説明

磁気記録媒体用磁性微粒子粉末及びその製造法

【課題】 本発明は、磁気記録媒体用磁性微粒子粉末及びその製造法に関するものであり、詳しくは、磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響を低減することのできる磁気記録媒体用磁性微粒子粉末に関するものである。
【解決手段】 六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmであって、全粒子に対して板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合が15%以下である磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、六方晶フェライト粒子粉末を水に分散させて水性懸濁液とし、pH値3.5以下、温度範囲20〜100℃の条件で六方晶フェライト粒子粉末の超微細粒子成分を溶解させた後、残存する六方晶フェライト粒子粉末を水洗・乾燥して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用磁性微粒子粉末及びその製造法に関するものであり、詳しくは、六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmの微粒子でありながら、板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合を低減することにより、磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響を小さくすることのできる磁気記録媒体用磁性微粒子粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録技術は、従来、オーディオ用、ビデオ用、コンピューター用等をはじめとしてさまざまな分野で幅広く用いられている。近年、機器の小型軽量化、記録の長時間化及び記録容量の増大等が求められており、記録媒体に対しては、記録密度のより一層の向上が望まれている。
【0003】
従来の磁気記録媒体に対してより高密度記録を行うためには、高いC/N比が必要であり、ノイズ(N)が低く、再生出力(C)が高いことが求められている。近年では、これまで用いられていた誘導型磁気ヘッドに替わり、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)や巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)等の高感度ヘッドが開発されている。これらの高感度ヘッドは誘導型磁気ヘッドに比べて再生出力が得られやすいことから、高いC/N比を得るためには、出力を上げるよりもノイズを低減する方が重要となってきている。
【0004】
磁気記録媒体のノイズは、粒子性ノイズと磁気記録媒体の表面性に起因して発生する表面性ノイズとに大別される。粒子性ノイズの場合、粒子サイズの影響が大きく、微粒子であるほどノイズ低減に有利であることから、磁気記録媒体に用いる磁性粒子粉末の粒子サイズはできるだけ小さいことが必要となるが、磁性粒子粉末は微細化することによって粒子体積が小さくなるため、磁化の熱的安定性を表す磁気異方性エネルギーと熱エネルギーとの比(KuV/kT)(Ku:磁気異方性定数、V:粒子体積、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)が小さくなり、熱揺らぎの影響を受けやすくなる。
【0005】
また、磁性粒子粉末の微細化が進むと結晶粒の体積が減少し、結晶磁化が不安定になり磁性を失うこと(スーパーパラマグネティズム)が知られており、そのためにも、磁性粒子粉末の超微細な粒子成分の低減が重要となっている。
【0006】
一般に、微粒子、且つ、高保磁力値を有する磁性粒子粉末としては、鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末及び六方晶フェライト粒子粉末等が知られている。殊に、六方晶フェライト粒子粉末は、針状の金属磁性粒子粉末に比べ短波長領域で高い出力が得られるという特徴があり、再生にMRヘッドやGMRヘッドを用いた高密度記録の磁気記録媒体用磁性粉末として非常に有望である。
【0007】
しかしながら、六方晶フェライト粒子粉末は、σs(飽和磁化値)が金属磁性粒子粉末の約1/2程度であり、Ku(Kuは、Hk・σs/2で求められる)(Hk:異方性磁界)を大きくすることが難しく、熱揺らぎの影響は金属磁性粒子粉末と比べて大きくなる傾向にある。
【0008】
六方晶フェライト粒子粉末の異方性磁界(Hk)と平均粒子体積(V)との積を1.2×10〜2.4×10kA/m・nmの範囲に限定することにより、熱揺らぎの影響を小さくした磁気記録媒体(特許文献1)が開示されている。
【0009】
また、六方晶フェライト粒子粉末の粒度分布を改善するために、ガラス結晶化法によって六方晶フェライトを製造する際に、非晶質体を熱処理し六方晶フェライトを析出させる工程において、非晶質体をレーザー加熱処理することを特徴とした六方晶フェライト粒子粉末(特許文献2)が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−129115号公報
【特許文献2】特開2006−120823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響を小さくすることのできる六方晶フェライト粒子粉末は、現在最も要求されているところであるが、このような諸特性を十分満たす六方晶フェライト粒子粉末は未だ得られていない。
【0012】
即ち、前出特許文献1には、六方晶フェライト粒子粉末の異方性磁界(Hk)と平均粒子体積(V)との積を1.2×10〜2.4×10kA/m・nmの範囲に限定することが記載されているが、熱揺らぎを特定の範囲にすることが目的であり、板面径が10nm未満の超微細な粒子の低減については考慮されていないため、スーパーパラマグネティズムを生じる超微細な粒子の存在によって飽和磁化値σsを大きくすることができず、従って磁気異方性定数Kuを大きくすることが難しいため、熱揺らぎの影響が大きくなる。
【0013】
また、特許文献2には、六方晶フェライト粒子粉末の粒度分布を改善するために、ガラス結晶化法によって六方晶フェライトを製造する際に、非晶質体を熱処理し六方晶フェライトを析出させる工程において、非晶質体をレーザー加熱処理した六方晶フェライト粒子粉末が記載されているが、上記と同様に、板面径が10nm未満の超微細な粒子の低減については考慮されていないため、スーパーパラマグネティズムを生じる超微細な粒子の存在によって飽和磁化値σsを大きくすることができず、従って磁気異方性定数Kuを大きくすることが難しいため、熱揺らぎの影響が大きくなる。
【0014】
そこで、本発明は、六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmの微粒子でありながら、板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合を低減することにより、磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響を小さくすることのできる六方晶フェライト粒子粉末を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0016】
即ち、本発明は、六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmであって、全粒子に対して板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合が15%以下であることを特徴とする磁気記録媒体用磁性微粒子粉末である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、六方晶フェライト粒子粉末を水に分散させて水性懸濁液とし、該水性懸濁液中に酸を添加してpH値3.5以下、温度範囲20〜100℃の条件で処理を行って該水性懸濁液中に存在する六方晶フェライト粒子粉末の超微細粒子成分を溶解させた後、残存する六方晶フェライト粒子粉末を水洗・乾燥することを特徴とする本発明1の磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の製造法である(本発明2)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmの微粒子でありながら、板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合を低減することにより、磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響を小さくすることができるため、高密度磁気記録媒体の磁性粒子粉末として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の構成をより詳しく説明すれば、次の通りである。
【0020】
先ず、本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末について述べる。
【0021】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmであって、全粒子に対して板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合が15%以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、Ba、Sr又はBa及びSrを含有するマグネトプランバイト型(M型)フェライト微粒子粉末又はW型フェライト微粒子粉末、あるいはそれらの原子の一部が他の元素で置換された六方晶フェライト粒子粉末である。置換元素としては、具体的にはCo、Ni、Zn、Mn、Mg、Ti、Sn、Zr、Cu、Mo、La、Ce、V、Si、S、Sc、Sb、Y、Rh、Pd、Nd、Nb、B、P、Ge、Al、Ag、Au、Ru、Pr、Bi、W、Re、Te等の元素を1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の平均板面径は10〜50nmであり、好ましくは10〜40nm、より好ましくは10〜30nmである。磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の平均板面径が50nmを超える場合には、磁性粒子粉末の粒子サイズが大きいため、粒子性ノイズを低減することが難しく、高いC/N比を有する磁気記録媒体を得ることが困難となる。また、平均板面径が10nm未満の場合には、粒子の微粒子化による分子間力の増大により凝集を起こしやすく、その結果、粗大粒子が生成し磁性塗料の製造時におけるビヒクル中への均一な分散が困難となると共に、平均板面径が10nm未満であるということは、板面径が10nm未満の超微細な粒子が多数存在することを意味しており、飽和磁化値σsが小さくなり、磁気異方性定数Kuを大きくすることが難しいため、熱揺らぎの影響が大きくなる。
【0024】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の平均厚みは1.00〜20nmが好ましく、より好ましくは1.25〜18nm、更により好ましくは1.67〜16nmである。
【0025】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の板状比(平均板面径と平均厚みの比)(以下、「板状比」という。)は1.5〜10.0が好ましく、より好ましくは1.75〜8.0、更により好ましくは2.0〜6.0である。板状比が10を超える場合には、粒子間のスタッキングが多くなり、磁性塗料の製造時におけるビヒクル中への分散性が低下すると共に、粘度が増加する場合があるため好ましくない。
【0026】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末のBET比表面積値は20〜200m2/gが好ましく、より好ましくは25〜200m2/g、更により好ましくは30〜200m2/gである。BET比表面積値が20m2/g未満の場合には、磁気記録媒体用磁性微粒子粉末が粗大であるため、これを用いて得られた磁気記録媒体の表面平滑性が低下し、それに起因して出力も向上し難くなる。また、短波長領域における飽和磁化値や保磁力値が低下すると共に粒子性ノイズが増大するため好ましくない。BET比表面積値が200m2/gを超える場合には、粒子の微細化による分子間力の増大により凝集を起こしやすいため、磁性塗料の製造時におけるビヒクル中への分散性が低下する。
【0027】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、全粒子に対して板面径が10nm未満の粒子の存在割合が15%以下であり、好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下である。全粒子に対して板面径が10nm未満の粒子の存在割合が15%を超える場合には、超微細な粒子の存在割合が高いため、飽和磁化値σsが小さくなり、磁気異方性定数Kuを大きくすることが難しいため、熱揺らぎの影響が大きくなる。
【0028】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の板面径の幾何標準偏差値は1.8以下が好ましく、より好ましくは1.7以下、更により好ましくは1.6以下である。板面径の幾何標準偏差値が1.8を超える場合には粒度分布が広がっており、保磁力値Hcのばらつきが大きくなるため、これを用いて磁気記録媒体とした場合には、ノイズを低減することが困難となる。
【0029】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の飽和磁化増加率(%)((酸処理後のσs−酸処理前のσs)/酸処理後のσs×100)は3.0%以上が好ましく、より好ましくは4.0%以上である。
【0030】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の磁気特性は、保磁力値Hcが63.7〜397.9kA/mが好ましく、より好ましくは79.6〜318.3kA/mであり、飽和磁化値σsが30Am2/kg以上が好ましく、より好ましくは35Am2/kg以上である。
【0031】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、必要により、六方晶フェライト粒子粉末の粒子表面を、アルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物から選ばれた1種又は2種以上の化合物(以下、「アルミニウムの水酸化物等」という。)で被覆されていてもよい。アルミニウムの水酸化物等で被覆処理を行うことにより、磁性塗料中に分散させた場合に、結合剤樹脂とのなじみがよく、所望の分散度がより得られ易い。
【0032】
被覆処理におけるアルミニウムの水酸化物等の被覆量は、アルミニウムの水酸化物等が被覆された六方晶フェライト粒子粉末に対してAl換算、SiO2換算又はAl換算量とSiO2換算量との総和で0.01〜20重量%が好ましい。
【0033】
アルミニウムの水酸化物等による被覆量が20重量%を超える場合には、六方晶フェライト粒子粉末の磁性塗料の製造時におけるビヒクルへの分散性改良効果が十分に得られるため、必要以上に被覆する意味がない。また、非磁性成分であるアルミニウムの水酸化物等の増加により磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の磁気特性が損なわれるため好ましくない。
【0034】
次に、本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の製造法について述べる。
【0035】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、出発原料となる未処理の六方晶フェライト粒子粉末を、特定の条件において酸による溶解処理を行った後、水洗・乾燥することによって得ることができる。
【0036】
本発明における出発原料となる未処理の六方晶フェライト粒子粉末は、湿式合成法、共沈法、加熱焼成法、ガラス結晶化法等の従来公知の製造方法によって得ることができる。
【0037】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、出発原料となる未処理の六方晶フェライト粒子粉末の水性懸濁液を、pH値3.5以下、温度範囲20〜100℃の条件で処理を行って該水性懸濁液中に存在する六方晶フェライト粒子粉末に含まれる超微細粒子成分を溶解させた後、残存する六方晶フェライト粒子粉末を水洗・乾燥して得ることができる。
【0038】
出発原料となる未処理の六方晶フェライト粒子粉末は、酸による処理を行うにあたって、あらかじめ乾式で粗粉砕をして粗粒をほぐした後、スラリー化し、次いで、湿式粉砕することにより更に粗粒をほぐしておくことが好ましい。湿式粉砕は、少なくとも二次凝集粒子の44μm以上の粗粒が無くなるように各種粉砕機、分散機、混練機等を用いて行えばよい。湿式粉砕の程度は44μm以上の粗粒が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは0%である。44μm以上の粗粒が10%を超えて残存していると、次工程における酸による処理の効果が得られ難い。
【0039】
酸による処理に用いる水性懸濁液中の六方晶フェライト粒子粉末の濃度は、1〜500g/lが好ましく、5〜250g/lがより好ましい。1g/l未満の場合には処理単位当たりの処理量が少なすぎるため工業的に好ましくない。500g/lを超える場合には、均一な処理を行うことが困難となる。
【0040】
酸による処理に用いる酸としては、塩酸、酢酸、硫酸、硝酸、亜硫酸、塩素酸、過塩素酸、シュウ酸のいずれをも用いることができる。酸による六方晶フェライト粒子の超微細粒子成分の除去効率を考慮すれば、塩酸が好ましい。
【0041】
酸による溶解処理における初期pH値は3.5以下であり、溶解時間等を考慮すれば、好ましくはpH値3.0以下、より好ましくはpH値2.5以下である。pH値が3.5を超える場合には、六方晶フェライト粒子の超微細粒子成分を溶解させるのに非常に長時間を要するため、工業的に不利となる。
【0042】
酸による溶解処理における水性懸濁液の温度範囲は20〜100℃、好ましくは25〜100℃、より好ましくは30〜100℃である。20℃未満の場合には六方晶フェライト粒子の超微細粒子成分を溶解させるために非常に長時間を要するため、工業的に不利となる。100℃を超える場合には、粒子の溶解が急速に進行するためその制御が困難となり、またオートクレーブ等の装置を必要とするため工業的に好ましくない。
【0043】
酸による溶解処理を行った後、常法に従って、水洗、乾燥することができる。
【0044】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、六方晶フェライト粒子粉末の表面がアルミニウムの水酸化物等によって被覆されていることが好ましい。アルミニウムの水酸化物等による被覆処理は、酸処理の前でも後でもよいが、表面被覆による処理効果を考慮すれば酸処理の後が好ましい。
【0045】
アルミニウムの水酸化物等により被覆された六方晶フェライト粒子粉末は、六方晶フェライト粒子粉末を分散して得られる水懸濁液に、アルミニウム化合物、ケイ素化合物又は当該両化合物を添加して混合攪拌することにより、又は、必要により、混合攪拌後にpH値を調整することにより、前記六方晶フェライト粒子粉末の粒子表面を、アルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物から選ばれる一種又は二種以上の表面被覆物で被覆し、次いで、濾別、水洗、乾燥、粉砕することにより得ることができる。
【0046】
アルミニウム化合物としては、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩や、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸アルカリ塩等が使用できる。
【0047】
ケイ素化合物としては、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等が使用できる。
【0048】
<作用>
本発明において最も重要な点は、本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmの微粒子でありながら、磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響を小さくすることができるという事実である。
【0049】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末が、平均板面径が10〜50nmの六方晶フェライト微粒子粉末でありながら、磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響が小さい理由について、本発明者は、次のように考えている。
【0050】
即ち、磁性粒子粉末の微細化が進むと結晶粒の体積が減少し、結晶磁化が不安定になり磁性を失うこと(スーパーパラマグネティズム)が知られており、本発明においては、磁性が消失し、飽和磁化値σsが極端に低くなっていると考えられる、板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合を15%以下にすることによって、飽和磁化値σsを大きくすることができ、それに伴って磁気異方性定数Kuも大きくすることができたため、熱揺らぎの影響を小さくできたものと考えている。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明における実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0052】
六方晶フェライト粒子粉末及び磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の平均板面径及び平均厚さは、透過型電子顕微鏡を用いて粒子の写真を撮影し、該写真を用いて粒子360個以上について板面径、厚さをそれぞれ測定し、その平均値で粒子の平均板面径及び平均厚さを示した。なお、粒子の選定基準としては、粒子同士が重なっており、境界がはっきりしていないものは測定を行わないものとした。
【0053】
また、磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の板面径の幾何標準偏差値は、下記の方法により求めた値で示した。即ち、上記拡大写真に示される粒子の板面径を測定した値を、その測定値から計算して求めた粒子の実際の板面径と個数から、統計学的手法に従って、対数正規確率紙上に横軸に粒子の板面径を、縦軸に所定の粒子径区間のそれぞれに属する粒子の累積個数(積算フルイ下)を百分率でプロットする。そして、このグラフから粒子の個数が50%及び84.13%のそれぞれに相当する板面径の値を読みとり、幾何標準偏差値=積算フルイ下84.13%における板面径/積算フルイ下50%における板面径(幾何平均径)に従って算出した値で示した。幾何標準偏差値が1に近いほど、粒子の粒度分布が優れていることを意味する。
【0054】
微細な粒子(10nm未満)の存在割合は、測定した粒子の全体(個数)のうち、板面径10nm未満の粒子の個数を算出し、全測定粒子に対する割合(%)で示した。
【0055】
板状比は、平均板面径と平均厚さとの比で示した。
【0056】
比表面積はBET法により測定した値で示した。
【0057】
六方晶フェライト粒子粉末及び磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の粒子内部や粒子表面に存在するAl量、Si量及び各種置換元素量のそれぞれは「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業株式会社製)を使用し、JIS
K0119の「けい光X線分析通則」に従って測定した。
【0058】
六方晶フェライト粒子粉末及び磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の磁気特性は、「振動試料型磁力計VSM SSM−5−15」(東英工業株式会社製)を用いて外部磁場1193.7kA/mの条件で測定した。
【0059】
磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の飽和磁化増加率(%)は、酸処理後のσsから酸処理前のσsを引いた値を酸処理後のσsで除し、100を掛けた値で示した。
【0060】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の磁気記録媒体における特性を評価・確認するため、以下に示す方法で磁気テープを作製し評価した。
【0061】
磁性粒子粉末9gと結合剤樹脂溶液(1)(スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂30重量%とシクロヘキサノン70重量%)、結合剤樹脂溶液(2)(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂30重量%、溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1)70重量%)、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン及びトルエンを下記配合割合で0.5mmφガラスビーズ95gと共に140mlガラス瓶に入れ、ペイントシェーカーで6時間混合・分散を行った後、3μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過し、磁気テープ用磁性塗料を調整した。
【0062】
得られた磁気テープ用磁性塗料の組成は下記の通りであった。
磁性粒子粉末 100.0重量部、
結合剤樹脂溶液(1)
(スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂)10.9重量部、
結合剤樹脂溶液(2)
(スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂) 10.9重量部、
シクロヘキサノン 62.7重量部、
メチルエチルケトン 156.6重量部、
トルエン 93.9重量部。
【0063】
得られた磁性塗料を厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーターを用いて45μmの厚さに塗布した後、磁場中(1193.7kA/m)において配向・乾燥し、磁気テープを得た。
【0064】
磁気テープの磁気特性のうち保磁力値Hcと角形比Br/Bmは、「振動試料型磁力計VSM SSM−5−15」(東英工業株式会社製)を用いて外部磁場1193.7kA/mの条件で測定した。
【0065】
磁気テープの磁気特性のうち保磁力分布SFDは、「振動試料型磁力計VSM SSM−5−15」(東英工業株式会社製)を用いて、印加磁場が0〜397.9kA/mの範囲ではスイープ速度を79.6(kA/m)/分とし、397.9〜1,193.7kA/mの範囲ではスイープ速度を397.9(kA/m)/分として測定した。
【0066】
熱揺らぎの影響の大きさを示す磁気テープのKuは、東英工業製の磁気トルクメーター(TRT−2−15−AUT)を使用し39.8〜1,592kA/mの範囲を測定してKuを求めた。
【0067】
磁気記録媒体を構成する非磁性支持体及び磁気記録層の各層の厚みは、デジタル電子マイクロメーターK351C(安立電気株式会社製)を用いて、先ず、非磁性支持体の膜厚(A)を測定し、次に、非磁性支持体上に形成された磁性層との厚み(B)(非磁性支持体の厚みと非磁性下地層の厚みとの総和)を同様にして測定した。磁気記録層の厚みは(B)−(A)で示した。
【0068】
磁気テープの塗膜表面の光沢度は、「グロスメーターUGV−5D」(スガ試験機株式会社製)を用いて塗膜の45°光沢度を測定して求めた。
【0069】
表面粗度Raは、「ZYGO NewView600S」(ZYGO株式会社製)を用いて塗膜の中心線平均粗さを測定した。
【0070】
<実施例1:磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の製造>
六方晶フェライト粒子粉末1(種類:マグネトプランバイト型フェライト粒子粉末、Ti/Fe=1.5mol%、Ni/Fe=1.4mol%、平均粒子径:24nm、平均厚さ:7nm、板状比:3.4、BET比表面積値:68.4m2/g、保磁力値Hc:144.4kA/m、飽和磁化値σs:47.2Am2/kg、板面径が10nm未満の粒子の存在割合:17.4%)10kgを、凝集を解きほぐすために、純水100lに攪拌機を用いて邂逅し、更に、ラインミル(製品名:TKパイプラインホモミクサー、特殊機化工業株式会社製)と縦型ビーズミル(製品名:DSP、糸永鉄工株式会社製)を通して六方晶フェライト粒子粉末を含むスラリーを得た。得られた分散スラリーの325mesh(目開き44μm)における篩残分は0%であった。
【0071】
得られた六方晶フェライト粒子粉末を含む分散スラリーに水を添加して該スラリーの濃度を40g/lと調整した後、攪拌しながら、35%の塩酸溶液を加えてスラリーのpH値を2.0とした。次に、このスラリーを攪拌しながら40℃で1時間保持して六方晶フェライト粒子粉末の超微細成分の溶解処理を行った。
【0072】
次に、このスラリーを濾別して濾液を分離した後、デカンテーション法により純水を通水して濾液の電導度が50μs以下になるまで水洗し、その後、常法によって乾燥した後粉砕して、磁気記録媒体用磁性微粒子粉末1を得た。
【0073】
得られた磁気記録媒体用磁性微粒子粉末1の平均板面径は25nm、平均厚さは7nm、板状比は3.6、BET比表面積は66.8m2/g、板面径の幾何標準偏差値は1.54の粒子からなり、微細粒子成分(板面径が10nm未満の粒子)の存在割合は9.4%であり、保磁力値Hcは150.4kA/m、飽和磁化値σsは49.6Am2/kg、飽和磁化増加率は5.1%であった。
【0074】
前記実施例1に従って磁気記録媒体用磁性微粒子粉末を作製した。各製造条件及び得られた磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の諸特性を示す。
【0075】
六方晶フェライト粒子1〜3:
各種の六方晶フェライト粒子粉末を準備し、前記実施例1と同様にして凝集が解きほぐされた六方晶フェライト粒子粉末を得た。
【0076】
これら六方晶フェライト粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例2〜3、比較例1及び2:
六方晶フェライト粒子の種類、酸処理における酸の種類及び処理条件を種々変えた以外は、前記実施例1と同様にして磁気記録媒体用磁性微粒子粉末を得た。
【0079】
このときの処理条件を表2に、得られた磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の諸特性を表3に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
実施例4:
実施例1の酸処理後に水洗したスラリー(10kgの磁気記録媒体用磁性微粒子粉末1と180lの水からなるスラリー)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH値を9.0とした後、該スラリーを加熱して80℃とし、このスラリー中に1.0mol/lのアルミン酸ナトリウム溶液2,722ml(磁気記録媒体用磁性微粒子粉末に対してAl換算で1.2重量%に相当する)を加え、30分間保持した後、酢酸を用いてpH値を7.5に調整した。この状態で30分間保持した後、濾過、水洗、乾燥、粉砕し、粒子表面がアルミニウムの水酸化物等により被覆されている実施例4の表面処理磁気記録媒体用磁性微粒子粉末を得た。
【0083】
このときの製造条件を表4に、得られた粒子表面がアルミニウムの水酸化物等により被覆されている表面処理磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の諸特性を表5に示す。
【0084】
実施例5〜6:
磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の種類、表面処理工程における表面被覆物の種類及び量を種々変えた以外は実施例4と同様にして表面処理磁気記録媒体用磁性微粒子粉末を得た。
【0085】
このときの製造条件を表4に、得られた粒子表面がアルミニウムの水酸化物等により被覆されている表面処理磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の諸特性を表5に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
<磁気テープの製造>
磁気テープ1〜8、比較磁気テープ1及び3:
磁性粒子の種類を種々変化させた以外は、前記磁気テープの作製方法に従って磁気テープを製造した。
【0089】
得られた磁気テープの諸特性を表6に示す。
【0090】
【表6】

【0091】
表6に示すとおり、本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末を用いた磁気テープ(磁気テープ1〜6)は、比較磁気テープ1〜3に対して、高い角形比(Br/Bm)を有するとともに保磁力SFDに優れ、また、表面平滑性に優れ、しかも、磁気異方性定数が高いものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る磁気記録媒体用磁性微粒子粉末は、六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmの微粒子でありながら、板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合を低減することにより、磁性粒子粉末の微細化に伴う熱揺らぎの影響を小さくすることができるため、高密度磁気記録媒体の磁性粒子粉末として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶フェライト粒子粉末の平均板面径が10〜50nmであって、全粒子に対して板面径が10nm未満の超微細な粒子の存在割合が15%以下であることを特徴とする磁気記録媒体用磁性微粒子粉末。
【請求項2】
六方晶フェライト粒子粉末を水に分散させて水性懸濁液とし、該水性懸濁液中に酸を添加してpH値3.5以下、温度範囲20〜100℃の条件で処理を行って該水性懸濁液中に存在する六方晶フェライト粒子粉末の超微細粒子成分を溶解させた後、残存する六方晶フェライト粒子粉末を水洗・乾燥することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体用磁性微粒子粉末の製造法。

【公開番号】特開2010−239067(P2010−239067A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87988(P2009−87988)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】