説明

磁石の製造方法および磁石

【課題】表面に防錆用のコーティング層が形成された磁石を製造する際の工程数を少なくして、製造コストを削減することが可能な磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】磁石本体Sbの表面上にコーティング層Saを備えた磁石Sの製造方法において、金型20の可動型21及び固定型22を組み合わせて、磁石Sの成形空間C1を形成し、該成形空間C1の内壁面Csにコーティング材を付着させる工程と、成形空間C1の気体を昇温して内壁面Csに付着させたコーティング材を溶融させて内壁面Cs上にコーティング層Saを形成する工程と、成形空間C1のうち、コーティング層Saの内側の領域に磁石材を充填する工程と、磁石材を固化させて磁石本体Sbを形成する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石の製造方法および磁石に係り、特に、表面にコーティング層が形成された磁石を金型成形により製造する方法、および、当該方法により製造される磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
金型成形により製造される磁石は、広く知られており、その一例であるボンド磁石は、磁性粉末に樹脂材料(バインダ)を混合して所定形状に成形し固化することで製造される。特に、Nd−Fe−B系の磁性粉末と、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂やゴムなどのバインダとを混ぜて製造されたボンド磁石については、高い磁気特性を示し、例えばモータの界磁として用いられる。
【0003】
ところで、ボンド磁石の表面に磁性粉末が露出していると、その部分から腐食(酸化)が進行し、最終的には、錆により磁石としての機能が適切に発揮されなくなってしまう。このような事態を防ぐために磁性粉末とバインダとの混合体を所定形状に成形して固化したもの(以下、磁石本体)を得た後に、磁石本体の表面にめっき処理やコーティング材の塗布処理等の防錆処理を施すことが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−284312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁石本体の成形処理後に磁石本体を金型から取り出した上で防錆処理を行う場合には、手間を要し、磁石の製造コストが嵩んでしまうことになる。そこで、本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表面に防錆用のコーティング層が形成された磁石を製造する際の工程数を少なくして、製造コストを削減することが可能な磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明の磁石の製造方法によれば、磁石本体と、該磁石本体の表面上に形成されたコーティング層とを備えた磁石の製造方法であって、金型の可動型及び固定型を組み合わせて形成されるキャビティ内に、前記磁石を成形するための成形空間を設け、該成形空間の内壁面に、前記コーティング層の基材をなすコーティング材を付着させる工程と、前記成形空間の気体を昇温して前記内壁面に付着させた前記コーティング材を溶融させることにより、前記内壁面上に前記コーティング層を形成する工程と、前記成形空間のうち、前記コーティング層が占める領域を除く空き領域に、前記磁石本体の基材をなす磁石材を充填する工程と、前記磁石材を固化させて、前記空き領域に前記磁石本体を形成する工程と、を有することにより解決される。
【0007】
上記の磁石の製造方法によれば、成形空間内で磁石本体を成形固化する際に、コーティング層が併せて形成されるようになる。このため、従来の磁石の製造方法のように、磁石本体の成形固化後にコーティング層を形成する場合と比較して、工程数が少なくなるので、磁石の製造コストを削減することが可能となる。
【0008】
また、上記の磁石の製造方法において、前記キャビティ内に前記成形空間を設ける際には、前記キャビティ内に配置された区画部材によって前記キャビティを2つの空間に区画し、該2つの空間のうち、前記コーティング材及び前記磁石材が通過するランナに連結された空間を前記成形空間とし、前記内壁面に前記コーティング材を付着させる工程では、前記内壁面全体に、負に帯電した前記コーティング材を静電塗着させると好適である。このように静電気力を利用してコーティング材を成形空間の内壁面に塗着させることにより、比較的容易に、内壁面全体にコーティング材を付着させることが可能となる。
【0009】
また、上記の磁石の製造方法において、前記区画部材は、前記キャビティ内を移動可能なピストンであり、前記内壁面全体に前記コーティング材を静電塗着させた状態で、前記キャビティに対して前記成形空間が占める体積割合を増やす向きに前記ピストンを移動させる第1移動操作を実行する工程を有し、前記内壁面上に前記コーティング層を形成する工程は、前記ピストンが前記第1移動操作後の配置位置に位置した状態で、前記ランナを閉塞するために設けられた閉塞部材により前記ランナを閉塞する工程と、前記成形空間内の気体を断熱圧縮するために、前記ランナを閉塞した状態で、前記体積割合を減らす向きに前記ピストンを移動させる第2移動操作を実行する工程と、を有すると、より一層好適である。このようにランナを閉塞した状態でピストンを動かして成形空間内の気体を断熱圧縮することにより、成形空間内の温度が上昇する。これにより、成形空間の内壁面に付着させたコーティング材が溶融してコーティング層を形成するようになる。ゆえに、上記の製造方法によれば、成形空間の内壁面に付着させたコーティング材を溶融させてコーティング層を形成することが、比較的簡易に実行される。
【0010】
また、上記の磁石の製造方法において、前記空き領域に前記磁石材を充填する工程は、前記閉塞部材により閉塞された前記ランナを開放する工程と、前記ランナが開放された状態で、前記成形空間のうち、前記コーティング層の内側に位置する領域に、前記磁石材を充填する工程と、を有すると好適である。このようにコーティング層の内側に位置する領域に磁石材を充填して、その後、磁石材を固化させることにより、コーティング層に含包された状態の磁石本体、すなわち、表面にコーティング層が形成された磁石を得ることができる。
【0011】
また、上記の磁石の製造方法において、前記空き領域に前記磁石材を充填する工程では、前記磁石材として、ボンド磁石を構成する磁性粉末及びバインダを前記空き領域に充填することとしてもよい。つまり、ボンド磁石を製造する際に、本発明の製造方法を適用すれば、工程数が少なくなり、当該ボンド磁石の製造コストを削減することが可能となる。
【0012】
また、上記の磁石の製造方法において、前記内壁面に前記コーティング材を付着させる工程では、前記バインダと同じ材質の前記コーティング材を前記内壁面に付着させると好適である。コーティング材とバインダとが同じ材質であることにより、コーティング材により構成されたコーティング層の内側に磁石材を充填して磁石本体を成形固化する際、コーティング層と磁石本体とを一体化させ易くなる。
【0013】
さらに、本発明の磁石によれば、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁石の製造方法(具体的には、以上までに挙げてきた磁石の製造方法)によって製造されたことにより、製造コストが削減されており、結果として、本発明の製造方法にて製造された磁石を利用する機器(例えば、モータ等)のコストを抑えることも可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明の磁石の製造方法によれば、成形空間内で磁石本体を成形固化する際にコーティング層が併せて形成されるため、磁石本体の成形固化後に磁石本体を金型から取り出し、その後、磁石本体の表面にコーティング層を形成する場合と比較して、工程数が少なく、その分、磁石の製造コストを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製造方法により製造された磁石の断面図である。
【図2】本発明の磁石の製造装置を示す模式図である。
【図3】本発明の磁石の製造方法の流れを示す図である。
【図4】本発明の磁石の製造方法の第1説明図である。
【図5】本発明の磁石の製造方法の第2説明図である。
【図6】本発明の磁石の製造方法の第3説明図である。
【図7】本発明の磁石の製造方法の第4説明図である。
【図8】本発明の磁石の製造方法の第5説明図である。
【図9】コーティング材の静電塗着についての説明図である。
【図10】断熱変化における圧縮率と温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の磁石の製造方法に関する一実施形態(以下、本実施形態)を、図1乃至図10を参照しながら説明する。図1は、本発明の製造方法により製造された磁石の断面図である。図2は、本発明の磁石の製造装置を示す模式図である。図3は、本発明の磁石の製造方法の流れを示す図である。図4〜図8は、本発明の磁石の製造方法についての説明図であり、磁石の製造の進行に伴って、図4,5,6,7,8の順で状態が遷移していくものとする。図9は、コーティング材の静電塗着についての説明図である。図10は、断熱変化における圧縮率と温度との関係を示す図であり、図中の横軸は圧縮率を、縦軸はキャビティ内温度(厳密には、後述する成形空間内の温度)を、それぞれ示している。
【0017】
本実施形態に係る製造方法によって製造される磁石(以下、磁石S)は、いわゆるボンド磁石であり、磁性粉末をゴムや熱可塑性樹脂等のバインダ(結合材)と混ぜ合わせて所定形状に成形固化することにより形成される。磁性粉末としては、Nd−Fe−B系の磁性粉末が一例として挙げられるが、これ以外にもボンド磁石の構成要素となり得る磁性粉末については、制限なく利用可能である。
【0018】
また、磁石Sは、図1に示すように、表面に防錆用のコーティング層Saを備えている。換言すると、本実施形態に係る磁石Sは、磁石本体Sbと、磁石本体Sbの表面上に形成されたコーティング層Saとを備えていることになる。ここで、磁石本体Sbとは、磁石Sのうち、コーティング層Saに含包された部分であり、具体的には、上記の磁性粉末とバインダとを混ぜ合わせて所定形状に成形固化した部分である。
【0019】
一方、コーティング層Saは、磁石本体Sb(具体的には、磁性粉末)の腐食を抑制するために、磁石Sの最表層部に位置する部分である。なお、本実施形態において、コーティング層Saは、上記バインダと同じ材質によって構成されている。これにより、コーティング層Saは、磁石本体Sbと良好に溶着するようになるので、磁石本体Sbとコーティング層Saとを一体化することが容易になる。ただし、これに限定されるものではなく、コーティング層Saと磁石本体Sbとが、互いに異なる材質で構成されていることとしてもよい。
【0020】
<<磁石の製造装置の概要>>
次に、上記の磁石Sを製造する際に用いる製造装置1について、図2を参照しながら説明する。
本実施形態に係る製造装置1は、上記の磁石Sを金型成形によって製造する装置であり、図2に示すように、主たる構成機器として、材料供給機構10、金型20、および、ピストン駆動機構30を有している。なお、これらの機器は、不図示のコントローラにより制御されており、コントローラによる制御の下で各機器が動作することにより、本発明の磁石の製造方法が実現される。
【0021】
以下、製造装置1の各構成機器について説明する。
<材料供給機構>
材料供給機構10は、後述するキャビティC(より具体的には、成形空間C1)に磁石Sの基材を投入するための機構である。特に、本実施形態に係る材料供給機構10は、コーティング材を供給するコーティング材供給機構11と磁石材を供給する磁石材供給機構16とによって構成されている。ここで、コーティング材とは、磁石Sのうち、コーティング層Saの基材をなすものであり、具体的には、磁石本体Sbを構成するバインダと同じ材質からなる粉状体である。磁石材とは、磁石Sのうち、磁石本体Sbの基材をなすものであり、具体的には、上述した磁性粉末及びバインダ(より具体的には、両者の混合物)である。
【0022】
コーティング材供給機構11は、図2に示すように、キャビティC内にコーティング材を噴射するためのスプレーガン12と、スプレーガン12から噴射された直後のコーティング材を負に帯電する帯電装置13と、コーティング材の貯留部14と、貯留部14からスプレーガン12にコーティング材を供給する供給ライン15とによって構成される。
【0023】
磁石材供給機構16は、図2に示すように、キャビティC内に磁石材を射出するための射出ノズル17と、磁石材の貯留部18と、貯留部18から射出ノズル17を供給する供給ライン19とによって構成される。
【0024】
本実施形態では、コーティング材供給機構11のスプレーガン12と、磁石材供給機構16の射出ノズル17とが、金型20に設けられた同一の接続口に接続することとなる。したがって、例えば、スプレーガン12接続口に接続している間、射出ノズル17は、当該接続口から離間した待機位置にて待機しており、射出ノズル17が接続口に接続している間、スプレーガン12が上記の待機位置にて待機していることになる。
【0025】
<金型>
金型20は、磁石Sを成形するための成形空間C1を形成するものである。本実施形態の金型20は、上下に分離して2つの型に分かれることが可能であり、上方の型が可動型21となっており、下方の型が固定型22となっている。ただし、これに限定されるものではなく、上方の型が固定型22であり、下方の型が可動型21となっている場合であってもよい。また、分離方向についても、上下方向に限らず、左右方向又は前後方向であってもよい。
【0026】
可動型21は、不図示の駆動機構により上下方向に移動可能であり、固定型22に対して近接又は離間することが可能である。また、2つの型(可動型21及び固定型22)のうち、少なくとも一方の型(図2に示す構成では、固定型22側の型)については、図2に示すように接地されている。
【0027】
そして、可動型21及び固定型22が組み合わされると、両者の間に、キャビティCが形成される。キャビティCは、可動型21側に形成されたランナRと連通しており、このランナRの下流側開口(キャビティC側の開口)には、キャビティCの入口となるゲートGが形成されている。また、ランナRの上流側開口(キャビティC側とは反対側の開口)は、前述したスプレーガン12や射出ノズル17が接続するための接続口をなしている。スプレーガン12や射出ノズル17から吐出された磁石材やコーティング材は、この接続口を通じてランナR内に投入され、このランナRを経由し、最終的にゲートGを通過してキャビティC内に進入する。
【0028】
また、固定型22には、キャビティC(より具体的には、後述する非成形空間C2)と大気とを連通させるために形成された空気逃がし孔23が形成されている。この空気逃がし孔23を通じて、非成形空間C2の空気が大気中に放出されるようになる。
【0029】
さらに、金型20には、開閉自在なシャッター25が取り付けられている。このシャッター25は、閉塞部材の一例であり、ランナRを閉塞するために設けられたものである。より具体的に説明すると、シャッター25は、ランナRのうち、ゲートG側の開口を塞ぎ、これにより、ランナRとキャビティCとの連通状態が遮断されるようになる。
【0030】
<ピストン駆動機構>
ピストン駆動機構30は、キャビティC内に配置されたピストン31を上下方向に駆動するものである。より具体的に説明すると、ピストン31は、図2に示すように、キャビティC内に配置されて、キャビティC内の空間を上下2つの空間に区画する。このように本実施形態では、キャビティCが、区画部材たるピストン31によって2つの空間に区画され、当該2つの空間のうち、上方に位置する空間は、磁石Sの成形の場となる成形空間C1となり、図2に示すようにランナRと連結しており、その内部には、コーティング材や磁石材が供給される。他方、上記2つの空間のうち、下方に位置する空間は、磁石Sの成形には関与しない非成形空間C2となり、前述したように、空気逃がし孔23を介して大気と連通している。
【0031】
そして、ピストン31は、ピストン駆動機構30によってキャビティC内を上下方向に移動することが可能である。具体的に説明すると、ピストン駆動機構30は、ロッド32と、不図示の油圧シリンダとを有しており、ロッド32は、固定型22の下面から鉛直方向に延出してキャビティCまで至っている貫通孔24に挿入されており、その一端部がキャビティC内に突き出た状態でピストン31の下面に接合されている。一方、ロッド32の他端部は、油圧シリンダに接続されている。
【0032】
以上のような構成により、油圧シリンダによりロッド32が下方に引き下げられると、ピストン31がキャビティC内で下降し、これに伴って、成形空間C1の体積が増え、非成形空間C2の体積が減少する。すなわち、ピストン31を下降させる動作は、キャビティCに対して成形空間C1が占める体積割合を増やす向きにピストン31を移動させる第1移動操作に相当する。
【0033】
反対に、油圧シリンダによりロッド32が上方に押し上げられると、ピストン31がキャビティC内で上昇し、これに伴って、成形空間C1の体積が減り、非成形空間C2の体積が増加する。すなわち、ピストン31を上昇させる動作は、キャビティCに対して成形空間C1が占める体積割合を減らす向きにピストン31を移動させる第2移動操作に相当する。
【0034】
<<本実施形態の磁石の製造方法>>
次に、以上の構成の製造装置1を用いて磁石Sを製造する方法について図3〜図10を参照しながら説明する。
磁石Sの製造を開始するにあたり、先ず、金型20の可動型21及び固定型22を組み合わせてキャビティCを形成しておくとともに、当該キャビティC内にピストン31を上下方向に移動可能な状態で配置する。これにより、可動型21及び固定型22の両者の間に、磁石Sを成形するための成形空間C1が形成されることになる(S001)。このように本実施形態では、キャビティC内に成形空間C1を設けることとしており(換言すると、キャビティCの一部を成形空間C1としており)、その際には、キャビティC1内に配置されたピストン31によってキャビティCを2つの空間に区画し、該2つの空間のうち、コーティング材及び磁石材が通過するランナRに連結されている側の空間を成形空間C1とする。なお、磁石Sの製造開始時では、シャッター25が開状態にある。
【0035】
以上の状態において、コーティング材供給機構11のスプレーガン12が、可動型21に形成された接続口(具体的には、ランナRの上流側開口)にセットされる。そして、スプレーガン12がセットされた後には、粉状のコーティング材がスプレーガン12から成形空間C1内に向けて噴射される。
【0036】
スプレーガン12からコーティング材が噴出されると、噴射位置の下流側で高電圧を発生させている帯電装置13によって、噴射直後のコーティング材が負に帯電されるようになる。一方、成形空間C1を形成している可動型21及び固定型22は接地しているので、コーティング材に対し、正側の帯電極性を示すようになる。したがって、噴射直後に負に帯電されたコーティング材は、図9に示すように、静電気力によって成形空間C1の内壁面Csに引きつけられ、当該内壁面Cs全体に静電塗着されるようになる。ここで、成形空間C1の内壁面Csは、可動型21及び固定型22の内側表面のうち、成形空間C1に面する部分、および、ピストン31の上端面によって構成される。
【0037】
以上の手順により、成形空間C1の内壁面Cs全体にコーティング材が静電塗着され、内壁面Cs全体にコーティング材が付着するようになる(S002)。そして、コーティング材が付着した成形空間C1の内壁面Cs各部(ゲートGに位置する部分を除く)ではコーティング材が堆積して層をなし、結果として、成形空間C1内に、コーティング材の層によって包囲された閉空間領域が形成されるようになる。
なお、本実施形態では、前述したように、内壁面Csに付着させるコーティング材が、磁石本体Sbを構成するバインダと同じ材質のコーティング材となっている。
【0038】
次に、成形空間C1の内壁面Cs全体にコーティング材を静電塗着させた状態で、ピストン31を下降させる(S003)。このピストン31の下降動作によって、図5に示すように、成形空間C1の体積が増加し、その増加量に相当する分、非成形空間C2の体積が減少する。この際、ピストン31の下降に伴い、非成形空間C2内の空気は、空気逃がし孔23を通じて非成形空間C2から大気へ放出される。
【0039】
そして、所定量だけピストン31を下降させる動作を実行した後に、当該動作後の配置位置にピストン31が位置した状態で、シャッター25を閉じ、これによりランナRを閉塞する(S004)。その後、図6に示すように、シャッター25を閉じた状態(換言すると、ランナRを閉塞した状態)のままでピストン31を上昇させる動作を実行する(S005)。これにより、成形空間C1内の空気(気体)が断熱圧縮され、当該空気の温度が徐々に上昇する(昇温していく)。
【0040】
成形空間C1内の空気の昇温が進行して、当該空気の温度が所定温度まで達すると、成形空間C1の内壁面Cs全体に付着させたコーティング材が溶融するようになる。この結果、成形空間C1の内壁面Cs上に堆積して層をなしていたコーティング材同士が、結合し合って被膜を形成する。この被膜は、磁石Sにおけるコーティング層Saに相当する。その後、ピストン31の上昇動作は、ピストン31を下降させる前段階の位置(以下、元の位置)にピストン31が戻るまで続けられる。
【0041】
以上のように、本実施形態の磁石Sの製造方法では、磁石本体Sbの成形前に、成形空間C1の内壁面Csにコーティング材を付着させてから、成形空間C1内の空気を昇温して内壁面Csに付着させたコーティング材を溶融させることにより、内壁面Cs上にコーティング層を形成する工程が行われる。当該工程は、ピストン31を下降させて成形空間C1を所定量だけ増加させてからシャッター25によりランナRを閉塞する工程S004と、成形空間C1内の空気を断熱圧縮するためにランナRを閉塞した状態でピストン31を上昇させる工程S005によって実現される。
【0042】
ここで、ピストン31を下降させて成形空間C1を増加させる際の増加量(換言すると、ピストン31の下降量)は、その後の断熱圧縮にて元の体積まで圧縮した際の温度がバインダを溶融させるのに適した温度(例えば、バインダの融点)に達するのに必要な量に設定される。
【0043】
具体的に説明すると、成形空間C1内の空気の温度をTとし、成形空間C1の体積をVとし、比熱比をγとしたとき、理想気体を想定すると、断熱変化の様子は、下記の式(ポアソン式)にて表される。
TVγ―1=const
上記の式から、目標到達温度(具体的には、バインダを溶融させる際の温度)に対応する圧縮率(=圧縮後の成形空間C1の体積/圧縮前の成形空間C1の体積×100)が算出され、当該圧縮率の算出結果から、ピストン31を下降させる際の移動量を設定することが可能となる。
【0044】
例えば、断熱圧縮した際の圧縮率と成形空間C1内の温度との関係は、図10のグラフに示す関係となる。そして、バインダの一例としてナイロン12を使用した場合には、その融点が約180度であるので、図10のグラフから、圧縮率36%となるように圧縮すれば成形空間C1内の温度が上記の融点温度に到達することが読み取れる。この場合、圧縮率36%を達成するように、ピストン31の下降動作を実行する際の下降量が設定される。
【0045】
なお、成形空間C1内の空気を昇温する方法としては、上記の方法以外にも考えられ、例えば、加熱器等を用いて成形空間C1内の空気を直接加熱することとしてもよいが、本実施形態において採用している方法(断熱圧縮にて昇温する方法)は、比較的簡易に成形空間C1内の空気を昇温することができる点で、より好適である。
【0046】
その後、磁石材供給機構16の射出ノズル17を、可動型21に形成された接続口(具体的には、ランナRの上流側開口)にセットするとともに、閉状態にあるシャッター25を開き、閉塞されていたランナRを開放する(S006)。そして、ランナRを開放した状態のまま射出ノズル17から磁石材を射出して、成形空間C1内に磁石材を充填する(S007)。
【0047】
本実施形態では、射出ノズル17から磁石材を射出する際に、成形空間C1のうち、コーティング層Saが占める領域を除く空き領域Caに向けて磁石材(具体的には、ボンド磁石を構成する磁性粉末及びバインダ)を射出して、当該空き領域Caに磁石材を充填する(図7参照)。ここで、空き領域Caとは、成形空間C1においてコーティング層Saの内側に位置する領域、具体的に説明すると、コーティング層Saによって包囲された閉空間領域のことである。
【0048】
以上のように、本実施形態の磁石Sの製造方法では、空き領域Caに磁石材を充填する工程を有する。そして、当該工程は、シャッター25により閉塞されたランナRを開放する工程S006と、ランナRが開放された状態で、空き領域Caたる上記の閉空間領域(具体的には、コーティング層Saの内側に位置する領域)に磁石材を充填する工程S007によって実現される。
【0049】
なお、磁石材を上記の空き領域Caに充填している間、コーティング層Saを形成しているコーティング材(換言すると、空き領域Caを包囲しているコーティング材)については、溶融状態のままで維持しておくことが望ましい。これにより、コーティング層Saを、その内側に形成する磁石本体Sbに溶着させ易くなる。
【0050】
その後、成形空間C1において、溶融状態にあるコーティング材及び磁石材を冷却固化させる(S008)。これにより、空き領域Caに磁石本体Sbが形成され、その周囲には、磁石本体Sbを覆うコーティング層Saが形成される。すなわち、上記の工程が終了した時点で、成形空間C1には、成形空間C1に相当する外形形状を有する磁石Sが成形される。そして、図8に示すように可動型21を固定型22から離間させて金型20から磁石Sを取り出し(S009)、取り出した磁石Sに対して所定の後処理を行った時点で、磁石Sの製造が完了する。
【0051】
以上までに説明してきたように、本実施形態では、予めコーティング層Saを形成しておき、そのコーティング層Saの内側空間に磁石材を充填し、その後に固化して、最終製品である磁石Sを取得する。これにより、同一の金型20(より具体的には、同一の成形空間C1)内で、磁石本体Sbとコーティング層Saとを一体的に成形することが可能になる。
【0052】
すなわち、発明が解決しようとする課題の項で説明した通り、従来の磁石の製造方法では、磁石本体を金型で成形固化した後に、磁石本体を金型から取り出し、取り出した磁石本体の表面に防錆処理を施していた。つまり、従来の磁石の製造方法では、磁石本体の成形固化後に、別途、防錆処理を施す工程が実行されていたため、その分だけ工程数が多くなり磁石の製造コストが高くなっていた。
【0053】
これに対して、本実施形態の磁石Sの製造方法であれば、上述の如く、同一の金型20内で、磁石本体Sbとコーティング層Saとを一体的に成形するため、コーティング層Saの形成処理を磁石本体Sbの成形後に別途行う場合と比較して工程数が少なくなり、その分だけ磁石Sの製造コストが削減されることになる。
【0054】
なお、本実施形態では、磁石本体Sbの成形に先立って成形空間C1にコーティング層Saを形成するにあたり、成形空間C1の内壁面Csに、負に帯電したコーティング材を静電付着させることとした。このように本実施形態では、静電気力を利用してコーティング材を成形空間C1の内壁面Csに塗着させる結果、比較的容易に、内壁面Cs全体にコーティング材を付着させることが可能となる。ただし、内壁面Cs全体にコーティング材を付着させる方法は、上記の静電塗着に限定されるものではなく、他の方法(例えば、成形空間C1の内壁面Csに接着剤等を塗布してコーティング材を付着させる方法)を採用することとしてもよい。
【0055】
<<その他の実施形態について>>
上記の実施形態は、あくまで本発明の磁石Sの製造方法の一例に過ぎず、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0056】
また、上記の実施形態では、成形空間C1の内壁面Cs全体(ゲートGに相当する部分は除く)に亘ってコーティング層Saを形成し、コーティング層Saによって包囲された閉空間領域(空き領域Ca)に磁石材を充填することとした。すなわち、上記の実施形態では、磁石本体Sbの表面全域(厳密には、ゲートGとの対向位置に位置していた部位を除く)がコーティング層Saに覆われている磁石Sに関して、その製造方法について説明した。ただし、これに限定されるものではなく、磁石本体Sbの表面の一部のみ(例えば、表側に位置する部位のみ)にコーティング層Saが形成されている磁石Sであってもよい。
【0057】
また、上記の実施形態では、シャッター25によりランナRを閉塞することにより成形空間C1を密閉することとしたが、成形空間C1を密閉することが可能な機器であれば、シャッター25以外の機器、例えば、バルブ等であってもよい。
【0058】
さらに、上記の実施形態では、以上までに説明してきた製造方法によって製造された磁石Sも開示されており、かかる磁石Sは、例えば、モータの界磁等として用いられる。また、磁石Sは、前述したように、従来品より低コストにて製造されたものであるため、結果として、磁石Sを利用した機器自体の製造コストについても削減することが可能となる。
【0059】
なお、上記の実施形態では、磁石Sの一例としてボンド磁石を挙げ、ボンド磁石の製造方法について説明した。すなわち、上記の実施形態では、成形空間C1内(より具体的には、成形空間C1においてコーティング層Saが占める領域を除く空き領域Ca内)に、磁石材として、磁性粉末及びバインダを充填することとした。ただし、これに限定されるものではなく、本発明の製造方法は、ボンド磁石の他、金型で成形可能であり、表面にコーティング層を備える磁石であれば、制限なく利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 製造装置、
10 材料供給機構、11 コーティング材供給機構、
12 スプレーガン、13 帯電装置、14 貯留部、15 供給ライン、
16 磁石材供給機構、17 射出ノズル、18 貯留部、19 供給ライン、
20 金型、21 可動型、22 固定型、23 空気逃がし孔、
24 貫通孔、25 シャッター、
30 ピストン駆動機構、31 ピストン、32 ロッド、
C キャビティ、C1 成形空間、C2 非成形空間、
Ca 空き領域、Cs 内壁面、G ゲート、
R ランナ、S 磁石、Sa コーティング層、Sb 磁石本体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石本体と、該磁石本体の表面上に形成されたコーティング層とを備えた磁石の製造方法であって、
金型の可動型及び固定型を組み合わせて形成されるキャビティ内に、前記磁石を成形するための成形空間を設け、該成形空間の内壁面に、前記コーティング層の基材をなすコーティング材を付着させる工程と、
前記成形空間の気体を昇温して前記内壁面に付着させた前記コーティング材を溶融させることにより、前記内壁面上に前記コーティング層を形成する工程と、
前記成形空間のうち、前記コーティング層が占める領域を除く空き領域に、前記磁石本体の基材をなす磁石材を充填する工程と、
前記磁石材を固化させて、前記空き領域に前記磁石本体を形成する工程と、
を有することを特徴とする磁石の製造方法。
【請求項2】
前記キャビティ内に前記成形空間を設ける際には、前記キャビティ内に配置された区画部材によって前記キャビティを2つの空間に区画し、該2つの空間のうち、前記コーティング材及び前記磁石材が通過するランナに連結された空間を前記成形空間とし、
前記内壁面に前記コーティング材を付着させる工程では、前記内壁面全体に、負に帯電した前記コーティング材を静電塗着させることを特徴とする請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項3】
前記区画部材は、前記キャビティ内を移動可能なピストンであり、
前記内壁面全体に前記コーティング材を静電塗着させた状態で、前記キャビティに対して前記成形空間が占める体積割合を増やす向きに前記ピストンを移動させる第1移動操作を実行する工程を有し、
前記内壁面上に前記コーティング層を形成する工程は、
前記ピストンが前記第1移動操作後の配置位置に位置した状態で、前記ランナを閉塞するために設けられた閉塞部材により前記ランナを閉塞する工程と、
前記成形空間内の気体を断熱圧縮するために、前記ランナを閉塞した状態で、前記体積割合を減らす向きに前記ピストンを移動させる第2移動操作を実行する工程と、を有することを特徴とする請求項2に記載の磁石の製造方法。
【請求項4】
前記空き領域に前記磁石材を充填する工程は、
前記閉塞部材により閉塞された前記ランナを開放する工程と、
前記ランナが開放された状態で、前記成形空間のうち、前記コーティング層の内側に位置する領域に、前記磁石材を充填する工程と、を有することを特徴とする請求項3に記載の磁石の製造方法。
【請求項5】
前記空き領域に前記磁石材を充填する工程では、
前記磁石材として、ボンド磁石を構成する磁性粉末及びバインダを前記空き領域に充填することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁石の製造方法。
【請求項6】
前記内壁面に前記コーティング材を付着させる工程では、
前記バインダと同じ材質の前記コーティング材を前記内壁面に付着させることを特徴とする請求項5に記載の磁石の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁石の製造方法によって製造された磁石。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48182(P2013−48182A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186301(P2011−186301)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】