説明

神経因性疼痛治療剤

【課題】難治性疾患である神経因性疼痛に対し優れた治療効果を有する神経因性疼痛治療剤を提供すること。

【解決手段】上記課題は、カゼインキナーゼ1阻害剤(特に、N−(2−アミノエチル)−5−クロロ−イソキノリン−8−スルホンアミド等のカゼインキナーゼ1阻害剤)を有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤、カゼインキナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する神経因性疼痛治療用医薬組成物、カゼインキナーゼ1阻害剤を用いる神経因性疼痛の治療方法などによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経因性疼痛に対して優れた疼痛抑制作用を有する神経因性疼痛治療剤、そのような治療剤を用いる神経因性疼痛の治療方法等に関する。
【0002】
神経因性疼痛は末梢神経系または中枢神経系の損傷、機能障害などを原因として生じる痛みであり、モルヒネなどのオピオイド受容体作動薬が十分に奏効しない難治性疼痛である。神経因性疼痛を伴う疾患としては、例えば、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、術後や外傷後の遷延痛など、痛覚過敏やアロディニアの症状を呈する疾患を挙げることができる。
【0003】
従来の薬物療法において使用されてきた鎮痛剤としては、モルヒネに代表される中枢性オピオイド受容体作動薬、インドメタシンに代表される非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)などが知られている。しかし、これらの鎮痛剤は神経因性疼痛に対して一般的に効果が小さく、通常の侵害受容性疼痛に有効である鎮痛剤(特に麻薬性鎮痛薬など)は特に効果が小さいことが知られている。そして、麻薬性鎮痛薬の神経因性疼痛に対する鎮痛効果の不十分さが神経因性疼痛の大きな特徴とされ、場合によってはこの特徴を利用して神経因性疼痛の診断を行なっている。
【0004】
神経因性疼痛の発生には様々な要素が複雑に関係していると考えられている。これまで、神経因性疼痛の治療法としては、神経ブロックや、脊髄硬膜外電気刺激などの神経外科学的治療、三環系抗うつ薬、バクロフェン等の薬剤の腰部髄腔内投与などが知られている。しかし、これらの治療法には、十分な効果が得られなかったり、副作用を伴うという問題がある。また、外用剤として、カプサイシンクリームが、神経末端から放出される発痛物質サブスタンスPを枯渇させ、疼痛を軽減させることにより、帯状疱疹後神経痛、乳房切除後の疼痛症候群に効果があるという報告もある。しかし、カプサイシンによる灼熱痛を伴うという問題もあるなど、有用性や安全性の面で問題がある。このように、神経因性疼痛は難治性の疾患であり、未だ有効な治療法は確立されていない。
【0005】
一方、カゼインキナーゼはセリン/スレオニンをリン酸化する蛋白リン酸化酵素の一種であり、カゼインキナーゼ1(CKI、CK1またはCK−1)とカゼインキナーゼ2(CKII、CK2またはCK−2)の2種類が存在する。両者ともに試験管内実験でカゼインをリン酸化することからこの名前が付いているが、構造的に全く異なる蛋白質であり生体内において、ともに乳腺のミルク蛋白をリン酸化しない。カゼインキナーゼ1には7種のアイソタイプが存在し、細胞膜、細胞質、核内と幅広い局在性を示し、DNAの修復、概日リズムの調節、神経の発火と発達など、種々の生体機能の調節にとって重要な働きをしていることが明らかにされつつある。
これまでカゼインキナーゼについては、幾つかの文献において報告されている。例えば、特表2003-156489(特許文献1)においては、カゼインキナーゼ2βサブユニットを、痛みに関連する分子の同定及び使用のための標的分子として挙げている。また特表2004-536957(特許文献2)では、CK1の調節異常による疾患または障害を治療するための医薬のスクリーニング方法において、「CK1に関する障害」の中の一部に「疼痛」が挙げられている。さらに特表2004-538323(特許文献3)においては「CK1関連障害」の中の一つに「偏頭痛」、「疼痛」の記載が認められ、特表2004-537962(特許文献4)においてはカゼインキナーゼ1aが、苦痛調節物質と表されている。
しかしながら、これら特許文献1〜4において記載されている「痛み」は通常の疼痛であり、これらとは全くメカニズムを異にする「痛み」である神経因性疼痛に関する記載はない。
【特許文献1】特表2003-156489号公報
【特許文献2】特表2004-536957号公報
【特許文献3】特表2004-538323号公報
【特許文献4】特表2004-537962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように神経因性疼痛の治療に有効な薬剤は未だ知られていないのが現状であり、そのような薬剤の開発が望まれている。このような状況において、本発明の目的は、神経因性疼痛という難治性疼痛に優れた効果を発揮する新規な神経因性疼痛治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を達成すべく独自の発想に基づき研究を進めたところ、難治性神経因性疼痛モデルにおいて、カゼインキナーゼ1阻害剤が高い鎮痛効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、次のような神経因性疼痛治療剤、神経因性疼痛の治療のための医薬組成物、神経因性疼痛の治療方法などを提供する。
【0008】
(1)カゼインキナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤。
(2)前記カゼインキナーゼ1阻害剤がN−(2−アミノエチル)−5−クロロ−イソキノリン−8−スルホンアミド(CKI−7)、1−(5−クロロ−8−イソキノリンスルホニル)−ピペラジン(CKI−8)1,3−ジヒドロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニルメチレン)−2H−インドール−2−オン(IC261)及びそれらの薬学的に許容し得る塩から選択される、上記(1)記載の神経因性疼痛治療剤。
(3)前記カゼインキナーゼ1阻害剤がN−(2−アミノエチル)−5−クロロ−イソキノリン−8−スルホンアミド又はその薬学的に許容し得る塩である、上記(2)記載の神経因性疼痛治療剤。
(4)神経因性疼痛が、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア、開胸術後痛、CRPS、多発性硬化症による疼痛、AIDS、視床痛、脊髄障害による対麻痺性疼痛、無知覚性疼痛及び幻肢痛における神経因性疼痛から選択される一以上の症状である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤。
(5)カゼインキナーゼ1阻害剤及び薬学的に許容し得る担体を含有する神経因性疼痛治療のための医薬組成物。
(6)カゼインキナーゼ1阻害剤の有効量を哺乳動物に投与して神経因性疼痛を治療する方法。
(7)神経因性疼痛治療剤の製造のためのカゼインキナーゼ1阻害剤の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明の神経因性疼痛治療剤は、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア等の症状を呈する神経因性疼痛の治療に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、カゼインキナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤、カゼインキナーゼ1阻害剤及び薬学的に許容できる担体を含有する神経因性疼痛の治療のための医薬組成物、カゼインキナーゼ1阻害剤を用いる神経因性疼痛の治療方法を提供する。カゼインキナーゼ1が概日リズムの調節、神経の発火、発達、通常の「痛み」などに関与することは知られていたが、驚くべきことに、本発明者は、カゼインキナーゼ1阻害剤が、単独で、通常の痛みとは全くメカニズムを異にする神経因性疼痛に対し治療効果があることを初めて見出したものである。
【0011】
カゼインキナーゼは、セリン/スレオニンをリン酸化する蛋白リン酸化酵素の一種であり、カゼインキナーゼ1(CKI、CK1またはCK−1)とカゼインキナーゼ2(CKII、CK2またはCK−2)の2種のタイプが知られている。両者ともに試験管内実験でカゼインをリン酸化することからこの名前が付いているが、構造的に全く異なる蛋白質である(文献:Trends in Pharmacol. Sci.23:337−343(2002))。本発明においては、カゼインキナーゼ1阻害剤が有効成分として用いられる。本明細書中、「カゼインキナーゼ1阻害剤」は、カゼインキナーゼ1に対し、選択的阻害作用を有する物質を意味し、他の蛋白リン酸化酵素に対する作用と比較して強度な阻害活性(例えば、50%阻害濃度(IC50値)が1/2以下、より好ましくは、1/10以下)を示すものをいう。
本発明において用いるカゼインキナーゼ1阻害活性は、公知の手法、例えば、J.Biol.Chem. 264:4924−4927 (1989)に記載の方法によって確認することができる。
本明細書において用いる「治療」なる用語は、一般的には、ヒト及びヒト以外の哺乳動物の症状を改善させることを意味する。また「改善」なる用語は、例えば、本発明の治療剤を投与しない場合と比較して、疾患の程度が軽減する場合及び悪化しない場合を指し、予防という意味をも包含する。さらに「医薬組成物」なる用語は、本発明において有用な活性成分(CKI−7等)と医薬の調製において用いられる担体等の添加物を含有する組成物を意味する。
【0012】
本発明において用いられるカゼインキナーゼ1阻害剤としては、例えば、N−(2−アミノエチル)−5−クロロ−イソキノリン−8−スルホンアミド(CKI−7)、1−(5−クロロ−8−イソキノリンスルホニル)−ピペラジン(CKI−8)、1,3−ジヒドロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニルメチレン)−2H−インドール−2−オン(IC261)及びこれらの薬学的許容できる塩などが挙げられる。
【0013】
本発明において用いられる特に好ましいカゼインキナーゼ1阻害剤は、N−(2−アミノエチル)−5−クロロ−イソキノリン−8−スルホンアミド(CKI−7)又はその薬学的に許容し得る塩である。CKI−7はデ・ウエスタン・セラピテクス研究所により開発された化合物である。上記化合物はいずれも公知であり、例えば、J.Biol.Chem. 264:4924−4927 (1989)等に、その化学構造、物理化学的性状、関連する主要文献等が記載されている。
【0014】
なお、本明細書中、「カゼインキナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する」という用語は、カゼインキナーゼ1阻害剤として公知の化合物およびこの化合物の医薬的に許容し得る形態(例えば、その塩、エステル、アミド、水和または溶媒和形態、ラセミ混合物、光学的に純粋な形態等)での使用を全て包含する意味で用いられる。
【0015】
したがって、本発明において用いられる有効成分としての化合物はフリー体であっても、医薬的に許容される塩であってもよい。このような「塩」は、酸塩と塩基塩を含む。酸塩としては、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、重酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、1,1‘−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸)塩などが挙げられる。塩基塩としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、N−メチルグルカミン塩などの水溶性アミン付加塩、低級アルカノールアンモニウム塩、薬学的に許容することができる有機アミンの他の塩基から誘導される塩を挙げることができる。
【0016】
本発明の神経因性疼痛治療剤及び組成物は、神経因性疼痛の治療に有効である。そのような神経因性疼痛の例としては、例えば、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア、開胸術後痛、CRPS、多発性硬化症による疼痛、AIDS、視床痛、脊髄障害による対麻痺性疼痛、無知覚性疼痛、幻肢痛における神経因性疼痛などが含まれる。本発明の神経因性疼痛治療剤は、特に、痛覚過敏、アロディニアの治療に有効である。
【0017】
本発明の神経因性疼痛治療剤の投与形態は特に制限は無く、経口的あるいは非経口的に投与することが出来る。本発明の神経因性疼痛治療剤の有効成分であるカゼインキナーゼ1阻害剤は単独で配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明の有効成分であるカゼインキナーゼ1阻害剤は、例えば、製剤中、0.1〜99.9重量%含有することができる。
【0018】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることが出来る。
【0019】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトースまたは乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液および/またはエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料または香味料、着色料または染料と併用する他、必要であれば乳化剤および/または懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0020】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような水溶液は静脈内注射に適し、油性溶液は関節内注射、筋肉注射および皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。
【0021】
本発明の神経因性疼痛治療剤の投与量(有効成分量)は特に限定されず、疼痛の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。本発明の神経因性疼痛治療剤の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり50から8000mg程度、好ましくは100から2000mgである。注射剤として投与する場合の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり100から5000mg程度、好ましくは180から1800mgである。これらの1日投与量は2回から4回に分けて投与されても良い。
【0022】
実 施 例
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
(使用した実験材料及び一般的実験方法)
(1)モデル動物
実験動物として、6週齢の雄性ラット(体重:191.3〜239.3g)に、L5/L6脊髄神経に完全結紮を施し作製した疼痛過敏症モデルを用いた。
(2)群分け
機械刺激テストは、Dynamic Planter Aesthesiometer(37400、ウゴバジル社)、熱刺激テストは、足底熱刺激装置(Planter test 7370、ウゴバジル社)を用いて、モデル動物の足の疼痛閾値をそれぞれ測定し、各実験日の投与前に測定した疼痛閾値が均一になるように群分けした。なお、機械刺激では、モデル動物の足の疼痛閾値が8.0g以上の動物は試験から除外し、熱刺激では、モデル足の疼痛閾値が10秒以上の動物は試験から除外した。
【0024】
(3)被験物質の調製
被験物質については、メノウ製乳鉢および乳棒を用いて、原末を粉砕したのち、媒体である0.5w/v%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)を徐々に加えて均一な懸濁液とした。投与液の濃度調整(0.06,0.6及び6.0mg/ml液)は、メスシリンダーあるいはメスフラスコを用いて行ない、調整はすべて用時とした。
(4)投与方法
披験物質は、脊髄への直接作用の確認を目的としているが、脳関門を通過することが確認されているため、簡易な投与方法である腹腔内投与とした。注射筒及び注射針を用いて、5ml/kgの容量で腹腔内に投与した。
【実施例1】
【0025】
(機械刺激方法)
疼痛過敏症モデルの雄性ラット(290.1〜348.2g)を1群5匹使用。CKI−7投与前と、投与後30分、60分及び90分に最大圧力:15.0g、最大圧力まで到達する時間:20秒に設定した刺激装置を用いて左足蹠の疼痛閾値を測定した。その結果を図1に示す。図中、「**」は Dunnettの多重検定法によりP<0.01で優位差があること、「*」は Dunnettの多重検定法によりP<0.05で優位差があることを示す(以下同様)。
図1に示すように、生理食塩液を投与した対照群では、投与後の最大疼痛閾値が5.4gを示したのに対し、CKI−7を投与した群では(a)0.3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が6.3g、(b)3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が9.9g、(c)30mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が12.8gを示した。このように、CKI−7の投与は、3mg及び30mgの投与で疼痛閾値を有意に上昇させ、神経因性疼痛における鎮痛効果が確認された。
【実施例2】
【0026】
(熱刺激方法)
疼痛過敏症モデルの雄性ラット(330.3〜406.1g)を1群5匹使用。CKI−7投与前と、投与後30分、60分及び90分に熱刺激強度35に設定した足底熱刺激装置を用いて左足蹠の疼痛閾値を測定した。その結果を図2に示す。
図2に示すように、生理食塩液を投与した対照群では、投与後の最大疼痛閾値が7.0秒を示したのに対し、CKI−7を投与した群では、(a)0.3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が8.4秒、(b)3mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が8.7秒、(c)30mg/kg投与の場合、投与後の最大閾値が11.3秒を示した。このように、CKI−7の投与は、0.3、3mg/kg及び30mg/kgのいずれの投与でも疼痛閾値を有意に上昇させ、神経因性疼痛における鎮痛効果が確認された。
(考察)
上記実施例によって、カゼインキナーゼ1阻害剤が神経因性疼痛の治療に有効であることを明らかにした。

【産業上の利用可能性】
【0027】
以上述べたように、本発明のカゼインキナーゼ1阻害剤を含有する神経因性疼痛治療剤は、種々の原因による神経因性疼痛の症状を改善する作用を有するので、神経因性疼痛の治療に有効に用いることができる。

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、実施例1の実験結果を示す図であって、疼痛過敏症のラットにCKI−7を腹腔内投与し、機械刺激に対する痛覚閾値の変化を示した図である。
【図2】図2は、実施例2の実験結果を示す図であって、疼痛過敏症のラットにCKI−7を腹腔内投与し、熱刺激に対する痛覚閾値の変化を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼインキナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤。
【請求項2】
前記カゼインキナーゼ1阻害剤がN−(2−アミノエチル)−5−クロロ−イソキノリン−8−スルホンアミド、1−(5−クロロ−8−イソキノリンスルホニル)−ピペラジン、1,3−ジヒドロ−3−(2,4,6−トリメトキシフェニルメチレン)−2H−インドール−2−オン及びそれらの薬学的に許容し得る塩から選択される、前記請求項1記載の神経因性疼痛治療剤。
【請求項3】
前記カゼインキナーゼ1阻害剤がN−(2−アミノエチル)−5−クロロ−イソキノリン−8−スルホンアミド又はその薬学的に許容し得る塩である、前記請求項2記載の神経因性疼痛治療剤。
【請求項4】
神経因性疼痛が、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、糖尿病性神経痛、がん性疼痛、術後や外傷後の遷延痛、痛覚過敏、アロディニア、開胸術後痛、CRPS、多発性硬化症による疼痛、AIDS、視床痛、脊髄障害による対麻痺性疼痛、無知覚性疼痛及び幻肢痛における神経因性疼痛から選択される一以上の症状である、前記請求項1〜3のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤。
【請求項5】
カゼインキナーゼ1阻害剤及び薬学的に許容し得る担体を含有する神経因性疼痛治療のための医薬組成物。
【請求項6】
カゼインキナーゼ1阻害剤の有効量を哺乳動物に投与して神経因性疼痛を治療する方法。
【請求項7】
神経因性疼痛治療剤の製造のためのカゼインキナーゼ1阻害剤の使用。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−342079(P2006−342079A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168038(P2005−168038)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】