説明

磁気軸受及びそれを用いた圧縮機

【課題】磁気軸受において、制御電流と合成電磁力の線形性を保ちつつ、電磁石のコイルで消費する電力を低減できるようにする。
【解決手段】複数の電磁石(24)を有し、負荷(Ld)が変動する駆動軸(13)に、該複数の電磁石(24)の合成電磁力(F)を付与するステータ(21)を設ける。負荷(Ld)とは逆方向の電磁力を発生する電磁石(24)のコイル(23)に流す第1コイル電流(IU)(上側コイル電流)と、負荷(Ld)と同方向の電磁力を発生する電磁石(24)のコイル(23)に流す第2コイル電流(IL)(下側コイル電流)との電流差を制御して駆動軸(13)の位置制御を行う制御部(30)を設ける。制御部(30)では、第2コイル電流(IL)の平均値が低下するように、第2コイル電流(IL)を逐次調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を電磁力によって非接触支持する磁気軸受及びそれを用いた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆるターボ圧縮機のように高速回転する駆動軸を有する装置には、磁気軸受が用いられることが多い。磁気軸受では、位置制御系の設計しやすさの観点からは、電磁石に電磁力を発生させる制御電流と、電磁石の合成電磁力とが線形関係にあるのが望ましい。線形化を行うための一般的な手法としては、電磁石の各コイルにあらかじめバイアス電流(固定値)を流しておき、これに制御電流(駆動軸の位置に応じて変動する)を重合した電流を流す方法がある(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−141373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の線形化手法を採用すると、各電磁石のコイルに電流が流れて各電磁石が引っ張り合うことになり、無駄な電力を消費する。
【0005】
本発明は上記の問題に着目してなされたものであり、磁気軸受において、制御電流と合成電磁力の線形性を保ちつつ、電磁石のコイルで消費する電力を低減できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、
複数の電磁石(24)を有し、負荷(Ld)が変動する駆動軸(13)に、該複数の電磁石(24)の合成電磁力(F)を付与するステータ(21)と、
前記負荷(Ld)とは逆方向の電磁力を発生する電磁石(24)のコイル(23)に流す第1コイル電流(IU)と、前記負荷(Ld)と同方向の電磁力を発生する電磁石(24)のコイル(23)に流す第2コイル電流(IL)との電流差を制御して前記駆動軸(13)の位置制御を行うとともに、前記第2コイル電流(IL)の平均値が低下するように、前記第2コイル電流(IL)を調整する制御部(30)と
を備えたことを特徴とする磁気軸受である。
【0007】
この構成では、ステータ(21)に設けられた電磁石(24)の電流が制御されて駆動軸(13)の位置制御が行われる。また、負荷(Ld)と同方向の電磁力を発生する電磁石(24)のコイル(23)に流す第2コイル電流(後述の下側コイル電流(IL))の平均値が低下するように該第2コイル電流(IL)が調整される。このとき、本発明では位置制御も行っているので、第1コイル電流(IU)と第2コイル電流(IL)との差が位置制御を行う上で必要な値となるように、第2コイル電流(IL)の調整にあわせて第1コイル電流(IU)も調整されることになる。このように、第2コイル電流(IL)が調整されることで、第2コイル電流(IL)は低下する(例えばゼロに近づく)とともに、第1コイル電流(IU)の平均値も低下する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷(Ld)の方向と同じ方向に電磁力を発生するコイル(23)の電流を低減できるので、磁気軸受(20)における消費電力を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施形態1に係るターボ圧縮機の構造を示す概略図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る磁気軸受の横断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る磁気軸受の縦断面図である。
【図4】図4は、制御部の構成を説明するブロック図である。
【図5】図5は、実施形態1に係るバイアス電流の調整を説明するフローチャートである。
【図6】図6は、上側及び下側コイル電流の変化を例示するタイミングチャートである。
【図7】図7は、フィードバックゲインが調整された場合の上側及び下側コイル電流の変化を例示するタイミングチャートである。
【図8】図8は、実施形態1の変形例に係るバイアス電流の調整を説明するフローチャートである。
【図9】図9は、実施形態2に係る磁気軸受の横断面図である。
【図10】図10は、実施形態2に係る磁気軸受の縦断面図である。
【図11】図11は、実施形態3に係る磁気軸受の横断面図である。
【図12】図12は、実施形態3に係る磁気軸受の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0011】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1では、本発明に係る磁気軸受を用いる例としてターボ圧縮機(1)を説明する。本実施形態のターボ圧縮機(1)は、冷媒が循環して冷凍サイクル運転動作を行う冷媒回路(図示省略)に接続され、冷媒を圧縮する。
【0012】
〈全体構成〉
図1は、実施形態1に係るターボ圧縮機(1)の構造を示す概略図である。ターボ圧縮機(1)は、図1に示すように、ケーシング(2)、羽根車(9)、及び電動機(10)を備えている。
【0013】
ケーシング(2)は、両端が閉塞された円筒状に形成され、円筒軸線が水平向きとなるように配置されている。ケーシング(2)内の空間は、図1におけるケーシング(2)の右側端部から所定の距離を置いて配置された壁部(3)によって区画されている。該壁部(3)よりも右側の空間が、羽根車(9)を収容するインペラ室(4)を形成し、該壁部(3)よりも左側の空間が、電動機(10)を収容する電動機空間(5)を形成している。また、インペラ室(4)の外周側には、該インペラ室(4)と連通する圧縮空間(4a)が形成されている。
【0014】
ケーシング(2)には、冷媒回路からの冷媒をインペラ室(4)内へ導くための吸入管(6)と、インペラ室(4)内で圧縮された高圧の冷媒を冷媒回路へ戻すための吐出管(7)とが接続されている。
【0015】
羽根車(9)は、複数の羽根によって外形が略円錐形状となるように形成されている。羽根車(9)は、電動機(10)の駆動軸(13)(回転軸)の一端に固定された状態で、インペラ室(4)内に収容されている。
【0016】
電動機(10)は、ケーシング(2)内に収容され、羽根車(9)を駆動する。この電動機(10)は、ステータ(11)、ロータ(12)、駆動軸(13)を備えている。ステータ(11)は、筒状の形態を有し、ケーシング(2)の内周壁に固定されている。ロータ(12)は、円筒状の形態を有し、ステータ(11)の内側に所定の隙間(エアギャップ)を介して挿通されている。また、駆動軸(13)は、軸心が該ロータ(12)の軸心と同軸となるようにロータ(12)に挿通固定されている。ロータ(12)には、複数の永久磁石(12a)が埋設されている。ロータ(12)は、永久磁石(12a)がステータ(11)内で発生する回転磁界に引きつけられるように回転することにより、ステータ(11)内で回転する。駆動軸(13)は、水平方向に延びるように配置されている。
【0017】
電動機(10)は、軸受機構(8)を備えている。軸受機構(8)は、略筒状に形成された、2つのタッチダウン軸受(14,14)と2つの磁気軸受(20,20)とを備えている。なお、電動機(10)は、駆動軸(13)をスラスト方向に支持するタッチダウン軸受を備える場合もある。
【0018】
タッチダウン軸受(14)及び磁気軸受(20)は、駆動軸(13)をラジアル方向に支持するためのものである。タッチダウン軸受(14)及び磁気軸受(20)は、共にケーシング(2)内に固定されている。これらの磁気軸受(20,20)は、駆動軸(13)の両端側を支持するように、それぞれ、駆動軸(13)の一端側と他端側とに配置されている。また、タッチダウン軸受(14,14)は、駆動軸(13)の両端部を支持するように、それぞれ、磁気軸受(20,20)よりも外側に配置されている。
【0019】
磁気軸受(20,20)には、後に詳述するように、複数の電磁石(24)が設けられ、各電磁石(24)の合成電磁力(F)を駆動軸(13)に付与し、駆動軸(13)を非接触状態で支持するように構成されている。
【0020】
磁気軸受(20,20)が駆動軸(13)を非接触状態で支持しているときは、タッチダウン軸受(14,14)も駆動軸(13)と非接触状態となるように内径が設定されている。また、タッチダウン軸受(14)は、磁気軸受(20)の非通電時に駆動軸(13)を支持するように構成されている。磁気軸受(20)が非通電となるのは、例えば、電動機(10)の停止時や、何らかの理由により磁気軸受(20)が制御不能となって非通電となっている場合等である。
【0021】
〈タッチダウン軸受(14)の構成〉
タッチダウン軸受(14)は、玉軸受で構成されている。タッチダウン軸受(14)と駆動軸(13)のギャップは、磁気軸受(20)と駆動軸(13)のギャップよりも小さく形成されている。これにより、磁気軸受(20,20)が作動していない時に、タッチダウン軸受(14)によって、駆動軸(13)が磁気軸受(20)に接触しないように、該駆動軸(13)を支持することができる。つまり、電動機(10)の停止時や、何らかの理由により磁気軸受(20)が制御不能となって非通電となっている場合等に、タッチダウン軸受(14)によって、磁気軸受(20)の破損を防止できる。なお、タッチダウン軸受(14)は、玉軸受には限定されず、例えば単なる円筒状の部材で構成してもよい。
【0022】
〈磁気軸受(20)の構成〉
図2は、実施形態1に係る磁気軸受(20)の横断面図(駆動軸に垂直な方向の断面図)である。また、図3は、実施形態1に係る磁気軸受(20)の縦断面図(駆動軸方向の断面図)である。磁気軸受(20)は、図2に示すように、いわゆるヘテロポーラ型のラジアル軸受である。この例では、磁気軸受(20)は、ステータ(21)、ギャップセンサ(26)、制御部(30)、及び電源装置(40)を備えている。
【0023】
ギャップセンサ(26)は、ケーシング(2)に取り付けられ、磁気軸受(20)に対する駆動軸(13)のラジアル方向位置を検出するようになっている。
【0024】
ステータ(21)は、コア部(22)とコイル(23)とを備えている。このコア部(22)は、電磁鋼板を積層して構成され、バックヨーク部(22a)と複数のティース部(22b)とを備えている。バックヨーク部(22a)は、略筒状に形成されている。それぞれのティース部(22b)は、バックヨーク部(22a)と一体形成され、バックヨーク部(22a)の内周面から径方向内方へ向かって突出している。本実施形態のコア部(22)は、8個のティース部(22b)を有し、これらのティース部(22b)はバックヨーク部(22a)の内周に沿って等ピッチ(45度ピッチ)で配置されている。各ティース部(22b)の内周側の面は、駆動軸(13)と所定のギャップを持って対向している。
【0025】
ステータ(21)では、1つのティース部(22b)ごとにコイル(23)が巻回され、ティース部(22b)及びコイル(23)の両者で電磁石(24)を形成している。すなわち、本実施形態のステータ(21)では、8つの電磁石(24)が形成されている。図2では、各コイル(23)を識別するため、符号の後に枝番1〜8を付してある(例えば23-1,23-2…)。このステータ(21)では、2つのコイル(23)が対となって互いに繋がっている。具体的には、コイル(23-1)とコイル(23-2)、コイル(23-3)とコイル(23-4)、コイル(23-5)とコイル(23-6)、コイル(23-7)とコイル(23-8)の各コイル対において、コイル(23)同士が繋がっている。それぞれのコイル対には、電源装置(40)が接続され、電力が供給されている。
【0026】
〈電源装置(40)〉
電源装置(40)は、各コイル対に供給する電圧の大きさを別個に制御できるようになっている。本実施形態では、4つのコイル対があるので、電源装置(40)の出力は4つある。電源装置(40)が各コイル対に供給する電圧の大きさは、制御部(30)が制御する。この例では、電源装置(40)は、制御部(30)が出力した電圧指令値に応じて出力電圧を変化させる。これにより各コイル(23)に流れる電流が変化する。電源装置(40)には、一例として、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)アンプを採用することができる。
【0027】
なお、電源装置(40)は、順逆両方に電流を流せるように構成してある。
【0028】
〈制御部(30)の構成〉
次に制御部(30)の構成を説明する。なお、以下の説明において、「上側コイル」とは、駆動軸(13)に加わっているラジアル方向の負荷(Ld)の方向とは反対方向の吸引力(電磁力(FU))を発生させる電磁石(24)のコイル(23)のことを意味し、「下側コイル」とは負荷(Ld)の方向と同じ方向の吸引力(電磁力(FL))を発生させる電磁石(24)のコイル(23)を意味している。つまり、ここで言うコイルの上下の呼び名は、電磁力の方向と負荷(Ld)の方向との関係から定めたものであり、磁気軸受(20,20)の設置状態における上下と一致する場合もあれば、一致しない場合もある。図2では、上側及び下側コイルを太線で囲んで例示してある。図2に示した負荷(Ld)に対しては、コイル(23-1,23-2)の2つが下側コイルであり、コイル(23-5,23-6)の2つが上側コイルである。
【0029】
制御部(30)は、マイクロコンピュータ(図示は省略)とそれを作動させるプログラムとを備え、上側コイルに流す電流(上側コイル電流(IU))と、下側コイルに流す電流(下側コイル電流(IL))との電流差を制御して駆動軸(13)の位置制御を行う。具体的に、制御部(30)は、上側及び下側コイルに対し、制御電流(Id)とバイアス電流(Ib)の加算電流を流す。ここで、制御電流(Id)とは、各電磁石(24)のコイル(23)に電磁力を発生させるための電流であり、上側コイルの制御電流は+Id、下側コイルの制御電流は−Idである。バイアス電流(Ib)は、制御電流(Id)の値と合成電磁力(F)との関係を線形にするための電流である。
【0030】
したがって、上側コイル電流(IU)は、Ib+Idの大きさの電流である。また、下側コイル電流(IL)は、Ib−Idの大きさの電流である。上側コイル電流(IU)は、本発明の第1コイル電流に対応し、下側コイル電流(IL)は本発明の第2コイル電流に対応する。上側コイル電流(IU)と下側コイル電流(IL)の電流差を制御すれば、駆動軸(13)に加わる合成電磁力(F)を制御でき、駆動軸(13)の位置制御が可能になる。なお、上側及び下側コイル電流(IU,IL)の大きさの制御は、電源装置(40)を介して行う。
【0031】
本線形化則をまとめると以下のようになる。
【0032】
(関係式C)
IU=Ib+Id
IL=Ib−Id
制御部(30)は、下側コイル電流(IL)の平均値(例えば積分平均)が低減するように、下側コイル電流(IL)を逐次調整する。具体的には、本実施形態の制御部(30)では、電源装置(40)の制御において、バイアス電流(Ib)の値が制御電流(Id)の値に近づくように、所定の周期で、バイアス電流(Ib)の値を増加又は減少させて該バイアス電流(Ib)の値を更新する。図4は、制御部(30)の構成を説明するブロック図である。同図に示すように、制御部(30)は、位置制御器(31)、電流制御器(32)、ゲイン制御部(33)、及びバイアス電流調整部(34)を備えている。また、制御部(30)は、バイアス電流(Ib)の値を周期的に更新するためにタイマー(図示は省略)も備え、このタイマーは前記更新の周期で、割り込み信号を電流制御器(32)に出力する。
【0033】
−位置制御器(31)−
位置制御器(31)は、駆動軸(13)のラジアル方向における位置を指示する位置指令と、ギャップセンサ(26)が検出した駆動軸(13)のラジアル方向の位置との偏差に応じ、制御電流(Id)の大きさを指示する電流指令値を出力する。より具体的には、位置制御器(31)は、駆動軸(13)が所望の位置となるように、上側コイル電流(IU)と下側コイル電流(IL)との電流差を所定の幅で変動させ、制御電流(Id)を決定する。磁気軸受(20)では、8つの電磁石(24)で4組の電磁石対を構成しているので、位置制御器(31)は、各電磁石対用に4つの電流指令値を生成する。
【0034】
また、位置制御器(31)は、負荷(Ld)に応じて上側コイル電流(IU)が減少したときは前記電流差の変動幅を増大させ、上側コイル電流(IU)が増大したときは前記電流差の変動幅を減少させる。具体的には、位置制御器(31)は、所定の周期(後述)で、フィードバック制御のフィードバックゲイン(Kc)を調整することで前記変動幅の制御を実現している。
【0035】
−電流制御器(32)−
電流制御器(32)は、電源装置(40)が出力すべき電圧を求め、その電圧を指示する電圧指令値を電源装置(40)に出力する。磁気軸受(20)には上側コイル電流(IU)の検出値と下側コイル電流(IL)を検出する電流検出器(25)が設けられている。電流制御器(32)は、バイアス電流(Ib)と、電流指令値から定まる制御電流(Id)との加算電流が上側及び下側のコイルにそれぞれ流れるように、電流検出器(25)の検出値をフィードバックして前記電圧指令値を定める。
【0036】
−バイアス電流調整部(34)−
バイアス電流調整部(34)は、バイアス電流(Ib)の値を周期的に更新するようになっている。具体的には、バイアス電流調整部(34)は、ある初期状態における上側及び下側コイル電流(IU0,IL0)の値(検出値)から、次の関係式(A1)に基づいて初期状態の制御電流(Id0)、及び初期状態のバイアス電流(Ib0)を算出し、これらの相乗平均値(関係式(A2)参照)によって新たなバイアス電流(Ib)を導出する。
【0037】
関係式(A1)
Ib0=(IU0+IL0)/2
Id0=(IU0-IL0)/2
関係式(A2)
Ib=(√(Ib0×Id0)
このような相乗平均値を採用するのは、以下の考えに基づくものである。
【0038】
上側コイル電流(IU)と下側コイル電流(IL)を関係式(C)の線形化則のようにすると、制御電流(Id)と合成電磁力(F)は線形化されて、
F=k×Ib×Id ・・・(1)
となる。ここでkは比例定数である。例えば、初期状態において合成電磁力がF0で、バイアス電流がIb0、制御電流がId0であったとすると、
F0=k×Ib0×Id0 ・・・(2)
となる。合成電磁力はF0のまま制御電流をバイアス電流に一致させるとき、式(1)は、
F0=k×Ib×Id=k×Ib^2 ・・・(3)
となる。
【0039】
式(2)と式(3)から新しいバイアス電流(Ib)を導出すると、
Ib=√(Ib0×Id0)
となる。このとき、関係式(C)より、上側コイル電流(IU)は、初期状態でIU0=Ib0+Id0であったのが調整後にIU=2√(Ib0×Id0)となり、下側コイル電流(IL)は、初期状態でIL0=Ib0−Id0であったのが調整後にIL=0となる。すなわち上側コイル電流(IU)も下側コイル電流(IL)もその絶対値が低減する。すなわち、事前のバイアス電流値と制御電流値の相乗平均値が新しいバイアス電流(Ib)となるように調整すれば、電磁石(24)のコイル(23)で消費する電力を低減できるのである。
【0040】
前記のようにして新たなバイアス電流(Ib)が求まると、バイアス電流調整部(34)はバイアス電流(Ib)の値を更新する。そして、電流制御器(32)は、関係式(C)で求まる上側及び下側コイル電流(IU,IL)が流れるように、上下の各コイル用の電圧指令値を電源装置(40)に出力する。この電圧指令値を求める際に用いる制御電流(Id)の値は、電流指令値に対応して定まる電流値である。
【0041】
なお、関係式(A)の演算を行うために、バイアス電流調整部(34)には、電流検出器(25)の検出値が入力されている(図4を参照)。上側コイル電流(IU)及び下側コイル電流(IL)は変動成分を有しているが、電流制御器(32)は、これらの電流の直流成分をそれぞれ算出し、関係式(A)の演算に使用する。
【0042】
また、この例では、電流制御器(32)は、前記タイマーの割り込み信号に同期して、上側及び下側コイル電流(IU,IL)の算出に用いるバイアス電流(Ib)の値を、バイアス電流調整部(34)が導出した値に更新するようになっている。この更新の周期(タイマーの周期)は、位置制御器(31)における位置制御の周期よりも十分長い周期に設定するのがよい。本実施形態では、バイアス電流(Ib)更新の周期を、位置制御の周期の100倍〜1000倍の周期に設定してある。
【0043】
−ゲイン制御部(33)−
ゲイン制御部(33)は、バイアス電流(Ib)の更新に同期して、フィードバックゲイン(Kc)の調整を行うための指令値を位置制御器(31)に出力するようになっている。この例では、ゲイン制御部(33)は、次の関係式(B)に基づいてフィードバックゲイン(Kc)調整用の指令値を位置制御器(31)に出力する。
【0044】
関係式(B)
Kc=Kc0×Ib0/Ib
ただし、関係式(B)において、Ib0は、ある初期状態でのバイアス電流値である。また、Kc0は、バイアス電流値がIb0のもとで調整された位置制御のフィードバックゲイン(Kc)である。
【0045】
〈制御部(30)の動作〉
図5は、実施形態1に係るバイアス電流調整を説明するフローチャートである。制御部(30)は、図5に示したステップ(S01)〜ステップ(S05)の処理を行う。
【0046】
ステップ(S01)では、バイアス電流調整部(34)は、バイアス電流(Ib)の更新周期が来るまで、すなわちタイマーの割り込み信号を受信するまでは、更新の作業については待ち状態となる。電流制御器(32)は、この待ち状態の場合には、現在のバイアス電流(Ib)の値を用いて上側及び下側コイル電流(IU,IL)を決定し、その上側及び下側コイル電流(IU,IL)に対応した電圧指令値を電源装置(40)に出力する。待ち状態が前記タイマーの割り込みにより解除されると、バイアス電流調整部(34)の動作は次のステップ(S02)に進む。
【0047】
ステップ(S02)では、バイアス電流調整部(34)は、電流検出器(25)が検出した上側コイル電流(IU)及び下側コイル電流(IL)の検出値から、上側コイル電流(IU)及び下側コイル電流(IL)の直流成分をそれぞれ求める。上側コイル電流(IU)、下側コイル電流(IL)の直流成分は、例えばローパスフィルタを用いることで求めることが可能である。
【0048】
ステップ(S03)では、バイアス電流調整部(34)は、ステップ(S02)で求めた上側及び下側コイル電流(IU,IL)の直流成分を用い、関係式(A1)からバイアス電流(Ib)及び制御電流(Id)を算出する。すなわち、ステップ(S03)では、バイアス電流調整部(34)は、バイアス電流(Ib)と制御電流(Id)の直流成分を求めているのである。
【0049】
ステップ(S04)では、バイアス電流調整部(34)は、ステップ(S03)で求めたバイアス電流(Ib)の値と制御電流(Id)の値を用い、関係式(A2)から新たなバイアス電流(Ib)を算出する。そして、電流制御器(32)は、関係式(C)で求まる上側及び下側コイル電流(IU,IL)が流れるように、上下の各コイル用の電圧指令値を電源装置(40)に出力する。ここでの上側及び下側コイル電流(IU,IL)の算出に使用するIdは、位置制御器(31)が出力した電流指令値に応じて定まる制御電流(Id)値である。
【0050】
ステップ(S05)では、関係式(B)に基づいてゲイン制御部(33)が生成した指令値に応じ、位置制御器(31)は位置制御におけるフィードバックゲイン(Kc)を更新する。
【0051】
図6は、上側及び下側コイル電流(IU,IL)の変化を例示するタイミングチャートである。図6のタイミングチャートの縦軸は電流値である。図6の例では、時刻t1,t2,t3のそれぞれのタイミングで、バイアス電流(Ib)が更新されている。例えば、時刻(t1)において、バイアス電流(Ib)はIb(t1)に更新され、時刻(t1)から時刻(t2)までの期間はバイアス電流(Ib)は、一定値のIb(t1)である。
【0052】
時刻(t2)では、ステップ(S04)の処理が行われてバイアス電流(Ib)がIb(t2)に更新されている。つまり、この磁気軸受(20)では、バイアス電流(Ib)は半固定である。このIb(t2)は、時刻(t2)よりも前のバイアス電流(Ib)の直流成分(=Ib(t1))と制御電流(Id)の直流成分との相乗平均である。このようにバイアス電流(Ib)を算出することで、該バイアス電流(Ib)の値は、制御電流(Id)の値に近づくように更新されることになる。
【0053】
時刻(t2)から時刻(t3)の期間は、電流制御器(32)は上側及び下側コイル電流(IU,IL)の算出にIb(t2)を使用する。すなわち、電流制御器(32)は、上側コイルには、上側コイル電流(IU)=Ib(t2)+Idが流れ、下側コイルには、下側コイル電流(IL)=Ib(t2)−Idが流れるように、上下の各コイル用の電圧指令値を電源装置(40)に出力する。関係式(C)から分かるように、IbをIdに近づける(Ib→Id)と、ILの値が0に近づく。すなわち、バイアス電流(Ib)の値が制御電流(Id)の値に近づくように該バイアス電流(Ib)の値を更新すると、下側コイル電流(IL)の平均値が低減して0に近づく(理想的には0になる)。
【0054】
図6の例でも、時刻(t2)において、及び下側コイル電流(IL)の平均値が減少している。また、上側コイル電流(IU)も、電流制御器(32)によって、上側コイル電流(IU)と下側コイル電流(IL)との差が位置制御を行う上で必要な値となるように制御される。その結果、上側コイル電流(IU)の平均値(例えば積分平均)も減少する。なお、下側コイル電流(IL)の平均値がゼロに近づくと、下側コイル電流(IL)は負の値に制御される場合もある。そのため、既述の通り、電源装置(40)は、順逆両方に下側コイル電流(IL)を流せるように構成してある。
【0055】
また、図6の例では、時刻(t2+α)において、負荷(Ld)が変動している。負荷(Ld)が変動すれば、電流指令値なども変動する。この例では、上側コイル電流(IU)が低下するとともに下側コイル電流(IL)が増加し、その結果、上側コイル電流(IU)と下側コイル電流(IL)の差が小さくなっている。このときの上側及び下側コイル電流(IU,IL)の算出に使用するバイアス電流(Ib)の値は、Ib(t2)である。
【0056】
しかしながら、時刻(t3)になると、ステップ(S04)の処理が行われてバイアス電流(Ib)がIb(t3)に更新されている。ここでもIb(t3)が低下して、下側コイル電流(IL)の平均値が減少している。また、上側コイル電流(IU)の平均値も減少している。すなわち、本実施形態では、所定の周期でバイアス電流(Ib)を更新しているので、負荷(Ld)の変動にも追従して、下側コイル電流(IL)を低減できるのである。
【0057】
また、図7は、フィードバックゲイン(Kc)が調整された場合の上側及び下側コイル電流(IU,IL)の変化を例示するタイミングチャートである。図7は、負荷(Ld)が減少し、且つ負荷(Ld)減少の前後で駆動軸(13)の振幅の大きさに変化がない場合の状態を例示してある。この場合は、図7に示すように、上側コイル電流(IU)と下側コイル電流(IL)の電流差の変動幅が大きくなっている。
【0058】
〈本実施形態の効果〉
以上のように本実施形態では、バイアス電流(Ib)の値が制御電流(Id)の値に近づくようにバイアス電流(Ib)の値を逐次更新することで、上側及び下側コイル電流(IU,IL)を低減できる。そのため、本実施形態では、磁気軸受(20,20)における消費電力を低減することが可能になる。
【0059】
また、バイアス電流(Ib)の更新に同期して、関係式(B)に基づくフィードバックゲイン(Kc)の調整を行うことで、バイアス電流(Ib)の変更による、位置制御ループ周波数特性の変化をキャンセルすることが可能になる。
【0060】
なお、前記の例では「平均値が低下する」とは平均値がゼロに近づくことであったが、例えば、下側コイル電流(IL)がゼロ以外の値に漸近するように制御部(30)を構成してもよい。
【0061】
《実施形態1の変形例》
バイアス電流(Ib)の値の更新は、実施形態1の方法には限定されない。図8は、実施形態1の変形例に係るバイアス電流の調整を説明するフローチャートである。この例では、バイアス電流調整部(34)は、所定のステップ幅(Istep)でバイアス電流(Ib)の値を更新するようになっている。具体的には、バイアス電流調整部(34)は、図8に示したステップ(S11)〜ステップ(S18)の動作を行う。ステップ(S11)からステップ(S13)までの処理は、実施形態1で説明したステップ(S01)からステップ(S03)までの処理と同じである。
【0062】
ステップ(S14)では、バイアス電流調整部(34)は、バイアス電流(Ib)の値と制御電流(Id)の値とを比較する。比較の結果、バイアス電流(Ib)の値の方が制御電流(Id)の値よりも大きい場合には、ステップ(S15)の処理に進み、そうでない場合にはステップ(S16)の処理に進む。
【0063】
ステップ(S15)に進んだ場合には、バイアス電流調整部(34)は、バイアス電流(Ib)を所定のステップ幅(Istep)だけ減らす。すなわち、バイアス電流調整部(34)は、Ib−Istepを新たなバイアス電流(Ib)として算出する。
【0064】
ステップ(S16)では、バイアス電流調整部(34)は、バイアス電流(Ib)の値と制御電流(Id)の値とを比較する。比較の結果、バイアス電流(Ib)の値の方が制御電流(Id)の値よりも小さい場合には、ステップ(S17)の処理に進み、そうでない場合にはステップ(S18)の処理に進む。
【0065】
ステップ(S17)では、バイアス電流調整部(34)は、バイアス電流(Ib)を所定のステップ幅(Istep)だけ増やす。すなわち、バイアス電流調整部(34)は、Ib+Istepを新たなバイアス電流(Ib)として算出する。
【0066】
そして、電流制御器(32)は、実施形態1と同様に、関係式(C)で求まる上側及び下側コイル電流(IU,IL)が流れるように、上下の各コイル用の電圧指令値を電源装置(40)に出力する。このように本変形例では、バイアス電流(Ib)の値が制御電流(Id)の値に近づくように、バイアス電流調整部(34)がバイアス電流(Ib)の値を所定のステップ幅(Istep)で増加又は減少させているのである。
【0067】
なお、ステップ(S18)では、実施形態1のステップ(S05)と同様にして、関係式(B)に基づいてゲイン制御部(33)が生成した指令値に応じ、位置制御器(31)は位置制御におけるフィードバックゲイン(Kc)を更新する。
【0068】
〈本変形例の効果〉
本実施形態でもバイアス電流調整部(34)の前記動作により、バイアス電流(Ib)の値が制御電流(Id)の値に近づくことになる。したがって、本実施形態においてもやはり、上側及び下側コイル電流(IU,IL)を低減でき、磁気軸受(20,20)における消費電力を低減することが可能になる。
【0069】
また、本変形例でも、バイアス電流(Ib)の更新に同期して、関係式(B)に基づくフィードバックゲイン(Kc)の調整を行うので、バイアス電流(Ib)の変更による、位置制御ループ周波数特性の変化をキャンセルすることが可能になる。
【0070】
《発明の実施形態2》
図9は、実施形態2に係る磁気軸受(20)の横断面図である。また、図10は、実施形態2に係る磁気軸受(20)の縦断面図である。本実施形態の磁気軸受(20)は、図9に示すように、いわゆるホモポーラ型のラジアル軸受である。
【0071】
本実施形態の磁気軸受(20)も実施形態1と同様に、ステータ(21)は、コア部(22)とコイル(23)とを備えている。コア部(22)は、バックヨーク部(22a)と複数のティース部(22b)とを備えている。バックヨーク部(22a)は、略筒状に形成されている。それぞれのティース部(22b)は、バックヨーク部(22a)と一体形成され、該バックヨーク部(22a)の内周面から径方向内方へ向かって突出している。
【0072】
本実施形態では、ティース部(22b)は、8つ設けられている。詳しくは、図10に示すように、ティース部(22b)は、駆動軸(13)の軸心方向に2段に並んで配置され、図9に示すように、それぞれの段の4つのティース部(22b)は、バックヨーク部(22a)の内周に沿って等ピッチ(90度ピッチ)で配置されている。各ティース部(22b)にはコイル(23)が巻回され、ステータ(21)には8つの電磁石(24)が構成されている。この例では、2段に並んだコイル(23)同士は対をなしている。すなわち、この例では4つのコイル対がある。この例でも対をなすコイル(23)同士は互いに繋がっている。各電磁石(24)のコイル(23)の巻回方向や電流の向きは、図10に矢印で示した方向の磁束が発生するように設定されている。本実施形態でも、各電磁石(24)の合成電磁力(F)を駆動軸(13)に付与し、駆動軸(13)を非接触状態で支持する。図9でも、上側及び下側コイルを太線で囲んで例示してある。図9に示した負荷(Ld)に対しては、コイル(23-1)が下側コイルであり、コイル(23-3)が上側コイルである。
【0073】
このような構成の磁気軸受(20)においても、実施形態1やその変形例で示したように、バイアス電流(Ib)の値が制御電流(Id)の値に近づくように制御することで、上側及び下側コイル電流(IU,IL)を低減でき、磁気軸受(20,20)における消費電力を低減することが可能になる。
【0074】
《発明の実施形態3》
図11は、実施形態3に係る磁気軸受(20)の横断面図である。また、図12は、実施形態3に係る磁気軸受(20)の縦断面図である。本実施形態の磁気軸受(20)は、いわゆるスラスト軸受である。図12に示すように、電動機(10)の駆動軸(13)には、円盤状のスラストディスク(13a)が固定され、磁気軸受(20)は、スラストディスク(13a)の軸方向の位置、すなわち駆動軸(13)の軸方向位置を制御する。
【0075】
〈磁気軸受(20)の構成〉
磁気軸受(20)は、ステータ(21)、電源装置(40)、ギャップセンサ(26)、及び制御部(30)を備えている。ギャップセンサ(26)は、スラストディスク(13a)の近傍に取り付けられ、スラストディスク(13a)の軸方向の位置を検出するようになっている。
【0076】
ステータ(21)は、コア部(22)とコイル(23)を備えている。本実施形態では、ステータ(21)にはコア部(22)が2つ設けられている。それぞれのコア部(22)はリング状の形態を有し、スラストディスク(13a)の軸方向両側に、所定のエアギャップをもって配置されている。
【0077】
各コア部(22)は、図12に示すように、スラストディスク(13a)と対向する側に円周溝(22c)が形成され、円周溝(22c)内にはコイル(23)が収容されている。すなわち、本実施形態では、ひとつのコア部(22)において、ひとつの電磁石(24)が形成される。各コイル(23)の電流の向きは、図12に矢印で示した方向の磁束が発生するように設定されている。
【0078】
なお、この実施形態においては、「上側コイル」は、駆動軸(13)に加えられるスラスト方向(軸方向)の負荷(Ld)の方向とは反対方向の吸引力(電磁力(FU))を発生させる電磁石(24)のコイル(23)が相当し、「下側コイル」は、負荷(Ld)の方向と同じ方向の吸引力(電磁力(FL))を発生させる電磁石(24)のコイル(23)が相当する。つまり、この例でも、コイルの上下の呼び名は、電磁力の方向と負荷(Ld)の方向との関係から定めたものであり、磁気軸受(20)の設置状態における上下と一致する場合もあれば、一致しない場合もある。
【0079】
本実施形態では、スラストディスク(13a)がステータ(21)と非接触状態で所定の位置に維持されるように各電磁石(24)の合成電磁力(F)をスラストディスク(13a)に付与し、駆動軸(13)を軸方向に支持する。このとき、実施形態1やその変形例で示したように、バイアス電流(Ib)の値が制御電流(Id)の値に近づくように制御することで、上側及び下側コイル電流(IU,IL)を低減でき、磁気軸受(20)における消費電力を低減することが可能になる。
【0080】
《その他の実施形態》
〈1〉磁気軸受(20)では、何らの原因で実際の負荷(Ld)の方向が、想定した方向を向かない可能性がある。例えば想定した負荷(Ld)の方向と直交する方向へ実際の負荷(Ld)が掛かる可能性がある。その場合、上側コイル(第1コイル)と想定していたコイル(23)に係る電磁石(24)と、下側コイル(第2コイル)と想定していたコイル(23)に係る電磁石(24)のそれぞれにおける平均的な負荷はゼロとなる。そうすると、上側及び下側コイルと想定していた両コイルに流れる電流(IU,IL)は、正負が逆で大きさが同じ電流となる。その結果、上側及び下側コイルと想定していたコイルに係る電磁石(24)同士は同じ力で引っ張りあい、位置制御が不安定となる可能性がある。さらに、制御ゲイン(Kc)の調整も同時に行う場合は、上側コイル電流(IU)が小さくなりすぎると、制御ゲイン(Kc)が大きくなりすぎて、制御器の内部変数や指令電圧が飽和して位置制御が不安定になる可能性がある。
【0081】
そこで、安定的な位置制御を維持するためには、制御部(30)では、上側コイル電流(IU)の平均値と、下側コイル電流(IL)の平均値の和の大きさがある制限値以下とならないように下側コイル電流(IL)を調整するのが好ましい。
【0082】
〈2〉また、バイアス電流調整部(34)において、バイアス電流(Ib)の絶対値の大きさが、磁気軸受(20)の運転条件に応じて定めた閾値以下とならないように、バイアス電流(Ib)を調整するようにしても同様に、安定的な位置制御の維持が可能になる。
【0083】
〈3〉また、下側コイル電流(IL)は、負荷(Ld)が安定してから調整するのが好ましい。例えば、大幅な下側コイル電流(IL)調整が頻繁に行われると、異音等の原因となる懸念がある。負荷(Ld)が安定しているか否かの判断は種々の方法で行うことができる。例えば、制御部(30)において前記更新のタイミングで、上側コイル電流(IU)の平均値、及び下側コイル電流(IL)平均値の少なくとも一方を複数回検知し、その変動幅が所定の閾値以下なら「負荷が安定した」と判断することが考えられる。そして、制御部(30)では、「負荷が安定した」場合にバイアス電流(Ib)(すなわち下側コイル電流(IL))を調整すればよい。ここで「所定の閾値」には、予め定めた固定値でもよいし、例えば該磁気軸受で支持する機器の運転条件に応じて変更するようにしてもよい。
【0084】
〈4〉また、バイアス電流調整部(34)において、制御電流(Id)の平均値をもとめ、その平均値の変動幅が所定の閾値以下となった場合に「負荷が安定した」と判断し、バイアス電流(Ib)を調整するようにしてもよい。ここで、「所定の閾値」は、予め定めた固定値でもよいし、例えば該磁気軸受(20)で支持する機器(この例では電動機(10))の運転条件に応じて変更するようにしてもよい。
【0085】
〈5〉また、「負荷が安定した」か否かは、上側コイル電流(IU)の平均値・下側コイル電流(IL)の平均値の少なくとも一方を検知し、検知した平均値の、ある周波数以上の変動幅が、所定の閾値以下なら「負荷が安定した」と判断することも考えられる。この判断は、例えば制御部(30)で行えばよい。ここでも「所定の閾値」は、予め定めた固定値でもよいし、例えば該磁気軸受(20)で支持する機器(この例では電動機(10))の運転条件に応じて変更するようにしてもよい。
【0086】
〈6〉また、制御電流(Id)の平均値の所定周波数以上の変動幅が、所定の閾値よりも小さくなった場合に、「負荷が安定した」と判断することも考えられる。この判断は、例えばバイアス電流調整部(34)で行えばよい。ここでも「所定の閾値」は、予め定めた固定値でもよいし、例えば該磁気軸受(20)で支持する機器(この例では電動機(10))の運転条件に応じて変更するようにしてもよい。
【0087】
〈7〉また、磁気軸受(20)の用途はターボ圧縮機(1)には限定されない。例えば、ターボ分子ポンプ等、回転軸を有する種々の機器に応用できる。
【0088】
〈8〉また、バイアス電流(Ib)の調整は周期的である必要はなく、調整のタイミングは任意である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、回転軸を電磁力によって非接触支持する磁気軸受及びそれを用いた圧縮機として有用である。
【符号の説明】
【0090】
10 電動機
13 駆動軸
20 磁気軸受
21 ステータ
24 電磁石
30 制御部
31 位置制御器(制御器)
32 電流制御器(制御器)
34 バイアス電流調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁石(24)を有し、負荷(Ld)が変動する駆動軸(13)に、該複数の電磁石(24)の合成電磁力(F)を付与するステータ(21)と、
前記負荷(Ld)とは逆方向の電磁力を発生する電磁石(24)のコイル(23)に流す第1コイル電流(IU)と、前記負荷(Ld)と同方向の電磁力を発生する電磁石(24)のコイル(23)に流す第2コイル電流(IL)との電流差を制御して前記駆動軸(13)の位置制御を行うとともに、前記第2コイル電流(IL)の平均値が低下するように、前記第2コイル電流(IL)を調整する制御部(30)と
を備えたことを特徴とする磁気軸受。
【請求項2】
請求項1の磁気軸受において、
前記制御部(30)は、前記負荷(Ld)に応じて前記第1コイル電流(IU)が減少したときは前記電流差の変動幅を増大させ、前記第1コイル電流(IU)が増大したときは前記電流差の変動幅を減少させることを特徴とする磁気軸受。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の磁気軸受において、
前記制御部(30)は、
各電磁石(24)に電磁力を発生させる制御電流(Id)と、前記制御電流(Id)の値及び前記合成電磁力(F)の関係を線形にするために前記制御電流(Id)に加算するバイアス電流(Ib)とを制御する制御器(31,32)と、
前記バイアス電流(Ib)の値が前記制御電流(Id)の値に近づくように、前記バイアス電流(Ib)の値を調整するバイアス電流調整部(34)とを備えたことを特徴とする磁気軸受。
【請求項4】
請求項3の磁気軸受において、
前記バイアス電流調整部(34)は、前記バイアス電流(Ib)の値と前記制御電流(Id)の値との相乗平均値に、前記バイアス電流(Ib)の値を調整することを特徴とする磁気軸受。
【請求項5】
請求項3の磁気軸受において、
前記バイアス電流調整部(34)は、所定のステップ幅(Istep)で前記バイアス電流(Ib)の値を調整することを特徴とする磁気軸受。
【請求項6】
請求項1又は請求項2の磁気軸受において、
前記制御部(30)は、前記第1コイル電流(IU)の平均値と前記第2コイル電流(IL)の平均値の和の絶対値の大きさが、所定の制限値以下とならないように、前記第2コイル電流(IL)を調整することを特徴とする磁気軸受。
【請求項7】
請求項3から請求項5の何れかの磁気軸受において、
前記バイアス電流調整部(34)は、前記バイアス電流(Ib)の絶対値の大きさが、該磁気軸受で支持する機器の運転条件に応じて定めた閾値以下とならないように、前記バイアス電流(Ib)を調整することを特徴とする磁気軸受。
【請求項8】
請求項1又は請求項2の磁気軸受において、
前記制御部(30)は、前記第1コイル電流(IU)の平均値、及び前記第2コイル電流(IL)の平均値の少なくとも一方を求めるとともに、求めた平均値の変動幅が該磁気軸受で支持する機器の運転条件に応じて定めた閾値以下となった場合に、前記第2コイル電流(IL)の調整を行うことを特徴とする磁気軸受。
【請求項9】
請求項3から請求項5の何れかの磁気軸受において、
前記バイアス電流調整部(34)は、前記制御電流(Id)の平均値の変動幅が、該磁気軸受で支持する機器の運転条件に応じて定めた閾値以下となった場合に、前記バイアス電流(Ib)を調整することを特徴とする磁気軸受。
【請求項10】
請求項1又は請求項2の磁気軸受において、
前記制御部(30)は、前記第1コイル電流(IU)の平均値、及び前記第2コイル電流(IL)の平均値の少なくとも一方を求めるとともに、求めた平均値の所定周波数以上の変動幅が、該磁気軸受で支持する機器の運転条件に応じて定めた閾値よりも小さくなった場合に前記第2コイル電流(IL)を調整することを特徴とする磁気軸受。
【請求項11】
請求項3から請求項5の何れかの磁気軸受において、
前記バイアス電流調整部(34)は、前記制御電流(Id)の平均値の所定周波数以上の変動幅が、該磁気軸受で支持する機器の運転条件に応じて定めた閾値よりも小さくなった場合に前記バイアス電流(Ib)の調整を行うことを特徴とする磁気軸受。
【請求項12】
請求項1から請求項11の何れかの磁気軸受(20)と、
前記磁気軸受(20)に駆動軸(13)が非接触支持される電動機(10)と、
前記電動機(10)で駆動される圧縮機構とを備えたことを特徴とする圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−68309(P2013−68309A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209153(P2011−209153)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】