説明

磁気軸受装置、およびそれを備える真空ポンプ

【課題】従来よりもコストを抑えながら回転体の接触面の摩耗の増大を抑えるとともに、保護軸受の寿命を延ばすことが可能な磁気軸受装置、およびそれを備える真空ポンプを提供する。
【解決手段】本発明の磁気軸受装置は、回転体10と、回転体10の周囲に設けられ、回転体10を回転自在に非接触で支持する磁気軸受(30、40、50)と、回転体10の周囲に設けられ、磁気軸受(30、40、50)が回転体10を支持しないときに回転体10を支持する保護軸受(21、22)と、回転体10と対向する保護軸受(21、22)の内輪側に設けられ、回転体10の軸方向に伸びる溝が回転体10との対向面に形成された保護部材(71、72)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気力で回転体を非接触状態で支持する磁気軸受を備える磁気軸受装置、およびそれを備えるターボ分子ポンプ等の真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の磁気軸受装置の断面図である。回転体10は、ラジアル磁気軸受30とラジアル磁気軸受40とにより、径方向に非接触浮上するよう制御される。ラジアル磁気軸受30は、ラジアル電磁石31と、ラジアル電磁石ターゲット32と、ラジアルセンサ33と、ラジアルセンサターゲット34とからなる。ラジアル磁気軸受40は、ラジアル電磁石41と、ラジアル電磁石ターゲット42と、ラジアルセンサ43と、ラジアルセンサターゲット44とからなる。
回転体10は、スラスト磁気軸受50により、軸方向に非接触浮上するよう制御される。スラスト磁気軸受50は、回転体10の径方向に平行に取り付けられたスラストディスク51と、スラスト電磁石52および53と、スラストセンサ54とからなる。
このように径方向および軸方向に非接触浮上した回転体10は、モータ60によって回転する。
【0003】
保護軸受21および22は、回転体10の両端に配置される。保護軸受21および22と回転体10の隙間は、ラジアル磁気軸受30および40に形成される隙間や、スラスト磁気軸受50に形成される隙間よりも狭い。このため、ラジアル磁気軸受30および40、スラスト軸受50が機能していない際に、回転体10は、保護軸受21および22により、径方向および軸方向にて接触支持される。通常は、回転体10の回転が停止した後、もしくは回転体10の回転数が十分に低速になった後に、回転体10は、保護軸受21および22に接触支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−339970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁気軸受30および40が停電もしくは何らかの故障により機能しなくなった場合、回転体10の回転数が高い状態であっても、回転体10は、保護軸受21および22により接触支持されることになる。この場合、回転体10、保護軸受21および22に大きな負荷がかかる。特に保護軸受21および22の硬度が高いため、保護軸受21および22と接触する回転体10の接触面に磨耗が生じることになる。そして従来においては、この摩耗により発生した摩耗粉が、回転体10と保護軸受21および22との接触部に存在していたので、回転体10の接触面の磨耗が増大するという問題があった。
なお、回転体10の接触面の磨耗防止のために、回転体10の接触面に焼入れを施し表面硬度を上げるか、固体潤滑等の処置を施し摩擦を減じるか、あるいは回転体10の接触部をロータ軸とは異なる硬度が高い材料の別部品で構成するかといった処置をすることも考えられる。しかし、これらのいずれにおいても、製作費用が高くなるとともに、部品の交換費用も高くなるという問題があった。
また、磨耗粉が、保護軸受21および22内に混入し、保護軸受21および22の損傷が増大し、保護軸受21および22の寿命が短くなるという問題もあった。特に保護軸受21および22は、コストが高いので、この問題はコスト面で大きな問題であった。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、従来よりもコストを抑えながら回転体の接触面の磨耗の増大を抑えるとともに、保護軸受の寿命を延ばすことが可能な磁気軸受装置、およびそれを備える真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、磁気軸受装置に関するものであって、磁気軸受装置は、回転体と、回転体の周囲に設けられ、回転体を回転自在に非接触で支持する磁気軸受と、回転体の周囲に設けられ、磁気軸受が回転体を支持しないときに回転体を支持する保護軸受と、回転体と対向する保護軸受の内輪側に設けられ、回転体の軸方向に伸びる溝が回転体との対向面に形成された保護部材と、を備える。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の磁気軸受装置において、軸方向における保護部材の端部は、軸方向における保護軸受の内輪の端部を少なくとも覆うことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の磁気軸受装置において、軸方向における保護部材の端部は、軸方向に沿って形成された、保護軸受の内外輪の隙間をさらに覆うことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、保護部材には、回転体の周方向に伸びる溝がさらに形成されることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、回転体と接触する保護部材の接触面のうち、軸方向における端部の形状をテーパー形状としたことを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、回転体と接触する保護部材の接触面の硬度を、保護部材と接触する回転体の接触面の硬度より低くしたことを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、回転体を駆動するモータをさらに備えたことを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気軸受装置を備えた真空ポンプである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、保護部材に形成された溝により、回転体と保護部材とが相対速度差をもって接触した際に生じる磨耗粉が当該溝に入ることになり、保護部材と回転体の接触部に入る磨耗粉が減じられる。そのため、保護部材と接触する回転体の接触面の磨耗の増大を抑えることが可能となる。また、磨耗粉が溝に入ることにより、磨耗粉の飛散が防止され、保護軸受内への磨耗粉の混入が減じられ、保護軸受の寿命を延ばすことも可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、保護部材により、回転体を軸方向にも支持することができる。
請求項3に記載の発明によれば、回転体と保護部材が接触することにより生じた磨耗粉が保護軸受内に混入することを防ぐことができ、保護軸受の寿命をさらに延ばすことが可能となる。
請求項4に記載の発明によれば、回転体の接触面の磨耗の増大をさらに抑えることができるとともに、保護軸受の寿命をさらに伸ばすことが可能となる。
請求項5に記載の発明によれば、回転体と保護部材の接触面積を増やすことができ、回転体の接触面の磨耗の増大をさらに抑えることが可能となる。
請求項6に記載の発明によれば、回転体の接触面の磨耗の増大をさらに抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1に係る磁気軸受装置の側断面図
【図2】図1に示した保護部材72を示す図
【図3】本発明の実施例2に係る保護部材72を示す図
【図4】本発明の実施例3に係る保護部材72を示す図
【図5】従来の磁気軸受装置の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1に係る磁気軸受装置の側断面図である。図1において、磁気軸受装置は、回転体10、保護軸受21および22、ラジアル磁気軸受30および40、スラスト磁気軸受50、モータ60、保護部材71および72を備える。なお、図1において、図5に示した構成と同一の構成については同一の符号を付している。また、図1に示した磁気軸受装置は、真空ポンプ等に搭載される。
【0012】
回転体10は、周囲に設けられたラジアル磁気軸受30とラジアル磁気軸受40とにより、径方向に非接触浮上するよう制御される。ラジアル磁気軸受30は、ラジアル電磁石31と、ラジアル電磁石ターゲット32と、ラジアルセンサ33と、ラジアルセンサターゲット34とからなる。ラジアル磁気軸受40は、ラジアル電磁石41と、ラジアル電磁石ターゲット42と、ラジアルセンサ43と、ラジアルセンサターゲット44とからなる。
回転体10は、周囲に設けられたスラスト磁気軸受50により、軸方向に非接触浮上するよう制御される。スラスト磁気軸受50は、回転体10に垂直に取り付けられたスラストディスク51と、スラスト電磁石52および53と、スラストセンサ54とからなる。
このように径方向および軸方向に非接触浮上し回転自在に支持された回転体10は、モータ60によって回転する。
【0013】
保護軸受21および22は、回転体10の両端近くに配置され、ラジアル磁気軸受30および40、スラスト軸受50が機能していない際に、回転体10を支持する。ここで、本実施形態では、保護軸受21および22の内輪(回転体10側)に保護部材71および72が嵌合されている。保護部材71および72と回転体10の隙間は、ラジアル磁気軸受30および40に形成される隙間や、スラスト磁気軸受50に形成される隙間よりも狭い。このため、ラジアル磁気軸受30および40、スラスト軸受50が機能していない際に、回転体10は、保護部材71および72により、径方向および軸方向にて接触支持される。
【0014】
保護部材71の形状は、円筒形状となっており、保護部材72の形状は、図2に示すように、外周面に段差が設けられた円筒形状となっている。図2は、図1に示した保護部材72を示す図であり、図2(a)は、保護部材72の上面図であり、図2(b)は、保護部材72の側断面図である。保護部材71および72の材料は、保護部材71および72と接触する回転体10の接触面よりも表面硬度が低くなる材料に選定されている。なお、保護部材71および72の材料を、回転体10の接触面よりも表面硬度が低くなる材料に選定する代わりに、保護部材71および72に表面処理を施してもよい。
ここで、保護部材71および72の内周面には、軸方向に伸びる溝が設けられている。図2(a)に示すように、保護部材72には溝72aが設けられ、保護部材71も溝72aと同じ溝が設けられている。
これにより、回転体10と保護部材71および72とが相対速度差をもって接触した際に生じる磨耗粉が溝に入ることになり、保護部材71および72と回転体10との接触部に入る磨耗粉が減じられる。そのため、保護部材71および72と接触する回転体10の接触面の磨耗の増大を抑えることが可能となる。
また、接触した際に生じる磨耗粉が溝に入ることにより、磨耗粉の飛散が防止され、保護軸受21および22内への磨耗粉の混入が減じられ、保護軸受21および22の寿命を延ばすことも可能となる。
【0015】
以上のように、本実施例によれば、軸方向に延びる溝が設けられた保護部材により、従来よりもコストを抑えながら回転体の接触面の磨耗の増大を抑えるとともに、保護軸受の寿命を延ばすことが可能になる。
【0016】
なお、上述した保護部材72には、溝72a以外に、図2(b)に示すように、周方向に伸びた溝72bも設けられている。この溝72bにより、回転体10の接触面の磨耗の増大をさらに抑えることができ、保護軸受22の寿命をさらに延ばすことが可能となる。なお、この溝72bと同様の溝を、保護部材71にも設けてよい。この溝により、回転体10の接触面の磨耗の増大をさらに抑えることができ、保護軸受21の寿命をさらに延ばすことが可能となる。
【0017】
図3は、本発明の実施例2に係る保護部材72を示す図であり、図3(a)は、保護部材72の上面図であり、図3(b)は、保護部材72の側断面図である。保護部材72の形状は、外周面に段差が設けられた円筒形状となっている。保護軸受22と嵌合しない保護部材72の外周面の外径D2は、保護軸受22の内輪外径D1より大きくなっている。つまり、保護軸受22の内外輪の隙間が、保護部材72の軸方向端部で覆われている。これにより、保護軸受22内への磨耗粉の混入をさらに防ぐことができ、保護軸受22の寿命をさらに延ばすことが可能となる。
なお、保護部材72の軸方向端部が、保護軸受22の内輪の端部を少なくとも覆うことによって、回転体10を軸方向に支持することができる。
また、保護部材71の外周面に、保護軸受21を嵌合する凹部を設け、この凹部における軸方向の両端部により、保護軸受21の内外輪の隙間を覆うようにしてもよい。この場合、軸方向の両端部それぞれの先端の外径が、保護軸受21の内輪外径より大きくなっていればよい。
【0018】
図4は、本発明の実施例3に係る保護部材72を示す図であり、図4(a)は、保護部材72の上面図であり、図4(b)は、保護部材72の側断面図である。回転体10と接触する保護部材72の接触面の軸方向端部をテーパー形状としている。これにより、回転体10と保護部材72の接触面積を増やすことができ、回転体10の接触面の磨耗の増大をさらに抑えることができる。
なお、回転体10と接触する保護部材71の接触面の軸方向端部をテーパー形状としてもよい。
【符号の説明】
【0019】
10 回転体
21、22 保護軸受
30、40 ラジアル磁気軸受
31、41 ラジアル電磁石
32、42 ラジアル電磁石ターゲット
33、43 ラジアルセンサ
34、44 ラジアルセンサターゲット
50 スラスト磁気軸受
51 スラストディスク
52、53 スラスト電磁石
54 スラストセンサ
60 モータ
71、72 保護部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、
前記回転体の周囲に設けられ、前記回転体を回転自在に非接触で支持する磁気軸受と、
前記回転体の周囲に設けられ、前記磁気軸受が前記回転体を支持しないときに前記回転体を支持する保護軸受と、
前記回転体と対向する前記保護軸受の内輪側に設けられ、前記回転体の軸方向に伸びる溝が前記回転体との対向面に形成された保護部材と、を備える磁気軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気軸受装置において、
前記軸方向における前記保護部材の端部は、前記軸方向における前記保護軸受の内輪の端部を少なくとも覆うことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気軸受装置において、
前記軸方向における前記保護部材の端部は、前記軸方向に沿って形成された、前記保護軸受の内外輪の隙間をさらに覆うことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、
前記保護部材には、前記回転体の周方向に伸びる溝がさらに形成されることを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、
前記回転体と接触する前記保護部材の接触面のうち、前記軸方向における端部の形状をテーパー形状としたことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、
前記回転体と接触する前記保護部材の接触面の硬度を、前記保護部材と接触する前記回転体の接触面の硬度より低くしたことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気軸受装置において、
前記回転体を駆動するモータをさらに備えたことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気軸受装置を備えた真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−12690(P2011−12690A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154690(P2009−154690)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】