説明

磁気記録媒体用軟磁性合金およびスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体

【課題】 低い保磁力を有する垂直磁気記録媒体用軟磁性合金およびこの合金の薄膜を作製するためのスパッタリングターゲット並びに磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 at.%で、Zr,Hfの1種または2種を合計で6〜20%、Bを1〜20%含み、残部Coおよび不可避的不純物よりなり、かつ式(1)を満たすことを特徴とする磁気記録媒体用軟磁性合金。また、上記の磁気記録媒体用軟磁性合金を用いたスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体。
6≦2×(Zr%+Hf%)−B%≦16 … (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体における軟磁性層膜として用いるCo−(Zr,Hf)−B系合金およびスパッタリングターゲット材並びに磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録技術の進歩は著しく、ドライブの大容量化のために、磁気記録媒体の高記録密度化が進められており、従来普及していた面内磁気記録媒体より更に高記録密度が実現できる、垂直磁気記録方式が実用化されている。ここで垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜中の媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する2層記録媒体が開発されている。この磁気記録膜層には一般的にCoCrPt−SiO2 系合金が用いられている。
【0003】
一方、従来の軟磁性膜層には、強磁性と非晶質性が必要であり、さらに垂直磁気記録媒体の用途や使用環境によっては、高飽和磁束密度、高耐食性、高硬度など様々な特性が付加的に要求される。例えば特開2008−260970号公報(特許文献1)に開示されているように、耐食性の高い強磁性元素であるCoをベースとし、非晶質性を高めるためにZrをはじめとした非晶質化促進元素が添加されたものが用いられている。
【0004】
また、特開2008−299905号公報(特許文献2)に開示されているように、Feを添加することにより高い飽和磁束密度を得ており、Bを添加することにより高い硬度を得ている。更に近年では、従来から要求されてきた上記特性のほか、低い保磁力を有する軟磁性膜用合金が要求されるようになってきた。
【特許文献1】特開2008−260970号公報
【特許文献2】特開2008−299905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような課題を解決するために、発明者らは垂直磁気記録媒体の軟磁性膜用合金の保磁力に及ぼす合金元素の影響について詳細に検討した結果、Zr,Hf,B量を適正な範囲とすることで、垂直磁気記録媒体用の低保磁力軟磁性合金が得られることを見出した。さらに、現在、垂直磁気記録媒体用軟磁性合金は、高い飽和磁束密度を得るための元素として、Feを25%から60%近くまで含むものが主流として用いられていることから、必須元素としてFeが多用されてきたが、このFe添加が保磁力を大幅に増大させてしまうことを見出した。これらを考慮し発明した低い保磁力を有する垂直磁気記録媒体用軟磁性合金およびこの合金の薄膜を作製するためのスパッタリングターゲットを提供するものである。
【0006】
その発明の要旨とするところは、
(1)at.%で、Zr,Hfの1種または2種を合計で6〜20%、Bを1〜20%含み、残部Coおよび不可避的不純物よりなり、かつ式(1)を満たすことを特徴とする磁気記録媒体用軟磁性合金。
6≦2×(Zr%+Hf%)−B%≦16 … (1)
(2)請求項1に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金において、Fe添加され、その添加量が式(2)を満たすことを特徴とする磁気記録媒体用軟磁性合金。
Fe%/(Fe%+Co%)<0.20 … (2)
(3)Ti,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Ni,Al,Si,Pの1種または2種以上を合計7%以下添加したことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金を用いたスパッタリングターゲット材。
(5)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金を用いた磁気記録媒体にある。
【発明の効果】
【0007】
以上述べたように、本発明により低い保磁力、高非晶質性、高耐食性および高硬度を有する垂直磁気記録媒体用軟磁性合金およびこの合金の薄膜を作製するためのスパッタリングターゲットを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に限定した理由を述べる。
Zr,Hfの1種または2種を合計で6〜20%
本合金においてZrおよびHfは非晶質性を改善する効果があるとともに、B添加量との相関を最適化することにより、低い保磁力を得るための必須元素であり、6%未満では十分な非晶質性、低保磁力が得られず、また、20%を超えると十分な飽和磁束密度が得られないことから、その範囲を6〜20%とした。好ましくは10〜15%とする。
【0009】
Bを1〜20%
本合金においてBは非晶質性を改善する効果があるとともに、ZrやHfの添加量との相関を最適化することにより、低い保磁力を得るための必須元素である。B添加量が1%未満では十分な非晶質性、低保磁力が得られず、20%を超えると十分な飽和磁束密度が得られない。また、Bは硬度を増大させる効果も有することから、その範囲を1〜20%とした。好ましくは5〜15%とする。
【0010】
6≦2×(Zr%+Hf%)−B%≦16 … (1)
Zr,Hf,B添加量を式(1)の範囲とすることにより、低い保磁力が得られる。この範囲外では保磁力が増大してしまう。好ましくは、8≦2×(Zr%+Hf%)−B%≦14、より好ましくは9≦2×(Zr%+Hf%)−B%≦12である。これらは保磁力に及ぼす添加元素の影響を詳細に検討し、Zr%+Hf%の添加量の2倍にしたがってBの添加量を増加させていくことにより、低い保磁力を示す領域があることを明らかにした結果、得られた式である。
【0011】
Fe%/(Fe%+Co%)<0.20 … (2)
本合金においてFeは飽和磁束密度を増加させる効果があるが、式(2)の割合を超えて添加すると保磁力を増大させてしまう。好ましくはFe%/(Fe%+Co%)<0.10、より好ましくはFe%/(Fe%+Co%)<0.05、更に好ましくはFe無添加である。
【0012】
Ti,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Ni,Al,Si,Pの1種または2種以上を合計7%以下添加
本合金において、Ti,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Ni,Al,Si,Pはいずれも僅かではあるが保磁力を下げる効果がある。しかしながら、7%を超えて添加すると飽和磁束密度が低下することから、その上限を7%とした。
【実施例】
【0013】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
通常、垂直磁気記録媒体における軟磁性膜層は、その成分と同じ成分のスパッタリングターゲット材をスパッタし、ガラス基板などの上に成膜し得られる。ここでスパッタにより成膜された薄膜は急冷されている。これに対し、本発明では実施例、比較例の供試材として、単ロール式の液体急冷装置にて作製した急冷薄帯を用いている。これは実際にスパッタにより急冷され成膜された薄膜の、成分による諸特性への影響を、簡易的に液体急冷薄帯により評価したものである。
【0014】
急冷薄帯の作業条件としては、表1の成分に秤量した原料30gを径10mm、高さ40mm程度の水冷銅鋳型にて減圧Ar中でアーク溶解し、急冷薄帯の溶解母材とした。急冷薄帯の作製条件は、単ロール方式で、径15mmの石英管中にこの溶解母材にセットし、出湯ノズル径を1mmとし、雰囲気圧61kPa、噴霧差圧69kPa、銅ロール(径300mm)の回転数3000rpm、銅ロールと出湯ノズルのギャップ0.3mmにて出湯した。また、溶解母材の溶け落ち直後に出湯した。このようにして作製した急冷薄帯を供試材とし、以下の項目を評価した。
【0015】
急冷薄帯の保磁力の評価としては、振動試料型の保磁力メータにて、試料台に両面テープで急冷リボンを貼り付け、初期印加磁場144kA/mにて測定した。保磁力が50A/m以下を○、50A/mを超え100A/m以下を△、100A/mを超えるものを×とした。
【0016】
急冷薄帯の飽和磁束密度の評価としては、VSM装置(振動試料型磁力計)にて、印加磁場1200kA/mで測定した。供試材の重量は15mg程度。0.5T以上を○、0.5T未満を×として評価した。
【0017】
急冷薄帯の非晶質性の評価としては、通常、非晶質材料のX線回折パターンを測定すると、回折ピークが見られず、非晶質特有のハローパターンとなる。また、完全な非晶質でない場合は、回折ピークは見られるものの、結晶材料と比較しピーク高さが低くなり、かつ、ハローパターンも見られる。そこで、下記の方法にて非晶質性を評価した。
【0018】
ガラス板に両面テープで供試材を貼り付け、X線回折装置にて回折パターンを得た。このとき、測定面は急冷薄帯の銅ロール接触面となるように供試材をガラス板に貼り付けた。X線源はCu−Kα線で、スキャンスピード4°/minで測定した。この回折パターンにハローパターンが確認できるものを○、全くハローパターンが見られないものを×として非晶質性の評価とした。
【0019】
急冷薄帯の耐食性の評価としては、ガラス板に両面テープで供試材を貼り付け、5%NaClの食塩水で、温度が35℃、噴霧時間16時間の条件の下で塩水噴霧試験を行い、全面発銹したものは×、一部発銹したものは○として評価した。また、急冷薄帯のビッカース硬度の評価としては、急冷リボンを縦に樹脂埋め研磨し、ビッカース硬度計にて測定した。測定荷重は50gで10点測定しその平均で評価した。800HV以上を○、800HV未満を×とした。圧痕のサイズは10μm程度であった。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

表1および表2に示す、No.1〜11は本発明例であり、No.12〜19は比較例である。
【0022】
表1および表2に示すように、比較例No.12は、成分組成であるHf含有量が低いために、保磁力の値が高く、かつ十分な非晶質性が得られない。比較例No.13は、成分組成であるZrとHfの合計含有量が高く、かつ成分組成に係る式(1)の2×(Zr%+Hf%)−Bの値が高いために、保磁力の値が高く、かつ飽和磁束密度が劣る。比較例No.14は、成分組成に係る式(1)の2×(Zr%+Hf%)−Bの値が高いために、保磁力が劣る。
【0023】
比較例No.15は、成分組成に係る式(1)の2×(Zr%+Hf%)−Bの値が低いために、保磁力が劣る。比較例No.16は、成分組成であるBが含有量しないために、保磁力の悪く、かつ十分な非晶質性が得られないし、硬度が低い。比較例No.17は、成分組成であるBの含有量が高いために、飽和磁束密度が悪い。比較例No.18は、成分組成に係る式(2)のFe%(Fe%+Co%)の値が高いために、保磁力が悪い。比較例No.19は、成分組成であるNbとPの合計量が高いために、飽和磁束密度が悪い。
【0024】
これに対し、本発明例であるNo.1〜11は、いずれも本発明の条件を満足していることから、飽和磁束密度、非晶質性、耐食性、硬度なる各性能について優れていることが分かる。ただ、本発明例No.1、2、5、6、8〜12は、保磁力がやや劣るが、しかし全体的には優れた性能を有する。
【0025】
次に、スパッタリングターゲット材の製造方法の例を示す。No.5の組成に秤量した溶解原料を、減圧Arガス雰囲気の耐火物坩堝内で誘導加熱溶解した後、坩堝下部の直径8mmのノズルより出湯し、Arガスによりアトマイズした。このガスアトマイス粉末を原料粉末として、炭素鋼製の直径250mm、長さ100mmのカプセル内に充填、真空脱気封入した。この粉末充填ビレットを、成形温度1000℃、成形圧力147MPa、成形時間5時間の条件でHIP成形した。このHIP体から、機械加工により直径180mm、厚さ7mmのスパッタリングターゲット材を作製した。このスパッタリングターゲット材は割れや欠けもなく製造可能であった。
【0026】
以上のように、本発明により低い保磁力、高非晶質性、高耐食性および高硬度を有する垂直磁気記録媒体用軟磁性合金およびこの合金の薄膜を作製するためのスパッタリングターゲットを提供することが出来る極めて優れた効果を奏するものである。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
at.%で、Zr,Hfの1種または2種を合計で6〜20%、Bを1〜20%含み、残部Coおよび不可避的不純物よりなり、かつ式(1)を満たすことを特徴とする磁気記録媒体用軟磁性合金。
6≦2×(Zr%+Hf%)−B%≦16 … (1)
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金において、Fe添加され、その添加量が式(2)を満たすことを特徴とする磁気記録媒体用軟磁性合金。
Fe%/(Fe%+Co%)<0.20 … (2)
【請求項3】
Ti,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Ni,Al,Si,Pの1種または2種以上を合計7%以下添加したことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金を用いたスパッタリングターゲット材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用軟磁性合金を用いた磁気記録媒体。

【公開番号】特開2012−48767(P2012−48767A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186876(P2010−186876)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】