等が形成されやすくなり、保磁力が寧ろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。上記のようにして作製される窒化鉄系磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。飽和磁化量は、40〜100Am/kgが好ましく、50〜90Am/kgがより好ましい。
【0030】
結合剤としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、及びポリウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましく、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂とポリウレタン系樹脂との併用がより好ましい。また、これらの結合剤は、窒化鉄系磁性粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基等を挙げることができる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いるのが好ましく、中でも、−SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、7〜50質量部、好ましくは10〜35質量部の範囲で用いられる。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部と、ポリウレタン系樹脂2〜20質量部との併用が好ましい。
【0031】
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基等と結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等の水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物等の各種のポリイソシアネートを挙げることができる。架橋剤は、結合剤100質量部に対して、通常10〜50質量部の範囲で用いられる。
【0032】
本実施の形態において、磁性層は、導電性、表面潤滑性、耐久性等の特性の向上を目的に、カーボンブラック、潤滑剤、非磁性粉末等の添加剤を含有してもよい。カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックの含有量は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、0.2〜5質量部が好ましい。潤滑剤としては、具体的には、例えば、10〜30の炭素数を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等を使用することができる。潤滑剤の含有量は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、0.2〜3質量部が好ましい。非磁性粉末としては、具体的には、例えば、アルミナ、シリカ等の非磁性粉末を使用することができる。非磁性粉末の含有量は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、1〜20質量部が好ましい。
【0033】
磁性塗料は、窒化鉄系磁性粉末及び結合剤と、必要により他の添加剤とを溶剤と混合することにより調製される。溶剤としては、従来から磁性塗料の調製に使用されている有機溶剤を使用することができる。具体的には、例えば、シクロヘキサノン、トルエン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。磁性塗料の調製にあたっては、従来から公知の塗料製造工程を使用することができる。特に、ニーダ等による混練工程と一次分散工程の併用が好ましい。一次分散工程では、サンドミルを使用すると、分散性が改善されるとともに、表面性状を制御できるので、望ましい。
【0034】
本実施の形態の磁気記録媒体は、上記のようにして調製された磁性塗料を非磁性支持体上に塗布し、塗布された磁性塗料膜を配向、乾燥することにより製造することができる。非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミド等からなる厚さが通常2〜20μmのプラスチックフィルムが挙げられる。塗布装置としては、グラビアロール、ブレードコータ、エクストルージョン型コータ等の従来から磁気記録媒体の製造で使用されている塗布装置を使用できる。
【0035】
塗布処理と同時または連続して行われる配向処理においては、面内平行角形と面内垂直角形とが所定の範囲となるように、配向磁界の強度が調整される。具体的には、従来の高面内平行角形を有する磁性層を形成する場合、398kA/m程度の強配向磁界が用いられているが、本実施の形態の磁性層を形成する場合、このような強配向磁界が用いられると、窒化鉄系磁性粉末の凝集が顕著となり、ノイズが大幅に増加するため、弱い配向磁界が用いられる。そして、弱配向磁界を用いても、窒化鉄系磁性粉末をある程度配向させることができるため、出力の大きな低下を防止することができる。配向磁界の強度は、40〜160kA/mが好ましい。上記範囲の強度を有する弱配向磁界が用いられれば、面内平行角形をある程度確保しつつ、窒化鉄系磁性粉末の磁化容易軸が分散された磁性層を形成することができる。乾燥処理は、配向された窒化鉄系磁性粉末を固定化し、窒化鉄系磁性粉末の再凝集を防止するために配向処理と同時に行われる。乾燥条件は、特に限定されず、従来の乾燥温度等の条件を使用することができる。
【0036】
磁性層の厚さは、300nm以下が好ましく、10〜2100nmがより好ましい。磁性層の厚さが300nmより大きいと、厚さ損失により再生出力が小さくなったり、残留磁束密度と厚さの積が大きくなりすぎ、特にGMRヘッド等の高感度ヘッドが使用される場合、再生出力の飽和による出力の歪が起こりやすい。また、上記薄層の磁性層を形成する場合、非磁性支持体と磁性層との間に下塗り層を設けることが好ましい。下塗り層の厚さは、0.1〜3.0μmが好ましく、0.15〜2.5μmがより好ましい。下塗り層の厚さが0.1μm未満では、耐久性が劣化する傾向がある。また、下塗り層の厚さが3.0μmを超えると、磁気記録媒体の全厚が厚くなるため、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる傾向がある。下塗り層は、塗料粘度や磁気記録媒体の剛性の制御を目的に、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等の非磁性粉末;γ−酸化鉄、Co−γ−酸化鉄、マグネタイト、酸化クロム、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Fe−Ni−Co合金、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Ni−Cu系フェライト、Cu−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト等の磁性粉末を含んでもよい。これらは単独または複数混合して用いてもよい。また、下塗り層は、導電性を付与するため、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックを含んでもよい。下塗り層に使用される結合剤としては、上記の磁性層で使用される結合剤と同様の樹脂を使用することができる。
【0037】
本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が設けられている面と反対面にバックコート層が設けられてもよい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましい。バックコート層は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックを含有することが好ましい。バックコート層の結合剤としては、磁性層や下塗り層に用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。これら中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上するため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましい。
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0039】
<実施例1>
[窒化鉄系磁性粉末の作製]
出発原料として、略球状の形状を有し、約17nmの粒径を有するマグネタイト粒子を用いた。このマグネタイト粒子10部を500部の水に、超音波分散機を用いて30分間分散させた。この分散液に、Y/Feが2.0原子%となるように硝酸イットリウムを加えて溶解し、分散液を30分間撹拌した。この分散液に、Al/Feが20.0原子%となるようにアルミン酸ナトリウムを溶解させた水酸化ナトリウム水溶液をpHが7〜8になるように調整しながら滴下した。この処理により、マグネタイト粒子表面にイットリウム水酸化物及びアルミニウム水酸化物を被着させた。その後、分散液をろ過し、固形分を水洗し、空気中110℃で乾燥することにより、マグネタイト粒子の表面にイットリウム水酸化物及びアルミニウム水酸化物を被着させた粉末を作製した。
【0040】
次に、この粉末を水素気流中、450℃で6時間、さらに460℃で1時間加熱還元し、粉末の内部に鉄を含有し、粉末表面にアルミニウム化合物及びイットリウム化合物が形成されたY−Al−鉄系磁性粉末を得た。次に、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて140℃まで降温した。温度が140℃に到達した時点で、水素ガスからアンモニアガスに切り替え、温度を140℃に維持した状態で、20時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、140℃から40℃まで降温した。温度が40℃に到達した時点で、アンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。次いで、混合ガスを流した状態で、60℃まで昇温し、60℃で2時間安定化処理を行った。さらに、混合ガスを流した状態で、60℃から40℃まで降温し、40℃で約24時間粉末を保持した後、室温まで冷却し、粉末を空気中に取り出した。
【0041】
上記のようにして得られたY−Al−窒化鉄系磁性粉末のY、Al、及び窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、Feに対してそれぞれ、1.8原子%、18.1原子%、10.3原子%であった。また、X線回折パターンでFe16相を示すプロファイルが確認された。さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で形状を観察したところ、2層構成を有し、略球状で、粒径が15.5nmの粉末であることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、103m/gであった。
【0042】
また、このY−Al−窒化鉄系磁性粉末の磁気特性を試料振動型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁場1,270kA/m、磁場掃引速度80kA/m/分で測定したところ、飽和磁化(σs)が62.4Am/kgであり、保磁力(Hc)が175.9kA/mであることが確認された。
【0043】
[磁性塗料の調製]
上記で作製したY−Al−窒化鉄系磁性粉末を用い、下記の表1に示す組成を有する磁性塗料成分をニーダで混練した後、混練物をサンドミルを用いて分散処理を行い(滞留時間:60分)、得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)6部を加え、撹拌し、ろ過して磁性塗料を調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
[下塗り層塗料の調製]
下記表2の下塗り層塗料成分をニーダで混練した後、混練物をサンドミル(滞留時間:60分)で分散し、得られた分散液にポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して、下塗り層用塗料を調製した。
【0046】
【表2】

【0047】
[バックコート層の作製]
下記表3のバックコート層塗料成分を、サンドミルで分散処理(滞留時間:45分)を行い、得られた分散液にポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌し、ろ過して、バックコート層塗料を調製した。
【0048】
【表3】

【0049】
[磁気テープの作製]
まず、上記の下塗り層塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの非磁性支持体上に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが2μmとなるように塗布した。
次に、形成された下塗り層上に上記の磁性塗料を、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが100nmとなるように供給して磁性塗料膜を形成した。そして、湿潤状態の磁性塗料膜に配向処理(配向磁界:80kA/m,配向方向:長手方向)を行いながら、乾燥した。
次に、上記のバックコート層用塗料を、非磁性支持体の磁性層が形成された面の反対面に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。
上記のように非磁性支持体の片面に非磁性層、及び磁性層を、他面にバックコート層を形成した磁気シートを、5段カレンダ(温度:70℃、線圧:150Kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、磁気シートを1/2インチ幅に裁断し、磁気テープを作製した。
【0050】
<実施例2>
実施例1における磁気テープの作製において、配向磁界を160kA/mとした以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0051】
<実施例3>
実施例1における磁気テープの作製において、配向磁界を40kA/mとした以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0052】
<実施例4>
実施例1の磁性塗料の調製において、磁性塗料成分中のY−Al−窒化鉄系磁性粉末を78部、塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合樹脂を11部、ポリエステルポリウレタン樹脂を6.6部、ポリイソシアネートを4.4部に変更した以外は、実施例1と同様にして磁性塗料を調製した。上記のようにして調製した磁性塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0053】
<比較例1>
実施例1における磁気テープの作製において、配向磁界を400kA/mとした以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0054】
<比較例2>
実施例1における磁気テープの作製において、配向処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0055】
<比較例3>
実施例1における磁気テープの作製において、配向磁界を250kA/mとした以外は、実施例1と同様にして、磁気テープを作製した。
【0056】
上記のようにして作製した実施例及び比較例の各磁気テープについて、面内平行角形R1、面内垂直角形R2、その比(R2/R1)、磁気クラスタサイズ、及び電磁変換特性を以下により評価した。表4は、この結果を示す。
【0057】
〔角形〕
面内平行角形R1及び面内垂直角形R2は、試料振動型磁力計(VSM)を用い、25℃、印加磁界1273.3kA/m、磁場掃引速度80kA/m/分の条件で、磁性層の長手方向と幅方向の角形をそれぞれ測定することにより求めた。また、得られた面内平行角形R1及び面内垂直角形R2からのその比(R2/R1)を求めた。
【0058】
〔磁気クラスタサイズ〕
磁気力顕微鏡として、デジタルインスツルメント社製,Nano Scope IIIを用い、周波数検出法により磁性層の漏れ磁界像を測定した。測定プローブには、コバルトアロイコートを有するプローブ(先端曲率半径:25〜40nm,保磁力:約400Oe,磁気モーメント:約1×10−13emu)を用い、走査範囲は5μm四方、走査速度は5μm/secとした。得られた漏れ磁界像の磁化強度の中心値Cと標準偏差δとの和(C+δ)より大きな磁化強度を有する部分を2値化処理することにより表示し、該部分を磁気クラスタとして、その円相当径の平均値を測定した。
【0059】
〔電磁変換特性〕
電磁変換特性の評価には、記録ヘッドとしてMIG(Metal−In−Gap)ヘッド(トラック幅:12μm,ギャップ長:0.17μm,Bs:1.2T)と、再生ヘッドとしてスピンバルブタイプのGMRヘッド(トラック幅:2.5μm,ギャップ長:0.17μm)とが装着されたドラムテスターを用いた。このドラムテスターの回転ドラムに磁気テープを巻きつけ、3.4m/sの相対速度で磁気テープを走行させながら、スペクトラムアナライザを使用して磁気テープの長手方向に信号を記録し、250kfciの記録密度における再生出力とブロードバンドノイズを測定した。なお、再生出力、ノイズ、及びSNRは比較例1のそれらを基準(0dB)とした相対値で評価した。
【0060】
【表4】

【0061】
上記表に示すように、実施例の磁気テープはいずれも、面内平行角形R1が0.57〜0.69の範囲にあるが、比較例1の面内平行角形R1が0.82の磁気テープと比べて、出力の低下が少ないことが分かる。このため、窒化鉄系磁性粉末を含有する磁性層を形成した磁気テープをGMRヘッドを用いて再生した場合、面内平行角形R1を低下させても出力の劣化は小さいことが分かる。一方、比較例2の磁気テープは、配向処理を行っていないため、面内平行角形R1が低く、このため、出力が低下している。従って、窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体においても、一定の配向性は付与する必要があることが分かる。そして、実施例の磁気テープはいずれも微粒子の窒化鉄系磁性粉末が用いられているが、面内平行角形R1に対する面内垂直角形R2の比(R2/R1)が0.52〜0.84の範囲にあるため、比較例1や3の磁気テープに比べて、ノイズが大幅に低減されていることが分かる。これは、面内平行方向の角形を低下させて、窒化鉄系磁性粉末の磁化容易軸を面内平行方向以外の方向にも分散させることにより、窒化鉄系磁性粉末の凝集が抑えられ、磁気クラスタサイズが低減されたためと考えられる。このため、上記実施例によれば、一定の出力を確保しつつ、ノイズが大幅に低減されることにより、高SNRを有する磁気記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気記録媒体の面内平行角形と面内垂直角形を説明する概略図
【符号の説明】
【0063】
1 磁性層
2 非磁性支持体
3 走行方向
4 面内平行方向
5 面内垂直方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記磁性層は、Fe16相を含む粒状乃至楕円体状の窒化鉄系磁性粉末と、結合剤とを含有し、かつ信号を記録再生するときの磁気記録媒体の走行方向と平行方向に測定した磁性層面内における面内平行角形をR1、前記走行方向と垂直方向に測定した磁性層面内における面内垂直角形をR2としたとき、前記面内平行角形R1が0.55〜0.70であり、前記面内平行角形R1に対する前記面内垂直角形R2の比(R2/R1)が0.50〜0.90である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記窒化鉄系磁性粉末は、希土類元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記窒化鉄系磁性粉末は、Fe16相を含む窒化鉄を主として含有する内層部分と、希土類元素、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を主として含有する外層部分とを有する請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、少なくとも1層の下塗り層をさらに有し、前記磁性層は、300nm以下の厚さを有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
前記窒化鉄系磁性粉末及び結合剤と、溶剤とを含有する磁性塗料を調製し、
前記磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布して湿潤状態の磁性塗料膜を形成し、
前記磁性塗料膜に、40〜160kA/mの弱配向磁界を印加しながら、乾燥する、製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−104685(P2009−104685A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273379(P2007−273379)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】