説明

神経栄養因子−4(Neurotrophin−4)アンタゴニスト

【課題】生体における脱毛症の起こるメカニズムに関与し、特に毛髪におけるアポトーシスの進行を抑制する作用を持つ成分を特定し、男性型脱毛症を始めとする哺乳類の脱毛症を改善するための手段を提供することを目的とする。
【解決手段】神経栄養因子−4(NT−4)のシグナルの抑制効果の発現のために必要な、受容体への結合阻害、NT−4のホモ/ヘテロ二量体の形成阻害効果を有するNT−4活性阻害ペプチドまたはその修飾物を提供すると共に、前記ペプチドまたはその修飾物の育毛養毛剤としての用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経栄養因子−4(Neurotorophin−4、NT−4)の阻害剤(アンタゴニスト)に関するものであり、詳しくは、NT−4の生理活性、すなわちNT−4に起因するアポトーシス誘導活性を阻害するペプチド及びその修飾物、該ペプチド及びその修飾物を有効成分とし、発毛養毛効果に優れかつ長期にわたる使用に充分耐え得る安全性を備えた哺乳類の育毛養毛剤、前記育毛養毛剤を配合してなる毛髪化粧料及び医薬組成物などの育毛養毛用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間にとって毛髪は容姿を大きく左右し、美容上非常に重要な位置を占めている。また脱毛症には未だに的確な治療法がなく、脱毛症又はその傾向のある人々の深い悩みの種となっている。脱毛症には先天性と後天性のものがあるが、その発症原因、発生機序について多くの研究がなされてはいるものの不明な点が多く、そのため手探り的に開発された非常に多くの育毛養毛剤が市場に出ているのが現状である。
【0003】
前記育毛養毛剤としては、現在までに各種薬剤を配合した様々な養毛化粧料が提供されている。例えば、ビタミンE、アロキサジン、ピリジンN−オキシド、アデノシン3'、5'−環状一リン酸等の化合物を配合してなる組成物(下記特許文献1〜3参照)、ヨクイニン、イチョウ、カシュウ等の生薬抽出エキスを配合してなる組成物(下記特許文献4〜6参照)が提供されている。その他にも、血流循環改善効果を有するビタミンE類・センブリエキスや、栄養補給剤となるアミノ酸としてシステイン・メチオニンや、女性ホルモン剤であるエストラジオール・エチニルエストラジオールなどが育毛養毛剤に配合されている。更に、これらの有効成分を脱毛の様々な原因に対応して適宜組み合わせた育毛養毛剤が開発されており、脱毛症の予防及び/又は治療に用いられている。
【0004】
上述した従来の育毛養毛剤は、フケ、カユミの改善や、抜毛などの予防に有効で、発毛や育毛を促進するとされている。しかしながら、非常に個人差が大きく、更に、効果も十分とはいえないものであり、満足すべき効果を発揮するものはいまだ開発されていない状況である。
【0005】
一方で、生体での脱毛症の起こるメカニズムの解明が進められている。その中で、TGFβやNT−4によるアポトーシスの関与が示唆されてきており、これらの知見に基づいた有効成分の開発も進んできている(下記特許文献7及び特許文献8並びに非特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開昭64−56608号公報
【特許文献2】特開平1−261321号公報
【特許文献3】特開平2−204406号公報
【特許文献4】特公平1−13451号公報
【特許文献5】特開平2−48512号公報
【特許文献6】特開平2−48514号公報
【特許文献7】特開2002−87937号公報
【特許文献8】特開2002−87938号公報
【非特許文献1】FASEB J.(1999)13(2):395-410
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献7には、TGF(Transforming Growth Factor)βにより活性化されアポトーシスを引き起こすカスパーゼ−3に着目し、カスパーゼ−3の活性を阻害する植物抽出物に男性型脱毛の抑制効果があることが記載されている。また、特許文献8には、TGFβを亢進する男性ホルモンの産生に関わる5αリダクターゼタイプII(5αR−II)に対する阻害物質と、TGFβに対する阻害物質と、カスパーゼ−3に対する阻害物質の組み合わせに、男性型脱毛の抑制効果があることが記載されている。しかし、いずれも各種植物抽出物についての効果の報告にとどまり、有効成分の一次構造まで特定するものではなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術における問題点に鑑み、生体における脱毛症の起こるメカニズムに関与し、特に毛髪におけるアポトーシスの進行を抑制する作用を持つ成分を特定し、男性型脱毛症を始めとする哺乳類の脱毛症を改善するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
正常なヒトの毛髪は、2−7年周期で生え変わることが知られており、毛周期と呼ばれている。この毛周期は、ヒトをはじめとして、マウスやウサギ、モルモットなど多くの哺乳動物の毛髪において広く見られる、毛成長の制御メカニズムであり、成長期(Anagen:アナジェン期)、退行期(catagen:カタジェン期)、休止期(telogen:テロジェン期)に分けられ、それぞれ、毛成長の亢進、萎縮、停止の時期に当たる。毛周期における退行期への移行は、毛包でのアポトーシスが誘導されることにより起こることが知られている。
【0010】
さらに、最近の研究において、マウスでは、毛周期における毛髪の萎縮する時期である「退行期(catagen:カタジェン期)」において、神経栄養因子−4(Neurotorophin−4、以下、NT−4という。)が増加していること、また、NT−4遺伝子の人為的欠損(ノックアウト)マウスにおいて、毛周期成長期の延長が見られることから、NT−4は毛髪における退行期への移行に関与し、毛包でのアポトーシスを誘導する因子であることが示されている(FASEB J.(1999)13(2):395-410,Botchkarev VA.et al.)。
【0011】
このような知見から、本発明者らは、NT−4が毛周期制御タンパク質であることに着目した。すなわち、上記本発明の目的を達成するためには、本タンパク質の作用を抑制し、毛周期を正常な状態に戻すことができるような物質が見出せれば、該物質は脱毛症を防ぐための育毛養毛剤の有効成分として有用であるものと考えた。
【0012】
そこで、本発明者らは、種々のNT−4の活性阻害効果を持つ化合物の検討を行った。
NT−4が、そのシグナルを細胞内に伝えるためには、まずNT−4がホモないしはヘテロの二量体となり、さらにその二量体が、NT−4の受容体の一つであるp75神経栄養因子受容体(p75NTR)に結合することが必要である。そこで我々は(1)NT−4二量体のp75NTRへの結合を阻害する視点、及び(2)前記二量体の形成を阻害する視点の2つから、様々な活性阻害ペプチドの開発を行った。
【0013】
上述の視点に基づき設計した24種のペプチドについて、毛髪の構成細胞である角化細胞に対するアポトーシス誘導抑制(阻害)効果について検討した。すなわち、角化細胞にNT−4を添加することにより誘導されるアポトーシスについて、我々が設計したペプチドのアポトーシス誘導抑制(阻害)効果を確認した。
【0014】
その結果、(1)受容体への結合を阻害する設計されたペプチドのうち、ALTA、CRGVDRAHWVSCRGVDAAHWVS、CAGVDAAHWVS、LLSRTGRA、LLRKTGRA(標記はアミノ酸一文字表記、配列表の配列番号4及び7〜11記載のアミノ酸配列参照)、及び、(2)二量体の形成を阻害する視点から設計されたペプチドのうちCKAKQSYVRALTA、TGRA、RA(標記はアミノ酸一文字表記、配列表の配列番号3、5及び6記載のアミノ酸配列参照)は、高いアポトーシス抑制効果を発揮することを見出した。
【0015】
また、アポトーシス抑制効果が高いことが確認された上記6種のペプチドについての検討結果から、該当配列のうち3残基以内であればアミノ酸が置換されても効果を保持できることが明らかとなった。すなわち、該当配列について、R(塩基性アミノ酸)の数による効果の差がなかったこと、及び該当配列が同じでも長さが短くなると効果に差が見られたことから、ペプチドの全体的3次元構造が一致していることが重要であると考えられた。
【0016】
一方、Journal of Investigative Dermatology(2003)120,p.168-169において、NT−4の阻害ペプチドとして環状化した10残基のペプチド(CATDIKGAEC:配列表の配列番号12参照)が報告されているが、今回見出されたペプチドは、この従来のペプチドと比較してアポトーシス抑制効果が上回ることも明らかになった(後述の実施例1参照)。
【0017】
すなわち、本発明によれば、配列表の配列番号1〜6(CXGVDXXHWVS、LLXXTGRA、CKAKQSYVRALTA、ALTA、TGRA、RA(標記はアミノ酸1文字表記、Xはプロリン(P)を除くアミノ酸である))のいずれかに記載されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、神経栄養因子−4(Neurotrophin−4)の活性阻害ペプチドまたはその修飾物が提供される。
上記活性阻害ペプチドまたはその修飾物としては、特に、配列表の配列番号3〜11(CKAKQSYVRALTA、ALTA、TGRA、RA、CRGVDRAHWVS、CRGVDAAHWVS、CAGVDAAHWVS、LLSRTGRA、LLRKTGRA)のいずれかに記載されるアミノ酸配列を含むペプチドまたはその修飾物が好ましい。
また、本発明は、上記ペプチドまたはその修飾物の育毛養毛剤としての用途や、さらに、該育毛養毛剤を有効成分とする育毛養毛用毛髪化粧料や育毛養毛用医薬品組成物等の育毛養毛用組成物としての利用をもその対象とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のNT−4活性阻害ペプチド及びその修飾物は、NT−4に起因するアポトーシスの誘導を抑制することができるので、NT−4によるアポトーシスに起因して生体に生じる悪影響の予防、治療及び改善のために有用である。特に、毛包におけるNT−4によるアポトーシスの誘導を阻害することにより、哺乳類の発毛養毛効果を発揮することができる。よって、哺乳類の脱毛症、特に男性型脱毛症を改善するとともに、長期にわたる使用に充分耐え得る安全性を備える脱毛養毛剤の有効成分としての産業的価値を有し、医療組成物や毛髪化粧料などの育毛養毛用組成物として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、毛髪においてアポトーシスを誘導するタンパク質であるNT−4の阻害効果を持ち、脱毛症を始めとするNT−4によるアポトーシスを原因とする生体への悪影響を防ぐNT−4アンタゴニストに関するものである。
以下、本発明のNT−4活性阻害ペプチド及びその修飾物、育毛養毛剤、育毛養毛用組成物、及び、育毛養毛用毛髪化粧料並びに医薬品組成物のそれぞれについて、詳しく説明する。
【0020】
(本発明のNT−4活性阻害ペプチド及びその修飾物)
本発明のNT−4活性阻害ペプチド及びその修飾物は、配列表の配列番号1〜6(CXGVDXXHWVS、LLXXTGRA、CKAKQSYVRALTA、ALTA、TGRA、RA(標記はアミノ酸1文字表記、Xはプロリン(P)を除くアミノ酸である))のいずれかに記載されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、神経栄養因子−4(Neurotrophin−4)の活性阻害ペプチドまたはその修飾物である。
【0021】
配列番号1及び2記載のアミノ酸配列中のXは、プロリン以外の任意のアミノ酸であればいずれであってもよいが、中でもアルギニン(R)、アラニン(A)、セリン(S)、及びリシン(K)のいずれかであることが好ましい。具体的には、配列番号1記載のアミノ酸配列中のN末端から2番目のXはアルギニン(R)又はアラニン(A)であることが好ましく、6番目のXはアルギニン(R)又はアラニン(A)であることが好ましく、7番目のXはアラニン(A)であることが好ましい。配列番号2記載のアミノ酸配列中のN末端から2番目及び3番目のアミノ酸(X)は、2つのうち少なくともどちらかが塩基性アミノ酸であることが好ましい。
【0022】
配列表の配列番号1〜6のいずれかに記載されるアミノ酸配列として、具体的には、配列表の配列番号3〜11(CRGVDRAHWVS、CRGVDAAHWVS、CAGVDAAHWVS、LLSRTGRA、LLRKTGRA、CKAKQSYVRALTA、ALTA、TGRA、RA)のいずれかに記載されるアミノ酸配列が好ましい。配列表の配列番号4及び7〜11のそれぞれに記載されるアミノ酸配列は、(1)NT−4二量体のp75神経栄養因子受容体(p75NTR)への結合を阻害する視点にて設計されたものである。また、配列番号3、5及び6記載のそれぞれに記載されるアミノ酸配列は、(2)NT−4二量体の形成を阻害する視点にて設計されたものである。
【0023】
上記配列番号3〜11記載のアミノ酸配列からなるペプチドは、後述の実施例に示すように、実際にNT−4により誘導されるアポトーシスを抑制する効果が証明されている。しかし、配列番号3〜11記載のペプチドの検討結果からは、該当配列のうち3残基以内でかつ特定の箇所についてはプロリン以外のアミノ酸に置換されても、すなわち、特に配列番号1及び2記載のアミノ酸配列の範囲では、2又は3残基のアミノ酸が置換されても、アポトーシス抑制効果を保持することができる。その理由については必ずしも明らかではないが、後述の実施例において、該当配列について、R(塩基性アミノ酸)の数による効果の差がなかったこと、及び該当配列が同じでも長さが短くなると効果に差が見られたことから、該部位のアミノ酸が置換されてもペプチドの全体的3次元構造が一致していることが重要であるものと推測される。
【0024】
本発明のNT−4活性阻害ペプチドは、上記配列表の配列番号1〜6のいずれかに記載されるアミノ酸配列を含んでいれば良く、ペプチド本来のNT−4活性阻害効果を発揮するのであれば、前後にアミノ酸配列を付加したものであっても良い。付加され得るアミノ酸配列の数は、アミノ酸残基の種類等の条件により異なり、一般化することは困難であるが、通常は1〜5残基、好ましくは1〜3残基、より好ましくは1残基である。
尚、本発明のNT−4活性阻害ペプチドは、ペプチド本来のNT−4活性阻害効果を発揮することを条件に、上記配列表の配列番号1〜6のいずれかに記載されるアミノ酸配列の一部に欠失、付加、置換、挿入等の改変を加えたものであっても良い。
【0025】
本発明のNT−4活性阻害ペプチドの製造方法は特に限定されず、ペプチド合成機等を用いて合成することができる他、動物、植物、微生物等の天然物から抽出し精製して得ることもできる。
【0026】
本発明のNT−4活性阻害ペプチドは、該ペプチドに何らかの修飾を施してなる修飾物としても利用することができる。修飾とは、ペプチドを構成するアミノ酸又はアミノ酸の間の結合様式等ペプチドの修飾全般を意味し、その目的や具体的な方法は、修飾物がペプチド本来のNT−4活性阻害効果を発揮するのであれば特に限定されず、例えばペプチドの安定化を目的とした各種の修飾を施すことができる。修飾の方法としては、例えば、アルキル化、エステル化、ハロゲン化、アミノ化などの官能基導入、酸化、還元、付加、脱離などの官能基置換、糖化合物(糖の数は単糖から多糖のいずれでもよい)または脂質化合物などの導入、リン酸化、或いはビオチン化などが挙げられる。また、各種架橋剤、具体的にはビスマレイミド化合物などを用いたペプチドの二量体以上の多量体化や、環状化などの修飾も、本発明における修飾方法に含まれる。
【0027】
本発明のNT−4活性阻害ペプチドおよびその修飾物は、NT−4活性を阻害する。すなわち、NT−4は、毛包においてアポトーシスを誘導活性を制御し毛周期における退行期を誘導する活性を有するが、本発明のペプチド及びその修飾物はこれらの活性を阻害する。本発明のペプチド及びその修飾物によるNT−4の活性阻害メカニズムについては、必ずしも明らかではないが、ペプチドの設計の際の視点を考慮すると、NT−4のホモ/ヘテロ二量体の受容体(p75神経栄養因子:p75NTR)への結合阻害、及び/又はNT−4のホモ/ヘテロ二量体の形成阻害により、NT−4のシグナルの抑制効果が発揮されるものと推測される。
本発明のペプチド及びその修飾物は、NT−4に起因して生じるアポトーシスによる生体への悪影響を抑えることを目的として、各種用途にて使用することができる。特にヒト(性別、年齢を問わない)のほか、マウス、ウサギ、モルモット等の実験動物、ペット等の動物(哺乳類)の脱毛症、中でもヒト、特に男性型脱毛症の改善を目的として用いることができ、育毛養毛剤の有効成分として好ましく使用される。
【0028】
(本発明の育毛養毛剤)
本発明の育毛養毛剤は、上述した本発明のNT−4活性阻害ペプチド又はその修飾物を育毛養毛成分として含有することを特徴とする。
ここで、育毛、養毛とは、脱毛症を改善し、毛周期を正常化して脱毛を最小限に防ぐと共に、細くなりうぶ毛のようになった毛を正常な太さに近づけることを意味する。
【0029】
本発明の育毛養毛剤は、上述のNT−4活性阻害ペプチド又はその修飾物を、少なくとも1種類含有するものであれば良く、NT−4活性阻害ペプチド及びその修飾物の片方、或いは両方を含有させることもできるし、2種類以上を組み合わせて含有させることもできる。また、上述のNT−4活性阻害ペプチド又はその修飾物自体を含有させることもできるが、該ペプチド等を含む天然由来成分、例えば動物、藻類、菌類由来タンパク質の分解物、植物抽出物等を添加することもできる。
本発明の育毛養毛剤における、NT−4活性阻害ペプチド又は修飾物の含有量は、NT−4活性阻害効果が発揮される範囲で適宜定めることができる。
このような本発明の育毛養毛剤は、哺乳類の脱毛症、特に男性型脱毛症を改善するとともに、長期にわたる使用に充分耐え得る安全性を備えるものであることから、所望により他の成分を配合して、育毛養毛用組成物として用いることもできる。
【0030】
(本発明の育毛養毛用組成物)
本発明の育毛養毛用組成物は、前記育毛養毛剤、すなわち、NT−4活性阻害ペプチド又はその修飾物を有効成分として含有する育毛養毛剤を配合してなることを特徴とする。
【0031】
本発明の育毛養毛用組成物は、上記本発明の育毛養毛剤のほかに、さらに、既存の育毛養毛成分を組み合わせて有効成分として含有するものであってもよい。既存の育毛養毛成分としては、具体的には、コレウスエキス(特開平09−157136号公報)、ゲンチアナエキス、マツカサエキス、ローヤルゼリーエキス、クマザサエキス(以上、特開平10−45539号公報)などの化学物質及びエキス類を挙げることができる。
【0032】
また、本発明の育毛養毛用組成物には、使用目的に応じて、上記有効成分以外の任意の成分を配合することができる。そのような任意の成分としては、例えば、精製水、エタノール、非イオン性界面活性剤、糖質系界面活性剤およびその他の界面活性剤、セルロース類、油脂類、エステル油、高分子樹脂、色剤、香料、紫外線吸収剤やビタミン類、ホルモン類、血管拡張剤、アミノ酸類、抗炎症剤、皮膚機能亢進剤、角質溶解剤等の薬効成分などを挙げることができる。
【0033】
前記セルロース類としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが例示される。前記界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノまたはイソステアレート、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル(モノミリスチン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸ペンタグリセリン)等が例示される。
【0034】
前記油脂類としては、多価アルコール脂肪酸エステル(トリ−2エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン酸等)、サフラワー油、月見草油、ホホバ油等が例示される。前記エステル油としては、不飽和脂肪酸アルキルエステル(オレイン酸エチル、リノール酸イソプロピル等)ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピルが例示される。前記アミノ酸類としては、メチオニン、セリン、グリシン、シスチン等が例示される。
【0035】
前記角質溶解剤としては、サリチル酸、レゾルシン等が例示される。前記高分子樹脂としては、両性、カチオン性、アニオン性及びノニオン性ポリマーが例示される。前記紫外線吸収剤としては、メトキシケイ皮酸オクチル(ネオヘリオパンAV)、オキシベンゾン、ウロカニン酸等が例示される。
【0036】
本発明の育毛養毛剤の配合量は、NT−4活性阻害効果が発揮される範囲の任意の量とすることができる。
【0037】
本発明の育毛養毛用組成物の剤型は、各種製品の使用用途に応じて定めることができる。例えば、いわゆる外用製剤類として提供する場合には、カプセル状、粉末状、顆粒状、固形状、液状、ゲル状、軟膏状、気泡状等に成型することができる。
本発明の育毛養毛用組成物は、育毛養毛効果を発揮するものであり、性別、年齢を問わず広く育毛養毛効果を発揮し、ヒトのみならず実験動物、ペット、家畜等の動物にも育毛養毛効果を発揮する。特に、男性型脱毛症を対象とする点で有用である。
本発明の育毛養毛用組成物は、各種医薬品や毛髪化粧料として、各種外用製剤類(動物用に使用する製剤も含む)全般において利用することができる。
【0038】
本発明の育毛養毛用組成物を育毛養毛用医薬品組成物及び育毛養毛用毛髪化粧料として用いる場合には、具体的には例えば、1)医薬品類、2)医薬部外品類、3)局所又は全身用の皮膚化粧品類、4)頭皮・頭髪に適用する薬用及び/又は化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、トリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料など)の形で提供することができる。
【0039】
また、前記育毛養毛用医薬品組成物及び育毛養毛用毛髪化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲において、既知の薬効成分を必要に応じて適宜配合することができる。例えば抗菌剤、抗炎症剤、保湿剤等を配合することができる。
【0040】
さらに、前記育毛養毛用医薬品組成物及び育毛養毛用毛髪化粧料は、常法に従って均一溶液、ローション、ジェルなどの形態で外用して使用することができる。また、育毛養毛用毛髪化粧料は、エアゾールの形態をとることができ、その場合には、上記成分以外に、n−プロピルアルコールまたはイソプロピルアルコールなどの低級アルコール:ブタン、プロパン、イソブタン、液化石油ガス、ジメチルエーテル等の可燃性ガス:窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等の圧縮ガスを含有することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1〜9及び比較例1〜19>
各種合成ペプチドを用いて、ケラチノサイトにおけるNT−4に起因するアポトーシス誘導抑制試験を行った。
被験試料として表1に示すアミノ酸配列からなる合成ペプチド(実施例1〜9(それぞれ配列表の配列番号7、8、9、3、10、11、4、5、6に記載のアミノ酸配列からなる)及び比較例1〜18(それぞれ配列表の配列番号12〜29に記載のアミノ酸配列からなる)を1000pg/mlの濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。尚、表1には各合成ペプチドのアミノ酸配列及び分子量を示す。尚、比較例1において用いた環状化ペプチドは、従来技術においてNT−4活性を阻害することが既に報告されているものである。
【0042】
このように調製したペプチド溶液を、終濃度が1pg/mlとなるようにヒト表皮角化細胞(購入先:クラボウ、商品名:エピダーセル NHEK(F))に添加した。この際にNT−4(購入先:シグマ社、商品名:Neurotrophin−4 human)も同時に添加することでアポトーシスを誘導させた。尚、NT−4の添加濃度は、アポトーシスを起こす最低濃度を適宜添加することで評価を行ったが、具体的な濃度は細胞の増殖などに左右されるため、細胞ロットごとに規定する必要があり、おおよそ0.1pg/mlから1000pg/mlの範囲であった。
【0043】
一方、陽性対照としては、合成ペプチドを添加せずに、代わりに、終濃度が同じになるように、サンプル添加群と等量のNT−4並びにDMSOを添加したものを用意した(比較例19)。更に、陰性対照として、DMSOのみを添加したものも用意した。
細胞を、20,000cellsずつ24穴プレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で培養し、24時間後にNT−4ならびに合成ペプチドを添加後、更に培養を継続し、24時間後のアポトーシス誘導率を測定した。アポトーシス誘導率は、p53タンパク質の発現を指標にELISA法により測定した細胞あたりのP53定量値から算出した。本ELISA法には、Human p53 ELISA Module set(Bender Medsystems社)を用いた。
【0044】
測定された細胞あたりのP53定量値からのアポトーシス誘導率の算出は、以下のようにして行った。まず、陽性対照(NT−4とDMSO添加)の細胞あたりP53定量値をA、陰性対照(DMSOのみ)の細胞あたりP53定量値をB、NT−4と合成ペプチドを添加した細胞あたりP53定量値をCとした場合に、以下の式により算出した。
【0045】
【数1】

【0046】
更に、アポトーシス誘導率100−76%であったものを◎、75−51%であったものを○、50−26%であったものを△、25−0%であったものを×としてアポトーシス抑制効果を評価した。表1にアポトーシス誘導抑制試験結果を示す。表1中の「効果」はアポトーシス抑制効果を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示される結果から、実施例1〜9の各ペプチドは、ケラチノサイトにおけるアポトーシス誘導抑制効果が高いことが明らかとなった。特に、従来NT−4の阻害ペプチドとして報告されている比較例1のペプチドと比べて、顕著に高い阻害活性を有することが分かった。また、実施例1,2,3及び比較例10及び11の結果から、該当配列について、R(塩基性アミノ酸)の数による効果の差がないことが明らかであると共に、実施例2及び比較例12の結果から、該当配列が同じでも長さが短くなると効果に差が見られることが明らかになった。これらのことから、アミノ酸の1次配列による影響は小さく、むしろ3次元構造の重要性が高いものと推測された。
【0049】
<実施例10〜18及び比較例20>
C57BL/6マウスの背部に30mgのジヒドロテストステロン(DHT)を埋め込むことで毛周期の遅延を誘導した「男性型脱毛モデルマウス」を用いた。本マウスでは、非埋め込みマウスと比較して50%発毛日において16日の毛周期遅延が起こることが確認されている。そこで、本実施例においては、この毛周期遅延期間に対する短縮効果を測定した。
【0050】
1群7匹として、上述モデルマウスに対して、評価ペプチドを0.01%配合した育毛剤サンプル(50%エタノール溶液で希釈)を用意した。評価ペプチドとして、前述の実施例1〜9においてアポトーシス誘導抑制効果が証明されたペプチド1(CRGVDRAHWVS:配列表の配列番号7参照)、ペプチド2(CRGVDAAHWVS:配列表の配列番号8参照)、ペプチド3(CAGVDAHWVS:配列表の配列番号9参照)、ペプチド4(LLSRTGRA:配列表の配列番号10参照)、ペプチド5(LLRKTGRA:配列表の配列番号11参照)、ペプチド6(CKAKQSYVRALTA:配列表の配列番号3参照)、ペプチド7(ALTA:配列表の配列番号4参照)、ペプチド8(TGRA:配列表の配列番号5参照)およびペプチド9(RA:配列表の配列番号6参照)をそれぞれ用いた(実施例10−18)。また、比較として、評価ペプチドを添加せず、代わりに50%エタノールを用いたものを用意した(比較例20)。各育毛剤サンプルの組成は、表2に示すとおりである。
【0051】
各育毛剤サンプル50μlを毎日、1週に5日間塗布した。被毛の成長を目視判定して、以下の5段階でスコア化して育毛促進効果の評価とした。
5:全面に毛が生える
4:ほぼ全面に毛が生える
3:半面程度に毛が生える
2:ところどころ発毛が見られるが半面に毛が生えるまでには至らない
1:ほとんど毛が生えない
【0052】
評価ペプチド添加後15日後のマウス育毛養毛促進効果の評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示される結果から、効果の強弱が見られるものの、先述したアポトーシス誘導抑制試験において高い効果の見られたサンプルは、いずれもマウスの育毛を促進し、毛周期遅延を短縮させる効果を発揮することが確認された。また、塗布による炎症等の皮膚の異常や体重の減少は見られなかった。
以上の実施例の結果から、本発明のNT−4活性阻害ペプチドは優れた育毛養毛効果を発揮し、安全性の高い育毛養毛剤として有用であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る神経栄養因子(Neurotrophin−4)の阻害ペプチドは、NT−4による生体への悪影響を阻害することから、特に育毛養毛方法、育毛養毛剤、および育毛養毛用組成物として、優れた育毛養毛効果を有し、かつ長期にわたる使用に十分耐え得る安全性を備えるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1〜6のいずれかに記載されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする、神経栄養因子−4(Neurotrophin−4)活性阻害ペプチドまたはその修飾物。
【請求項2】
配列表の配列番号3〜11のいずれかに記載されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のペプチドまたはその修飾物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のペプチドまたはその修飾物を育毛養毛成分として含有することを特徴とする育毛養毛剤。
【請求項4】
請求項3に記載の育毛養毛剤を配合してなることを特徴とする育毛養毛用組成物。

【公開番号】特開2007−137811(P2007−137811A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332868(P2005−332868)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】