説明

神経変性疾患を処置するための組成物および方法

本発明は、神経変性疾患を処置するための組成物および方法に関連する。いくつかの態様において、本発明は、老人性難聴を処置しかつ予防するための組成物を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、全体が参照により本明細書に組み入れられる、2008年1月2日出願の米国特許仮出願第61/018,594号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、神経変性疾患を処置するための組成物および方法に関連する。いくつかの態様において、本発明は、老人性難聴を処置しかつ予防するための組成物を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
老化関連の難聴または老人性難聴は、社会に対して莫大な人道的かつ経済的な課題を提起する。米国において、65歳〜75歳の年齢の23%の人々、および75歳を超える年齢の40%の人々が老人性難聴を患っていると推定され、かつ高齢者の集団が増加するにつれて、この疾患を患う人々の数は劇的に増大することが予測されている(Someya et al., Neurobiol. Aging 20: 1613 [2007](非特許文献1))。
【0004】
老人性難聴は、加齢につれて、大多数の個人において漸進的に生じる聴力の損失である。難聴は、老化に関連する一般的な障害である。老人性難聴に関連する損失は、通常、高音または高周波音に関してより顕著である。
【0005】
老人性難聴の多数の原因が存在する。最も一般的には、人が加齢するにつれて、人の内耳における病理学的変化によって生じるが、老人性難聴はまた、中耳における病理学的変化、または脳に繋がる神経経路に沿った複合的な病理学的変化にも起因し得る。老人性難聴は、最も頻繁に双方の耳において生じ、それらに均等に影響を及ぼす。損失のプロセスが漸進的であるため、老人性難聴を患う人々は、彼らの聴力が漸減していることを認識しない可能性がある。老人性難聴では、往々にして音がより明確でなく、かつ音量がより低いように見受けられる。これが聴力および会話の理解において困難をもたらす。
【0006】
感音難聴は、内耳または聴覚神経の障害によって引き起こされる。老人性難聴は、通常感覚神経的な聴力障害である。最も一般的に、それは、内耳における漸進的な変化によって引き起こされる。日常の交通音または建設工事、騒々しい仕事場、騒音を生じる設備、および騒々しい音楽に対する反復的な曝露の累積的な影響によって、感音難聴が引き起こされ得る。感音難聴は、最も往々にして、有毛細胞(内耳中の感覚受容器)の損失による。これは、遺伝的要因、および老化、様々な健康状態、ならびに一部の医薬品(アスピリンおよび特定の抗生物質)の副作用の結果として起こり得る。
【0007】
老人性難聴は、心臓疾患、高血圧、糖尿病により引き起こされる血管性の(血管に関連する)状態、または他の循環障害による、耳への血液供給の変化によって引き起こされる可能性がある。損失は、軽度、中程度または重篤である場合がある。
【0008】
時に、老人性難聴は伝導性聴力障害であり、音感受性の損失が、外耳および/または中耳の異常によって引き起こされることを意味する。そのような異常は、鼓膜(tympanic membrane)(鼓膜(eardrum))の機能低下、または音波を鼓膜から内耳に伝える中耳内の3つの小骨の機能低下を包含してもよい。
【0009】
老人性難聴を患う人々を介助する多数の手段が存在する。補聴器は、一部の個人に関して推奨され得る。補聴支援装置は、特定の状況においてさらなる聴力の改善を提供し得る。そのような装置の一つの例は、内蔵電話増幅器である。別の例は、ラジオの様に音波を伝達することにより、補聴器ありまたはなしで音をより明確にするFMシステムである。(話されている事を判断するための視覚的刺激を使用する)読唇術の訓練は、老人性難聴を患う人々が、会話またはプレゼンテーションにおいて述べられていることをよりよく理解する手助けになり得る。
【0010】
それにも関わらず、老人性難聴に関して、いかなる予防的処置または治療的処置も開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Someya et al., Neurobiol. Aging 20: 1613 [2007]
【発明の概要】
【0012】
本発明は、神経変性疾患を処置するための組成物および方法に関連する。いくつかの態様において、本発明は、老人性難聴を処置しかつ予防するための組成物を提供する。いくつかの態様において、他の神経変性疾患が処置される。いくつかの態様において、本発明は、栄養補助剤、食品、および薬学的組成物、ならびに神経変性疾患を予防するかまたは減少させる組成物を含むそのような産物を投与するための方法を提供する。
【0013】
例えば、いくつかの態様において、本発明は、神経変性疾患を処置する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:α−リポ酸(ALA)、共役リノール酸(CLA)、コエンザイムQ10(CQ)もしくはフェニルアラニン(PA)、またはそれらの誘導体、模倣物もしくはアナログから選択される少なくとも一つの化合物を、神経変性疾患の症状を有する対象に、症状が減少するような条件下で投与する段階。いくつかの態様において、一つまたは複数の化合物は、2種の化合物(例えば、ALAおよびCLA;ALAおよびCQ;ALAおよびPA;CLAおよびCQ;CLAおよびPA;またはCQおよびPA)である。いくつかの態様において、一つまたは複数の化合物は、3種の化合物(例えば、ALA、CLAおよびCQ;ALA、CLAおよびPA;CLA、CQおよびPA;またはALA、CQおよびPA)である。いくつかの態様において、一つまたは複数の化合物は、ALA、CLA、CQおよびPAである。いくつかの態様において、上記のいずれもが、一つまたは複数のさらなる要素(例えば、補助薬、賦形剤、薬物、栄養補助剤、担体など)と共に提供される。いくつかの態様において、神経変性疾患は老人性難聴である。他の態様において、神経変性疾患は、本明細書に記載される神経変性疾患である。いくつかの態様において、一つまたは複数の化合物の投与が、対象中のらせん神経節細胞の損失を防止するかまたは減少させる。
【0014】
本発明は、神経変性疾患を予防する方法であって、以下の段階を含む方法をさらに提供する:ALA、CLA、CQもしくはPA、またはそれらの誘導体、模倣物もしくはアナログから選択される少なくとも一つの化合物を、神経変性疾患が対象中で予防されるような条件下で対象に投与する段階。いくつかの態様において、一つまたは複数の化合物の投与は、対象中のらせん神経節細胞のレベルの減少を防止する。
【0015】
本発明は、ALA、CLA、CQもしくはPAまたはそれらの誘導体、アナログ、もしくは模倣物から選択される一つもしくは複数の化合物を含むか、またはそれ(ら)からなる食品をさらに提供する。
【0016】
本発明はまた、ALA、CLA、CQもしくはPAまたはそれらの誘導体、アナログ、もしくは模倣物から選択される一つもしくは複数の化合物を含むか、またはそれ(ら)からなる栄養補助剤も提供する。
【0017】
本発明はまた、ALA、CLA、CQもしくはPAまたはそれらの誘導体、アナログ、もしくは模倣物から選択される一つもしくは複数の化合物を含むか、またはそれ(ら)からなる薬学的組成物も提供する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の態様の開発過程の間に実施された、いくつかの実験の研究設計を示す。
【図2】対照、ALA、CLA、CQおよびPAマウスに関する平均ABR閾値を示す。
【図3】対照、ALA、CQおよびPAマウス由来の蝸牛基底回転の顕微鏡写真を示す。
【図4】対照、ALA、CQおよびPAマウス蝸牛の平均らせん神経節細胞密度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語および語句を以下に定義する。
【0021】
本明細書において使用される、「対象」という用語は、限定はされないが、特定の処置の受け手であるヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等を含む任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。典型的に、「対象」および「患者」という用語は、ヒト対象に関して本明細書において互換的に使用される。
【0022】
本明細書において使用される、「非ヒト動物」という用語は、限定はされないが、げっ歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、鳥類等の脊椎動物を含む全ての非ヒト動物を指す。
【0023】
本明細書において使用される、「インビトロ」という用語は、人工的環境および人工的環境内で生じるプロセスまたは反応を指す。インビトロ環境は、限定はされないが、試験管および細胞培養からなり得る。「インビボ」という用語は、天然の環境(例えば、動物または細胞)および天然の環境内で生じるプロセスまたは反応を指す。
【0024】
「試験化合物」および「候補化合物」という用語は、身体機能の疾患、疾病、病気、もしくは障害(例えば、難聴)を処置するかまたは予防するための使用に関する候補である任意の化学物質、医薬品、薬物等を指す。試験化合物は、公知の治療化合物および潜在的な治療化合物の双方を含む。試験化合物は、本発明のスクリーニング方法を使用するスクリーニングによって、治療的であることが決定され得る。
【0025】
本明細書において使用される、「試料」という用語は、最も広範な意味において使用される。一つの意味において、任意の起源、ならびに生体試料および環境試料由来の検体または培養物を包含することが意味される。生体試料は、(ヒトを含む)動物から得られてもよく、かつ液体、固体、組織および気体を包含してもよい。生体試料は、血漿、血清などの血液製剤を含む。環境試料は、表面物質、土壌、水、結晶体、および産業試料等の環境材料を包含する。しかしながら、そのような例は、本発明に適用可能な試料の種類を限定するものとして解釈されるべきでない。
【0026】
「調理食品」とは、ヒトの消費のために認可された任意の事前梱包食品を意味する。
【0027】
本明細書において使用される、「生理学的に許容される担体」とは、油性医薬品と共に一般的に使用される任意の担体または賦形剤を指す。そのような担体または賦形剤は、限定はされないが、油、スターチ、スクロースおよびラクトースを包含する。
【0028】
本明細書において使用される、「経口送達ビヒクル」という用語は、限定はされないが、カプセル剤、丸剤、錠剤およびシロップ剤を含む、医薬品を経口的に送達する任意の手段を指す。
【0029】
本明細書において使用される、「食品」という用語は、ヒト、非反芻動物、または反芻動物による消費に適する任意の食物または飼料を指す。「食品」は、調理食品および包装食品(例えば、マヨネーズ、サラダドレッシング、パンもしくはチーズ食品)、または動物飼料(例えば、押出型動物飼料およびペレット動物飼料または粗混合試料)であってもよい。
【0030】
本明細書において使用される、「模倣物」という用語は、リガンドとその標的との結合もしくは相互作用を模倣するか、または化合物の生理学的効果を模倣する小型分子化合物を指す。例えば、本明細書に記載される化合物の模倣物は、化合物と同一の生理学的効果(例えば、神経変性疾患の予防または処置)を有する小型分子である。
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、神経変性疾患を処置するための組成物および方法に関連する。
【0032】
本発明のいくつかの態様は、組成物、薬学的組成物、食品、栄養補助剤、ならびに老人性難聴の予防および処置のための組成物を投与する方法を提供する。
【0033】
本発明の開発過程の間に実施する実験によって、多数の食品化合物の効果が評価され、かつ神経変性疾患の予防および処置のために有用な4つの化合物(α−リポ酸(ALA)、CLA、コエンザイムQ10(CQ)、およびフェニルアラニン(PA))が同定された。例えば、老人性難聴のモデルとして広範に使用され、かつ15ヶ月の月齢までに老化関連の難聴の後期発症(Keithley et al., Hear Res. 188:21 [2004])、ならびに12ヶ月の月齢までにSGCおよび有毛細胞の有意な損失(Keithley et al., [2004]、前記)を示すC57BL/6(B6)マウスにおいて実験を実施した。
【0034】
I.治療方法
いくつかの態様において、本発明は、限定はされないが、老人性難聴を含む神経変性疾患の予防および処置のための方法を提供する。例えば、本明細書に記載される一つまたは複数の化合物を患者に投与することによって、化合物の効果による疾患および状態を予防しかつ/または処置することが可能である。同様に、化合物のアナログまたは誘導体が患者に投与され得る。老人性難聴は、主に蝸牛中の有毛細胞または神経細胞の変性から生じる。本発明は、特定のメカニズムに限定されない。真に、メカニズムを理解することは、本発明を実施するために必要ではない。そうではあるが、ALAおよびCQの双方は抗酸化剤であり、かつそれらは、本明細書に記載される利点を達成するのに十分なレベルにまで、蝸牛細胞を酸化障害から保護する可能性があると考慮されている。PA(L−フェニルアラニン)は、L−チロシンに転換され得、順にL−DOPAに転換され、蝸牛中での神経伝達に必要とされるドーパミン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)およびエピネフリン(アドレナリン)にさらに転換される。カロリー制限(CR)は、哺乳動物において老人性難聴を完全に予防する(Someya et al., [2007]、前記)。CRマウスは細身を保持し、かつ若齢マウスのものと同一レベルの体重を維持する。CLAは体重減少誘導因子であり、したがって、CR様の抗老化効果を模倣すると考えられる。したがって、これらの化合物の一つまたは混合物を提供することは、化合物の効果によって老人性難聴を予防しかつ処置する別の方法である。いくつかの態様において、本発明は、限定はされないが、以下に記載されるものを含む老化関連の他の神経変性疾患を予防しかつ処置する方法をさらに提供する。
【0035】
A.組成物
いくつかの態様において、本発明は、神経変性疾患(例えば、老人性難聴)を処置するかまたは予防する際の使用のために、α−リポ酸(ALA)、CLA、コエンザイムQ10(CQ)およびフェニルアラニン(PA)の一つまたは複数を提供する。リポ酸は、好気生物にとって必須である。リポ酸は、好気代謝におけるコファクター、とりわけピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体として作用する。リポ酸塩は、2−オキソ酸デヒドロゲナーゼおよびグリシン開裂複合体への、アシル基またはメチルアミン基の転移に関与する。CLAは、リノール酸のアイソマーのファミリーを指す。CLAは、反芻動物の瘤胃中の微生物によって産生される。CQは、ベンゾキノンである。CQは全てのヒト細胞中に存在し、かつ全ての身体自身のエネルギー産生の役割を担う。ヒト身体のATPの95%は、CQの助けを借りて変換される。PAは、非極性α−アミノ酸である。PAは、動物が産生できない必須アミノ酸である。PAは、シキミ酸経路の中間体であるプレフェン酸から、植物および微生物によって提供される。
【0036】
いくつかの態様において、対象への投与のための組成物中にALA、CLA、CQまたはPAのうち一つが提供される。他の態様において、ALA、CLA、CQまたはPAのうち2種(例えば、ALAおよびCLA、ALAおよびCQ、ALAおよびPA、CLAおよびCQ、CLAおよびPA、またはCQおよびPA)が提供される。他の態様において、ALA、CLA、CQまたはPAのうち3種またはそれ以上(例えば、ALA、CLAおよびCQ、ALA、CLAおよびPA、CLA、CQおよびPA、またはALA、CQおよびPA)が提供される。またさらなる態様において、ALA、CLA、CQおよびPAが提供される。
【0037】
本発明の好ましい態様において、ALA、CLA、CQおよびPAの一つもしくは複数の安全でかつ効果的な栄養量または治療量が、神経変性疾患(例えば、老人性難聴)を予防するかまたは処置するために、(ヒトを含む)動物に経口投与される。ALA、CLA、CQおよびPAの一つまたは複数は、非毒性の天然産物であり薬物ではないため、それらは通常の食事の一部として消費されてもよく、かつ神経変性疾患を処置するかまたは予防することを願う人々の毎日の栄養の一部としての使用が考慮される。栄養的有効量または治療的有効量とは、精製形態でまたは栄養補助食品として摂取される際に、神経変性疾患の予防または神経変性疾患の症状の減少をもたらす量である。
【0038】
いくつかの態様において、ヒト成人に関して一週間に一回または複数回から、一日に一回または複数回まで(例えば、一回または複数回の等用量または非等用量で)本発明の化合物を投与する。いくつかの態様において、マウスの研究において使用された用量から用量を推定する。例えば、60 kgのヒト成人を想定して、FDAガイドラインに従ってmg/kgでのヒト相等用量(HED)を得るために、mg/kgでのマウス用量に0.081を掛ける。
【0039】
例えば、いくつかの態様において、より高い用量またはより低い用量が使用される可能性があるが、ALAは、一回もしくは複数回の用量で、一日に一回もしくは複数回投与される、およそ0.1〜100 mg/kgまたは6〜6000 mgの用量(例えば、30〜3000 mg、15〜1500 mg、もしくはおよそ60 mg)で投与され、CLAは、一回もしくは複数回の用量で、一日に一回もしくは複数回投与される、およそ0.5〜5000 mg/kgまたは30〜300,000 mgの用量(例えば、1000〜100,000 mg、1,500〜150,000 mg、もしくはおよそ3,000 mg)で投与され、CQは、一回もしくは複数回の用量で、一日に一回もしくは複数回投与される、およそ0.03〜33.3 mg/kgもしくは2〜2000 mgの用量(例えば、10〜1000 mg、5〜500 mg、もしくはおよそ20 mg)で投与され、かつPAは、一回もしくは複数回の用量で、一日に一回もしくは複数回投与される、およそ0.2〜166.6 mg/kgまたは10〜10,000 mgの用量(例えば、50〜5000 mg、25〜2500 mg、またはおよそ100 mg)で投与される。
【0040】
体重、基礎代謝、運動および食事の他の局面等のパラメーターにおける個人間の相違のため、有効性にいくらか変動が存在するであろうことが予測される。
【0041】
本発明はまた、ALA、CLA、CQおよびPAの誘導体の使用も考慮する。例えば、化合物は遊離型であるか、またはエステル結合により結合されていてもよい。いくつかの態様において、CLAは、CLAトリグリセリドを含む油の形態で提供される。これらの態様において、トリグリセリドは、部分的または全体的に、グリセロールバックボーンに付着させたCLAを含む可能性がある。CLAはまた、メチルエステルまたはエチルエステルとして提供されてもよい。さらに、CLAは、カリウム塩またはナトリウム塩等の非毒性塩(例えば、化学的等量の遊離酸を、約8〜9のpHでアルカリ性水酸化物と反応させることにより形成される塩)の形態であってもよい。他の態様において、ALA、CLA、CQまたはPAのさらなる誘導体、模倣物および変種が利用されてもよい。
【0042】
B.投与
いくつかの態様において、投与は経口的である。組成物は、スターチ、スクロースまたはラクトース等の適切な担体と共に、錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、溶液、液体、スラリー、懸濁液、および乳剤中に調剤されてもよい。本発明の態様の組成物は、水溶液、油性溶液中で、または上で議論された他の形態のいずれかで提供されてもよい。本発明の態様の錠剤またはカプセル剤は、約6.0〜7.0のpHで溶解する腸溶性コーティングで被覆されてもよい。胃内でなく、小腸で溶解する適切な腸溶性コーティングは、酢酸フタル酸セルロースである。いくつかの態様において、組成物は軟性ゼラチンカプセル剤として提供される。組成物はまた、限定はされないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、くも膜下腔内、脳室内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下または直腸内の手段を含む他のいくつかの経路のいずれかによっても提供されてもよい。製剤および投与に関する技術についてのさらなる詳細は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing Co., Easton, PA)の最新版中に見出され得る。いくつかの態様において、製剤は、単回投与用量中に単独でまたは組み合わせて、ALA、CLA、CQもしくはPAの一つまたは複数を包含する。
【0043】
ALA、CLA、CQまたはPA組成物はまた、様々な調理食品および飲料における補助剤として提供されてもよい。この適用の目的に関して、調理食品とは、ALA、CLA、CQまたはPAの一つまたは複数が添加されている任意の天然の、加工された、ダイエット食品または非ダイエット食品を意味する。組成物は、限定はされないが、飲料、バー、補助剤、調理冷凍食品、キャンディ、スナック製品(例えば、チップス)、調理肉製品、牛乳、チーズまたはヨーグルトを含む様々な調理食品中に直接組み入れられてもよい。
【0044】
いくつかの態様において、組成物は、単独でまたは適切な賦形剤(例えば、上に記載されたもの)と組み合わせて、栄養補助剤として(例えば、錠剤、カプセル剤、液体等として)提供される。いくつかの態様において、栄養補助剤は、補助剤の投与の用量およびタイミングを記載する使用説明書を含む容器またはボトル中に包装される。
【0045】
いくつかの態様において、組成物は、レシチン、トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、またはローズマリー抽出物等のスパイス抽出物等の適切な抗酸化剤と共に、ヒトの使用のために包装される。
【0046】
C.疾患
本発明の組成物および方法は、いくつもの神経変性疾患の処置に適している。例えば、いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、老人性難聴の処置または予防における使用が見出される。他の態様において、本方法の組成物および方法は、限定はされないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、アレキサンダー病、アルパーズ病、血管拡張性失調症、バッテン病(シュピールマイアー−フォークト−シェーグレン−バッテン病(Spielmeyer-Vogt-Sjogren-Batten disease)としても公知)、牛海綿状脳症(BSE)、カナバン病、コケイン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト−ヤコブ病、HIV関連痴呆、ケネディ病、クラッベ病、レビー小体型認知症、マシャド−ジョセフ病(脊髄小脳失調症3型)、多発性硬化症、多系統萎縮症、ナルコレプシー、神経ボレリア症、ペリツェウス−メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、プリオン病、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、悪性貧血続発性亜急性連合性脊髄変性症(Subacute combined degeneration of spinal cord secondary to Pernicious Anaemia)、統合失調症、シュピールマイアー−フォークト−シェーグレン−バッテン病(バッテン病としても公知)、脊髄小脳失調症(様々な特徴を伴う多型)、脊髄性筋萎縮症、スティール−リチャードソン−オルゼウスキー症候群、および脊髄癆を含むさらなる神経変性疾患の処置において使用される。
【実施例】
【0047】
実験
以下に続く例は、本発明の特定の好ましい態様および局面を実証しかつさらに例示するために提供されるものであり、それらの範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0048】
実施例1
2.試料および方法
2.1.動物および飼料処置
オス純系C57BL/6(B6)マウスを飼育し給餌するために使用される方法に関する詳細は、これまでに記載されている(Pugh et al., Cancer Res. 59:1642 [1999])。簡単に、対照、α−リポ酸(ALA)、CLA、コエンザイムQ10(CQ)およびフェニルアラニン(PA)の5つの群にマウスを分けた。対照と同一のカロリー摂取量を化合物処置群に給餌したが、月齢4ヶ月〜15ヶ月までALA(150 mg/kg)、CLA(5000 mg/kg)、CQ(50 mg/kg)およびPA(250 mg/kg)を添加した(図1)。
【0049】
2.2.聴力の評価
ABR測定に関する詳細なプロトコールは、これまでに記載されている(Yamasoba et al., Neurosci Lett. 395:18 [2005])。簡単に、ABR記録システム(Intelligent Hearing System)を使用して、トーンバースト刺激(4 kHz、8 kHzおよび16 kHz)を用いてABRを測定した。塩酸キシラジン(10 mg/kg、筋肉内注射)および塩酸ケタミン(40 mg/kg、筋肉内注射)の混合物を用いてマウスを麻酔した。一群当たり、5〜7匹のマウスをこの研究に使用し、同一マウスを以下の組織病理学的解析に使用した。両側標準t検定を使用してデータを検査し、一元配置分散分析試験を使用して統計学的有意性について試験した(GraphPad Prisim 5.0, San Diego, CA)。全てのデータを平均±S.E.M.として報告した。
【0050】
2.3.組織病理学的解析
組織プロセシングに関する詳細なプロトコールは、これまでに記載されている(Someya et al., [2007]、前記)。簡単に、4%パラフォルムアルデヒド固定しかつパラフィン包埋した検体を4μm切片にスライスし、シラン被覆されたスライド上にのせ、ヘマトキシリンおよびエオシン(HE)を用いて染色し、光学顕微鏡(Leica Microsystems, Bannockburn, IL)下で観察した。ローゼンタール管(Rosenthal’s canal)を先端、中央、および基底の3つの領域に分割し(Keithley et al., [2004]、前記)、3つの領域を蝸牛組織病理学の評価に関して使用した。各群に関して、ABR試験において使用されたものと同一の5匹のマウスを使用した。マウス当たり、一側面の蝸牛から5切片ごとに得られる5つの蝸牛軸切片を評価した。らせん神経節細胞計測に関して、同一の動物を使用した。
【0051】
40×対物レンズを使用した直接観察によって見られる、0.3μm×0.225μmのフィールド中の蝸牛切片の先端、中央、および基底回転中のらせん神経節細胞(SCG)を計測した。核の存在によって、SGCを同定した。1 mm2当たりのSGCの数として、SGC密度を算出した。マウス当たり一つの蝸牛において、片側の先端回転の5切片を評価した。両側標準t検定を使用してデータを解析した。全てのデータを平均±S.E.M.として報告した。
【0052】
3.結果
3.1.聴力機能および蝸牛組織病理学の評価
老人性難聴の予防および処置に対するALA、CLA、CQおよびPAの効果を検査するため、これらの化合物が、B6マウスにおける老人性難聴の後期発症を遅延させるか否かを試験した。これらのマウスから測定されたABR閾値によって、対照マウスが、8 kHz、16 kHz、32 kHz(各々、低、中、および高周波数)で中程度の老化関連の難聴を呈したことが明らかになった(図2)。対照的に、CQマウスは、8 kHzおよび32 kHzで正常な聴力を呈し、かつALA、CLAおよびPAマウスは、32 kHzで正常な聴力を呈し(P<0.05、n=5)、これらの化合物が、この月齢まで老人性難聴の徴候を防止したことを示している(図2)。
【0053】
次に、老化関連の蝸牛変性に対する化合物の効果を調査した。病理学的解析によって、対照マウス由来の蝸牛は、重篤な有毛細胞の損失およびSGCの損失を呈した(図3A−B)が、ALA、CQおよびPAマウス由来の蝸牛は、有毛細胞の損失およびSGCの損失が全くないかまたはごく僅かであったことが明らかになり(図3C−H)、化合物による蝸牛変性の防止を示している。SGC密度の減少は、哺乳動物における老人性難聴の特徴の一つである(Keithley et al., [2004]、前記)。ALA、CQおよびPAマウスの平均らせん神経節細胞密度は、対照マウスのものより有意により高く(P<0.05、n=5)(図4)、化合物によるらせん神経節神経細胞損失の防止を示している。総括的に、この例は、ALA、CLA、CQおよびPAが哺乳動物における老人性難聴を予防しかつ処置し得ること、ならびにこれらの化合物が、らせん神経節神経細胞等の重要な蝸牛細胞を、老化関連の変性から保護し得ることの強固な証拠を提供する。
【0054】
蝸牛中のらせん神経節は、主として神経細胞(I型およびII型神経細胞)からなる。有毛細胞は音を受け、音をらせん神経節神経細胞に伝達し、音情報を脳に送信するのは、らせん神経節神経細胞である。
【0055】
上の明細書中で記述された全ての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の記載される方法およびシステムの様々な改変ならびに変動は、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、当業者に明確であると考えられる。本発明は、特定の好ましい態様との関連において記載されているが、特許請求される発明は、そのような特定の態様に不当に限定されるべきでないことが理解されるべきである。真に、関連分野における当業者に明らかである本発明を実施するための、記載様式の様々な改変は、添付の特許請求の範囲内であることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)α−リポ酸(ALA)、CLA、コエンザイムQ10(CQ)およびフェニルアラニン(PA)からなる群より選択される少なくとも一つの化合物を、神経変性の症状を有する対象に、症状が減少するような条件下で投与する段階
を含む、神経変性疾患を処置する方法。
【請求項2】
一つまたは複数の化合物が、2種の化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
2種またはそれ以上の化合物が、ALAおよびCLA;ALAおよびCQ;ALAおよびPA;CLAおよびCQ;CLAおよびPA;ならびにCQおよびPAからなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
一つまたは複数の化合物が、3種の化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
3種の化合物が、ALA、CLAおよびCQ;ALA、CLAおよびPA;CLA、CQおよびPA;ならびにALA、CQおよびPAからなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
一つまたは複数の化合物が、ALA、CLA、CQおよびPAである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
神経変性疾患が、老人性難聴である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
一つまたは複数の化合物の投与が、対象中のらせん神経節細胞の損失の防止または減少をもたらす、請求項1記載の方法。
【請求項9】
a)ALA、CLA、CQおよびPAからなる群より選択される少なくとも一つの化合物を、対象において神経変性疾患が予防されるような条件下で、対象に投与する段階
を含む、神経変性疾患を予防する方法。
【請求項10】
一つまたは複数の化合物の投与が、対象中のらせん神経節細胞のレベルの減少を防止する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ALA、CLA、CQおよびPAからなる群より選択される一つまたは複数の化合物を、神経変性疾患を予防するかまたは減少させるのに十分な用量で含む、食品。
【請求項12】
ALA、CLA、CQおよびPAからなる群より選択される一つまたは複数の化合物を、神経変性疾患を予防するかまたは減少させるのに十分な用量で含む、栄養補助剤。
【請求項13】
ALA、CLA、CQおよびPAからなる群より選択される一つまたは複数の化合物を、神経変性疾患を予防するかまたは減少させるのに十分な用量で含む、薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−509257(P2011−509257A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541540(P2010−541540)
【出願日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/088660
【国際公開番号】WO2009/088939
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510184438)マリーン バイオ カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】